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安定同位体及び放射性同位体を用いた環境汚染物質の動態解析に関する研究

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(1)

博士学位論文

安定同位体及び放射性同位体を用いた

環境汚染物質の動態解析に関する研究

近 畿 大 学 大 学 院

総合理工学研究科理学専攻

石田 真展

(2)

i

目 次

序論

・・・・・・・・・・・・・・1

1 章 鉛安定同位体比を用いた人為的鉛汚染の起源とその動態の

解明

1-1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・11

1-2 試料採取と分析方法

・・・・・・・・・・・・・・12

1-3 結果

・・・・・・・・・・・・・・

15

1-4 考察

・・・・・・・・・・・・・・19

1-5 まとめ

・・・・・・・・・・・・・・

24

1-6 参考文献

・・・・・・・・・・・・・・25

図表

・・・・・・・・・・・・・・

30

2 章 採泥器の種類による採取法の違いが底質中の物質濃度に

与える影響

-FDNPP 事故で放射性セシウムに汚染した

堆積物での事例-

2-1

はじめに

・・・・・・・・・・・・・・

36

2-2

調査方法

・・・・・・・・・・・・・・38

2-3

結果と考察

・・・・・・・・・・・・・・

41

2-4

まとめ

・・・・・・・・・・・・・・46

2-5

参考文献

・・・・・・・・・・・・・・

48

図表

・・・・・・・・・・・・・・51

(3)

ii

3 章 FDNPP 事故初期における首都圏の環境放射能汚染とその 5

年間の動態解析

3-1

はじめに

・・・・・・・・・・・・・・

63

3-2

試料採取と分析方法 ・・・・・・・・・・・・・・64

3-3

結果および考察

・・・・・・・・・・・・・・

67

3-4

まとめ

・・・・・・・・・・・・・・75

3-5

参考文献

・・・・・・・・・・・・・・

76

図表

・・・・・・・・・・・・・・86

4 章 FDNPP 事故による東京湾堆積物の放射性セシウム汚染の

時空間分布とその

5 年間の動態解析

4-1

はじめに

・・・・・・・・・・・・・・

97

4-2

試料採取と分析方法 ・・・・・・・・・・・・・・100

4-3

結果

・・・・・・・・・・・・・・

102

4-4

考察

・・・・・・・・・・・・・・107

4-5

まとめ

・・・・・・・・・・・・・・

114

4-6

参考文献

・・・・・・・・・・・・・・115

図表

・・・・・・・・・・・・・・

124

まとめ

・・・・・・・・・・・・・・132

謝辞

(4)

1

序 論

人類は自然界に存在する様々な物質を自らの生活に取り入れることで文明を 進歩させてきた。最近の遺伝考古学の発展で,我々の直接の祖先であるホモ・ サピエンスは10 万年前の温暖期にアフリカで発生し,7 万年前の気温の急激な 低下を伴う気候変動に誘発されてアフリカを出たことが明らかになっている。 特に,1 万 2 千年前の最寒冷期に海水面が現在より 125 m 低下したことは,人 類が世界各地へ拡散する起因となった。その後急激な地球温暖化が起こり,8 千 年前には農業が始まり,現代社会につながる文明が発展してきた。この過程で 人類は,自然界に産出する金,銀,銅,水銀,錫,鉛などの金属単体やその化 合物を利用してきた。我々は文明の進化と共に自然に産出する金属元素の酸化 物や硫化物を還元することで,鉱石から金属単体を取得し,目的に沿った形態 に金属を加工することを学習した。有史時代には世界の多くの地域で,現在の 我々が知る殆どの金属元素が使用されていたと考えられている。それは18 世紀 後半に英国で始まった産業革命によって,驚異的な発展を遂げることになる。 その結果,自然界に分散して存在していた金属元素が人為的に取り出され,人 間社会の中に取り込まれ,地球上を再循環することになり,人間が活動する環 境中にこれらの元素(物質)が拡散し偏析して存在することになった。その物 質が,人間の健康や生態系の恒常性に影響を与える可能性がある場合に,我々 はそれを「環境汚染が起きた」という。全地球に係る環境汚染について,例え ばMurozumi et al.1)は グリーンランドや北極氷床コアを分析して,英国の産業 革命で排出された鉛が北極低気圧(極渦)によって大気中を北極まで輸送され, 北極氷床に沈着し,汚染していることを明らかにしている。これは,環境汚染

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2 物質が国境を越えて地球全体に拡散していることを実証した最初の事例である。 現在では,金属元素だけでなく,内分泌攪乱物質やプラスチックも環境汚染物 質として全地球規模で移流していることが明らかになり,その動態が注目され ている。さらに第二次世界大戦以後の大気圏内核実験や,様々な原子力施設か ら排出された放射性物質も,環境汚染物質として動態が注目されている。近年 の遺伝学的,疫学的研究によれば,これらの汚染物質は極微量でも人間の健康 に大きな影響を与える可能性があることが指摘されている。 人間の健康や生態系に負の影響を与える環境汚染物質の地球上における移動, 拡散,集積過程を理解することは,健全な地球環境を持続していくために必要 不可欠である。本論文では,有害な汚染物質として古くから認識されてきたが, その環境動態には不明な点が多い金属元素の鉛,及び東北地方太平洋沖地震に よって起きた福島第一原子力発電所(FDNPP)事故で放出された放射性核種に 注目して,その環境動態を実証的に解析した。いずれの物質も環境解析学の分 野では環境汚染の影響評価を行うための指標物質であり,環境動態解析のトレ ーサー物質としても重要である。 鉛は近代工業分野で大量に使用されてきた金属元素であり,弾丸や錘,水道 の鉛管,第二次大戦後はガソリンに添加するアンチノック剤の四エチル鉛や, 各種の触媒等に汎用されてきた。その結果として,大量の鉛が環境に負荷を与

えている。米国におけるLanphear et al.2) , Miranda et al.3) , Jusko et al.4)

による2000 年代の研究では,小児の血中鉛濃度と成長後の知能との間に,明瞭

な負の相関が認められている。わが国では,小児の血中鉛濃度と知能との関係 を示した疫学的調査の結果は公表されていないが,狩猟に用いられた鉛散弾を

(6)

3 誤摂取した鳥類が鉛中毒を発症した例が報告されている5)。日本全国には鉛を含 む鉱床が多数存在するために,日本人に対する主要な鉛曝露源であるガソリン スタンド土壌の鉛汚染が,人為起源か自然起源かについて判別することは極め て難しい状況にある。そのことが,土壌汚染対策法に係る鉛汚染の規制を困難 にしている。従って,人間環境に存在する鉛について,人為起源か自然起源か を判別する方法を確立することは急務である。環境の鉛汚染の起源を明瞭に判 別することができれば,鉛汚染の防止や処理に有効な対策を講ずることができ る。 一方,2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震に起因する FDNPP 事故で は,東日本一帯が高濃度の環境放射能汚染に曝された。この FDNPP 事故の発 生機構については,原子力安全保安院6),独立検証委員会7),東京電力8),国会 9),政府10)によって調査報告書が公表されているが,これらの報告書は事故時に おける原子炉の工学的解析に主眼が置かれており,FDNPP から放出された放射 性核種による環境放射能汚染の実態や動態解析については殆ど触れられていな い。唯一,米国エネルギー省のホームページに事故直後の環境放射能モニタリ ングデータが,エクセルファイルの数値データ 11)と航空機モニタリングの線量 空間分布図12)として公表されている。最初のデータは3 月 12 日に三陸沖を航行 していた空母ロナルド・レーガンの甲板上の放射線量であるが,これらのデー タは現在改変されて米国エネルギー省のホームページに公開されている。福島 県の調査によれば,事故時に福島県に在住していた18 歳以下の小児の内,2018 年6 月時点で 207 名が甲状腺がんを発症しており,その数は現在も増え続けて いる。事故初期には過剰診断等の効果も指摘されていたが,現在では疫学的な

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4 解析から,甲状腺がんとFDNPP 事故との因果関係は明確に証明されている13) さらに福島県では,心疾患による突然死が増大していることも指摘されている。 このような経緯は,1986 年に起きたチェルノブイリ原発事故の場合とよく類似 している 14)。しかし,FDNPP 事故に起因する放射能汚染の環境動態解析やそ の健康影響については,わが国の公的機関による研究は殆ど行われていない。 本論文では,近年におけるわが国の環境汚染に係るこのような諸問題につい て,安定同位体及び放射性同位体の時空間計測を利用した環境動態解析を行い, 環境に負荷された汚染物質の挙動について解明することを試みた。以下に本論 文の各章ごとの記載内容について概説する。 第 1 章では,市街地に居住する住民に対する鉛曝露源として重要なガソリン スタンド跡地土壌を試料に用い,わが国における鉛汚染について安定同位体及 びその同位体比の時空間分布の解析から,汚染鉛の起源と時系列変動について 評価した。土壌中の鉛の安定同位体比とその化学的存在状態を対比することで, 鉛汚染の由来が人為起源か自然起源かについて判別する方法を開発した。その 結果,明らかに人為的鉛汚染を高濃度に受けた土壌だけでなく,鉛濃度が低く ても人為的汚染を受けている土壌,鉛濃度は高いがその汚染の起源が自然由来 と考えられる土壌などが存在することを明らかにした。土壌汚染対策法に基づ く鉛含有量試験に加え,逐次化学的分別溶解法による土壌中の鉛の存在状態の 解明と。鉛安定同位体比を解析することが,ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚 染の起源を判別する上で重要であることを明らかにした。 第 2 章では,水圏堆積物中に記録された環境汚染物質を,時系列解析するた めの試料採取法について検討した。環境に負荷された汚染物質は様々な経路で

(8)

5 輸送され,最終的には湖沼や海洋の堆積物へと沈降,集積するので,水圏堆積 物中にはその層準に沿って過去の環境汚染の履歴が記録されている。しかし, このような堆積物試料を採取する際に用いる試料採取法や,採取した試料の処 理法によっては,堆積物中に記録された環境汚染の履歴の解読を誤る場合も多 い。本章では,堆積物試料採取法が環境汚染の履歴解析に与える影響について, FDNPP 事故で放出された放射性セシウムをトレーサーに用いて評価した。その 結果,堆積物中の濃度が鉛直変動するような汚染物質を分析の対象とする場合, 試料採取に用いる採泥器の種類,堆積物試料の切断法(コアをスライスする厚 さ)が分析結果に大きな影響を与えることを明らかにした。さらに,公定法で 使用が推奨されているエクマン・バージ採泥器のようなグラブ型採泥器は,放 射性セシウムのような環境汚染物質の正確な履歴解析には使用できないことを 指摘した。 第3 章では,FDNPP 事故の発生初期における首都圏の環境放射能汚染の状況 を,首都圏各地で採取した環境試料の分析から解析した。さらに,事故発生後5 年間にわたり,その環境動態についてモニタリング調査を行った。FDNPP 事故 では,人口稠密な大都市圏が世界で初めて広範に放射能汚染に曝された。この ことは,東京圏(東京湾周辺の都市圏)に居住する 3,800 万人が長期間の低線 量放射線被曝を受けることを意味し,将来これらの住民が受ける可能性がある 健康影響を評価するための基礎データとして,首都圏の環境放射能汚染の動態 解析は重要である。事故から 3 週間後に東京都心部から採取した土壌からは 129Te, 129mTe, 131I, 134Cs, 136Cs, 137Cs が検出されたが,134Cs と137Cs を除いては 半減期が短いので早い段階で消滅した。しかし,131I は甲状腺がんを誘発する放

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6 射性核種であり,事故初期の首都圏で高濃度の 131I が検出されたことは,集団 に対する低線量被曝と発がんの関係を評価する上で重要である。FDNPP 事故初 期には,首都圏へ流入した放射性プルームからの放射性核種の沈着によって, 東京都北東部と千葉県北部で高度な環境放射能汚染地帯が形成されたことが確 認された。また,栃木県北部と群馬県北部の山岳地帯にも高濃度汚染地帯が形 成された。首都圏におけるこのような環境放射能汚染の地理的分布は,後日実 施された文科省の航空機モニタリングの結果と整合していた。都心部における 131I 及び134+137Cs 蓄積量は福島市の約 40%及び約 20%程度であり,福島市に比 べて首都圏で相対的に高濃度な 131I が飛来したことが確認された。東京都内に 沈着した放射性セシウムは,降雨や下水処理システムを通し,効果的に下水処 理場の汚泥焼却灰に移行することも明らかになった。下水処理システムに流入 した放射性セシウムの約80%が事故後 8 ヶ月間に流出し,後日確認されたいわ ゆるセシウムボールと呼ばれる易流動性の放射性セシウムが事故初期の首都圏 に沈着し,環境中を移流していたことが推定された。事故から 8 ヵ月以上経過 すると定常状態に達し,下水処理システムによる放射性セシウムの流出半減期 は460~580 日であった。土壌中の放射性セシウム濃度と汚泥焼却灰の排出量か らは,都内に沈着した放射性セシウムの78~90%が,事故から 5 年を経ても陸 上に残存していると推定された。下水処理場から排出される汚泥焼却灰中の放 射性セシウム濃度の変動は,降雨量の周期と相関があり,大都市圏のコンクリ ートやアスファルト上に沈着した放射性セシウムは,降雨によって容易に流出 されることが示唆された。本研究によって,コンピューターシミュレーション で推定されていた大都市圏における放射性物質の動態を,実試料の分析から実

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7 証的に解析することができた。 第 4 章では,首都圏に沈着した放射性物質のシンクとして重要な役割を演じ ている東京湾堆積物中の放射性セシウムの動態を解析した。FDNPP 事故から 5 年間の動態をモニタリング調査したところ,東京湾に流入する放射性セシウム の大部分は,東京都北東部や千葉県北部の高濃度汚染地帯から江戸川,旧江戸 川を経由して東京湾旧江戸川河口域に沈積しているが,湾央部まで拡散してい ないことが明らかとなった。事故の初期には河川から海洋に流入する放射性セ シウムは,河口域で塩析効果による凝集沈殿で沈積すると指摘されていたが, そのような現象は確認できなかった。堆積物の粒径と放射性セシウムの海域分 布の解析から,東京湾に流入した放射性セシウムは,粘土鉱物に吸着した比較 的粗粒な懸濁粒子として河口域に沈降していたことが明らかとなった。東京湾 に流入する放射性セシウムの約80%は,旧江戸川河口の若洲臨海公園と東京デ ィズニー・リゾートの間の海域に沈積していた。2016 年末における東京湾若洲 臨海公園沖海域の放射性セシウム沈着量は104 kBqm-2であり,事故初期の千葉 県柏市(460 kBqm-2)や福島市(363 kBqm-2)の23~29%程度であった。そ こで FDNPP 事故に由来する放射性セシウムの東京湾における収支を推定した ところ,高濃度汚染地帯である江戸川集水域の放射性セシウム沈着量は 8.33 TBq,旧江戸川河口域海域の沈着量は 1.53 TBq(アクアラインより北部海域の 東京湾全域で1.88 TBq)であり,陸上に沈着した放射性セシウムの 18%が事故 後5年間で東京湾に移流したと推定された。即ち,高濃度汚染地帯に沈着した 放射性セシウムの約80%が現在も陸上に残存していることになり,この値は本 論文第 3 章で推定した値と整合していた。さらに第 4 章では,従来から指摘さ

(11)

8 れていた FDNPP 事故による東京湾の放射性セシウム汚染の起源と蓄積機構が 誤っていること指摘し,実証データに基づく新たな輸送,堆積機構の存在を提 案した。 以上に示したように,本論文では安定同位体及び放射性同位体を用いた環境 汚染物質の動態解析の新しい手法を開発した。またその方法に基づき,人間の 健康に深刻な影響を与える可能性が高い鉛と,放射性物質の動態解析に実証的 に適用した。鉛汚染の起源を人為由来か自然由来か判別する方法の開発,さら に大都市圏における環境放射能汚染の時空間分布の解析的評価について研究を 行い,いずれの研究についても環境解析学の分野に新しい知見を与えることが できた。 引用文献

1) Murozumi, M., Chaw, T. J., Patterson, C. C. (1969) Chemical concentration of pollutant lead aerosols, terrestrial dusts and sea salts in Greenland and Antarctic snow strata. Geochim. Cosmochim. Acta, 33: 1247-1294.

2) Lanphear, B. P., Dietrich, K., Auinger, P., Cox, C. (2000) Cognitive deficits associated with blood lead concentrations <10 μg/dL in US children and adolescents. Pub. Health Rep., 115: 521-529.

3) Miranda, M. L., Kim, D., Galeano, M. A., Paul, C. J., Hull, A. P., Morgan, S. P. (2007) The relationship between early childhood blood lead levels and performance on end-of-grade tests. Environ. Health Perspect., 115: 1242-1247.

4) Jusko, T. A., Henderson, C. R., Lanphear, B. P., Cory-Slechta, D. A., Parsons, P. J., Canfield, R. L. (2008) Blood lead concentrations <10 μg/dL and child intelligence at 6 years of age. Environ. Health Perspect., 116: 243-248.

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9 けるオオハクチョウの鉛中毒発症例. 北海道衛生研究所報第 39 集,107-109. 6) 原子力安全・保安院:2011 年 6 月 6 日,東京電力株式会社福島第一原子力発 電所の事故に係る1 号機,2 号機及び 3 号機の炉心の状態に関する評価につ いて. http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_6017222_po_20110606-1nisa.pdf?conte ntNo=1&alternativeNo=(2018 年 11 月 28 日現在). 7) 福島原発事故独立検証委員会(著)福島原発事故独立検証委員会 調査・検 証報告書:2012 年 2 月 27 日,福島原発事故独立検証委員会報告書. 8) 東 京 電 力 : 2012 年 6 月 20 日 , 福 島 原 子 力 事 故 調 査 委 員 会 報 告 書 http://www.tepco.co.jp/cc/press/2012/1205628_1834.html(2018 年 11 月 28 日現 在). 9) 国会:2012 年 7 月 5 日,東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書 http://www.mhmjapan.com/content/files/00001736/naiic_honpen2_0.pdf#search= (2018 年 11 月 28 日現在). 10) 政府:2012 年 7 月 23 日,東京電力福島原子力発電所における事故調査・検 証委員会報告書 https://www.kantei.go.jp/jp/noda/actions/201207/23kenshou.html (2018 年 11 月 28 日現在). 11) 米国エネルギー省国家核安全保障局:2011, https://explore,data.gov/catalog/raw?q=fukushima&sortBy=relevance. 12) 米国エネルギー省:2011, http://www.energy.gov/downloads/radiation-monitaring-data-fukushima-area-32511. 13) Tsuda, T., Tokinobu, A., Yamamoto, E., Suzuki, E. (2016) Thyroid cancer detection by ultrasound among residents ages 18 years and younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014. Epidemil., 27: 316-322.

14) IAEA:2006, Environmental consequences of the Chernobyl accident and their remediation: Twenty years of experience, Radio. Assess. Rep. Ser.

(13)

10

https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/Pub1239_web.pdf (2018 年 11 月 28 日現在).

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11

1 章 鉛安定同位体比を用いた人為的鉛汚染の起源とその動態の

解明

1-1 はじめに

社団法人全国石油協会によれば,1998 年から 2013 年の間に全国のガソリン スタンド数は 56,444 から 34,706 に減少し,多くのガソリンスタンド跡地が生 じている1)。ガソリンスタンドは人口稠密な市街地に立地することが多く,住民 に対する鉛曝露源としてのリスクを抱えている。土壌汚染対策法(土対法)で は鉛は特定有害物質に指定されている。さらに自治体独自の基準を別に設け, 鉛汚染の防止を試みている場合が多い。例えば,東京都では環境確保条例 116 条に基づいてガソリンスタンドの土壌調査を実施し,鉛汚染した跡地の使用を 規制している2)。その結果,ガソリンスタンド跡地は再利用されずに放置されて いるケースが多い。有鉛ガソリンの漏洩は,ガソリンスタンド敷地土壌の重要 な鉛汚染源である。米国では,有鉛ガソリンの使用規制によってガソリン中の 鉛濃度が減少し,それに伴ってヒトの血中鉛濃度が低下したことが報告されて いる3)。日本では,1986 年までアルキル鉛を添加した有鉛ガソリンが販売され ていたが,米国に比べて販売量はわずかであった。日本のガソリン中の鉛濃度 は最高0.15 gL-1,平均0.00~0.09 gL-1で,規格化された鉛濃度低レベル国家に 分類されている4)。このように有鉛ガソリンは,ガソリンスタンドの鉛汚染の有 力な起源であるが,わが国では鉛蓄電池やホイールバランサー,タイヤ等から の鉛暴露のリスクも無視できないと考えられている。いずれにしても,ガソリ ンスタンド土壌の鉛汚染は,その跡地の再利用,有効利用を妨げており,大き な社会問題となっている。一方,わが国では鉛を含む鉱床が全国に点在してお

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12 り,鉛を含む鉱床近隣やその下流域の土壌では自然由来の鉛汚染を受けている ことがある。高度経済成長期に設置されたガソリンスタンドには,鉛汚染した 産業廃棄物が埋設,廃棄されていることも多い。このことは,ガソリンスタン ド跡地土壌の鉛濃度が高いことが,必ずしも有鉛ガソリンを起源とする鉛汚染 が原因であることを示していない。環境省は平成22 年の土対法改正に伴い,自 然由来で汚染された土壌も法の対象になることを自治体に通知し5),平成23 年 には土対法施行規則で自然由来汚染土壌の判定方法が示された6,7)。しかし,そ の方法は包括的であり,土壌の鉛汚染の起源の判別を明確に示している訳では ない。ガソリンスタンド跡地を再利用する場合,その土壌の鉛汚染の起源が問 われる場合が多い。従って,土壌の鉛汚染の起源が自然由来か人為由来かを判 定することは重要である。 鉛には始原鉛である 204Pb と天然の放射壊変系列から生じた 206Pb,207Pb, 208Pb の計 4 種の安定同位体が存在する。この中で206Pb,207Pb,208Pb はその 親核種である238U,235U,232Th の地殻中の濃度に支配されるので,鉛を産出し た鉱床の地域やその時代によって,これら鉛同位体の存在比は異なる。近年の 機器分析の進歩は,鉛同位体分析によって鉛の産地や,使用された時代を判別 することを可能にしている。そこで,本研究ではガソリンスタンド跡地土壌の 鉛汚染について,鉛同位体比の分析によってその起源が自然由来か人為由来か を判定する方法の開発を試みた。

1-2 試料採取と分析方法

1-2-1 土壌試料 JX 日鉱日石エネルギー(株)が,西日本各地のガソリンスタンド跡地から土

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13 対法に準拠してボーリングコアを採取して試料に用いた。おおむね,深さ10 m 程度のコア試料を得た。これらのコア試料群から無作為に選択して,分析試料 とした。試料中の鉛濃度は,蛍光X 線分析法(XRF 法)による全鉛濃度に加え て土対法に準拠した溶出量基準(水溶解性鉛),および含有量基準(1 molL-1 酸溶解性鉛)濃度を測定した。ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染の有無や起 源の評価は,ガソリンスタンドの立地環境が店舗ごとに異なるので,それを包 括的に取り扱うことが難しい。そこで本研究では,ガソリンスタンド跡地土壌 の他に様々な機関から頒布されている環境標準試料や,人為汚染の履歴が判明 している底質試料について,鉛の濃度,存在状態,および同位体組成を分析し て比較した。産総研地質調査所(GSJ)の標準岩石試料 JG-1 は,岩石塊として 採取して調製された花崗岩であり,人為的汚染や風化による変成を受けていな い岩石試料である。国立環境研究所(NIES)の環境標準試料 No.2(東大三四 郎池底質)とNo.8(高速道路トンネル内から採取された自動車排出粒子)は, 高度経済成長期における大都市圏の鉛汚染や排気ガスとして排出されたガソリ ンからの鉛汚染の影響を受けている。米国標準技術研究所(NIST)の SRM 1633a(Coal Fly Ash)は米国産石炭灰であり,古代の人為的汚染のない鉛同位 体比を示唆する試料として分析した。一方,産業活動の影響を受けた可能性の ある環境試料として,大阪城の堀に昭和初期(OM-1930)や高度経済成長期 (OM-1972)に堆積した底質を用い,わが国の人為活動に伴う鉛汚染の影響を 評価した8)。信濃川源流域から運ばれた洪水堆積物SR-11,SR-44,SR-68 9)は, 人為汚染の影響を受けていない試料として参照した。放射線遮蔽体,カーバッ テリー,釣用錘などの金属鉛は,産地や製造履歴が特定できなかったが,わが

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14 国で汎用されている鉛の典型的な同位体比を示すと考えた。 1-2-2 逐次化学的分別溶解法による土壌中の鉛化学種の分画 土壌中の鉛の存在状態を,逐次化学的分別溶解法を適用して分析した。土壌 試料中の金属元素の化学種を分別するため,様々な溶解法が提案されている10) 土壌試料は,水可溶性(中性水),炭酸塩(10%-酢酸),含水酸化物・酸化物(10% -酢酸,0.2 molL-1-塩化ヒドロキシルアンモニウム),硫化物・有機物(0.015 molL-1硝酸,1.5%過酸化水素水)の各溶媒を用いて逐次分別し,鉛の存在形態 を分画した。各溶媒を土壌試料に10%(w/v)になるように加え,300 rpm で 1 時間振とうした後,2,500 rpm で 20 分間遠心分離した上澄液を採取し,0.15 molL-1 硝酸溶液に調製して分析試料とした。硫化物・有機物分画では,脱気の ために超音波処理を行った。また,土壌の汚染濃度によって,土壌採取量を適 宜調節した。 1-2-3 土壌中の鉛濃度と鉛安定同位体比の分析

土壌試料の総鉛濃度は,NIST SRM 1646 (Estuarine Sediment)と NIES CRM No.2(池底質)を標準試料に用いた XRF 法(リガク製波長分散型分析装 置ZFX PrimusⅡ)で定量した。あらかじめセルロースパウダーで成型した直径 4 cm のディスク上に,風乾してメノウ製乳鉢で粉砕した試料 1.2 g を均一の厚 さに採取し,アルミリングにセットして 1.6 ton•cm-2で加圧成型して,測定用 試料を作成した11)。本法による鉛の検出限界は1 mgkg-1,分析精度は± 3%であ った。GSJ,NIES,NIST の環境標準試料は,硝酸-過塩素酸-フッ化水素酸で 全分解した。金属鉛は 1.5 molL-1硝酸で溶解した。ガソリンスタンド跡地土壌

(18)

15 およびその他の底質試料は,土対法に準拠して 1.0 molL-1塩酸で溶解した。試 料溶液は,適宜希釈して0.15 molL-1硝酸溶液に調製し,四重極質量分析ICP-MS 法で分析した。鉛濃度は,原子吸光分析用Rh 標準溶液の103Rh を内標準に用い て定量した。鉛同位体比は,NIST の鉛同位体標準試料 SRM 981 を標準に用い, マスディスクリミネーション効果の補正を行った12)。四重極ICP-MS 法で精度 よく分析できる206Pb, 207Pb, 208Pb を定量し,207Pb/206Pb と208Pb/206Pb 比を算 出した。ICP-MS 装置には,島津 ICPM-8500(高周波出力 1.20 kW,近畿大学) と,エスアイアイ・ナノテクノロジー製SPQ-9700(高周波出力 1.45 kW,(株) タツタ環境分析センター)を併用した。試料溶液の調製は,クリーンルーム又 はクリーンベンチ内で行った。SPQ-9700 を用いて,SRM 981 から調製した 1 mgL-1鉛標準溶液(0.15 molL-1硝酸酸性)を10 回繰り返し測定した時の 3σ で 示した検出限界と分析精度は,206Pb,207Pb,208Pb についてそれぞれ 0.014 mgL-1 (± 0.47%),0.014 mgL-1(± 0.48%),0.009 mgL-1(± 0.29%)であった。装 置間のクロスチェックも SRM 981 を用いて行った。SPQ-9700 に対して ICPM-8500 で得られる207Pb/206Pb,208Pb/206Pb の値の比は,それぞれ 0.9982 ± 0.0020,0.9979 ± 0.0032 であり,ICPM-8500 がやや低値を示したが,分析精 度の範囲内で装置間の相違は認められなかった。また,Table 1-3 に示すように,

ICPM-8500 で測定した NIES No.2 の測定値は207Pb/206Pb:0.8748 ± 0.0043 で

あり,文献値の0.8742 ± 0.001513)とよく一致した。

1-3 結果

1-3-1 ガソリンスタンド跡地土壌の鉛濃度

(19)

16 の土壌の鉛濃度のみから汚染の有無や起源を評価するのは難しい。産総研の地 球化学図では 14),わが国の地表の土壌や岩石の鉛濃度は,4.07~7,594 ppm, その平均値は23.1 ± 11.8 ppm(中央値 20.7 ppm)としている。この地球化学 図には0.1 molL-1塩酸可溶性鉛濃度も示され,その濃度は nd~5,418 ppm,平 均値は6.39 ± 4.99 ppm(中央値 5.07 ppm)である。平成 11 年に環境省が分析 したわが国の代表的10 都市の土壌の鉛濃度は,1.6~141.0(平均値 19.0 ± 21.0, n=193)mgkg-1であった。東京都は4.1~141.0(32.5 ± 29.8,n=53)mgkg-1 で,他の都市に比べてやや高値を示す 15)。一方,近世の産業活動の影響を受け ていない大阪城堀堆積物では,明治維新以前の 1680~1850 年の堆積層の鉛濃 度は25.3 ± 2.8 mgkg-1(n=20),堀の基盤の 1629 年以前の粘土層は 22.2 mgkg-1 であった8)。琵琶湖北湖底質の1360~1850 年の堆積層は,大阪城堀底質に比べ てやや高い37.2 ± 3.8 mgkg-1(n=70)であった16)。これらの値は,全国の土 壌鉛濃度の平均値を示していると考えることができる地球化学図の値と相違し ない。わが国には多くの鉛を含む鉱床が存在するので,局地的にはその影響も 考慮しなければならないが,都市土壌の93%は鉛濃度が 50 mgkg-1以下である ことや15),地球化学図で示された鉛濃度の 95.5%(±2σ の範囲に相当する)は 46.7 ppm 以下である14)から,総鉛濃度が50 mgkg-1以下であれば,人為由来の 鉛汚染を考慮しないこととした。 ガソリンスタンド跡地土壌,環境標準試料,底質試料の総鉛濃度,底質試料 の鉛溶出量,底質試料の鉛含有量および総鉛濃度に対する含有量の割合を, Table 1-1 に示す。同じガソリンスタンドでも F12-1,F12-2,F14-1,F14-2 のように,採取位置や深度で大きく異なる場合があり,ガソリンスタンドの業

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17 態や履歴が跡地土壌の鉛濃度に反映していることが推察された。環境標準試料 や底質試料の総鉛濃度も,ガソリンスタンド跡地土壌と同様な濃度範囲に分布 した。人為由来の鉛汚染を受けていると考えられるNIES-2,NIES-8,OM-1930, OM-1972 では,総鉛濃度が 50 mgkg-1以上となり,総鉛濃度に対する含有量基 準濃度の割合が高く,同様の傾向は,総鉛濃度が高いガソリンスタンド跡地土 壌F12-1,F12-2,F14-1,F14-2,HB17-1,HB17-2,OA14-1,OA14-2 でも 認められた。 1-3-2 逐次化学的分別溶解法による土壌中の鉛の化学種の推定 逐次化学的分別溶解法を用いて,試料中の鉛の化学種を分画した結果を, Table 1-2 に示す。ガソリンスタンド跡地土壌で,総鉛濃度が自然由来土壌鉛量 のバックグラウンド値と判断した 50 mgkg-1,土対法による土壌溶出量基準 (0.01 mgL-1),および土壌含有量基準(150 mgkg-1)の全てを超えたのは, F12-1,F12-2,F14-1,F14-2,HB17-1,HB17-2 であり(Table 1-1),これら の総鉛濃度が高いガソリンスタンド跡地土壌では,逐次分別溶解法では炭酸塩 と含水酸化物・酸化物分画の存在割合が大きかった。一方,総鉛濃度が低い跡 地土壌では,逐次分別溶解法による溶出率は相対的に低値を示し,JG-1,SR-11, SR44,SR-68 のような人為的鉛汚染を受けていない試料と同じ傾向を示した。 強い石油臭を示したTN13-2 の総鉛濃度は,土対法による土壌含有量基準の 150 mgkg-1より低値を示したが,1 molL-1塩酸を用いた土対法に準拠した溶解法よ りも,逐次分別溶解法による全溶解量の方が大きな値を示した。硫化鉛(PbS) は1.5 molL-1塩酸でも溶解されない場合があるので17),この試料では鉛が硫化 物を形成し,土対法に準拠した含有量基準の試験法では溶解しない鉛が,硫化

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18 物・有機物分画で溶出した可能性がある。大阪城堀底質の OM-1930,OM-1972 も,相対的に硫化物・有機物分画の濃度が高い傾向を示した。 1-3-3 土壌中の鉛の安定同位体比 ガソリンスタンド跡地土壌,環境標準試料,底質試料,金属鉛等の207Pb/206Pb と208Pb/206Pb 比を Table 1-3 に示す。ガソリンスタンド跡地土壌の 22 試料の鉛 同位体比は,207Pb/206Pb:0.8402~0.8673(0.8548 ± 0.0088),208Pb/206Pb:2.0851 ~2.1250(2.1063 ± 0.0123)の範囲に分布し,わが国の環境試料の同位体比と ほぼ同じ値を示した。鉛濃度が高い試料で,207Pb/206Pb 比が高い値を示す傾向 が認められた。逐次化学的分別溶解法で特異性を指摘した TN13-2 の鉛同位体 比は,同一コアの他の深度の試料より大きな値を示した。ガソリン由来の鉛汚 染の指標として有用な NIES No.8 の本法による鉛同位体比は,文献値の 207Pb/206Pb:0.890 ± 0.006, 208Pb/206Pb:2.132 ± 0.01118)と一致していた。大阪 城堀底質OM-1930(昭和初期),OM-1972(高度経済成長期)の鉛同位体比も, 大阪城堀底質で既に解明されている鉛汚染の履歴の結果と一致していた 19)。信 濃川源流域から運ばれた洪水堆積物のSR-11,SR-44,SR-68 は,人為汚染の影 響を受けていないと考えられるが9),その207Pb/206Pb 比は人為汚染を受けてい る底質試料に比べて低値を示した。NIST 1633a は,石炭に由来する太古の鉛同 位体比を反映していると考えられるが,その値は米国産石炭の鉛同位体比 207Pb/206Pb:0.8317 ± 0.0067,208Pb/206Pb:2.0559 ± 0.017320)と整合した。放 射線遮蔽体,カーバッテリー,釣用錘など金属鉛の産地や製造履歴は不明であ ったが,その 207Pb/206Pb 比は 0.9621~0.9078 であり,現在利用されている鉛 の207Pb/206Pb 比は過去に用いられた鉛の207Pb/206Pb 比に比べ,高い値を示すこ

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19 とが示唆された。

1-4 考察

4-1 ガソリンスタンド跡地土壌の鉛濃度と汚染の評価 土壌の鉛汚染の評価は,汚染の有無の判断基準をどのように定義するかで異 なる。自然由来の鉛の上限と設定した 50 mgkg-1より高濃度であれば,人為由 来と評価できる。廃鉱からの漏洩水による土壌汚染も,広い意味では人為汚染 と考えられるが,ガソリンスタンド跡地に特徴的な有鉛ガソリン等に由来する 汚染と区別するため,このような場合は自然由来と判定した。今回分析したガ ソリンスタンド跡地土壌 22 試料中で総鉛濃度が 50 mgkg-1を超過したのは11 試料で,土対法の溶出量基準を超えたのは10 試料であった(Table 1-1)。土対 法の溶出量は基準以下であった試料のうち2 試料は,総鉛濃度が 50 mgkg-1 下を示し,逆に3 試料は 50 mgkg-1以上であった。土対法の含有量基準を超え た 8 試料の総鉛濃度は,いずれも高濃度であった。溶出量基準や含有量基準を 超過した試料の大部分は総鉛濃度も高値を示したが,TS14-1 のように総鉛濃度 が低くても溶出量基準を超える試料も見つかった。環境標準試料や底質などの 分析結果も合わせて考えると,総鉛濃度が高いガソリンスタンド跡地土壌は人 為的汚染を受けている可能性が示唆されるが,この鉛汚染が自然由来であるこ とを否定することはできない。すなわち,総濃度や溶出量基準,含有量基準を 分析するだけでは鉛汚染の有無,特にそれが人為由来か自然由来かを評価する のは難しい。 1-4-2 ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染と鉛の存在状態

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20 通常の土壌環境における鉛の安定種は炭酸塩と硫酸塩であるが,条件によっ ては硫化物や含水酸化物・酸化物なども存在する 21)。鉛は有機物に対する配位 能が大きいので,有機錯体の生成も考慮する必要もある。わが国には硫化物鉱 床が多いので,自然由来の鉛が汚染源になる可能性も高い。産業活動でイオン 種や金属態微粉末として排出された鉛は,様々な化学種を経て環境に拡散し蓄 積する。塗料に使われる鉛化合物も重要な鉛汚染源である。このように,土壌 中の鉛の存在状態は複雑であり,その化学種は鉛汚染と密接な関係にある。 Table 1-2 に示すように,人為的な汚染を受けていない JG-1,SR-11,SR-44, SR-68 は,逐次分別溶解法の全ての分画で低い溶出率を示した。これらの試料 では,鉛の大部分が岩石のケイ酸塩格子内に存在しているので,逐次分別溶解 法だけでなく,1 molL-1 塩酸による鉛の溶出率も低値を示した。一方,鉛汚染 を受けていると考えられる試料では,逐次分別溶解法で溶出される鉛成分はい ずれも相対的に高濃度を示し,汚染鉛が様々な化学種で土壌中に存在している ことが示唆された。TN13-2 を除いて逐次分別溶解法を用いると,土対法に準拠 した含有量測定法に比べ溶出率が大きく,ケイ酸塩として存在する鉛の一部も 溶解している可能性がある。総鉛濃度が高いガソリンスタンド跡地土壌のF12-2, F14-1,F14-2,HB17-1,HB17-2 では,熱力学的安定種である炭酸塩の存在割 合が高い。一方,OA14-1 と OA14-2 は硫化物・有機物,含水酸化物の割合が高 く,これは還元的環境にある大阪城堀底質OM-1930 や OM-1972 と同じ傾向を 示した。すなわち,OA14-1 と OA14-2 の土壌環境は,他のスタンドに比べて還 元的であると推察された。しかし,この土壌に含有する鉛が,人為的に負荷し た鉛の硫化物であるのか,天然の硫化物鉱床に由来する鉛が混入しているのか

(24)

21 を判断することはできない。このように逐次分別溶解法を用いると土壌中の鉛 化学種を同定ができ,土壌環境や鉛汚染の状態を推察することはできるが,そ の起源を明確に判断することは困難と考える。 1-4-3 ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染の評価と鉛同位体比による起源の 推定 放射性元素をその起源にもつ放射起源同位体は,かつてその場にあった放射 性元素の量ならびに経過した時間に応じてその量が変動する。そのため,同位 体同士の比率はその産地によって変化し,発生源の探索やその特徴を生かした 環境動態の追跡などに利用できる。鉛は,放射壊変起源同位体3 種を含む204Pb, 206Pb,207Pb,208Pb の 4 つの安定同位体が存在する。そこで,204Pb あるいは 206Pb に対する207Pb あるいは208Pb の割合を鉛同位体比としてあらわすと,そ の鉛同位体比は鉱石の産地で異なることが知られている。従って,使用履歴と 同位体比の変化を関連付けて解析すれば,鉛汚染の起源や動態を議論できると 考えた。そこで,鉛同位体比を用いてガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染の起 源の評価を試みた。個々の試料の鉛同位体比は,その汚染履歴に基づいて決ま る固有の値を持つと考えられるので,試料のおかれた環境によって鉛同位体比 の時空間分布は大きく変動する可能性が高い。このことは鉛同位体比を用いた 鉛汚染の起源の解明が,個々の試料の汚染履歴を特定することで初めて可能に なることを意味している。しかし,2 万ヶ所以上のガソリンスタンド跡地土壌の 鉛汚染の有無や起源を議論しようとする場合,試料の汚染履歴を個々に解明す ることは事実上不可能である。そこで,我々は鉛汚染やその起源と鉛同位体比 の関係を包括的に取り扱うために,鉛同位体比組成に加えて濃度や存在状態な

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22 どの情報を対比させることで,鉛汚染の起源を評価した。わが国では,明治維 新以降の鉛汚染の履歴やそれに伴う鉛同位体比の変遷の解明が進んでいるので 19, 26, 27),環境試料の鉛汚染の起源の解析に参照することができる。 同位体比を用いた鉛汚染の動態や起源の解析について,既に多くの報告があ る7, 18, 19, 22-32)。わが国では,第二次大戦後からガソリンにアルキル鉛を添加し てきた。1975 年にレギュラーガソリンの無鉛化,1986 年にはプレミアムガソ リンへのアルキル鉛の添加が中止され,自動車用ガソリンの無鉛化が実現した 33)。しかし,歴史の古いガソリンスタンド土壌には,この時代に使用されてい た有鉛ガソリンによる鉛汚染が残存している可能性がある。有鉛ガソリンの使 用禁止から30 年が経過しており,当時使用されていたアルキル鉛が現存しない ので,その鉛同位体比を直接検証できなかった。当時の有鉛ガソリンの鉛同位 体比は 207Pb/206Pb:2.01~2.21,208Pb/206Pb:8.02~9.46 に分布することが指 摘され,その値は輸入元のアルキル鉛の同位体比に依存するとされている 34) 1980 年代初期に NIES によって調製された CRM No. 8(自動車排気粒子)35) の鉛同位体比(207Pb/206Pb:0.889)は,当時のガソリン中の鉛同位体比を示し ていると考えられている 36)。ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染源は,有鉛ガ ソリンだけではないので,わが国における鉛汚染の履歴を反映していると考え られる代表的な環境試料の同位体組成も分析し,ガソリンスタンド跡地土壌と の対比から鉛汚染の有無と起源の評価を試みた。207Pb/206Pb 比と208Pb/206Pb 比 の相関関係を Fig. 1-1 に示す。この分布は,わが国の環境試料の鉛同位体比の パターンとほぼ一致している。207Pb/206Pb 比が 0.86 を境にしてそれ以上が人為 由来,それ以下が自然由来の鉛汚染と判別できる可能性が示唆される。これは,

(26)

23 明治末期から現在までのわが国における人為起源とされる鉛の207Pb/206Pb 比が, ほぼ 0.86 以上であることと矛盾しない 19)。しかし,208Pb/206Pb 比は,そのよ うな明瞭な起源の相違を示さなかった。 全鉛濃度,土対法準拠の鉛含有量と207Pb/206Pb 比の関係を Fig. 1-2 に示す。 ガソリンスタンド跡地土壌の F12-1,F12-2,F14-1,F14-2,OA14-1,OA14-2 は鉛濃度が高く,207Pb/206Pb 比が 0.86 以上であり,逐次溶解法の結果も合わせ て考えると,明らかに人為由来の鉛汚染を受けていると判断された。特に,福 岡県の同一スタンド内の異なった場所,深度から採取したF12-1,F12-2,F14-1, F14-2 はいずれも極めて高濃度に汚染していた。ガソリンスタンドの造成に際し て産業廃棄物を埋設していた時代があり,採取試料コアの状態や鉛濃度および 同位体比を考慮すれば,この地点の鉛汚染は過去に廃棄や埋設された産廃に起 因する人為汚染であると推定できる。OA14-3 の鉛濃度は低いが,207Pb/206Pb 同位体比は高値を示し,上層から浸透した人為由来の鉛の影響を受けていると 考えられた。これら人為由来の汚染を受けていると考えられるガソリンスタン ド跡地土壌の207Pb/206Pb 比は,0.864~0.867 の範囲であり,1970~80 年代の 有鉛ガソリンの鉛同位体比の指標となる NIES-8 の 0.889 と比べると低値を示 した。しかし,わが国の有鉛ガソリンの使用履歴から推察すれば,ガソリンス タンド跡地土壌の鉛汚染源として,アルキル鉛の影響は重要であると考えられ る。さらに,OM-1930 や OM-1972 の鉛同位体比と比べると,これらガソリン スタンド跡地土壌の鉛汚染は,比較的新しい時代に受けたと推察される。一方, HB17-1,HB17-2 は,鉛濃度は高いが同位体比は 0.86 以下であった。このガソ リンスタンドは,過去に鉛を産出していた明延鉱山の下流域に立地し,その影

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24 響を受けている可能性が考えられる。地球化学図 14)によれば,明延鉱山からこ のガソリンスタンドに続く一帯は地質学的に鉛の高濃度帯であり,このガソリ ンスタンドの鉛汚染は,自然由来である可能性が高い。採取時に強いガソリン 臭を示したTN13-2 の鉛含有量は基準以下であったが,207Pb/206Pb 比は 0.86 を 超えていた。この試料は深度90 cm から採取したが,逐次分別溶解の結果も合 わせると,漏洩したガソリン中の鉛やスタンドで取り扱われた製品中の鉛が土 中に浸透して,硫化物あるいは有機錯体としてこの堆積層に固定されていたと 考えることができる。以上の結果を総括して,ガソリンスタンド跡地土壌の鉛 汚染の有無とその汚染の起源を評価し,Table 1-4 にその結果を示す。鉛汚染の 起源が人為由来であるか自然由来であるかを判別するためには,土対法に準拠 した溶出量や含有量の分析だけでは不十分であり,土壌中の鉛の存在状態や鉛 安定同位体比による解析が有用であることが明らかになった。 1-5 まとめ ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染と,その汚染の起源を評価する方法につ いて検討した。土対法においては有害物質の汚染の由来を評価することが求め られているが,ガソリンスタンドのような履歴が複雑で鉛暴露の可能性が高い 場所の土壌の鉛汚染を包括的に評価することは難しい。本研究では,総鉛濃度 や土対法に準拠した鉛溶出試験と,鉛含有量試験に基づく汚染の評価に加えて, 従来から鉛汚染の起源同定法として汎用されている逐次化学的分別溶解法と鉛 安定同位体比を併用して,ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染の起源同定を試 みた。その結果,明らかに高濃度な人為的鉛汚染を受けた土壌の他に,鉛濃度 が低くても人為的汚染を受けている土壌,鉛濃度は高いがその汚染の起源が自

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25 然由来と考えられる土壌などが存在することから,土対法に基づく鉛含有量試 験に加え,逐次化学的分別溶解法による土壌中の鉛の存在状態の解明と鉛安定 同位体比を解析することが,ガソリンスタンド跡地土壌の鉛汚染の起源を評価 する上で重要であることを明らかにした。特に,土壌中の207Pb/206Pb 比が 0.86 以上を示す場合,その鉛汚染の起源が人為由来である可能性が高いことが示唆 された。鉛同位体比組成に加え,濃度や存在状態などの情報を対比させること で,鉛汚染の起源が明らかになり,ガソリンスタンド跡地の再利用の判断に貢 献できると考える。 引用文献 1) (財)全国石油協会:2014,都道府県別給油所数の推移 http://www.sekiyu.or.jp/topics/index.html(2018 年 11 月 28 日現在). 2) 東京都環境局:2018,環境確保条例及び同施行規則 http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/chemical/soil/ordinance/text.files/jyou reih26sekoukisoku.pdf(2018 年 11 月 28 日現在).

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(2018 年 11 月 28 日現在).

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(33)
(34)
(35)
(36)
(37)

34 JG-1 NIES-2 NIES-8 NIST 1633a OM-1930 OM-1972 SR-11 SR-44 SR-68 FW-Pb②BA-Pb FW-Pb① SH-Pb FW-Pb③ FW-Pb④ 1.98 2.00 2.02 2.04 2.06 2.08 2.10 2.12 2.14 2.16 2.18 0.78 0.80 0.82 0.84 0.86 0.88 0.90 0.92 208 P b / 206 Pb 207Pb/206Pb GS Site Soil Environ. Material Anthropogenically Anthropogenically Non-Contaminated

Fig. 1-1 Distribution of lead isotope ratios of the gas station site soil and some environmental materials

Fig. 1-1 Distribution of lead isotope ratios of the gas station site soil and some environmental materials

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35 1 10 100 1000 10000 0.78 0.80 0.82 0.84 0.86 0.88 0.90 0.92 0.94 F1 2 -1 F1 2 -2 F1 4 -1 F1 4 -2 O C 2 -7 HB 1 2 -1 H B 1 2 -2 H B 1 7 -1 HB 1 7 -2 O A 1 4 -1 O A 1 4 -2 O A 1 4 -3 TS 1 4 -1 TS 1 4 -2 TS 1 4 -3 TS 1 4 -4 TN 1 3 -1 TN 1 3 -2 TN 1 3 -3 TN 1 3 -4 TN 1 3 -5 TN 1 3 -6 J G -1 N IE S -2 N IE S -8 N IS T 1 6 3 3 a O M -1 9 3 0 O M -1 9 7 2 S R -1 1 S R -4 4 S R -6 8 S H-Pb B A -Pb Fw -Pb ① Fw -Pb ② Fw -Pb ③ Fw -Pb ④ P b C on c. , m g/ k g 207 P b / 206 Pb Sample Total Conc. 1M-HCl Soluble 207Pb/206Pb Ratio A B C D E F G

Fig. 1-2 Relationship between the total lead concentrations, the soluble lead with 1 mol/L-HCl and the207Pb/206Pb ratios in the gas

station site soils and some environmental materials If the207Pb/206Pb ratio is greater than or equal to 0.86, it is assessed that the lead is

originates from anthropogenical contamination. A: The source of this lead is estimated to be Akenobe mine upstream of the gas station. B: The contamination by the lead contained in the leaked gasoline. C: This lead isotope ratio will indicate the value of the early 1980s of gasoline**). D, E: These lead isotope ratios are consistent in the values of Osaka in this era**). F: This isotope ratio is consistent with the

value of the coal in the United States**). G: Japanese Granite.

Fig. 1-2 Relationship between the total lead concentrations, the soluble lead with 1 mol/L-HCl and the 207Pb/206Pb ratios in the gas station site soils and some environmental

materials

If the 207Pb/206Pb ratio is greater than or equal to 0.86, it is assessed that the lead is originates

from anthropogenical contamination. A: The source of this lead is estimated to be Akenobe mine upstream of the gas station. B: The contamination by the lead contained in the leaked gasoline. C: this lead isotope ratio will indicate the value of the early 1980s of gasoline. D, E: These lead isotope ratios are consistent in the values of Osaka in this era. F: This isotope ratio is consistent with the value of the coal in the United States. G: Japanese Granite.

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36

2 章 採泥器の種類による採取法の違いが底質中の物質濃度に与

える影響

FDNPP 事故で放射性セシウムに汚染した堆積物での事例-

2-1 はじめに 環境汚染物質の多くは大気を経由して地表に沈着し,降雨,河川を輸送され て湖沼や海洋に運ばれ,そこで沈降して堆積物へと移行する。従って,水圏の 堆積物中には環境汚染物質が蓄積している。特に,攪乱されずに沈積した堆積 物中には過去の環境汚染の濃度変動が堆積しており,時系列に沿って記録され ている可能性が高い。環境解析学ではこのような堆積物に記録された汚染物質 の鉛直方向の濃度分布を分析し,堆積年代の測定と組み合わせて過去の環境汚 染の履歴を解読している。しかし,水圏堆積物は底生生物や波浪による物理的 混合によって攪乱される場合も多く,堆積物に記録された汚染履歴の解読を難 しくしている。また,堆積物試料を採取する際の採泥器の特性,採泥コアラー への堆積物のフローイン,堆積物を切断(スライス)する厚さなどが,堆積物 中の汚染物質の濃度分布に影響を与えることがある。そのために堆積物試料を 採取する時のこのような問題を理解しておかないと,堆積物に記録された環境 汚染の履歴を解析することが難しくなる。本章では水圏堆積物試料を採取する 際に使用する採泥器について,グラブ型採泥器のエクマン・バージ採泥器と柱 状採泥器である不撹乱型柱状コア採泥器の異なる採泥器を用い,採泥方法の違 いが分析結果に与える影響について検討した。 東日本大震災に伴う FDNPP 事故で大量の放射性核種が環境に放出されて以 降,環境放射能汚染に関するモニタリングの必要性が強く求められている。水

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37 圏堆積物の放射能汚染については,事故で放出された放射性物質が大気から水 面に直接沈着する場合と,陸上に沈着した放射性物質が降雨によって河川を流 下して水圏に流入して沈積する場合がある。一般に,FDNPP 事故のような場合, 現場からの放射性物質の放出が続いていなければ,放射性物質の挙動はポイン トソースであり,大気圏や湖沼,河川水などの水圏の放射性物質の濃度は比較 的速やかに減少する1,2)。一方,放射性セシウムなどは水圏の堆積物に移行する と粘土鉱物に強く吸着して固定されるので,その濃度は殆ど変化しない3)。その ため水圏の環境放射能汚染の動態を評価するためには,長期間の継続したモニ タリング調査を実施する必要がある。 FDNPP 事故後,環境省や自治体などの公的機関による湖沼や河川の水圏モニ タリング調査は,断片的ではあるが継続して実施されている。しかし,その結 果を概観すると,水圏における環境汚染物質の常識的な動態に従わない不規則 な地理的分布,時系列変動を示す場合もしばしば認められる4)。一般に,水圏堆 積物試料の採取には,底質調査法に準拠したグラブ型採泥器を用いる方法で実 施されている。しかし,この採泥法で採取した試料は,表層堆積物中の汚染物 質の濃度を過小評価する可能性があることが指摘されている5)。また,グラブ型 採泥器で採取した堆積物と柱状採泥器で採取した堆積物では汚染物質の濃度が 大きく相違する事も指摘されている6)。本研究では,今まであまり考慮されてい なかった水圏堆積物の採取法の相違が,堆積物中の汚染物質濃度の分析結果に 与える影響について評価した。FDNPP 事故で放出された放射性セシウムをトレ ーサーに用い,採取方式が異なる 2 種類の採泥器であるグラブ型採泥器のエク マン・バージ採泥器と柱状採泥器の不攪乱柱状コア採泥器について,放射性セ

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38 シウム汚染を受けている福島県内の湖沼で堆積物を採取して検討した。これら の採泥器の相違が,堆積物中の放射性セシウムの濃度や鉛直分布に与える影響 を明らかにすることから,水圏堆積物の採取法の違いが分析結果に与える影響 を定量的に評価することを試みた。さらにその結果を,水圏堆積物の基礎デー タとして定量されている全炭素(TC),全窒素(TN)の鉛直分布,蓄積量の解 析に適用して,本研究で得られた解析の合理性を評価した。 2-2 調査方法 2-2-1 調査に用いた採泥器 公的に推奨されている環境試料採取法 7)や底質調査法 8)で示されている水圏 堆積物の採泥器は,基本的にはグラブ型採泥器である。湖沼や海域の底質調査 や底生生物の採取に汎用されており,堆積物採泥器といえばこのタイプの採泥 器を指すことが多い。本研究ではグラブ型採泥器としてエクマン・バージ型採 泥器(離合社製:以下,グラブ採泥器と記す)を用いた。この採泥器はグラブ を開けたまま重力で堆積物表面に着底させ,メッセンジャーで掛け金を外して グラブを閉め,堆積物の表層を掴み採る構造になっている。採泥器の大きさと 着底時の状況により異なるが,深さ数cm から 50 cm 程度の表層堆積物を採取 できる。採取がうまくいけば乱れがない表層堆積物を採取することができ,そ の場合は船上で小さなコアラーを挿入してサブコアを採取することもできる。 しかし,ルーチン作業ではグラブ採泥器に入った堆積物をバット上に開けて, 全量を混合して堆積物試料とすることが多い。本研究で用いたエクマン・バー ジ型グラブ採泥器をPhoto 2-1 に示す。一方,堆積物の鉛直方向の堆積状況を把 握する目的で用いる採泥器として,堆積物を柱状に採取できる不攪乱柱状コア

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39 採泥器がある。柱状採泥器としてはコアラーの内径が10 cm の HR 型採泥器(離 合社製:以下,柱状採泥器と記す)を用いた。柱状採泥器は船上から堆積物表 面まで本体を吊り下げ,ウエイトの重力によってプラスチック製の円筒コア採 泥器を堆積物中に挿入することで,柱状堆積物コア試料を採取する。挿入の際 に,上層の堆積物がコア採泥器の側面に引かれて下層に流れ込むフローインと いう現象を伴う。コア試料を分取する際に,フローインした部分を除去すれば 鉛直方向の汚染や乱れの少ないコア試料が採取できる。今回用いた HR 型不攪 乱柱状採泥器の概要もPhoto 2-1 に示した。 グラブ採泥器で得られた底質はバットに取り,全量をよく撹拌した上で測定 用試料とした。柱状採泥器で得られた試料は堆積物の表層が撹乱されていない 事を目視で確認した後(通常,堆積物表面の数 mm が鉄,マンガン含水酸化物 の茶色沈殿層で被覆され,この被覆層が乱れていなければ採取された柱状コア 試料は攪乱されていない),表層から深さ方向に1 cm 毎の厚さに切り分けて測 定用試料とした。 2-2-2 調査対象湖沼 採泥器の相違が堆積物中の物質濃度に与える影響を明らかにするためには, 堆積物質が定常的に沈着している湖沼で調査を行う必要がある。また,堆積物 の乱れをモニタリングするための適当なトレーサー物質が存在することも不可 欠である。このような条件を満たす場所として,FDNPP 事故で放射性セシウム 汚染を受けている福島県北西部山岳地帯に位置する沼沢湖(金山町)と,秋元 湖(北塩原村・猪苗代町)を調査対象として選定した。両湖沼の位置をFig. 2-1 に示す。秋元湖はFDNPP から北西約 80 km に位置する堰止湖であり,面積 3.90

Fig.  1-1 Distribution  of lead  isotope  ratios  of  the gas  station  site  soil  and some  environmental  materials Fig
Fig. 1-2 Relationship between the total lead concentrations, the soluble lead with 1 mol/L-HCl and the 207 Pb/ 206 Pb ratios in the gas station site soils and some environmental materials If the 207 Pb/ 206 Pb ratio is greater than or equal to 0.86, it is
Table  2-1  Radiocesium  concentration  in  the  surface  of  sediments of Lake Numazawa and Lake Akimoto collected by  an Ekman-Barge sampler
Table 2-2  Results of monitoring survey by the Ministry of the Environment on radiocesium  concentration in Lake Akimoto and Lake Numazawa
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参照

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