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財政赤字の経済分析:中長期的視点からの考察

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第5章 我が国における国債管理政策と物価水準の財政理

第1節 問題意識と目的 最近、我が国の国債発行をめぐってその満期構成が注目されて いる。これは、1998、1999 年度一般会計における国債の大量発 行に起因して、長期金利・国債金利が1998 年から 1999 年初にか けて急上昇したことを受けている。金利が上昇した国債の流通市 場では、指標銘柄と呼ばれるある特定の時期に起債された国債が 取引の大半を占め、そのうち(発行時に)10 年満期の利付国債が 大半を占めている。そもそも国債の起債計画で10 年満期の利付国 債の割合が高いために、それが市場形成や価格形成にも影響を与 えているとの見方がある。 こうした見方から、国債金利の上昇を抑制したいと考える政策 当局を中心に、最近になって(新発)国債の満期構成を再検討す る、いわば(広義の)国債管理政策のあり方を議論する動きが見 られた。実際に、1999 年度予算では 30 年債の発行が計画される など具体策が盛り込まれた。本章では、これまでの我が国におけ る国債管理政策について、物価水準の財政理論の議論を拠り所と して実証分析し、さらにそのあり方について考察することを目的 とする。 本章の構成は下記の通りである。2節では、国債管理政策に関 する先行研究を概観する。そして、国債管理政策を分析する意義 を明確にする。3節では、近年研究が盛んに行われている物価水 準の財政理論について、その理論とそこから得られる国債管理政 策に関連する含意に触れる。4節では、3節のモデルを踏まえて 実証可能な推定式を導き、我が国の一般物価水準の変動が物価水 準の財政理論が示唆する要因とどの程度整合的かを検討する。こ の分析から、我が国の一般物価水準の変動は、物価水準の財政理 論が示唆する動きと整合的であることが示される。5節では、4 節の実証結果を踏まえて、我が国の国債管理政策において、物価 水準の財政理論が示唆する要因がどのような効果をもたらしたか (ないしは、もたらすか)を検討する。最後に、6節で本章の結 論をまとめる。

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第2節 国債管理政策に関する議論 2.1 国債管理政策の定義と有効性 そもそも、国債管理政策とは何であるか。国債管理政策とは、 大蔵省によると、「できるかぎり財政の負担の軽減を図りながら、 国債が国民経済の各局面において無理なく受け入れられるよう、 国債の発行、消化、流通および償還の各方面にわたり行われる種々 の政策の総称」と定義している。先行研究では、国債管理政策の 現状を分析するべく、さらに細かく定義づけがなされている。 黒田(1982, 1996)では、「数量的国債管理政策」として「国債の 満期構成操作が、国債発行コストや有効需要水準に与える効果を 分析する政策論」と定義している。また、浜田(1997)では、「でき るかぎり財政の負担の軽減を図りながら、国債が国民経済の各局 面において無理なく受け入れられるよう、国債の発行、消化、流 通および償還の各方面にわたり行われる種々の政策の総称」とし て国債管理政策を定義している。我が国における国債管理政策の 実際については、中島(1977)、山田(1990)、宮島(1996)、浜田(1997) などで取り上げられている。 このように国債管理政策について定義がなされているのだが、 国債管理政策のあり方を考える前に、国債管理政策が有効である か否かを議論する必要がある。国債管理政策が実質的なマクロ変 数に対して有効でないことが自明である状況は、公債の中立命題 が成り立つ状況である。公債の中立命題が成り立っていれば、増 税と公債発行は無差別となり、どの時点で増税するか、あるいは どの時点で公債を発行したり償還したりするかは、何らマクロ経 済に影響を与えないことになる。 我が国における公債の中立命題に関する最近の研究として、本 間(1996)や Ihori, Doi, and Kondo (1999)がある。これらによれば、 我が国では公債の中立命題が完全には成立しないという実証結果 を得ている。この結果から、我が国において国債管理政策が無意 味であることが自明ではなく、その有効性を議論する意義がある ことが示唆される。 そこで、次に国債管理政策をめぐる先行研究を簡単に展望する こととする。

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2.2 国債利回りの期間構造に関する分析 国債管理政策が実際の政策運営として有効であるか否かは、国 債の流通市場での国債金利(利回り)の決まり方に依存している という見方がある。この見方からの先行研究は、国債利回りの期 間構造に関する分析である。 国債利回りの期間構造に関する仮説には、次のような仮説があ る。第一に、純粋期待仮説で、長期利子率が現在と将来おける短 期利子率の期待値の平均に等しくなる、とする仮説である。第二 に、市場分断仮説で、債券市場は残存期間別に分断されており、 特定の残存期間を持つ債券の利回りはそれらの需給で決まる、と する仮説である。第三に、流動性プレミアム仮説で、残存期間が 長いほどプレミアムは大きい、とする仮説である。 諸仮説と国債管理政策の関係を言及すれば、次のようになる。 純粋期待仮説が成り立つとき、国債管理政策は無効となる。また、 市場分断仮説や流動性プレミアム仮説が認められるとき、国債管 理政策は有効になる。これらの仮説について、我が国の国債市場 のデータを用いて実証分析を行った先行研究が、数多く存在する。 黒田(1982)では、純粋期待仮説が成立している。市場分断仮説 はほとんど妥当性を持たない、と結論付けた。鹿野(1984)では、 次のように結論付けた。純粋期待仮説は厳密な意味で成立してい ないが、国債利回りの決定要因として、期待要因の占める割合が かなり高い。ターム・プレミアム(超過保有期間利回り)が必ず しも一定であるとはいえない。白川(1987)では、ターム・プレミ アムは時間とともに変化すると結論付けた。釜江(1993)では、次 のように結論付けた。純粋期待仮説は厳密な意味で成立していな い。広義のプレミアムが認められる。国債利回りは、プレミアム の存在を考慮した純粋期待仮説「プレミアム仮説」によって説明 できる。竹田(1997)では、「プレミアム仮説」の下で可変的なター ム・プレミアムは、国債管理政策の影響で説明できる、と結論付 けた。釜江(1998)では、国債利回りに存在するプレミアムは、異 時点間CAPM から導かれるリスク・プレミアムによって説明でき る、と結論付けた。 以上をまとめると、次のようになる。我が国において、厳密な 意味では純粋期待仮説は成立していないから、国債の満期構成が

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金利などへの経済効果をもつという意味で国債管理政策は有効と いえる。ちなみに、アメリカにおいては、純粋期待仮説が実証分 析により棄却されているから、国債管理政策は有効と考えられて いる。 2.3 財政政策の時間的不整合性に関する議論 1980 年代におけるマクロ経済学で一つの重要な研究テーマと なった時間的不整合性(time inconsistency)の議論から、国債管理 政策に対していくつかの政策的含意が与えられた。Persson, Persson and Svensson (1987)をはじめ、Calvo and Guidotti (1990a, 1990b)や Barro (1995, 1997)等で議論されているのは、物 価連動債(indexed bond)の活用である。 これまでに先進諸国の財政当局は、名目タームで元利払の契約 を行う名目債(nominal bond)を主に発行して財源調達を行ってい た。しかし、名目債は債務者である政府にとって、インフレーシ ョンが起こると実質債務価値が目減りして負担軽減となるため、 政策当局に事後的にインフレーションを引き起こすインセンティ ブが生じる。このことが、名目債にかかる時間的不整合性である。 このインフレーションを引き起こすインセンティブがマクロ経済 に対して資源配分上歪みをもたらすため、望ましくないとされた。 これに対して、そのインセンティブを断つことができる公債とし て物価連動債のアイディアが利用された。物価連動債は、実質債 とも呼ばれ、元利を物価に連動させ、実質タームで元利払の契約 を行うため、債務者・債権者ともにその実質価値がインフレーシ ョンから中立である。したがって、債務負担軽減という目的のた めに政策当局がインフレーションを起こすインセンティブが抑制 できる。 このような議論が、この文脈の研究で行われた。これらは、国 債管理政策の観点から言えば、名目債と物価連動債の構成を議論 したものであるといえる。 2.4 国債管理政策に関する新しい議論 国債管理政策をインフレーションの動向により直接的に関連付 けた理論が、近年盛んに議論され始めている。これは、Leeper

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(1991)、Sims (1994, 1997)、Woodford (1994, 1995, 1996, 1997)、 Dupor (1997)、Cochrane (1998a, 1998b)らによる物価水準の財政 理論(the fiscal theory of the price level)と呼ばれる一連の文脈で ある。この理論によれば、マクロ経済における一般物価水準は、 政府の財政政策によって現時点での名目公債残高と将来の実質財 政余剰の流列(その割引現在価値)が選択されたならば、一般物 価水準は政府の通時的な予算制約式 名目公債残高 一般物価水準 =将来の実質財政余剰の割引現在価値 を満たすように決定する、というものである。これは、一般物価 水準の決定には貨幣的な要因が重要な影響を持つとする、貨幣数 量説など従来の物価水準の決定理論と大きく異なる点である。 一般物価水準の財政理論を検討する意義として、Cochrane (1998a)では、通信網の整備などによる信用取引の増大、すなわち 通貨を用いない経済における一般物価水準の決定を分析すること ができる点や、通貨を入れたマクロ理論が実証的には現実をうま く説明できていない点などを指摘している。 この理論の中で、特に本章の関心と関連するのは、公債の満期 構成はインフレーションと相関があることを、明らかにしたこと である。すなわち、満期構成に関する国債管理政策が、一般物価 水準に影響を与える可能性を示唆している。物価水準の財政理論 は、満期構成に関する国債管理政策とマクロ経済との関連を包括 的な理論で分析した点で、これまでの国債管理政策の議論と異な る新しい重要な観点を提示したといえる。以下では、物価水準の 財政理論に基づいて、我が国における国債管理政策とインフレー ションの関係、さらには我が国の国債管理政策のあり方について 議論を進める。

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第3節 物価水準の財政理論と国債管理政策 この節では、物価水準の財政理論に従ってマクロ経済における 一般物価水準が決定されているならば、国債管理政策がどのよう な影響をもたらすかについて、Cochrane (1998a, 1998b)などの議 論を踏まえて検討する。物価水準の財政理論のミクロ経済学的基 礎付けや一般均衡体系の中で一般物価水準が政府の予算制約式を 満たすように決定されるメカニズムは、Woodford (1995)などで提 示されているが、この節ではここでの分析に必要な政府の予算制 約式を中心にこの理論を展開する。政策に関係する変数以外のマ クロ経済の変数との関連は、次節で述べる。 まず、t期における政府の予算制約式が Bt–1(t) –

j=1Qt(t+j)[Bt(t+j) – Bt–1(t+j)] = ptst (1) のように一般的な形で表されるものとする。1 ここで、B t–1(t+j) はt+j期に満期を迎える公債のt−1期末における名目残高で、 Qt(t+j)はt+j期に満期を迎える公債(新発割引債)のt期にお ける価格で、st はt期における基礎的財政収支余剰(primary surplus)であり、pt はt期における一般物価水準である。このモ デルでは、政府はこれらの価格に対してプライス・テイカーであ る。2 ちなみに、自明なことだが、Q t(t) = 1、Bt(t–j) = 0 j≥0 であ る。(1)式の左辺の第1項は、t期において満期を迎える公債に対 する名目償還費であり、第2項はt期において新たに発行した公 債から得られる名目収入額であり、これらが右辺の名目基礎的財 政収支と等しくなる。3 この式は、本章の目的に即して、様々な 満期の国債を発行し収入を得ている実際の財政運営を、敢えて複 雑な式を用いてより直接的に表現している。 公債の期待実質(粗)収益率は通時的に一定(r)であると仮定す 1 この節以降の議論では、我が国の現状と同様、政府は名目債のみを発行し ていると仮定する。物価水準の財政理論に関する既存の文献でも、これを採 用している。 2 ここでは陽表的には扱わないが、財政支出や租税はマクロ経済の資源配分 に対して歪みを与えないと仮定している。 3 厳密には、繰上償還を行った場合には、第2項は繰上償還のための費用を 差し引いた純発行(=新規発行−繰上償還)ベースでの収入金である。

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ると、前述の公債価格は、 Qt(t+j) = β j Et[ pt pt+j ] (2) ただし、β 1/r と表される。(2)式を用いて(1)式を通時的に足し合わせると、政府 の通時的な予算制約式から、t期の一般物価水準は、 pt = Bt–1(t) Et[

j=0β j

W

t j, st+j] (3) ただし、Wt,j

k=0 j–1 Bt+k(t+k+j) – Bt+k–1(t+k+j) Bt+k+j–1(t+k+j)

W

t k, , Wt,1Bt(t+1) – Bt–1(t+1) Bt(t+1) , Wt,0≡ 1 と表される。この式は、(1)式と(2)式のみを用いて導かれている。 その含意は、一般物価水準は、t−1期末の名目公債残高とt期 における将来の実質財政余剰の割引現在価値との比に等しくなる ように決定される、ということである。財政当局は、通常、t− 1期末の名目公債残高を所与として、将来にわたる基礎的財政収 支の流列{st+k–1} k1 と公債の満期構成(国債管理政策){Bt+k–1(t+l)} k1, l k を決める権限を有しており、これらに関する財政政策を 決めれば、一般物価水準は(3)式を満たすように決定する。その意 味では、(3)式は「予算制約式」というよりかは、一般物価水準決 定式であるといえる。 この式から導かれる含意は、公債の満期構成(国債管理政策) {Bt+k–1(t+l)} k1, l k がt期の一般物価水準に影響を与えるという ことである。なぜならば、(3)式の分母に、各種満期の名目公債残 高が含まれているからである。これをより直観的に説明すれば、 名目公債残高が増加すると、財政(政府の予算制約式)を考慮し て実質タームで財政が破綻しないように、実質公債残高(=名目 公債残高÷一般物価水準)を将来の実質財政余剰の割引現在価値 と等しくするべく一般物価水準が上昇する、ということである。

(8)

国債管理政策と物価水準に関する詳細な比較静学は、5節で行う。 また、(3)式は政府の予算制約式のみから導出されており、この節 では(3)式とマクロ経済全体との関係は明示していないが、この関 係については4節で詳述する。 ちなみに、(3)式はやや複雑であるから、Cochrane (1998a, 1998b)でも例示されているように、1期満期の公債のみが発行さ れているとすると、t期における政府の予算制約式は Bt–1(t) – Qt(t+1)Bt(t+1) = ptst のように表される。このとき、(3)式は Bt–1(t) pt = Et

j=0β j st+j (3') と、より簡単に表される。この簡単な場合でも、一般物価水準 pt は、t−1期末の名目公債残高とt期における将来の実質財政余 剰の割引現在価値との比に等しくなるように決定されることとな る。 ここで、以下の節で用いるため、(1)式についての別の表現を示 しておく。いま、t期からt+1期にかけての公債の事後的な実 質(粗)収益率を rt+1pt pt+1

j=1Qt+1(t+j)Bt(t+j)

j=1Qt(t+j)Bt(t+j) と定義する。また、t期首における公債の実質残高を vt

j=0Qt(t+j)Bt–1(t+j) pt と定義する。このとき、(1)式は、 vt = vt+1 rt+1 + st (4) と表される。あるいは、同値であるが、

(9)

vt ct = 1 rt+1 ct+1 ct

st+1 ct+1 + vt+1 ct+1 (4') とも表される。ただし、ctはt期における民間消費である。

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第4節 我が国における物価水準の財政理論 4.1 理論的背景 物価水準の財政理論に基づいて我が国の国債管理政策を分析す る前に、そもそも我が国において、物価水準の財政理論が示唆す る要因は実際の物価水準の動きと整合的か否かを検討する必要が ある。ここでは、Leeper(1991)、Woodford (1998)のモデルを用い て、物価水準の財政理論が示唆する要因を、我が国の時系列デー タを用いて考察する。 Leeper (1991)では、前述のように政府の予算制約式に基づいて 一般物価水準が決まる状況を、標準的な通貨の入ったマクロモデ ルで、次のように規定している。まず、無限期間生きる家計は、 毎期(私的財)消費と(実質)通貨(mt)を保有することによって効

用を得るとする。いわゆるmoney in the utility function モデル である。その効用関数は、 E0

t=0δ t [ln(ct) + ln(mt)] 0 < β < 1 (5) と表せるとする。ただし、mt Mt/ pt、Mtはt期末の名目通貨残 高とする。家計は、毎期(外生的に与えられる)所得を得て、前 期末に保有していた実質通貨残高と実質公債残高、そしてその公 債に付された利子所得を得て、今期の消費と租税負担(一括固定 税)を支払い、貯蓄として通貨と公債を保有する。通貨は保有し ても利子はつかないとする。この家計の予算制約式は、 ct +Mpt t + Bt pt + τt = yt + Mt–1 pt + rt–1 Bt–1 pt (6) と表せる。家計はプライス・テイカーとし、租税負担を所与とし て、(6)式の制約の下で(5)式を最大化するように、各期の消費、保 有する実質通貨残高と実質公債残高を決める。 政府は、前節までの政府の予算制約式と基本的に同じだが、こ こでは簡単化のため、公債は1期満期のものしか発行しないとす る。このとき、政府の予算制約式は、

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(7) と表される。gtは実質政府支出で外生的に決まるとする。政府は、 一括固定税収と公債発行収入と、インフレ税(通貨発行益)によ って財源を調達し、政府支出と公債の元本償還と利払いに充てる。 ただし、このとき政府は、公債残高と通貨残高について通時的に は横断性条件を満たすものとする。 そこで、政府(財政当局と通貨当局)は、財政政策と金融政策 を経済状況に反応して次のように決めていると考える。まず、財 政政策については、 τt = η0 + ηbt–1+ ξt (8) ξt = ρ1ξt–1 + e1t |ρ1|≤ 1, e1t ~ N(0,σ12) と反応する(η0, η, ρ1は定数)と仮定する。ただし、bt Bt/ ptと する。この財政政策のルールは、ηが正ならば、前期末の公債残高 が増えれば今期の一括固定税を増やす政策をとり、ηが負ならば、 前期末の公債残高が増えれば今期の一括固定税を減らす政策をと ることを意味する。ただし、財政政策に与える確率的なショック が存在し、これはある程度の系列相関があると仮定している。 また、金融政策については、 rt = φ0 + φπt+ µt (9) µt = ρ2µt–1 + e2t |ρ2|≤ 1, e2t ~ N(0,σ22) と反応する(φ0, φ, ρ2は定数)と仮定する。この金融政策のルール は、φが正ならば、今期のインフレ率が上昇すれば今期の実質利子 率を上昇させる政策をとり、φが負ならば、今期のインフレ率が上 昇すれば今期の実質利子率を低下させる政策をとることを意味す る。ただし、金融政策に与える確率的なショックが存在し、これ は あ る 程 度 の 系 列 相 関 が あ る と 仮 定 し て い る 。 こ こ で 、 E[e1te2t–j]=0 j、E[e2te1t–j]=0 j と仮定する。 ここで、財政当局と金融当局の政策スタンスについて、Leeper Mt pt + Bt pt + τt = gt + Mt–1 pt + rt–1 Bt–1 pt

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(1991)は次のように定義した。他当局の政策運営とは独立に自ら の政策を決め、その政策は自らがこれまでとってきた政策の推移 のみに依存する政策スタンスを、‘active’と定義した。これに対し て、自らがこれまでとってきた政策の推移だけでなく、他当局が 今期とって政策にも依存する政策スタンスを、‘passive’と定義し た。例えば、財政当局はこれまでの公債発行や租税政策のみを考 慮し、今期の金融政策とは独立に財政政策を決め、金融当局はこ れまでの金融政策や今期の財政政策を考慮して政策を決める場合、 ‘active’な財政政策と‘passive’な金融政策という。この定義と上記 のモデルとの対応関係は、後述する。 次に、財市場の均衡条件として、yt = ct + gtが成り立つ。ここ で注意したいのは、財市場での価格が一般物価水準 pt であるが、 財市場ではptの水準にかかわらず需給量が均衡していれば、ptは 財市場では不決定となり、他の条件によって決まることである。 特に、ここでの仮定では ytgtが外生的に決まるから、ctpt の水準にかかわらず財市場の均衡が成り立つように決まっている。 そこで、家計の効用最大化行動の1階条件より、 mt = rrt t– 1ct (10-1) rt = 1δEtt+1] ただし、πt+1 pt+1/ pt (10-2) が成り立つ。 この状況下で、マクロ経済における定常状態での一般物価水準、 ひいてはインフレ率がどのように決まるかを検討する。定常状態 でのインフレ率と実質公債残高をそれぞれπb とし、t期におけ るその水準からの乖離をそれぞれ

π

~

t πt – π、

b

~

t bt –b と表すも のとする。このとき、(6)∼(10)式より、 Et[

π

~

t+1] = φδ

π

~

t+δµt (11-1)

~

b

t– (δ–1η)

b

~

t−1 + z1

π

~

t+ z2

π

~

t−1+ ξt +z3µt + z4µt–1 = 0 (11-2) ただし、ziは定数 が成り立つ。この両式は、それぞれ、インフレ率(の定常状態か

(13)

らの乖離)と実質公債残高(の定常状態からの乖離)についての 遷移式を意味している。 Leeper (1991)によると、この(11)式で、|φδ|>1 かつ|δ–1–η|<1 のとき、金融政策はactive で、財政政策は passive であるとして いる。また、|φδ|<1 かつ|δ–1η|>1 のとき、金融政策は passive で、財政政策はactive であるとしている。4 その理由は、(11)式において、金融当局の選択によって|φδ|>1 となることは、インフレ率は自律的な遷移によって通時的に発散 する経路をたどることを意味する。このとき、財政当局がこの自 律的に発散してゆくインフレ率を発散させないようにするには、 この金融政策のスタンスに対応して財政政策を決めなければなら ないことになる。したがって、前述の定義より、|φδ|>1 かつ |δ–1η|<1 のとき、金融政策は active で、財政政策は passive と なる(こうした状況を”non-Ricardian regime”と呼んでいる)。こ のとき、財政政策は通貨残高、ひいては通貨発行益がいかなる水 準であっても政府の予算制約式を成り立たせるように決まるから、 非リカード的な状況であるといえる。このような状況はマネタリ ストが想定した状況でもある。 同様に、財政当局の選択によって|δ–1η|>1 となることは、実 質公債残高は自律的な遷移によって通時的に発散する経路をたど ることを意味する。このとき、金融当局がこの自律的に発散して ゆく実質公債残高を発散させないようにするには、この財政政策 のスタンスに対応して金融政策を決めなければならないことにな る。したがって、前述の定義より、|φδ|<1 かつ|δ–1η|>1 のとき、 金融政策はpassive で、財政政策は active となる(こうした状況 を”Ricardian regime”と呼んでいる)。このとき、物価水準は財政 政策、すなわち政府の予算制約式に基づいて決定されることとな る。 4.2 理論の検証 この節での実証分析は、我が国において上記の意味での政策ス 4 |φδ|>1 かつ|δ–1η|>1 のとき、あるいは|φδ|<1 かつ|δ–1η|<1 のときは、 このモデルでは安定的な均衡が存在しないため、Leeper (1991)でも分析の対 象外としている。

(14)

タンスが、財政政策と金融政策でいかなるものであったかを分析 する。ただし、このことが必ずしも物価水準の財政理論自体の妥 当性を直接的に検定する分析ではない。5 Cochrane (1998a)や Woodford (1998)でも述べられているが、物価水準の財政理論の妥 当性を直接検定する方法は、現段階において存在しない。なぜな らば、例えば(3')式において政府が名目公債残高でなく、実質公債 残高と将来にわたる実質基礎的財政収支の流列を決める政策スタ ンスをとったならば、(3')式は一般物価水準を決める上で何の役割 も果たしていないことになる。 ここで気をつけたいのは、この節での議論は、我が国のインフ レ率の動向を物価水準の財政理論だけで高い精度で説明できるか 否かではなく、インフレ率の動向を説明する一要因としてこの理 論が示唆する要因が、実際にどのような影響を与えていたかとい うことである。我が国のインフレ率の動きは、高度成長期に毎年 度のように 5%程度の物価上昇が続き、石油ショック時には 20% もの「狂乱物価」を引き起こした。その後、1980 年代に入ってか らインフレ率は低下し、安定化した。さらに近年では、デフレー ションが起こっている。これとともに、我が国の公債政策の動き は、1964 年度までは均衡財政主義を貫き、1965 年度以降公債を 発行する財政運営となった。1970 年代後半は、赤字国債の発行も 相俟って国債が大量に発行されたため、1980 年代には財政再建 (財政赤字削減)が行われた。しかし、近年では巨額の公債残高 が累増し続いている。前述の理論が、これらの動きとどのように 関係しているかについて客観的に分析する。 Leeper (1991)を踏まえて、Woodford (1998)は実証分析が可能 なモデルを構築している。Woodford (1998)は、政府の予算制約式 とともにマクロ経済や金融政策ルールの関係式をも含むモデルを 提示した。そのモデルは以下の(12)∼(16)式の通りである。

~

r

t = ρ(vct+sct) +dct – vct-1 (12) ただし、vct ln(vt/ct) – vc、vc は定常状態における ln(vt/ct)、 5 ここで、物価水準の財政理論の妥当性を直接検定する方法が存在しないと いうのは、分析対象の経済が”Ricardian regime”であるか”non-Ricardian regime”であるかを正確に検定できる方法がないという意味でもある。

(15)

sct st/ct – sc、sc は定常状態における st/ct、6 dct ln(ct+1/ct) – ∆c、∆c は定常状態における ln(ct+1/ct)、

~

r

t ln(rt) – r、r は定常状態における ln(rt)、 ρは消費の異時点間限界代替率 ((1/rt+1)ct+1/ctの定常状態水準) xt = Axt–1 + εt (13) ただし、x’t≡ (vct, sct, dct)、A は 3×3 の定数係数行列 εtは誤差項ベクトル Rt = φpπt + α ’xt (14) ただし、πtはインフレ率、α ’は定数係数ベクトル Rtは金融当局が操作目標としている短期利子率 (コールレート) Et

r

~

t+1=Rt – Etπt+1 (15)

~

r

t =ωqt – qt–1 – πt (16) ただし、qt ln(Qt/Q)、Q は定常状態における Qtω ≡ θ / rπ、πは定常状態におけるπt θ は満期構成のパラメータ:Bt(t+j) = θ j–1Bt(t+1), j ≥1 これらの関係式には、Woodford (1998)によると、次のような経 済学的含意がある。(12)式は、政府の予算制約式(4)について定常 状態の周りで対数をとって線形近似したものである。ここで、民 間消費でデフレートしているのは、民間消費が恒常所得仮説に従 っているならば、民間消費は恒常所得の代理変数と見なすことが できるからである。財政変数( vtや st)は、これらに含まれる経済 規模や経済成長の影響を除去したいのだが、GDP などでは景気変 動の影響を直接受けやすいため、恒常所得の代理変数である民間 消費をその除去に用いている。 (13)式は、財政政策とマクロ経済との関係を記述した関係式 (VAR モデル)である。ラグの長さは予め1であると仮定してい る。この関係式のうち、実質公債残高を左辺に置いている式は、 財政当局の政策反応関数を意味し、前述のLeeper (1991)のモデル の(8)式に対応している。 6 sctについて対数を取らなかったのは、sctが負の値を取り得るからである。

(16)

(14)式は、金融政策ルールを記述した関係式である。この関係 式は、前述の Leeper (1991)のモデルの(9)式に対応している。こ れは、金融政策ルールをTaylor (1993)流に表現した Rt = R* + φpt – π*) + φyyt ただし、*印は政策当局の目標水準、ytは実質GDP の 対数値 に基づいたものである。 (15)式は長短金利の均衡式である。 (16)式は、満期構造と公債価格、公債の収益率に関する関係式 である。いま、公債の満期構成が(計算の便宜上)全ての期で Bt(t+j) = θ j–1Bt(t+1), j ≥1 と、θ(通時的に一定)によって表現できると仮 定する。ただし、0≤ θ < rπとする。したがって、ω <1 となる。こ のとき、公債の(粗)収益率は、 rt≡ 1+ θQt Qt–1 pt–1 pt と表現でき、これを対数線形化したのが、(16)式である。 まず、(12)∼(15)式より、 Etπt+1 = φpπt + (α ’ – λ0’A – λ1’)xt (17) ただし、λ0’≡ (ρ, ρ, 1)、λ1’≡ (–1, 0, 0) を得る。そして、(13)∼(17)式から、 πt = φpπt–1 + (α ’– λ0’A– λ1’)xt + f’εt (18) ただし、f’≡ [φpω (λ0’+ω λ1’) –ω α’](I –ωA) –1 – λ0’、|φp| < 1 と表現できる。この(18)式で表現されるインフレ率の遷移式が、 Woodford (1998)のモデルにおける、物価水準の財政理論を表現し たものである。以下では、(18)式で我が国のインフレ率がどの程 度説明できるかを実証分析する。

(17)

4.3 データの構築 (18)式を推定するに当たり、(18)式から直接的に係数行列・ベク トルを推定して識別することはできないので、個別の関係式にさ かのぼって係数行列・ベクトルを識別できるように推定する必要 がある。したがって、次のような手順で(18)式に基づくインフレ 率の理論値を求める。 イ)(13)式を推定し、係数行列 A と各t期の残差ベクトルεtを 求める。 ロ)(17)式を推定し、係数φpと係数ベクトル(α’– λ0’A– λ1’)を求 める。これにより、係数ベクトルα ’が求められる。 ハ)上記の作業により得られた係数行列・ベクトル等を(18)式 に代入して、各期の(18)式に基づくインフレ率の理論値を求 める。 この推定で用いる変数は、次のようにデータを構築した。まず、 標本期間は 1955∼1997 年度とする。インフレ率は、一般物価水 準を反映しているGDP デフレータ上昇率(『国民経済計算年報』 ベース)を用いた。民間消費も『国民経済計算年報』ベースとし て、民間最終消費支出を用いた。dctはその前年比を取り、この定 常状態の値として標本期間中の平均をとった。7 財政変数のvct, sct,については、政府債務の定義と我が国の国債 が主として利付債で発行されている点で、注意を要する。まず、 本章の分析対象は、国の一般会計を中心とする。ただし、本章の 分析対象とする財政の範囲は、国の一般会計、国債整理基金特別 会計の一般会計の債務にかかる部分、通貨当局勘定の通貨鋳造益 にかかる部分とを統合したものとした。その理由について、国債 整理基金特別会計の一般会計の債務にかかる部分を含めたのは、 土居(1999)でも扱われているように、一般会計で発行された国債 が満期を迎えても現金償還せず借り換える場合、国債整理基金特 別会計で処理をするため、これを一般会計と一体として純計(重 複分を除いて合計)する必要がある。また、通貨当局勘定の通貨 鋳造益にかかる部分を含めたのは、一般会計歳入として日本銀行 納付金が毎年度収められているとともに、通貨当局勘定の負債に 7 これは、Cochrane (1998a)と同じ方法である。

(18)

あるマネタリー・ベースも広義の政府債務と捉えることができる からである。理論的にはマネタリー・ベースの増加分を通貨鋳造 益と見なしている。 さらに、国と地方の財政関係を考慮すれば、土居・中里(1998) で指摘しているように、地方財政の債務は地域間所得再分配の観 点でも一般会計と関連が深いから、これを範囲に含めるという考 え方もある。しかし、本章の分析はあくまでも国債管理政策、及 びそのマクロ経済への資源配分機能や経済安定化機能についてで あり、所得再分配機能については対象外であるから、地方財政の 債務は範囲に含めない。これに伴い、一般会計における地方交付 税交付金の部分は範囲から除外する必要がある。ただ、後述の予 算制約式を構築する際には、除外してもしなくても、結果は同じ になる。 以上を予算制約式として記述すれば、 ・一般会計(地方交付税交付金を除く) 税収等8+日本銀行納付金+(新規発行)公債金 =一般歳出9+国債費 ・国債整理基金特別会計(一般会計関連分) 国債費(一般会計からの繰入)+(借換発行)公債金10 =国債利子+現金償還+借換償還 +その他利払・償還・事務費11 ・通貨当局勘定(マネタリー・サーベイ、一般会計関連分) マネタリー・ベース増加分=通貨鋳造益 =日本銀行納付金+その他 となる。これらを純計すると、 税収等−一般歳出−国債管理事務費−その他 =国債利子+現金償還+借換償還−(新規+借換発行)公債金 8 ここでの税収等は、一般会計歳出(入)総額−地方交付税交付金−日本銀 行納付金−公債金としている。 9 これは、厳密には、一般会計歳出総額−地方交付税交付金−国債費である。 10 ここには、発行・償還が年度を越える割引短期国債の収入を含む。 11 ここでは、これを国債管理事務費と呼ぶこととする。この中には、年度内 に発行・償還する割引短期国債の割引料等も含める。

(19)

−通貨鋳造益 =国債利子+満期償還+繰上償還12−(新規+借換発行)公債金 −通貨鋳造益 =国債利子+満期償還−公債純発行収入13−通貨鋳造益 となる。ここで、左辺の(税収等−一般歳出−国債管理事務費− その他)は基礎的財政収支 stに相当する。右辺の「国債」の範囲 は、1965 年度以降一般会計で発行されている普通国債(とその借 り換えた国債)とマネタリー・ベースとなる。データの出典は、 一般会計と国債整理基金特別会計に関しては『一般会計決算』、『国 債統計年報』、通貨当局勘定は『経済統計年報(月報)』である。14 公債残高に関しては、我が国の国債が主として利付債で発行さ れているため、利子(クーポン)支払のない割引債で表現されて いる(1)や(4)式を何ら修正せずに用いると、モデルとデータの間の 整合性が失われる。そこで、政府の予算制約式について、次のよ うな修正を施して整合性を維持した。 我が国においては、利付債と割引債がともに発行されている。 そこで、割引債をクーポンレート0の利付債とみなす。t期にお いて、t−1期末に存在したt+j期に満期を迎える公債のクー ポンレート(同一残存満期ごとの加重平均)をγt-1(t+j)、t+j期 に満期を迎える公債の純発行ベースの公債価格(厳密な定義は後 述)を Ft(t+j)、t−1期末のマネタリー・ベースの残高を Mt-1と する。このとき、t期における政府の予算制約式は、 12当該年度で償還したものは、現金で償還したか、借換債で財源をまかなっ て償還したかのいずれかである。同じ額の償還額について、別の分類をすれ ば、満期が到来して償還したか、満期前に繰上償還したかのいずれかである。 この式は、前者の分類を後者の分類に再構成して表現したものである。 13 公債純発行収入=(新規+借換発行)公債金−繰上償還 である。 14 マネタリー・ベースは、マネタリーサーベイの通貨当局勘定にある負債の 現金・預け金の残高を用いた。このデータは年度ベースでは 1955 年度末か らあり、1954 年度末のデータは、1955 年度末残高÷1955 年末残高×1954 年末残高によって求めた。

(20)

Bt–1(t) +

j=1γt–1(t+j)Bt–1(t+j) –

j=1Ft(t+j)[Bt(t+j) – Bt–1(t+j)] – (Mt – Mt–1) = ptst と表される。前述の純計予算制約式との対応で言えば、左辺第1 項が「満期償還」で、第2項が「国債利子」で、第3項が「公債 純発行収入」で、第4項が「通貨鋳造益」である。このうち、第 3項を除いては、全て公表されている統計から額を確定すること ができるが、Ft(t+j)だけは陽表的にデータが存在しない。そのため、 上記の予算制約式と整合的になるように、 Ft(t+j)= t期におけるt+j期に満期を迎える公債純発行収入 t期におけるt+j期に満期を迎える公債純発行額 と定義できる。15 これが、純発行ベースの公債価格である。F t(t+j) を求めるためには、t期において残存満期ごとに「繰上償還」を 算定しなければならない。本章では、残存満期ごとの繰上償還額 を、定義により、新規発行額+借換発行額−純発行額として求め た。ちなみに、純発行額は、今年度末現在額−前年度末現在額で ある。これらのデータは、『国債統計年報』に拠った。 ここで、利付債で表現したt期における政府の予算制約式にお いて、t期首における(広義の)公債の実質残高を vt

j=0Bt–1(t+j)[Ft(t+j)+γt–1(t+j)] + Mt–1 pt と定義し直す。また、t期からt+1期にかけての(広義の)公 債の事後的な実質収益率を rt+1pt pt+1

j=1Bt(t+j)[Ft+1(t+j)+γt(t+j)] + Mt

j=0Bt(t+j)Ft(t+j) + Mt 15 ここで「発行額」とは額面ベースのことであり、「収入」とは収入金ベー スのことである。

(21)

と定義し直す。このとき、利付債で表現したt期における政府の 予算制約式は、データと整合的に(4)式のように記述できる。 ここで注意したいのは、上記モデルにおけるマネタリー・ベー スの役割である。前述の通り、本章ではマネタリー・ベースも政 府債務の一部と見なしている。特に、本章で関心がある満期構成 の観点から言えば、マネタリー・ベースは(年度を越える段階で) 残存満期 1 年の国債と同じ役割を果たしている。16 ただし、残存 満期 1 年の利付国債と異なるところは、(市場)価格が常に 1 で、 クーポンレートがゼロである点である。 こうして得られた vtと stと rtのデータから、vct, sct

~

r

t を算定 した。その際、定常状態における値として、vt/ctと rtは標本期間 中の平均をとった。しかし、st/ctの標本期間中の平均は負の値であ った。これをそのまま採用すると、定常状態において基礎的財政 収 支 が 赤 字 で あ る こ と を 意 味 す る た め 不 適 当 で あ る か ら 、 Cochrane (1998a)と同様に sc = 0.004 とした。 モデル(13)∼(17)におけるパラメータとして、ρは、定常状態に おける値として(1/rt+1)ct+1/ctの標本期間中の平均をとろうとしたが、 1 を超えて理論的に矛盾するため、Cochrane (1998a)と同様にρ = 0.99 とした。また、定常状態における値としてπは標本期間中の 平均とし、θも j→を近似的に1 ≤ j ≤ 100 として標本期間中の平 均0.060 をとってωを求めたところ、1 を超えて理論的に矛盾する ため、ωが 1 を超えないようにθ = 0.04 とし、ω = 0.915 とした。 ちなみに、残存満期構成を見ることとする。国債だけをとって、 その残存満期構成を見たものが、図1である。これによると、1970 年代後半は残存満期が6∼10 年の国債でほとんどが占められてい るのに対し、1980 年代後半以降は残存満期が5年以下の国債が約 45%、残存満期が 6 年以上の国債が約 55%という割合で安定的に 推移している。これにマネタリー・ベースを加えて構成比を示し たのが、図2である。図2には示していないが、1964 年度以前は マネタリー・ベースが 100%を占めている。図2によると、1970 16 厳密に言えば、即日流動化できるから残存満期0の国債である。しかし、 先行研究や本章のモデルは1年を1期間とする離散時間モデルであるため、 このような記述となる。

(22)

年代以降マネタリー・ベースの構成比は低下傾向にあり、1980 年 代後半以降はその比率が約20%で推移している。残りが国債で占 められている。この図においても、1980 年代後半以降の構成比は 安定的に推移している。以上のように、近年の我が国における残 存満期構成は、年度によってあまり変わらないものとなっている。

(23)

4.4 推定結果 構築したデータを用いて4.3節のイ)∼ハ)の手順で、物価 水準の財政理論の整合性を検討する。まずイ)として、3変数VAR モデル(13)式を推定した結果が、表1に示されている。これによ ると、一部に有意でない係数の推定値も見られるが、各回帰式に おいて全ての係数の推定値がゼロであるという帰無仮説に関する p値が1%未満であり、強くこの帰無仮説を棄却できる。したが って、表1の推定値をそのまま採用する。 次にロ)として、(17)式を推定する。推定結果は、表1の右側 の通りである。これも同様に、一部に有意でない係数の推定値も 見られるが、全ての係数の推定値がゼロであるという帰無仮説に 関するp値が1%未満であり、強くこの帰無仮説を棄却できる。 したがって、表1の推定値をそのまま採用する。ここで、表1に おける推定結果を4.1節で述べたLeeper (1991)のモデルと整合 的に検討したい。まず、被説明変数πtに対する説明変数πt−1 の係 数であるφpは、金融政策が active か passive を示す係数である。 表1 によると、φpの推定値が0.533 と有意に 1 より小さいので金 融政策がpassive であるといえる。次に、被説明変数 sctに対する 説明変数vct-1の係数は、財政政策がactive か passive を示す係数 である。表1 によると、この係数の推定値は有意ではない。この ことは、前期の政府債務残高に応じて税収を増やすという程度が 低い、つまり財政政策はactive であることを意味する。以上から、 この標本期間において、Leeper (1991)のモデルによれば物価水準 は財政政策、すなわち政府の予算制約式に基づいてけったいされ ていたと解釈できる。 そこで、ハ)としてこれまでに得たパラメータの値と(13)式の 残差を(18)式に代入して、インフレ率を推定した。この理論値と 実績値をプロットしたものが、図3である。これによると、各年 度において多少の誤差は生じているが、我が国のインフレ率の時 系列的な趨勢は、うまく捉えられている。特に、1970 年代前半ま での高いインフレ率と 1980 年代以降の低いインフレ率は、理論 値においても同様である。理論値の当てはまりについては、客観 的な指標として、最小二乗誤差率を用いる。インフレ率の理論値 を用いて一般物価水準(GDP デフレータ)の理論値(予測値)を

(24)

求め、これと実際の GDP デフレータとの差を予測誤差として、 最小二乗誤差率を求めたところ 3.12%と 5%を下回る良好な結果 を示した。 この残差(=実績値−理論値)は、物価に対するショックや(12) 式で表されるもの以外のマクロショックなどを表している。理論 値と実績値が顕著に乖離している年度のうち、1973、1974 年度 は第1次石油ショック、1980 年度は第2次石油ショック、1989、 1990 年度は消費税導入に伴う便乗値上げという、物価に対するシ ョックが大きいものと考えられる。 (18)式によるインフレ率の理論値の動きは、実績値と近似して いるからといって、それが即座に物価水準の財政理論で実際のイ ンフレ率の動きをほぼ説明できる(他の要因は無視できる)こと を意味するものではない。しかし、前述のように過去のインフレ 率が理論値の動きに与える影響は限定的であり、図3のように理 論値が実績値の動きをある程度捉えられているから 、Woodford (1998)のモデルとして表現された物価水準の財政理論が、我が国 のインフレ率(一般物価水準)の動向を説明する要因として、無 視できないものであるといえる。その意味において、我が国にお いて国債管理政策が一般物価水準に与える影響を、物価水準の財 政理論に従って検討することは意味のあることと言って良い。よ り具体的には、1970 年代前半まで高く 1980 年代以降低くなった 実際のインフレ率をなぜ理論値が捕捉できたのか、別の言葉で言 えば、物価水準の財政理論におけるどのようなルートを通じた効 果が我が国のインフレ率の趨勢に影響を与えたかについて、次の 節で検討する。

(25)

第5節 国債管理政策の効果 5.1 国債管理政策に関する比較静学 この節では、より具体的に、国債管理政策が一般物価水準に与 えた影響をあぶりだすことにしたい。このことを通じて、国債管 理政策に対する政策的含意を提示し、そのあり方について検討す る。 Cochrane (1998b)によると、政府の予算制約式(1)の下で、4節 で記述した公債の満期構成よりも一般的な記述として、公債の満 期構成が Bt–1(t+j) = θjB, j ≥0 ただし、B は定常状態における全満期合計の公債残高、 θjは任意の正の定数 と表されるとする。仮定(2)が成り立つときに、政府の通時的な予 算制約式は、

j=0β j Et[ 1 pt+j ]Bt–1(t+j) = Et

j=0β j st+j (19) とも表される。いま、定常状態における stと ptの値をそれぞれと s、p とすると、(19)式での定常状態における関係は、 ps B= (1– β)

j=0β jθ j のようになる。さらに、(19)式を定常状態の周りで差分をとる。 すなわち、

~

p

tpt – p p ,

~

s

tst – s s ,

~

(

)

B

t1

t

+

j

Bt–1(t + j) – θjB B とすると、

∞ = − ∞ = + ∞ = ∞ = +

=

+

0

+

1 0 0 0

)

(

~

~

)

1

(

~

j t j j j t t j j j j j j t t j j

j

t

B

s

E

p

E

β

β

θ

β

β

θ

β

が成り立つ。この式を

p

~

tについて近似的に展開すると、

∞ = − −+ ∞ = + ∞ =

0 1 1 0 0

~

)

1

(

~

j j t j j j j t t j j j j j t

W

E

s

D

B

p

β

β

θ

β

β

(20)

(26)

ただし、

∞ = + +

+

+

+

0

)

1

(

~

k l t k l t

B

t

l

k

B

β

− = −

1 0 1

)

(

j k k j j j

W

W

θ

θ

, W01, W1≡(θ0 – θ1)

+ = − −

1 0 1

)

(

l i i l i i l

D

D

θ

θ

, D-1 –1, D0≡θ1 のようになる。 この(20)式を用いて、国債管理政策に関する物価水準に対する 比較静学ができる。ここで、国債の満期構成の議論に集中するた め、基礎的財政収支は限界的に不変(となるような政策をとる) と仮定する。このとき、各期の物価水準は、(20)式の右辺第2項 にある国債の項のみから影響を受ける。関心は、政策効果の方向 (符号)と大きさにある。 例えば、他の条件を一定として、t期においてt+m期を満期 とする国債を追加的に1%増発して満期まで繰上償還しないとい う政策の効果を分析する。この国債の追加的な増発は、予算制約 式(1)式において、国債利子率、一般歳出や税収などには一切影響 を与えず、実質タームで予算制約式(1)式が均衡するように物価水 準だけを動かす。したがって、国債増発による名目収入額は、財 政支出の増加や減税には充てられない。ここでの政策は、定常状 態の水準と比べて限界的に1%に相当する額の国債を増発するこ とを検討する。すなわち、

B

~

t+k

(

t

+

m

)

= 0.01, 0≤ k m –1 である。 これにより、(20)式において Bt+l = 0.01β m-l-1となる。 この政策の限界的な効果としては、t期において講じたこの政 策が直接t期の物価水準に対して与える影響を見ると、(20)式の 右辺第2項に注目するとj1 について Dj-1>0 だから、将来時点で のt+m期に満期を迎える国債残高の増加が

p

~

tをマイナスにす る影響を及ぼす。すなわち、この公債政策は今期の物価水準を低 下させる効果を持つことが分かる。次に、t+1期の物価水準に与 える影響を同様に見ると、D-1= –1< 0 であるから、t期末に増加し た残高の効果が

~

p

t+1をプラスにする要因となる。割引要素βが通常 1未満であることを考慮すれば、この効果が他の効果を凌駕すれ

(27)

ば、t+1期の物価水準を引き上げる。t+2期以降の物価水準に ついても同様に、この政策は物価水準を引き上げる。これはt+ m期まで続き、t+m+1期以降には、この政策によって追加的 に増発した国債は償還されてしまうため、その影響は皆無となる。 上記政策の直観的な説明としては、次のようになる。17 t期に おける政府の予算制約式(1)式を変形すると、 Bt–1(t) pt

j=1β j Et[ 1 pt+j ]{Bt(t+j) – Bt–1(t+j)} = st (1') となる。(1')式を用いて説明すると、まずt+m期に償還する国債 をt期において追加的に発行する政策は、t+m+1期以降にお いて限界的な変化を与えない。次に、t+m期において政府の予 算制約式は、 Bt+m–1(t+m) pt+m

j=1β j Et[ 1 pt+m+j ]{Bt+m(t+m+j) – Bt+m–1(t+m+j)}= st+m となる。ここで、左辺第1項で Bt+m–1(t+m)が追加的に増加し、他 は変化しない。したがって、左辺で pt+mが Bt+m–1(t+m)と同じだけ 増加することで等号を満たすように調整される。すなわち、pt+m が上昇する。また、t+m−1期においては、 Bt+m–2(t+m–1) pt+m–1

j=1β j Et[ 1 pt+m–1+j ]{Bt+m–1(t+m–1+j) – Bt+m–2(t+m–1+j)} = st+m–1 である。ここで、左辺第2項で pt+mが追加的に上昇し、他は変化 しない。Bt+m–1(t+m)と Bt+m–2(t+m)はともに同じだけ追加的に増加す るため、両者の差は追加的に増加しない。したがって、左辺第2 項が減少し、それに相当する分左辺第1項で pt+m–1が上昇すること になる。ただし、pt+m よりも増加幅は小さい。これと同様のこと が、t+1期まで生じており、pt+k (1≤ k m –1)が限界的に上昇す る。最後に、t期において、(1')式をよると、左辺第2項で Bt(t+m) と pt+k (0≤ k m –1)が追加的に増加・上昇し、他は変化していない。 このとき、前述の理論から Bt(t+m)の効果が上回ることが示されて 17 基礎的財政収支は定常状態で正としているから、ここでも st+k >0 として 議論している。

(28)

いるから、(1')式左辺第2項が増加するのに伴い、(1')式左辺第1 項で ptが限界的に低下することになる。別の言い方をすれば、次 のようになる。公債が割引債で発行されるとして、各期における 政府の予算制約式は、名目公債償還額−名目公債発行額=名目基 礎的財政収支、すなわち(名目公債償還額−名目公債発行額)÷物 価水準=実質基礎的財政収支である。そこで、実質基礎的財政収 支が不変(となる政策をとる)ならば、t 期に名目公債発行額を追加 的に増やすと t 期の左辺分子が減少し、この左辺=右辺を保つべ く左辺分母(物価水準)が低下する。また、t+m 期に名目公債償還 額が追加的に増えるから t+m 期の左辺分子が増加し、左辺分母(物 価水準)が上昇する。以上が、上記政策の直観的な説明である。 以上の議論から、Cochrane (1998b)でも述べられているように、 国債発行は直近の物価水準を低下させ、償還までの将来の物価水 準を上昇させ、償還直後に元の水準まで低下させる効果があると いえる。特に、満期が長期であるほど、物価上昇の効果は緩やか にかつ長期的に及ぶこととなる。これが、(20)式を用いた比較静 学の定性的な結果である。 5.2 我が国の国債管理政策に関する比較静学 5.1節で国債管理政策が物価水準に及ぼす効果を定性的に見 たが、実際の我が国の国債管理政策が物価水準に対してどのよう な影響を及ぼしたかについては、データと整合的に定量的に見る 必要がある。そこで、この節では 1965 年度以降国債が発行され て第1次石油ショックで物価水準が高騰するまでの過程と、現段 階で得られる最新のデータである 1997 年度末の満期構成から今 後予想される国債管理政策の効果を、事例研究的に分析すること にする。18 この節での議論は、(20)式に基づいた国債管理政策の 限界的な効果に限定するため、基礎的財政収支やマクロ経済での 条件を一定として議論する。 18 通時的な国債管理政策やそのマクロ経済との連関で見た包括的な影響の 大きさは、4節の(18)式に基づいて議論している。したがって、この節での 議論は5.1節の(20)式に基づいた国債管理政策の限界的効果に関する分析 であることに注意されたい。

(29)

まず、1965 年度以降国債が発行されて第1次石油ショックで物 価水準が高騰するまでの過程を、この時期における国債管理政策 との関連で見ることとする。この時期の国債管理政策としては、 1965 年度に一般会計において赤字国債を発行し、1966 年度以降 一般会計で毎年度建設国債を発行することとなった。この時期の これら国債の満期は7 年であった。しかし、1971 年度途中から 7 年債の発行を中止し、10 年債の発行に切り替えた。国債発行額と しては、1966、1967 両年度はこの時期の平均を上回る発行額で あったが、その後財政硬直化打開キャンペーンといざなぎ景気に よる税収の増加により、1968∼1970 年度までの発行額は平均を 下回っている。そして、いざなぎ景気が終わったことや円切上げ 不況などの影響で、1971、1972 両年度はこの時期の平均を上回 る発行額となった。この時期の国債発行は、1960 年代までの財政 運営と異なり、景気調整に財政政策も積極的に用いられたために、 景気対抗的な動きをしている。 こうした第1次石油ショック前までの国債管理政策が、限界的 な効果として物価水準にどのような影響を与えたかを、(20)式に 基づいて数値解析したものが図4である。図4は、1964∼1972 年度までの平均を「定常状態」とみなして、当時の平均的な満期 構成をθj とし、定常状態の水準と比べて実際の国債発行がどの程 度であったかを量的に表現した上で、1965∼1972 年度までの国 債発行による効果を合算したものである。注意したいのは、この 効果の中にはマネタリー・ベースは含めていないことである。19 前述のように、この時期の平均よりも上回る発行額であった年度 の国債発行はプラス、下回った年度の国債発行はマイナスと表現 されている。これによると、1972 年度までの国債発行の影響によ って、第1次石油ショックが起こる 1973 年度以前の物価水準を 引き下げ、第1次石油ショック時の物価水準を引き上げる効果が 示されている。1973、1974 年度の物価水準を引き上げる要因と なったのは、直前の 1971、1972 年度の国債発行とともに、この 時期に満期を迎える1966、1967 年度の 7 年債も見出される。物 価水準の定常状態からの乖離を見ると、これらの国債発行により、 19 したがって、通説である 1972 年ごろの「過剰流動性」の影響は、図1に は含まれていない。

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定常状態(当時の平均的な物価水準)から約4%ポイント物価上 昇率を引き上げる影響を与えていることが分かる。この大きさは、 当時のGDP デフレータ上昇率が 15∼20%であったことと比較す れば、1972 年度以前の国債管理政策による影響で全てを説明でき るわけではないが、そのうちの1/4∼1/5の部分を説明できる。 また、図4で第2次石油ショックによる物価上昇が起こる1980 年度頃を見ると、この時期に1971、1972 年度に発行された 10 年 債の満期を迎え、1972 年度以前に発行された国債による物価上昇 の効果がピークとなっていることが分かる。もし、1971 年度に 7 年債から10 年債への満期変更をしなければ、1971、1972 年度に 発行された国債の満期は、それぞれ 1978、1979 年度と第2次石 油ショック前に償還が終わっており、第2次石油ショック時の物 価上昇は(第1次時と比べて低い水準であったとはいえ)より緩 やかなものであったことが、図4から伺える。 以上よりいえることは、石油ショックは日本経済から見れば外 部ショックで、これが2次にわたる石油ショック時の物価高騰を 引き起こし、かつ第1次石油ショック時には 1972 年ごろの「過 剰流動性」がこれを助長したという通説に対し、これに加えて第 1次石油ショック以前の国債管理政策(発行のタイミング、満期 構成の変更)もこれらの時期の物価上昇を助長していたことを明 らかにした。 最後に、1997 年度末の満期構成を所与として、今後の国債管理 政策のあり方について、(20)式を基に議論する。1997 年度は、財 政構造改革元年と称して財政赤字削減の財政運営を行おうとした 年度であった。しかし、景気後退に直面し、同年度補正予算、そ して 1998 年度に入り財政構造改革路線は中断され、景気対策の ために大量の国債発行を伴う積極的財政政策を行い、財政運営を 大きく転換した。このような財政運営の効果が、物価水準に対し て限界的にどのような影響をもたらし得るかを、(20)式に基づく 数値解析で明らかにする。 図5は、満期構成θjに1997 年度の値を用い、現在発行されてい る20 年債、10 年債、6 年債、5 年債、4 年債、2 年債、そして(発 行と償還が年度を越える)割引短期国債(TB)とマネタリー・ベ ース(M)を、現在から5期後にそれぞれ限界的に1%増発した

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ときに、物価水準がどのように変化するかを見たものである。ま た、これらの効果の値を示したのが、表2である。 5期後に政策変更を行うと設定した理由は、前述のように景気 対策などに伴う国債発行が将来時点において起きるとしたときに、 現時点の物価水準がどう変化するかを示すためである。 図5と表2によると、5.1節でも述べたように、いずれも発 行時の物価水準を引き下げ、それ以降償還までの将来の物価水準 は、緩やかに上昇し続け、償還時には限界的に1%ポイントの物 価上昇をもたらすことがわかる。国債を発行する5期目に一旦物 価水準が下落するが、翌6期目には合計約6%ポイントの物価上 昇をもたらし、5期目から6期後の11期目まで物価水準が高く なっているのはこの時期まで中期債が残存しているためである。 長期債である10 年債、20 年債は、これらに比べると緩やかな動 きをしている。 この結果を 1990 年代における我が国の状況と照らし合わせる と、次のようになる。1990 年代中葉以降、我が国にはデフレ圧力 が生じていたとされているが、それは、1997 年度を除く毎年度景 気対策に伴い前年度より多く発行されていた国債が発行時点の物 価下落要因として働いていたことが、一因であったことを示唆し ている。これらは発行直後に物価上昇要因となることが示唆され ているが、前述のように前年度より多く次年度に国債を発行して いたことが、物価上昇要因を相殺する効果を持っていたと考えら れる。これらが、1990 年代後半の我が国ではデフレ傾向にあった ことに対して物価水準の財政理論が与える示唆である。 また、物価水準の財政理論は、満期が集中することが予見され ている時期には、償還する時点は物価上昇のピークとなることを 示唆している。1997 年度末時点において、今後予見される現存国 債の償還年度は、表3に示されている。これによると、2002∼2004 年度に満期がある程度集中していることがわかる。この時期には、 物価水準の財政理論が示唆する要因によって物価上昇がピークを 迎えることが予想される。

参照

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