Ⅰ
はじめに
中国では 2012 年末に国家指導者が交代して以来、 金融の改革・発展が加速している。その金融改革の プログラムの中では、①金融業の市場化試行の本格 化、②伝統的な商業銀行による寡占的状態から脱却 し、自由競争にもとづく多元的な銀行システムへの 転換、③金融自由化の加速(金利、為替、資本取引) などが課題とされている。 金融の自由競争には、当事者の積極的な創意工中国個人金融における異業種参入がもたらす
イノベーションの進展
ー インターネットを活用した金融サービスの多様化 ー
李 立栄
早稲田大学大学院博士後期課程要 旨
中国において最近インターネット企業による金融サービスへの参入が活発化しており、特に コンシューマー向けのサービスが急成長している。この背景には、①中国当局の規制緩和、② インターネット人口の爆発的成長、③第三者決済をめぐる法規制の明確化、④金利規制に伴う 裁定機会などがある。 第三者決済は安全な電子商取引を図るために生まれたサービスである。第三者決済の利用者 は近年爆発的に増加しており、登録者ベースで 8 億人以上に達する。近年は第三者決済のプラッ トフォームで MMF(余額宝)の販売も行われており、個人は銀行預金よりも有利な金融サー ビスが利用できるようになっている。余額宝は発売以来僅か 1 年で開設口座数が 1 億件を突 破し、資産残高が 5,742 億元(約 12 兆円)に達し中国最大のファンドとなった。銀行預金 からインターネット事業者が提供する MMF ファンドへの資金流出の加速は、伝統的な金融 機関にとって大きな脅威となりつつある。 また、インターネット上のプラットフォームを通じて融資の貸し手と借り手をマッチングさ せる P2P レンディングも、中小企業をはじめとする強い資金調達ニーズとより有利な運用先 を求める投資家ニーズを背景として急速に市場が拡大している。もっとも、P2P には金融シ ステム上のリスクも指摘されている。 コンシューマー向けインターネットファイナンスが発達した意義としては、①金融サービス レベルの飛躍的な向上、②金融包摂の進展、③銀行以外の新たな決済プラットフォームの登場、 を指摘することができる。当局は消費者保護、リスク管理の観点から規制監督を強化する方針 であるが、彼らを金融イノベーションの担い手として活用し、既存金融機関を含む金融システ ムのレベルアップを図る意図が伺われる。夫が不可欠であるため、当局は金融サービス分野へ の新規参入規制を緩和することによって、金融イノ ベーションを加速しようとしている。とりわけ、イ ンターネット企業は新たなリテール金融のビジネス モデルの提供によって多数のユーザーを獲得してお り、その急成長ぶりが注目されている。一方で、こ うした新規参入者の動きは伝統的金融機関に大きな 影響を与えており、インターネット企業による金融 サービスに対抗する動きが出ている。 このような異業種による金融イノベーションは、 かつての 90 年代後半のアメリカや、2000 年代前半 の日本などでの動きと共通するものがある。しかし ながら、最近の中国での事例は、スケールメリット の活用、ビッグデータの活用といった点で日米の経 験より事業者に有利に働く点がある。即ち、中国の 新規参入者はレガシィシステムを抱えない後発者の 利益を活かして、今後、リテール金融サービスの水 準を飛躍的に高める可能性がある。 本稿では、まず、急成長する中国のインターネッ トファイナンスの現状と発展経緯を整理する。次に、 中国のインターネットファイナンスの業務実態を紹 介する。具体的には、第三者決済サービスやオンラ イン MMF、P2P レンディングである。最後に、中 国のインターネットファイナンスの急成長を中国の 社会実態に照らして考察しその発展の意義と規制監 督の課題を明らかにする。 Ⅱ
中国のインターネットファイナンス
の現状と発展経緯
インターネット銀行とは、Furst, Lang, and Nolle (2000)の用語に基づくと、インターネットで残高 照会以上の機能を提供している銀行を指し、そのな かで店舗を持たず、専らインターネット上でのみ活 動している銀行を「インターネット専業銀行」とい う。インターネットバンキングの利点として利用 者の利便性に加えて、U.S.Department of Commerce (1998)では、金融サービス提供業者のコストが支 店窓口の 100 分の 1 未満であることが明らかにされ ている。宮村(2002)によれば、アメリカでのイン ターネット銀行には、①従来型銀行がインターネッ トチャネルを備えたもの、②インターネット専業銀 行、③従来型銀行の一部門が別ブランドで、別の銀 行のように運営されるもの、の 3 種類があるとされ る。インターネット専業銀行は、地理的制約から解 放され多数の顧客を集めることが可能となる反面、 資金運用が難しくなり、多くの業者が淘汰されたと いう。 本稿で取り上げる中国の事例は、担い手が従来型 銀行ではない点で上述の②に近いが、後述するよう にノンバンクでありながら、実態的に銀行と同様の サービスを提供している点にアメリカなどの先例と 差異がある。以下では、中国でどのようにインター ネット金融サービスが発展してきたのかを明らかに したい。 1.定義と発展経緯 中国政府の示すインターネットファイナンスに ついて公式の定義がない。中国人民大学金融証券研 究所呉暁求所長によると、インターネットファイナ ンスとは、インターネットをプラットフォームとし て構築され、一連の金融機能が揃い、かつ独立した 存在である投融資の運用システムを指すものとされ る。すなわち、「インターネットをプラットフォー ムとする」ことが最大の基礎であるとされる。これ は、既存金融機関がインターネットを活用する「金 融のインターネット化」とは大きな相違がある。つ まり、伝統的金融システムから見れば、インターネ ットファイナンスは、「異形のもの」である。いわ ば突然変異を起こした金融形態であり、金融システ ム全体の遺伝子レベルの変革をもたらしうるものと される(呉,2014)。 本稿ではインターネットファイナンスとは、広義 には、インターネットの性質を活用した金融ビジネ スモデルのすべてを指すが、狭義には、金融サービ スがインターネットのプラットフォームにより実現 される仕組みや方法を指すものと解する。 中国でインターネットファイナンスが提供され るようになったのは、2000 年頃であり、これまで のインターネットファイナンス(広義)の発展につ いては、3 つの段階に整理できる(図 1)。第 1 段 階は、金融と技術の結合である。すなわち、既存の
金融機関が従来のビジネスモデルにデリバリーチャ ネルとしてインターネットを活用したことである。 この段階は、金融機関がインターネットの技術を取 り入れ、「金融業務のインターネット化」が前進した。 典型的な例として、インターネットバンクに代表さ れる伝統的な金融サービスのインターネット経由で の提供である。この段階では従来サービスのデリバ リーチャネルが変化したにとどまった。 第 2 段階は、インターネットの決済プラットフ ォームを活用した従来の金融機関にはない金融仲介 サービスの登場である。この段階では、インターネ ットと金融の関係は、技術と金融サービスの融合へ と深化し、インターネットによる融資ビジネスが生 まれるとともに第三者決済サービスが台頭した。象 徴的な出来事としては、2011 年に中国人民銀行が 第三者決済サービスの許認可制を導入したことによ り、それまで監督者不在だった第三者決済サービス は、初めて中国人民銀行の監督下に入り、適切に規 制監督を受けるようになった。 第 3 段階は、インターネット企業による金融サー ビスの総合化である。2013 年以降、インターネッ ト決済プラットフォームの上で、投資ファンド(余 額宝)や保険などの金融商品が販売されるようにな った。金融分野に強みを持つ IT 企業が、従来銀行 が独占していた金融サービスを「安く、早く、便利 に」提供することで、金融サービスのビジネスモデ ルが大きく変わりつつある。このような動きは、ア メリカでは「フィンテック (FinTech)」1と呼ばれて 注目を集めているが、中国でも同様の動きが生じて いると言える。 ○ インターネット決済プラットフォームの上で金融商品の販売 ・ MMF型投資ファンド(余額宝)、保険販売 ほか ○ インターネットの決済プラットフォームを活用した金融仲介サービス(従来の金融機関にはない) ・ 第三者決済、P2Pレンディング、クラウド・ファンディング ほか ○ 金融と技術の融合 ・ ネットバンク ほか (出所)筆者作成 電子マネー ク レジ ットカード E -check インターネット決済 調 達 フ ァ ン ド 運用 貸 出 マ ッ チ ン グ 借入 預 金 銀 行 貸出 (出所)筆者作成 図1 中国のインターネットファイナンスの発展経緯 2.発展の要因 中国のインターネットファイナンス急成長の要 因の第1 は、中国当局が異業種からの金融業参入を 容認しはじめ、とりわけイノベーションを促進する インターネットを活用した金融サービスの拡大を歓 迎していることである。 例えば、2013 年 4 月に、国務院(日本の内閣に相当) が「インターネットファイナンスの発展と監督」を含 む金融分野における19 の重点研究課題を公表した。 同年、中国人民銀行も貨幣政策報告会で、インター ネットファイナンスは高度な透明性、異業種からの 参入、低コストで迅速な大量データ処理などの特性 を持つものとして、肯定的に評価した(謝,2014)。 さらに、2014 年 12 月 23 日に開催された中国銀 行業監督管理委員会(以下、銀監会)「2015 年中国 銀行業監督管理工作会議」では、金融機関に対して、 「新常態」での銀行経営であることを十分認識し、 リスクと市場の機会に積極的に対応したうえで、銀 行業の新たな発展を促進することが強調された(尚, 2014)。そこでは、インターネットファイナンスの 発展などを含む 6 つの研究課題2が挙げられ、これ らの研究成果は今後発表される予定である。
このように、中国政府はインターネットファイナ ンスを金融サービス発展の重要な要素として位置づ けるとともに、異業種からの新規参入を容認して同 分野でのイノベーション創出を期待しているものと 考えられる。 第 2 の要因は、近年、中国でインターネットが急 速に普及したことである。中国のインターネット人 口は 2000 年以降急速に拡大し、2014 年 12 月末の 利用者数は 6 億 4,875 万人(普及率 48%)と世界最 大であり、アメリカの 2 倍超、日本の約 5 倍に達す る(図 2)。最近では、スマートフォンの普及によ ってモバイルインターネットの利用者が急増してい る。2014 年 12 月末時点のモバイルインターネット の利用者は 5 億 5,678 万人と、インターネット利用 者全体の 86%を占める(図 3)。近年はインターネ ットの利用と普及の主役が、従来のパソコンからモ バイル端末へ交代した。 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 2002 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 2014 インターネットの利用者数(左目盛) インターネットの普及率(右目盛) (万人) (%) (年) 64,875 48% 5,040 11,760 23,344 30,274 35,558 41,997 50,006 55,678 24.0 39.5 65.9 66.2 69.3 74.5 81.0 85.8 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 モバイルインターネットの利用者数(左目盛) モバイル利用者数対インターネッ ト利用者全体の割合(右目盛) (万人) (%) (年) (出所)中国インターネット情報センター(CNNIC) より筆者作成 図2 中国のインターネット利用者数及び普及率の推移 5,040 11,760 23,344 30,27435,558 41,997 50,006 55,678 24.0 39.5 65.9 66.2 69.3 74.5 81.0 85.8 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 モバイルインターネットの利用者数(左目盛) インターネット利用者全体に占めるモバイル利用者数の割合(右目盛) (万人) (%) (年) (出所)中国インターネット情報センター(CNNIC) より筆者作成 図3 中国におけるモバイルインターネットの利用者数及 びインターネット利用者全体に占める割合の推移 インターネット人口の爆発的な成長に伴い、e コ マース(電子商取引)も急激に普及拡大している。 特に中国では、2003 年の SARS(重症急性呼吸器症 候群)の流行を契機に、外出を控えた消費者のイン ターネットショッピングが増え、B2C の電子商取引 の利用が広がった。2010 年のアメリカの電子商取 引の市場規模は 1,690 億ドルに対して中国は 840 億 ドルであったが、2013 年に中国の市場規模は 3,080 億ドルとアメリカの 2,600 億ドルを追い抜き、世界 最大の電子商取引市場となった。2015 年には中国 の電子商取引がアメリカの約 2 倍まで拡大する見通 しで、2010 年から 2015 年の年平均成長率はアメリ カの 14.0%に対して中国は 50.7%と大きなギャップ がある(図 4)。 また、2000 年頃から急速に高速道路や鉄道、空 港など各種物流インフラの整備が進んだことや、 2005年に「電子署名法」の施行など、インターネ ット取引におけるプライバシー・個人情報保護など に関する法整備が進んだことも、電子商取引の普及 を後押しした。電子商取引の急成長は、消費者にと ってインターネットサイトを通じた購買・送金を(銀 行以上に)身近なものにするとともに、インターネ ット取引上の信用・資金回収問題を解決する「第三 者決済」ニーズを顕在化させた。 第 3 の要因は、金融規制における第三者決済サー ビスの法的な位置づけが明確にされたことである。 それまでは第三者決済サービスが金融当局の規制対 象であるかが不明確であったため、ユーザーにとっ て取引の安全性が十分確保されているとは言い難か った。2011 年に中国人民銀行が第三者決済サービ スのライセンス発給を開始したことで、個人が第三 者決済を安心して利用することが可能になった。 具体的には、中国人民銀行は、2010 年 6 月 14 日 付で「非金融機関の決済サービス管理法」を公布(同 年 9 月 1 日より施行)した。この中で、銀行以外の 者が第三者決済サービスを提供する場合には、同法 169 199 229 260 297 339 84 131 215 308 460 653 0 100 200 300 400 500 600 700 2010 2011 2012 2013 2014 2015予測 アメリカ 中国 (10億ドル) (年) 図4 米中の電子商取引市場規模の比較
の規定に従い、中国人民銀行から決済業務許可を取 得し、その監督管理を受けなければならないと明記 された。同法が定義する決済サービスとは、非金融 機関が支払人と受取人の間に仲介機関として行う、 ①インターネット決済、②プリペイドカードの発行・ 運営管理、③銀行カードのアクワイアリング(加盟 店契約業務)、④中国人民銀行が認可した他の決済 サービス業務、などである。 また、同法は「決済業務許可証」の取得条件とし て、①申請者が中華人民共和国国内に法律に基づき 設立した「有限責任公司」または「股份有限公司」 であり、且つ非金融機構であること、②申請者が全 国範囲の決済業務を行うには、登録資本金は最低 1 億人民元、省(自治区、直轄市)範囲で決済業務を 行うには、登録資本金は最低 3,000 万人民元で、登 録資本金の金額は実際の払込資本とすることなどを 定め、第三者決済業務への市場参入に一定のハード ルを設けた。 第 4 の要因は、金融業務に関する規制緩和の一方 で、金融抑圧の環境が続いたことである。中国政府・ 金融当局が国内金融市場を十分に開放せず、また人 為的に金利を市場レベル以下に抑えていることであ る。すなわち、余剰金融資産を持つ中国国内の個人 層と、なるべく安い金利で資金を調達したい事業者 の間には、巨大な裁定機会が存在しているといえる (図 5)。 15 16 17 18 19 20 21 22 0 1 2 3 4 5 6 7 2011/01/01 2012/01/01 2013/01/01 2014/01/01 2015/01/01 貸出基準金利(1年物) 預金基準金利(1年物) 預金準備率(大手金融機関、右目盛) (%) 17.5 (年/月/日) 4.35 1.50 (%) (注1) 貸 出 金 利 の 下 限 は 2013年 7 月 20 日に、 預 金 金 利 の 上 限 は 2015年 10 月 24 日に 撤廃された。 (注2) 足元は 2015 年 11 月 10日値。 (出所) CEIC デ ー タ ベ ー ス より筆者作成 図5 中国の金利、預金準備率の推移 に関する法整備が進んだことも、電子商取引の普及 を後押しした。電子商取引の急成長は、消費者にと ってインターネットサイトを通じた購買・送金を(銀 行以上に)身近なものにするとともに、インターネ ット取引上の信用・資金回収問題を解決する「第三 者決済」ニーズを顕在化させた。 第 3 の要因は、金融規制における第三者決済サー ビスの法的な位置づけが明確にされたことである。 それまでは第三者決済サービスが金融当局の規制対 象であるかが不明確であったため、ユーザーにとっ て取引の安全性が十分確保されているとは言い難か った。2011 年に中国人民銀行が第三者決済サービ スのライセンス発給を開始したことで、個人が第三 者決済を安心して利用することが可能になった。 具体的には、中国人民銀行は、2010 年 6 月 14 日 付で「非金融機関の決済サービス管理法」を公布(同 年 9 月 1 日より施行)した。この中で、銀行以外の 者が第三者決済サービスを提供する場合には、同法 169 199 229 260 297 339 84 131 215 308 460 653 0 100 200 300 400 500 600 700 2010 2011 2012 2013 2014 2015予測 アメリカ 中国 (10億ドル) (年) 図4 米中の電子商取引市場規模の比較 (注1) 1USD=6.13RMB で算出。 (注2) 2015 年 は 予 測 値( 米 商 務 省、 CNNIC)。 (出所) 中 国 イ ン タ ー ネット情報セン ター(CNNIC)、 U.S. Department of Commerce(米 商務省)より筆 者作成
Ⅲ
中国のインターネットファイナンス
の業務実態
以上のような環境変化を背景に、2003 年に登場 した第三者決済サービスをはじめとして、インター ネット事業者といった非銀行企業が積極的にインタ ーネットファイナンス事業に参入した。大手の金融 機関とは違い、こうした事業者は資金ニーズのある 中小企業あるいは個人を対象に、自社で構築した顧 客基盤やビッグデータ(顧客情報、取引記録等)を 活用することで、P2P レンディングや小額ローン、 MMF などの金融商品の販売など、様々な金融サー ビスを提供し、市場の拡大とともに急成長した。以 下では、近年注目を集めた第三者決済サービス、イ ンターネットを通じたファンド販売、P2P レンディ ングの業務を紹介する。 1.支付宝(アリペイ)が牽引する革新的な第三者 決済サービス インターネット決済とは、パソコンや携帯電話な どの端末から決済の指示を出し、インターネットを 通じて資金を移転させるサービスのことを言う。こ のサービスの代表例として中国 e コマース最大手ア リババのオンライン決済サービス「支付宝」(アリ ペイ)がある。「支付宝」(アリペイ)は、簡単・安 心・確実なインターネット上の決済プラットフォー ムを提供したことで中国の第三者決済の急成長を牽 引している。 (1)世界最大規模の電子商取引業者アリババ・グ ループ アリババ・グループは、1999 年 3 月に馬雲氏に よって設立された中国の電子商取引企業である。同 社は、2014 年 9 月にニューヨーク証券取引所に上 場し、2015 年 7 月 7 日時点の時価総額は 1,987 億ド ル(約 24.4 兆円)と、日本の時価総額 1 位のトヨ タ自動車(約 27.1 兆円)に匹敵する規模である。 同社は当初中小企業向け電子商取引(B2B)サー ビスの提供から事業をスタートした。以降、オーク ションなどの個人消費者間(C2C)の電子商取引「淘 宝」(Taobao)、企業対消費者間(B2C)の電子商取 引「天猫」(Tmall)といったマーケットプレイスを 提供している。2015 年 3 月末現在の同社サイトの アクティブバイヤーは約 3.5 億人、2014 年の同社国 内電子商取引の総取扱高(Taobao+Tmall)は約 2.3 兆元(約 46 兆円)と、中国市場全体の約 81.5% を 占めている。アリババの総取扱高は、アメリカのア マゾンやイーベイ、日本の楽天の 3 社の総取扱高を 合計しても及ばない規模であり、アリババは世界最 大の電子商取引企業に急成長した。 同社の事業部門は主に、リテール事業とホール セール事業に大きく分けられている。リテール事 業としては、個人間(C2C)電子商取引サービス を提供する淘宝網(Taobao)、B2C サービスを提供 する天猫(Tmall)、共同購入サービスを提供する 聚劃算(Juhuasuan)、海外の B2C サービスを提供 する AliExpress がある。ホールセール事業として は、B2B サービスを提供する 1688.com(国内)と Alibaba.com(海外)を擁している。アリババはこ のほか、e コマース取引におけるデータマイニング・ サービス(いわゆるビッグデータ関連事業)に加 え、クラウドコンピューティングサービス3の提供 など、市場に適合した独自の「エコシステム」(生 態系もしくは経済圏)の構築を目指している。同社 の 2015 年 1 ∼ 3 月期の売上高は 762 億元(約 1 兆 5,240億円)、同純利益は 243 億元(約 4,860 億円)、 純利益率は約 31.9% を記録している。売上高の内 訳をみると、国内電子商取引事業が全体の約 83%、 グローバル電子商取引事業が約 8%、クラウドコン ピューティングサービスの開発やインターネットイ ンフラ事業が約 2%、その他事業が 7%となってい る。 (2)革新的な第三者決済サービス「支付宝」(アリ ペイ) 中国のインターネット取引における決済手段は、 銀行送金やクレジットカードよりも第三者決済が圧 倒的に多い。これは、①既存の金融機関サービスの 使い勝手が悪いこと、②クレジットカードの普及率 が低いこと、③信用履歴などデータベースが整備さ れていないこと、などが理由である。このように相 互の信用が確立していない取引当事者の間で生まれたサービスが第三者決済である。 第三者決済とは、事業者がインターネットにおけ る買手と売手の双方に取引の信用を担保し(エスク ローサービス)、決済を執行するものである。すな わち、第三者決済を利用することにより、オンライ ン取引の買い手は商品代金の決済完了前に商品を受 け取ることができ、一方の売り手は代金未回収リス クを回避することが可能になる(図 6)。 アリババは、2003 年 10 月に第三者決済サービス 「支付宝」(アリペイ)の提供を開始した。同サービ スにおいては、ユーザーがまずアリペイのサイトで 決済用の口座を開設し、銀行経由で必要な決済資金 を入金しておく必要がある。決済時はユーザーがイ ンターネット決済事業者に指示を出して行う。 図6 第三者決済サービスのビジネスモデル ④商品を発送 ①ネットを通じて商品選択 売手 (販売業者) 買手 (消費者) ②第三者決済事業者の 仮想口座に商品代金を 預け入れる ③買手からの入金 確認後、売手に商品 発送を指示 ⑤商品受取を通知 ⑥商品代金を支払う 第三者決済 プラットフォーム (出所)筆者作成 (出所)筆者作成 図6 第三者決済サービスのビジネスモデル 「支付宝」(アリペイ)においては、利用者の決済 資金が銀行から前払いで入金され、これがアリペイ の口座間で振り替えられるため、第三者決済サービ スにおいてアリペイ自身の資金負担は基本的に発生 しない。 顧客から見ると、アリペイには①購入者は取引の 安全確保ができるようになった、②生産者は確実に 購入代金回収が図れる、③資金決済がインターネッ トで完結し手数料も低廉である、などメリットが大 きい。また、販売者にとっては、①代金回収が確実 に行える、②クレジットカードに比べて決済手数料 が低く、代金回収までの期間が早い、といったメリ ットがある。 実際、アリペイは、2003 年 10 月にサービス提供 開始後、利用者が爆発的に増加した。2014 年 9 月 時点の登録者数は8 億人を突破し4(但し実名登録 者数は 3 億人超)、2005 年の 800 万人から 100 倍ま で急拡大した。また、2014 年の第三者決済に占め る「支付宝」(アリペイ)の市場シェアは 5 割近く、 モバイル決済市場に限れば 8 割強に達している(図 7)。さらに、2013 年 6 月、アリババがアリペイの ユーザーに、年利 6%前後の利回りが提供される投 資商品「余額宝」を販売開始すると、僅か 1 年で、 開設口座数が 1 億件を突破し、余額宝の資産残高が 5,742億元(約 12 兆円)に達し中国最大のファンド となった(余額宝については後述)。その結果、第 三者決済サービスを利用した金融商品販売も急増 し、2014 年には、第三者決済の取扱高全体に占める 「金融商品購入」の比率は約16%まで高まった(図8)。 このように、アリババがBtoC の電子商取引決済 の大部分を押さえていることを背景に、アリペイ は中国全体の第三者決済市場の成長を牽引してき た。中国の情報通信産業の専門調査会社艾瑞諮詢 (iResearch)の調査によれば、2014 年の第三者決済 の取扱高は8 兆 767 億元(約 176 兆円)、2018 年に は約23 兆元(約 460 兆円)を突破し、2014 年から 2018 年までの年平均成長率は 30%と高成長を維持 する見通しである(図 9)。現在、中国の第三者決 済事業者は、自社プラットフォームを活用したイン ターネット取引の決済にとどまらず、公共料金の支 払い、クレジットカードの返済、金融商品の購入な ど利用可能な範囲を拡大している。具体的にアリペ イの場合、スマートフォン用のアプリであるアリペ イウォレット5を提供しており、そこでは単なるモ
バイル決済サービスだけでなく、e チケット、価格 比較サービス、クレジットカード管理、リアルタイ ム株価情報などの機能が提供されている。本来の決 済サービスでも、オフラインで利用できる場面を拡 大しており、現在ではタクシー料金支払いやコンビ ニでの買い物にもアリペイを利用できる。技術的に は、QR コード、音声認識、指紋認識による認証に よって支払いが行われる。実際、アリペイウォレッ トの決済に対応した店舗は、2015 年 6 月末時点で 13 万店舗を超え、コンビニや大手スーパーなどで、 ユーザーが現金を持たずに商品購入できるようにな っている。 2.インターネットを通じたファンド販売 中国におけるインターネットによるファンド販 売は、利用されるプラットフォームにより、2 つの タイプに分けられる。一つは従来の基金運用業者が 自前で構築したプラットフォームを通じて販売する 方式である。つまり、従来の直販チャネルのインタ ーネット化である。例えば、基金管理会社大手の華 夏基金が販売したマネーマーケットファンドの「財 富宝」や「薪金宝」などが挙げられる。 もう一つは、ファンド会社が電子商取引業者など 第三者のプラットフォーム経由でファンドを販売す る方式である。この方式で販売される投資商品とし て、上述のアリババの第三者決済サービス「支付宝」 支付宝 (Alipay), 49.6% 財付通 (Tenpay), 19.5% 銀商 (UnionPay), 11.4% 快銭(99Bill), 6.8% 匯付天下 (ChinaPnR), 5.2% 易宝支付 (YeePay), 3.2% 環迅支付 (IPS), 2.7% その他, 1.6% 第三者決済 2014年 取扱高 8兆767億元 支付宝 (Alipay), 82.3% 財付通 (Tenpay), 10.6% 拉卡拉 (Lakala), 3.9% 聯動優勢 (UMPay), 0.6% 中国電信(翼 支付), 0.4% 中国移動 (China Mobile), 0.3% 平安付, 0.3% 快銭, 0.3% 銭袋宝 (qiandai), 0.2% 連連支付, 0.1% その他, 1.3% モバイル決済 2014年 取扱高 約5兆9,925億元 48 47 41 42 35 29 15 13 17 15 13 11 1 1 1 6 9 8 6 6 5 5 3 4 5 4 4 7 6 5 3 3 3 3 19 24 28 30 29 30 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 2009 2010 2011 2012 2013 2014 その他 ネットゲーム利用 B2B決済 通信料金支払い 金融商品購入 エアチケット購入 ネットショッピング (%) (年) (注1)取扱残高ベースの市場シェア。統計対象は非銀行企業のみ。 (注2)拉卡拉はPC大手聯想(Lenovo) 傘下企業 (出所)iResearch 社公表データより筆者作成 図7 中国の第三者決済市場シェアとモバイル決済市場シェア(2014 年) 48 47 41 42 35 29 15 13 17 15 13 11 1 1 1 6 9 8 6 6 5 5 3 4 5 4 4 7 6 5 3 3 3 3 19 24 28 30 29 30 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 2009 2010 2011 2012 2013 2014 その他 ネットゲーム利用 B2B決済 通信料金支払い 金融商品購入 エアチケット購入 ネットショッピング (%) (年) (注)統計対象は非銀行企業のみ。 (資料)iResearch 社公表データより筆者作成 図8 中国の第三者決済の構成内容
(アリペイ)に口座を持つ顧客が、短期金融商品に 投資するマネーマーケットファンド(MMF)「余額 宝」が注目されている。 (1)顧客に人気を集めた「余額宝」の仕組み 「余額宝」は、アリババが 2013 年 6 月、アリペイ のユーザー向けに販売を開始したファンド商品であ る(図 10)。従来のファンドの多くはインターネッ ト経由で申し込みを行い、別途送金することでファ ンド商品を購入することが可能であった。これに対 して、アリペイの利用者は、アリペイを通じて「余 額宝」を購入することが可能で、ファンドの収益を 得られるだけでなく、「余額宝」を資金化してリア ルタイムにインターネットショッピングの決済を行 ったり、振込などの決済サービスにも利用できる。 ここで「余額宝」の特徴を紹介しておこう。「余 ・ 運営主体: アント・フィナンシャル・サービ ス・グループ(虫馬蟻金融服務集団) ・ 利息: なし ・ 流動性: 即時 ・ 利便性: ○ ・ eコマースの支払決済や振込サービスなど に利用可能。 ・ 公共料金の支払い、クレジットカードの 返済、金融商品の購入など機能を持つ。 ・ 日本の電子マネーの機能もある(タクシー 料金支払いや、コンビニなどの小売店舗 での商品購入も可)。 アリペイ (第三者決済) ・ 運営主体: 天弘基金(アリペイを通じて販売) ・ 利回り: 2~4%(年利) ・ 流動性: 即日換金 ・ 利便性: △ ・ 1元から即日アリペイ口座から投資、解 約が可能な商品。 ・ 直接商品購入などの支払決済に利用でき ない。 ・ 主に銀行預金や社債などリスクの低い資 産に投資するため、リスクが比較的低い。 「余額宝」 即時購入 即日換金 支払 入金 (出所)各種資料より筆者作成 図 10 余額宝の仕組み 5,051 10,105 22,03836,589 53,730 80,767 117,548 156,104 192,711 228,863 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015F 2016F 2017F 2018F (億元) (年) (注)統計対象は非銀行企業のみ。 (出所)iResearch のデータより筆者作成 図9 中国の第三者決済の市場規模(取扱高)
額宝」はアリペイの利用者向けに開発した投資理財 商品である。アリペイの利用者は、口座残金を「余 額宝」の口座に移すだけで、年 3.5%前後の利回り (2015 年 7 月 16 日時点、ちなみに同時期の銀行普 通預金と定期預金(1 年)の金利はそれぞれ 0.35% と 2.0%)を得られる(図 11)。「余額宝」には、少 額(1 元)から投資でき、即日換金すればアリペイ の各種決済機能もそのまま利用できるため、顧客は 瞬時に決済性資金と貯蓄性資金を振り替えることが できるようになった。すなわち、「余額宝」は MMF に決済機能を付けた金融商品と言える。 「余額宝」は、2013 年 6 月 13 日に販売開始して から、僅か 1 年で開設口座数が 1 億件を突破し、資 産残高は 5,742 億元(約 12 兆円)に達した。2014 年 12 月時点の「余額宝」の口座開設数は 1 億 8,476 万、資産残高は 2015 年 3 月末時点で 7,117 億元(約 14兆円)と、中国最大の資産運用ファンドである(図 12)。なお、天弘基金の分析によれば、「余額宝」の 利用者の平均年齢は 29 歳で(35 歳以下の比率は 76 %)、一人当たりの投資額は 5,030 元(約 10 万円) である6。 2.92 0.30 1.75 4.80 9.00 10.00 0 2 4 6 8 10 12 (%) (注 1)招銀進宝之鼎鼎成金 13525 号は招商銀行が販売する理財商品。投資金額は 10 万元から、投資期間は 3 ヶ月。 (注 2)保険大手中国平安が販売する不動産プロジェクトに投資する集合信託計画。投資金額は 100 万元から、投資期間 は 18 ヶ月。 (注 3)P2P 大手の積木盒子(JimuBox) が提供する理財商品。投資金額は 300 元から、投資期間は 12 ヶ月。 (出所)各社公開資料より筆者作成 図 11 主な金融商品の投資比率の比較(2015 年 11 月 10 日時点) 3.46 0.35 2.00 4.80 9.00 10.00 0 2 4 6 8 10 12 (%) 252 557 4,303 4,900 8,000 12,385 18,476 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000 (万) (年/期) 「余額宝」の口座開設数 57 1,3681,853 2,500 5,4135,7425,3495,789 7,117 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 (億元) (年/期) 「余額宝」の資産残高 (注)2014 年第 3 四半期の数字は公表されていない。 (出所)天弘基金のデータより筆者作成 3.46 0.35 2.00 4.80 9.00 10.00 0 2 4 6 8 10 12 (%) 252 557 4,303 4,900 8,000 12,385 18,476 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000 (万) (年/期) 「余額宝」の口座開設数 57 1,3681,853 2,500 5,4135,7425,3495,789 7,117 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 (億元) (年/期) 「余額宝」の資産残高 (出所)天弘基金のデータより筆者作成 図 12 「余額宝」の口座開設数と資産残高の推移
「余額宝」の資金を管理運用している天弘基金(ア リババが 51%株式保有)は、元々ファンド業界で は無名な存在であったが、「余額宝」の急成長によ り資産規模で一躍中国ファンド業界の 1 位に躍り出 た。このように、「余額宝」はこれまで誰もが予想 できなかった形で中国ファンド業界の勢力図を塗り 替えた。 中国の MMF マーケット市場は、「余額宝」の販 売開始を契機に急拡大した。2014 年末時点の MMF 運用資産規模は、余額宝が導入される前の 2012 年 末比約 4 倍に急増した(図 13)。2014 年 12 月末時 点の「余額宝」の運用資産規模は、MMF 全体の約 28%を占める。アリババの「余額宝」の販売成功に より、競合他社も相次ぎファンド運営会社と提携し て類似の MMF(テンセントの「理財通」、百度の「百 賺利滾利」、量販店大手・蘇寧の「零銭宝」等)を 販売開始した(表 1)。これに伴い、2013 年後半以降、 銀行預金からインターネット事業者提供の MMF へ の資金流出が加速し、伝統的な金融機関にとって大 きな脅威となりつつある。アメリカで 1970 ∼ 1980 年代に起きたディスインターミディエーション(金 融仲介中断)と同様の動きが「余額宝」によって引 き起こされたと言える。 1,413 1,508 1,948 2,318 2,151 1,876 1,298 1,411 1,364 11,477 11,251 10,775 11,283 10,958 9,850 10,055 10,750 13,142 5,647 5,687 5,457 5,763 5,627 5,323 5,599 5,832 6,025 3,777 3,759 3,396 3,220 3,225 2,525 2,706 2,794 3,473 5,717 5,127 3,039 4,890 7,476 14,578 15,926 17,666 20,862 632 622 565 580 584 556 534 517 487 7,565 8,274 9,683 10,44812,192 12,658 15,123 18,601 21,458 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 私募ファンド QDII MMF 債券型 混合型 株式型 クローズド・エンド型 (億元) (年/月) 公 募 フ ァ ン ド (出所)天弘基金のデータより筆者作成 図 13 中国のファンドマーケット全体規模の推移 表 1 中国のインターネット大手が販売する主な MMF 商品 提供 MMF運用主体 投資対象となるMMF商品 サービス名 (提携ファンド会社) (投資収益率) Eコマース最大手・アリババ (阿里巴巴) 余額宝 天弘基金 (アリババが51%出資) 天弘増利宝(3.46%) 2013年6月より販売開始 2015年3月末、資産残高は 7,117億元(約14兆円) MMF資産規模では中国最大 華夏基金 華夏基金財富宝 (3.170%) 匯添富基金 匯添富基金全額宝 (3.549% ) 広発基金 広発基金天天紅 (3.830% ) 易方 达基金 易方達基金易理財 (3.534%) 検索大手・バイドゥ (百度) 百賺利滾利 嘉実貨幣基金 嘉実活期宝貨幣 (4.445%) 2013年12月より販売開始 広発基金 広発基金天天紅 (3.830% ) 匯添富基金 匯添富現金宝 (3.436% ) 量販店大手・蘇寧 (Suning) 零銭宝 2014年1月より販売開始 販売事業者 備考 メッセンジャー大手・テンセント (騰訊) 理財通 2014年1月より販売開始 ポータル大手・網易 (Netease) 網易理財 匯添富基金 匯添富現金宝 (3.436% ) 2013年12月より販売開始 (注)投資収益率は、2015 年 7 月 16 日時点、過去 7 日間の収益率を年率に換算したもの。 (出所)各社開示資料より筆者作成
78
パーソナルファイナンス研究 No.2 (2)資産運用商品「余額宝」急増の背景とそのリスク 「余額宝」が急増した要因としては、以下の 3 点 が考えられる。第1は、「支付宝」(アリペイ)の膨 大な顧客基盤とプラットフォームを活用したことで ある。「余額宝」の出現前に、アリペイの登録者数 は既に8億を突破し、一日の決済取扱高は45億元(約 900億円)を超えていた。取引決済にかかる資金回 転周期が 5 日間と仮定すると、「支付宝」(アリペイ) の口座に少なくとも 200 億元以上の資金が残留した ことになる。こうした資金の短期で運用したいニー ズをうまく捉えることにより、「余額宝」は急成長 したのである。 第 2 は、短期運用を目的とした小額の決済用資金 を幅広く募集でき、他のプラットフォームが提供で きない利便性を利用者に提供したことも大きい。従 来の MMF は、当日の売買も可能だが、換金は市場 取引がすべて終了し、決済処理が完了してからでな いとできなかった。これに対し、「余額宝」は、ア リペイの信用仲介機能を利用して利用者に「余額宝」 の資金を使った商品購入や振替サービス提供を実現 したのである。 第 3 は、高い流動性と比較的高い運用収益を同時 に実現したことである。例えば、「余額宝」の競合 商品として、銀行預金や銀行販売の流動性が高い理 財商品などが挙げられる。銀行の普通預金は流動性 が高い一方、利息は 0.3%(2015 年 11 月 10 日時点) に過ぎず、収益性の面では「余額宝」(投資収益率 約 6%)の方が大きい。また、他の理財商品は、「余 額宝」より高い収益率を提供するものの、投資金額 は 5 万元(約 100 万円)からとなるのが普通となっ ており、1 元から投資できる「余額宝」と比較して 投資ハードルが高い。こうした差異化は、「余額宝」 の急成長に寄与したと言える。 もっとも、余額宝は発売当初は大変な人気を博し たものの、2014 年 1 月以降「余額宝」の投資利回り(同 年 1 月平均 6.57%超)はピークアウトし、2015 年 11月 10 日時点では年率 2.9%までに低下している。 利回りが急低下した背景は、同ファンドの大半を市 中金利(SHIBOR)に連動する大口預金で運用して いるため、最近の市場金利の低下とともに利回りが 急低下したことが分かる(図 14)。なお、過去には、 2013年 6 月と 12 月の 2 度にわたり、中国の短期金 利が乱高下した際、「余額宝」の利回りも 7%近く に上昇した。 ところで、このような急成長は、「余額宝」が普 通預金と小口定期預金を大口預金に資産変換する機 能を果たしているため、マクロ的に見れば、銀行シ ステム全体の預金コストの上昇を招く可能性が指摘 されている(表 2)。 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 2013年1月 2014年1月 2015年1月 (%) SHIBOR (3ヶ月物) ↓ 余額宝 ↓ (年/月/日) ① 銀行預金(大口)と決済準備金 6219 87.33 ② 固定投資収益 493 6.92 (内訳) 債券 488 6.85 資産構成 金額 (億元) 比率(%) (注)足元は 2015 年 11 月 10 日値 (出所)天弘基金のデータおよび CEIC データベースより筆者作成 図 14 SHIBOR と「余額宝」投資利回りの推移 表 2 「余額宝」運用ファンドの資産構成(2015 年 3 月末) 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 2013年1月 2014年1月 2015年1月 SHIBOR (3ヶ月物) ↓ (年/月/日) ① 銀行預金(大口)と決済準備金 6219 87.33 ② 固定投資収益 493 6.92 (内訳) 債券 488 6.85 資産担保証券 5 0.07 ③ 買戻し条件付金融資産 392 5.51 ④ その他 17 0.24 合計①~④ 7,121 100 資産構成 金額 (億元) 比率(%) (注)ここでの銀行預金は銀行に預ける大口預金である。通常の小口預金とは違い、この種の預金は、銀行との協議によっ て自由に金利を設定できる。銀行が大口利用者を獲得するため、貸出金利より低いが、定期預金より高い金利を提 供するのが一般的。 (出所)天弘基金のデータより筆者作成Japan Academy of Personal Finance
79
中国個人金融における異業種参入がもたらすイノベーションの進展 また、利用者から見た「余額宝」のリスク要因と しては、以下の 2 点が挙げられる。第1は、「余額宝」 は預金ではないため、運用ポートフォリオの収益性 悪化によって元本割れのリスクもあり得ることであ る。2013 年 6 月、「余額宝」が誕生した当時は、ち ょうどインターバンク市場に混乱が生じ、資金枯渇 による金利の高騰が続いた時期であった。「余額宝」 が高い利回りを提示できたのは、この特殊なマクロ 環境下にあったからである。第 2 は、ポートフォリ オの構成が変化し得ることである。利回りを追求す るために、預金以外のハイリスクの商品への投資割 合が今後高まる可能性もある。すなわち、「余額宝」 の運用手法が、高収益を実現するために、より投機 的になる可能性を否定できない。 3.拡大する P2P レンディング (1)P2P レンディングの仕組み P2P(Peer-to-peer)レンディングとは、個人と個 人がインターネットを介して実現する直接貸借の仕 組みを指す。P2P レンディングの事業者は、プラッ トフォームを通じて、貸し手と借り手をマッチング させるのが主な役割だが、信用評価、投資アドバイ ス、法的手続きなどのサービスも提供している。ま た、一部の事業者は、資金の移転、決済、債権回収、 督促などのサービスも提供している。 中国のP2P レンディングの仕組みについて、一 般的な例で説明する。まず、借り手がP2P レンデ ィングの事業提供者(以下:P2P 事業者)に自己の 信用証明や希望する借入額、金利、資金使途などの 詳細情報を示して融資を申し込む。P2P 事業者は外 部また自社にて信用調査を行い、借り手が一定の基 準を満たした場合、P2P のプラットフォームサイト に借り手の情報を掲載して貸し手を募集する。貸し 手が当該情報をもとに、希望する貸出金利や融資可 能額を入札する。借り手と貸し手双方のニーズが合 致すれば、貸借契約を締結して、融資が成立する。 このように、借り手と貸し手にとっては、金融機 関が介在しないことで、お互い合意した金利で貸し 借りができるメリットがある一方、P2P 事業者は一 般的に貸倒れなどの損失を負う義務がないため、デ フォルトが発生した場合、貸し手が元本・利息を回 収できないリスクがある。この点は銀行預金の預金 者と異なる。 中国のP2P レンディングの業務フローについて は、図15 の通りである。借り手と貸し手の双方が、 まずP2P 貸借サービスを提供するプラットフォー ム上でアカウント登録と口座開設を実施する必要が ある。次に、借り手はプラットフォームの運営事業 者に身分証明や資金用途、金額、許容できる利率の レンジ、返済方法及び返済期間等の情報を提示し、 審査を受ける。審査が通れば、それに関わる情報は、 プラットフォーム上で即時に掲載できる。一方、投 資家は、プラットフォーム上で公開された借り手関 連情報に基づき、自ら借り手を選別し、貸出金額を が高い一方、利息は 0.3%(2015 年 11 月 10 日時点) に過ぎず、収益性の面では「余額宝」(投資収益率 約 6%)の方が大きい。また、他の理財商品は、「余 額宝」より高い収益率を提供するものの、投資金額 は 5 万元(約 100 万円)からとなるのが普通となっ ており、1 元から投資できる「余額宝」と比較して 投資ハードルが高い。こうした差異化は、「余額宝」 の急成長に寄与したと言える。 もっとも、余額宝は発売当初は大変な人気を博し たものの、2014 年 1 月以降「余額宝」の投資利回り(同 年 1 月平均 6.57%超)はピークアウトし、2015 年 11月 10 日時点では年率 2.9%までに低下している。 利回りが急低下した背景は、同ファンドの大半を市 中金利(SHIBOR)に連動する大口預金で運用して いるため、最近の市場金利の低下とともに利回りが 急低下したことが分かる(図 14)。なお、過去には、 2013年 6 月と 12 月の 2 度にわたり、中国の短期金 利が乱高下した際、「余額宝」の利回りも 7%近く に上昇した。 ところで、このような急成長は、「余額宝」が普 通預金と小口定期預金を大口預金に資産変換する機 能を果たしているため、マクロ的に見れば、銀行シ ステム全体の預金コストの上昇を招く可能性が指摘 されている(表 2)。 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 2013年1月 2014年1月 2015年1月 (%) SHIBOR (3ヶ月物) ↓ 余額宝 ↓ (年/月/日) ① 銀行預金(大口)と決済準備金 6219 87.33 ② 固定投資収益 493 6.92 (内訳) 債券 488 6.85 資産担保証券 5 0.07 資産構成 金額 (億元) 比率(%) (注)足元は 2015 年 11 月 10 日値 (出所)天弘基金のデータおよび CEIC データベースより筆者作成 図 14 SHIBOR と「余額宝」投資利回りの推移 表 2 「余額宝」運用ファンドの資産構成(2015 年 3 月末) 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 2013年1月 2014年1月 2015年1月 SHIBOR (3ヶ月物) ↓ (年/月/日) ① 銀行預金(大口)と決済準備金 6219 87.33 ② 固定投資収益 493 6.92 (内訳) 債券 488 6.85 資産担保証券 5 0.07 ③ 買戻し条件付金融資産 392 5.51 ④ その他 17 0.24 合計①~④ 7,121 100 資産構成 金額 (億元) 比率(%) (注)ここでの銀行預金は銀行に預ける大口預金である。通常の小口預金とは違い、この種の預金は、銀行との協議によっ て自由に金利を設定できる。銀行が大口利用者を獲得するため、貸出金利より低いが、定期預金より高い金利を提 供するのが一般的。 (出所)天弘基金のデータより筆者作成Japan Academy of Personal Finance
決めることができる。 P2P レンディングにおける取引を成立させるため には、通常「オークション」方式が採用される。す なわち、一人の借り手が必要とする資金は、複数の 貸し手によって提供され、募集資金が目標に達した 時、当該貸借情報はプラットフォームから取り下げ られる。一つの取引にかかる時間は、平均して5 日 間前後となる。その後、貸し手と借り手が直接契約 を交わし、一対一で双方の身分証明や与信情報を確 認する。規定された掲載期間内に募集資金の目標に 到達できなかった場合、借り手は、当該資金計画は 白紙に戻さなければならないのが通常である。 貸し手 借り 手 借入申込 審査 案件公開 オークション 成約 貸付実行 OK NG 入札 貸付金 入金 借入金 入金 P2 P事業者 返済 手数料 支払 落札 謝絶 閲覧 貸付金 回収 借入金 返済 (出所)筆者作成 図 15 中国の P2P レンディングの業務フロー 一方、P2P レンディングの貸出金利の決定方式は 主に下記の三つである。一つ目は、P2P プラットフ ォームの運営事業者が貸出金利のレンジを設定し、 貸し手がそのレンジ内で自由に貸出金利を決める方 式である。この方式を採用するP2P 事業者には、「人 人貸」、「拍拍貸」などがある。二つ目は、プラット フォームの運営事業者が、借り手の信用格付けに応 じて貸出金利を設定する方式である。格付けの高い 借り手は、比較的低い貸出金利を享受できる一方、 格付けの低い借り手は比較的高い金利を支払わねば ならない。この方式を採るP2P 事業者の代表例は、 「合力貸」である。三つ目は、借り手が金利のレン ジを提示し、複数の貸し手に対して競争入札を実施 する方式である。一番低い貸出金利で応札した貸し 手が契約の権利を獲得し、借り手と貸借契約を締結 する。 中国のP2P レンディング市場の主な借り手は、 中小企業の経営者と比較的所得の高い個人(公務員、 国有や民間企業の管理者、技術者、医者、弁護士、 外資従業員など)などである。中国の情報通信産業 の専門調査会社艾瑞諮詢(iResearch)によれば、資 金使途は様々だが、一回の平均借入額は10 万元(約 200 万円)となっている模様である。借入の期間は 通常6 か月以内、貸出金利は平均で年率 17.86%前
81
後となっている(2014 年平均)。また、P2P 事業者 の主な収入は、融資成立によって得られる仲介手数 料である。P2P 事業者によっては、貸し手(出資者) から出資額に応じて、一定料率(1.5 ∼ 2%)の事 業運営費を取るケースもある。 (2)拡大する P2P レンディングと監督管理上の 課題 中国のP2P 事業者の取扱高は、2011 年末には 31 億元(約620 億円)に過ぎなかったが、2014 年末 に2,528 億元(約 5 兆 560 億円)まで急拡大しており、 中小企業や個人から強い資金ニーズがあることが伺 える。一方で、2014 年末現在、P2P レンディング の事業提供者は約1,575 社である(図 16)。2012 ∼ 2014 年の 2 年間、年平均 600 社以上が市場に参入 した結果、過当競争により収益が悪化する企業が続 出している。地域別のP2P レンディング事業者の 分布をみると、沿海部の大都市を中心にビジネスを 展開している。2014 年末時点では、広東省が最も 多く22%を占め、その他、浙江省(14%)、北京市 (11%)、山東省(10%)に集中している(図 17)。 内陸部におけるP2P レンディングのビジネスはま だ初期段階である。 2,528 1,058 212 31 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 2014年 2013年 2012年 2011年 (億元) (年) P2P事業者の取扱高 1,575 800 200 50 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2014年 2013年 2012年 2011年 (社) (年) P2P事業者数 (出所) 「網貸之家」より筆者作成 2,528 1,058 212 31 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 2014年 2013年 2012年 2011年 (億元) (年) P2P事業者の取扱高 1,575 800 200 50 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2014年 2013年 2012年 2011年 (社) (年) P2P事業者数 (出所) 「網貸之家」より筆者作成 広東省, 349, 22% 浙江省, 224, 14% 北京, 180, 11% 山東省, 149, 10% 上海, 117, 7% 江蘇省, 104, 7% 四川省, 72, 5% 湖北省, 35, 2% その他, 345, 22% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 2.8 5.1 25 116 0.8 1.9 15 63 0 20 40 60 80 100 120 140 2011年 2012年 2013年 2014年 貸し手 借り手 (万人) (年) 12%以下, 7.2% 12-15%, 14.9% 15-20%, 28.9% 20-30%, 26.2% 30-40%, 16.5% 40%以上, 6.2% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 図 17 地域別の P2P レンディング事業者の分布状況(2014 年末) 図 16 中国の P2P 事業者の取扱高と事業者数(2014 年末)パーソナルファイナンス研究 No.2 一方、投資家数をみると、2014 年末時点で、P2P レンディングの個人投資家(貸し手)数は約116 万 人を記録した(図18)。2013 年末の 25 万人から一 年で4 倍強まで急増した。貸出金利は、年率 30% 以下が全体の約80%を占め、業界平均の貸出金利 は20%前後で推移している(図 19)。2014 年末の P2P レンディングの貸出残高は 1,036 億元(約 2.1 兆円)と、前年の約4 倍まで拡大した(図 20)。貸 出期間については、6 ヶ月以内のものは全体の約 9 割を占めており、資金が比較的短期間で運用されて いる(図21)。 P2P レンディングの増加に対して、2011 年 8 月 23 日に銀監会は「個人間融資のリスクの注意喚起 に関する通知」を発表した。それによると、銀行か ら得た資金がP2P レンディングを通じて民間貸借 などに流用される可能性があり、民間貸借のリスク が銀行システムに波及する可能性について懸念して いる模様である。また、2014 年 9 月に深圳で開催 された討論会では、中国銀行業監督管理委員会が、 「P2P 業界への監督管理の 10 大方針」を発表して規 制監督を強める姿勢を見せている(王, 2014)。具 体的には、①P2P レンディング事業者による投資 家資金の所持あるいは資金プールの構築を禁じる、 ②借り手と貸し手(投資家)双方に実名登録を義務 付ける、③P2P レンディング事業者は業務範囲を 明確にしなければならい、④P2P レンディングへ の参入障壁を設ける、⑤第三者による投資家出資金 の預託管理を義務付ける、⑥P2P レンディングは 20 浙江省, 224, 14% 北京, 180, 11% 山東省, 149, 10% 上海, 117, 7% 江蘇省, 104, 7% 四川省, 72, 5% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 2.8 5.1 25 116 0.8 1.9 15 63 0 20 40 60 80 100 120 140 2011年 2012年 2013年 2014年 貸し手 借り手 (万人) (年) 12%以下, 7.2% 12-15%, 14.9% 15-20%, 28.9% 20-30%, 26.2% 30-40%, 16.5% 40%以上, 6.2% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 図 18 中国の P2P レンディングの貸し手(投資家) と借り手の推移(2014 年末) 12 56 268 1,036 0 200 400 600 800 1,000 1,200 2011年 2012年 2013年 2014年 (億元) (年) 1ヶ月未満, 6% 1-3ヶ月, 59% 3-6ヶ月, 23% 6-12ヶ月, 11% 1ヶ月以上, 1% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 図 20 中国の P2P レンディングの貸出残高(2014 年末) 12 56 268 1,036 0 200 400 600 800 1,000 1,200 2011年 2012年 2013年 2014年 (億元) (年) 1ヶ月未満, 6% 1-3ヶ月, 59% 3-6ヶ月, 23% 6-12ヶ月, 11% 1ヶ月以上, 1% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 図 21 中 国 の P2P レ ン デ ィ ン グ の 貸 出 期 間 の 分 布 (2014 年末) 20 浙江省, 224, 14% 北京, 180, 11% 山東省, 149, 10% 上海, 117, 7% 江蘇省, 104, 7% 四川省, 72, 5% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 2.8 5.1 25 116 0.8 1.9 15 63 0 20 40 60 80 100 120 140 2011年 2012年 2013年 2014年 貸し手 借り手 (万人) (年) 12%以下, 7.2% 12-15%, 14.9% 15-20%, 28.9% 20-30%, 26.2% 30-40%, 16.5% 40%以上, 6.2% (出所) 「網貸之家」より筆者作成 図 19 中 国 の P2P レ ン デ ィ ン グ の 貸 出 金 利 の 分 布 (2014 年末)
投資家への担保提供、元本やリターンの保証を禁止 する、⑦P2P レンディングの持続的発展を推進し、 P2P 事業者が高利回り融資プロジェクトをむやみに 追求することを抑制する、⑧P2P 事業者による情 報開示を徹底化させる、⑨P2P レンディングにお けるルールの制定並びに順守を推進し、業界の自律 性を促進する、⑩P2P レンディングは、個人や零 細企業の発展を支援し、融資小額化の原則を堅持し なければならない、というものである。 Ⅳ
中国のインターネットファイナンス
の発展意義
中国でコンシューマー向けインターネットファ イナンスが発展することの意義について考えてみる と、以下の3 点が指摘できよう。 第1 は、さまざまな業種からの参入によって、取 引コストの低下、金融サービスの向上に寄与してい ると思われることである。インターネットファイナ ンスは、電子商取引、第三者決済、ソーシャルネッ トワークなどによって形成された膨大なデータベー スやデータ解析技術を活用することで、マーケティ ングコストや信用管理コストを著しく低下させた。 また、インターネットファイナンス事業者は通常、 実店舗を数多く設立する必要もなければ、従業員を 大量に抱え込む必要もないため、企業運営コストを 大幅に下げることができる。 こうしたコスト構造の変化によって、異業種によ る金融業への新規参入が可能となり、これまでにな い新たな金融サービスが提供されることで、従来の 金融ビジネスモデルが変化を迫られるという効果が ある。例えば、従来の金融機関においても、コスト 競争上、ビッグデータやクラウドコンピューティン グの技術の活用が不可欠となり、一方で多様化した 顧客ニーズや信用状況のタイムリーな把握が可能と なることで、金融機関の商品・サービスレベルの向 上が期待される。 第2 は、インターネットの活用による情報処理コ ストの急激な低下を受けて、従来金融サービスに手 が届かなかった人々も金融を利用できるようになっ たことである。とりわけ、中小企業等に対する融資 の分野においては、インターネットファイナンスの 優位性が高く、従来の銀行等ではカバーしきれない 部分を補っている。 第3 は、銀行以外に新たな決済サービスが提供さ れたことである。第三者決済などにおける資金決済 のファイナリティ(settlement finality、決済完了性) は銀行預金と同一ではないとしても、個人から見た 実用性にはほとんど問題が生じない状況となってい る。また、第三者決済とMMF の融合によって誕生 した「余額宝」などは、中国の金融商品における従 来の境界線を乗り越え、金融商品でありながら決済 機能も備えるようになったと言える。 Ⅴ中国のインターネットファイナンス
の規制監督と今後の課題
このように、コンシューマー向けインターネッ トファイナンスは、金融自由化と金融イノベーショ ンのエンジンとなり得ることから、中国政府として は、規制強化によってこれらの動きを止めるのでは なく、むしろ新規参入者の活力を促進する政策を維 持する可能性が高い。金利の自由化などを視野に入 れれば、中国のインターネットファイナンスは、既 存金融機関も巻き込んで、今後も金融サービス業を 活性化することが期待されよう。 その一方で、第三者決済サービス業者はそのプラ ットフォーム上で様々な金融商品を提供することが 可能となるなかで、銀行には従来同様の厳しい規制 が課されるという競争上の不公平性については、今 後、問題となってくる可能性がある。 また、インターネットファイナンス市場に対する 規制監督の不備による問題点が顕在化しつつある。 具体的には、新規参入の許可の基準の明確化、顧客 資金の分別管理、企業内部統制の不備等である。今 後、インターネットファイナンスの規制監督の実施 に際しては、以下の点が考慮のポイントとなると考 えられる。 第1は、金融イノベーションの限界と影響を客観 的に把握した上で規制監督することである。金融イ ノベーションの目的は、金融サービスの向上と効率 化を通じて実体経済に役立つことである。したがって、インターネットファイナンスにおけるインター ネット決済サービスは、小額、迅速、便利といった 特徴を活かし民生に実際に役立ち電子商取引の発展 を促進するものでなければならない。 第 2 は、インターネットファイナンスにおけるイ ノベーションは、マクロ経済政策や経済安定政策に 合致することが必要である。金融市場の価格変動を 増幅させたり、実体経済の融資コストを増加させた り、銀行システムの流動性に悪影響を及ぼして銀行 システムの実体経済への融資機能を低下させるよう なことを避けねばならない。 第 3 は、消費者の権益を確実に保護することであ る。インターネットファイナンス事業者は、サービ スの提供に際し、消費者に十分な情報開示やリスク に関する注意喚起を行わねばならない。いかなる事 業者も、投資収益に対して直接あるいは間接的な約 束をして消費者をミスリードしてはならない。新し いサービスを提供する場合、消費者権益を保護する ための詳細な取り決めを事前に策定することが求め られる。 第 4 は、市場における公平な競争秩序を維持する ことである。市場経済の環境下において、公平な競 争秩序を維持することは、市場による資源分配を果 たすうえで必要不可欠である。インターネットファ イナンス事業者がオンライン上でオフラインの業務 を展開する場合、オフライン業務に対する既定の法 律に従い、資本要求の水準を満たさねばならない。 第 5 は、政府の監督と業界の自律管理をバランス よく調整し、業界自身による自律性を発揮させるこ とである。インターネットファイナンス事業者が社 会責任を果たすべく、業界団体の早期設立を推進し、 協会による自律管理を通じて業界統一のサービス・ スタンダードとルールの確立を支援することが望ま れる。特に、インターネットファイナンス大手事業 者が、業界スタンダードの確立や社会へのサービス 提供などにおいて、模範的なリーダーの役割を果た すように導くことが重要である。 Ⅵ
おわりに─我が国への示唆
近年、情報技術の急速な発展が金融のイノベー ションの進展をもたらすとともに、経済活動のグロ ーバル化が一段と進展し、それらに伴う個人・企業 の行動・取引様式の変化が相まって、決済などを含 む金融リテール業務を巡る環境が大きく変化してい る。こうした環境変化の中、決済業務の高度化や金 融・資本市場の効率性に対する要請が急速に高まっ ている(金融審議会, 2015)。それに応じて、新た な決済手段などリテール金融サービスが登場する とともに、世界的にフィンテック(FinTech)と呼 ばれる金融とIT を融合させる動きが広がっており、 銀行業務の将来像にも強い影響を及ぼしている。 上述の中国のe コマースの最大手アリババは、決 済を軸として、融資のみならず預金受入れや金融商 品の提供に相当するような業務を展開している。す なわち、銀行以外のノンバンク・プレーヤーが、決 済を中心とした銀行業務の「アンバンドリング化」 を進める一方で、投資商品や保険販売など総合的な 金融サービスの提供を行なっている。こうした流れ は、技術革新等に伴って、世界的規模で、今後さら に加速していくことが予想される。 今後、我が国でも、決済サービスや銀行業務の有 り方そのものを見直していかねば、世界的なイノベ ーションの動きから取り残される恐れもある。最近、 わが国では金融持ち株会社規制の見直しが議論され ている。IT 子会社を通じたより柔軟な業務展開が 可能になれば、情報技術を切り口に新たなビジネス モデル構築が期待されよう。 【注】 1 フィンテック(FinTech)は、Finance と Technology を組み合わせた言葉で、ネットベンチャー企業 などが提供する金融サービスおよび金融関連サ ービスを指す。 2 ①銀行組織構造の調整、②大型商業銀行(5 大 銀行)の国際化、③商業銀行の資産管理業務、 ④インターネットファイナンスの発展、⑤民営 銀行創設の奨励、⑥株式制商業銀行、都市商業 銀行など中堅金融機関の IPO 後の経営、の 6 つの研究課題が挙げられた。 3 2009年、アリババは主に中小企業向けにクラ ウドでのデータ処理とストレージのサービスを提供開始した。顧客は同サービスを利用するこ とで、IT 設備への投資コストを節約できるだ けでなく、最新のソフトウェアを利用できると いう利点をもつ。 4 鳳凰網財経「馬雲の価値の上昇:アント・ファ イナンシャル・サービス・グループのIPOで500億 ドルの資金調達を予想」、2015 年 2 月 2 日付、 http://finance.ifeng.com/a/20150202/13474524_0. shtml 5 モバイル端末向け支付宝銭包(アリペイウォレ ット)のアプリには、「バーコード支払」の機 能が標準搭載されている。ユーザーがこの機能 を利用して、アリペイにある残額をバーコード に生成することができる。生成したバーコード を、「アリペイウォレット」に対応した加盟店 舗の POS 機にかざすと、電子マネーとして支 払決済ができる。支払が完了すると、アリペイ の口座(当座預金口座のようなもの)には、そ の支払額を控除した残金が即時に反映される。 6 天弘基金「天弘基金の利用規模は約 6,000 億人 民元に、販売開始から1年間の余額宝利用者 のデータ分析」、2014 年 7 月 2 日、http://www. thfund.com.cn/info.dohscontentid=57435.htm 【参考文献】 宮村健一郎「アメリカインターネット専業銀行の新 ビジネスモデル」東洋大学 経営論集第 57 号、 75-91頁、2002 年 11 月。 王岩岫「P2P 規制監督の 10 大原則」、銀監会イノベ ーション監督管理部王岩岫主任の発言、2014 年 9 月 30 日。 金融審議会「決済業務等の高度化に関するスタディ・ グループ」中間整理、2015 年 4 月 28 日。 呉暁求「中国における金融の本質的改革とインタ ーネット金融」、中国人民大学金融証券研究所 編『資本市場評論』、第 1、2 期 春号、2014 年、 1-15頁。 謝平『互聯网金融報告 2014 ─通往理性繁栄─』、陸 金所、2014 年。 尚福林「主導適応新常態:全面推進銀行業改革開放 与金融法治建設」、銀監会「2015 年全国銀行業 監督管理工作会議」、2014 年 12 月 23 日。 中国人民銀行金融穏定分析小組、「中国金融穏定報 告 2014 年」、中国金融出版社、2014 年 4 月。
Karen Furst, William W. Lang, and Daniel E.Nolle,
“Internet Banking: Developments and Prospects”,
Economic and Policy Analysis Working Paper 2000-9, Office of the Comptroller of the Currency, September 2000, pp.1-6.
U.S. Department of Commerce, “The Emerging Digital Economy”, 1998