情報処理 Vol.50 No.12 Dec. 2009
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丸山文宏
欧州富士通研究所
Fumihiro Maruyama Fujitsu Laboratories of Europe Ltd.
欧州駐在員便り
Views from Assignees in Europe
第 2 回
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Recent Topics from UK
最近の英国事情
前回平川氏が英独仏を概観されたので,今回は英国に 焦点を絞り,英国を表すキーワードとともに最近の事情 を紹介したい.⿎
⿎Alan⿎Turing への公式謝罪
2009
年9
月Gordon Brown
首相はAlan Turing
への処 置に対して公式に謝罪した.チューリングマシンなどの 金字塔を打ち立てたTuring
は,第二次世界大戦中ドイ ツの暗号エニグマの解読に従事し成功した(写真 1).戦 後1952
年にゲイであると起訴され2
年後に自殺するが, その間の政府の処置に対する謝罪である.謝罪を求めて きたコンピュータサイエンティストらの努力が報われた.Bletchley Park
では暗号解読のために真空管による世 界初のsemi-programmable
な電子計算機Colossus
が開 発された.その再現プロジェクトが進行中であり,古い ものを大切にして守っていこうとする姿勢はアンティー ク以外でも健在である.⿎
⿎Charles⿎Darwin 生誕 200 周年
2009
年はDarwin
の生誕200
周年,『種の起源』出版150
周年にあたる.進化論のきっかけとなったビーグル 号での航海は20
代のときだから,その後発表までの20
年を自説の検証と強化のための実験などに費やしたわけ である.自説を裏付ける証拠を着実に積み重ねていく方 法論とともに,さまざまな障害を乗り越えて真実に迫っ ていく精神がそこにはある.2009
年9
月にはロンドンの自然史博物館のDarwin
Centre
が一般公開され,多数の標本類とともに作業中 のスタッフの作業を間近に見ることができ,科学と触 れ合う場となっている.BBC
の良質な科学番組とともに, 基礎科学を大事にする伝統は生きている. な お,2008
年9
月 英 国 国 教 会 が 最 初 の 誤 解 と 反 応の誤りに対して謝罪しているが,Darwin
の伝記映 画 ”Creation
” は,反発が強い米国では配給先が見つから ないため上映できなくなり,出版後150
年を経てなお その説が遍く受け入れられていないのは残念である.⿎
⿎イノベーションはこれから?
英国人が多くのオリジナルな発見・発明をしたことを 彼らは誇りにしている.とは言え,科学の成果である果 実を英国が事業化を通してどれだけ享受できているかと 問われると,現実は厳しい.最近の例では,カーボンナノ チューブより有望かもしれないと言われる,マンチェス ター大学が発見したグラフェンはどうなるであろうか? そこで「イノベーション」の登場である.英国政府系 のElectronics KTN
(Knowledge Transfer Network
)ではInnovation Management Academy
を立ち上げた.その 立ち上げイベントに参加してみると,基調講演は米国か らであり,企業での取り組みはフィリップス(オランダ) の事例が紹介され,顧客の隠れたニーズを吸い上げた事 例として富士通の携帯電話「らくらくホン」が紹介される など,他国に学ぼうという謙虚な姿勢である.産業革命 という最大のイノベーションを成し遂げた国なのだが.成熟した国,英国
2008
年4
月に赴任して以来,英国は一体どんな国な のかと考えることがあるが,一言で言えば,良い意味で も悪い意味でも成熟した国ではないだろうか? 新型イ ンフルエンザ騒動でも,人々は冷静に対応する一方,政 府はタミフルを十分に確保するなど大人の対応であった.⿎
⿎したたかな戦略
大英帝国が実現できたのは,したたかな,時には冷徹 な戦略があったからこそであろう.写真1のBletchley
Park
でエニグマが解読できたことがドイツに悟られぬ ようカモフラージュするため,あえて自国民を見殺しに することも辞さなかったという見方もある.また,戦写真 1 Alan Turing らが暗号解読に従事していた Bletchley Park (ロンドン郊外)
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第 2 回 最近の英国事情
後はその設備,機器,青写真をすべて破壊し,Bletchley
Park
の存在も公にしなかった. 今,英国も含めた欧州は環境問題に関するしたたかな 戦略を描いているかもしれない.EU
は製品/サービスご とにどれだけのCO
2を排出しているかの報告・監査を義 務付けていく可能性がある.国際財務報告基準(IFRS
)は欧 州のイニシアティブでグローバルスタンダードとなった が,環境会計に関しても同様の動きをするかもしれない.⿎
⿎ダブルスタンダード
1988
年にスコットランド上空で米国のパンナム機が 爆破されたテロ事件の主犯が2009
年8
月にスコットラ ンド政府の恩赦で釈放されリビアに帰った.建前上はス コットランド政府の決定だからと言いつつ,実はBrown
首相がリビアでの権益を考慮してリビアに返すことを画 策したしたのではないかというダブルスタンダードが取 り沙汰された. モスクワ五輪にはサッチャー政権がボイコットを叫ん でいたにもかかわらず,英国は参加している.これもオ リンピック委員会による参加の決定を政府は覆せないと いう理屈だったのを思い出す.⿎
⿎プラグマティズム
最近おやっと思ったのは,2009
年10
月から英国に最 高裁が誕生するというニュースである.これまでは上院 (House of Laws
)が最高裁の機能も果たしていたが,さ すがに三権分立の建前から分離することになったのだと いう.このような形にこだわらない実際的な運用は意外 に多い. これが役人などの裁量に任されることになると市民に とっては迷惑な話になる.たとえば,移民法にはグレー な部分が多く突然変わったりすることもあり,駐車違反 の取り締まりは地方自治体の収入源としか見ていないの ではないかという気がする.これは悪しきプラグマティ ズムである.欧州富士通研究所
筆者が赴任した欧州富士通研究所(Fujitsu Laboratories
of Europe
)は日本の富士通研究所の子会社で,欧州での 優秀な研究者,知識,公的資金などの豊富なリソースを 活用した研究開発を推進することを目的として,2001
年にロンドン郊外に設立された(写真 2).研究開発の重 点3領域は,次世代サービス,次世代ネットワーク,次 世代テクニカルコンピューティングである.EU
プロジ ェクト,先進研究機関との共同研究,大学への委託研究 を通して,戦略的産学官連携とオープンイノベーション にも取り組んでいる. 英国の最近のキーワードである多様性(ロンドンの人 口の40
%は英国外で生まれているという)を反映して, 研究員の出身は世界各国という多国籍軍である.研究員 の2/3
はそれぞれの専門分野で博士号を取得している.⿎
⿎欧州技術フォーラム
9
月にはロンドン市内で富士通欧州技術フォーラムを 開催した(写真 3).今回のテーマは ”