回復期リハビリテーション病棟入退院患者を対象とした
理学療法研究において用いられる評価指標の使用動向
Trends in Use of Assessment Indices for Convalescence Rehabilitation Ward Patients
in Physical Therapy Research in Japan
合田 秀人
1,2)岩井 浩一
3)Shuto GODA, RPT1,2), Koichi IWAI, PhD3)
1) Graduate School of Health Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences: 4669-2 Ami, Ami-machi, Inashiki-gun,
Ibaraki 300-0331, Japan TEL +81 29-888-4000 E-mail: [email protected]
2) Department of Rehabilitation, Kashima Hospital
3) Faculty of Medical Health, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences
Rigakuryoho Kagaku 32(3): 381–385, 2017. Submitted Nov. 14, 2016. Accepted Jan. 17, 2017.
ABSTRACT: [Purpose] To clarify the trends in use of assessment indices for convalescence rehabilitation patients
in original papers. [Subjects and Methods] In the five years from 2011 to 2015, original papers mainly about convalescence rehabilitation patients appearing in the Journal of Physical Therapy Science and Rigakuryohogaku were surveyed for assessment indices’ use as well as their frequency of use. [Results] There were many assessment indices with constant reliability, validity, and ordinal scales; however, their frequency of use differed depending on the study design. [Conclusion] We intend to continue researching assessment indices verifying the benefits of convalescence rehabilitation to identify those with the potential to become standard indices.
Key words: assessment indices, trends in use, convalescence rehabilitation
要旨:〔目的〕回復期リハビリテーション病棟入退院患者を対象とした原著論文における評価指標の使用状況を明ら かにすることである.〔方法〕2011年1月から2015年12月までの5年間に学術誌「理学療法科学」と「理学療法学」 に掲載された,回復期リハビリテーション病棟入退院患者を主な対象とした原著論文に用いられた評価指標およびそ の頻度を調査した.〔結果〕抽出された評価指標は,一定の信頼性,妥当性を有すること,順序尺度の評価指標が多 いこと,研究デザインの違いにより使用頻度が異なる評価指標があること,などがわかった.〔結語〕回復期リハビ リテーションにおける効果検証のための指標となり得る標準的な評価指標について検討していきたい. キーワード:評価指標,使用動向,回復期リハビリテーション 1) 茨城県立医療大学大学院 保健医療科学研究科:茨城県稲敷郡阿見町阿見 4669-2(〒 300-0331)TEL 029-888-4000 2) 公益財団法人 鹿島病院 リハビリテーション科 3) 茨城県立医療大学 保健医療学部 受付日 2016 年 11 月 14 日 受理日 2017 年 1 月 17 日
I.はじめに
回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟は,日 常生活活動(Activities of daily living:以下,ADL)向 上,寝たきり防止,家庭復帰を目的に創設された病棟で ある1).この病棟の現状と課題に関する調査報告書2)の
中で,ADLの評価指標としてはBarthel index(以下,
BI)3),Functional independence measure(以下,FIM)4)
が用いられ,詳細な分析が行われている.しかし,その 他の評価指標に関する記載はみあたらず,一般的に回復 期リハ病棟にてADL評価以外でどのような指標が使用 されているかについては不明である. 理学療法の臨床場面では主観的側面を極力避け,多く の客観的情報に基づく技術が提供されるべきであり5), 地域連携の観点からみると回復期リハ病棟退院後に安心 でき,かつ安定した地域生活が継続されることが,本来 求められる回復期リハ病棟のアウトカム指標である6) とされていることから,ADLや在宅復帰率以外の評価 指標が必要となる可能性がある.また,回復期リハにお ける効果検証の課題として,評価項目および基準と数値 化,評価時期および頻度と経時的評価,評価技術の質と データの信頼性,治療内容と療養環境の質的評価,判定 結果の臨床的活用7)といった,効果を検証するための 方法や指標に関するものが多くあげられており,回復期 リハに関する標準的な評価指標の確立が必要とされて いる. このことからも,回復期リハに関する臨床や研究で実 際にどのような評価指標が使用されているのかを知るこ とは重要であるが,そのような報告はみあたらない. Scheuringerら8)による脳血管疾患,運動器疾患を主た る対象とした,本邦でいわれるところの急性期に相当す るacuteおよび回復期に相当するsub-acuteで使用され て い る 評 価 指 標 に 関 す る 調 査 報 告 で は,BI,FIM,
Glasgow coma scale9),Mini mental state examination(以
下,MMSE)10)などの使用頻度が多いとされている. しかし,回復期リハ病棟は本邦独自のシステムであり, これらの報告とは異なる傾向を示す可能性がある. そこで今回,回復期リハにおける効果検証のための指 標となり得る標準的な評価指標の確立に向けた研究の一 環として,本邦における理学療法研究において,回復期 リハ病棟入退院患者を主な対象とした原著論文で,どの ような評価指標が用いられているかについて調査を行う こととした.
II.対象と方法
1.対象 過去5年間(2011年1月から2015年12月)に学術 誌「理学療法科学」と「理学療法学」に掲載された,回 復期リハ病棟入退院患者を主な対象とした原著論文に対 して,その数,その中で用いられた評価指標およびその 指標の頻度を調査した.なお,本調査では対象者の記載 にあたり回復期リハ病棟または病院と本文中に明記され ている場合を調査対象とし,入院中のみならず回復期リ ハ病棟または病院を退院した者を主たる対象としている 論文も含んでいる. 2.方法 これらの条件を満たす論文の中で,3編以上の論文に 使用された評価指標を抽出し,抽出された評価指標の信 頼性,妥当性を検討するため,理学療法診療ガイドライ ン11)から脳卒中理学療法診療ガイドライン(以下,脳 卒中ガイドライン)の理学療法評価(指標)推奨グレー ド分類を併記した.この推奨グレード分類はA:信頼性, 妥当性のあるもの,B:信頼性,妥当性が一部あるもの, C:信頼性,妥当性は不明確であるが,一般的に使用さ れているもの,である.また,抽出論文を研究デザイン に基づき,前向き研究,後ろ向き研究,横断研究に分類 し, 抽 出 さ れ た 評 価 指 標 と3群 間 の 関 係 に つ い て, Fisherの正確確率検定を用いて検討した.統計処理はSPSS for Windows Ver.22.0を用い,有意 水準は5%とした.なお,今回抽出された諸論文のエビ デンスレベルの評価は行わなかった.
III.結 果
過去5年間に学術誌「理学療法科学」と「理学療法学」 に掲載された原著論文数は894編であった.このうち 回復期リハ病棟入退院患者を主な対象とした論文は53 編(5.9%)であり,脳血管疾患を対象とした論文は47 編,運動器疾患11編,廃用症候群5編(重複論文あり) であった. これら論文の中で3編以上の論文に使用されたものと して抽出された評価指標と,脳卒中ガイドラインにおけ る理学療法評価(指標)の推奨グレード分類は次のよう になった(表1).FIM,Brunnstrom stage(以下,BRS),Berg balance scale(以下,BBS),BI,MMSE,Timed
Up and Go test(以下,TUG)などが高頻度に使用され
ていた.また,Functional ambulation category(以下,
FAC),麻痺側荷重率,改訂長谷川式簡易知能評価スケー ルを除く評価指標は,この推奨グレード分類でA~B に該当するものであった. 抽出論文を研究デザインに基づき,前向き研究,後ろ 向き研究,横断研究の3群に分類し,抽出された評価指 標と3群間の関係について検討したところ,FIM,BRS,
BBS,TUG,麻痺側荷重率,Japan stroke scale(以下,
IV.考 察
本研究は,回復期リハにおける効果検証のための指標 となり得る標準的な評価指標を確立することの重要性か ら,その一環として本邦における理学療法研究において 回復期リハ病棟入退院患者を主な対象とした原著論文で, どのような評価指標が用いられているかについて調査を 行ったものである.その際,「理学療法科学」と「理学 療法学」を調査対象としたのは,これらが被引用回数が 多く,質の高い学術誌であることから,理学療法研究に 与える影響が特に大きいとの報告12)があるためである. また,理学療法診療ガイドライン11)の理学療法評価(指 標)推奨グレード分類を併記したのは,これが統一され た基準に基づいて行われており13),標準的評価指標に 必要とされる信頼性,妥当性14)に関して有益な情報と なると判断したためである. その結果,脳血管疾患を主たる対象とした論文数が抽 出論文全体の88.7%と多く,運動器疾患や廃用症候群 表1 抽出された評価指標 評価指標 脳血管疾患( n=47) 運動器疾患 (n=11) 廃用症候群 (n=5) 脳卒中 グレード Functional independence measure(FIM) 26(55.3) 7(63.6) 4(80.0) A Brunnstrom stage(BRS) 24(51.1) 0 (0.0) 0 (0.0) B Berg balance scale(BBS) 12(25.5) 1 (9.1) 0 (0.0) A Barthel index(BI) 12(25.5) 1 (9.1) 1(20.0) A Mini mental state examination(MMSE) 10(21.3) 2(18.2) 2(40.0) A Timed up and go test(TUG) 8(17.0) 1 (9.1) 0 (0.0) A Functional ambulation category(FAC) 7(14.9) 1 (9.1) 0 (0.0) 10 m歩行テスト 7(14.9) 0 (0.0) 0 (0.0) A Stroke impairment assessment set(SIAS) 7(14.9) 0 (0.0) 0 (0.0) A 麻痺側荷重率 7(14.9) 0 (0.0) 0 (0.0) 徒手筋力計を用いた膝伸展筋力 7(14.9) 0 (0.0) 0 (0.0) B Japan stroke scale(JSS) 5(10.6) 0 (0.0) 0 (0.0) A Modified Ashworth scale(MAS) 5(10.6) 0 (0.0) 0 (0.0) B Trunk control test(TCT) 4 (8.5) 0 (0.0) 0 (0.0) B 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) 3 (6.4) 2(18.2) 1(20.0) 論文数(%).脳卒中グレード:脳卒中理学療法診療ガイドラインにおける理学療法評価(指標)の推 奨グレード.グレード分類A:信頼性,妥当性のあるもの,B:信頼性,妥当性が一部あるもの. 表2 評価指標使用頻度の群間比較 評価指標 前向き研究( n=11) 後ろ向き研究 (n=18) 横断研究 (n=24) Functional independence measure(FIM)** 7(63.6) 14(77.8) 7(29.2) Brunnstrom stage(BRS)** 4(36.4) 3(16.7) 17(70.8) Berg balance scale(BBS)** 3(27.3) 0 (0.0) 10(41.7) Barthel index(BI) 1 (9.1) 3(16.7) 8(33.3) Mini mental state examination(MMSE) 3(27.3) 5(27.8) 2 (8.3) Timed up and go test(TUG)* 0 (0.0) 1 (5.6) 8(33.3) Functional ambulation category(FAC) 3(27.3) 3(16.7) 2 (8.3) 10 m歩行テスト 1 (9.1) 1 (5.6) 5(20.8) Stroke impairment assessment set(SIAS) 3(27.3) 2(11.1) 2 (8.3) 麻痺側荷重率** 0 (0.0) 0 (0.0) 7(29.2) 徒手筋力計を用いた膝伸展筋力 1 (9.1) 3(16.7) 3(12.5) Japan stroke scale(JSS)* 1 (9.1) 4(22.2) 0 (0.0) Modified Ashworth scale(MAS) 2(18.2) 0 (0.0) 3(12.5) Trunk control test(TCT) 1 (9.1) 3(16.7) 0 (0.0) 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) 0 (0.0) 2(11.1) 2 (8.3) 論文数(%).Fisherの正確確率検定,**:p<0.01,*:p<0.05.を対象とした論文数が少ないことがわかった.回復期リ ハ病棟の現状と課題に関する調査報告書2)によると, 回復期リハ病棟対象疾患は「脳血管系」47.6%,「整形 外科系」39.5%,「廃用症候群」11.4%である.この割 合と比較しても本邦理学療法研究における対象疾患は, 脳血管疾患の割合が非常に高い.今後は運動器疾患や廃 用症候群を対象とした回復期リハに関する研究報告数が 増加することが望まれる. また,今回抽出された評価指標は概ね,脳卒中ガイド ラインで推奨されている評価指標であるといえる.さら に,これら抽出された評価指標は理学療法評価(指標) の推奨グレード分類A~Bに該当することから,一定 の信頼性,妥当性を有すると判断される.本研究結果で は,Scheuringerら8)の調査報告と比較すると,ADL, 認知機能に関わる評価指標の使用頻度が多い点は類似し た傾向であり,BBS15)やTUG16)などの機能的制限17) に関わる評価指標の使用頻度が多い点は異なる傾向であ る.さらなる検討が必要であるが,機能的制限に関わる 評価指標の使用頻度が多いことは,本邦独自のシステム である回復期リハ病棟入退院患者を対象とした理学療法 研究の特徴と考えることができる.FAC18-20)と麻痺側 荷重率21-23)は脳卒中ガイドラインで推奨されていない 評価指標であるが,脳卒中患者を対象とした報告でその 信頼性,妥当性が検討されており,簡便に実施可能であ ることから,研究での使用のみならず臨床での使用可能 性も高い評価指標ではないかと考える. 次に尺度水準については,回復期リハ病棟入退院患者 を対象とした理学療法研究では順序尺度の評価指標が多 かった.よって,今井ら24)の報告同様,医療背景を回 復期に限定した場合であっても,脳血管疾患を対象とし た論文では順序尺度の評価指標が多いといえる.多くの 統計的手法は,データが間隔尺度上にあることを前提と しており,正しい分析結果を得るためには,分析対象の 数値が間隔尺度上にあることが望ましい25)とされてい る.このことは,回復期リハにおける効果検証のための 指標となり得る標準的な評価指標について考える場合, 順序尺度の評価指標を用いることが重要な意味を持つ可 能性もあるが,今後間隔尺度および比率尺度の評価指標 が必要となる可能性を示唆している. 研究デザインと評価指標使用頻度については,抽出さ れた評価指標と前向き研究,後ろ向き研究,横断研究の 3群間の関係において,FIM,BRS,BBS,TUG,麻痺 側荷重率,JSSで有意差を認めた.前向き研究は,まず 影響要因の有無や度合いに注目して対象者を2つ以上の 群に分けた後,将来にわたり追跡して疾病の有無および 重症度との関連をみる方法であり26),要因とアウトカ ムの両方を正確に測定できること,第3の因子(特に交 絡因子)を研究開始時に測定できること,要因に対して 複数のアウトカムを測定できること,などが長所として あげられる27).後ろ向き研究は,研究開始時点で疾病 の有無や重症度などで対象者を2つ以上に分け,過去に さかのぼって影響要因の有無や度合いを調べ,その関連 性をみる方法であり26),実施可能性が高いことや効率 的であることが長所としてあげられる27).横断研究は, 疾病の有無や重症度によって対象を2つ以上に群分け し,同時期の影響要因と考えられるものの有無および重 症度を調べて関連性を検討する方法であり26),比較的 短時間に少ない費用で実施できること,正確な測定が可 能であること,などが長所としてあげられる27).本研 究結果では,理学療法評価(指標)の推奨グレード分類 上,同程度の信頼性,妥当性を有すると考えられる評価 指標であっても,研究デザインの違いにより使用頻度が 異なる評価指標があることが確認された.このことは, 回復期リハにおける評価指標について研究論文から考え る場合,その研究デザインについても考慮することが必 要となる可能性を示唆している. 最後に,回復期リハ病棟退院後に安心でき,かつ安定 した地域生活が継続されることが,回復期リハ病棟のア ウトカム指標として求められる6)とすれば,参加28)や Quality of lifeに関する評価指標が重要となる可能性も あると考えられるが,今回の調査ではそのような評価指 標は抽出されなかった.また,理学療法士5ヵ条29)に 関する考え方の中では,運動機能の状態を客観的に評価 すること,機能変化が活動能力に適切に活かされている かを評価すること,などが回復期リハ病棟における理学 療法士固有の役割として示されている.回復期リハにお ける効果検証のための指標となり得る標準的な評価指標 を確立していくためには,このように様々な視点から評 価対象領域,項目を明らかにし,信頼性,妥当性および 反応性などの諸条件を満たす評価指標を用いた研究を実 施することが必要ではないかと考える. 「理学療法科学」と「理学療法学」を調査対象とし, 本邦における理学療法研究において回復期リハ病棟入退 院患者を主な対象とした原著論文で,どのような評価指 標が用いられているかについて調査を行った本研究に よって,今回抽出された評価指標は一定の信頼性,妥当 性を有すること,機能的制限に関わる評価指標の使用頻 度が多いこと,順序尺度の評価指標頻度が多いこと,研 究デザインの違いにより使用頻度が異なる評価指標があ ること,などがわかった.また,本研究の限界としては, 対象疾患に偏りがあることがあげられる.今後は回復期 リハに従事する理学療法士を対象とした評価指標の使用 動向に関する調査を実施するなど,研究のみならず臨床 の側面からも回復期リハにおける効果検証のための指標 となり得る標準的な評価指標について検討していき たい.
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