〔原著論文〕
バドミントンシャトルコックの有する高い減速メカニズム
*秋田大学大学院工学資源学研究科長 谷 川 裕 晃†
秋田大学機械工学科和 田 謙 治
筑波大学名誉教授村 上 正 秀
東北大学流体科学研究所大 林 茂
バドミントンシャトルコック(シャトル)は,すべての球技の中で打球の初速が最も速く,かつ打球が相 手に届くまで大きな抗力を生じ急激に速度が低下するため,初速と終速の差が極端に大きいという他の球 技にはない特徴を有している.本研究では,シャトルが有する極端に大きな減速のメカニズムを調べるた めに風洞試験を実施した.特に,シャトル羽根付け根部隙間が空力特性に影響を及ぼすと考え,スカート 部隙間をふさいだシャトルとの比較を実施した.隙間をふさいだシャトルの抗力は,通常シャトルの抗力 に比べ小さくなった.通常シャトルでは,羽根付け根部隙間を通った流れが内部に導かれ,その後シャト ル後方に流れ出る.この隙間を通った流れの存在が高い減速特性に影響を及ぼす.High Aerodynamic Drag of a Badminton Shuttlecock
Hiroaki HASEGAWA,
Graduate School of Engineering & Resource Sciences, Akita UniversityKenji WADA,
Department of Mechanical Engineering, Akita UniversityMasahide MURAKAMI,
Emeritus Professor, University of TsukubaShigeru OBAYASHI,
Institute of Fluid Science, Tohoku UniversityA badminton shuttlecock exhibits the largest in-flight deceleration of any airborne sporting projectile. Its feathered projectile has aerodynamic properties which causes it to fly differently than the balls used in most racquet sports. The shuttlecock creates much higher drag, causing it to decelerate more rapidly than a ball. The primary objectives of this study were to investigate the generation mechanism of high aerodynamic drag of a shuttlecock. To better understand the reasons why a shuttlecock creates the high aerodynamic drag, fluid forces and flow fields were also measured by using a shuttlecock without gaps. The shuttlecock rotates about its major axis in actual flight, and thus, the experiments were performed on shuttlecocks with and without rotation (spin). The drag coefficient for a shuttlecock without gaps was significantly smaller than that for a standard shuttlecock (with gaps). For a standard shuttlecock, the air flowed through the gaps in the shuttlecock skirt, and this flow was related to high aerodynamic drag.
(KEY WORDS): Drag, Aerodynamics, Vortex, Wake, Flow Visualization
1 はじめに バドミントンは全ての球技の中で打球の初速が最 も速いことで有名である.スマッシュ直後の初速は, トッププレーヤーでは時速300 km(83 m/s)以上に 達することもある.バトミントンが他の球技と大き く異なる点は,使用する球がシャトル状の独特な形 状を有している点である.シャトルコックは,半球 状の形のコルクなどに,水鳥等の羽根を接着剤など で固定した簡単なつくりになっている.シャトルコ ックという名前は,かつてこれが鶏(コック)の羽 根で創られていたころの名残である.現在では試合 球,練習球においても鶏の羽根のシャトルはほとん ど使われていない.現在の競技規則上1) は,シャト *〒010-8502 秋田市手形学園町 1-1 †E-mail: [email protected]
ルコックではなくシャトルと呼ばれることが多く, 競技用で主に使用されているのはガチョウの羽根 (羽根軸が強く丈夫)とコルクから作られていて, 各羽根は樹脂でコルクに固定されている.競技とし てのバドミントンは,緩急を使い分ける様々なショ ットやフットワーク,対戦相手との駆け引きを要す る.バドミントンはテニスのようなショットの際に 回転を加えることで,シャトルの飛翔軌道を大きく 変化させることはできないので,バドミントンはコ ースとスピードの緩急で試合をするスポーツと言え る.このスピードは,力の入れ具合でも変化させる ことができるため,バドミントンは簡単に戦略性の 高いゲームが楽しめるとともに,手軽にできるスポ ーツとしての楽しさの両面を兼ね備えている.こう したバドミントンの魅力を引き出している要因に, シャトルの有する飛翔体としての高い減速特性があ げられる.シャトルは,相手コートに届くまでに, 空気抵抗を受けて急激に減速する.たとえば,初速 67 m/s で打ち出した場合,約 0.6 秒後には 7 m/s にま で減速する 2).こうしたシャトルの初速と終速の差 が著しいことも,他の球技には無い大きな特徴と言 える. これまでの研究では,ショット時のプレーヤーの 動作についてなど,バドミントンのスキル向上のた めの道具やバイオメカニクス的視点からの研究が盛 んに行われてきた3, 4).シャトルに関しては,さまざ まなショットでの飛翔軌道について,実験的および シ数値的解析が行われている5, 6).特に,流体力学的 な観点での研究では,シャトルの空力特性について, 流れ場の可視化 7) や数種類の形状のシャトルを使 用し,いずれのシャトルにおいても,値に多少のば らつきはあるものの,ほぼ類似の空力特性を有する ことが報告されている8, 9).また,シャトルをコルク 部,スロット部,スカート部に分けて,各部位まわ りや後方での流れ場について,可視化をもちいた研 究も行われている10).その結果,コルク部のみに比 べて,スロット部や羽根スカート部が加わることで, 大きな抵抗を生んでいることが報告されている.シ ャトルが大きな抵抗を持つ要因に,コルク部に隙間 を空けて羽根の脚を植え込んだ構造ということを推 測はしているが,その詳細は明らかにされていない. つまり,なぜシャトルが高い減速特性を有するかは 不明のままである.そこで,シャトルは異常に抵抗 が大きいが,それはなぜか,シャトルの構造にその 理由があるとみて実験的に調べてみた.本研究では, 風洞試験でシャトルに作用する流体力とシャトルま わりおよび後流での流れ場を測定し,シャトルの有 する減速メカニズムを調べた.他の実験では,主に 低速領域での計測がなされているが,本研究ではそ れよりも速い速度領域での風洞実験で流れ場の測定 もあわせて行っている.シャトルは,飛翔中に主軸 周りに回転(スピン回転)しながら飛んでいく.そ のため,スピン回転が流体力に及ぼす影響について も調べた.特に,シャトルは羽根付け根部に隙間の ある構造となっており,この隙間が流体力に影響を 及ぼす可能性があると考え,シャトルの羽根付け根 部隙間を塞いだシャトルでも実験を行った. 2 実験装置および方法
Fig.1 Schematic diagram of experimental setup.
(a) standard shuttlecock (with gaps)
(b) shuttlecock with no gaps
(c) enlarged view of shuttlecock feather
Fig.2 Shuttlecock geometry.
gap
2.1 実験装置 実験は,東北大学流体科学研究所の風洞を使用し た.その風洞測定部の概要図をFig. 1 に示す.風洞 は,対辺距離0.29 m の正八角形の吹き出し口を有す る回流式である.測定部は開放型とし,その際の主 流速U0は,5~65 m/s の範囲で可能である.シャト ルを設置する測定部中心での乱れ強さは,最大でも 0.4%以下である11).実験で用いたシャトルは,試合 球として利用されている第一種検定合格球である YONEX 製 NEW OFFICIAL を使用した.使用した シャトルコックの写真をFig. 2 に示す.シャトルの
主要寸法はTable 1 に示す.Fig. 2(a) は,通常のシ ャトルである.隙間は,コルク部側から順に,第 1 スロット,第2 スロット,第 3 スロットとした.ま た,シャトル内部に流れ込む流れが,抗力に与える 影響を調べるために,羽根付け根部の隙間を塞いだ シャトルでも実験を行った.Fig. 2(b)に加工したシ ャトルの写真を示す.隙間のないシャトルは,シャ トルスカート付け根の隙間を,通気性の無い滑らか なフィルムテープで覆った.これにより,スカート 付け根部の隙間からシャトル内部への流れを完全に 遮断した.また,シャトルの羽根は,Fig. 2(C)の拡 大図に示すように,羽根軸を中心に左右で非対称な 形となっている.この羽根が隣同士で一部が重なり 合うように配置されている.そのため,シャトルは 飛翔中に主軸周りにおいて,自由回転する.回転方 向は,シャトル進行方向から見て時計回りである. この回転を模擬するために,風洞内に設置する際, シャトルは,後方から軸によって支持を行なった. シャトルと軸の間にブッシュを用いて固定し,主流 によりシャトルが自由に回転できるようにした.ブ ッシュには軸との摩擦が少なく,耐摩耗性に優れた ものとしてPEEK 樹脂材を使用した.風洞試験での シャトルの回転数は,非接触の回転計(CT-742, ONO SOKKI)を使用し測定した. 流体力の測定には,三分力天秤(LMC-3501-50N, NISSHO – ELECTRIC - WORKS)を用いた.レイノ
ルズ数 Re は,無風時におけるシャトル最大幅であ る羽根部後端(スカート)直径D を代表長さとして 定義した.また,シャトルの先端(コルク部)が風 上方向に向いている状態を迎角 α=0 °として定義し た.流体力測定では,Re=4.3×104(10 m/s)~2.6×105 (60 m/s)の範囲で実施した.座標系は Fig. 1 に示 すように,シャトル重心を原点とした.シャトルの 重心は,コルク部の端から31.4 mm (X0 = 31.4 mm) である.シャトルまわりや後流での流れ場の測定は, 粒子画像流速測定法(PIV: Particle Image Velocimetry) を用いた.PIV 計測では,スモーク発生器(LSG500-S, SEIKA CORPORATION),CCD カメラ(PIVCAM10- 30,TSI)および Nd-YAG レーザー(MiniLaseⅡ- 30, NEW WAVE RESERCH Ltd)を使用した.また,実験 中に生じるシャトルスカート径の変形量の測定には, 高速度ビデオカメラ(FASTCAM- SA3, Photron Ltd) を使用した. 3 実験結果および考察 3.1 シャトルの抗力特性 Fig. 3 に各レイノルズ数におけるシャトルスピン 回転の回転角速度ω を示す.図中の黒塗りされた印 (■)は実際にラケットによって打球し,シャトル が準定常状態に達した際の回転速度を示す.回転速 度は,高速ビデオ画像から読み取った.レイノルズ 数の増加にともない,回転角速度は増加している. 角速度を実際の飛翔時のものと比較すると,同程度 の値である.羽根付け根部隙間を塞いだシャトルの 回転角速度は,通常のシャトルとほぼ同じ値となっ た.つまり,隙間を塞ぐことにより回転に与える影 響は,ほとんどないといえる. Fig. 4 に各レイノルズ数における抗力係数CDを示 す.CDの計算には,後で述べるシャトル径の変形は 考慮せず,Table 1 に示したシャトルの寸法を用い ている.測定値は,各レイノルズ数で,シャトルの 回転が安定したのちの約 10 秒間の平均値として求 めている.その際の平均値の測定毎のばらつきは 3 %以内である.回転なしの通常シャトルでは,レ イノルズ数の増加にともない,抗力係数は緩やかに 減 少 し てい く . 回転 あ りの 通 常 シャ ト ル では , Re=1.7×105までの範囲では,回転なしの場合とほ ぼ同様の傾向である.抗力係数は,回転ありシャト
Table 1 Shuttlecock dimensions
Total length H (mm) Length of shuttlecock L (mm) Length of cock h (mm) Width at the end of skirt D (mm) Width of cock d (mm) Mass M (g) Position of centre of mass Xo (mm) NEW OFFICIAL 85.0 60.0 25.0 66.0 26.4 5.4 31.4
ルで,回転なしに比べわずかに高い値となっている が,顕著な差ではない.しかし,回転ありの場合, Re=2.1×105では抗力係数の低下はみられない.さ らに,Re=2.5×105を超えると,抗力係数が増加傾 向を示している. 一方,隙間を塞いだシャトルでは,通常シャトル に比べ,抗力係数は約1/3 程度小さい値となってい る.このように隙間を塞ぐことで,抗力が大きく減 少する理由については,流れ場の結果をもとに,次 節以降で詳細に述べる. Fig. 5 に各レイノルズ数でのスカート径の収縮率 を示す.一般に,主流の動圧を受けシャトルスカー ト径は減少する.この変形は,主流速が速くなると 顕著となる.シャトルスカート径の変化は,変形後 のスカート径 D′および変形前のスカート径 D を用 いて,収縮率δ(=1-D′ /D)で評価した.変形時の スカート径は,高速度カメラで撮影し画像処理によ り求めた.回転なしシャトルの場合,レイノルズ数 の増加にともない,δ の値は増加している.レイノ ルズ数が高くなるにつれ,シャトルスカート径の変 形量は大きくなり,より縮んでいく.シャトル径が 縮んだことで,抗力が低下する.それに対して,回 転ありシャトルでは,レイノルズ数が増加した際の 収縮率は小さくなっている.つまり,回転ありシャ トルでは,スカート径の収縮率は抑制されている. レイノルズ数が増加することで,シャトルはより高 速回転する.その結果,高速回転時にはシャトルス カート部に大きな遠心力が発生し,スカート径の減 少が抑えられる. 3.2 スピン回転が空力特性に及ぼす影響 迎角が 0°の場合,スピン回転がシャトルの抗力 に及ぼす影響は少なかった.しかし,実際のシャト ルは飛翔中,高速に回転する構造となっている.そ こで,スピン回転が空力特性に及ぼす影響を調べる ために,迎角を変化させて測定を実施してみた.Fig. 6 にシャトルの迎角を変化させた際の揚力係数,抗 力係数,ピッチングモーメント係数を示す.図は隙 間ありシャトルでの結果である.シャトルスカート 部の開き角は片側で,19°である.そのため,迎角 が19°付近で,シャトル上側の縁は,主流とほぼ平 行になる.迎角を変化させた測定は,迎角がこの 19°を超える範囲まで実施した. 迎角が 0°の時,揚力係数はスピン回転の有無に かかわらず,ほぼ0 となる.そして,測定の範囲で は迎角が増加するにつれて,揚力係数は増加する. 揚力係数の変化において,スピン回転の影響は確認 できなかった. Fig. 6(b)で抗力係数は,迎角 20°付近までは,緩 やかに減少していく.シャトルの迎角が大きくなる にしたがい,シャトル下方側のスロット開口部は, 流れに対する角度が大きくなる.このため,スロッ トによる開口部分の面積が,見かけ上増加する.見 かけの開口部分が増加することで,シャトルが主流 から抵抗を受ける部分の面積が減少することになる. 前述したように迎角19°付近では,シャトル上側の 縁が流れとほぼ平行になる.つまり,迎角19°を超 えない範囲では,シャトルの前面投影面積は,ほと んど変わらない.前面投影面積が変わらず,主流を 受ける部分の面積が減少したことで,抗力の値が減
Fig. 3 Rotation rate (auto rotation).
Fig. 4 Drag coefficients (α=0°). Filled and open symbols
denote shuttlecocks with and without gaps, respectively.
Fig. 5 Deformation ratio for the shuttlecock with gaps
(α=0°). 0 100 200 300 400 500 600 ω (r ad /s ) ordinary no-gap actual Re 2.1×105 1.3×105 4.3×104 standard no-gap actual 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 δ 4.3×104 1.3×105 2.1×105 Re w. rotation w/o. rotation 2.1×105 Re 1.3×105 4.3×104
少している.迎角19°を超えると,シャトルの前面 投影面積が増加する.そのため,投影面積増加の影 響が現れ,迎角の増加とともに抗力係数は増加傾向 になる.こうした迎角を変化させた際に,抗力係数 が低下した後に増加していく傾向は,Cooke が示し た結果と類似している 7).こうした抗力係数の変化 の傾向は,スピン回転ありのシャトルでも,同様の 結果となった.言い換えると,迎角を変化させた際 の抗力係数には,スピン回転の影響は確認できない 結果となった. 一方,Fig. 6(c)に示すピッチングモーメント係数は, 迎角の増加につれて,値が大きくなっている.本実 験での天秤の設定では,正のピッチングモーメント は,姿勢を迎角0 に戻す方向に作用する.そのため, 飛翔時のシャトルは,迎角が大きくなるほど,シャ トルの迎角を0 に戻そうとする力が大きくなってい る.つまり,シャトルは飛翔安定性が高いというこ とになる.さらに,スピン回転のあるシャトルは, いずれの迎角においても,モーメント係数の値が, 回転なしに比べ大きい.また,回転ありシャトルの 回転なしシャトルに対するモーメント係数増加の割 合は,迎角が増加するにつれ,より大きくなってい る.このことより,シャトルのスピン回転は,シャ トルが縦揺れを起こさず,より安定に飛翔するため に影響していると言える. 3.3 シャトル後方の流れ場 Fig. 7 に,隙間あり,なしでのシャトルまわりの 流れの可視化を示す.図は,回転ありシャトルであ る.可視化は,スモークワイヤー法を使用した.シ ャトルの中心軸(Y/D = 0)の上流側 X/D = -2 mm の
(a) standard shuttlecock
(b) shuttlecock without gaps
Fig. 7 Side views of the flow around the rotating
shuttlecock. Smoke streaklines originate into the crossflow by means of a smoke wire (Re=2.1× 104, α=0°).
(a) lift coefficient
(b) drag coefficient
(c) pitching moment coefficient
Fig. 6 Aerodynamic characteristics versus an angle of
attack for the shuttlecock with gaps at Re=1.3× 105.
Flow
Flow
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 4 8 12 16 20 24 CL α[deg] w. rotation w/o. rotation 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 4 8 12 16 20 24 CD α[deg] w. rotation w/o. rotation 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0 4 8 12 16 20 24 CM α[deg] w. rotation w/o. rotation位置に,Z 方向に太さ 0.1 mm の ステンレス線を 貼り付けた.上流側に貼り付けたワイヤーが流れ場 に影響を及ぼさないことは,熱線プローブを使用し ワイヤー後方の流れを測定することで事前に確認し た.隙間ありシャトルでは, コルク部先端からの流 れは,コルクに沿って流れ,羽根付け根部隙間から 内部に流れ込む.羽根付け根部隙間は,吸込みスロ ットの役割をしているといえる.そして,上流から の流れは,隙間に流れ込む流れと,羽根に沿って下 流方向に向かう流れとに分かれる.シャトル後方で は,羽根スカート部後端からはく離した流れと,シ ャトル内部から下流方向へ流れ出る流れが存在して いる.また,コルク部から羽根部においても,シャ トル表面に沿った流れが確認できる(Fig. 7(a)の○ 印).一方,隙間なしシャトルでは,コルク部先端か らの流れは,コルク部を回り込む際に,一度はく離 する.はく離した流れは,その後,羽根付け根部で 再付着している様子が確認できる(Fig. 7(b)の○印). こうして,隙間のあり,なしでシャトルまわりの流 れに違いが生じる.
(a) standard shuttlecock
(b) shuttlecock without gaps
Fig. 8 Wake flow visualized by smoke-seeding crossflow for
the rotating shuttlecock (Re=2.1×104, α=0°).
(a) standard shuttlecock
(b) shuttlecock without gaps
Fig. 9 Density map of vorticity and flow vectors in the
wake of the rotating shuttlecock at Re=2.1×105.
(a) standard shuttlecock
(b) shuttlecock without gaps
Fig. 10 Velocity profiles in the wake of the rotating
shuttlecock at Re=2.1×105 (α=0°). Flow 2.0 -0.5 Z/ D X/D 1.0 0.5 3.0 0 U/U0=1 U/U0=1 X/D 1.0 2.0 3.0 -0.5 Z/D 0.5 0 0.5 X/D 1.0 2.0 3.0 Z/ D 0 -0.5 U/U0=1 3.0 2.0 0.5 Z/D X/D 1.0 0 -0.5 U/U0=1 0 -15 15 ΩD/U0 0 -15 15 ΩD/U0
さらに,隙間の有無でシャトルの抗力係数に違い が生じた理由を調べるために,シャトル後流での流 れ場を調べてみた.スピン回転が抗力に及ぼす影響 は小さいため,回転なしシャトルで実施した.Fig. 8 にスモークワイヤによる煙で可視化した結果を示す. シャトルスカート後端からはく離した流れによるは く離せん断層が,下流側に存在している.通常のシ ャトルでは,羽根付け根部の隙間を通過した流れが 後方に確認できる.この流れが,はく離せん断層内 に引き込まれている(図中の○印).これにより,は く離せん断層内に周囲の流体が取り込まれ,より下 流まではく離せん断層の影響が残ることになる.こ うした周囲の流れが引き込まれる様子は,隙間を塞 いだシャトル後方では確認できない. シャトル後流のPIV 計測の結果を Fig. 9 に示す. 図は渦度のY 方向成分を示している.Y 方向の渦度 Ω は,
ߗ=
ப பെ
பௐ ப(1)
である.U および W は,それぞれ速度の X 方向,Z 方向成分である.図は,シャトル中心軸上Y/D=0 で のX-Z 平面内の流れである.PIV 計測では 15 Hz 間 隔の測定を100 回行い,平均して求めている.渦度 の等値線と速度ベクトルを重ねて表示してある.通 常シャトルでは,シャトルスカート部後端からのは く離せん断層内の渦が,より下流まで存在している 様子がわかる.このため,後流での圧力回復位置が, より下流となる.それに対して,隙間なしシャトル では,はく離せん断層内の渦の拡散が生じ,速度の 一様化が下流方向に進み圧力回復がなされる.こう した後流での流れ場の様子を比較したものを Fig. 10 に示す.シャトル中心軸上での各下流位置におけ る,主流方向速度を示している.通常シャトルでは, シャトル後方での速度欠損域が,より下流まで存在 している.つまり,下流での圧力回復が遅れ,低圧 部がより下流位置まで広がる.こうしてシャトルス カート部付け根に隙間があることで,抗力の増大を 引き起こすことになる.こうした隙間の有無での, シャトル後流での流れの様相のイメージを比較した ものをFig. 11 に示す. 3.4 シャトル内部の流れ場 シャトルに隙間があることで,シャトル内部の流 れがどのようになっているかを調べてみた.シャト ルは羽根が全周にわたり存在するため,内部の流れ を直接見ることができない.そこで,Fig. 12 に示す ように内部の流れが可視化できるように,シャトル の改良を行った.内部可視化用のシャトルは,全周 の約 1/3 に相当する 120°分だけ羽根を残し,それ 以外の部分の羽根は取り除いてある.その際,羽根 を取り除いた部分から,流れが外に出ないよう,あ るいは外部から流れが侵入しないように,羽根を取 り除いた部分は,通気性のない透明なフィルムテー プでふさいだ. シャトルは,上下,左右に対称な構 造は保たれている. Fig. 13 にシャトル内部の流れをPIV 計測した結果 を示す.内部の流れを測定する場合,シャトル内部 に支持装置がこないようにしている.シャトル内部 に,隙間から入った流れが顕著に確認できる.スカ ート部隙間から内部に侵入した流れは,上流側に向 かう流れと下流側に向かう流れに分かれる.このう ち,上流側に向かう流れは,コルク部下流端との空 間で渦巻くように存在している.この渦の存在で, コルク部下流側に低圧部が存在することになる.下 流側に向かう流れは,羽根に沿って流れようとする が,羽根の開き角があるため,途中から羽根に沿い きれなくなる.つまり,シャトル内部では羽根が拡 大流路を形成する.拡大流路の開き角が大きい場合, 流れは上下の壁からはく離し(図中の○印),流路の 有効断面積が減少することで噴流挙動を示す.こう したシャトル内部の流れを模式的に示すと Fig. 14 のようになる.こうして,内部に侵入した流れは, シャトルスカート部の開き角の影響で,速度の速い 部分を形成する.速度の速い部分では圧力は低下す る.その結果,シャトル内部に低圧部が存在する. シャトル内部での圧力低下が,コルク部前側との間 (a) standard shuttlecock(b) shuttlecock without gaps
Fig. 11 Cartoon depiction of flow fields in the wake of
で圧力差を生じる.この圧力差が,高い減速特性を 有することにつながる. 換言すれば,シャトルは,隙間を有し,内部に流 れを導く構造と,スカート部の開き角が流れのはく 離を生む角度となっていることから,高い抵抗を生 み出すことになる.くわえて,前述したように,こ の内部から流出した流れが,はく離せん断層内の流 れに影響することで,高い減速特性を生じる. 3.5 各スロット位置が抗力に及ぼす影響 羽根付け根部隙間からシャトル内部に導かれる流 れが,抗力増大に影響していた.そこで,シャトル 羽根付け根部にある各スロットの位置が,内部の流 れに及ぼす影響を調べてみた(Fig. 2(a)).Table 2 に各スロットの開口率σ を示す.隙間全体の面積を 100%とし,それぞれの隙間の面積比から開口率を 算出している.例えば,第1 スロットだけが開いて いる場合をType-1(T-1).第 1 と第 2 スロットの両 方が開いている場合をType-1,2(T-1,2)として示す. したがって,Type-1,2,3(T-1,2,3)というのは通常 シャトルを意味する. Fig. 15 に,スロットをそれぞれふさいだ際の抗力 係数を示す.開口率が小さくなるにしたがい,隙間 なしシャトルの抗力係数に近づいていくことが確認 できる.つまり,シャトル内部に流れ込む流量が多 いほど,抗力係数の値が高い.しかし,Type-1 と Type-3 では,ほぼ同じ開口率にもかかわらず,抗力 係数の値に違いが生じている.こうした抗力係数の (a) side view
(b) top view
Fig. 12 Shuttlecock model for visualizing flow inside the
shuttlecock skirt.
Fig. 13 Density map of vorticity and flow vectors inside
the shuttlecock skirt (Re=8.6×103, α=0°).
Fig. 14 Cartoon depiction of flow inside the shuttlecock.
Table 2 The ratio of slot open area.
Type σ (%) T-1,2,3 (standard) 100 T-2,3 75 T-1,2 72 T-1,3 53 T-2 47 T-3 28 T-1 25 no-gap 0
Fig. 15 Drag coefficients of the no-rotating shuttlecock
(α=0°) Z/D X/D 0.5 0 0.8 0 1.6 -0. 5 ΩD/U0 0 -10 10 1.7×105 2.6×105 8.6×104
傾向は,回転ありシャトルでも確認したところ,同 様であった.Fig. 16 に,Type-1 と Type-3 での流れ
場の比較を示す.Type-1 では,スロットから入り 込んだ流れは,コルク部下流側に渦を生成する.一 方,Type-3 では,内部に流れ込んだ流れは,羽根の 開き角に添えきれず,シャトル後方に流れ出る.こ の時,第3 スロットのみでは内部に流れる流量が少 ない.その結果,シャトル後方に流出した流れが, はく離せん断層に与える影響が小さい.このため, コルク下流側で低圧部を作ることができた Type-1 の場合で,Type-3 に比べ抗力係数の値が大きくなっ ていると推測される.言い換えれば,Type-3 が後流 の流れに影響を与えるより,Type-1 が内部に発生さ せた渦による低圧部の方が,抗力に及ぼす影響が大 きかったことになる.このことから,第1 スロット は,コルク部下流に低圧部を作る役割.第 2,第 3 スロットは,はく離せん断層に流れを供給する役割 を担っていることになる. 今後は,こうした各スロットがシャトル内部に及 ぼす影響を,シャトルの羽根付け根部隙間のあり, なしを模擬した金属製のシャトルを用いて,シャト ル 内 部 の 壁 面 圧 力 分 布 を 感 圧 塗 料 (PSP : Pressure-Sensitive Paint)を使用することで,より詳 細に調べていく予定である. 4 結論 シャトルの有する極端に大きな減速特性を調べる ために,風洞試験で流体力測定と流れ場の可視化お よびPIV 計測を実施した結果は,以下のとおりまと めることができる. (1) シャトルの抗力は,スピン回転の影響は受けな い.しかし,高速域でシャトルが高速スピン回 転すると,回転なしの場合に比べシャトルスカ ート径の収縮が抑制され,抗力に影響が生じる. (2) 羽根付け根部隙間を塞ぐことで,シャトルの抗 力は大きく低下する. (3) シャトル内部を通過した流れは,シャトル後方 のはく離せん断層内の流れに引き込まれる.こ のため,はく離せん断層内の渦がより下流まで 存在することとなり,後流での圧力回復位置が より下流となる.つまり,シャトル後流の広い 範囲で低圧部が存在する. (4) シャトル内部に流れ込む流れは,コルク部下流 側で低圧部をつくる.これによりコルク部前側 との圧力差が生まれ,シャトルの抗力として作 用する. (5) こうしたシャトル内部の流れと内部を通過し 後方に流れ出た流れの存在が,シャトルの高い 減速特性を生む. 本研究は東北大学流体科学研究所における公募共 同研究による.本研究の実施にあたって,特に風洞 でシャトルを設置する際の測定部の変更,測定プロ グラムの改修に協力していただいた,東北大学流体 科学研究所技術室風洞実験室の奥泉寛之氏,小西康 郁氏に感謝の意を表します. 引 用 文 献 1) バドミントン競技規則, 公益財団法人日本バドミ ントン協会, (2012).
2) M. Hubbard and A. Cooke, Spin dynamics of the badminton shuttlecock, Proc. 6th International Symposium on Computer Simulation in Biomechanics (1997), pp. 42-43.
3) 湯海鵬,阿江通良,バトミントンのスマッシュ動 作の三次元動作解析‐腕とラケットの速度を中 (a) type-1
(b) type-3
Fig. 16 Density map of vorticity and flow vectors inside
the shuttlecock skirt (Re=8.6×103, α=0°).
Z/D X/D 0 -0. 5 0.5 0.8 0 1.6 ΩD/U0 0 -10 10 0 -0. 5 0.5 0.8 0 1.6 Z/D X/D ΩD/U0 0 -10 10
心に‐,バイオメカニズム学会誌 Vol. 18, No.3 (1994), pp.164-172. 4) 阿部一佳,渡辺雅弘,太田憲,中谷敏昭,バトミ ントン・ラケットに作用するモーメント・パター ンから見たパワー・ストローク・プロダクション の類型,大学体育研究14 (1992), pp.53-61.
5) A. Cooke, Computer simulation of shuttlecock trajectories, Sports Engineering 5 (2002), pp. 93-105. 6) C. M. Chan and J. S. Rossmann, Badminton
shuttlecock aerodynamics: synthesizing experiment and theory, Sports Engineering, Vol. 15, No. 2 (2012), pp. 61-71.
7) A. Cooke, Shuttlecock Aerodynamics, Sports Engineering 2 (1999), pp. 85-96.
8) F. Alam, H. Chowdhury, C. Theppadungporn and A. Subic, Measurements of Aerodynamic Properties of Badminton Shuttlecocks, Procedia Engineering 2 (2010), pp. 2487-2492.
9) F. Alam, C. Theppadungporn, H. Chowdhury and A. Subic, Aerodynamic of Badminton Shuttlecock, The Impact of Technology on Sport Ⅲ(2009), pp. 239-243. 10) 綿貫忠晴,鈴木宏二郎,バトミントン用シャトル コックの基礎的空力特性,第38回流体力学講演会 論文集,1B7(2006),pp89-92. 11) 小浜泰昭,小林陵二,伊藤英覚,小型低乱風洞の 性能測定結果について,東北大学高速力学研究所 報告,第48巻,422号 (1982),pp.119-142.