技術科教育における技術史の展開
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(2) . 北海道教育大学紀要 (第1部C) 第45巻. 第1号. 平成6年10月. lo f Hokka Journa i do Un i i i ty ofEduca t l i ve r s t on(Sec onIC)Vo .45 .l , No. oct ober ,1994. 技術科教育にお ける技術史の展開. 井. 上. 平. 治. 阿. 部. 保. 志. 1. は じめ に. 技術史は, 技術科の中で, その学習領域に盛り込まれていない領域であるにも関わらず はやくからその重要性や実 , 践報告または教材の開発・改善が叫ばれてきた‐ 科学技術の大きな変革期にあることや、 地球的規模での環境問題が発生している最近の社会的状況に伴って 人類と , ) 技術の関わりで, 一層, 学会や教育界においても技術史が注目され始めている1 ‐ 今回は, これまで技術史の実践において, どのようなことが提言され また問題とな っ ているか 次に社会科の中 , ‐ の, 特に歴史分野との関連を概観し, 技術科において技術史を扱う意味を考察する 最後に 他領域に比較してこれま . , であまり取り上げられなかった栽培領域に関して, 江戸時代の農業技術に関わる授業実践を行なったので報告する .. 2. 技術科における技術史 について 中学校の現場では, どのような技術史が授業に取り入れられているかを概観してみる ‐ ) 佐藤禎一氏 「 それらを列挙すると, 小池一清氏 「機械学習の教材と変革J2 生徒の技術史的な社会観の実態について , 3 ) 綿貫元二氏 「 4 -技術史そのものを授業することは?-」 「 生活史を男女共学で取 り組んで」) , , 池上正道氏 蒸気機関. 5 } 6 『河内木綿について』 をもとめて ) 宮川鷹氏 「日本の刃物の変 内燃機関の技術史をどう教えるか」 , 荒磯代志子氏 「 一, 7 ) ) 池上正道氏 「 7 ) 『旋盤の歴史』 読ませて-私の技術史実践例- 7 遷」 , 平野幸司氏 「 鋼の技術史をどう教えるか」 」, , 藤木 8 ) 8 勝氏 「製作を行いながらの技術史の指導」 , 池上正道氏 「蒸気機関車の技術史学習」) 高倉蔭子氏 「石鹸と合成洗剤の , 8 ) そして足立止氏 「 9 ) 歴史とスライ ド作り」 道具の学習に実 物教具と技術を , 」. このように, 内容・領域とも比較的広範囲を教材として授業実践がおこなわれていることが分かる ‐ それでは, これらの技術史にあって, どのような事柄が課題・問題として提唱されているのかを次に把握する . 全国の技術教育に関わる実践家や研究者で構成する民間教育研究団体の 「産業教育研究連盟」 が 毎年主催する研究 , 大会に設定されるいくつかの分科会のうち, 「技術史と教材」 分科会で 討論の柱になっているのは以下の3点である , . ① 技術史の観点を取 り入れた実践を出し合い, 学習内容や方法を検討する . ② 地域の技術をどう取り上げ, 授業に生かすか. ③ 教科書にある技術史的記述の問題点・活用法について. これらのことを先ず念頭において, 技術史実践の意義を考えてみたい 従来 指摘されていることでは 大きくわけ . , , て次 の 3 点 にま と め ら れ る だ ろ う.. 1 ( ) 「技術教育」 における教養・知識としての 「技術史」. 2 ( ) ものを作る (実践) の前段階としての学習意欲を引き出すこと (動機づけ) ‐ ( 3 ) 人間の歴史の中での 「技術」, 技術のすばらしさを教える. しかしながら, これら3者がうまく噛み合って技術教育の現場で効果的に実践されているかというと多少の疑問が残 る. その要因の最たるものは, 技術史が技術科の中で-領域として確立していないことである 「技術史に係わる教材は . l o )と言 身近なところにある‐ それを拾い上げるか否かは教師の意識と深い係わりがある」 及されること自体, それを如 267.
(3) . 井上平治・阿部保志 実 に物 語 っ て いる と 言 え よ う‐. このような現在の技術史の性格, 一種の暖味さのために,「今後は技術史の指導に際して, 何を取り上げるか, どのよ 1 1 ) うに取り上げるか, 現在の領域にとらわれない一つの体系が必要となってくるだろう」 との新たな提言や,「教材化」 1 2 ) の意味.方法‐条件の検討 という根本問題が表面化してきている‐ また 「技術史的教材の扱いによって, どのような 子 どもたちの認識能力を育てるか, このことは技術の発展と社会との関わりや, 一方, 技術そ れ自体の責任ではない が, 公害・環境問題として技術が社会に及ぼすマイナス面が実際存在する中で, これらと同じような学習対象を抱える 1 3 ) 社会科との関連・違いを少しでも明らかにする必要がある」 . しかしこれらを明確化することは現段階では大変難 し い こと で ある.. このように考えてくると, 技術史の重要性は盛んに言われているが, その学習領域としての実態はそれほど明瞭化さ れていない, 仮領域の感は拭いきれない. 技術科にあってはものを作るという実践面と技術教育上の知識としての技術 史は密接不離で, しかも有機的な関係でなければならない. 技術史が単なる動機づけや, 授業のつなぎにとどまること なく, ひとつの 「教授-学習」 形態として確立していく必要のある領域であり, しかし今はその発展途上に位置してい ることをしっかりと先ずは見据えなければならない‐ そう言った意味で, 向山玉雄氏の次の提言は傾聴に値する特記す べき指摘ではなかろうか. 「技術が進歩すれ ばするほど, 教材の位置付けは歴史的な見方が不可欠となる. したがって, 技術史の研究及びその 教材化の研究は, 今後ますます重要な課題になってくる. 今後は実践の理論化と研究者の立場からの教育のための技術 1 4 ) 史の研究が行われなければならない ‐. 3. 社会科における技術史について. 技術史とは文字通り技術の歴史である‐ ここで技術科の技術史と, 社会科の歴史分野との関係・相違が問題となって くるであろう. 社会科の中で, 技術史はどのように扱われているのであろうか‐ 以下では秋山慎三氏の 「歴史教育教材 1 5 ) と して の 技 術」 を 参 考 に, そ の 動 向 を 探 っ て み た い‐. 秋山氏は戦後の歴史教育の中で, 技術に関する教材があまり重視されなかったことを述べ, その理由と考えられる事 1 6 ) 柄を3点挙げている . 第Iに, 授業で使う教材が手軽に手に入らないこと (技術史に関わる教材がきわめて少ない)‐ 第2に, 理数系を苦手とする歴史を指導する教師の資質と態度. 第3に, 戦後の歴史教育の流れ (文化史的内容.通史 0年以降, 技術に関わる内容の記述が少なく の重視) による影響. 氏は実際, 社会科の指導要領の分析を通じて, 昭和3 なっていることを指摘しているのである‐ それでも氏は,「しかし技術に関する教材は, 歴史教育そのものの目標の達成 『 にかなり意味ある教材と考えられる. 歴史に対する理解や認識を深めたり, 歴史的な見方や考え方を養ったりする 内 1 7 ) 容』 として役立つ」 とし, 技術史教材の開発を展望しつつ教材化の具体例を著書の中に載せている‐ 『技術史』 を歴史を教えるための手段・方 氏の見解からも分かるように, 社会科における技術史とは簡単に言えば, 「 法として捉えている」 となるのではなかろうか‐ 逆に技術科の立場から言え ば, 技術史とは 「技術のす ばらしさ (進 歩) を教えるための手段‐方法として歴史的視点を用いる」 ということになろう‐ しかしながら両者ともに, 技術史の 教授方法・内容が必ず しも体系化されていない し, まだその形成過程にある領域・分野であることは押さえておかなけ れ ばならない. それでも技術科での技術史としての独自性・特徴を強調すべき-側面として, 「社会科学的知識 に終わ 1 8 } る こと の な いよ う に, 常 に生 徒 の 既 習の 知 識 や 体 験 と, こ れ か ら学 ぼう とす る 事 柄 と 結 びつ く よ う に一 す る こ と, も の. を作ったり道具を使用するという実践と結 び付くことなどが挙げられるのではなかろうか.. 4‐ 「江戸時代の農業技術」 における教材化 4. 1. 教材化への観点と構成. ここでは2章や3章を踏まえ, 技術史の授業で何を伝えるか, どのような視点で教材化を行うか, そのあらましにつ いて述べる‐ 先ず今回の授業を実践するにあたって, 生徒の学習目標を 「社会の枠組み (要求) の中で技術は進歩する」 とした. 268.
(4) . 技術科教育における技術史の展開. 技術の進歩向上は, 決してそれ自体独立して成されるものではなく, その技術が存在する社会の中で展開されると考え るからである. もう少し掘り下げて言うならば 「技術」 という言葉・概念をどのように捉えるかを考えたとき, 似たよ うな言葉で 「技能」 が浮かび上がる. この技術と技能という言葉をどのように捉えるか, そのこと自体大変大きな問題 1 9 「 となろうが ) , とりあえず以下の図式のように, 技能とは個人的な能力差を伴うもの, 技術とは一定の きま り」 (法 則) に従えば大多数の人がそこに参加できるものと押さえておきたい.. 1技. 進. 歩. 能1. ー技. (芸術, 個人的). 術l. (生産面, 大衆的). この技能→技術という移行は, ひとつの技術の進歩と捉えることはできないか. そしてこのような変化は, そうなる べく多くの人々に技術として認識される 「場」 がなければならないと考える. それを江戸時代の農業技術の変遷の中に 見 よう と した の で あ る. 2 0 ) .. 教材化にあたっては, 農業技術進歩の具体相, すなわち多種多様な農具の出現と, 機能の分化を学ぶところにポイ ン トをおいた. この進歩を支える土台となったのが江戸時代の社会的要求であった‐ それはどのようなことかと言うと, ①米 (稲作) を必要とする経済制度 (石高制). ②土木工事 (潅概工事) の集中による耕地面積の増加‐ で ある.. ①・②を基礎として, 当時の人口の8~9割を占めていた農民が農業に従事することを要求されたのである. ②においては, その具体的工事件数や耕地面積の増加の程度を作表し提示する‐ 農具の説明では, 当時実際に売られ ていた農業技術書である農業の, 大蔵永常の 「農具便利論」 や宮崎安貞の 「農業全書」 に載っている農具の図を示す‐ ここでは特に鍬について, 何を重点的に学習のポイ ントとしたか若干の説明を加えたい. 鍬は刃と柄との角度や, 柄の 長さによって使い道が異なるのである. 鍬と言えば全て一律ではなく, 普通の耕作に使う 「打ち鍬」, 畦を作るための 「引き鍬」 粘質土を耕すための 「打ち引き鍬」 などに分けられていて しかも 「農具便利論」 には 農具の図に寸法ま , , , で記入されていて, それを読んだ者は実際に自分でその鍬を製作できたのである. このように, 農民の農業に対する意 識の高まりの下で, 農具は使い易さを追求した結果として, その機能は分化し, また様々な効率の良い農具が生み出さ れて い っ たの で ある.. 以上のように, 今回の教材化にあたっては, 技術進歩の背景となる社会の様子と, 技術の具体的様相を, 農具を通し て伝えることにある. それとともにできるだけ教材を可視化することと, 数値を多く盛り込むことなどを心掛ける. 以上の授業構想に基づいて作成されたのが, 図1の技術・家庭科学習指導案と本時案 (細案) である‐ また, 配布資料は図2 「七飯町の農業について」 であり, OHPで提示した資料は表1・表2, そ れ に 図 3 か ら図 9 で ある.. 4. 2. 授業 「江戸時代の農業技術」. 1 )導入, 技能と技術の関わり 「社会の枠組みの中で技術は進歩する」 を板書し 「社会の枠組み」 を 「要求」 に置き換えると より理解しやすいと , , 説明し, 本時の主題を伝えた. さらに, 本時案にある技能と技術の定義づけに基づいた説明をし, 結果的には前述の技能と技術の図式を示して技能 が技術に移行 (進歩) することを概説した. 次に, 北海道でも比較的早い時期に農業が始まった七飯町について, 七飯町の先人たちがどのような農具を使用して いたかを確認させた‐ 2 )展開 2 )-1 江戸時代の社会の仕組み (石高制) 江戸時代の経済制度が石高制であったため, 米の生産高を保障する生産者 (農民) の数は, 当時の人口の8 0%を占め 269.
(5) . 井上平治・阿部保志. ていたこと, それとこれらの状況が農業技術を高める 「場」 であることを伝えた‐ 2 )-2 明治以前の用水土木工事件数と耕地面積の推移 8%が集中してい 表1, 表2を順にOHPで提示して, 戦国時代から江戸時代初頭の約200年間に, 全体の工事件数の4 ること, また江戸時代の耕地面積が室町時代の約3倍であることから, 農業技術の発展する土台がここにあることを伝 え た.. 2 )-3 農業技術の具体的様相 以下図3から図9までのうち, 図4を除いて江戸時代に書き記された 「農業全書」 及び 「農具便利論」 にある図であ り, これらをもとにして農山漁村文化協会出版の 「日本農書全集」 から複写したものである‐ 以上をそれぞれOHPに して生徒に提示した‐ 図3は鍬の種類を示し, それらには寸法が記入されているのでより多くの人々が, それを頼りに必要な鍬を製作でき る ことを 伝 えた.. 続いて図4を提示して, 鍬の刃と柄のなす角度, さらに柄の長さの違いがあることを伝え, その理由を発問したとこ ろ, 男子生徒から土の硬さと耕す深さというほぼ正解に近い回答が返ってきた‐ 同図の1は 「打ち鍬」 で角度は60~80 5度, 畦つくりなど土を移動するた 度, 田畑の荒起こしや土工・開墾に用いられる. 3・4は 「引き鍬」 で角度は40~4 めに使用される‐ 2は 「打ち引き鍬」 で角度は中間の50度くらい, 打ち込みと同時に引く動作によって粘質土を耕すの に用 い られる‐. 5・6・7は重粘地で使用する 「打ち引き鍬」 で, 極端に柄が短い‐ さらに引きやすくするために, 角度は小さい. 次は図5を提示し, これが 「備中鍬」 であり, 江戸時代後期にあらわれたものであること‐ 水分の多い粘質土はたぶ ん開墾作業の困難さから, 未開墾地であったろう. このような貫入抵抗の大きい土質に対して効果的な刃の形状として 「備中鍬」 が考案されたことにより さらに耕地面積が拡大していったことを伝えた. , 収穫後の脱穀に用いる農具として, それまでは図6の 「扱 (こ) きはし」 (上の図) であった. 二本の割竹の間に稲や 麦をはさんで脱穀するものであり, 一度に扱くことのできる穂数はわずかであり, 能率が悪く, その上使用にはかなり の熟練が必要であった‐ 力を入れ過ぎると穂首が切れたりした‐ しかし, 図6のように 「千歯扱」(下の図) が江戸時代 に完成することで, 能率が 「扱きはし」 の約3倍になった‐ 次 は 図 7 「水かけ桶」 を提示し, 上の図がその分解図であり, 桶の底から筒状の布が下がっていることに気付かせ, その役割りを考えさせた. しかし実体験のほとんどない生徒からは正答がなかなか得られず, 数センチに成長した苗が 多く必要とすること, そういう時に使用する農具であり, 直接苗に水をかけることによる苗の損傷を防ぐために, 布の 先端から水が滴ること, その量も調節出来るように底の穴の開閉用の蓋があり, 手元で操作 (農夫の両手がその蓋につ ながる柄を持っている) が出来るよう考案されたものであることを伝えた. 図 8 は 「踏 (ふ み) 車」 で, 直 径 約1.5メ ー トル で, 羽 1枚 踏 むと 水 は約70~80リ ッ トル ず つ 高 い 場所 へ 揚 水 する こと. が出来たことを伝えた. 最後に図9を提示し, 江戸時代になって 「農業全書」 や 「農具便利論」 等の農業技術普及書が出版された‐ 以上のように, 江戸時代に入って 「石高制」 のもと, 生産を高めるための農業技術向上の要求から, 農業経営や具体 的な農具の開発が高まっていったという本時の主題との関連付けを説明し授業を終了した‐. 5. 授業を終えて-アンケー トの結果より- 終了ベルが鳴ったので, アンケート用紙を配布し, 簡単な説明をして回収は翌日にした‐ その質問項目は, 1 ) 技術史の授業を受けてみての感想を書いて下さい‐ ( ( 2 ) 社会科の授業とどのような違いがあると思いますか. 気付いた点があれ ば書いて下さい‐ 3 ( ) 技術・家庭科において, 今後も 「技術史」 授業があってもいいと思いますか‐ (はい, いいえ) であ る. 3 ( )の質 問に 対 して は, 生 徒 数40人の う ち 「は い」 は19人, 「い い え」 は21人 であ っ た‐ 「い い え」 と 答 え た 生 徒 の中 で 270.
(6) . 技術科教育における技術史の展開. も全く興味がない, 無駄だという意見はなかった‐ これはやはり, 技術史という領域がないということに大きく関係し て い る も のと 思わ れる が,「社 会 科 で少 しや れ ばい ら な い と 思 う」 と い う 意 見 が そ の こ と を 代 弁 して い る‐ そ れ で も( 2 )の 質 問 に対 して は, 21名 の 生 徒 が 「農 具 の 使 い 方 と いう 専 門 的 な こ と を 知 る こ と が で き る」 と, 違 い を 感 じて い る し, 他. にも 「技術 (道具) の流れを重視している」 と答えたものが4名,「数量など細かく説明する点」 が1名いた. 全体的に 専門性を指摘する意見が多かった. 他の意見・感想も紹介すると, 「その時代で一番大切でみんなに要求されている事は, 次第に技術が向上 して いくと いうのは, なんか納得できた. これは, いつの時代でも変わらず, ずっと続いていくことだと思 っ た」. 「一番印象に 残ったことは, なんとなく技術が社会へつながっているんだなと思った」‐ 「江戸時代の技術の発展のために人々が様々なことを考え 実行したように 現代の世も環境問題などたくさんの間 , , ママ ( ). 題が生まれているが, これに対応する技術も人々がま じで考えれば生み出すことができるという思想が自分の頭に生ま れ た」.. このように, 技術は自然科学と社会科学の橋渡しをするものであること, さらに発展して環境問題を両側面から考察 しなければならないことに気付いた生徒が一人でも多く出てくることに, 技術史を技術科の授業で扱う意義があるので はなか ろ う か‐. 6. おわりに 今回, 授業の導入部分に七飯町の農業の歴史を, 当時同村 (七重村) で使われていた農具の写真を掲載 し資料 (図 2) として配布したことは, 動機づけの一つとなり, また生徒の反応も良かったので, 地域に根ざした技術を学ぶとい う点では効果があった. 実践教材と言われる技術科において, 技術史で学んだ知識を, これら農具をたとえ完成度が低くても復元し, 使用体 験してみるといった授業が今後考えられる. 理論と実践とがセットになって生徒に内面化していくことが, 技術科にお ける 「技 術史」 の ね ら い で も あ る だ ろ う.. 最後に, この研究にあたり, 授業実践の場を提供してくださった七飯町立七飯中学校の校長先生は じめ お忙 しい , 中, 授業参観して貴重な御意見をくださった諸先生, さらに事前の打合せでいろいろ御助言いただいた技術・家庭科担 当の岡頭慎一先生に深く感謝します.. 文献及び注釈 1) 長崎誠三編, 「金属」, アグネ, 第61巻第8号,1991年8月号において 「教育特集・技術史を学ぶ」 が扱われている. 2) 産業教育研究連盟, 「技術教育」 N 9年8月号,pp‐ 5-8‐ Q205, 国土社,196 3) 同上誌N 212 Q ,1970年3月号,pp‐ 4-7. 376, 1983年11月 号, pp. 65一68. 4) 同 上 誌N o .. (産業教育研究連盟主催のこの年の, 年次大会の技術史分科会の報告に記されている. 以下文献9 )まで同様の扱い) 5) 同 上 誌N 400, 1985年11月 号, pp. 47一49. o . 6) 同 上 誌NQ412, 1986年11月 号, pp. 50-53‐. 7) 同上誌N 987年11月号,pp 7-51 Q424 .4 ‐ ,1 8) 同 上 誌N 436, 1988年11月 号, pp‐ 52一55‐ o .. 9) 同上誌N 496 5 o . ,1993年11月 号,pp.52-5 ‐ 10 ) 上掲書6), p.52. 11 ) 上掲書6), p‐53‐ 12) 同 上 誌NQ475, 1992年 2月 号, p. 17‐ 13) 同 上 誌NQ387, 1984年11月 号, p. 59. 14 ) 同 上 誌N 426, 1988年 1月 号, p. 12. o .. 15 ) 秋山慎三, 「歴史教育教材としての技術」, ぎょうせい,1989年4月. 16 ) 上掲書15 ),pp.29一30 . 17 ) 上掲書15 ), p. 8. 271.
(7) . . 井上平治・阿部保志 書6), p.53 18 ) 上掲: ‐ 3 19 ) 清原道寿, 「技術教育の原理と方法」, 国土社,pp.68一9 ‐ (技術論を展開した文献は多くあり, とりあえずあげた著書である) 20 ) 江戸時代を対象にした理由は, ①日本独自の技術として前近代に焦点を絞ったことと, ②技能→技術の進歩の具体的様相を説明し やすかったことが理由である‐ ※図表等, 教材化にあたっては以下の文献を参考にした. また農具の説明には, 飯沼・堀尾著 「農具」 を参考に した. 大石慎三郎, 「江戸時代」, 中公新書‐ 古島敏雄, 「農書の時代」, 股山漁村文化協会‐ 飯沼二郎・堀尾尚志, 「農具」, 法政大学出版局. 2巻 『農業全書』 山田・井浦監修, 「日本農書全集・第1 」 農山漁村文化協会. 5巻 『農具便利論』」, 農山漁村文化協会‐ 山田・井浦監修, 「日本農書全集・第1 「七飯町史」. (井 上 平治. 本 学 教 授 函 館 校). (阿部 保 志. 北 海 道 大 学 文 学 部 研 究 生). 技術・家庭科学習指導案 日. 時. 生 徒. 平成5年1 2月21日 (火). 七飯町立七飯中学校 3年E 組. 授業者. 域. 領. 領域について. 第2校時. 阿 部 保. 男 子21名. 女 子19名. 計40名. 志. 「技 術 史」. 「技術史」 という領域は 現行の技術・家庭科の学習指導要領には盛り込まれていない分野であ , る. このことは現在, 教育現場で強いて この領域を設定し, 学習領域として扱う必要のないことを 意 味 して い る.. しかしながら, 理工系の大学を中心に 「技術史」 の重要性が唱えられ, 率先して 「技術史」 の講 義 が 行 な わ れ る よ う に な っ て きて いる. こ う した 動 向の 背 景 に は, 現 代 日本 の (技 術) 社 会 の あ り 方 に つ い て 考 えな け れ ばな らな い 時 期 に さ しか か っ て いる と いう こ と が 言 え る で あ ろ う‐ 現 代 日本. の経済繁栄を支えた要因の一つに先端技術, いわゆる 「科学技術」 がある‐ 「科学技術」 は文字通 り, 「科学」 という理論的側面と, 「技術」 という実践的側面が強固に結 び付いて自然をあるいは人 間社会をも改善する力を持ち, またその反面, 環境破壊・公害とい っ た問題を引き起こすように なった. 「科学技術」 は, 多分に西欧世界で形成され, 日本の近代化とともに入ってきたものだが, そ の こ と を 踏 ま え, 日 本 独 自 の 「技 術」 の進 歩 を しっ か り 押 さ え て お か ね ば, 現 在 直 面 して い る m y. 指 導 計 画 本. 時. 種々の技術的問題や, さらには, 未来に踏み込めないのではなかろうか‐ 「江戸時代の農業技術」 ……………1時間 (本時). 案. 本時の目標. 「技術」 の進歩とその社会 (背景) とのかかわりを考える.. 準備. ・ 土 木 工 事 に関 す る O H P シー ト (2 枚) ・ 農具 に 関 す る O H P シー ト (6 枚) ・ 農 書 に関 す る O H P シー ト (1 枚) . ア ンケ ー ト用 紙 (1 枚). ( 3 ) 教授=学習過程. 272.
(8) . 技術科教育における技術史の展開. 段. 階. 学. 習. 活. 指. 動. ● 本 時 の 目標 を 確 認 す る.. 導. 導. 上. の. 留. 意. 点. ● 本 時 の 目標 を 板 書 す る.. - -社会の枠組み 1 社会の枠組み (要求) の中で技術は進歩する1. 入. ●技能と技術の関わり (技能一技術) を考える‐. ●技能と技術の意味 (差異) を説明し, 興味・関心 を 持 た せ る.. ●農業技術の具体的様相を学ぶ (農具・農書).. ● 「米遣い経済」 と呼ばれた江戸期の経済制度であ る石高制の説明をする. ●土木工事と耕地に関する資料を提示して, どのよ うな経過で農業技術進歩の土台ができたかを話す ●農具・農書の具体例をOHPにて提示する‐. ・江戸時代の農業技術を振り返る (まとめ)-. ・本時の内容を総括する‐. ● ア ンケ ー ト回 答 す る.. ● ア ンケ ー トを 実 施 す る‐. ・江戸時代の社会の仕組み (石高制) を考える‐ 展. 整. 開. 理. ●土木技術の発達を学ぶ (大規模な潅漉工事).. 〔本時案 (細案) 〕 段. 階. 学. 習. 活. 動. 指. ●本 時 の 目標 を確 認 する.. 導. 上. の. 留. 意. 点. ● 本 時 の 目 標 を 板 書 す る.. 1社会の枠組み 社会の枠組み (要求) の中で技術は進歩するー の中で技術は進歩する 1 1 ●技能と技術の関わり (技能→技術) を考える‐. ●技能と技術の意味 (差異) を説明し, 興味・関心 を 持 た せ る.. 導. * 「技 能」 と は個 人 的 な 能 力 差 を 伴 う も の と 考 え ら れ る が, 「技 術」 は あ る一 定 の 「決 ま り」 に 従 え ば 大 多 数 の 人 がそ こ に 参 加 で きる と考 え る. 「技能」 → 「技 術」 の 過 程 に は そ う なる よ う に , 広 く 一 般 に 扱 わ れ る(認 識)場 が な け れ ば な ら ない‐. 入. ●江戸時代の社会の仕組み (石高制) を考える.. ●土木技術の発達を学ぶ (大規模な港澱工事)-. 展. 開. ● 「米遣い経済」 と呼ばれた江戸期の経済制度であ る石高制の説明をする‐ *上記の 「場」 は,Z L戸時代の石高制に見られる. この時代の貢租は米の現物納入であり, 当時の人口 の約80%を占める農民がそれを負担していた‐ ●土木工事と耕地に関する資料を提示してどのよう な経過で農業技術進歩の土台ができたかを話す. *土木工事は, 一地域を一 円支配する領主の下で総 合力的に行われるようになる‐ それまで狭い谷津田 での稲作が広い沖積平野 (大河川のそば) に耕地を 造 出 で きる よ う に な っ た. しか も こ れ ら の 工事 は,. ●農業技術の具体的様相を学ぶ (農具・農書).. 戦国時代から江戸初頭の約2 00年間に56件 ( 4 8%) が集中して いる. これにと′ もなって, 江戸時代の耕 地面積は室町時代の約3倍となった. ●農具・農書の具体例をOHPにて提示する. *農書とは端的にいって農業技術書である‐ その内 容は, 作物の栽培から施肥まで多岐にわたっている. 170 元禄時代 ( 0年前後) を境に, 各地に農書が出現 して き た.. 整. 理. ●江戸時代の農業技術を振り返る (まとめ)- ●ア ンケ ー ト回 答 す る.. ●本時の内容を総括する. ● ア ンケ ー トを 実 施 す る. * ア ンケ ー ト用 紙 は 準備 して おく‐. 図1. 技術・家庭科学習指導案. 273.
(9) . . 井上平治・阿部保志 資 料 NQI. 《七飯町の農業について》 - --. -. ‐ー ー. 『ま た東 在 郷 に は 喜 古 内 の 沢 辺 に 濁川 ・ 文月 ・ 大 野 ・ 一 野 渡 ・ 七 重 ・ 上 山 ・銭 亀 沢, こ の 七 力 村 は畑 作 を 一 業 と す‐』. ◆. ミ ~、. 『蝦 夷 草 紙』 よ り. 幕府による積極的な農業政策の開始‐ 峠下では18 0 1 年 に は 1 町 7畝が開発される‐ 官営以外の水田開発で, 藤山が家8軒で7町歩, 峠下が家9軒で10. . .′. 七飯町の農業状況. . .. 町歩. 七重に3町8畝が開発‐ 函館開港‐ 本町は, 入港する外国船の需要に応じ近郊供給農村として発達する (馬鈴薯や野菜の栽培の増加). 治3年. ガルトネル農場が, 七重開墾場と改称され国で運営される.. 強島 -- 鰯. ブドウ園 (ガルトネル跡). 洋式農具. も、き 嶺 滋 ‐ 堵. -- 種牝馬放牧場. 野菜畑. 図2 七飯町の農業について (その1). 吟. をi t. ′ぬ. 二紙 y “ E t . ;鰻. 箱館付近農業の図. ガルトネル農場. 西洋式農業の導入‐ 明治元). Lt:ゞ - ▲〜 ふず り → を ,. . 擬r. h r. . 亀田町(現函館市)で田畑が開かれて, 五穀の栽培がおこなわれる‐. f 、 . い・ . ーー. -農業に関する歴史-.
(10) 技 術 科 教 育 に お け る 技 術 史 の 展 開. . ー キ ざ 一ミニ ー. ぶ. NQ 2. 嘉 一″ キ ー r ′′r. リコー. . . ぎ一鱒二. 継. ま墓 誌. 資 料. て い た 農 具 -. 聞 声} - 明. -. 蓋 .. も璽 - ..xi 4こt. ... . す き. と ;ノイ 君 務 好 ≠ 弘 三,・豪 雪 辱と ;{〉 ;.・ー ;. 草 切 り 機. キ. き. ′一 態{ r. 一. 驚 繋. 縄 な り 機. ﹇ず ポ」鰭. ーご. m m 錦 絵 ‐ヨ. ソ. ”キ. ま 争三 議. 段 r 」 L を 選 ぶ 三 ー さ. み の. し こ. ・‐‐ -. 一. .r 一. 2. -. ー- ≦ 轟 き ぎード ‐ ▲. ミ 1 き. 三 ;; / ‘ 暑 さ 煮 物. ニ な る 才 ?ミ 導 き 足 踏 脱 穀 機. - ふ き 濯 ぎ, 半 . 』 メ キ メ ー. 難 聴 鱗 鰹 三 愛 さぞ′ . バ コ ウ. 毛 と り 機. . . . . 声 ≧ . 船 館 ,’ - 〆-.▼ γ. . . . 二 ぎ. 」 1.. L. ダ、 ソ コ グ、 ラ. 籾 摺 り 図 2. 七 飯 町 の 農 業 に つ い て. ( そ の 2 ). 豆 タ タ キ 275.
(11) . 井上平治・阿部保志 表1 年. 表2. 明治以前の主要用水土木工事 代. この間. 工事件数. 百分率 (%). 8件. 6. 7 8. 明治以前の耕地面積の推移 耕. 代. 年. 9 3 0年ころ 7 81年. 781. 8件. 410年. 11 91. 6. 7 8. 8 6 2千町歩. 9 1‐ I. 9 4 6千町歩. 1 0 0‐ 0. 1 6 3 5千町歩. 1 7 2‐ 8. 2 9 7 0千町歩. 3 1 3. 9. 3 05 0千町歩. 3 2 2‐ 4. (平安中期) 1 4 5 0 年 ころ. 782. 地 面 積. (室町中期) 1600年ころ. (江戸時代初期). 1192 2 75年. 14 6 6. 7件. 5. 9 3. 1 7 2 0 年 ころ. (江戸時代中期). 1467. 14件. 1 2 9年. 15 9 5. 1 1‐ 8 7. 1 8 7 4 年 ころ. (明治初期) 15 9 6 167 2. 77年. 4 2件. 3 5‐ 5 9. 73年. 13件. 1 1‐ 0 2. 1 2 2年. 2 6件. 2 2. 0 3. 118件. 1 0 0‐ 0 0. 大石慎三郎 『江戸時代』 (中公新書) より. 1673 1 74 5 174 6 1867. 大石慎三郎 『江戸時代』 (中公新書) より. 局ぬ. . 日. 額. 醐. . 寸志 誓 賜黙 り ドー . ・書 a; l. か律 . ′. i. グ. 義 . \ 一 」 望 凄# 代 各 L 地 の 鍬の 種 類. 276. 廼.
(12) . 技術科教育における技術史の展開. ‐ ネ テ ゴ メ 叢 も ド まで蚤 き. 蛮野ミ ・ ”. . ・ . ・’. ‘,:さ . , , 鯖 ゴー i, ′. 善導滋 養き \ \ も . ・ ′ 、 ” 1 ′ . ′ 、 ,. ’ ′ 】. 亥. ; ; ‘ ル三きく!;≠ク御 影 ; ’ 一 . ・. J ,詰. 」‘ こきき ▲ 三将;きこ ;塚 影圭 .′汐 ’ 仇 . ● か ‘ . \ 親. ー ン ÷工学を孝も.ふ,秘名. “癌F羽溺撫 全長 … 義 . “ -- , れ . 要三 孝多「鰍ドガからき i湾享モヨ w ‐ . i ,霧多 様謬蔓 も つ. - な ききき 慰 も 翁 も名義 …彰塾弐洋を≧を ▽ ‐せi ” ′ . r二 ▲ 戸 ー 機談ご誓詳÷ :物 方 心 ・ ↑ ; ? 煮 斧愛声式 夕 ー 一 ”ー ~、惨 ぞ勿へ-. さを~′ E」 ‐ 事 家 津 島 , 洋 裁 ・ 詳 ”, , ’ ・γ 7ノ ‐ ‐欝喚 . .・ .〆. .. E ゞ ‐ まき 賑 . . .・ ・ , も 多 望三 が - も一二; - - 一美 せ -′ }-‐彰一砕 z御影;を”多一拶 ミさきうち* , . 図6. 抜きはしと千歯扱. 277.
(13) . . . 井上平治・阿部保志. . ミ ずK i i iだ . . . 」 , . .・ て. ぐ 返す 濁そ } 多 勢 窄 むエ性 漣 . . ニデサ春を ↑ ケー‐ ’ て 特. 一. 穴にん. . ′. , . . ′. 好 評〆. 、十 rLf1: 〜 j T, IL ′. , き. 州. 1・ ・. ー - ‘ 、 - ′. ‐ ・. ふりへ そこ. . ネソ ・ キヤ キ( k {せ Tう高‐ 上、. 必 ず? \丁にAI 眼、 ?スチ\ 漆 浄 ふて 差云 ‐ ウナリ, ヤ テ の.. 了ぷミ ー ( 泥のすえて い 」ハ Lすま汰 ・ ノ入ふ. 水かけ桶. 図7. . 1. LF L.もぎ-y〉-・ .. 日Z. , 続. 浄さ ヤナー つれ+〜 やも拭‘ < て こー ・. . 刺 す五鱗rー、. へ . ・,小. . ,, 、 , ,. キ 裂き瀞 ト 雲聾酵器. 離 便 るくるモ ア付 ≧ も 謡ふL 雨柵 ス pr引 壱 楓心鮫 ふ悲況 ′ セれ1エー ジ. . RU 7十 .
(14) 技術科教育における技術史の展開. 誓キー 喜 薄雲驚 踏車. 9 7 2.
(15) . . 井上平治・阿部保志. ・. l. ′ r + ′” ・ - ・” 縛 鞘三戸. 、 ‐ ゞハーバー・. . ゲ. ー ーニ ー. ; 霧 “ デー差g7詠も ,雲 , . . . . 一鳩 . ;, ・1 ′ ; ~ 三: k 事 ; が博 沙 r ・ . ≦ ”.・ 、一 一 ユ ニ … ヒ ユ ーゼー . 「・ 畔 樽 中 〆. ム ーヤ 二 { . . . 二 ′ . ▼ ・ 、 ▼ モ キ ′ .; し ‐“ - , t - ◆ ー r ー r ′ 十 e . メ ‐ } ▼ ヤ サ ・ ヘ ., 雨 皇 ; 期 騒 ‐ ‐ -. ‐, . - - .. 弟 八巻. 第九奉 謝祁. 1卵i第.第. . 巻巻 た“ . か. ず. . . . 便利論一. 1 . . - 霊・コ 卵二 言 聾翠 ‐ .聖一 、・ .. “ r r ・ ’ L{ . ぶ 霧圭 , r 烏義三. ’. -三備 三斗 ・,÷ 1 獅 一三 . , , . ,【 ‘ 、 * 、 ′ 」 / ≧ ‘ ふ 覇,キー ’. ず繋 騒ぎ ご . 罰 「 .輝き. 図9 農業全書と農具便利論. 280. ‘ t r. .
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