山梨大学医学部の図書館は,旧山梨医科大学 の時代からよき伝統に支えられてきた。しかし ながら,昨今の医学雑誌を取り巻く状況と国立 大学法人を取り巻く状況から厳しい局面に立た され,新しい選択を迫られている。本稿が皆様 方にとって,新しい医学部の図書館像を共に考 えて下さるきっかけになれば幸いである。 個人的なことで些か恐縮だが,これまで米国 国立医学図書館を含めておよそ 10 の医学図書 館を利用してきた。また分館長となり甲府キャ ンパスの図書館をはじめ医学系以外の図書館に ついても知る機会があった。いままで経験した 図書館の中でも,本学医学部のそれはとても充 実していると感じていた。医学部各科の雑誌が 集中管理され,学内関係者の誰もがそれを目に することができてきたからである。このことは, 専門雑誌が各講座で管理され,それゆえに利用 者のアクセスが容易でない他大学の医学部図書 館と比較して,大変誇るべき点と考えている。 しかしこのよき伝統が近年,脅かされている。 電子ジャーナル化の波とそれを財政的にカバー できない事情からである。多くの科学雑誌が電 子ジャーナル化され,利用者はコンピューター を使用することで,自分の机の上で雑誌が読め るようになった。これにより教員や大学院生は, まったくといっていいほど医学分館に来る必要 がなくなった。さらに,電子ジャーナル化によ り,海外から雑誌が到着するまで 1 ヶ月余りを 待つことも不要となり,インターネットを通じ て発刊日に,世界同時に最新情報を共有するこ とができるようになった。しかしこの恩恵も, 本学図書館が自分の読みたい雑誌の電子ジャー ナル契約をしていればこそ,である。雑誌社は この利点を知った利用者の足下をみるように, 毎年 10 %程度の値上げを続けてきた。その逆 に,大学経費とともに,図書館経費もご多分に もれず毎年削減を迫られてきた。その結果,分 館の医学雑誌契約数は減少の一途を辿ってい る。ただこのような傾向は,全国の医学部医科 大学に共通しているようである。 医学雑誌に対する利用者の考え方も数年前と 大きく変わり,冊子体契約のみで電子ジャーナ ル契約をしなかった雑誌を「死に体」と考える 利用者が増えてきた。このような電子ジャーナ ル絶対主義に呼応して,旧来の図書館が果たす 役割,すなわち書庫として医学分館が果たす役 割は年々減少している。新着雑誌(紙の冊子体) 数が年々減少しているからである。 これからの医学図書分館の役割は何かであろ うか? 誤解を恐れずにいうと,現在の最大の 役割は学生への勉強スペースの提供である。自 分の家で勉強すると誘惑に負けてダレてしまう タイプの学生には,静寂が保たれている図書館 は他の学生が勉強している中に身をおき緊張感 が保てる理想的な勉学の場といえる。学年,将 来目標の明確さ,伝統などさまざまな理由があ るようだが,甲府キャンパス図書館のような喧 噪はなく,多数の学生が利用していながら,こ のような静寂が保たれていることが医学分館の 誇りといえる。 ただ医学分館は学生の勉強部屋としてだけの 役割でよいのであろうか?今後電子ジャーナル だけとなり,本としての雑誌がなくなっていく 図書館の存在意義はどこにあるのか?先日訪問 71
新しい医学部図書館像
山梨大学図書館附属医学図書分館長 久保田健夫
した東京・都心にある国立大学法人医学部で は,このような理由から,近々予定されている 移転に際して数年前に描いた図書館レイアウト を完全に見直すことを余儀なくされているとい う。書庫としての使命が数年前に比較して格段 に減ったからである。 分館では,昨年来,図書館業務として医学部 学生や教職員へのリテラシー教育(電子ジャー ナル教育)のさらなる強化をはかっている。如 何に上手にインターネットで自分の欲しい医学 情報を得ることができるか,そのノウハウを若 いうちから教育することがその主旨である。 電子ジャーナル化と予算削減問題は,本学だ けでなく,全国の医学部図書館の問題といえる。 今後の山梨大学医学分館の将来像について,皆 様方からの忌憚のないご意見をあらためてお願 いする次第である。 72