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第 2 章 採泥器の種類による採取法の違いが底質中の物質濃度に与 える影響

時空間分布とその 5 年間の動態解析

4-1 はじめに

東京湾は北南70 km,東西20 km,総面積1,380 km2,平均水深15 mの閉鎖 的内湾であり,その南端は幅7 kmの浦賀水道で太平洋と結ばれている。海水の 平均滞留時間は季節によって異なるが約31日と報告されている1)。湾の西岸に は日本を代表する大都会である東京都の中心部が位置し,その周辺域の総人口

は3,800万人である。首都圏から東京湾に流入する河川の流域面積は9,100 km2

であり,河川水流入量は平均1.4×10 7 m3day-1であるが季節により大きく変動す る。主要な流入河川は,江戸川,旧江戸川,荒川,多摩川,隅田川,鶴見川で ある。東京湾は閉鎖的であるが海水の流れは複雑であり,潮流に加えて,表層 水は冬に時計回り,夏には反時計回りの恒流が湾全体にあり,底層水は表層水 とは逆方向に流れている。太平洋からの外洋水が湾の底層を北上し,湾の最奥 部分に達する1)

福島第一原子力発電所(FDNPP)事故で放出された放射性セシウム(134+137Cs)

の首都圏における沈着量は,文科省によって航空機モニタリングが実施され 2), 国土地理院から公表されている3)。その結果によれば,江戸川流域の放射性セシ ウム沈着量は30~100 kBqm-2であり,東京湾の流入河川の集水域では最も汚染 されている。江戸川流域に比べ,他の河川の集水域の放射性セシウム汚染のレ ベルは低い。人為的に排出された他の環境汚染物質の場合と同様に,首都圏の 地表面に沈着した放射性物質についても,最終的にはこれらの河川を通して東 京湾に流入すると考えられる。FDNPP事故の概要を示す多くの報告はすでに公

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表されている4-7)。しかし,これら報告書の多くは事故の工学的プロセスの解析 を行っており,放出された放射性核種による環境放射能汚染については殆ど議 論されていない 2,8-10)。特に,FDNPP 事故による首都圏や東京都心部の放射能 汚染の実態と動態についての解析は,不十分である。しかし,実際には事故直 後の2011年3月16日と22日に,FDNPPから高濃度な放射性核種を含む放射 性プルームが首都圏に飛来し,この時の降雨によって放射性核種が地表にウォ ッシュアウトされた 11)。人口密度の高い首都圏に対するこのような環境放射能 汚染は,大集団に対する低線量被曝の問題に関連して重要である。さらに,放 射能汚染の削減や除染の観点からも,首都圏における放射性セシウムの東京湾 への移流過程を評価することは重要である。首都圏の土壌放射能汚染の動態に ついては第3章で議論した12)。そこではFDNPP事故後5年間で首都圏の地表 に沈着した放射性セシウムの10〜22%が河川を経由して東京湾に移流したと推 定した。

本章では,FDNPP事故直後の2011年8月から東京湾と東京湾に流入する河 川の堆積物や水試料の放射性セシウム汚染について,その分布と時系列変動に ついて連続的なモニタリング調査を行った。その結果に基づき,FDNPP事故に より首都圏に沈着した放射性セシウムの陸域からと東京湾への移流,堆積過程 について評価した。

東京のような極めて人口密度が高い大都市圏が広範囲に放射性物質によって 汚染されたのは,FDNPP 事故が世界で初めてある。しかし,我々は FDNPP 事故の以前にもスリーマイル島(TMI)事故とチェルノブイリ事故を経験し,

多くの人々が環境放射能汚染の影響を受けた。TMI 原発はワシントンDC の西

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約 150 km に位置する新設の原子炉であったが,事故時に圧力容器の破損を免

れたために,核燃料はメルトダウンしたが環境へ放出された放射性核種の大部 分は希ガス核種のみであった。131Iの放出量は約0.5 TBqと推定されている13,14)。 チェルノブイリ事故の場合,原子炉本体が爆発的に破壊してウランやプルトニ ウムなどの核燃料物質も環境に飛散した。事故を起こした原子炉から南130 km にキエフ市が位置し,400万人の住民が居住していた。2006年のIAEAチェル ノブイリ・フォーラムでは,事故直後の1986年5月1日に吹いた北風によって 放射性プルームが,キエフ市に飛来したことが報告されている 15)。しかし,当 時のソ連政府が情報開示を規制したために,現時点ではキエフ市の放射能汚染 の動態については殆ど明らかになっていない。もちろん,広島と長崎の原爆に よる放射能汚染も忘れてはならない。原爆による被爆から60年後の長崎におけ る環境放射能汚染の動態調査の結果については,既に報告されている 16-18)。都 市環境における放射性セシウム汚染の動態に関する研究は,主にコンピュータ ーシミュレーションによって行われてきた 19)。従って,実在の市街地における 放射性核種の時空間分布の動態を,広範囲かつ長期にわたって実証的に解析し た例は存在しない。さらに,海水と河川水が混在する沿岸域では,アルカリ元 素としてのセシウムの挙動はしばしば複雑で未知である 20,21)。本研究では,首 都圏から東京湾に流入する河川が陸域に沈着した放射性セシウムの輸送に果た す役割と,沿岸域での放射性セシウムの沈積機構について解明した。

原子力規制委員会は,2013年6月から東京湾表層堆積物のFDNPP事故に由 来する放射能汚染を監視している 22)。一方,海上保安庁も 1981 年以来,東京 湾表層堆積物の放射能汚染を測定している 23)。さらに,事故直後の東京湾にお

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ける放射性セシウム汚染の調査結果も公表されている 24)。しかし,これらの調 査は時空間的に限定的であり,東京湾全域の放射能汚染の動態を評価するには 不十分である。

4-2 試料採取と分析方法 4-2-1 分析試料と方法

東京湾と流域河川で堆積物と水試料を採取した地点を,Fig. 4-1に示す。2011 年8月20日から2016年7月12日までの調査期間中に,同じ地点で1〜7回に わたりサンプリングを行った。堆積物はFig. 4-1cに示した東京湾の77 地点,

江戸川の6地点,坂川の6地点で採取した。採取した堆積物試料のうち68本は コア堆積物であり,142本は表層堆積物であった。放射性セシウムの輸送過程に おける坂川の役割を評価するために,坂川が江戸川に流入する S1 地点(Fig.

4-1b)でもコア堆積物を採取した。また,Fig. 4-1b に示す 14 点からは,坂川

流域土壌を採取した。コア堆積物試料は,直径10 cm,長さ100 cmのアクリル パイプコアラ-を使用し,ダイバーの手によってパイプを海底に押し込んで採 取した。この方法で,長さ20~80 cmのコア試料が得られた。表層堆積物試料

は,Ekman-Barge採泥器を用いて船上から採取した。採取した採泥器中の表層

堆積物に直径5 cm,長さ10 cmのアクリルパイプを挿入し,表層5 cmの堆積 物試料を採取した。採取した土壌及び堆積物試料の大部分は,粒径2 mm 以下 のシルトやサンドであった。小石,植物片,貝殻片などを含む場合にはピンセ ットで除去した。篩分けによる粒径の分別は行わなかった。コア堆積物はパイ プから押し出し,深さ方向に1または2 cmの厚さに切断し,60℃のオーブンで 恒量になるまで乾燥した。乾燥試料はメノウ乳鉢で粉砕し,放射能を測定した。

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水試料の場合,表層水はボートからバケツを用いて,底層水はダイバーによっ て海底上1 mの海水を採取した。水試料の放射性セシウムは,水試料中の浮遊 懸濁物質を沪別しない試水 20 L を用いて,アンモニウムリンモリブデート

(AMP)法25)で回収した。試水中で一晩放置して熟成したAMP沈殿は,メン ブレンフィルター(孔径8 μm)で沪別し,乾燥したAMP沈殿の放射能を測定 した。予備実験により,試料水中のイオン態及び懸濁態放射性セシウムを定量 的に回収できることを確認した。

4-2-2 放射能の測定

直径5.5 cm,深さ2.0 cmのプラスチック容器に密閉した平板状の測定試料は,

厚さ10 cmの鉛で遮蔽された低エネルギーHPGe検出器(ORTEC, LO-AX/30P)

に4096マルチチャンネル波高分析器(Lab Equipment, MCA600)を接続し,

γ線スペクトロメトリーで放射能濃度を定量した。Ge 検出器はNIST(米国標 準技術研究所)の環境放射能標準試料SRM 4350B(河川堆積物)及びSRM 4354

(淡水湖堆積物)を用い,試料重量 2~30 g の範囲で幾何学的効率を計算して 補正した26)。計測時間は放射能強度に応じて計数誤差が±5%未満になるように 設定した。本研究では,134Cs(605 keV)と137Cs(662 keV)を定量した。濃 度既知の134Cs標準溶液を使用して,134Cs計数に伴うサムピーク効果を補正し た。最適条件下における134Cs 及び137Csの検出限界は,堆積物で 0.6 Bqkg-1, 水試料では0.3 mBqL-1であった。放射性セシウム放射能は試料採取日の値で示 したが,必要に応じて2011年3月16日の値に減衰補正して示した。

4-2-3 堆積物中の重金属元素の定量と粒径分布の測定

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