DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.33.1
フランカーと妨害刺激の
処理の類似性による干渉抑制への影響
1川 島 朋 也*・松 本 絵 理 子
神戸大学大学院国際文化学研究科The influence of processing similarity between flankers and distractors
on suppression of interference
Tomoya Kawashima* and Eriko Matsumoto
Graduate School of Intercultural Studies, Kobe University
Lavie (1995) proposed that under high perceptual load, attentional resources for task-irrelevant distractors are exhausted by the relevant task, which leads to a decrease in the distractor’s interference. In contrast, Benoni & Tsal (2010) claimed that the decreasing interference effect by additional flankers is not due to perceptual load, but rather to early visual interference that depends on visual complexity. They called this effect “dilution”. However, other studies suggest that similarities in the processing of flankers and distractors are another important factor in the dilu-tion effect (Miles, Yamaguchi, & Proctor, 2009; Roberts & Besner, 2005). The present study investigated the influ-ence of processing similarity and perceptual load on suppression of interferinflu-ence. Interferinflu-ence was observed only when flanker-distractor similarity was low, regardless of visual complexity and perceptual load. These results suggest that the similarity is an important factor in interference suppression and that the exhaustion of resources is not sole-ly determined by perceptual load. Our findings are consistent with the multiple resource theory (Wickens, 1980, 2002).
Keywords: selective attention, perceptual load, dilution, interference
複雑な視覚環境の中から目的に関連のあるものを選択 し,目的に関連のないものを排除するという選択的注意 の機能が日常生活において重要な役割を果たしている。 目的に関連のない妨害刺激が選択的注意のどの段階まで 処理されているかに関しては,注意研究の初期から論争 となっている(Lambert, 1985)。特に,注意による選択 を受けない妨害刺激の処理が物理的特徴レベルにとどま るとする初期選択説(Broadbent, 1958)と,意味的レベ ルにまで到達するとする後期選択説(Deutsch & Deutsch, 1963)の対立が続いている。その中でLavie(1995)は, 情報処理のための処理資源には容量限界があるため,課 題の負荷の高低が選択的注意による刺激処理が初期選択 的に働くか,または後期選択的に働くかに影響を及ぼす
とする知覚負荷(perceptual load)理論を提唱している。
Lavie & Cox(1997)は視覚探索課題と反応競合課題と を組み合わせた課題を用いて,知覚負荷と注意選択につ いて検討を行った。実験参加者はターゲットのアルファ ベット(NまたはX)を探索し,それぞれに割り当てら れたキーを押すように教示された。このとき,ターゲッ ト周辺に円環配置される課題無関連刺激(フランカー) の複雑性を操作し,すべて“O”である場合(低負荷条 件)と,“M”,“K”,“Z”などが混在する場合(高負荷 条件)が設けられた。すべて“O”の場合に比べ,他の アルファベットが混在する場合,探索に要求される負荷 が高くなる。また,円環の外部に課題とは無関連の妨害 刺激が呈示され,実験参加者はこれを無視するように教 示された。この課題無関連妨害刺激の条件は,ターゲッ トとして設定された文字と同じ反応キーに割り当てられ た文字が呈示される場合(一致),反対の反応キーに割 り当てられた文字が呈示される場合(不一致),そして ターゲットとは異なる文字が呈示される場合(中立)の Copyright 2014. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author. Graduate School of Intercultural
Studies, Kobe University, 1–2–1 Tsurukabuto, Nada-ku, Kobe 657–8501, Japan. E-mail: [email protected]. ac.jp
3条件であった。実験の結果,高負荷条件では低負荷条 件よりも反応時間が遅延し,一致効果は低負荷条件での み認められた。一致効果とは,一致試行の平均反応時間 が不一致試行の平均反応時間に比べて短いことを指す。 この結果は,知覚負荷が低い条件では課題で要求される 資源が少ないために余剰が生じ,余った資源が自動的に 妨害刺激に割り当てられるために妨害干渉を受ける一 方,知覚負荷が高い条件では探索課題に資源の多くを割 り当てたために資源が枯渇し,妨害干渉を受けないと解 釈された。知覚負荷の高低によって妨害刺激への処理資 源の割り当てが決まるとする知覚負荷理論は,選択的注 意の初期選択説の持つ容量制限という概念と後期選択説 の持つ自動性という概念の両方をあわせ持つものであ り,両理論の対立点を説明できるものとして注目されて いる。
しかしながら,Benoni & Tsal(2010)は知覚負荷理論 では説明できない結果を報告し,妨害刺激処理を決定す る要因は知覚負荷ではなく,ターゲットとともに呈示さ れる刺激によって妨害刺激の処理が弱まることとする希 釈(dilution)理論を提唱している。彼らはターゲット の周辺にフランカーとして呈示される刺激を操作し,3 条件を用意した。Lavie & Cox(1997)では低負荷条件と 高負荷条件の 2 条件であったのに対し,Benoni & Tsal (2010)の実験1では知覚負荷の低い低負荷条件に相当 する条件として,Lavie & Cox(1997)の高負荷条件と同 様の複雑な形態で,ターゲットと異なる色のフランカー を用いることによってターゲットの弁別性を高めた条件 (希釈条件)が加えられた。知覚負荷理論に基づくと, 知覚負荷が低い希釈条件では余剰の資源が妨害刺激に割 り当てられると予測する。しかし実験の結果,希釈条件 と低負荷条件の反応時間の間に差は認められなかったに もかかわらず,高負荷条件だけでなく希釈条件でも一致 効果は見られなかった。知覚負荷の高低によらずフラン カーとして用いられた刺激が配置されている希釈条件お よび高負荷条件で妨害干渉を受けなかった結果から, Benoni & Tsal(2010)は,フランカーと妨害刺激の間で の初期視覚干渉(early visual interference)によって妨害 刺激の特徴次元表象が減衰し,言語記憶へのインプット が低減した結果,妨害干渉が抑制されたと解釈した。
項目間の視覚干渉というBenoni & Tsal(2010)の解釈 に対し,Lavie & Torralbo(2010)はターゲットと妨害刺 激の色弁別性が妨害干渉の抑制に寄与したと主張し,さ らに,余剰の資源がターゲット近傍のフランカーに割り 当てられたために希釈条件において妨害干渉が認められ なかったと反論した。この主張に対し,Tsal & Benoni
(2010b)も色でターゲットが区別されていない実験例を 挙げ,色の弁別性では説明できないと反論し,さらに, ターゲット近傍にフランカーが呈示されていない実験例 を挙げ,資源の分配では説明できないと主張している。 このように,負荷が低い条件で妨害干渉が抑制されると いう結果に対し,従来の知覚負荷理論の枠組みでは十分 に説明できていない。 妨害干渉がフランカーと妨害刺激の初期視覚干渉に よって減少するという考え方は,ストループ課題を使っ た研究によっても報告されている(Brown, Ross-Gilbert, & Carr, 1995; Kahneman & Chajczyk, 1983)。 た と え ば Brown et al.(1995)では,カラーバーと色単語を同時に 呈示し,カラーバーの色名呼称を行うストループ課題に おいて,その近傍に単純な記号(e.g., ---)を配置しても 何も呈示されない場合とストループ干渉の程度は同等で あったが,一定以上複雑な記号(e.g., &$%@#!)を配置 するとストループ干渉が減少したことが報告されてい る。このことは,文字性の有無にかかわらず視覚的複雑 性の高い刺激は視覚過程において並列的に処理され,後 続の文字としての処理を妨害しうることを示唆する。こ のように,ターゲットの周囲に配置されたフランカーの 視覚的複雑性はターゲットの処理過程に視覚処理の初期 段階で影響を及ぼすといえる。 一方で,視覚的複雑性ではなく,フランカーと妨害刺 激の処理過程が類似していることが希釈において重要で あることが示唆されている(Miles, Yamaguchi, & Proctor, 2009; Roberts & Besner, 2005)。Roberts & Besner(2005) は,中央に呈示される刺激の色とその上下いずれかに呈 示される妨害刺激である色名単語との一致性を操作した 改変型ストループ課題を用いている。彼らの実験では中 央に呈示される刺激が操作され,統制条件では従来のス トループ課題と同様のカラーパッチが用いられ,それに 加えて単語条件(e.g., table)や数字条件(e.g., 89347), などがあった。結果,数字条件よりも単語条件の方が統 制条件に比べてストループ干渉がより減少したことか ら,Roberts & Besner(2005)は,妨害刺激と同じドメイ ン(domain)である単語を呈示することによってスト ループ干渉が減少すると結論した。
さらに,Miles et al.(2009)は,通常用いられる空間 呈示位置と反応手の一致性ではなく,位置を示す単語と 反応手の一致性を操作した改変型のサイモン課題を用い てRoberts & Besner(2005)と同様の結果を得ている。 彼らの実験 1 では,妨害刺激として位置を示す単語 (LEFT, RIGHT)を呈示し,色バーに対する反応手との 一致性が操作された。さらに,フランカーについて,な
し条件・単語条件(e.g., TALK)・記号条件(e.g., $%!#) の3条件が用意された。結果,なし条件に比べて単語条 件では妨害干渉が有意に減少したものの,記号条件では 妨害干渉の減少は有意傾向にとどまったことから, Miles et al.(2009)は,妨害刺激とフランカーのカテゴ リドメイン(category domain)が一致すると妨害干渉が 減少すると結論した。以上から,視覚処理の初期段階で ある形態処理段階に影響を与える視覚的複雑性ではな く,フランカーと妨害刺激が形態処理段階以降で処理様 式が類似しているという処理の類似性が希釈の生起に重 要であると考えられる。
Benoni & Tsal(2010)は課題の知覚負荷ではなくター ゲットの周囲に配置されるフランカーの視覚的複雑性に よって妨害干渉が弱まるとしているが,フランカーと妨 害刺激の処理の類似性を重視する立場もある(Miles et al., 2009; Roberts & Besner, 2005)。また,Benoni & Tsal (2010)を含め,視覚探索課題における妨害干渉抑制の
要因が知覚負荷ではなく希釈であることを支持する研究 の多くが探索項目にアルファベットという処理の類似性 が高い刺激を使用している(Benoni & Tsal, 2012; Tsal & Benoni, 2010a; Wilson, Muroi, & MacLeod, 2011)。知覚負 荷を操作した視覚探索課題においては処理の類似性に着 目した研究がほとんど見られないため,検討が必要であ る。 そこで本研究では,ヘブライ文字をフランカーとして 使用することで,視覚的複雑性を保ったままフランカー の処理の類似性を操作し,視覚探索課題におけるフラン カーの特性が妨害刺激の処理に及ぼす影響について検討 する。本実験の実験参加者はヘブライ文字の学習経験が なく,音韻化ができないため,無意味な記号として認知 されることが予測される。したがって,ヘブライ文字の 複雑性はアルファベットとほぼ同等であるが,アルファ ベットとは違う文字として認知されることが予測され る。さらに,妨害刺激とフランカーの処理の類似性を操 作することで,処理様式の異なる刺激間でも視覚干渉は 生起するのか,また処理様式の異なる刺激に対しても資 源の分配は処理様式が同じ刺激に対しての分配と同じ性 質を持つのかを検討することが可能となり,近年の知覚 負荷理論をめぐる論争に新たな視点を提供することが期 待される。Benoni & Tsal (2010)の実験1のパラダイムを 用いて,単純な視覚刺激(---)を配置した低負荷条件 も設け,検討する。
実 験 1
本実験では,ターゲットならびに妨害刺激としてアル
ファベットを,フランカーとしてヘブライ文字を呈示 し,Benoni & Tsal(2010)の実験1のパラダイムを用い て,妨害刺激とフランカーの処理様式の違いが妨害刺激 処理に与える影響について,および知覚負荷とフラン カーの特性との関連について検討する。 方 法 参加者 10名(女性6名,男性4名,平均年齢24.7歳) の大学生および大学院生が実験に参加した。参加者には 事前に実験の目的と手続きを説明し同意を得た。全員が ヘブライ文字を学習した経験がなかった。 装 置 刺 激 の 呈 示 に は 19 イ ン チ の デ ィ ス プ レ イ (DELL社製)を使用した。刺激制御,反応時間の測定等 はすべて心理学実験ソフト SuperLab 4.0 (Cedrus 社製) を用い,実験参加者の反応はキーボードから取得した。 また,実験参加者の頭部位置を固定するためにあご台を 使用した。 刺激 本実験において,刺激は黒色の背景の上にター ゲットとフランカーをのぞき白色で呈示された。ター ゲットと妨害刺激にアルファベットのC/S/H/Kを用い, フランカーに ש/ג/ט/פ を用いた。ターゲットとフラン カーは視角0.5°×0.41°であり,中央の注視点から0.85°の ところにある架空の四角形の4隅に呈示された。注視点 は0.38°×0.38°の十字であった。妨害刺激は0.92°×0.77° で,注視点から1.55°の左右いずれかに呈示された。 手続き 実験参加者は刺激が呈示されるモニタから約 57 cmの距離に着席し,モニタを観察した。はじめに注 視点が 500 ms呈示され,500 msのブランクをはさんで 刺激が 120 ms呈示された。刺激に対する実験参加者の 反応があるまで,3000 msの間なにも画面に呈示されな かった。反応後,次の試行が開始されるまで 500 msの インターバルが与えられた。エラー試行にはビープ音が フィードバックされた(Figure 1)。 課題は,周辺に呈示される妨害刺激を無視しながら
Figure 1. Experiment 1: sequence of events of typical trials and examples of stimulus displays.
ターゲットを探索し,できる限り迅速にキーボードの キーを押すことであった。ターゲットがHまたはKのと きはAキーを左手の人差し指で押すことが求められた。 ターゲットがCまたはSのときはLキーを右手の人差し 指で押すことが求められた。 反応の一致性について,一致条件ではターゲットと妨 害刺激に割り当てられた反応キーが同じであり,不一致 条件ではターゲットと妨害刺激に割り当てられた反応 キーが異なるように設定を行った。 さらに,ターゲットとフランカーの組み合わせによっ て低負荷条件・高負荷条件・希釈条件の3条件が用意さ れた。低負荷条件では,ターゲットは架空の四角形の4 隅のうちのいずれか 1か所に呈示され,残りの3隅には 長さ1.5°の線分が呈示された。高負荷条件と希釈条件で は,ターゲットは4隅のいずれか1か所に呈示され,残 りの3隅には4つのフランカーのうちいずれか3つが呈 示された。希釈条件ではターゲットとフランカーが色で 区別された。色について,本実験では2つの色パターン が用意された。1つはすべての条件でターゲットが赤色 のパターンである。低負荷条件では 3つの線分は緑色 で,高負荷条件ではフランカーが赤色であり,希釈条件 ではフランカーが緑色であった。もう一方はターゲット が緑色のパターンである。低負荷条件では線分が赤色 で,高負荷条件ではフランカーが緑色であり,希釈条件 ではフランカーが赤色であった。実験参加者は無作為に 2つの色パターンのいずれかに割り当てられ,割り当て られた色は実験を通して同一であった。 本実験では,低負荷条件・高負荷条件・希釈条件の各 条件それぞれを120試行からなるブロックとし,計3ブ ロックをカウンターバランスがとれた実施順で各実験参 加者に課した(計 360試行)。また,一致条件試行と不 一致条件試行の試行数はブロック内で等しく,試行の呈 示はブロック内でランダム順であった。実験参加者は 16試行からなる練習試行の後に本試行を受けた。各ブ ロック間には実験参加者の主観的な疲労の訴えに応じて 1∼5分程度の休憩時間が与えられ,実験に要した時間 はおよそ40分であった。
仮説 Benoni & Tsal (2010)が示唆しているように, 処理の類似性に関係なく視覚的複雑性を有した刺激を配 置することが処理の初期段階で視覚干渉を引き起こし, 妨害刺激の処理に影響を与えるとすれば,フランカーが 配置されている希釈条件および高負荷条件での妨害刺激 による干渉は低負荷条件に比べて減少すると考えられ る。一方,処理の類似性が視覚探索課題においても妨害 干渉の抑制に影響するのであれば,処理の類似性の低い フランカーが配置されている希釈条件および高負荷条件 での妨害刺激による干渉は低負荷条件と差がないことが 予測される。 結 果 エ ラ ー試 行 お よ び 反 応 時 間 が 100 ms 以 下 ま た は 1500 ms以上の試行は分析から除いた。参加者ごとの平 均反応時間と正答率を従属変数として,一致性(一致, 不一致)×条件(低負荷条件,高負荷条件,希釈条件) の被験者内2要因分散分析を行った。 各条件における平均反応時間をFigure 2(上)に示す。 反応時間の分散分析の結果,一致性の主効果が有意で あった(F(1, 9)=6.71, p=.003)。すなわち一致条件に比 べて不一致条件では反応時間が遅くなった。また条件の 主効果が有意であった(F(2, 18)=17.06, p<.001)。シェ イファーの方法で下位検定を行った結果,高負荷条件の 反応時間は低負荷条件よりも遅く(t(9)=4.76, p<.01), 希釈条件よりも遅かった(t(9)=3.50, p<.01)。また, 希釈条件の反応時間は低負荷条件よりも遅かった(t(9) =3.21, p<.05)。交互作用は有意ではなく(F(2, 18)= 0.01, p=.930),一致・不一致の効果は条件間で差がな かった。 各条件における平均正答率を Figure 2(下)に示す。 正答率において反応時間と同様の分析を行った結果,一 致性の主効果(F(1, 9)=7.43, p=.023)が有意であり, 正答率は不一致条件のほうが低いことが認められた。条 件の主効果(F(2, 18)=0.73, p=.497)ならびに一致性と 条件の交互作用(F(2, 18)=0.15, p=.862)は有意ではな かった。
Figure 2. Experiment 1: mean RTs and accuracy rates for congruent and incongruent displays under the three conditions. Error bars represent standard errors.
考 察
本実験の希釈条件の反応時間は低負荷条件の反応時間
よりも大きかった(t(9)=3.21, p<.05)。刺激がすべて
アルファベットであったときの希釈条件と低負荷条件で は反応時間に差がみられなかったが(Benoni & Tsal, 2010),フランカーにヘブライ文字を使用した本実験の 希釈条件では低負荷条件よりも反応時間が有意に遅延し た。実験参加者にとって新奇性がより高いヘブライ文字 はアルファベットに比べて注意を捕捉した可能性があ る。このことは,ターゲットとフランカーを色で区別し てもフランカーはある程度処理されていることを示唆す る。Benoni & Tsal (2010) は希釈条件でのフランカーは 処理の初期段階で妨害刺激と視覚干渉を起こすと考えた が,フランカーは処理の後期段階まで影響を及ぼしてい る可能性がある。 また本実験では,低負荷・高負荷・希釈のいずれの条 件間においても妨害干渉の程度に差が認められなかった (一致性と条件の交互作用; F(2, 18)=0.01, p=.930)。も し希釈理論が正しければ,低負荷条件でのみ一致効果が 認められたはずである。この結果は,フランカーがある 程度の視覚的複雑性を持つ場合,処理の初期段階で視覚 干渉が生じ,妨害干渉が抑制されるという希釈理論(Be-noni & Tsal, 2010)とは合致せず,処理の類似性の関与を 含む仮説を支持する結果となった。先行研究(Miles et al., 2009; Roberts & Besner, 2005)と同様,妨害干渉の抑 制は妨害刺激と処理が類似した刺激をフランカーとして 配置する場合に生じることが考えられる。そのため, ターゲットとフランカーの処理の類似性が高い刺激配置 について検討を行う必要がある。 実 験 2 実験1では,フランカーとしてヘブライ文字を呈示し た場合,希釈条件および高負荷条件で妨害刺激による干 渉が認められたことから,妨害干渉の抑制にはフラン カーと妨害刺激の処理の類似性が影響していることが示 唆された。しかし,処理の類似性が影響したのではな く,フランカーであるヘブライ文字が言語として処理さ れない結果,言語として処理される妨害刺激の処理が相 対的に強くなり,妨害干渉が生じたと解釈することも可 能である。実際,Forster & Lavie (2009)は言語ワーキン グメモリの使用を抑制するために音韻化されないヘブラ イ文字を探索項目として用いた。さらに,ヘブライ文字 よりもアルファベットの方が親近性は高いため,注意配 分がヘブライ文字とアルファベットでは異なることによ り,妨害刺激が処理された可能性もある。そこで本実験 では,ターゲットおよび妨害刺激をアルファベットから ヘブライ文字に変更することで,言語性ならびに親近性 を統一し,実験1の結果の背景要因がフランカーと妨害 刺激の処理の類似性が低かった点にあるのか,それとも 妨害刺激の処理が文字種の違いにより相対的に強かった 点にあるのかを検討する。 方 法 実験参加者 18 名(女性 8 名, 男性 10 名,平均年齢 20.4歳)の大学生が実験に参加した。参加者には事前に 実験の目的と手続きを説明し同意を得た。全員がヘブラ イ文字を学習した経験がなかった。うち1名を正答率が 50%に満たなかったため分析から除外した。 装置および刺激 本実験で用いた装置およびフラン カーとして用いた刺激は実験 1と同じであった。ター ゲットおよび妨害刺激にヘブライ文字のמ/צを使用した (Figure 3)。 手続き 練習試行が32試行であったことを除き,実 験 1と同一の手続きで行った。練習試行を増やしたの は,ターゲットであるヘブライ文字を実験参加者が正し く記憶することを促すためであった。実験参加者はター ゲットが מ のときA キーを,צ のときL キーを押すよう に求められた。 仮説 もし,妨害刺激の処理の相対的な強さが妨害刺 激処理に影響しているとすれば,ターゲットと妨害刺激 であるヘブライ文字の記憶表象はフランカーであるヘブ ライ文字の記憶表象よりも相対的に強いと考えられるた め(ターゲット探索のために表象を保持する必要があ る),実験1と同様すべての条件で妨害干渉の程度に差 はないと予測される。一方,フランカーと妨害刺激との 処理の類似性が妨害刺激処理に影響しているとすれば, フランカーと妨害刺激の処理が類似している本実験で は,希釈条件ならびに高負荷条件での妨害干渉は低負荷 条件に比べて減少すると考えられる。 結 果 エ ラ ー試 行 お よ び 反 応 時 間 が 100 ms 以 下 ま た は 1500 ms以上の試行は分析から除いた。参加者ごとの平
均反応時間と正答率を従属変数として,一致性(一致, 不一致)×条件(低負荷条件,高負荷条件,希釈条件) の被験者内2要因分散分析を行った。 各条件における平均反応時間をFigure 4(上)に示す。 反応時間の分散分析の結果,一致性の主効果は有意では なかった(F(1, 16)=2.04, p=.173)。条件の主効果は有 意であった(F(2, 32)=122.49, p<.001)。シェイファー の方法で下位検定を行った結果,高負荷条件の反応時間 は低負荷条件よりも遅く(t(16)=11.90, p<.001),希釈 条件よりも遅かった(t(16)=10.94, p<.001)が,低負荷 条 件 と 希 釈 条 件 の 反 応 時 間 に 差 は 見 ら れ な か っ た (t(16)=0.85, p=.406)。さらに,交互作用が有意であっ た(F(2, 32)=7.16, p=.002)ため,単純主効果検定を 行った結果,一致性が低負荷条件に与える単純主効果は 有意であった(F(1, 16)=39.11, p<.001)が,一致性が 高負荷条件に与える単純主効果(F(1, 16)=0.48, p=.499) な ら び に一 致 性 が 希 釈 条 件 に 与 え る 単 純 主 効 果 (F(1, 16)=1.27, p=.276)は有意ではなかった。これは, 一致効果が低負荷条件でのみ見られることを示す。 各条件における平均正答率を Figure 4(下)に示す。 正答率において反応時間と同様の分析を行った結果,一 致性の主効果は有意であった(F(1, 16)=11.47, p=.004)。 条件の主効果は有意であった(F(1, 16)=43.35, p<.001)。 シェイファーの方法で下位検定を行った結果,高負荷条 件 の 正 答 率 は 低 負 荷 条 件 よ り も 低 く(t(16)=7.10, p<.05),希釈条件よりも低かった(t(16)=6.77, p<.05) が,低負荷条件と希釈条件の正答率に差は見られなかっ た(t(16)=0.01, p=.993)。 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た (F(1, 16)=5.61, p=.008)ため,単純主効果検定を行っ た結果,一致性が低負荷条件に与える単純主効果は有意 傾向であった(F(1, 16)=23.39, p=.054)。一致性が高負 荷条件に与える単純主効果は有意であった(F(1, 16)= 11.48, p=.004)。一致性が希釈条件に与える単純主効果 は有意ではなかった(F(1, 16)=0.374, p=.550)。 考 察 ターゲットならびに妨害刺激をヘブライ文字に変更し た結果,低負荷条件で妨害干渉が認められたが,高負荷 条件並びに希釈条件では認められなかった。この結果 は,フランカーと妨害刺激の処理の類似性が妨害干渉の 抑制に重要であるという考えを支持する。 また,実験1の結果と異なり,希釈条件の反応時間と 低負荷条件の反応時間に有意な差が認められなかった (t(16)=0.85, p=.406)。本実験ではすべての刺激がヘブ ライ文字であったために,フランカーのみが注意を捕捉 するような事態は生じにくかったためと推測される。 全体的考察
本研究は,Benoni & Tsal(2010)によって提唱された 希釈理論が刺激特性について検討されていない点に注目 し,妨害干渉の抑制が初期段階の視覚処理によるのか否 かを検討する目的で行われた。希釈の生起要因として, フランカーの視覚的複雑性が重要である(Brown et al., 1995; Kahneman & Chajczyk, 1983)という考えと,妨害刺 激との処理の類似性が重要である(Miles et al., 2009; Roberts & Besner, 2005)という考えがある。フランカー と妨害刺激の処理の類似性についてはストループ課題お よ び サ イ モ ン課 題 で 検 討 さ れ て お り,Benoni & Tsal (2010)で用いられたような知覚負荷を操作した視覚探 索課題ではあまり検討されていなかった。実験1ではフ ランカーにヘブライ文字を使用することで,フランカー としての視覚的複雑性は高く,妨害刺激との処理の類似 性は低くなった。その結果,すべての条件で妨害干渉が みられたため,フランカーに妨害刺激と処理の類似性の 低い刺激を配置する場合は妨害干渉が生じることが示唆 された。実験2では,ターゲットおよび妨害刺激をヘブ ライ文字に変更したことで,言語性ならびに親近性を統 制した。その結果,希釈条件および高負荷条件で妨害干 渉が見られなかったことから,全条件で妨害干渉が得ら れた実験1の結果の背景要因は,フランカーに文字種の 異なるヘブライ文字が使用されていたことによる妨害刺 激処理程度の相対的な強さではないことが示された。以 上から本研究は,視覚探索課題においても,初期の視覚 処理段階でのフランカーと妨害刺激の視覚干渉ではな Figure 4. Experiment 2: mean RTs and accuracy rates
for congruent and incongruent displays under the three conditions. Error bars represent standard errors.
く,妨害刺激と処理の類似性の高い刺激をフランカーと して配置することが妨害干渉の抑制に重要であることを 示した。 それでは,なぜ知覚負荷によらず妨害刺激と処理の類 似性の低い刺激を配置した場合は妨害干渉が認められ (実験1),処理の類似性の高い刺激を配置した場合は妨 害干渉が抑制された(実験2)のであろうか。処理の類 似性の低い刺激を配置した場合に妨害干渉が生じる結果 を,Miles et al.(2009)は認知処理の複数資源説(multiple resource theory: Wickens, 1980, 2002)によって説明が可能 であると考えた。Miles et al.(2009)は,呈示される刺 激が並行処理され,類似した刺激の処理が資源に対して 競合すると考えた。本研究の結果はこの説に合致する。 全条件で妨害干渉の程度に差がなかった実験1では,全 条件を通してアルファベットはターゲットと妨害刺激の 2つであった。そのため,アルファベットを処理する資 源は枯渇せず,妨害刺激が処理されたと考えられる。一 方,低負荷条件でのみ一致効果が認められた実験2およ びBenoni & Tsal(2010)では,希釈条件および高負荷条 件では同処理様式の刺激があわせて 5つ呈示されてい た。そのため同処理様式の刺激による処理の競合が生 じ,妨害刺激が処理されなかったと考えられる。つま り,妨害刺激と処理が競合するフランカーを配置するこ とで資源が枯渇し,妨害干渉が抑制されることが示唆さ れる。 複数資源説による説明は,知覚負荷を操作した本研究 の結果からも支持される。Miles et al.(2009)は知覚負 荷を操作しなかったが,本研究ではターゲットとフラン カーとの色の組み合わせによって知覚負荷が操作され た。処理の類似性の低いフランカーを配置した実験1に おいて,高負荷条件の妨害干渉程度は負荷が低い条件と 差がなかった(一致性と条件の交互作用; F(2, 18)= 0.01, p=.930)。したがって,妨害刺激を処理する資源の 枯渇は課題の負荷によって決定するだけではなく,妨害 刺激と処理の競合が生じる刺激が配置されているかどう かによっても決定する可能性が示唆される。つまり,知 覚負荷が高い事態においても,妨害刺激と処理様式が類 似したフランカーが呈示されていない場合,妨害刺激と フランカーの処理が競合しないため,妨害刺激を処理す る資源の枯渇が生じずに妨害刺激が処理されると考えら れる。 本研究の結果から,フランカーに妨害刺激と処理の類 似性の高い刺激を配置することにより,希釈条件で妨害 干渉が生じない場合があることが示された。さらに,妨 害刺激と処理の類似性の低い刺激を追加配置した高負荷 条件で妨害干渉が生じるのは,妨害刺激の処理に対する 資源の枯渇が生じないためであると考えられ,これは複 数資源説(Wickens, 1980, 2002)で説明できる。しかし, この結論には議論の余地がある。実験1では,ターゲッ トを音韻に基づいて探索していたため,音韻化されない フランカーと処理様式が異なっていたといえる。もし, ターゲットを形態情報に基づいて探索することが要求さ れる場合,ターゲットとフランカーが意味レベルでは異 なっていたとしても,ともに形態として処理されること が考えられる。したがって,処理の類似性は刺激特性だ けではなく課題要求によっても変化する可能性がある。 つまり,複数資源のもとで,ある処理様式の資源が枯渇 する事態は,ターゲットとフランカーの処理様式の類似 性という刺激特性に加え,どのようにターゲットを探索 するのかといった課題要求によっても生起しうると考え られる。 ここで,知覚負荷理論(Lavie, 1995)をめぐる近年の 論争を本研究の結果から考えてみたい。Benoni & Tsal (2010)が提唱した希釈理論は,知覚負荷が低い条件で 妨害干渉が生じない実験結果が根拠となっており,この 条件で資源の分配がなされているのかについて議論がな されている(Lavie & Torralbo, 2010; Tsal & Benoni, 2010b)。
しかし本研究が示唆するように,複数資源説(Wickens,
1980, 2002)の考えを導入することで,資源の枯渇は妨 害刺激と処理が類似したフランカーの呈示によって妨害 刺激とフランカーの処理が競合する事態でも生じる。希 釈理論の根拠となっている知覚負荷が低いが妨害干渉 が生じる条件(Benoni & Tsal, 2010, 2012; Tsal & Benoni, 2010a; Wilson, Muroi, & MacLeod, 2011)において,資源 が分配されているかという視点からの議論がなされてい るが(Lavie & Torralbo, 2010; Tsal & Benoni, 2010b),文字 という同処理様式の刺激が使用されていたことから,文 字を処理する資源は枯渇しており分配は生じていないこ とが推測される。処理様式ごとに資源が存在し,その資 源の分配によって刺激が処理されるという考えを導入す ることで,知覚負荷が低い事態での妨害干渉という知覚 負荷理論と希釈理論の対立点が,妨害刺激と処理の類似 したフランカーの呈示による資源の枯渇と説明されるこ とを本研究は示唆する。 今後,複数資源説で見られるような処理資源の並列的 な資源配分システムのモデルを知覚負荷理論のパラダイ ムで検討することで,複数の資源間の相互作用や配分の 時間的特性などを検討する必要があるだろう。また,本 研究ではターゲットおよび妨害刺激にヘブライ文字を, フランカーにアルファベットを用いた実験を行っていな
い。妨害刺激とフランカーの処理の類似性が異なるた め,本研究の実験1と同様の結果が期待されるが,探索
の手がかりとする情報(e.g., 音韻情報)などが異なるた
め,検討する必要がある。
引用文献
Benoni, H., & Tsal, Y. (2010). Where have we gone wrong? Perceptual load does not affect selective attention. Vision
Research, 50, 1292–1298.
Benoni, H., & Tsal, Y. (2012). Controlling for dilution while manipulating load: Perceptual and sensory limitations are just two aspects of task difficulty. Psychonomic Bulletin &
Review, 19, 631–638.
Broadbent, D. E. (1958). Perception and communication. London, UK: Pergamon Press.
Brown, T. L., Ross-Gilbert, L., & Carr, T. H. (1995). Automa-ticity and word perception: Evidence from stroop and stroop dilution effects. Journal of Experimental Psychology:
Learning, Memory, and Cognition, 21, 1395–1411.
Deutsch, J. A., & Deutsch, D. (1963). Attention: Some theoret-ical considerations. Psychologtheoret-ical Review, 70, 80–90. Forster, S., & Lavie, N. (2009). Harnessing the wandering
mind: The role of perceptual load. Cognition, 111, 345–355. Kahneman, D., & Chajczyk, D. (1983). Tests of the
automatici-ty of reading: Dilution of stroop effects by color-irrelevant stimuli. Journal of Experimental Psychology: Human
Percep-tion & Performance, 9, 497–509.
Lambert, A. J. (1985). Selectivity and stages of processing ― An enduring controversy in attentional theory: A review.
Current Psychological Research & Reviews, 4, 239–256.
Lavie, N. (1995). Perceptual load as a necessary condition for selective attention. Journal of Experimental Psychology:
Human Perception and Performance, 21, 451–468.
Lavie, N., & Cox, S. (1997). On the efficiency of visual
selec-tive attention: Efficient visual search leads to inefficient dis-tractor rejection. Psychological Science, 8, 395–398. Lavie, N., & Torralbo, A. (2010). Dilution: A theoretical
bur-den or just load? A reply to Tsal and Benoni (2010). Journal
of Experimental Psychology: Human Perception & Perfor-mance, 36, 1657–1664.
Miles, J. D., Yamaguchi, M., & Proctor, R. W. (2009). Dilution of compatibility effects in Simon-type tasks depends on cat-egorical similarity between distractors and diluters.
Atten-tion, PercepAtten-tion, & Psychophysics, 71, 1598–1606.
Roberts, M. A., & Besner, D. (2005). Stroop dilution revisited: Evidence for domain-specific, limited-capacity processing.
Journal of Experimental Psychology: Human Perception & Performance, 31, 3–13.
Tsal, Y., & Benoni, H. (2010a). Diluting the burden of load: Perceptual load effects are simply dilution effects. Journal of
Experimental Psychology: Human Perception and Perfor-mance, 36, 1645–1656.
Tsal, Y., & Benoni, H. (2010b). Much dilution little load in Lavie and Torralbo’s (2010) response: A reply. Journal of
Experimental Psychology: Human Perception and Perfor-mance, 36, 1665–1668.
Wickens, C. D. (1980). The structure of attentional resources. In R. S. Nickerson (Ed.), Attention and performance VIII. Hillsdale, NJ: Erlbaum. pp. 239–257.
Wickens, C. D. (2002). Multiple resources and performance prediction. Theoretical Issues in Ergonomics Science, 3, 159– 177.
Wilson, D. E., Muroi, M., & MacLeod, C. M. (2011). Dilution, not load, affects distractor processing. Journal of
Experi-mental Psychology: Human Perception and Performance, 37,
319–335.