が多数含まれていた.本報告では一連の寒波によって採集さ れたウナギ目魚類を報告するとともに,その要因について考 察する.
材料と方法
標本の収集 2016年1月24日から26日にかけて,琉球列島の5島11 地点(Sts 1–11)で調査を行った(Fig. 1).これら調査地点 のうち,2地点(Sts 2, 3)については第2,第3著者らが調査, 採集を実施し,St. 1 と St. 6 については採集者から標本の提 供を受けた.その他の地点については著者から現地の方々に 依頼し打ち上げ状況の情報と写真の提供を受けた.Sts 2, 3お よび6では海岸沿いを歩いて発見したものを手づかみまたは タモ網で採集し,St. 1については海底(水深数m)にて斃死 しているものを素潜りで採集した. 気温ならびに水温データの収集 気温データは気象庁(https://www.jma.go.jp/jma/index.html) の経時データを参照した.沖縄海域の海水温データについて は 沖 縄 科 学 技 術 大 学 院 大 学 海 水 温 プ ロ ジ ェ ク ト (http://msrs-dev.oist.jp/ot/?lang=ja)より提供を受けた沖縄海 域12地点の経時データを参照した. 形態観察と同定 採集された標本をただちに冷凍保存した後,標本作成時に 解凍して生鮮時の色彩を記録し写真撮影した.その後 10% ホルマリンで固定し,水洗後 70% エタノール中に保存,形 態 の 詳 細 な 観 察 を 行 っ た.標 本 の 計 数・計 測 は Böhlke (1989)にしたがった.全長,肛門前長および尾部長は 300 mmまたは 600 mm鋼尺を用いて,その他の計測については デジタルノギスを用いて 0.1 mm 単位まで行った.頭部感覚 管孔と歯の観察は一部サイアニンブルーによる染色を施して 行った.脊椎骨数については軟X線写真より計数した.全長 については一部 TL と略記した.観察や比較に用いた標本は Natural History Museum(BMNH,ロンドン),三重大学大学 院生物資源学研究科魚類標本(FRLM),沖縄美ら島財団 (OCF)にそれぞれ保管されている.同定は中坊(2013)に したがい,国内に該当する種がない場合には適宜検討を行っ た.標本の得られなかった地点の種については写真から主要 な特徴を抽出し種同定を行った.結 果
打ち上げ状況 打ち上げ状況の観測を行った5島11地点から4科21種が 確認された(Table 1).打ち上げ個体の観察,採集は1月24 日から 26 日までであるが,経時的に観察を行った地点はな いため,具体的な斃死時刻や漂着時刻については不明である. 打ち上げ状況は地点によって異なるが,特に Sts 2, 3, 9 で多 数の打ち上げ個体が確認された.いずれの地点においてもウ ナギ目魚類のみならず様々な海洋生物の打ち上げ現象が確認 され,St. 2ではウナギ目魚類以外にも100種以上の魚類の打 ち上げ個体が確認された(Fig. 2; Table 2). 気温と水温の状況 1月23日から28日にかけて国頭郡国頭村奥をはじめ,琉 球列島各地で明瞭な気温の低下が観測され,打ち上げ標本を 採集した1月24日から26日にかけては気温が10℃を下回 る状態が継続し,24 日には最低気温 3.1℃を記録するなど各 地で観測史上最低を更新した(Fig. 3).那覇市の観測所でも 同日に最低気温6.1℃を観測した.海水温を観測する12地点 のうち,6地点では 1月23日の観測開始時から2.0℃以上, 最大で 8.0℃の水温低下が観測された一方,その他の 6 地点 では下げ幅は2.0℃未満に収まっていた(Fig. 4; Table 3).採集された種の目録
ハリガネウミヘビ科MORINGUIDAEMoringua javanica (Kaup, 1856) トビハリガネウミヘビ(Fig. 5a) 標本 なし 備考 本種は西表島の St. 10で1月26日に確認された.波 戸 岡(2013)は,本 種 の 日 本 に お け る 記 録 が Jordan and Snyder(1901)で取り上げられたGünther(1870)による琉球 列島から得られたと思われる標本のみであることから,本邦 における分布を疑問視していた.ただし,日比野(2014)が 与論島から446.4 mm TLの1個体を報告したことによって, 本邦における分布は確実となった.Moringua javanicaは脊椎 骨数が同科他種と比べて明らかに多く,体が細長い種で比較
的大型になることが知られている(Castle, 1968; Allen and
Erdmann, 2012).したがって,写真の個体を本種に同定した. なお西表島からはクロガシラウミヘビ(全長 121 cm)の胃 内から採集された 1 標本(FRLM 49073)が三重大学大学院 生物資源学研究科魚類標本として保管されている. Moringua sp. ハリガネウミヘビ属の1種(Fig. 5b) 標本 OCF-P03172, 218 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 備考 本種は 1 個体のみが St. 2 で採集された.本標本は肛 門前脊椎骨数が 83で,総脊椎骨数が122 である.このよう な種は本邦では知られていない.インド・太平洋域における 本属魚類は十分な分類学的研究が行われておらず分類学的混 乱の渦中にあり(Smith, 1999; Hibino, 2017),国外で記載さ れた同属の多数の名義種の有効性は不明確である.したがっ てここではMoringua sp.とした. ウツボ科MURAENIDAE
Echidna nebulosa (Ahl, 1789) クモウツボ(Fig. 5c) 標本 FRLM 52241–52244, 4個体, 189–484 mm TL, St. 9, 2016 年1 月24日; FRLM 52260–52261, 2個体, 322–338 mm TL, St. 3, 2016年1月26日; FRLM 52300, 249 mm TL, St. 1, 2016 年1 月30日; FRLM 52332–52333, 2個体, 286–356 mm TL, St. 2, 2016年1月26日; OCF-P03178, 150 mm TL, St. 2, 2016 年1月26日.
琉球列島における2016年1月の大寒波に伴い打ち上げられた2種の
日本初記録種を含む海産ウナギ目魚類
日比野友亮
1・宮本 圭
2・桜井 雄
3・木村清志
4 備考 本種はSt. 1, St. 2, St. 3, St. 8およびSt. 9の5地点で確 認された.特に St. 9 では浜全体に多数の個体の打ち上げが 確認された.Gymnothorax fimbriatus (Bennett, 1832) ヘリゴイシウツボ(Fig. 5d) 標本 FRLM 52252–52253, 2個体, St. 6, 2016年1月26日; FRLM 52262, 52265–52281, 18 個 体 , 196–314 mm TL, St. 3, 2016年1月26日; OCF-P03180, 333 mm TL, St. 2, 2016年1 月26日. 備考 本種は最も確認地点数が多く,Sts 2–6, 8 の 6 地点で 確認された.本種は最大で 80 cm TL に達する比較的大型の 種であるが(Allen and Erdmann, 2012),確認された最大個体
は 314 mm TL であった.なお,このような小型の個体は琉
球列島の潮間帯に普通に出現する.
Gymnothorax isingteena (Richardson, 1845) ニセゴイシウツボ(Fig. 5e) 標本 OCF-P03183, 196 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 備考 本種は St. 2 から 1 個体のみが採集された.本種はウ ツボ属としては大型で 1000 mm TL をはるかに超えるうえ, 10 m 以浅のごく浅い場所でも大型の個体が生息することが 知られている(三浦, 2012)ものの,一連の採集では大型の 個体は観察されなかった.
Gymnothorax javanicus (Bleeker, 1859) ドクウツボ(Fig. 5f) 標本 FRLM 52323, 301 mm TL, St. 2, 2016 年 1 月 26 日 ; OCF-P03186–03187, 2 個体, 339–498 mm TL, St. 2, 2016 年1 月26日. 備考 本種は 3 個体が St. 2 で採集された.琉球列島では延 縄などで漁獲される全長70 cmを超えるような大型の個体が 普通に確認されているものの,小型の個体については目視や 採集例が少なく,今回のような小型の個体が複数採集される ことは異例である.若齢期には同属他種と比較して隠遁性が 高いものと推測される.なお打ち上げには至らなかったが, 沖縄県本部町新里漁港では大型の個体が死亡し浮遊している 状況が目視された(Fig. 5g).
Gymnothorax monochrous (Bleeker, 1856) ヤミウツボ(Fig. 5h) 標本 FRLM 52245–52247, 3個体, 325–355 mm TL, St. 9, 2016 年1 月24日; FRLM 52284–52286, 3 個体, 244–386 mm TL, St. 3, 2016年1月26日; OCF-P03179, 141 mm TL, St. 2, 2016 年1月26日. らか膨らむ.鰓孔は側面下部に開き,わずかに窄まる. 歯の太さが中庸で先のやや丸い小さな円錐歯で,すべての 部位で大きさに顕著な差はないが,上顎間歯が両顎ならびに 鋤骨歯と比べてわずかに大きい.上顎の歯は前方で2 列,中 央付近から後方ではやや不規則な3 列状をなす(Fig. 8).鋤 骨歯は前方始部付近では3列をなすが,後方に向かうにつれ てやや不規則な2列に変化する.上顎間歯は9本が唇に沿っ て逆U字型をなし,鋤骨歯とは連続しない.下顎の歯は前方 およそ3分の1では2列をなすが,後方では1列となる. 頭部の感覚管孔は小さく,概ね明瞭.眼上感覚管孔は 1+3, 眼下感覚管孔は 3+2,下顎−前鰓蓋感覚管孔は 6+3.両眼隔 域の感覚孔は1.上側頭感覚管孔は3で,うち1個が上側頭 中央にそれぞれ1個ずつ開孔する(Fig. 9).側線はほぼ完全で, 尾部末端から前方,頭長の2分の1程度で管と孔とを欠く. 背鰭と臀鰭はやや高く,鰭条の長さは最大で眼径を超える. 背鰭は鰓孔直上よりもはるかに前方の鰓嚢部中央から始ま る.臀鰭は肛門直後より始まる.胸鰭はやや細長く,その先 端は尖る(ただし本標本では部分的に欠損がみられる). 色彩 生鮮時,体の地色は淡い黄褐色で,腹面ではより淡い が,やや黄色みが強い(Fig. 6bc).背側は黒色素胞が密在す ることでやや濃い褐色となる.頭部背側は体よりも濃い褐色 で,鬱血により赤みを帯びている.吻端,前鼻管,後鼻孔を 覆う皮弁,鬚状の肉質小突起,および下顎から頭部腹面にか けては淡褐色.背鰭,臀鰭および胸鰭はいずれもが半透明で, 背鰭縁辺と臀鰭の後端付近には黒色素胞があるため,わずか に灰色みを帯びる.10% ホルマリン固定,70% エタノール 保存下でも色彩はほとんど変化しないが,全体にわずかに褐 色を帯び,頭部背側は暗褐色となる. 備考 本種はSt. 2から1標本が採集された.本標本は背鰭, 臀鰭および胸鰭をもつこと,眼が上顎の中央よりも後方に位 置すること,上唇に口髭をもつことからCirrhimuraena Kaup, 1856の特徴に一致する.Cirrhimuraenaにはこれまでに10有
効種が知られているが(Nguyen, 1993; McCosker and Castle, 1986; Smith and McCosker, 1999; Tang and Zhang, 2003),本標 本の特徴はこのうちのC. playfairii (Günther, 1870)のホロタイ プ の 特 徴 や 既 報 の 特 徴 と 一 致 す る こ と か ら(Table 4) (Randall, 2007),本種に同定された.本種は紅海,東アフリ カからハワイ諸島,マルケサス諸島に至る広域に分布し,太 平洋におけるこれまでの北限記録はフィリピンであった (Randall, 2007; McCosker, 2014).したがって,本標本は本種 の日本初の記録であると同時に,太平洋における北限記録と なる.本標本と特徴が一致する種にはもう一種 C. yuanding
Tang and Zhang, 2003 がある.少なくとも原記載に列記され
た特徴はすべて C. playfairii の範疇にあること,原記載では C. chinensis Kaup, 1856との比較しか行われていないことから も(Tang and Zhang, 2003),後者は前者の新参シノニムであ る可能性が高い.ただし,原記載からすべての形質を読み取 ることは不可能であることから,今後の実際にタイプ標本を 精査しての研究の進展が求められる.本種の新標準和名ショ ウキウミヘビは上唇にある口髭に由来する.本種の帰属する Cirrhimuraena についてもこれまでに標準和名が提唱されて いなかったことから,本属に対して新標準和名ショウキウミ ヘビ属を提唱する.
Leiuranus semicinctus (Lay and Bennett, 1839) ソラウミヘビ(Fig. 6d) 標本 FRLM 52254–52257, 52290–52294, 9個体, 228–311 mm TL, St. 6, 2016年1月26日; FRLM 52298–52299, 2個体, St. 1, 2016年1月30日; FRLM 52310–52316, 7個体, 104–311 mm TL, St. 2, 2016年1月26日; OCF-P03176–03177, 2個体, 222–269 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 備考 本種はSt. 1, St. 2, St. 6およびSt. 7の4地点で確認さ れた.特に St. 2 とSt. 6では多数の個体が確認された.本種 551–553. 吉郷英範.2014.琉球列島産陸水性魚類相および文献目録. Fauna Ryukyuana, 9: 1–153. は国内のみならず国外でも比較的稀な種で,今回多数の個体
が同時に得られたことはきわめて異例である. Muraenichthys sibogae Weber and de Beaufort, 1916シラスミミズアナゴ(Fig. 6e) 標本 FRLM 52320–52321, 2個体, 146–155 mm TL, St. 2, 2016 年1月26日; OCF-P03168, 154 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 顕著な差はない.上顎の歯と下顎の歯は1列.鋤骨歯は前方 始部付近では1列をなすが,後方に向かうにつれて2列に変 化する.上顎間歯は 3から4本が逆 V字型をなし,鋤骨歯 とは一切連続しない. 頭部の感覚管孔は明瞭.眼上感覚管孔は 1+3,眼下感覚管 孔は3+3,下顎−前鰓蓋感覚管孔は4または5+2.両眼隔域 の感覚孔は1個.上側頭感覚管孔は3で,このうち1個が上 側頭中央に開孔する(Fig. 10).側線はほぼ完全で,尾部末 端から前方の,頭長の3分の1程度で管と孔とを欠く. 背鰭と臀鰭はきわめて低く,視認しにくい.背鰭は鰓孔直下 よりも後方から始まる.臀鰭は肛門直後より始まる.胸鰭を 欠く. 色彩 生鮮時,体の地色は概ね淡い黄褐色で,腹面ではより 淡く白みの強い白灰色(Fig. 6jk).背側では黄色みがやや強い. 頭部から体前半の背面では不規則な暗褐色の雲状斑紋が多数 ありその間には非常に細かい暗褐色点がある.体側中央付近 の暗褐色斑は規則的に配列し,側線孔と側線孔の間に位置す る.体の腹面は無紋.下顎から鰓嚢部にかけては腹面にもや や疎な雲状紋があり,下顎付近では横帯状をなす.背鰭と臀 鰭は半透明で,前者は淡褐色,後者はほぼ無色.10% ホルマ リン固定,70% エタノール保存下では体の黄色みが失われ, 地色は褐色となるが,模様に変化はない. 備考 本種はSt. 2とSt. 6から4標本が採集された.本4標 本はいずれも体が非常に細長く,背鰭始部が鰓孔直上よりも わずかに後方に位置すること,鰓孔が側方に開口すること, 胸鰭を欠き,背鰭と臀鰭をもつことから Yirrkala Whitley, 1940 の特徴に一致する.このうち,頭部から体の前半にか けて黒褐色の斑紋をもつ種は Y. misolensis (Günther, 1872) の みであり,本4標本は脊椎骨数についてもホロタイプや既報 と 概 ね 一 致 し た こ と か ら 本 種 に 同 定 さ れ た(Table 4) (Hibino, 2017).本種はこれまで西太平洋のオーストラリア, インドネシア,フィリピンおよび台湾から知られていた (Günther, 1872; McCosker et al., 2006; McCosker, 2014; Ho et
al., 2015; Hibino, 2017).したがって,本標本は本種の日本初 の記録であると同時に,北限の記録となる.本種の新標準和 名タケノコウミヘビは頭部から体にマダケ Phyllostachys bambusoides の筍に見られる皮の模様を思わせる斑紋がある ことに由来する.本種の帰属する Yirrkala についてもこれま でに標準和名が提唱されていなかったことから,本属に対し て新標準和名タケノコウミヘビ属を提唱する. アナゴ科CONGRIDAE
Conger cinereus Rüppell, 1871 キリアナゴ(Fig. 6l) 標本 FRLM 52264, 433 mm TL, St. 3, 2016年1月26日. 備考 本種は St. 3 から 1 標本が採集された.琉球列島の浅 海域でみられるウナギ目としては最も普通な種のひとつであ るが,一連の打ち上げによる目視や採集個体は僅かであった.
考 察
琉球列島ではたびたび魚類を含む海洋生物の打ち上げが発 生する.その原因の多くが台風と寒波によるものである.台 風による魚類の打ち上げは,台風接近に伴う潮位上昇(高潮) と暴風による高波の発生によって生じるもので,沖合の遊泳 力の乏しい魚類や,海藻やサンゴ礫,などの遮蔽基質に逃げ 込んだ魚類が高波によって基質ごと陸地へと押し流される (昆ほか, 1998).一方寒波による打ち上げの多くは,急速な 気温の低下によって海面付近に低水温帯が生じ,身動きが取 れなくなった魚類が北からの強風によって陸地へと運搬され たり,あるいは冬型気候特有の強い北風によって中深層性魚 類が陸に打ち寄せられたりする現象である.第3著者の沖縄 島での過去の観察によれば,このような寒波による打ち上げ で観察される魚種としては,ハダカイワシ科を除くとモンガ ラカワハギ科やスズメダイ科,テンジクダイ科などのサンゴ 礁浅海域,主にタイドプールなどに普通に生息するものが主 であり,ウナギ目についてはウツボ科のクモウツボが稀に観 察されるほかはほとんど確認されてこなかった.ウナギ目魚 類の多くは隠遁能力に優れており,頑健サンゴ礁の基質奥深 く,あるいは砂や礫といった海底に潜行することができるた め(Herrel et al., 2011a, b),一定程度の寒波に遭遇したとし ても,基質の奥深くに潜り込むことによって斃死を避けるこ とができると考えられる.
琉球列島以外でも魚類の打ち上げ現象は確認されている. 日本海沿岸で冬季の季節風と対馬暖流によって生じる例では カ タ ク チ イ ワ シ Engraulis japonica Temminck and Schlegel, 1846,ハリセンボンDiodon holocanthus Linnaeus, 1758,ホシ フグArothron firmamentum (Temminck and Schlegel, 1850),サ ギフエ Macroramphosus sagifue Jordan and Starks, 1902,また ウナギ目やカレイ目の仔魚の打ち上げが多数を占めている が,変 態 後 の ウ ナ ギ 目 は き わ め て 稀 で あ る(Tabeta and Tsukahara, 1967 など).紀伊半島南部では冬季の寒波によっ 備考 本種はSt. 2から3標本が採集された.本種は2016年 に伊江島と沖縄島本部半島から得られた3個体を基に日本初 記録として報告された(日比野・木村, 2016).今回の標本の 採集地はこの報告産地に近い沖縄島本部半島の付け根にあた る.
Myrichthys colubrinus (Boddaert, 1781) シマウミヘビ(Fig. 6f)
標本 OCF-P03189–03190, 2個体, 589–600 mm TL, St. 2, 2016 年1月26日.
備考 本種は St. 2 から 2 標本が採集された.琉球列島では 比較的稀な種である.
Ophichthus altipennis (Kaup, 1856) トンガリホタテウミヘビ(Fig. 6g)
標本 FRLM 52317–52319, 3個体, 159–217 mm TL, St. 2, 2016 年1月26日; OCF-P03173, 03184, 03185, 3個体, 171–251 mm TL, St. 2, 2016年1月26日.
備考 本種は St. 2 から 6 標本が採集された.本種は国内で は琉球列島にのみ分布しており(Hibino and McCosker, 2020), 今回の一連の標本以外には3標本しか得られていない.しか し,水中写真は比較的頻繁に撮影されている(Hibino and McCosker, 2020).
Pisodonophis cancrivorus (Richardson, 1848) ミナミホタテウミヘビ(Fig. 6h)
標本 OCF-P03174, 170 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 備考 本種は St. 2 から 1 標本が採集された.沖縄島では比 較的普通な種であり,主に河川水の影響のある砂泥地に出現 す る(佐 藤 ほ か,2007; 吉 郷 , 2014; Moazzam and Osmany, 2015).
Scolecenchelys macroptera (Bleeker, 1857) クリミミズアナゴ(Fig. 6i)
標本 FRLM 52248, 216 mm TL, St. 6, 2016 年 1 月 26 日 ; OCF-P03175, 170 mm TL, St. 2, 2016年1月26日.
備考 本種はSt. 2とSt. 6から2標本が採集された.本種 はミナミミミズアナゴ Muraenichthys schultzei Bleeker, 1857 と並び琉球列島の浅海域に出現するウミヘビ科としては普通 な種のひとつであるが,一連の打ち上げによる目視や採集個 体は僅かであった.
Yirrkala misolensis (Günther, 1872) タケノコウミヘビ(新称) (Table 4; Figs 6j, k, 10) 標本 FRLM 52249, 384 mm TL, St. 6, 2016年1月26日; 52322, 227 mm TL, St. 2, 2016年1月26日; OCF-P03170–03171, 2個体, 224–367 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 記載 各部の計数・計測値については Table 4 に示した.体 はきわめて細長く,円筒状でほとんど側扁しない(Fig. 6j). 頭部は小さい.頭部背縁はなだらかに上昇する.吻はやや長 く,その長さは眼径の 2倍を超える.吻端はやや尖り,吻背 縁はなだらかなカーブを描き上昇する.眼はやや小さい.口 はやや小さく,口裂後端は眼の後縁を超える.口裂後端の下 部には浅い窪み状の溝がある.吻前端は下顎前端よりもはる かに前方に位置し,下顎前端は前鼻管基部中央付近に位置す る.前鼻管はわずかに前方を向くものの概ね腹面方向に開口 し,開口部縁辺は後方でやや伸長する.後鼻孔は口の内側に 上唇に沿って開口し,開口部は皮弁で完全に覆われる.両唇 は平滑.鰓嚢部はわずかに膨らむ.鰓孔は腹側面に裂孔状に 開く.左右の鰓孔は近接しない. 歯は細くやや湾曲した円錐歯で,すべての部位で大きさに 23.
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(Araga and Tanase, 1968; 久保田ほか,2011).観察データの 集計方法が本研究とは異なるため単純比較は難しいものの, このような事例においてもウナギ目魚類の個体数は1 回の漂 着イベントあたり最大でも2種3個体(葉形仔魚を除く)で あった.なお,この紀伊半島南部での打ち上げ現象で確認さ れる魚種の傾向は第3著者による沖縄島での過去の観察例に よく類似している. 2016 年 1 月に発生した大寒波は,近年では未曾有の規模 となった.2016年1月23日から25日にかけて北極付近に 滞留していた強い寒気が大きく南下したことに伴い琉球列島 は平年とは異なる極端な気温低下に見舞われた.上述したと おり,沖縄島の那覇市(1890年7月から観測)で6.1℃,国 頭郡国頭村奥(1977年2月から観測)で気温3.1℃を記録す るなど琉球列島各地で観測史上最低を更新した(Fig. 3).那 覇市の最低気温は過去最低ではなかったものの,その水準は 1918 年(4.9℃),1901 年(5.2℃),1917 年(5.6℃),1909 年(5.6℃),1919年(6.0℃),1917年(6.0℃)に次ぐもので, およそ100年ぶりの規模であった.寒気襲来時は大潮と重複 したため,寒波襲来中に複数回の低潮位を経験した.海水温 を観測する12地点のうち,6地点では1月23日の観測開始 時から2.0℃以上,最大で8.0℃の水温低下が観測された一方, その他の6地点では下げ幅は2.0℃未満に収まっていた(Fig. 4; Table 3).下げ幅の少なかった地点は中城湾湾口地点を除 いて黒潮流路に近い開けた場所で,浅いタイドプール地帯や 河川水の影響を受けにくい環境にあることから,外洋水は寒 気の影響をほとんど受けず,観測された水温低下は低温の水 が外洋へと拡散していったものによることを意味する.浅く 閉鎖性の高い石垣島川平湾では寒気の影響をもっとも強く受 け,気温の低下とほとんど同期して水温低下が生じていたこ とを踏まえると,規模の小さなタイドプールではより短時間 のうちに急激に海水温が低下し,しかもそれが長時間にわ たって維持されたと考えられる.したがって,今回の異例と も言えるウナギ目魚類の大量打ち上げは,極端な低気温と大 潮の低潮位の重複によって浅所の海水が一気に冷却され,比 較的長い時間にわたって海底まで極端な低温に曝されたこと で,基質に潜り込んでいた個体が斃死ないしは仮死状態に 陥ったことが主たる原因と考えられた.この推察は同様に潜 砂生態をもち,かつ打ち上げの生じにくいホシムシ類やユム シ類,またミナミコメツキガニ Mictyris guinotae Davie, Shih
and Chan, 2010 やオウギガニ科の甲殻類が多数打ち上げられ た,あるいは底質から這い出して斃死していたことからも支 持される(Fig. 2).加えて,打ち上げによって採集されたウ ナギ目魚類の大部分は浅いサンゴ礁の岩場や砂地,あるいは 藻場に出現する種であること,観察された個体の多くが非常 に新鮮な状態であったことから,基本的には遠方から運ばれ たのではなく,生息地付近の浜辺に打ち上げられたものと推 測される. 比較標本.Cirrhimuraena chinensis: BMNH 1851.12.27.228,ホ ロ タ イ プ,181 mm TL,産 地 不 詳.Cirrhimuraena playfairii: BMNH 1864.11.15.44,ホロタイプ,531 mm TL,ザンジバル, タンザニア.Yirrkala misolensis: BMNH 1870.8.3.112,ホロタ イプ,280 mm TL,ミゾール諸島,インドネシア.
謝 辞
本研究を行うにあたり,山下健太氏(海洋プランニング株 式会社),藤原昌高氏(ぼうずコンニャク株式会社),照屋清 之介氏(沖縄県農林水産部),田中 颯氏(無所属),桃原美 緒氏ならびに堀川くみ氏(DEE Okinawa),田端まゆみ氏(ジョ イフェン沖縄),柳橋麻衣子氏(ダイブワンロード),および 國島大河氏(和歌山県自然博物館)には標本または情報の提 供を受けた.川井 淳氏(沖縄科学技術大学院大学)には海 水温データの提供を受けた.ここに謹んで感謝の意を表する.引用文献
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アセウツボ(Fig. 5i) 標本 なし 備考 本種は1個体のみがSt. 11で1月26日に確認された. 体の地色が淡灰色で,多数の黒色点と不明瞭な円斑列をもつ こと,眼の虹彩に複数の黒色点があることから写真で容易に 本種と同定された.本種は潮間帯から潮下帯に生息するが, 一連の打ち上げ現象ではほとんど確認できなかった.
Gymnothorax pseudothyrsoideus (Bleeker, 1852) アミメウツボ(Fig. 5j) 標本 FRLM 52324–52331, 8個体, 111–444 mm TL, St. 2, 2016 年1月26日; OCF-P03181–03182, 03188, 3個体, 177–462 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 備考 本種は St. 2 のみで採集された.本種は琉球列島の全 域に普通にみられる種であるが,内湾の砂泥地以外ではあま り採集されないことから(Sreekanth et al., 2018 など),羽地 内海が隣接する St. 2 に確認地点が集中したものと推察され る.
Gymnothorax richardsoni (Bleeker, 1852) モバウツボ(Fig. 5k) 標本 FRLM 52258–52259, 2個体, 243–316 mm TL, St. 3, 2016 年1 月26 日; FRLM 52282–52283, 2個体, 292–308 mm TL, St. 3, 2016年1月26日. 備考 本種は St. 3 のみで採集された.本種は潮間帯から潮 下帯に出現する種であるが,琉球列島内での分布がやや局所 的であるため,確認地点数が少なかったものと推察される.
Gymnothorax undulatus (Lacepède, 1803) ナミウツボ(Fig. 5l) 標本 FRLM 52263, 225 mm TL, St. 3, 2016年1月26日. 備考 本種は 1 個体のみが St. 3 から採集された.琉球列島 では個体数の少ない種であるためか,特に小型の個体の目撃 や,採集は稀である. ウミヘビ科OPHICHTHIDAE Bascanichthys sp. 和名なし(Fig. 6a) 標 本 FRLM 52250–52251, 2 個 体 , 515–627 mm TL, St. 6, 2016年1月26日. 備考 本種はSt. 6から2標本が採集された.本2標本は体 がきわめて細長く,背鰭始部が鰓孔直上よりもはるかに前方 に位置すること,微小な胸鰭をもつことから Bascanichthys Jordan and Davis, 1891 の 特 徴 に 一 致 す る(Storey, 1939; Smith and McCosker, 1999).本属には 17 有効種が知られ, うち 7 種がインド・太平洋に分布するが(Storey, 1939; Mohapatra et al., 2019),本 2 標本の特徴はいずれの種とも一 致 し な い こ と か ら,未 記 載 種 と 考 え ら れ る.本 報 で は Bascanichthys sp.として留め,標準和名の提唱も行わない.
Cirrhimuraena playfairii (Günther, 1870) ショウキウミヘビ(新称) (Table 4; Figs 6b, c, 7–9) 標本 OCF-P03169, 229 mm TL, St. 2, 2016年1月26日. 記載 各部の計数・計測値をTable 4に示した.体は細長く, やや側扁した円筒状で,尾部は後端に向かうにつれやや強く 側扁する(Fig. 6b).頭部は小さい.頭部背縁はなだらかに 上昇する.吻はやや短く,その長さは眼径の2倍をわずかに 超える.吻はやや膨らみがあり,吻端はやや鈍く,吻背縁は なだらかなカーブを描き上昇する.眼はやや小さい.口は比 較的大きく,口裂後端は眼の後縁をはるかに超える.吻前端 は下顎前端よりもはるかに前方に位置し,下顎前端は前鼻管 基部後端にわずかに達しない.前鼻管は前下方を向いて開口 する単純な管状で,伸長皮弁をもたない.後鼻孔は口の内側 に上唇に沿って開口し,開口部は大きく膨らんだ半円形の皮 弁で覆われる.前鼻管基部裏側から後鼻孔を覆う皮弁の直前 までに 5本,その皮弁から口裂後端にかけて 10本(右側で は 9 本)の太い鬚状肉質小突起が並ぶ(Fig. 7).これらの小 突起は口の外側を向いて並び,第6番目の眼直下のものが最 長で,その長さは眼形と同程度.下唇は平滑.鰓嚢部はいく
Annotated checklist of marine eels (Actinopterygii: Anguilliformes) stranded by a
serious cold wave in January 2016 in Ryukyu Islands, Japan, including two newly
recorded species of Japan
Yusuke Hibino
1, Kei Miyamoto
2, You Sakurai
3and Seishi Kimura
41Kitakyushu Museum of Natural History and Human History, 2-4-1, Higashida, Yahatanishi-ku, Kitakyushu, Fukuoka, 805-0071
Japan. E-mail: [email protected]; 2Okinawa Churashima Foundation, 888, Ishikawa, Motobu, Kunigami-gun,
Okinawa, 905-0206 Japan; 3Okinawa Environmental Research, 2-6-19, Aja, Naha, Okinawa, 900-0003 Japan; 4Graduate School of
Bioresources, Mie University, 1577, Kurimamachiya-cho, Tsu, Mie, 514-8507 Japan
(2020年5月25日受領,2020年 9月3日受理)
ABSTRACT −
Phenomenon of stranding marine organism has usually occurred in Japan, mainly caused byseasonal wind in winter or typhoon in summer and fall. Twenty-one species belonging to four families (Moringuidae, Muraenidae, Ophichthidae and Congridae) of Anguilliformes were confirmed as fresh stranded specimens from Ryukyu Islands, southern Japan in January 2016. It is strongly suggested that fishes were in a state of apparent death or died in the extremely low water temperature cooled by a serious cold wave which covered Ryukyu Islands. In the series of the stranded specimens, one specimen of Cirrhimuraena playfairii (Günther, 1870) and four specimens of Yirrkala misolensis (Günther, 1872) were included; they represent the first records of these two species from Japanese waters.
KEY WORDS:
stranding, water temperature, winter, Okinawaは じ め に
ウナギ目魚類Anguilliformesは900種以上が内包される大 分類群であり,その多くが海域に棲み,なおかつ水深 200 m 以浅の浅海域に出現する.このうち,一部の種については底 曳網等で多獲されているものもあるが[たとえばヒレアナゴ Echelus uropterus (Temminck and Schlegel, 1846) やスソウミ ヘビOphichthus urolophus (Temminck and Schlegel, 1846)],ほ とんどの種はきわめて稀にしか採集されていないか,あるい は目視もされていない(Hibino, 2019など).その大きな理由 として,本目魚類の多くが底質に潜行して生活することや, 夜行性の種が多いことが挙げられる.加えて,本目魚類のも つ,いわゆるウナギ型の細長い体は容易に網目をすり抜けて しまい,底曳網等に入網したとしても採集に至る例が他の分 類群と比較して少ないことが理由として推察される.網部に 目合の細かいカバーネットを取り付けることである程度防ぐ ことができる(Mura et al., 2016)とはいえ,その採集効率は 低い.また,ハリガネウミヘビ科 Moringuidae のように,比 較的採集の容易な潮間帯域に生息する分類群であっても,高 い隠遁性質のために人の目にはほとんど触れることがなく, 過去に行われた破壊的採集でしか標本が得られていないもの もある(Allen and Erdmann, 2012).したがって,ウナギ目魚 類には標本や写真の蓄積が乏しく,分類学的研究が進展しづ らいグループも多い. 2016 年 1 月に近年では例のない寒気が琉球列島付近にま で流れ込み,未曾有の低温に見舞われた.この低温に伴い多 数の海洋生物が漂着し,この中にウナギ目魚類の仮死状態の 個体またはほとんど腐敗が生じておらず状態の良好な斃死体 1