テーマ「肺がん治療の臨床現場での取り組み」
肺がん放射線治療への取り組み -呼吸性移動対策と FFF
の臨床利用-神戸低侵襲がん医療センター 上原 和之
はじめに
当院では肺がんの治療に対してCyberKnife(Accuray 社製)と TrueBeam(Varian Medical Systems 社製)の 2 つの放射線治療装置を運用し,症例によって選択している.今回は,放射線治療装置の使い分けと実施している呼 吸性移動対策,Flattening Filter Free(FFF)の臨床利用について紹介する.
1. 放射線治療装置の選択 当院ではまず腫瘍医が診察時に体位保持や安 静呼吸の可否(30 分程度)などの患者状態と,腫 瘍のサイズと形状から CyberKnife の適用を判断 している(Fig. 1).その後,照射方法の選択のた めのシミュレーションの結果によってTrueBeam に 切り替える場合がある.このようにTrueBeam の適 用は,CyberKnife での治療が困難と判断された 症例が主となっている.腫瘍のサイズが大きく判断 が難しい場合は両方の治療計画装置でプランを 作成・比較し,担当医に判断を仰いでいる. 2. CyberKnife 2.1 ワークフロー 当院のCyberKnife VSI は G4 から最大線量率 が上昇(1000 MU/min)し,マーカーレス動体追 尾 照 射 の 治 療 前 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン ソ フ ト ウ ェ ア (LOT:Lung Optimized Treatment)が搭載され たバージョンである.当院ではこの機能を使用して 事前にシミュレーションを行い,その結果によって ①マーカーレス動体追尾照射,②金属マーカー 使用の動体追尾照射,③同期無し ITV 法から照 射方法を選択している.CyberKnife の治療まで のワークフローを Fig. 2 に示す.一部の症例で体表マーカーと体内マーカーとの相関関係が乏しい,または椎体の 認識が悪いことがあり,このような場合CyberKnife での治療は困難であるため TrueBeam に装置を切り替えている. 治療時には後述するcorrelation error の値から追尾照射が適正に実施されているかをモニタリングしている. Fig. 1 当院の肺がん放射線治療の選択肢 Fig. 2 CyberKnife のワークフロー
2.2 CyberKnife で可能な照射方法 CyberKnife の動体追尾機能は体表の赤外線マーカーの動きと kV-X 線画像で認識される体内マーカー(腫瘍陰 影または金属マーカー)の動きとの相関関係をモデル化し,115 ms 後の体内マーカーの移動量を予測しながら追尾 照射を行う1).またその相関モデルはkV-X 線画像を取得するごとに更新されていくため,治療中のベースラインの変 化にも対応可能である.事前のシミュレーションは治療ビームを照射しない以外には実際の治療と同じ環境下で行い, 相関モデルの作成と約10 分間の correlation error(赤外線マーカーから予測される体内マーカーの位置と kV-X 線画像から検出される実際の位置との誤差)を評価,記録している(Fig. 3-a).得られた correlation error は治療計 画時のマージンに考慮している.以下に当院で使用している追尾方法を示す.
① マーカーレス動体追尾照射(XLT:Xsight Lung Tracking)
この方法では椎体の骨照合で回転補正を行った後に kV-X 線画像上の腫瘍陰影と体表マーカーとの相関モデル を作成して追尾を行う.金属マーカーの留置が不要で非侵襲かつ腫瘍そのものを追尾するため最も理想的な方法と 考えられるが,椎体と腫瘍陰影が正確に認識されることが条件である.当院では事前の X 線透視と CT 画像上での 腫瘍位置からXLT 可能と判断した症例に対して LOT シミュレーションを実施しており,そのうちの約 7 割の症例で XLT による照射が可能と判定されている.
② 金属マーカー使用 動体追尾照射(Synchrony respiratory tracking)
この方法では腫瘍近傍への金属マーカー留置が必要となるが,体表マーカーとの相関モデルの対象が金属マーカ ーに替わる以外はXLT と同様の機構である.治療装置はあくまで金属マーカーの移動量に対して動体追尾を行うた め,呼吸周期中の腫瘍と金属マーカーとの移動量の誤差,治療計画時からの腫瘍と金属マーカーの位置関係の変 化を考慮する必要がある.前者に対して当院では治療計画用 CT 画像と 4DCT 画像とを金属マーカーを基準に registration を行い,各位相でターゲットを作成,合算することで腫瘍と金属マーカーとの呼吸性移動量の差を治療 計画に考慮している.また後者に対しては初回治療当日に治療体位でCT を撮影し,治療計画用 CT 画像と金属マ Fig. 3 CyberKnife の各記録用シート
ーカーを基準とした registration,及び位置関係の評価を行うことでマーカーに変位がないことを確認している (Fig3-b).
③ 呼吸同期無し ITV 照射(Xsight Spine Tracking)
肺上葉の腫瘍など呼吸性移動量5 mm 未満の症例については椎体の骨照合(Xsight spine tracking)による ITV 照射を行っている.治療中は一定の時間間隔(当院では30-90 秒程度)で kV-X 線画像が取得されており,その度に 椎体のDRR との照合で検出された誤差を補正した状態で照射が行われる.この方法ではあくまでも椎体のみを追尾 しているため,ターゲットについては4DCT などを用いて ITV を考慮する必要がある.
3. TrueBeam 3.1 ワークフロー
TrueBeam では④Abches(APEX Medical 社製)による呼気息止め照射,⑤Gating 照射, ⑥ITV 法による照射を行っている.TrueBeam の治療までのワークフローを Fig. 4 に示す.息 止め照射では患者の状態を考慮して担当医が 可能と判断した場合に,治療計画用CT 撮影の 事前に約1時間の呼吸性移動量評価と息止め 練習を実施している.ここではAbches を使用し た自由呼吸,20 秒程度の息止め時の X 線透視 像によって腫瘍陰影やマーカーの移動量を評 価し,息止めの再現性,持続性の評価を行う. 息止めが困難な場合はGating 照射,呼吸性移動量が 5 mm 未満の場合は ITV 法による照射を選択する2).治療 計画用CT 撮影ではターゲット部分のみ 4DCT を同時に撮影し,治療計画に使用している. 照射直前には呼気息止めの CBCT と OBI の X 線透視によってターゲット位置の確認を行っている.当院の TrueBeam の MV imager は FFF の線量率に対応しておらず,照射中のシネ撮影ができないため,FFF 使用時に は照射中のターゲット位置確認の課題がある.この点についてはハードウェアがver.2.0 以降の TrueBeam では MV imager が FFF の線量率に対応済みであり,照射中のシネ撮影が可能である 3.2 TrueBeam で可能な照射方法 TrueBeam で治療を行う場合には治療計画用 CT 撮影の時点で照射方法は確定しており,CyberKnife のように 治療室での事前シミュレーションは実施しない.CyberKnife から装置変更となった患者はセットアップ法がそのまま 適用できる Gating 照射,または ITV 法による照射で治療を行っている.以下に当院で使用している照射方法を示 す. ④Abches による息止め照射 Abches は胸腹部の 2 点にアームを接触させ,その体動から呼吸波形を検出する.患者が自身の呼吸状態をリアル Fig. 4 TrueBeam のワークフロー
タイムに確認できるため,技師 指示を受けて息止めを行う際 再現性や息止め中 安定性に優れる.当院 再現 性,持続性 よい呼気で 息止めを採用しており,治療計画用 CT で 呼気息止めで 3 回撮影してターゲット位置
再現性評価やITV マージン設定に利用している. ⑤Gating 照射
4DCT RPM(Real-time Position Management system, Varian Medical Systems 社製)を使用し,撮影範 囲をターゲット近位に絞って撮影する.4DCT 画像に問題があれ 再撮影を行う必要があるため,撮影後 即座 に再構成を行い,技師と物理士でデータ欠損やアーチファクト 有無および程度を確認している.
TrueBeam 呼吸同期照射で RPM で なく,付属 Respiratory Motion Management system を使用す る.赤外線カメラ(Optical imager)と体表マーカーも RPM と 異なるが,コミッショニング時に動体ファントムを使用 して比較した両者 波形に差 無く,CT 撮影時に RPM で得られた波形をリファレンス波形として使用可能である. 治療時 位置照合 Gating Mode で OBI 撮影を行うことで金属マーカー,腫瘍影や横隔膜など 位置再現性を 確認する.Gating Mode 呼吸周期で なく波形 振幅を基準にビームオントリガーを設定する Amplitude-based Gating を使用しており,治療中に呼吸波形 ベースラインシフトが発生する場合があるため,そ 際に 呼吸波形 再取得とOBI による再照合を実施する必要がある. ⑥ITV 法による照射 呼吸性移動量が小さい(<5 mm),また 息止め,安静呼吸が困難な症例 従来 ITV 法による照射を実施する. 3.3 FFF の臨床利用について FFF を臨床使用することについて 長短に関して 未だに議論 あるが3),最大 利点 従来よりも高い線量率と 考えられる.高線量率 使用によって照射時間 短縮が見込まれ,時間 かかる息止め照射や呼吸同期照射で治 療時間全体 短縮による患者 負担軽減が期待できる 4).当院で 治療時間短縮を目的として主に体幹部定位照 射,緩和照射,一回線量 大きなIMRT で FFF を臨床使用している. 3.4 肺野 SBRT における FFF の利用 FFF 凸型 プロファイル特性を示すが,小照射 野で そ 影響 小さい.例え 6 MV エネルギ ーにおいて6 cm 以下 正方形照射野サイズであれ Flattening filter(FF)装填ビームと同等 プロフ ァイルを示す(Fig. 5).肺野 SBRT で使用される照 射野サイズで プロファイル特性 影響 小さい事 が予想される. FFF 臨床使用 事前検証としてプランニングスタデ ィを行った.肺野 SBRT:9 症例において PTV 最 大線量 平均値で有意差 無く 1%程度増加であ り,各OAR を含めて DVH 上で大きな変化 見られ Fig. 5 6 MVX 線 10 cm 深における線量プロファイル 実線 FF 装填,破線 FFF 線量プロファイルを示す
なかった(Table 1). 全 81 門 照射について MU を線量率で割って簡易に Beam-On-Time を求めると FF 装填(線量率:600 MU/min)と FFF(線量率:1400 MU/min)と比較して 4-37 秒から 2-17 秒に減少した.これ 息止め照射であれ , 各門1 回 息止めで十分照射可能な時間に短縮している. 3.5 FFF の皮膚線量 FFF FF で 線質硬化が起きないため低エネルギー成分 増加するが,一方でガントリヘッド内 散乱線 減 少する.前者 皮膚線量 増加に,後者 減少に寄与する事象である.FFF で 皮膚線量 すでに論文等で報告 されているが当院でも測定を行い,FF 有無およびエネルギー間で 比較を実施した5).
測定に 平行平板形電離箱線量計(PTW34045 Advanced Markus chamber, PTW 社製),タフウォータファ ントム(京都科学社製)を使用した.照射野サイズ10×10 cm2,Dmaxに対する深さ0 mm における相対線量 FF 有無によって6 MV で 5.7%,10 MV で 2.4% 線量増加がみられ,Dmaxまで一貫してFFF 方が高線量となって いた(Fig. 6).当院で 4 MV エネルギーも使用可能 であり, 6 MV FFF と比較すると,深さ 0 mm を除い て4 MV 方が高線量であった(深さ 0 mm で 4 MV: 6 MV FFF=21.6%:22.2%).照射野サイズによる影響 について 文献と同様 結果が得られ,小照射野で FF 装填に比べて FFF 線量が高いが,照射野が大き くなるとFF 有無による差 小さくなり,FF 装填 線量 方が高くなった 6).これら 結果から FFF 使用によっ て皮膚 物理線量 増加するが,これまで 4 MV 使用データ,経験が参考になる で ないかと考える. 4. おわりに 当院 肺がん放射線治療に対する取り組みとして放射線治療装置 使い分けと呼吸性移動対策,FFF 臨床使 用について紹介した.照射方法 選択肢が多いために様々な状態 患者に対応可能だが,一方で治療まで 行程 Table 1 肺野 SBRT プランにおける FF 装填と FFF と 線量指標 比較 Fig. 6 ビルドアップ領域 深部線量曲線
と管理が複雑になってしまっている.そのため,円滑に治療開始に至るには放射線治療に関わる職種間での情報共 有が重要である. FFF の利用については現状臨床成績への影響に関する報告は少なく,線量分布上の改善はほとんど無いため, 治療時間の短縮をどのように捉えるかによって使用頻度は大きく変わってくる.さらに照射野サイズや呼吸同期などの 呼吸性移動対策の有無,一回線量が使用の判定基準となってくると考えられるが,各施設で基準を設けて運用する ことが重要と考える. 参考文献
1) Pepin EW, et al., Correlation and prediction uncertainties in the CyberKnife Synchrony respiratory tracking system. Med Phys. 2011 Jul;38(7):4036-44
2) Keall PJ. et al., The management of respiratory motion in radiation oncology report of AAPM Task Group 76. Med Phys. 2006 Oct;33(10):3874-900
3) Liu C, Snyder MG, Orton CG., Point/counterpoint. The future of IMRT∕SBRT lies in the use of unflattened x-ray beams. Med Phys. 2013 Jun;40(6):060601
4) Vassiliev ON, et al., Stereotactic radiotherapy for lung cancer using a flattening filter free Clinac. J Appl Clin Med Phys. 2009;10(1):14–21
5) Wang Y., et al., Surface dose investigation of the flattening filter-free photon beams. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012 Jun 1;83(2):e281-5.
6) Fogliata A., et al., Definition of parameters for quality assurance of flattening filter free (FFF) photon beams in radiation therapy. Med Phys. 2012 Oct;39(10):6455-64