驢
ポー・ダーヌ馬皮
と鉢かづき
─
身を
窶
やつす流浪の姫君たち
─
鈴
木
滿
〔初めに〕 何不足ない、あるいは、やんごとない身分に生まれついた少女が、ある事情で親許から世の荒波の真っ只中に放 り出され、人から爪弾きされるむさくるしい姿に身を窶して、侮りを受けながら底辺の暮らしに辛酸を嘗める。け れども─
やがてその天性の美質(家事をこなすにも少女は優秀。日本ではこれに重きがおかれないが)のお蔭で ど ん 底 の 境 涯 か ら 本 来 そ う あ る べ き 位 置 に 一 瞬 に し て み ご と に 返 り 咲 く ……。 日 本 で も 愛 読 者 が 多 い、 あ る い は、 か つ て は 多 か っ た、 ま た 近 年 人 気 あ る T V ア ニ メ の 原 作 と も な っ た 小 説『 小 公 女 』 (1 ( ( ア ニ メ「 小 公 女 セ ー ラ 」) も 『 家 な き 娘 』 (( ( ( ア ニ メ「 ペ リ ー ヌ 物 語 」) も、 も と よ り 細 部 は 異 な る が、 大 雑 把 に 申 せ ば こ う し た 筋 に 沿 っ て い る。 ち な み に 少 年 が 主 人 公 な ら、 『 オ リ ヴ ァ ー・ ト ゥ イ ス ト 』 (( ( や『 家 な き 子 』 (( ( が こ の 範 疇 に 入 ろ う。 虚 フ ィ ク シ ョ ン 構 と は 百 も 承知 の 上 で 民 衆 の 間 に お い て 口 か ら 口 へ と 伝 え ら れ た 物 語、 す な わ ち 民 フォークテイル 話 folktale / 昔 フォルクスメルヒェン 話 Volksmärchen
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こ の 小 論 で は お お む ね「 民 話 」 な る 語 を 用 い て い る が、 「 昔 話 」 と な っ て い る 箇 所 も あ る。 い ず れ も 同 義。 な お 用 例 は 少 な い が「 メ ル ヒ ェ ン 」 と し た 場 合 に は、 本 来 の 民 間 伝 承 で あ る 民 話( 昔 話 ) ば か り で は な く、 「 創 作 昔 話 」 Kunstmärchen 、「 本 に な っ た 昔 話 」 Buchmärchen を も 含 む 広 い 表 現 で あ る─
に も 当 然 の こ と な が ら こ の 類 がある。 そ う し た 口 承 文 芸 の 代 表 と し て は、 イ ン グ ラ ン ド で「 藺 キャ ッ プ ・ オ ー ・ ラ ッ シ ェ ズ 草 頭 巾 」 Cap o Rushe s (( ( 、 ド イ ツ で「 千 ア ラ ラ イ ラ オ び き 皮 」 Allerleirauh 、 フ ラ ン ス で「 驢 ポ ー ・ ダ ー ヌ 馬 皮 」 Peau d Asne ( 現 代 の 綴 り で は Âne )、 日 本 で「 鉢 か づ き 」( 訛 っ て「 鉢 か つ ぎ」とも)と呼ばれ、洋の東西で人口に膾炙してい る (( ( 話が挙げられよう。フランスの「 驢 ポ ー ・ ダ ー ヌ 馬皮 」は、ペローが再話 しているためヨーロッパではとりわけ有名なので、民話の話型索引であるATUの五一〇B「 驢 ポ ー ・ ダ ー ヌ 馬皮 」─
ATU の 前 身 で あ る A T で は「 金 の 衣、 銀 の 衣、 星 星 の 衣( 藺 草 頭 巾 )─
に そ の 名 が 付 け ら れ て い る。 な お A T U 五一〇Aは「シンデレラ。 (チェネレントラ、サンドリヨン、アッシェンプッテル) 」。二つの話「シンデレラ 」 (( ( (お よ び「 チ ェ ネ レ ン ト ラ 」「 サ ン ド リ ヨ ン 」「 ア ッ シ ェ ン プ ッ テ ル 」) 」 と「 驢 ポ ー ・ ダ ー ヌ 馬 皮 」( お よ び 冒 頭 に タ イ ト ル を 並 べ た くさぐさの類話)は姉妹関係にあるのでATUでは五一〇「シンデレラと 驢 ポ ー ・ ダ ー ヌ 馬皮 」として一括りにされている。 なお、以下本文および注における〔 〕内の記述は論者の補足である旨、ここでお断りしておく。 ATU五一〇Bに記されたこの話型の粗筋(英語からの邦訳)は以下の通り。[全訳] あ る 王 が そ の 妃 の 臨 終 の 際 彼 女 に 約 束 す る。 〔 再 婚 す る と す れ ば、 〕 彼 女 と 同 じ よ う に 美 し い( 〔 あ る い は 〕 あ る 特別な指環がぴったり 嵌 は まる)女性としか結婚しない、と。王はやがて成長した実の娘と結婚しよう、とする。な ぜ な ら 娘 が 唯 一 こ の 条 件 に 叶 う 女 性 な の で。 婚 礼 を 引 き 延 ば す た め に こ の う ら 若 い 女 性 は、 太 陽 の よ う な( 黄 こ が ね 金 の ) 衣 装〔 = ド レ ス 〕、 月 の よ う な( 白 し ろ が ね 銀 の ) 衣 装、 星 星 の よ う な( ダ イ ヤ モ ン ド の ) 衣 装、 そ れ か ら 多 種 多 様 な 毛 皮 で こ し ら え た 外 套( 〔 あ る い は 〕 木 で で き た 外 が い ひ 被 ) が 欲 し い、 と 王 に 頼 む。 王 が こ れ ら 全 て を 提 供 す る と、 娘 は父親の許から逃亡し、例の皮( 〔あるいは木の外被〕を着て変装、厨房の下女( 〔あるいは〕鵞鳥番の小娘)とし て別の城で働く。 彼女が働く城で一連の饗宴が催されると、乙女はこっそり〔携えて来た〕その豪奢な衣装を纏う。王子が彼女に 惚れ込むが、厨房の下女だとは気づかない。続く何日か王子は厨房の下女を虐待する。饗宴の間王子はくだんの美 女に、どこのお生まれか、と訊ねると、相手は意味の隠された答えを返すが、これは王子が厨房の下女に加えた虐 待 を 仄 め か す も の で あ る。 王 子 は 美 女 に 指 環 を 一 つ 渡 す。 次 い で 王 子 は 恋 患 い に 陥 る。 厨 房 の 下 女 と し て の 役 柄 で、 女 主 人 公 は 王 子 か ら も ら っ た 指 環 を 王 子 に 供 す る ス ー プ( 〔 あ る い は 〕 パ ン ) の 中 に 忍 ば せ る。 王 子 は 彼 女 を 見つけ、これと結婚する。 乙 女 が、 証 拠 品 に よ っ て 確 認 さ れ る 代 わ り に、 〔 み っ と も な い 皮 や 木 の 外 被 を 脱 い で 〕 沐 浴 す る、 あ る い は〔 豪 奢な〕衣装を身に着けることによって発見されることもある。
ATU五一〇Bの粗筋はこう記されてはいるものの、以下に紹介する民話、あるいはそれを素材として文人が仕 上げた物語においては、導入部は必ずしも「父親が実の娘に結婚を迫る」ではない。 分明なことだ、と思うが、念のため確認しておくと、身を窶す流浪の姫君の伝承は二つの話の緩やかな結合体で あ る。 す な わ ち、 女 主 人 公 が 寄 る 辺 な き さ す ら い の 身 と な る ま で が 導 入 部 あ る い は 前 史 Vorgeschichte で、 下 働 き の 仕 事 に 辛 酸 を 嘗 め、 遂 に 元 の し か る べ き 身 分 に 戻 る ま で が 本 論 Kerngeschichte で あ る。 導 入 部 は 民 話 の 語 り 手 の工夫、思いつきにより、たやすく他のモティーフと置き換え得る。導入部に限らず、話の細部あるいはモティー フの交換は、フィンランドの人にして比較口承文芸研究の草分けの一人であるアンティ・アール ネ (( ( が夙に指摘して い る( A・ ア ー ル ネ 著 / 関 敬 吾 訳『 昔 話 の 比 較 研 究 』、 岩 崎 美 術 社、 一 九 六 九 ) よ う に、 民 話 に お い て し ば し ば 見 られる現象である。そういうしだいで、父親を「塩よりも好き」あるいは「塩のように好き」と言って追い出され るモティーフが父娘相姦モティーフとともに導入部に用いられることが多い。また、父親の後妻、すなわち継母の 讒 言 な い し 奸 計、 あ る い は 父 親 の 単 な る 愛 想 尽 か し に よ っ て 流 離 の 旅 に 出 る こ と も あ る。 更 に、 小 論 で は 扱 わ な か っ た が、 日 本 で は 娘 が 父 親 の し た 約 束 の た め し ょ う こ と な し に 動 物 の 嫁 に な ろ う と す る「 蛇 婿 譚 」「 猿 婿 譚 」 か ら始まるものもある〔この場合、娘の知恵で結婚の前に動物婿は死んでしまい、娘は自由の身になるが、結婚を承 諾しなかった上の二人の姉たちが父親の手前さぞ気まずいだろうから、自分は生家へは帰れない、と当て処もなく 歩いて行く、というかなり説得力に欠ける導入となる〕 。 し か し な が ら、 お そ ら く 整 理・ 統 合 上 已 む を 得 な か っ た の で あ ろ う し、 そ れ は そ れ で よ ろ し い の か も 知 れ な い が、ATでもATUでも「塩のように好き」 Love Like Salt がプレヒストリイである流浪の姫君譚は九二三として 五一〇Bとは全く別項目に立てられてい る (( ( 。このように峻別すると、小論冒頭に記したような筋書きの物語を纏め
て考える上にかなりの支障が生ずるので、論者はATU(旧AT)五一〇B型とATU(旧AT)九二三型とを分 けることにあえて意を用いなかったし、継母の介在による流離の旅が導入部である場合も同様に扱ったことをお断 りしておく。 ATU九二三「塩のように好き」に記されたこの話型の粗筋(英語からの邦訳)を参考までに記しておく [全訳] あ る 王( 〔 あ る い は 〕 金 持 ち の 男 ) が 自 分 の 三 人 の 娘 に 向 か っ て、 彼 女 ら が 自 分 を ど れ ほ ど 愛 し て い る か、 と 訊 ね る。 二 人 の 姉 た ち は そ れ ぞ れ〔 父 親 に 対 す る 〕 自 分 た ち の 愛 を 貴 重 な( 〔 あ る い は 〕 甘 い ) 物( 黄 金、 宝 石、 砂 糖、蜂蜜、豪華な衣装)と比較する。しかし末の娘は言う。私はお父様のことがお塩のように好きです、と。父親 は末の娘の返答に腹を立て、彼女を放り出す( 〔あるいは〕殺せ、と命じる) 。一方、上の娘たちには彼女らのおも ねりの価値に応じて報酬を与えるのである。 末の娘はそれから 余 よ そ 所 の国で下女として働く。後にこの国の王が彼女と結婚する。彼女は父親を婚礼の食事に招 き、塩の全く入っていない料理を供する。かくして父親は塩が必要欠くべからざるものであることを認識するに至 る。娘は自分の素性を明かす。 *さて、世界のさまざまな人人によって語られ、聴かれ、書かれ、読まれてきた、むさくるしい恰好をして辛い仕
事に明け暮れる境涯に落とされたかわいそうなお嬢さんが、幸いにも一挙にして元の地位を回復する嬉しくも愉し い お 話 を、 粗 筋 で、 ま た、 場 合 に よ り 全 訳 で、 で き る だ け ご 披 露 し、 更 に こ う し た お 話 を 構 成 す る さ ま ざ ま な モ ティーフをいくらか考えてみよう、というのが本論のごくごく素朴な、他愛ない目的である。 従 っ て、 美 女 が 奇 っ 怪 な 衣 に く る ま る の は、 「 曙 」 Aurola, Morgenröte の「 宵 」 Abend へ の 移 行 を 示 し て い る、 とか、春が冬へ変わる象徴だ、とか主張する類の、とりわけ十九世紀末にヨーロッパで流行した小難しい神話学的 解釈の是非には立ち入らないし、また、二十世紀前半も早くにこれまたヨーロッパで好まれた社会学的解釈の評価 もその分野の専門家にお任せしたい。ただし、そうした社会学的解釈の一つとそれに対する反駁はちょっと紹介し ておこう。 「千びき皮は灰かぶり〔すなわち「シンデレラ」 〕や黄金の髪を持つ 男 (1( ( とともに下層の向上をあつかった大きな昔 話 の 一 つ で あ り、 本 当 の 夢 物 語 Traummärchen 、 た と え ば ハ ウ プ ト マ ン の ハ ン ネ レ (11 ( の よ う に、 社 会 的 失 権 者 の 幸 せ の 夢 Glückstraum で あ る、 と は テ ゲ ト フ (1( ( が し ば し ば 唱 え る 社 会 学 的 説 明 で あ る が、 こ れ は こ の 場 合 当 た っ て い ない。なにしろ千びき皮は、ほんのかりそめに、しかも見掛けだけ 婢 は し た め 女 になっているに過ぎず、実際は王女だから である。一番手取り早いのは、この昔話を、主人公を非道悲運の憂き目に遭わせておいて最後に元の地位に戻して やる、あの中世の運命譚 Schicksalsroman の構想と比較することだ」 。 右 の 所 論 (1( ( は ま ず ま ず 妥 当 で あ ろ う。 も っ と も、 「 千 ア ラ ラ イ ラ オ び き 皮 」 な る 外 套 そ の も の の 解 説 は こ こ の 前 後 で も な さ れ て いない。この外套は女主人公を取るに足らぬ賤しい人物に見せ掛ける、との見解に留まっているようだ。本小論で
はこうした窶しの 道 ア イ テ ム 具 その他のモティーフについても考えてみた。最終項目〔十九〕をごらん戴きたい。 * * * * * 以 下〔 二 〕〔 三 〕〔 四 〕 で は、 グ リ ム 兄 弟 に よ っ て 採 録 さ れ た こ の 種 の 物 語 を 時 間 順 に 整 理 し、 あ る 場 合 は 全 訳、 ある場合は粗筋で紹介、いくらか詳しく分析してみる。この分析によっていわゆる「グリム童話」の編輯経緯、ひ いてはいわゆる「グリム童話」の本質に少しでも迫れれば、と思う。 〔 二 〕 い わ ゆ る「 グ リ ム 童 話 」〔 以 下 K カ ー ハ ー エ ム H M
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正 式 名 称( グ リ ム 兄 弟 に よ っ て 集 め ら れ た )『 子 ど も と 家 庭 の た めの昔話集』 Kinder- und Hausmärchen ( gesammelt durch die Brüder Grimm )の略称を用いる 〕初 版 ((( ( 以前のグ リム兄弟のノート「エーレンベルク手 稿 ((( ( 」 ① 第Ⅰ部(一一番目) 「鼠っ皮の王女様」 Prinzeßin Mäusehaut [全訳] 昔むかし王様がおりました。王様はお姫様を三人お持ちでした。王様はそのうちだれがご自分を一番愛している のか知りたくなりました。すると一番上の姫君は、王国全体より愛している、と申しました。二番目の姫君は、世界中の宝石と真珠全部よりも大事、と申しました。三番目の姫君はこう答えたのです。私は父上が塩よりも好きで ございます、と。すると王様は、姫が自分への愛情をそんなつまらない物と較べたので、かんかんになり、姫を一 人の召使いに引き渡し、森の中へ連れて行って、死なせてしまえ、と言いつけました。けれども召使いはこんな綺 麗な王女を殺すのは厭でしたし、王女は、鼠の皮でこしらえた衣装〔突然話に登場〕だけ手に入れて欲しい、そう すればきっと自分でなんとか逃げます、と相手に頼みました。さて召使いがこれを持って来ます〔王宮にあったの であろうか。よく分からない〕と、王女はこれにくるまって男のひとに変装したのです。こうしてお隣の王様のと こ ろ へ 行 き、 そ こ で 召 使 い と し て 仕 え ま し た〔 そ し て「 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ 皮 」 と 綽 名 さ れ て こ き 使 わ れ る 〕。 お 姫 様 は 毎 晩 王 様 の長靴を脱がせなくちゃなりませ ん (1( ( 。すると王様はそれを 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ皮 の頭に投げつけるのでした。ある時王様が、おま え、どこの生まれだ、とお訊きになりますと、 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ皮 は「長靴を頭に投げつけたりしない国の者でございます」と 答 え ま し た。 〔 こ こ か ら 欠 落 が あ る。 お そ ら く こ の 部 分 は こ う で あ ろ う。
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や が て 舞 踏 会 が 催 さ れ る。 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ 皮 は 鼠っ皮を脱ぎ、絶世の美女に戻ってその舞踏会に出て、王に見初められる。王に、どこからいらっしゃった、と訊 か れ、 「 長 靴 を 頭 に 投 げ つ け た り し な い 国 の 者 で ご ざ い ま す 」 と 答 え る。 舞 踏 会 最 後 の 晩、 王 は 相 手 の 指 に 指 環 を 嵌 は める。その後王は恋患いに陥るのかも。 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ皮 がこしらえたスープを王が食べる。 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ皮 はあらかじめスープの 鉢 の 底 に 貰 っ た 指 環 を 入 れ て お く。 ス ー プ を 食 べ 終 わ っ た 王 は あ の 美 女 に 贈 っ た 指 環 を 見 つ け る─
〕。─
そ こ で王様が、この指環がどうして入っているのか、と訊ねますと、 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ皮 が王様の 御 ご ぜ ん 前 に連れて来られます。そして 鼠 モ イ ゼ ハ ウ ト っ皮 が衣装を脱ぎ捨てますと、黄金の髪の毛がさっと溢れ出し、姫君のすばらしい美しさに王様は目もくらむば かりでした。王様は姫君に歩み寄り、冠をその頭に載せます。そこで姫君はお妃様になりました。ご婚礼の日には 姫君の父親の王様も招待されました。でも、ご自分のご息女だとは気づきません。食卓で王様の前に置かれるお料理はどれもこれも塩気がありません。そこで王様は不機嫌になり、このような料理を食べるくらいなら、死んだ方 が増しだ、と申します。その時〔婚礼を済ませたばかりのこの国の若い〕王妃様がお出ましになって、正体を明か し、ご自分の言葉を父君に思い出させたのです。 ② 第Ⅱ部(二番目) 「 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ ホ びき皮 」(あらゆる種類の生皮) Allerlei Rauch [全訳] 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ ホ びき皮 は継母によって家から追い出される。身分のあるよその男性〔後に出る公爵〕が、継母の実の娘の方は そ っ ち の け に あ し ら い、 愛 の 徴 しるし と し て 継 娘〔 = 後 の 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ ホ び き 皮 〕 に 指 環 を 捧 げ た た め。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ ホ び き 皮 は〔 あ ら ゆ る 獣 の 皮でこしらえた外套で身を窶して〕逃れ、公爵の宮廷に行って靴磨き女となり、こっそり、正体を知られることな く、 舞 踏 会 に 出 る。 最 後 に〔 も ら っ た 〕 指 環 を 白 パ ン の 下 に 置 い た ス ー プ を こ し ら え る。 こ れ に よ っ て 発 見 さ れ、 公爵の奥方となる。 〔三〕KHM初版第一部 ① 六五「 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 」(あらゆる種類の生皮) Allerlei-Rauh
ドロテーア(愛称ドルトヒェン) ・ヴィル ト (1( ( によって一八一二年十月九日に語られた。 [全訳] 昔むかし王様がおりました。王様にはお妃がおありでしたが、この方はこの世で一番の美女で、その髪の毛は混 じりけなしの 黄 き ん 金 でした。二人の間にはご息女も一人いましたが、このご息女の髪も全く同じで黄金でした。その う ち 王 妃 様 が ご 病 気 に な り ま し た。 そ し て、 死 ぬ に 違 い な い、 と い う 気 が し た 時、 王 様 を 呼 ん で、 こ う 頼 み ま し た。 私 が 亡 く な り ま し た ら、 私 と 全 く 同 じ に 美 し く、 全 く 同 じ 黄 金 の 髪 を 持 つ お 人 と で な け れ ば 結 婚 な さ ら な い で、 と。 そ し て 王 様 が そ う 約 束 す る と、 亡 く な り ま し た。 王 様 は 長 い こ と 悲 し み 続 け、 二 度 目 の お 妃 の こ と は こ れっぱかりも考えませんでした。でもとうとう王様の顧問官たちが、再婚なさるようにお勧めしました。そこで何 人もの使者がありとあらゆる王女様方のところに遣わされましたが、亡くなった王妃様のように美しく、そうした 黄金の髪をした方なんぞもうもうこの世に一人も見つかりはしませんでした。けれどある時のこと、王様がふとご 息 女 を ご 覧 に な る と、 こ の 方 が お 母 様 そ っ く り の 上、 や っ ぱ り 同 じ 黄 金 の 髪 を 持 っ て い る こ と が 分 か っ た の で す。 で、王様はこう考えました。この世でこれほど綺麗なのは他にありはせぬ。なんとしても余は余の娘と結婚しなく ては、と。そう思ったとたん、姫君がかわいくてかわいくてたまらなくなったものですから、すぐさま顧問官たち と姫君に自分の心積もりを知らせました。顧問官たちは思い留まらせようとしましたが、無駄でした。王女様はこ うした神様をないがしろにしたもくろみに心底びっくりしました。さてこの方はお利口でしたから、王様にこうお 願いしたものです。まず私に衣装を三着作ってくださいまし。一着は太陽のような黄金色のを、一着は月のように
白いのを、一着は星星のように輝いているのを。それからまた何千種類もの毛皮でできた外套も。これには王国中 の あ り と あ ら ゆ る 獣 が そ れ ぞ れ の 皮 を 少 し ず つ 差 し 出 さ な く て は、 と。 王 様 は ひ ど く や き も き し て い ま し た の で、 王国中を仕事に掛からせました。王様に仕えている猟師たちはありとあらゆる獣を捕まえてその皮を剥がなければ なりませんでした。その皮で外套がこしらえられ、まもなく王様は姫君の許に望みの品を持って来たのです。そこ で王女様は、明日お父様と結婚いたします、と言いました。けれども夜になると、以前婚約者からもらった贈り 物 (1( ( をかき集めました。これは黄金の指環、黄金の小さな糸車、黄金の小さな糸巻き 枠 (1( ( でした。例の三重ねの衣装はと いうと胡桃の殻にしまい込 み ((( ( 、顔と両手を煤で黒くし、あらゆる種類の毛皮で作った外套にくるまって逃げ出しま し た。 一 晩 中 歩 い て、 と う と う 大 き な 森 に 入 り ま し た。 こ こ ま で 来 れ ば も う 安 全。 そ し て 疲 れ 切 っ て し ま っ た の で、 空 う つ ろ 洞 になった樹の中に入って眠ってしまいました。 お日様が高く昇ってもまだ眠っていますと、折も折、婚約者の王様がその森で狩をしました。ところが猟犬ども がその樹の周りを駆け回り、くんくんふんふん嗅ぎ回りました。この樹にはどんな獣が隠れているのか見届けてま いれ、と王様に言い付けられた猟師たちは、戻って来て、こうお答えしました。樹の中にはなんとも奇妙 奇 き て れ つ 天烈 な 獣がおります。かような 代 し ろ も の 物 はてまえども、これまでの生涯で見たことがございません。肌に着けておりますのは あらゆる種類の生皮でございます。そして横になって眠っております、と。王様は、それを捕まえて縛って〔狩り の獲物を運ぶための〕荷車の後に乗せるように、と指図しました。猟師たちが言われた通り捕まえて、引っ張り出 し て み ま す と、 娘 っ こ で あ る こ と が 分 か り ま し た。 で、 縛 っ て 荷 車 の 後 ろ に 乗 せ、 連 れ て 帰 っ た の で す。 「 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 」と猟師たちは言いました。 「おまえはお城の調理場に持って来いだ。薪や水を運んだり、灰をかき集め たりするがよかろう」と。そうして階段の下のちっぽけな家畜小屋みたいなところをあてがいました。ここには日
も 差 し 込 ま な い の で す。 「 お ま え、 こ こ に 住 ん で 寝 る が い い や 」。 さ て、 そ う い う し だ い で こ の 娘 は 調 理 場 に 入 っ て、料理番の手伝いをし、鶏の羽をむしり、火を掻き起こし、野菜を選り分け、それから他のありとあらゆる賎し い 仕 事 を い た し ま し た。 娘 は 何 も か も き ち ん と や っ て の け ま し た か ら、 料 理 番 は 優 し く 扱 い、 宵 に な る と よ く 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 を呼んで、残り物をなにくれとなく食べさせてくれました。でも娘は王様がお床につく前に、お部屋へ上 がって行って、長靴を脱がさなければなりませんでした。片っぽ脱がせ終わると、王様はいつもそれを娘っこの頭 に投げつけるのでし た ((1 ( 。 こうして 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は長いこととても惨めな暮らしをしておりました。ああ、麗しの乙女よ、そなたはいったいど うなるのでしょうねえ。ある時、お城で舞踏会が催されることになりました。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は考えました。私、もう一 度私の 愛 い と しい許婚とちゃんとした形で会えればなあ、ってね。そこで料理番のところへ行って頼みました。ほんの ち ょ っ と 上 に ま い っ て、 お 部 屋 の 扉 の 外 か ら 大 層 な ご 盛 儀 を 拝 見 い た し た い の で す が、 ど う か お 許 し の ほ ど を、 と。 「行くがええさ」と料理番は言いました。 「だがな、半時間以上おっちゃあならん。今晩はおまえ、これからま だ灰を掃き集めにゃならねえからの」 。そこで 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は小さい 洋 ラ ン プ 燈 を 提 さ げて、あてがわれている家畜小屋に戻り、 体から煤を洗い落としました。すると咲き乱れる春の花花そのものといった美しさが立ち現れたのです。それから 毛皮の外套を脱ぎ捨て、胡桃の殻を開き、太陽のように輝く衣装を取り出しました。乙女がこれを着飾り、上へ上 がって行きますと、だれもが行く手を譲り、広間に入っていらしたのは、どこぞの高貴な王女様に違いない、と考 えました。王様はすぐに姫君を舞踏に誘いました。踊りながら王様は考えました。このどこのだれか分からない美 し い 王 女 は 余 の 愛 し い 許 い い な ず け 嫁 に な ん て 似 て い る の だ ろ う、 と。 見 れ ば 見 る ほ ど そ っ く り な の で、 ほ と ん ど そ う だ、 と確信し、舞踏が終わったら、相手に訊いてみよう、と思いました。けれども姫君は踊り終わると深深とお辞儀を
して、王様が我に返る前に姿を消してしまいました。王様は衛兵たちに問い質しましたが、そうした王女様が外へ 出るのを見掛けた者は一人もおりませんでした。姫君は自分の家畜小屋に素早く走り入り、衣装を脱ぎ捨て、顔と 両 手 を 黒 く し、 あ の 毛 皮 の 外 套 を ま た 纏 っ て い た の で す。 そ れ か ら 調 理 場 に 行 き、 灰 を 掃 き 集 め よ う と し ま し た。 で も 料 理 番 は こ う 申 し ま し た。 「 そ い つ は 明 日 ま で そ の ま ま に し と け ば え え。 お れ も ち っ と ば か し 上 へ 行 っ て、 舞 踏 会 を 覗 い て み た い で な。 そ の 間 に 王 様 が 召 し 上 が る ス ー プ を こ し ら え て お き な。 だ が、 髪 の 毛 一 本 中 に 落 と し ち ゃ な ら ん。 そ ん な こ と し た ら、 お ま え、 今 後 一 切 食 い 物 に ゃ あ り つ け ね え ぞ 」。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 は 王 様 の た め に パ ン 入 り ス ー プ ((( ( を 作 り ま し た。 そ し て 最 後 に 以 前 王 様 か ら 贈 ら れ た 黄 金 の 指 環 を 入 れ ま し た。 舞 踏 会 が お 開 き に な る と、 王様はご自分用のパン入りスープを持って来させました。その味がとても良かったので王様は、これまでこんなに 旨いのは食べたことがない、と思いました。ところが食べ終わると、皿の底に指環が見つかりました。その指環を よくよく検分しますと、ご自分の結婚指 環 ((( ( だったのです。王様はなんとも不思議でたまらず、指環がどうしてここ に 入 っ た の か 合 点 が 行 か ず、 料 理 番 を 呼 び つ け ま し た。 料 理 番 は 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 に 腹 を 立 て ま し た。 「 お ま え、 き っ と 髪 の 毛 を 落 と し た ん だ ろ う。 も し そ う だ っ た ら、 幾 つ も 拳 骨 を 喰 ら わ し て や っ か ら な 」。 で も 料 理 番 が 上 に ま い り ま す と、 王 様 は、 こ の ス ー プ を こ し ら え た の は だ れ だ な、 い つ も よ り ず っ と 旨 い、 と 訊 い た も の。 で、 料 理 番 は、 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 が こ し ら え ま し た、 と 白 状 し な け れ ば な り ま せ ん で し た。 す る と 王 様 は、 そ の 者 を こ こ へ 遣 わ す よ う に、 と 料 理 番 に 言 い 付 け ま し た。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 が や っ て 来 ま す と、 王 様 は 言 い ま し た。 「 そ ち は 何 者 だ。 余 の 城 で 何 を し て いる。スープの中にあったこの指環はどこから手に入れた」 。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は答えました。 「あたしは父親にも母親にも 死なれました哀れな子どもに過ぎません。持ち物なんぞ何一つございません。長靴を頭に投げつけられるのがせい ぜ い の 者 で ご ざ い ま す。 そ の 指 環 に い た し ま し て も、 あ た し、 何 一 つ 存 じ ま せ ん 」。 そ う 言 っ て 走 っ て 逃 げ 出 し た
のです。 そ の 後 ま た 舞 踏 会 が 催 さ れ ま し た。 す る と 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 は 今 度 も 料 理 番 に、 上 へ 行 か せ て く だ さ い、 と 頼 み ま し た。 料理人は許してくれましたが、やっぱりただの半時間だけ。それが過ぎたら調理場に来て、王様のためにパン入り スープをこしらえろ、と申します。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 はあてがわれた家畜小屋へ行き、体を綺麗に洗い、月の衣装を取り出 し て、 積 も っ た 雪 よ り 清 ら か で 輝 か し い 姿 と な り ま し た。 上 へ 上 が り ま す と、 丁 度 舞 踏 が 始 ま っ た と こ ろ で し た。 王 様 は 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 に 手 を 差 し 出 し、 一 緒 に 踊 り ま し た。 そ し て も う 疑 い も な く、 こ れ が 自 分 の 許 嫁 だ、 と 思 い ま し た。 な ぜ っ て、 こ う し た 黄 金 髪 の 持 ち 主 は 彼 女 以 外 に こ の 世 に あ り っ こ な か っ た か ら で す。 で も、 踊 り が 終 わ る と、またしても王女様は広間から出て行ってしまい、どう骨を折っても無駄で、王様は姫君を見つけることはでき ず、姫君とただの一言も言葉を交わすことはできませんでした。王女様はまたしても 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 に戻り、顔と両手を 黒くして、調理場に立ち、王様のためにパン入りスープをこしらえました。料理番はその間上に上がって、見物を していたのです。そしてスープができあがると、姫君は黄金の糸車を中に入れました。王様がスープを召し上がる と、前よりずっとずっと美味しく思えました。それから最後に黄金の糸車を見つけた時には、前にも増して驚きま した。なぜってこれはいつかご自分の許嫁に贈ったものでしたから。料理人が呼びつけられ、その後 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 が呼 ばれました。でも王女様はまたもや、あたしはこの糸車のことなんて何も存じません、こちらにおりますのは、た だもう長靴を頭に投げつけられるためでございます、とお答えしただけでした。 こ れ で 三 回 目 で す が、 王 様 は 舞 踏 会 を 開 き、 許 嫁 が ま た も や 来 て く れ れ ば い い な あ、 と 思 い ま し た。 そ う し た ら、捉まえて放さないつもりでした。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は今度も、上へまいらせて戴けませんでしょうか、と料理番に頼み ま し た。 で も 料 理 番 は こ う 小 言 を 言 っ た も の で す。 「 お ま え は ま る で 魔 女 み て え な や つ だ。 お ま え は い つ も 何 か
ス ー プ に 入 れ よ る し、 わ し よ り 料 理 が 達 者 と き と る わ い 」。 け れ ど も、 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 が 頼 み に 頼 み、 ち ゃ ん と い た し ま すから、と約束をしましたので、またしても、半時間だけだぞ、と言って行かせました。そこで 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は夜の星 星のようにきらきら輝く星星の衣装を身に纏い、上に上がって王様と踊りました。王様はこんな麗人にはこれまで 会ったためしがない、と思ったものです。ところで踊っている最中、王様は相手の指にある指環を嵌めました。そ れからあらかじめ、舞踏がとっても長く続くように言い付けておいたのです。でもやっぱり相手を捉まえておくこ とはできませんでしたし、一言も言葉を交わせませんでした。なぜって、踊りが終わると、相手はぱっと人人の間 に跳び込み、王様が振り向く前に姿を消してしまったからです。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は自分の家畜小屋に駆け込みました。半 時間以上経ってしまっていたので、着ているものをさっと脱ぎ捨てはしましたが、急いでも体をすっかり黒くは汚 せ ず、 指 が 一 本 白 い ま ん ま で し た。 そ う し て 調 理 場 に 入 り ま す と、 料 理 番 は も う い な く な っ て い ま し た。 そ こ で 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 は急いでパン入りスープをこしらえ、黄金の糸巻き枠を中に入れました。王様は指環や黄金の糸車同様こ れも見つけたものです。そこでこのたびこそ、ご自分の許嫁が近くにいる、とはっきり分かりました。だってこう した贈り物をいろいろ持っているひとは他にありっこありませんものね。 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ びき皮 が呼ばれました。またしてもう まく言い抜けて、ぴょこんと逃げ出そうとしたのですが、逃げ出すはずみに、王様はその手の指が一本白いのを見 つけ、それをぎゅっと握って相手を捉まえました。それからご自分が嵌めてやったあの指環を発見、毛皮の外套を 剥 ぎ 取 り ま す と、 黄 金 の 髪 の 毛 が さ っ と 溢 れ 出 し ま し た。 こ れ こ そ こ よ な く 愛 し い 許 嫁 だ っ た の で す。 料 理 番 は たっぷりご褒美をちょうだいし、それからご婚礼が行われ、二人は死ぬまで楽しく暮らしました。 * 女 主 人 公 の い わ ば 直 属 上 司 で あ る 料 理 番 が、 結 び で「 た っ ぷ り ご 褒 美 を ち ょ う だ い し 」 た こ と に な っ て い る の
は、逆境時代にまあまあ優しくふるまった(そうかなあ)お蔭である。しかし、本来この物語の料理番には人情味 などまるきりなくってよいのだ。また、現実の大家の厨房においても、料理番は下働きのこぞう風情にこっぴどく 辛 く 当 た っ た は ず で あ る。 『 小 公 女 』 で ミ ン チ ン 女 史 経 営 の 女 子 学 校 に 働 く 女 の 料 理 番 が 万 よろず 雑 用 承 り の 女 中 に 転 落 したセーラに対してそうだったように。 ② 七一「鼠っ皮の王女様」 Nr. (1 Prinzessin Mäusehaut ボルテ/ポリーフカ著『KHM注釈 』 ((( ( (以下BPと略す)によればこの物語の採録と削除は以下の通り。 ヨ ハ ン ナ( 愛 称 ジ ャ ネ ッ ト )・ ハ ッ セ ン プ フ ル ー ク( カ ッ セ ル ) ((( ( に よ っ て 一 八 一 二 年 に 語 ら れ た。 し か し、 第 二 版(一八一九)以降削除された。欠落があまりにも多いからか。 [全訳] ある王様にご息女が三人ありました。王様は、だれがご自分を一番愛しているか知りたくなり、三人を 御 ご ぜ ん 前 に召 し寄せて、お訊きになりました。一番上の姫君は、王国全体よりも 愛 い と しく存じております、と答えました。二番目 の姫君は、世界中の宝石や真珠全部よりも大切です、と言いました。でも三番目は、お父様のことはお塩より好き でございます、と申しました。王様は、末の王女様がご自分のことをこんなつまらない 代 し ろ も の 物 と較べたのにひどく腹 を 立 て、 姫 君 を 一 人 の ご 家 来 に 引 き 渡 し、 森 の 中 へ 連 れ て 行 っ て、 殺 し て し ま え、 と 命 令 し ま し た。 二 人 が 森 に
や っ て 来 ま す と、 王 女 様 は ご 家 来 に 命 乞 い を し ま し た。 ご 家 来 の 方 は 王 女 様 に 忠 義 で し た か ら、 ど う し た っ て 殺 しっこなかったことでしょう。そして、お伴をいたしまして、何もかも仰せの通りにつかまつります、とさえ言い ました。でも王女様が欲しがったのは鼠の皮で作った衣 装 ((( ( だけでした。でご家来がそれを持ってまいりますと、王 女様はそれにくるまって〔見苦しい姿に身を 窶 や つ し〕とっとと歩き出しました。そして真っ直ぐにお隣の国の王様の 宮廷を目指して行き、男だという触れ込みで、王様にお雇いくださいまし、と頼みました。王様は承知して、余の 身 の 回 り の 世 話 を す る が よ い、 と 言 い ま し た。 つ ま り、 王 女 様 は 毎 晩 王 様 の 長 靴 を 脱 が せ て あ げ な け れ ば な ら な か っ た の で す。 す る と 王 様 は 毎 度 そ の 長 靴 を 王 女 様 の 頭 に 投 げ つ け る の で し た〔 王 は 粗 野。 な ぜ そ う し た 設 定 か、 こ れ だ け で は 不 明 ((( ( 〕。 あ る 時 王 様 は、 お ま え、 ど こ の 国 の 生 ま れ だ、 と お 訊 き に な り ま し た。
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「 長 靴 を 頭 に 投 げ つ け た り し な い 国 の 生 ま れ で ご ざ い ま す 」。 そ れ か ら 王 様 は 優 し く な り ま し た ((( ( 。 や が て 他 の ご 家 来 た ち が 王 様 の ところに指環を一つ持って来て、こう申しました。 鼠 マ ウ ゼ ハ ウ ト っ皮 〔宮廷でこう綽名されて蔑まれていたはずだが、そうし たことは前に出ない〕がこれを落としました。これはあまりにも高価な品ですので、やつはこれを盗んだに相違ご ざ い ま せ ん、 と。 王 様 は 鼠 マ ウ ゼ ハ ウ ト っ 皮 を 御 前 に 召 し 寄 せ て、 こ の 指 環〔 指 環 の 出 所 の 説 明 は な い ((( ( 〕 は ど こ か ら 手 に 入 れ た、とお訊きになりました。そこで 鼠 マ ウ ゼ ハ ウ ト っ皮 はもう隠してはいられなくなって〔つまり、自分から素性を仄めかす努 力 は し な い 〕、 鼠 っ 皮 の 衣 装 を 脱 ぎ 捨 て ま し た。 す る と 黄 金 の よ う な 金 髪 が 溢 れ 出 し ま し た。 こ う し て 立 ち 現 れ た 姿 は な ん と も か と も 美 し く〔 鼠 っ 皮 の 下 に 美 し い 衣 装 を 纏 っ て い る、 と い う 記 述 は 無 い 〕、 い や も う そ の あ ま り の 美しさに、王様はすぐさまご自分の頭から王冠を外し、それを王女様に被せ、このひとこそ我が妃だ、と宣言しま した。 ご 婚 礼 に は 鼠 マ ウ ゼ ハ ウ ト っ 皮 の お 父 様 も 招 待 さ れ ま し た。 お 父 様 は、 ご 息 女 が と っ く に 死 ん で し ま っ た、 と 思 っ て い た ので、王妃様がご自分の娘だとは見分けがつきませんでした。さて、食卓の上の、お父様の王様に出されたお料理は どれもこれも塩っ気なしでした。そこで王様は腹を立てて「かような料理をちょうだいいたすくらいなら、死んだ 方 が 増 し で ご ざ る 」 と 言 い ま し た。 お 父 様 の 王 様 が こ う 言 い 放 ち ま す と、 王 妃 様 は こ う 申 し ま し た。 「 塩 無 し で は 生きていたくはない、とおっしゃいますが、いつか私を殺させようとなさいましたね。私がお父様のことを、お塩 よ り 好 き、 と 申 し 上 げ た か ら と い う 理 由 で 」。 そ こ で お 父 様 の 王 様 は お 相 手 が ご 息 女 だ と 分 か り、 許 し を 乞 い ま し た。こうしてご息女をまた見つけ出したのは、王様にとって、ご自分の王国よりも、この世のありとあらゆる宝石 よりもすばらしいことでした。 * 結 局 の と こ ろ、 「 お 塩 の よ う に 好 き 」 Lieb wie das Salz 、 あ る い は「 お 塩 よ り 好 き 」 Lieber als das Salz な る モ テ ィ ー フ を 持 つ 貴 種 流 離 譚( 冒 頭 近 く で 述 べ た よ う に、 A T U 五 一 〇 で は な く A T U 九 二 三 に 分 類 さ れ て い る ) は、KHMにおいてはようやくその第五版(一八四三)に収録され、これが決定版まで残る。すなわち次に示すK HM一七九である。 ③ K H M 第 五 版 ( 一 八 四 三 ) / 決 定 版 = 第 七 版 ( 一 八 五 七 ) ((( ( K H M 一 七 九 「 泉 の 傍 の 鵞 鳥 番 の 女 」 Die Gänsehirtin am Brunnen B P に よ れ ば、 ウ ィ ー ン の ア ン ド レ ア ス・ シ ュ ー マ ッ ハ ー Andreas Schuhmacher の 口 承 採 録 話( 一 八 三 三 ) に 基づく、 ヘルマン ・ クレートケ編『ドイツ民話年鑑』
Hermann Kletkes Almanach deutscher Volksmärchen
(
1(((
所収の物語である。ただし、素朴で拙いのが通り相場である民衆の語り口とは大いに異なるロマン派的な文飾・言 辞が随所に観察され、一読しただけで、当時のメルヒェン作家がものした、民間伝承を素材とした再話ならばかく もあらん、といった印象を禁じ得ない。 構成も右のごとき推測を裏付けよう。読者の前に初めて現れる時点での女主人公は、魔力を持っている、しかし 極めて親切な老 女 ((1 ( に養われて鵞鳥の番をしている。年取った、また醜い姿をしているが、実は美しい乙女であるこ とが分かる。もっとも、分かるのは次いで物語が中盤に差し掛かってからである。しかも、ここで、はてな、なぜ このように美しい乙女が、とこちらの関心を惹いておいて突っ放し、種明かしが行われるのはまたまたずっと後の 方 で な の だ。 す な わ ち、 こ の 乙 女 は 実 は あ る 王 の 三 女 で、 父 王 が 所 領 の 分 配 を 行 う 時、 「 最 上 の お 料 理 で も お 塩 が 入っておりませんと私には美味しくございませぬ。ですから私はお父様のことをお塩のように愛しておりま す ((( ( 」と 答 え た た め、 塩 一 袋 を 与 え ら れ て 王 宮 か ら 追 い 出 さ れ た の で あ っ て、 や が て 前 述 の 老 女 に 保 護 さ れ、 〔 男 ど も の 好 き心をそそらないように老女に与えられた〕 「婆っ皮」
die alte Haut
を顔に被って、 身を窶しているのである、 と。 本来民話の語りは時系列的に展開するもの。現在から過去に遡及し、過去からまた現在に戻る、以上のごとき技巧 的叙述は創作文芸でこそありふれているが、民話にはあり得ない。 自らへの愛情の程度に応じて分与財産を決める、という趣旨の父王の発言から始まり、三女が最初は「そして私 の愛は何とも較べられませ ぬ ((( ( 」と言う点、この物語は『リア王』の導入部に似ている(右に記したように、この物 語 で は 導 入 部 で は な く、 ず っ と 後 に お か れ て い る が )。 文 人 の 思 い つ き そ う な 科 白 で あ る。 『 リ ア 王 』 と は 異 な り、 そのお妃、つまり王女たちの母后は存命だし、王国を折半して受け継いだ姉二人もどうやら母と一緒に父の怒りを なだめようとしたらしい、など、穏やかな筋立ても、黒白をはっきり分け、登場人物は能う限り少なくする民話に
はそぐわない。 ところで、この物語の女主人公は全くの受け身型であり、後に(どうやら)結婚することになるお相手の若い伯 爵が老女に強引に連れて来られても、これに媚態を示したり、自分の身元をそれとなく仄めかしたり、といった作 為 は ま る で 心 懸 け な い。 ま た、 親 切 な 老 女 の 全 面 的 保 護 の 下 に あ る の で、 下 女 奉 公 と い っ た 苦 役 か ら 免 れ て い る (なるほど、老女の許で鵞鳥番をしているが、これは辛い仕事として描かれてはいない) 。この娘の流す涙は極めて 高 価 な 真 珠 だ し、 老 女 は 最 後 に 立 派 な 宮 殿 と そ こ で 働 く 人 人 を 贈 り 物 に し て 去 る。 け だ し 至 れ り 尽 く せ り で あ る。 そ れ だ け に 迫 力 が 大 層 弱 い。 醜 い 姿 に 身 を 窶 し、 侮 ら れ な が ら 賤 し い 端 はした 仕 事 に 追 い 使 わ れ、 こ こ 一 番 と い う 機 会 に美しさ、輝かしさを示して、積極的にいわば回生の端緒を摑む類話の、さよう、申さば民間伝承本来の女主人公 の行動がいかに昔話の聴き手の興趣をそそったか
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反面、こちらの方はいかに共感を得られないか─
比較する には持って来いであろう。 ま た 、 自 ら へ の 愛 を 塩 に た と え ら れ た 父 王 が 、 皆 目 塩 気 の な い 料 理 を ふ る ま わ れ て 、 つ く づ く 塩 の 大 事 さ を 思 い 知 る 、 と い っ た 、 単 純 だ が 、 説 得 力 の あ る 結 び も 、 こ の 物 語 で は す っ か り 閑 却 さ れ て い て 、 父 王 は 娘 を 追 い 出 し て か ら や が て 自 分 の 無 情 を 後 悔 し 、 森 中 娘 を 捜 索 さ せ た 、 と な っ て い る 。 さ て さ て 、 こ れ ま た い か が な も の で あ ろ う か 。 と に か く 最 初 か ら 最 後 ま で 語 り 手─
こ の 場 合 は 文 人( A・ シ ュ ー マ ッ ハ ー か )─
の 独 り 舞 台 で、 ( 民 話 で は 当 然 そ う あ っ て し か る べ き な の だ が ) 聴 き 手 も 語 り の 主 人 公 に な れ る た め の「 語 り の 主 題・ 状 況 の 一 般 化 」( 語 り 手 と 聴 き 手 た ち が 構 成 し て い る 物 語 共 同 体 Erzählgemeinschaft の 原 初 的 共 通 認 識 に き ち ん と 従 う こ と ) が ほ と ん どない。一般化は語り手によって故意に破られている。従って粗筋を示しても甲斐無いことなので、これは省く。 KHMが、版を重ね、書籍、つまり既存の民話集から物語を多く採録するようになって以降、グリム兄弟の初心から随分と乖離してしまったことが、 「塩のように好き」をモティーフとする 民話 0 0 として、 初版には存在した「鼠っ 皮 の 王 女 様 」( 確 か に 随 分 と 欠 落 な ど の 瑕 瑾 は あ る が ) は 第 二 版 以 降 削 り、 「 泉 の 傍 の 鵞 鳥 番 の 女 」( 確 か に 文 芸 作 0 0 0 品 0 と し て は お も し ろ く で き て い る が ) を 第 五 版 以 降 入 れ た、 そ う し た 行 為 一 つ か ら も 説 き 起 こ せ よ う。 け れ ど も、 そちらへ逸れてしまうとどうしようもなくとっちらかってしまい、小論の収拾がつかなくなるので、これまでとし よう。 〔四〕KHM第二版(一八一九)/決定版KHM六五「千びき皮」 KHM65 Allerleirauh (あらゆる種類の毛皮) 結 局 こ れ は「 エ ー レ ン ベ ル ク 手 稿 」 の「 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ ホ び き 皮 」 Allerlei Rauch と K H M 初 版 の 千 ア ラ ラ イ ・ ラ オ び き 皮 」 Allerlei-Rauh に よ る書き直しである。しかし、初版KHM六五の「婚約者」云云がなぜか盛り込まれておらず、三つの黄金の小道具 に関する( 「婚約者からの結納の贈り物」といった)適切な説明も欠けている。 [粗筋] 臨終の妻と、妻同様の美女とでなければ再婚しない、と約束した王。娘が年頃になると、妻同様の美女なのに気 づき、これと結婚しようとする。 王 女 は こ れ を 拒 も う と、 二 つ の 難 題 を 父 王 に 出 す。 第 一 の 難 題: 太 陽 の よ う に 黄 こ が ね 金 色 に 輝 く 衣 装、 月 の よ う に 白 し ろ が ね 銀 色に輝く衣装、星星のように輝く衣装。第二の難題:王国のあらゆる種類の動物から取った毛皮でこしらえた
外套。 父王がこれらの難題を叶えたので、王女は城から逃げる。黄金の指環、黄金の糸繰り車、黄金の糸巻き、三種の 衣装を胡桃の殻にしまって身につけ、あらゆる種類の毛皮の外套を纏い、顔と両手を煤で黒く汚して〔見苦しい姿 に身を窶したわけ〕 。 ある大きな森の木の空洞で眠る。その国の王が猟 に 来 て 発 見、 城 へ 連 れ 帰 る。 「 千 ア ラ ラ イ ラ オ び き 皮 」 と 綽 名 さ れ、 城 の 厨 房 で 辛 い 仕 事 を す る。 〔 乙 女 で は な く、 汚らしいこぞうだ、と見なされて、最下級の雑用に こ き 使 わ れ た わ け。 た だ し 王 と は 没 交 渉 で あ っ て、 K H M 初 版 第 一 部 六 五「 千 び き 皮 」 お よ び 七 一 「 鼠 っ 皮 の 王 女 様 」 の よ う に、 王 の 長 靴 を 脱 が せ る たびに、それを頭に投げつけられる、という情景は ない〕 。 城で祝宴。 千 ア ラ ラ イ ラ オ びき皮 は変装を解き、太陽の衣装を 着て祝宴に。王はこの美女と踊る。美女はすぐにい な く な っ て、 台 所 仕 事 に 戻 る。 料 理 番 に 王 様 用 の スープを作るよう命じられる。スープに黄金の指環 を入れる〔これは自分から素性を仄めかす行為に他 王のためにスープを作る千ア ラ ラ イ ラ オびき皮 オットー・ウッベローデ Otto Ubbelohde(1867-1922) 描く
な ら な い 〕。 王 は こ れ を 喜 ん で 食 べ、 指 環 を 発 見、 千 ア ラ ラ イ ラ オ び き 皮 が 作 っ た、 と 聞 き、 呼 び 寄 せ て、 以 下 の よ う な 問 答 を 始め、最後に指環のことを問い質すが無駄に終る。 千 ア ラ ラ イ ラ オ び き 皮 が ま い り ま す と、 王 様 は こ う 訊 ね ま し た。 「 そ ち は 何 者 だ 」。 「 わ た し は 哀 れ な 子 ど も で ご ざ い ま す。 父 も 母 も も う ご ざ い ま せ ん 」。 そ れ か ら 王 様 が 重 ね て「 そ ち は 何 の た め に 余 の 城 に お る の か 」 と 訊 ね ま す と、 そ の 返 答 は「 わ た し は 何 の お 役 に も 立 ち ま せ ん。 長 靴 を 頭 に 投 げ つ け ら れ る の が せ い ぜ い の と こ ろ で ご ざ い ま す 」 で し た。 城 で 祝 宴。 千 ア ラ ラ イ ラ オ び き 皮 は 変 装 を 解 き、 月 の 衣 装 を 着 て 祝 宴 に。 王 は こ の 美 女 と 踊 る。 美 女 は す ぐ に い な く な っ て、 台所仕事に戻る。料理番に王様用のスープを作るよう命じられる。スープに黄金の糸繰り車を入れる。王はこれを 喜んで食べ、糸繰り車を発見、 千 ア ラ ラ イ ラ オ びき皮 が作った、と聞き、呼び寄せて糸繰り車のことを問い質すが無駄。 城で祝宴。 千 ア ラ ラ イ ラ オ びき皮 は変装を解き、星星の衣装を着て祝宴に。王はこの美女と踊る。そして相手に気づかれない よ う に〔 そ ん な こ と は 無 理 だ、 と 思 わ れ る が 〕 黄 金 の 指 環 を 嵌 は め る。 美 女 は す ぐ に い な く な っ て、 台 所 仕 事 に 戻 る。しかし、今度は長く舞踏をし過ぎたので、星星の衣装を脱ぐ暇は無く、上に外套を羽織っただけ。煤も完全に は 塗 れ ず、 指 一 本 は 白 い ま ま。 料 理 番 に 王 様 用 の ス ー プ を 作 る よ う 命 じ ら れ る。 ス ー プ に 黄 金 の 糸 巻 き を 入 れ る。 王はこれを喜んで食べ、糸巻きを発見、 千 ア ラ ラ イ ラ オ びき皮 が作った、と聞き、呼び寄せて糸巻きのことを問い質す。そして 白い指、自分が嵌めた指環に気づく。また、毛皮の下から星星の衣装も覗き見える。王は 千 ア ラ ラ イ ラ オ びき皮 があの美女であ ることが分かって、これと結婚する。
*グリム兄弟が、初版第一部では温存しておいた、王の長靴を女主人公が脱がせ、それを王が女主人公の頭に投げ つける、というモティーフをどうしてここでは削っているのか分からない。このモティーフがあるために、女主人 公の城での生活の惨めさが端的に強調されるにも関わらず。
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もちろん現代に生きるわれわれとしては、女主人 公 が 後 に 結 婚 し て、 民 話 の お 約 束 通 り「 幸 せ に な る 」、 そ の お 相 手 が、 知 ら ぬ こ と と は 申 し な が ら、 こ う も 野 蛮 な ふるまいにおよぶ、という設定ではまずいなあ、と感じるのだけれども。しかしながら、近代の叙情小説を洗練さ れたあえかな容姿の末妹にたとえれば、その土性骨の太い自然児たる長姉ともいうべき民話においては、粗野、猥 雑さなど鼻であしらわれるのであって、まだまだこの程度では問題にするには当たらないのである。ある類話では 結びで、なおも 白 し ら を切り続ける女主人公を王が乗馬用の鞭でひっぱたき、そのため毛皮に裂け目ができて、その隙 間から黄金の衣装がきらきら輝いて見え、ようやく正体が分かる、という始末なのだから。丈夫な毛皮が裂けるく らいの力で顔など露出している部分を鞭で打ったら、傷は骨にまで達したことだろう。そして 笞 む ち 打ち刑はヨーロッ パの陸海軍においてさえ二〇〇年ほど前まではありふれていて、庶民も笞打ちというものがどんなものか見聞きし ていた、場合によっては体験していたはず。 王の城における厨房の下働きとしての女主人公の扱いかただが、この物語ではどうにもなまぬるい。ただし、K HMの内容・表現にまで手を入れたヴィルヘルム・グリムのごとき温良な詩人肌の人間だと、ついそう編輯してし まうのかも知れない。いや、民話の語り手自体の人柄が優しければ、グリム兄弟に提供される時点で話は無用に穏 やかな色合いとなっている。なにしろBPに挙げられたパーダーボルン地方(現ノルトライン=ヴェストファーレ ン州)の類話によれば、女主人公が異様な外套を纏い、惨めで汚らしい役柄を演じていることが、 (一時的にせよ) つい忘れられてしまうこともあるのだ。いわく。少 女 が ス ー プ を 上 手 に こ し ら え ま す と、 王 様 は 少 女 を お 呼 び に な っ て、 こ う お っ し ゃ い ま し た。 「 お ま え は ほ ん と に 綺 麗 な 子 だ ね ((( ( 。 さ、 余 の 椅 子 に お 掛 け 」。 そ う し て お つ む り を 少 女 の 膝 に 載 せ、 「 ち ょ い と 虱 しらみ を 取 っ て お く れ ((( ( 」 とお頼みになりました。 いやはや、どうも。これでは女主人公に対する聴き手の同情が薄れてしまい、やがて女主人公がすばらしい衣装 を纏って舞踏会の第一人者となる時の聴き手の感動に水が差されてしまうではないか。だが、こうした余計な修正 は、現代、H・C・アンデルセンの緊張度の高い、それだけに与える感動の大きい作品、たとえば「マッチ売りの 少女」にもなされて、少女が壁の向こうのお屋敷に招じ入れられて、煖炉の火とご馳走で幸せになる、という(お そらく幼児向けに改変された)再話もある。 * * * * * 次 の〔 五 〕〔 六 〕〔 七 〕〔 八 〕〔 九 〕〔 十 〕 は イ ン グ ラ ン ド、 イ タ リ ア、 ノ ル ウ ェ ー、 デ ン マ ー ク お よ び ト ル コ の 民 話の紹介。窶しの 道 ア イ テ ム 具 として動物の皮だけではなく、草や木の外被も登場する。 〔五〕イングランド民話「 藺 キャップ・オー・ラッ シ ェズ 草頭巾 」 Cap o Rushe s (((( ジ ョ ゼ フ・ ジ ェ イ コ ブ ズ 編 著『 イ ン グ ラ ン ド 昔 話 集 』 ((( ( ( 一 八 九 〇 ) 収 録 の 再 話「 藺 キャ ッ プ ・ オ ー ・ ラ ッ シ ェ ズ 草 頭 巾 」 は、 注 に 記 し た
資料原典のサフォーク方 言 ((( ( を若干直しただけで、あとは全く同一。 超自然的援助者の介在が無いのが、実証的な好みのイングランド人の民話らしくてなにやらおもしろい。もっと も、ブリテン諸島でもスコットランド、アイルランド、ウェールズの民間伝承では事情はいささか、あるいは大い に異なる。 イングランドにも動物の皮を纏う類話があ る ((( ( 。 [全訳] キ ャ サ リ ン・ ブ リ ッ グ ズ / ル ー ト・ ミ ヒ ャ エ リ ス = イ エ ナ 編『 イ ン グ ラ ン ド の 民 話 』( 「 世 界 の 民 話 」 シ リ ー ズ ) ((( ( をも参考として、英文原典から。 あ の ね え、 昔 む か し、 ず い ぶ ん と お 金 持 ち の 紳 士 が お り ま し て ね、 嬢 じょっ ち ゃ ん ((1 ( を 三 人 持 っ て い ま し た。 そ し て 紳 士は、娘たちが自分をどれくらい大事に思っているか、どうしても知りたい、と考えました。そこで一番上の娘に 向かって申しました。 「嬢や、おまえ、わしのこと、どれくらい好きかな」とね。
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「ええと」と長女。 「わたし の命が好きなくらい、それくらいに」 。─
「ふむ、けっこう」と父親。 そ れ か ら 二 番 目 の 娘 に 向 か っ て 申 し ま し た。 「 お ま え、 わ し の こ と、 ど れ く ら い 好 き か な、 嬢 や 」。─
「 え え と」と次女。 「世界中のありったけのものよりもっと」 。─
「ふむ、けっこう」と父親。 そ れ か ら 三 番 目 の 娘 に 向 か っ て 申 し ま し た。 「 そ れ で お ま え、 お ま え は、 わ し の こ と、 ど れ く ら い 好 き か な、 嬢 や 」。─
「 え え と 」 と 三 女。 「 わ た し、 新 し い お 肉 が お 塩 を 好 き な く ら い、 そ れ く ら い お 父 様 が 好 き ((( ( 」。 ね え、 これを聞いて紳士はかあっとなっちまいました。 「おまえはわしをまるきり愛しとらんのだな」と紳士。 「それではもうこれから先この家におまえを置いとくつも りはない」 。こうして紳士はその場で三女を追い出して、娘の鼻先で扉をぴしゃりと閉めたのです。 さ あ て と、 娘 は 歩 い て 行 き ま し た。 ど ん ど ん ど ん ど ん ね。 や が て と あ る 沼 の 畔 ほとり に 出 ま し た。 娘 は 沼 の 畔 で ど っ さ り 藺 い ぐ さ 草 を ((( ( 集 め、 そ れ を 編 ん で 頭 フ ー ド 巾 の 付 い た 外 套 み た い な も ん ((( ( を こ し ら え、 こ れ を 頭 か ら 足 先 ま で す っ ぽ り 被 か ぶ っ て、 着 て い る 美 し い 衣 装 も 隠 し ま し た。 そ れ か ら ど ん ど ん ど ん ど ん 歩 い て 行 き ま す と、 やがてとある大きなお邸の傍にやって来ました。 「 下 げ じ ょ 女 は ご 入 用 じ ゃ あ り ま せ ん か 」 と 娘 は 言 い ました。 「 い い や、 う ち で は 要 ら な い ね 」 と い う の が お 邸の衆の答え。 「 あ た く し、 ど こ へ 行 っ た ら い い か、 途 方 に 暮 れ て お り ま す の 」 と 娘。 「 そ れ に あ た く し、 お 給 金 を い た だ き た い な ん て 申 し ま せ ん し、 ど ん な お 仕事でもいたします」 。 藺草を編んで、それをすっぽり全身に纏った令嬢 ジョン・D・バッテン John D. Batten(1860-1932) 描く
「じゃあいいよ」 とお邸の衆。 「深鍋を いくつもいくつも洗ったり、 浅鍋をいく つもいくつも 擦 こ す ったりするのなら、 住み 込みになるがいい」 。 そこで娘はそこに住み込んで、 深鍋を いくつもいくつも洗ったり、 浅鍋をいく つもいくつも擦ったり、 汚れ仕事はなん でもやりました。それからね、 なんて名 前か名乗らなかったものですから、 お邸 の衆はこの娘を 「藺草頭巾」 と呼びまし た。 ところで、 ある日のことです。近くの お邸で大きな舞踏会が開かれました。 奉 公人たちはだれでもそこへ出掛けて、良い身分の方方を見物してもいいことになりました。藺草頭巾は、とっても 疲れているから一緒に行けない、と言って、うちに残ったのです。 でもね、奉公人たちがいなくなると、藺草頭巾は被っていた藺草の頭巾を脱ぎ、体を洗い清めて踊りに行きまし た。舞踏会ではこれほどすばらしい身なりのひとなんて他におりませんでしたよ。 ところで、そこにいあわせたのはほかでもない、娘が仕えているご主人のとこの若様でしてね、この若様が娘に
“Do you want a maid?” says she.
と こ と ん 惚 れ 込 ん で し ま っ た の で す。 一 目 見 た そ の 瞬 間 か ら ね。 若 様 は こ の ご 婦 人 と し か 踊 ろ う と し ま せ ん で し た。 でも、舞踏会が終わりにならないうちに娘はそこから外へ出て、逃げて帰って来たのです。そうして他の下女た ちが戻った時には、いつもの藺草の頭巾を被って、眠ったふりをしていました。 さあて、翌朝になると他の下女たちは藺草頭巾に言いました。 「あんたったら、たいしたものを見損ねたわよ、藺草頭巾」 。 「へえ、それってなあに」 。 「 え え っ と さ あ、 あ ん た が こ れ ま で 目 に し た う ち で こ れ 以 上 は な い っ て い う 綺 麗 な 女 の ひ と よ。 着 て い る 物 も ほ んとにすっごくてすんばらしかったわあ。うちの若旦那様ったらこのひとから 金 こ ん り ん ざ い 輪際 目を離さなかったんだ」 。 「あら、あたくし、そのひと、見たかったなあ」と藺草頭巾は言いました。 「あのね、今晩もう一度踊りがあるんですって。だからもしかしてそのひと来るかもよ」 。 けれど晩になると、藺草頭巾は、とっても疲れているから、皆と一緒には行けない、と申しました。 でもそれからね、皆がいなくなると、娘は藺草の頭巾をかなぐり捨てて、体を洗い清め、踊りに出掛けました。 ご主人の若様はとおからあの女のひとに逢えるものと当てにしてたんです。そこで他のだれとも踊らず、相手か ら目を離しませんでした。 で も ま だ 踊 り が 済 ま な い の に、 娘 は す る り と 抜 け 出 し て、 と っ と と 帰 っ て し ま い ま し た。 そ う し て 下 女 た ち が 戻った時には、いつもの藺草の頭巾を被って、眠ったふりをしていました。 次の日になると下女たちはまたこう申しました。
「 あ の ね、 藺 草 頭 巾、 あ ん た も 来 て あ の 女 の ひ と を 見 れ ば よ か っ た の に さ。 あ の ひ と、 ま た 現 れ た の よ。 す っ ご くてすんばらしかったわあ。若旦那様はあのひとから目を離さなかったわ」 。 「あら」と藺草頭巾は言いました。 「あたくし、そのひと、見たかったなあ」 。 「あのね」と下女たち。 「もう一度踊りがあるの、今晩ね。あんた、どうしたってあたしたちと一緒に行かなくっ ちゃ。だって、あのひと、きっと来るでしょうよ」 。 さ て 晩 に な る と、 藺 草 頭 巾 は、 と っ て も 疲 れ て い る か ら 一 緒 に は 行 け な い、 皆 さ ん 好 き な よ う に し て ち ょ う だ い、と言って、うちに残りました。でも皆がいなくなると、娘は藺草の頭巾をかなぐり捨てて、体を洗い清め、踊 りに出掛けました。 ご主人の若様は女のひとの姿を見ると、とっても喜びました。このひと以外のだれとも踊らず、金輪際目を離し ませんでした。相手がなんという名か、家はどこか、言おうとしないので、若様は女のひとに指環を一つ渡し、こ れっきりもう逢えないなら、自分は死んでしまうだろう、と告げたのです。 さ あ て、 踊 り が 済 ま な い の に、 娘 は す る り と 抜 け 出 し て、 と っ と と 帰 っ て し ま い ま し た。 そ う し て 下 女 た ち が 戻った時には、いつもの藺草の頭巾を被って、眠ったふりをしていました。 さ あ て、 次 の 日 に な る と 下 女 た ち は こ う 申 し ま し た。 「 ほ お ら、 ご ら ん な、 藺 草 頭 巾 た ら さ あ。 あ ん た 昨 日 の 晩 来なかったでしょ。だからもうあの女のひとを見られやしないわ。だってもう踊りはないもの」 。 「そうお、あたくし、そのひと、とっても見たかったなあ」と藺草頭巾は言ったものです。 ご 主 人 の 若 様 は、 例 の 女 の ひ と が ど こ へ 立 ち 去 っ た の か 捜 し 出 そ う と、 と こ と ん 手 を 尽 く し ま し た が、 ど こ へ 行っても、だれに訊いても、何一つ消息が摑めませんでした。
そこで女のひとが恋しくて恋しくてたまらず、だんだん体の具合がおかしくなって、とうとう床に就いてしまい ました。 「 若 旦 那 様 に ち ょ い と 薄 グ ル ー ア ル 粥 を ((( ( 作 っ て お く れ 」。 お 邸 の 衆 は 料 理 番 に 申 し ま し た。 「 あ の 方 は 例 の 女 の ひ と が 恋 し い ば っ か り に そ の う ち お 亡 く な り に な っ ち ゃ う だ ろ う よ 」。 料 理 番 が こ し ら え に 掛 か る と、 そ こ へ 藺 草 頭 巾 が 入 っ て 来ました。 「何をしてるんですか」と藺草頭巾。 「 あ た し ゃ あ ね、 ち ょ い と 薄 グ ル ー ア ル 粥 を こ し ら え る と こ ろ さ。 若 旦 那 様 に さ し あ げ る ん だ よ 」 と 料 理 番 が 返 辞。 「 あ の 方は例の女のひとが恋しいばっかりにそのうちお亡くなりになっちゃうだろうよ」 。 「その 薄 グルーアル 粥 、あたくしに作らせてください」と藺草頭巾が申します。 さ て、 料 理 番 は 初 め は 承 知 し ま せ ん で し た が、 結 局、 じ ゃ あ や っ て ご ら ん、 と い う こ と に な っ て、 藺 草 頭 巾 が 薄 グ ル ー ア ル 粥 の 仕 度 を し ま し た。 そ し て 煮 上 が る と、 料 理 番 が そ れ を 上 の お 部 屋 に 持 っ て ゆ く 前 に、 中 に そ お っ と 指 環 を 滑り込ませたのです。 若者がこれを飲んでしまうと、鉢の底にあの指環が見えました。 「料理番を呼びなさい」と若者。そこで料理番がお部屋に上がってまいります。 「この 薄 グルーアル 粥 をこしらえたのはだれだ」と若様。 「 あ た し で ご ざ い ま す よ う 」 と 料 理 番。 な に せ ま あ 後 う し ろ め た く っ て ね え。 す る と、 若 様 は じ い っ と 料 理 番 を 見 据 えました。 「いいや、おまえではない」と若様。 「だれがこしらえたのか言いなさい。そうすれば悪いようにはしない」 。
「じゃあ申し上げますが、作ったのは藺草頭巾でございます」 。 「藺草頭巾をここへ来させなさい」 。 そこで藺草頭巾がやって来ました。 「この 薄 グルーアル 粥 をこしらえたのはおまえか」と若様。 「はい。わたくしでございます」と娘。 「この指環はどこで手に入れた」と若様。 「これをわたくしにくださった方からでございます」と娘。 「いったいそなたはどこのだれ」と若者は申しました。 「 ご ら ん に 入 れ ま し ょ う ね 」 と 娘。 そ し て 藺 草 の 頭 巾 を か な ぐ り 捨 て る と、 も と も と 着 て い た す ば ら し い 衣 装 を 纏った姿で立ち現れたのです。 さて、若様はとんとん拍子に元気になり、二人はまもなく結婚することになりました。盛大なご婚礼が挙げられ ることになり、あっちこっちからだれもかれもがこれに招待されました。藺草頭巾の父親も招待された一人だった のです。でも、藺草頭巾はだあれにも自分の素性を告げたりしませんでした。 で も ね、 ご 婚 礼 の 前 に 娘 は 料 理 番 の と こ ろ に 行 っ て、 こ う 言 い つ け た ん で す よ。 「 ど の お 料 理 も お 塩 は 一 粒 だ っ て入れないでこしらえてちょうだいね」ってね。 「そうしますと、てんからひどいものになっちまいますよ」と料理番。 娘「別にどうってことありませんよ」 。