土壌細菌Burkholderia multivoransにおける鉄によ
り制御される遺伝子群の発現機構
著者
野々山 翔太
号
18
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
生博第404号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129511
東北大学第65号
博士論文内容の要旨及び
審査結果の要旨
生 命 科 学 第 18 集(課程博士)
(令和2年度授与)
東 北 大 学
令 和 2 年 度
氏 名 ( 本 籍 地 )
学 位 の 種 類
学 位 記 番 号
学 位 授 与 年 月 日
学 位 授 与 の 要 件
研 究 科 , 専 攻
論
文
題
目
博士論文審査委員
ののやま しょうた野々山 翔太
博士(生命科学)
生博第404号
令和2年7月15日
学位規則第4条第1項該当
東北大学大学院生命科学研究科
(博士課程)生態システム生命科学専攻
土壌細菌
Burkholderia multivorans における鉄により
制御される遺伝子群の発現機構
(主査) 教授 津田 雅孝
教授 永田 裕二
准教授 三井 久幸
論文内容の要旨
序論 鉄は様々な生物機能の発揮に必須の元素である。細菌の棲息環境では利用可能な鉄が極めて限られてお り、細菌はそのような環境で鉄を効率良く取り込むシステムを備えている。しかし、細胞内での過剰な 遊離鉄は毒性の高い活性酸素種を産生するため、細菌は細胞内遊離鉄濃度を一定に維持する機構を備え ていると考えられている。従って、細菌が保持する鉄恒常性維持機構は重要な解析対象である。鉄恒常 性 維 持 機 構 に お い て中 心的 な 役 割 を 担 っ て いる のが 、 鉄 応 答 転 写 制 御因子 Fur (Ferric uptake regulator)である。Fur は様々な細菌に保存されており、二価鉄イオンと複合体を形成してゲノム上の 標的部位に結合することで結合部位近傍のプロモーター活性を制御する。Fur はゲノム中の数十あるい はそれ以上の標的プロモーターが存在するグローバルレギュレーターであると考えられおり、シデロフ ォア合成系遺伝子、活性酸素除去系遺伝子を始め、non-coding 制御 RNA (ncRNA)等、広範な機能の遺伝 子が制御対象となっている。本研究で対象とした土壌細菌Burkholderia multivorans ATCC 17616 株(以下 ATCC 17616 株と略)は多 様な芳香族化合物分解能を有することからバイオレメディエーションの有力候補菌である。また、類縁 菌株には嚢胞性線維症患者に重篤な感染症を引き起こす病原性細菌種等、研究対象として重要な細菌種 が多く存在する。当研究室において、ATCC 17616 株をモデルとして、鉄恒常性維持機構に関する研究が 行われてきたが、あまりにも多くの遺伝子が Fur 制御下に置かれているため、Fur を中心としたグロー バルな遺伝子発現制御スキームの全体像は未だ不明であり、被制御下にある遺伝子の各々に関しても、 その機能や Fur による発現制御様式などの詳細が未解明である。そこで、特に機能的に重要と思われる 遺伝子に焦点をあてて詳細を解明することで、Fur による転写制御機構を理解する上で重要な知見が得 られることを期待した。そこで、本研究では、Fur による制御が示唆される遺伝子のうち鉄硫黄クラス ター生合成系及びヘム獲得系転写活性化因子にhemPに着目し、それら遺伝子の転写制御機構及び機能の 解明を目的とした。 第 1 章B. multivorans ATCC 17616 株の鉄硫黄クラスター生合成遺伝子群の同定と解析 細胞内に取り込まれた鉄は様々な形で利用されるが、そのうちの一つにタンパク質の補因子として利用 される鉄硫黄クラスターがある。鉄硫黄クラスター生合成系はほとんどの生物が共通して有しており、 鉄硫黄クラスターを補因子とするタンパク質(鉄硫黄タンパク質)の機能は遺伝子の発現制御やエネルギ ーの代謝など生命活動の根幹を担う重要なものである。まず、ゲノム比較解析によって、ATCC 17616 株 の推定鉄硫黄クラスター生合成遺伝子群を見出した。当該遺伝子群を、鉄硫黄クラスター生合成能を欠 損したE. coli UT109(pUMV22Spr)株に相補した結果、本遺伝子群は鉄硫黄クラスター生合成能を有すこ
とが判明し、iscオペロンと命名した。また、種々の培地条件における ATCC 17616 株のiscオペロン転 写量を測定したところ、iscオペロンは鉄豊富な条件では転写量が減少し、鉄制限条件においては転写 量が増加した。つまり、ATCC 17616 株のiscオペロンは鉄依存的に転写変動することが明らかになった。 そして、iscオペロン上流領域の他細菌との比較解析の結果、Fur-box 様及び IscR-box 様配列が ATCC 17616 株でも見出された。IscR は鉄硫黄クラスターを認識して様々な遺伝子を転写レベルで制御するこ と、そして、鉄硫黄クラスターと結合していない apo-型、鉄硫黄クラスターと結合している holo-型の IscR が存在することが他細菌において判明している。これらの結果から、ATCC 17616 株のiscオペロン 転写制御機構に Fur 及び IscR の関与が示唆された。
第 2 章 iscオペロンと Fur との関連性
析を行った。DF1 株を用いたiscオペロンの転写解析の結果、DF1 株のiscSの転写量が野生株と比較し て減少した結果から、Fur によるiscオペロンへの転写制御の関与が強く示唆された。次に、この制御 が直接的であるか検討を行うために Fur titration assay (FURTA)を行った。FURTA はE. coliを用いて、 Fur と任意の DNA との結合を評価する手法である。その結果、Fur はiscオペロン上流と相互作用しない と示唆された。よって、Fur によるiscオペロン転写制御は間接的制御であると結論づけた。
第 3 章 iscR破壊株を用いた in vivo 解析
まず、ATCC 17616 株のiscR欠失(DiscR)株を作製し、iscオペロン転写解析を行った。その結果、DiscR 株では ATCC 17616 株で観察された鉄依存的な転写変動は観察されなかった。次に、鉄豊富条件において、 観察されるiscオペロン転写量減少に IscR が直接的に関与するかの検討を細胞内でタンパク質と任意の DNA 配列の結合を評価する手法である ChIP-qPCR にて実施した。その結果、iscオペロンの転写抑制条件 下では、IscR はiscオペロン上流領域に結合していることが示唆された。また、E. coli UT109 株を用 いた解析で、ATCC 17616 株の IscR は鉄硫黄クラスター非存在下ではiscオペロン上流プロモーターの 活性を抑制できず、ATCC 17616 株のiscオペロンの転写抑制には holo-IscR が関与すると示唆された。 第 4 章 IscR タンパク質のin vitro 解析
他細菌を用いた解析で主に転写活性化能を有するのは apo-IscR であることが判明しており、ATCC 17616 株のiscオペロン転写活性化を行うのは、apo-IscR であるという仮説を立てた。まず、好気的または嫌 気的に精製した IscR の鉄硫黄クラスター含有の有無を測定したところ、嫌気的に精製した IscR は鉄硫 黄クラスターを含み、好気的に精製した IscR は含んでいなかった。そこで、以下の解析は好気的に精製 した IscR を用いて行った。IscR とiscオペロン上流領域の結合を評価するために、ゲルシフトアッセ イ及び DNaseⅠフットプリント解析を行った。その結果、好気的に精製した IscR はiscオペロンの上流 領域に特異的に結合することが判明した。さらに、転写を活性化するか検討するために、In vitro transcription assay を行った。その結果、好気的に精製した IscR はiscオペロン上流プロモーターを 活性化することが明らかになった。 第 5 章 ヘム獲得系活性化因子hemPの普遍的機能の解析 hemPは病原性細菌を中心にヘム獲得系とセットで保存されており、ヘム獲得系遺伝子の転写活性化因子 として知られている。しかし、E. coli K-12 株等ヘム獲得系を有していない細菌にもhemPホモログ遺 伝子が保存されているため、それら細菌にも共通するhemPの普遍的機能の解析を行った。まず、ATCC 17616 株のhemP破壊株(DP1)を用いた生育試験を行ったところ、hemin 添加 M9 培地以外に M9 培地におい ても生育能が低下した。この生育能低下に ATCC 17616 株のヘム獲得系をコードするhmuオペロンは関与 しなかった。そして、この生育能低下はE. coli由来ydiE遺伝子を供給することで野生株レベルに回復 することから、鉄制限条件におけるhemPの機能が、ヘム獲得系を持たない細菌にも共通する普遍的機能 であることが示唆された。
論文審査結果の要旨
細菌は様々な遺伝子の発現を制御し、細胞内の鉄恒常性を維持している。この機構において中心 的な役割を担っている鉄応答転写制御因子 Ferric uptake regulator (Fur)は二価鉄イオンと複合 体を形成し、様々な遺伝子を転写レベルで制御している。細菌の鉄恒常性維持機構に関する研究は 病原細菌を中心にした様々な細菌をモデルに行われてきており、Fur によって制御される様々な遺 伝子の存在が知られている。ただ、あまりにも多数の遺伝子が Fur 制御下にあるために、Fur を中 心とした鉄恒常性維持機構の全容は未だ不明である。土壌細菌