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予言の見地からする監査知識の吟味(6)
一共謀行為者の逃れの道に対するsubstantive tests の処置法:その仕組みと間題点の吟味一酒 居 叡 二
1皿皿WV
監査人に対する共謀行為者の挑戦 雲をつかむような状況の認識 属性サンプリングの古典的利用法の無効とその克服 母集団過大表示総額の精度上限値修正法(1) 母集団過大表示総額の精度上限値修正法(2) 母集団過大表示総額の精度上限値再修正法 母集団過大表示総額の精度上限値再修正法の問題点 1 監査人に対する共謀行為者の挑戦 1963年に公刊されたH・アーキン著の『監査・会計用サンプリング入門』中 には次のように記述されている個所があるという。 「テストとか標本とかを用いているときには,実際に“大きな干し草の山の 中の針”的類型の症例が存在していても,そのことに監査人が合理的な確率で 気付くという保証はない;そのような症例が存在している合理的確率は如何ほ どであるのかもとめる方途さえない。監査人になし得ることは,せいぜい,干 し草の山の中にある針”的不正の症例が或る最小限度の頻度で生起しており不 正に一定の型のあることが示されている場合に限られるとはいえ,大きくとっ た標本規模中に,このような不正の症例を見出すことができるようにと望むご とでしかない。」 1) H.Arkin, Handbook of Sampling for Auditing and Accounting, New York: McGraw−Hill Book Company, Inc.,1963, pp.146 and 147.(R. Anderson&A. D.ノ48 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) この引用文は,当時における誤謬・:不正摘発のための監査技法が全く無力で あることを認めるとともに,如何なる類型の誤謬・不正であろうともこれを逃 さない監査技法を見出すよう識者に奮起を促したものと理解することができる。 これを換言すれば,そのような監査技法の見出されていない間においては,如 何に被監査会社内部統制の整備・運用状況について的確な知識をもっていよう とも,あるいは,監査手続の選択・適用に関する適切な知識をもっていようと も,監査人は誤謬・不正をなす者の前に,赤子同然,無力であるということに なるであろう。それは何よりも,被監査会社の内部統制は被監査会社構成員の 共謀行為に対して無力であるということ,および,各被検査項目中の誤謬率は たとえ低くとも実際に存在している誤謬が当該被検査項目の勘定残高に及ぼす 影響は小さいとは限らないということに因っている。被監査会社構成員の共謀 行為による誤謬・不正が存在している場合,それは,人体内に入り込んだ鉄連 同様,被監査会社に深刻な苦痛を与えずに済まないであろう。しかも,その識 別・除去は,レントゲン撮影の如き技法と撮影画像から煙出の存在位置を正し く読みとる確かな目があるのでなければ,如何に外科手術用のメスとピンセッ ト(監査手続)が整えられていたとしても不可能であるにちがいない。 上記引用文は不遜な思いに身を委ねた者から監査人宛に肥せられた挑戦状で あるとも読みとり得るものである。上記引用文中に描写されている状況は大昔 あざけ ひざ より存在したことであろうのに,監査入はこのような嘲りの前に長らく膝を屈 しなければならなかった。監査人の意見を当てにせざるを得ない財務諸表読者 も間接的ながら同様であった。上記引用文中に見出される挑戦に対処し得る監 2) 査技法が見出されるに至ったのは比較的最近のことでしかないからである。本 \Te圭tlebaum,‘‘Dollar−Unit Sampling,” Canadian Chαrtered Accountant, April 1973,P.36.において引用。) 2)R・アンダーソンとA. D.テイトルボームは,上記引用の共同執筆論文「ドル単位サ ンプリング法」がドル単位サンプリング法の諸概念を公然と人前に出した最初の包括 的文献であると自認している。しかしながら,母集団の階層化を無限大にすることに よってドル単位サンプリング法の効果と同じ効果を引き出したとされるハスキンス・ セルス会計事務所開発のAuditape sampling Plan力弐何時の頃より実用化されてい たのかについて筆者は未だ何も知らない。R.Anderson&A. D. Teitlebaum, op. cit., pp.30,36,38.
予言の見地からする監査知識の吟味(6) 49 稿はこのような監査技法の仕組みを紹介するとともに,この監査技法の弱点も しくは問題点として指摘されているところを改めて吟味し評価しようとしたも のである。 皿 雲をつかむような状況の認識 まか 前脚において指摘した如く,・企業内構成員による誤謬・不正が堂々と罷り通 るようであっては企業の生命はしばしの間もこれを維持・存続させることが困 難であるところがら,それぞれの企業においては,各構成員の職務分担を明確 にし,職務遂行上の手続を規定し,後日においても責任の所在を具体的に追跡 し得るような体制を形式を以て示し確立していることであろう。それ故内部統 制とよばれるこのような体制が十分満足のいくように確立され運用されてい るか否かについて評価するための調査で,監査人が先ず最初に吟味しようとす るのは,すべて,規定されている手続に照らし合わせたとき見出される“実際 にとられた行動形式の適格性如何”ということにならざるを得ないように思わ れるのである。このように考えられるのは自然の勢いであると看倣してよい。 たとえば,倉庫部門において日々作成され,記帳され,編集保管されている商 品出庫伝票の如き原始記録の監査では,そこに示されている販売部門責任者の 署名・倉庫部門責任者の署名・出庫作業担当者の署名・記帳担当者の署名のお い つのおのについて,その適格性が一\吟味されることになるであろう。何時の日 付の商品出庫伝票から何枚のものを選び出してこのような吟味のための標本と 3) するか,その抽出方法如何という問題はさておき,このような吟味によって判 明するところは,とにかく,形式違反(規定されている統制手続への準拠性違 反)があるか否かということでしかない。商品出庫伝票に払出請求の署名をし ているのは,そのような権能を授与されている販売部門の責任者であるか,そ れとも,そのような権能を授与されていない他の誰かであるかのいずれかであ る。あるいは,その商品出庫伝票には,それが公式のものであることを示す倉 3)拙稿,「予言の見地からする監査知識の吟味(3)」,『彦根論叢』,第230号,昭和60 年1月,36−39頁を参照。
50 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) 庫部門責任者の署名がなされているか,なされていないかのいずれかである。 商品払出請求をなし得る資格を半分だけ与えられている者とか,商品出庫伝票 の公式性を三分の一だけ認める倉庫部門責任者の署名というようなものはあり り 得ない。そこには中間的な状況というものは存在しない。 規定されている統制手続への準拠性違反が見出されたなら,そのことは「会 計記録の中に重要な誤謬が含まれている危険性が高いということを示唆してい らう る」ものと一応考えられるであろう。準拠性テストの背後には,如何なる誤謬 ・不正といえども必ず目で確かめ得る形式を以て現象せざるを得ない筈である との強固な信念を認めることができる。上記の例で言えば,販売部門の責任者 以外の者が払出請求の署名をしている伝票にもとづき商品が出庫しているとす れば,その出庫商品は売上原価勘定に計上されないで横領されている可能性が あるということになるであろう。このような可能性が事実どのように決着した かは,当該商品出庫伝票と販売部門において管理している売上原価勘定あるい は商品出庫請求書の控えとを突合することによって,両者の一致・不一致を確 かめる以外にない。そうであるかと思えば,商品出庫伝票の公式性を示す倉庫 部門責任者の署名が欠落しているにもかかわらず,その商品出庫伝票が写し撮 っている商品出庫作業は正しく権能を授与されたものであり,それが故に,出 庫商品は倉庫部門の商品在高帳出庫欄にも記録されておれば販売部門の売上原 価勘定記録とも照応しているというが如くに,形式違反は必ずしも内容におけ ゆる誤謬に通じるものではないと言える場合もあることであろう。それが故にこ そ次のような表現もこれを真実として受け入れなければならないのである。 「規定されている統制手続からの逸脱が会計記録の誤謬となって現れるのは, 規定されている統制手続からの逸脱と会計記録の誤謬とが同一取引について生 じる場合に限られる。適切な統制手続からの逸脱が一定割合いあったとしても, それが会計記録の誤謬となって現れる割合いは前者の割合いより低いというの のが通常である。」 4) R. Anderson&A. D. Teitlebaum, oウ. cit., P.31. 5)∼7) A工CPA, S 4S No.39, paragraph 34.(The∫ournal of Accountancy, August 1981,p.108.)
予言の見地かちする監査知識の吟味C6) 51 しかしながら,上記引用文の逆もまた成立つということが認識されねばなら ないであろう。上記引用文は,規定されている統制手続ぺの準拠性を吟味した とき,形式違反がある旨発見されたとしても,それは即,内容におげる誤謬・ 不正であるとは限らないとするものであった。それでは外観上識別し得る形式 において欠けるところがない場合,内容に関してどのようなこと渉発言可能で あるのか?それは,すなわち,「内容においても誤謬・不正がないとは限らな い」ということにならざるを得ないであろう。今,このことを説明するために, 上記の例示を引き継ぎ,次のような仮想事例を想定してみよう。販売部門にお いては,部長の下に得意先係・記帳係・庶務係が置かれており,組織計画上は けんせい各局は分離独立し,互いに相手方係の職務遂行を牽制し合うようになっている ものとする。すなわち,顧客への商品売り込みと商品販売代金の回収とを担当 する得意先係には商品出庫請求書を起案する権限が与えられておらず,庶務係 が起案し販売部長が承認署名をした商品出庫請求書は倉庫部門へ送付されると ともに,商品出庫請求書の控えは販売部門の記帳係へ回付されることになって いるものとする。また記帳済みになっている商品出庫請求書控え等販売部門に おいて管理することを要する一連の原始証愚の編集・保管は庶務係において担 当されているものとする。このように規定されている正規の職務分担がその通 り誠実に守られているよう絶えず監督されていたなら,「形式において欠ける ところがなくても内容において誤謬・不正がないとは隈らない」との命題が真 実と看傲されることは恐らくないであろう。ところが実際においては,各担当 係がいずれも怪しげな利益に誘惑されて,各人が有している誠実性を悪魔に売 り渡し,共謀して,商品出庫請求書控えを没却して記帳せず商品処分代金を横 領しているものと仮定せよ。また,販売部長は,共謀に直接加担しているわけ ではないとしても,得意先係担当者別の業績管理・代金回収管理を全くしてお らず,決裁署名をするばかりで眠れる如く机の前に座しているばかりとせよ。 倉庫部門に回付されてきた商品払出請求書を外から見るとき,これが会社に損 害を与える不正の会計記録であると人にして誰が見破れるであろうか? 形式上の違反は目で見えるものであるが故に,その有無のみを追跡する準拠
52 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) 性テストには深刻な困難がないともいえるであろう。しかしながら,形式違反 なしとされ準拠性テストを通過してきたものの中にも企業内構成員の共謀行為 によって隠された誤謬・不正があるかもしれないということから,これの存否 を確かめなければならないsubstantive testsにおいては,問題は深刻である。 そこにおいて追跡し得る形式は同じ顔をした数字でしかないからである。 皿 属性サンプりングの古典的利用法の無効とその克服 前述の如く,準拠性テストのもとにおいては,規定されている統制手続に照 らし合わせたときに見出される形式違反が“容認し得ないような高い頻度で被 検査項目母集団に存在していることはない”と言い得るのか否かについての意 8) 見が形成される。形式違反があるかないかは特定の属性の有無を問題にするも のであるから,準拠性テストは,特定の属性の有無を問題にするサンフ。リング, すなわち,属性サンプリングの一応用形態であると言ってよい。このような準 拠性テストで測定されるところは,たとえば,以下の如きものとなるであろう。 「売掛金勘定について,その無作為抽出標本100個中の規定された手盛から の逸脱率が1%であるとき母集団逸脱率が4.75%以下であることは95%確かで ある。」 この命題の意味するところは,決して,売掛金勘定残高の4.75%に相当する 金額だけ誤表示があるということではないであろう。金額的な誤表示は,前述 の如く,それ以下であるかもしれないし,それ以上であるかもしれないと言わ ざるを得ない。このことから,準拠性テストにおいて有用な属性サンプリング もsubstantive testsに対しては無効であるとの信念が形成されることになっ た。すなわち以下の如くである。 「属性サンプリングにおいては金額が直接扱われることはないので,多くの 監査状況において属性サンプリングは適切なものでないと言ってよい。」 こうして人々は変数サンプリングとよばれる方式に問題解決の手懸りをもと 8)∼10) R.Anderson&A. D. Teitlebuurn, op. cit., P.32. 11)G,R. Meikle,‘’Statistical Sampling in An Audit Context,”Toronto:Canadian Institute of Chartered Aecountants, March 1972, p.10.(R. Anderson&A. D. Teitlebaum, op. cit., P.32.において引用。)
予言め見地からする監査知識の吟味(6} 53 めていった。変数サンプリングとは,ある都市における市民の平均身長を見積 るのに標本として選び出した市民の平均身長と標準偏差を以て示されるその可 変性とを用いる如く,母集団中のいずれの項(member)もが持っている何らか の計量を以て変度(variations)を測定しようとするときに用いられるものであ ま るという。substantive testsという監査の局面におけるその利用は,標本中に 見出される誤謬平均値とその標準偏差とにもとづいて,母集団中に存する誤謬 値の存在範囲を統計学上の信頼性水準のもとに推論するということになるので あろう。しかしながら,変数サンプリングの方式は,たとえそれが如何なる工 夫をこらしたものであるにせよ,母集団の自然状態についての正しい推論を導 エヨラ 出し得ないこと,および,その理由が今日では知られるに至っている。 このように,有効なsubstantive testsの技法をもとめて,人々の心は一度 属性サンプリングを離れ変数サンプリングへ揺れ動いたものの,変数サンプリ ングは安心して依存し得るものでなかったため,再びそこを離れて揺れ動かざ るを得ないことになった。そして落着先は属性サンプリングしかなかった。以 前には,属性サンプリングによっては‘‘金額にしてどれ程の誤謬が存在してい るか?”という問いに応答し得ないと理解した筈であったのに,どうしてその 閥いに応答し得るということになったのであろうか?これについて私達に解り「 易く説明してくれるのは,J. L・グッドフェロー&」.K.ロエベック&J.ネタ 14) 一3者共同執筆の論文「CAVサンプリング構想に関する若干の展望(1)」(1974) である。すなわち以下の如くである。 今,検査対象母集団は売掛金勘定であるとし,その勘定残高をT,母集団 を構成している監査単位数(売掛金勘定項目数)をN,母集団誤謬率をP, 母集団中に存する監査単位の最:大帳簿価額を斑で示し,T=$10, OOO,000, N=100,000,P=・O.02, X. ==$1,000であると仮定しよう。この仮定中, T, N,瓦の値は監査人が実際に確認し得るものであるとはいえ,Pの値は監査 12) R.Anderson & A. D. Teitlebaurn, op cit., p.31. 13) lbid. pp.33−34. 14) J,L. Goodfellow & J. K. Loebbecke & J. Neter, ’“Some Perspectives on CAV Sampling Plans Part 1,” CA Maga2ine, October 1974, pp.22一一30.
54 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) 人にとって未知のものである。それにもかかわらずP==O.02と仮定している わか らのは,たとえ監査人にとって分明ないことであっても分明ないことのない神の 知恵をもとめることは可能であるということを意味している。すると,こ.の場 合,下記の如き結論が導出されることになるであろう。 母集団中に存する過大表示総額≦NPX≧=(100,000)(0.02)($1,000) 15) =:$2,000,000………① ところが,前述の如く,神ならぬ人間は上記式①を概念的に理解することはで きても,これをそのまま用いることはできない。監査人が上記式を用い得るた めには,監査人にとって確認し得ないものがあってはならないからである。幸 いにも,監査人にとって到達することのできない未知のものと考えられていた Pの値は監査人の手に届くものであることが見出されるに至った。今日では, 標本上の結果からPについて確実なことを発言することが許されている。.そ れはPの値の推定という言葉によって暗示されるような不確実な知識にもと つく発言ではない。 今,上記の例について,標本規模をπ,標本上の誤謬率をρで示すならば, π,ρの値はともに監査人が実際に確認し得るものとなっている。今や属性サ ンプリングにおいて与えられ知られている知識が働くことになる。準拠性テス トに応用される属性サンプリングは,標本上の誤謬率ρにもとづき母集団誤 謬率Pの精度上限値を統計学上の任意の信頼性水準のもとに特定しようとす るものであった。このようにPによって把握されるPの精度上限値を一Puで 示すならば,P.は2項確率分布表によってこれを見出すことができる。 Pと Puとの間には, Puに対応する統計学上の信頼性水準を如何ほどに設定するか 16) ということにも依るとはいえ,一般に,P≦Pzaなる関係が成り立つから, NPX. 15) Ibid., p.25. 16)統計的サンプリング上の信頼性水準をどこまで下げ得るか,したがって,.それと対 の関係にある母集団誤謬率の精度上限値PUをどこまで縮小し得るかについて数学 上の制約は何ら存在していない。substantive testsで用いられる統計学上の信頼性水 準が如何ほどであってよいかについての見解は論者によってまちまちである。たとえ ば,H・F・ステットラーは,「総体的な統制が良好なものであれば(substantive tests の)信頼性水準を習慣的に用いられている90−95%という範囲値以下に設定すること/
予言の見地か、らする監i査知識の吟味(6} 55 ≦IVIP。 Xしの関係が成り立うとみてよい。ここに, NP。 XLは自動的にi>P瓦の 精度上限値となっているから,これをDで示.すことにしよう。すなわち, D==.NP。XL。①式に示される如く,母集団中の過大表示総額≦NP凡であるか ら, IT) 母集団中の過大表示総額≦iVIPX.≦D=AllP。 XL ………② 今,①式の説明で示した仮漆例の場合と同じく・N=100・ OOO・XZ「簿1・000と し,n=100, P ・= O. 02であると仮定してみよう。n ・100,カ=・O.02に対応する 18) Puは,統計学上の信頼性水準が95%のとき,0.0616であることが知られるか ら,以下の如き結論が導出されることになる。すなわち, 統計学上の信頼性水準95%のもとに 母集団中の過大表示総額≦(100,000)(0.0616)($1,000)=$6,160,000 導出された上記の結論を見て,「勘定残高$10,000,000中,過大表示の誤謬金 額が$6,160,000を越える.ものでないことは95%確かで.あると言っても,この \のできることは明らかである。取引についてのテストを行う場合には,信頼性永準を 50%に設定し,以て,標本規模を縮小してもなおかつ合理的であると多分言えるであ ろう。」と述べている。これに対して,R・アンダーソンとA・ D・テイトノレボーム.とは, 統計的サ.ンプリング上の信頼性水準を80%より低いものとすることは正当化されない との信念を示している。ここに取上げた限りでのいずれの見解にせよ,その論拠を 「いやしくもテストはこれを行ってみるだけの価値があるというのであれば,テスト によって監査対象になつ1ている数字の信頼性は更に増すということでなければならな い」にもとめるのであれば,信頼性水準が1.000に近づき,母集団誤謬率の精度上限 値PUが増大してもそれIC対応する信頼性水準値の変化がほとんど見ら.れなくなり始 める点,たとえば,信頼性水準95%の点こそ選択されるべきであろうにもかかわら ず,そのように考えられていないのは不思議である。それは,結局,H.F.ステット ラーにせよ「R.アンダーソン&A.D.ティトルボームにせよ,ともに,共謀行為の前 に当てにならないかもしれない内部統制についての評価,あるいは,重複する監査上 の効果を当てにしていることによるものと考えられる。本稿においてはP麗に対応す る信頼性水準をすべて95%という比較的高水準に設定しているため,P≧Puの関係 について疑念が生じる.ことはないであろう。H.F. Stettler,“Some Observations on Statistical Sampling in Auditing,” The fournal of Accounlancy, April 1966, p. 58. (K.A. Smith, “The Relationship of lnternal Control Evaluation and Audit Sample Size,”The Accounting Review, April 1972, P. 262.において引用。)()内:低温 補充。 R.Anderson & A. D.Teitlebaum, op. cit., p. 32. 17) J.L. Goodfellow & J. K. Loebbecke & J. Neter, op ctt., p,25. 18> lbid., p.30. 一
t 56 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) ような結論では何らの用もなさない」と言ってしまえば,その通りであり,何 らの用もなさないであろう。しかしながら,SubStantiVe teStSには使用し得な いものと考えられていた属性サンプリングの知識を応用して,sbstantive tests についても確実なことを発言し得るということが判明したことは大きな収獲と 看徹してよい。 IV 毎集団過大表示総額の精度上限値(D)の修正法(1) 前節において示した如く,N=100,000, X.=$1,00σ, n=100, P=0.02の とき,統計学上の信頼性水準95%のもとにおける母集団過大表示総額の精度上 限値Dが$6,160,000となり余りに不正確の故に監査目的に適合し得ないも のになっている原因は,標本中に見出された誤謬率Pが2%であるというこ とに因るとは考えられない。たとえ標本中に何ら誤謬は見出されなかったとし ても,すなわちρ一頭一・であ・たとしても・・一・…ρ一・・…即応す るPuは統計学上の信頼性水準95%のもとで0.0295であるから 1)=1▽’1=)uXL=(100,000) (0.0295) ($1,000)=$2,950,000 の となり,依然として不正確なものであるからである。上記の例においてエ)が 不正確なものになっている本当の原因は,総計100,000個の売掛金勘定項目が いずれも最大帳簿価額をもつものであり,かつ,誤謬あるいずれの項目につい う てもその全額が過大表示になっていると看倣されていることにある。 今,総計100,000項目より成る上記売掛金勘定を各項目の金額的大きさに従 い3階層に分けたものとしよう。すなわち,総計100,000項目の売掛金勘定は 以下の如く分析し得るものとする。但し,Nnとはh番目の階層中に含まれて いる売掛金勘定項目数,P,とはh番目の階層中に存する母集団誤謬率, XLh とはん番目の階層中に見られる売掛金勘定項目の残高中最大のものを示して いるものとする。すると,①式の場合と同様に,次の③式が得られるであろう。 19)∼20) J.L. Goodfellow&丁. K. Loebbecke&」. Neter, op. cit., P.25.
予言の見地からする監査知識の吟味(6) 57 [展示1] 標本階層化による母集団過大表示総額上限値の計算例
階層灘繕麹果瓦 P・XLn鵬梅
19臼nδ
O−100 59, OOO O. 02 100 118, OOO 101−200 39, OOO O. 02 200 156, OOO 201−1, OOO 2, OOO O. 02 1, OOO 40, OOO 100,000 314,000 [出所:J.L. Goodfellow&J. K, Loebbecke&J. Neter, op. cit., P.26] 21) 第h番目の階層の過大表示総額≦NkPh XLh ……③ また,母集団過大表示総額がそれを構成している個々の階層の過大表示総額合 計値より大きくなるということはあり得ないから,次の④式が得られるであろ う。 母集団過大表示総額≦Σ1>’hPhXLh ……④ 売掛金勘定を構成している監査単位を叙上の如く階層化した場合には,前掲引 用展示1によって,母集団過大表示総額は$314,000以下であるということが 解る。監査単位の階層化を更に緻密にすれば,母集団過大表示総額の精度上限 値Dは更に押し下げられることになるであろう。この監査単位階層化の方法 は,母集団過大表示総額の精度上限値を構成する要素1>,P, X.中のN, X. に特に注目し,N斑の値を圧縮することができないか吟味することによって 見出されたものと言うことができる。 しかしながら,①式の場合と同様,監査人にとってPゐは未知のものである から,監査人が④式を直接用いることはできない。それ故,母集団を構成して いる監査単位を階層化するこのような場合においても,各階層から無作為に標 本を抽出することによって見出される標本誤謬率を手懸りにして,各階層毎の 標本誤謬率精度上限値P。kを特定の統計学上の信頼性水準のもとにもとめ, D=Z]N,P.,X』ゐを計算することが考えられるであろう。このような計算によっ てDの値をもとめることは②式の場合と同様可能である。 21)Av22) Tbid. p.26.58 出江秋利教授退、官記念論文集1(第.245号) 一定の条件が満た.される場合に限られ:るとはいえ,しかしながら,2項確率 分布表を和用する上記ρ方法に代えてポァ.ソン確率分布表を利用するならば, D についての近似値計算が幾分か平易になるという。筆者は2項確率分布に ついてもポアソン確率分布についても無知な者であり,それらについての理解 は皮相的なものに過ぎざるを得ないであろうことを自ら承知しているが,監査 に統計的サンプリングを応用しようとする以上避けて通ることのできない関所 と観念して,ポアソン確率分布を利用したDの計算方法についても,以下, 若干の追跡理解を試みることにしよう。さて,J. L.グッドフェロー&J. K.ロ エベック&J.ネター共同執筆の前掲論文によれば,ポアソン確率分布を用い たDの近似値計算が可能であるためには,以下の3個の条件が満たされていな の ければならないという。すなわち, 条件1:階層誤謬率P,はすべて小さなものであること。 条件2:階層中より無作為に抽出した標本の規模nhは必ずしもすべて小さ なものでないこと。 条件3:各階層を独立の母集団と看倣したときの各母集団構成分子中に占め る標本規模の割合いは,各階層中に存在する帳簿価額中最大のものに 常に比例したものであること。 条件1.2.は2項確率分布とポアソン確率分布とが十分近似したものにな らう るための条件ということであるから,これについては所与と看徹さざるを得な い。条件1.2.が満たされているなら,h番目の階層標本中に存在している 誤謬数Shはパラメ“ターをAh=nhPhとするポアソン確率変数の分布にほぼ従 つたものになるということ。そこにおいてはnh,一P,の値を個別に考慮すること 2T) が不要になっているということ,これがここでの要点なのであろう。 23) Tbi・d. 24)Ibid.但し,条件3は「各階層の帳簿価額が階層上限値XLnに近似しているほどに 各階層が相対的に狭いものであることを要す。」という意味である。lbid., p.27. 25) lbid., p.25. 26) lbid., p.29. 27) lbid., p.26.
予言の見地からする監査知識の吟味⑥ 59 Dの計算に際し,何故条件3が必要であるのかについては吟味を要する。 今,比例係数をkとすれば,条件3は次の式で示されることになる。
舟一・X・…一nh一調1) 1、 ……⑤
ところで,s=ΣSh=nP,但し, Sb・=第h番目の階層標本中に見出される誤謬数, n=Σnh, P=ΣnhPhに関して, Shが独立のポアソン変数であるとき,ΣSh=s もまたパラメーターλ=Σλみとするポアソン変数であることが確率定理によっ て認められるのであるという。それ故, 30) 2=ΣR, == X n,P, ……⑥ 今⑤の条件が満たされるなら,⑤を⑥に代入して,2一・Σ瓦脳、・・i(・)=・・z]N,・・x21) ……⑦
・の⑦式の勘上限値はト(・)によ・て与えられるというのであるから・ ΣN・P・・x・・≦f・u(・)∴D−t・.(留 ……⑧
ここに比例係数んは必要な標本規模の計画に従属したものとして決定されるこ とになる。たとえば,所定の統計学上め信頼性水準に対応する母集団過大表示 総:額.の上限値(=当該被査項目について監査人が許す許容可能な誤謬総額)を 1)oとするとき,必要な標本規模計算は母集団中に存する誤謬が0であるとの 仮定のもとになされるべきであるというのであれば,⑧式より 瓦一÷礼(・)∴k一λぢ1)とな器31ポァ。。僻分布表観るなら,統計学上の壷掘蝉95%のもとに
1おけるλ.(0)=・2.996であるから,Do;$470,000のときん÷ となる 157,000 であろう。売掛金勘定項目の階層化は前掲[展示1]の如くなざれているもの 28) fbid., pp.26. & 29. 29)A−33) lbid. p.29.60 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) とすれば,各階層において抽出されるべき標本規模は⑤式により以下の如く計 算されることになる。 [展示2] 第1階層 第2階下 智3階層 各階層別抽出標本規模の計算 (lstiiiiLod67 ooo)(59,000) (ioo)=:37 (rst71!Z6cid7,000)(39,000) (200) =so (iist71icso7 eoo) (2・ Ooo) (i, ooo) =i3
万
[出所:J.LGoodfellow&J. K. Loebbecke&J. Neter, op. cit., p.27] このようにして各階層中より無作為に抽出された総計100項目の標本を吟味し たところ,監査計画樹立の段階における仮定に反して2項目に誤謬のあること が判明したとすれば,統計学上の信頼性水準95%のもとにおいてλu(2)=6.296 35) であることがポアソン確率分布表によって知られるから,⑧式により, エ)=(157,000)(6.296) =$988,472 おう となる。以上が前掲J.L.グッドフェロー&J.K.ロエベック&J.ネター共同 執筆の論文において紹介されている「ポアソン確率分布を用いたDの近似値 計算方法」のあらましである。何らしか釈然としない個所も存するように感じ られるとはいえ・D一÷礼(・)の計算とD・・ZN・P。hX・・の計算と砒べるとき には,前者の計算方法を用いてこそ,標本規模についての計画,ひいては,D についての計算がかなり平易になるであろうことを否定することはできない。 しかしながら最も注目すべきことは,監査単位を階層化するだけで,属性サン プリングの手法によりエ)についてのかなり厳密な発言を特定の信頼性水準の もとになし得るということであろう。前掲例示の場合,監査単位を3階層に分 けるというだけの工夫を加えることによって,Dは統計学上の信頼性水準95 %のもとで$6,160,000から$988,472へと押し下げられ得るものであるとい うことが例証されている。 34)’一一35) Jbid. p,26. 36) tbid., p.2Z予言の見地からする監査知識の吟味⑥ 61 V 母集団過大表示総額の精度上限値(D)の修正法(2) 前掲②式によって示される母集団過大表示総額上限値D=NP。 XLを押し下 げる方途について引き続き考えてみよう。母集団階層化の方法は,監査単位に 付与されている帳簿価額に著しい変動があるにもかかわらず,いずれの監査単 位の帳簿価額も一律に最大帳簿価額を付与されているものと仮定することによ 37) って増幅されるD値不正確性の原因をA]IP。XL中の1V凡に認めるものであ ったこと前述の通りである。果して,D=NP。凡によって生じるD値の不:正 確性は母集団階層化の方法を以てしか是正し得ないものなのであろうか? 今,NP。X.中のNX.にのみ注目して,前掲例示の如く, T・・$10,000, OOO, N=100,000,凡=$1,000と置けば,NX≧=$100,000,000であり,これは勘定 残高Tの10倍になっていることが解る。Puを乗算することによってNP。瓦 の値は多少緩和されることになるとはいえ,母集団(勘定残高)過大表示総額 の上限値計算の過程において,母集団そのものの値(勘定残高)の10倍に相当 する数字が出てくるというのは何処か間違っていると考えられて自然であろう。 母集団過大表示総額の上限は母集団(勘定残高)の存在が否定されて無になる 点,すなわち,母集団値(勘定残高)そのものとなる筈である。すなわち,最 悪の場合においても,NX.=$10,000,000ということでなければならない。こ のような思考を簡明にして,X. ==$1とし, N=100,000の代りにT=$10,000,000 を用いたDの計算法はドル単位サンプリング法とよばれるもので,以下の式 によって示される。 母集団過大表示総額≦D=TP。($1) ……⑨ ⑨式において商=$1と置いていることの意味,それは,母集団(勘定残高) を構成している個別の勘定残高を最早や監査単位として認めず,母集団につい ての数量的表現そのものの基礎的単位,すなわち1ドル(日本の場合なら1円) の付与されている形式としての1ドル札(日本の場合なら1円硬貨)を概念的 37) J.L. Goodfellow & J. K. Loebbecke & J. Neter, op. cit., p,26. 38) lbid. p.28.
62 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) にではあるが監査単位として認めるということに他ならない。R・アンダーソ ン&A.D.ティトルボームの表現法を借りるならば次のように説明されること になるであろう。すなわち, 「②式および⑧式のもとにおいては,さまざまの残高をもつ売掛金勘定が 100,000口あるというのであるから,標本抽出のもとになるべき母集団は,と にかく,100,000口の売掛金勘定を措いて他にないと考えられた。しかしなが ら,売掛金勘定残高(T)が$10,000,000であるということは,1ドル札が机 う の上に10,000,000枚広がっているということである。1ドル札10,000,000枚を 母集団と考えたとき,監査単位は1ドル札なのであるから,その過大表示は1 ドルを越えることはできない筈である。すなわち,乙=$1となる。」というが 如くにである。 このような解釈を採るならば,母集団を構成している個別の売掛金勘定を標 本として無作為に抽出するのではなくて,母集団についての数量的表現を構成 している基礎的単位としてのドルを無作為に標本抽出するにはどのようにすれ ばよいかが問題となるにちがいない。ここに,n=100, T=・10,000,000とす 100れば,1ドル札が標本として抽出される機会は =0.00001であり, 10,000, OOO その逆数としての標本抽出間隔は100,000であることが解る。それ故,監査人 としては100,000以下の1つの数を舌L数表によって決め,これに標本抽出間隔 (100,000)の整数倍を加えて得られる数で10,000,000以下のものを100個標本 るの として得ればよいということが解るであろう。このようにして選ばれた100個 のドル単位標本は勿論いずれかの売掛金勘定項目に所属するものであるにちが いなく,選ばれた特定のドル単位標本についてのみ,その正否の検査をすると いうが如きことはできない。選び出されたドル単位標本がいずれの売掛金勘定 項目に所属するものであるのか識別し得るように,ドル単位標本と売掛金勘定 項目との対応関係を確立したうえで,ドル単位標本が所属する売掛金勘定項目 39) R.Anderson & A. D. Teitlebaum, op. cit., pp.34−35. 40) /bid., p.35. 41)∫うid.
予言の見地からする監査知識の吟味(6) 63 42)についての正否吟味が行われざるを得ない。今このような手続を経て,.2個所 の売掛金勘定項目に誤謬が存在している旨発見されたとするならば,n ・ leo,
P一斎一…2であ・から・・囎斬布表により・信灘蝉95%のもと・・
43) おけるP。は0.0616であることが知られることになるであろう。すなわち,統 計学上の信頼性水準95%のもとにおけるDは以下の如く算定されることにな る。 1)==TI)#($1)=(10,000,000)(0.0616)($1)=$616,000 以上の如く,ドル単位サンプリング法の発想を用いるならば,母集団を階層化 する労苦を払わなくても,属性サンプリングの手法のみでかなり厳密な発言を 導出し得るということが解る。 W 母集団過大表示総額の精度上限値(D)の再修正法 Dの算出根拠を属性サンプリングの技法にもとめてきた上記描写の諸方法 のもとにおいては,誤謬はすべて目いっぱい過大表示されているものと仮定さ れていた。たとえば前平V節において紹介したドル単位サンプリング法の場合, 100個のドル単位標本中に2個過大表示の誤謬があることを見出しており,具 体的な誤謬額を知り得た筈であるにもかかわらず,そのことがD=TP。($1)の 公式中に反映されていることはなかった。どのような場合であれD・・ TP。($1) の公式で押し切ることは,標本中に見出されている過大表示誤謬額についての 具体的情報を無視し,過大表示の誤謬はすべて最大水準の1ドルに達している ものと看傲して臨むことである。D=TP。($1)の改善余地はこれをこのように 理解することができるであろう。 ただし,このように言っても,ドル単位サンプリング法の場合1ドルが最大 水準の誤謬であるとはどういうことであるのか未だ解らないかもしれない。こ れは以下の如くに解釈されると考えてぶい。すなわち,前述の如く監査人が実 42) J. L. Goodfel!ow & J. K. Loebbecke & J. Neter, op. cit., p. 28. 43) lbid. p.30. 44) lbid., p.28.64 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) 際に監査するのは飽くまでもドル単位標本の所属している監査単位,具体的に は個別の売掛金勘定項目であるが,その残高(たとえば$200)は複数の取引結果 を反映しているものとすれば,その全部が誤りであるかもしれないし二分の一 のみが誤りであるかもしれないであろう。そのいずれの場合であるにせよ,誤 謬はすべて過大表示の誤謬であるとすれば,前者の場合,ドル単位標本1個当 200−0 200−100りの過大表示額は ==$0.5の如く =$1,後者の場合のそれは 200 200 計算されるであろう。監査単位中に存しているドルはすべて同じ特徴をもって いるとの仮定がそこには働いている。 そこで今,ドル単位標本100個の中に見出された過大表示の誤謬2個の大き さは,それぞれ,E,=$0.20, E2=$0.10と看徹し得るものであったと仮定す ることにしよう。このときDはどのように修正されることになるのか考えて みる。先ず,ドル単位標本100個の中に見出された過大表示の誤謬は1個だけ であったとし,その大きさは$0.10であったとする場合から考えてみよう。D の算出に関しては以下の諸点をふまえたうえでの推論が形成されなければなら ないであろう。 1.標本中に誤謬が見出されなかった場合のP、を瓦(0)と示せば,これ に乗算されるべき誤謬ドルの数値は如何に大きくても1ドルと考えられるべき である。すなわち,標本中に何らの誤謬も見出されなかった場合の,信頼性水 準95%に対応するDは以下の如くなる筈である。 D,:・:TPu(0)($1)=(10,000,000)(0.0295)($1)=$295,000 2.実際には標本中に誤謬が1個発見されたのであるが,これがもし,Dの 算定に当り1ドル未満の誤謬はこれを1ドルに切り上げるというのであればD の値は以下の如くなる筈である。 47) 1)2=TPu(1)($1);(10,000,000)(0.0466)($1)=$466,000 45)この仮定をゆるめるべきであるとする提案も存しているようであるが,その詳細な 議論について筆者は未だ何も承知していない。後日の研究課題にしたいと思ってい る。J・L・Goodfellow&J・K・Loebbecke&J. Neter, op. cit., P.28. 46) J.L. Goodfellow & J. K. Loebbecke & J. Neter, “Some Perspectives on CAV Sampling Plans Part II,” CA Magaxine, November 1974, p. 47.
予言の見地からする監査知識の吟味㈲ 65 3.実際に標本中に見出された誤謬の大きさは1ドル未満なのであるから, 真実のDはDエ,D2の間にある筈である。すなわち,一応以下の如く解し得 るであろう。 エ:)=TP.(0)($1)+7’[Pロ(1)一P解(0)]($0.10) =(10,0eO,000)(0.0295)($1)十(10,000,000)(0,0466−O.0295)($O.10) 48) =$312,000 4.ドル単位標本中に含まれている過大表示の誤謬が1個であり,その金額 がE,(但し0<El<1)であるとき,一般に D ・TP。(0)($1)+:r[P。(1)一P。(0)]E、 ・…・・⑩ 5.ドル単位標本中に含まれている過大表示の誤謬が2個であり,その金額 がE、,E,(但し,0〈E,<E、〈1)であるとき,一般に 50) D=TP。(0)($1)+T[P。(1)一P。(0)]E、+T[P。(2)一P。(1)]E2 ……⑪ 6.ドル単位標本中に含まれている過大表示の誤謬が3個以上である場合に ついても,⑩式,⑪式と同じパターンに従って,Dをもとめ得る。 本仮説例の場合,ドル単位標本中に見出された誤謬は2個であり,E,=$0.20, E2=$0.10であるから,⑪式により 工)=(10,000,000)(0.0295)($1)十(10,000,000)(0.0466−0.0295)($0.20) 十(10,000,000)(0.0616−O.0466)($0.10) =$344,200 統計学上の信頼性水準95%のもとに,一応このように推論することができると いうのである。しかしながら,このようにして得られた再修正値Dは,前節 までの各段階で得られた数値($988,472,$616,000)より形式的に厳密である とはいえ,それら程までに確かな数値ではない。 W 母集団過大表示総額の精度上限値再修正法の問題点 前VI節において描写・紹介した母集団過大表示総額の精度上限値決定方法に 関連してJ,L.グッドフェロー&J.Kロエベック&J.ネター共同執筆の前掲論 47)・v52) lbid. p.48.
66 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) 文が示している批判的吟味については,いくつか詳細に再吟味すべき事項があ ることを筆者は承知している。ただ,紙幅の都合上,それらの事項についての 吟味をすべて本稿においてとりあげることはできなくなってしまった。それ故, 本節においてとり上げている吟味事項は前節関連の問題についてのみであり, 他の問題点についての吟味は当面これを割愛している。 さて,前節描写のD値決定方法について,J. L.グッドフェロー&J. K・ロ エベック&J.ネター共同執筆の前掲論文は,R.アンダーソン&AD.テイト ルボーム共同執筆の論文が賞讃しているほどに正確なものではないと指摘して 53) いる。なるほど,前掲の⑩式,⑪式,および,その拡張式は,最早や,純然た る属性サンプリング技法の理論値を示すものではなく,標本中に見出された限 りでの過大表示の誤謬値があたかも母集団中の過大表示誤謬値中東:大のもので あるかの如くに仮定して,これに従い,属性サンプリング技法の教えるDの 理論値を再修正している。等しくドル単位サンプリング法とよばれているこの D値再製正法は,属性サンプリング技法と変数サンプリング技法とを結合した ものであるが故に,要証命題であるべきものを仮定せざるを得ない変数サンプ ヨの リング技法の困難がこの方法の中に継承されていることを否定することはでき ないにちがいない。真に堅実であろうと思えば,D値の再修正計算はたとえば 以下の如くなされるべきであるということになるでめろう。すなわち ドル単位標本中に見出された過大表示の誤謬が1個で,その金額的大きさが E,であるとき, ラ D・TP。(1)($1)一一 X,(1−E、) ……⑫ 但し,X、:誤謬の存在が明らかとなったドル単位標本の所属している監 査単位(たとえば,個別売掛金勘定)の帳簿価額。 ドル単位標本中に見出された過大表示の誤謬が2個で,その金額的大きさが 53) 」,L. Goodfellow & J. K, Loebbecke & J. Neter, ‘’Some Perspectives on CAV Sampling Plans Part II,” CA Maga2ine, November 1974, p. 51. 54) R. Anderson & A. D. Teitlebaum, oP. cit., pp.33 and 34. 55) J.LGoodfellow & J. K. Loebbecke & J. Neter, “Some Perspectives on CAV Sampling P1ans Part工1,”CA Magazine, November 1974, p.51.
予言の見地からする監査知識の吟味⑥ 67 E,,E2であるとき 1)=7ア錫(2)($1)一X,(1−E,)一一 X,(1−E,) ……⑱ 但し,Xiおよび為は,おのおのE、, E2が見出されたドル単位標本 の所属している監査単位の帳簿価額。 上記⑫式の堅さ・確かさは,たとえば,⑨式に劣っていると考えることはで きないであろう。それにもかかわらず,⑫式・⑬式およびその拡張式を更に修 正しようとするときには必然的に次のような仮定を立てることが必要になると いうことについて,私達は余程盲目であるらしい。その仮定とは,すなわち, 以下の如きものである。 「標本中に誤謬は見出された以上に見出されなかった。それ故,母集団中に 56) 生じている誤謬の大きさは云々であることであろう。」R.アンダーソン&A. D.テイトルボームはこのような仮定が怪しげなものであることに気付いてい 57) ながら,勇み足により,」.L.グッドフェロー&J. K.ロェベック&J.ネター共 かっこう 同執筆の前掲論文に恰好の題材を提供することになってしまった。しかしなが こうよう あやま ら,この後者の共同執筆論文も,等しく精神の高揚によってか,同じ過ちを犯 していながら,そのことに気付いていないように思われる。以下においてはそ の過ちを指摘し,以て,本稿のまとめとしたい。 56) Cf, ibid. 57) R.Anderson & A. D. Teitlebaum, op cit., pp.34 and 37. 上記引用箇所において,R.アンダーソン&A.D.テイトルボームは,「ドル単位サ ンプリングとは,属性サンプリングを修正して変数サンプリング・アブU一チに認め られる危険を避けつつ金額表示の結論を導出し得るようにしたもの」と説明しながら も,その仮説例においては,概念上⑩式と同等の方法を以てするDの算出法を示し ている。その関心は,専ら,Dを最大にするための増分変化量係数ないし精度調整係 数[Pu(0),Pu(1)一Pu(0), Pu(2)一Por(1),……]の配列順序に向けられており,それ に乗算されるべきドル単位標本当りの誤謬額(E、,E2,…)が果して母集団中に存する 誤謬額の中で最大のものであるか否かについては顧慮されてない。それにもかかわら ず,「95%の信頼性水準に対応する実際の正味誤謬頻度上限値が(たとえば,[Pu(O) ($1)+{Pu(1)一Pu(0)}E、]として)算:出される%値を幾分下まわるものであること について数学的に証明することは可能である」と胸を張り,さらに,「監査人の導出 する結論を真に必要なものより僅かに悲観的なものとする保守主義が問題であるとし て実務上平立つことは滅多にない」と余裕を見せているのは,ちょっと滑稽ではある が,無邪気な過ちと看倣すことができよう。()内:筆者補充。
68 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) J.L.グッドフェロー&J.K.ロエベック&J.ネターの前掲論文は,⑫式に ついて言及した後,次のように述べている。 「(⑫式の)次に認め得る最も保守主義的な手続は,標本から察知される誤 謬と最大誤謬(1ドル)とを比較してみたとき見出される差額をサンプリング ・フラクション(母集団中に占める標本の割合い)の逆数だけ拡大することで あるべしというものになるであろう。これによって次式が導かれることになる。 D…一TP.(・)($・)一号(・一E、) 58)」 今,上記引用式を再記して⑭式とよぶことにしよう。すなわち, D・・TPu(1)($1)_Z(1_E、) __⑭ 上記引用論文は,⑩式と⑭式とを比較し,前掲仮説例の数字を代入することに ひとえよっては両式から等しい値が得られない;その原因は偏に⑩式において暗黙の 59) うちに立てられている仮定にある,と指摘するのである。しかしながら,⑩式 と対置させられている⑭式は一体何を示すものであるのかが問題である。 ⑫式と⑭式とを比較するときには,両者の相違点が瓦とヱとの置換えに のみあることは明らかである。しかしながら,X、とはドル単位標本が所属し ている監査単位の帳簿価額であるのに対して,ヱはドル単位標本の抽出間隔で あるに他ならず,⑫式を理解し得たように⑭式を理解することはできないと言 わなければならない。J. L.グッドフェロー&J. K. mエベック&J.ネター共 同執筆の前掲論文が示したかったのは次式でなかったであろうかと筆者には思 われるのであるが,これなら,その意味を容易に理解することができるであろ う。すなわち, D・・TPu(1)($1)一tt x,(1−E,) __⑮ このように,たとえ,⑭式は⑮式の誤りであるとしても,⑮式の中に判然と 58) J. L.Goodfellow&」. K. Loebbecke&J. Neter,‘‘Some Perspectives on CAV Sampling Plans Part II,”CA Magazine, November 1974, p。51.()内=筆者補 充。 ’ 59) lbid., p.52.
予言の見地からする監査知識の吟味(6} 69 読みとり得る仮定と⑩式中に内在している仮定とでは軽重があるとして,一方 の仮定のみを責めることがどうしてできるであろうか?J,:L.グッドフェP一 &J.K.ロエベック&J.ネター共同執筆の前掲論文「CAVサンプリング構想 に関する若干の展望②」において批判の対象になっている⑩式中の仮定は,⑮ 式においても等しく存在していることが注目されなければならない。ここに, この共同執筆論文が有する批判の論理に矛盾を認めることができる。