「犬」に関することわざ(2) : 「犬」をどう捉えてきたか
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(2) 『札幌国語研究』第 25 号. 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). 「犬」に関することわざ(2) ――「犬」をどう捉えてきたか――. 馬. 場. 俊. 臣. 1 はじめに 本稿は、馬場(2019) 「 「犬」に関することわざ(1)」の続稿である。前稿では、「犬」に関す る日本のことわざ1のうち、犬の「(1)全体的特徴」「(2)部分的特徴」に関わることわざを取り 上げ、 「犬」に対するどのような捉え方が表されているかを示した。また、 「 「犬」に関する世界の ことわざ」も取り上げた。本稿では、犬の「行動の特徴」に関わることわざを主に取り上げ、 「犬」 に対するどのような捉え方が表されているかを示す。 なお、以下のことわざの後の()内に示した解釈は『故事俗信ことわざ大辞典. 第二版』 (北村. (編)2012)に基づいている。関連する情報も随時補う。. 2 犬に関する日本のことわざ (1) 行動の特徴 (ア)吠える 《臆病》 《威張る》 《騒がしい・気が高ぶっている》 ①犬の遠吠え(臆病者が陰で虚勢を張り、人の悪口を言うこと。) ②犬の逃げ吠え(臆病な犬が逃げながら吠えること。論争や口論に負けてもなお、へらず口をた たきながら逃げて行くこと。 ) 弱い犬ほどよく吠えることに関しては、「弱いイヌほどよく吠えるというのは、本当の話です。 強いイヌは、自分に自信を持っているので、わざわざ虚勢を張った威しをかけなくても、その存 在だけで十分に相手をビビらせることを知っているからです。実際、闘犬は強い者ほど吠えない ものなのです。一方、小型の室内犬や庭先につながれっぱなしの犬のような、箱入り息子ほどよ く吠えます。彼らは自分に自信がないので、それを相手に気付かれないようにするために、先手 必勝で吠えて威しをかけている…というわけです。 」(佐草 1995:27)とのことである。 なお、 「もともとイヌは、遠ぼえしかできませんでした。それが、いつからか「ワンワン」とほ えたり、 「クーンクーン」と泣いたりするようになりました。(中略)オオカミも野生の時には遠 ぼえしかしませんが、人間の手元でイヌと同居させると、やがて「ワンワン」というほえ方を覚 えると言います。逆に、イヌを長い間、野生の状態におくと、やがて遠ぼえだけしかしなくなる 1. 『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』(北村(編)2012)に漢籍類及び西洋での出典が示されていない表現を日 本のことわざとみなす(俗信・俗説等も除く)。. 27.
(3) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). という報告があります。 」 (小方 1994:85-86)とのことである。. ③門の犬/我が門にて吠えぬ犬無し/所で吠えぬ犬は無い(どんな弱い犬でも自分の家の前では 吠えたてる。弱い者も自分の家では威張ること。) (再掲) ④太鼓念仏に犬のまぜったよう(踊り念仏の騒がしい中に犬が紛れ込んで吠えたてているような やかましさだ。 ) ⑤吠える犬にけしかける(勢いに乗っている者や気の高ぶっている者をそそのかし、いっそう煽 り立てること。 ). ⑥二階へ上がって犬に吠えられるよう/親船に乗って子犬に吠えられるよう(痛くも痒くもない ようす。何を言われても気にならない。) 犬は高い所が苦手であることに関しては、 「もともと、イヌ科の動物はネコ科動物と違い、高い ところが苦手です。 (中略)昔の二階建て住宅には、今のようなゆるやかな傾斜がついて階段はあ りませんでした。はしご段状態のものを使ったか、あるいはかなり傾斜のキツイ階段を二階への 通路としていたために、高いところが苦手なイヌは行く手を阻まれたことでしょう。 (中略)高い ところが苦手なイヌも、階段の傾斜具体、あるいは慣れによって日常的に上がり下りすることが できるようになります。 (中略)普通に歩くのと、階段を昇るのとでは、力の入れ方が異なります。 (中略)特に階段を下りることはイヌにとって、恐怖以外のなにものでもありません。人間がは って、頭を前にして階段を下りる姿を想像してみてください。立って下りるよりも数倍恐怖心を 覚えるはずです。 (中略)イヌが二階へ上がらないという話と同様、イヌが木に登るのは非常にま れなことです。 」 (小方 1997:39-42)とのことである。. ⑦影も無いのに犬は吠えぬ(犬だって何の気配もないのに吠えたりはしない。何の根拠もないの に噂は立ったりしない。 ). ちなみに、犬の鳴き声は、吠え声(ワンワン)、鼻声(クンクン、ヒンヒン)、喉声(アーアー)、 唸り声(ウーッ) 、高啼き(キャンキャン) 、遠吠え(オーオー)の 6 種類に大別することができ、 それぞれ犬の気持ちや状態を表している(平岩 1999:296-297)とのことである。 なお、 犬が吠えることを取り上げた各地方の俗信・俗説も多い。遠吠えは不吉・凶兆とされ、 「犬が遠吠えすると不吉」 「犬の岡吠え2は不幸の知らせ」 「犬が遠吠えすると女が死ぬ」などがあ る。 「焦げ飯を食うと婚礼のとき犬に吠えられる」「杓子を嘗めるとお嫁に行くとき犬に吠えられ る」のように「吠えられる」ことによる行動の戒め・禁止を表すものもある。また、犬に吠えら れた時に追い払うための呪いとして、 「犬に吠えられたとき、虎という字を手に書いて握っていれ ば吠えなくなる」 「戌亥子丑寅」 ( 「戌、亥、子、丑、寅」と唱えながら五本の指を折る。十二支の. 2. 犬が夜更けに悲しげに長吠えすること。. 28.
(4) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). 「いぬ、い、ね」に「犬往ね」をかけたもの。)などがある。. (イ)食べる 〔犬も食わぬ〕 《嫌がられる・相手にされない・くだらない》 ①犬も食わぬ/犬さえ食わぬ(何でも食べるはずの犬でさえ食べない。非常に嫌がられる。人か ら全く相手にされない。 ) ②夫婦喧嘩は犬も食わない(夫婦間のいさかいはよくあることで、すぐに和解することが多いか ら、他人が仲裁などするものではない。また、仲裁するのはばかげている。 ) ③夫婦喧嘩と夏の餅は犬も食わぬ(夏の餅は腐りやすく、夫婦げんかはばかばかしいので、とも に犬でさえ見向きもしない。 ) ④三月平目犬も食わぬ(陰暦三月のひらめは、犬も食べないほどまずい。) ⑤夏の蛤犬も食わぬ(夏の蛤はまずくて食べられない。) ⑥夏坊主犬も食わず(夏は農家が忙しくて供養などしていられず、坊主はひまである。) 犬の食餌に関しては、 「われわれと生活をともにしている現代のイヌの場合、その食餌内容の幅 は非常に大きく、とくに個々のイヌの食餌は飼主に依存するところがきわめて大であるが、ひと ことでいえば、イヌはなんでも食べる雑食性動物ということができよう。」 (猪熊 2001:41)、 「飼 イヌのためにせっかくめずらしい食物や栄養化の高い食物を与えても、匂いを嗅いだだけで口に もされなかったということがよくある。イヌの食物の好き嫌いは、生まれつきの要因と後天的な 環境要因によって決定されるようだ。 」 (猪熊 2001:63)とのことである。 犬の味覚に関しては、 「犬では砂糖に反応する味蕾の数がもっとも多く、これが彼らが甘いもの を好む理由である。 (中略)2 番目に多く見られるのは酸に対する受容器である。雑食性の犬では、 果物などに含まれる消化のよいエネルギー源である糖や他の甘味物質を感知するすぐれた能力を 保持している。 」 (林(監修)2000:52)とのことである。. 〔糞は犬も食わぬ〕 《嫌われる》 ①質屋のした糞は犬も食わぬ(質屋は犬にさえ嫌われる因業な商売だ。) ②自慢の糞は犬も食わぬ(自慢する者は周囲から嫌われる。) ③犬も頼めば糞食わず(いつもなら平気でやっているようなことも、頼むとなかなか承諾してく れない。 ) 犬の食糞に関しては、 「犬が自分や他の動物の糞を食べる食糞は、子犬や若い犬によく見られる ものでめずらしくない。自然界においてもオオカミなどの野生のイヌ科動物では、ときには食糞 がみられるため、犬の食糞は必ずしも異常行動とはいえないのである。 (中略)食糞のメカニズム は解明されておらず、疾患との関連も不明の部分が多いが、成犬で突然食糞が始まったり長期間 続いている場合には、膵臓や肝臓を含め消化器系の疾患がないか、検査を受けることが望ましい。」 (林(監修)2000:67) 、 「一般には『食糞症』と呼ばれており、れっきとした病気の症状でもあ るのです。主な原因としては、寄生虫などが原因で消化器障害が起こり、普通腸管で作られるは 29.
(5) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). ずのビタミン類(ビタミンBやK等)が不足し、それを補うために糞中からそれを摂取している 場合が考えられます。また、餌に常にビタミンや無機質が不足している…といった食事面に問題 があったり、運動不足や欲求不満といった精神的なストレスを感じている時にもこうした食糞症 は見られるようになります。 」 (佐草 1995:24)とのことである。また、 「イヌが小石や土、あるい は自分の糞便など、通常では食べないようなものを食べてしまう異食症という状態が知られてい る。発育期の子イヌは好奇心からなんでも口にしてしまう。また、異物を食べた場合の飼主の驚 きや反応がおもしろくて、異食を繰り返す、つまり一種の学習ができあがってしまったことによ る異食症もある(フォーグル 1996a3) 。しかし、膵臓から分泌される消化酵素が不足するために生 じる栄養素の消化吸収不良(膵外分泌不全)、または腸管内寄生虫感染症などで十分な栄養分が体 内に吸収されないとき、純粋な栄養の不足、身体の飢餓状態の一症状として異食、とくに食糞が みられることがある(Williams 19954) 。」(猪熊 2001:116)とのことである。 なお、母犬は自分の子犬の糞を食べることがあるそうである。 「生まれたばかりの子犬は自力で 排泄ができないので、母犬が子犬の陰部をなめて刺激し、排泄をおこさせる。このとき母犬は子 犬の排泄物を食べてしまう。 」 (林(監修)2000:57) 「母イヌが自分の子イヌの糞を食べる. これ. は特に異常な行動ではなく、身の回りをキレイにして、匂いを残さないようにしようという気持 ちから行う行為と考えられます。子イヌは、どこでもしたい時にすぐ糞をしてしまいます。自分 たちの住みかの近くでも、縄張り内でもお構いなしです。そのままにしておけば、子イヌの不始 末から敵に存在を知られ、危険が及ぶかもしれません。そこで、母親は家族の安全を確保するた めに、自ら子イヌの糞を食べ、匂い消しをしているのではないかと考えられます。」(小方 1994: 132). ④犬の糞説教(他人の教説を盗用して、あたかも自分が考えたことのように言うこと。) 「犬の糞説教」に関しては、 「とくに、平安時代の犬は、よく人糞を食べていたようである。 『宇 治拾遺物語』におさめられた「仲胤僧都地主権現説法の事」には「犬の糞説教」という言葉が出 てくる。仲胤僧都が、比叡山大衆の日吉二宮での法華経供養に招かれて説教をしたさい、その聴 衆から、以前、二宮での千日講で、ある僧がまったく同じ説教をしたのを聞いた、と非難された。 すると、仲胤僧都はからからと笑って、 「これはかくかくのとき、自分がしたりし句なり」といい、 さらに、 「大方はこのごろの説教をば、犬の糞説教とはいうぞ。犬は人の糞を食いて、糞をまるな り。仲胤の説法をとって、このごろの説教師はすれば、犬の糞説教というなり」とこたえたとい う。犬が人糞を食うことは、ごく普通のことであった。」(谷口 2012:46)とのことである。. 3. フォーグル, B.(1996a)『ドッグズ・マインド』(山崎恵子(訳)、増井光子(監修))八坂書房(Fogle, B. 1990. The Dog's Mind. Stephen Green, London.) 4 Williams, D. A.1995. Exocrine pancreatic disease. In: (S. J. Ettinger and E. C. Feldman eds.) Textbook of Veterinary Internal Medicine. 4th ed. pp.1372-1392. W. B. Saunders, Philadelphia.. 30.
(6) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). 〔その他〕 ①犬にも食わせず棚にも置かず(気前よく犬に与えたりもせず、だからといって棚にのせて大切 にしまっておくわけでもない。けちな人のやり方。 ) ②犬に肴の番(番をさせる者が不適当である。) ③糟食うた犬は打たれず笊嘗めた犬が打たれる(悪事の中心になったものは逃れ、手下になった 小物が責められる。また、後手にまわった間抜けな弱いものが、かえって責められる。) ④油樽に犬が付く(樽の中の油をねらって犬が集まる。利得のあるところには人が群がり集まる。) ⑤飢えたる犬は棒を恐れず(困窮している者は危険を冒すことを恐れない。 ). (ウ)嚙みつく 《危険・危害が及ぶ》 ①飼い犬に手を嚙まれる(日ごろ親切にしてやっていた相手から裏切られる。) ②尾を振る犬も嚙むことあり(ふだんおとなしいものでも、時によっては意外な反抗をすること がある。 ) ③小村の犬は人を嚙む(世間慣れしていない者は、すぐひがんだり怒ったりしやすい。) ④殿の犬には食われ損(身分の高い人の飼い犬に嚙まれても、怒ることもできず、ただあきらめ るよりほかない。権力者や主君には、どんなことをされても、ただ泣き寝入りするよりほかな い。 ) ⑤盗人が犬に食われた(盗人が番犬に嚙みつかれても苦情を言うことができない。自分が正しい ことをしていなければ、他より害を受けても訴えることはできない。 ) ⑥嚙み合う犬は呼び難し(嚙み合って争っている犬は呼んでも聞こえない。何かに夢中になって いる者は他から言われたことが耳に入らない。) ⑦食わぬ犬をけしかける(やる気のない者をそそのかすこと。) 飼犬が飼主を嚙むことに関しては、 「実際には、飼犬に手をかまれることはよくある。しかしそ の八〇パーセントは、犬の痛いところにさわったり、エサを食べているときにそれを妨げたり、 発情期で気が荒くなっているのに手を出したとか、見知らぬ犬のあたまへ手をやったとか――そ ういった犬の扱い方をまちがえた場合が多い。」(實吉 1988:129)とのことである。 犬の攻撃行動(嚙むこと)に関しては、 「犬の攻撃行動は、うなる・歯をむく・かむの 3 種類が ある。攻撃のおこるときには、同時に独特の表情や姿勢などがみられるのが普通である。犬の攻 撃はさまざまな背景や原因で起こるものだが、一般家庭で飼われている犬の示す攻撃は、場面や 状況、背景などをもとに少なくとも 10 とおり以上もの異なるタイプに分けられている。」 (林(監 修)2000:61)とのことであり、その代表的なものとして、犬が自分の優位性を侵すような行為 を受けた場合の「優位性攻撃」 、犬がなわばりとみなしている居住の場によその人間や動物が近づ いてきた場合の「なわばり性攻撃」 、犬が相手に対し恐れを感じていてしかも逃げられない状況で の「恐れによる攻撃」 、痛みを感じた時に反射的にかむ「痛みによる攻撃または防御性攻撃」、雄 の成犬が他の性成熟に達している雄犬にかぎって向ける攻撃である「雄犬間の攻撃」、遊びのつも りで犬が人間に向かってうなったり歯を立てたりする(特に子犬や生後 1 年くらいまでの若い犬 31.
(7) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). に見られる) 「遊び攻撃」が挙げられる(林(監修)2000:61-63)とのことである。 ちなみに、犬に嚙まれた際に心配される狂犬病に関しては、「日本では、いまから 40 年以上も 前(1957 年)に根絶されて以来、狂犬病の発生がなく、いまやほとんどの日本人には、名前だけ しか知られていない病気となっている(日本獣医公衆衛生史編集委員会 19915)。しかし、世界を 見回すと、過去 10 年以上狂犬病の発生がない国(日本、オーストラリア、ニュージーランド、英 国、アイルランドなど)を数えたほうが早いくらいに広く分布する病気である。」 (猪熊 2001:14 1)とのことである。. (エ)狩りをする 《鷹との上下》 ①犬も朋輩鷹も朋輩(狩猟用の犬と鷹とは、その受ける待遇は違っていても、同じ主人を持つ仲 間である。役目や地位に違いがあっても、同じ主人を持てば同僚であることに変わりはない。) ②犬が追い出した鶉を鷹がとる/犬、骨折って鷹にとられる(苦労の結果を横取りされて、その 甲斐がない。苦労して成果を上げても、手柄は上位の者に奪われてしまう。 ) ③犬と鷹(上と下。 ) ④犬一代に狸一匹(犬が一生の間に狸のような大きな獲物をとるのは容易なことではない。遭遇 しにくいこと、珍しいこと。 ) 鷹狩の犬に関しては、 「猛禽類をつかって行なう鷹狩は、世界中で行なわれてきた狩猟法であり、 日本の鷹狩(鷹野・放鷹ともいう)は、現在ではまったくみられなくなったが、かつてはさかん に行なわれていた。 (中略)おそくとも古墳時代には、鷹狩という狩猟法が朝鮮半島の百済を経て もたらされたらしい。六~七世紀の鷹や鷹匠の埴輪も数点出土している。また、埴輪のなかには 首輪や鈴をつけた犬のものがあるが、それらはおそらく鷹狩用の犬なのであろう。」(谷口 2012: 88) 、 「鷹狩には、藪にひそんだ鳥獣を嗅ぎ出し、狩り出す役として、犬もつかわれる。鷹狩につ かわれる犬を鷹犬というが、古くは鷹狩自体を鷹犬とよんでいるケースも多く、鷹と犬とで行な う狩猟、との認識があったのだろう。 」 (谷口 2012:90)、「鷹狩用の犬、すなわち鷹犬は、当然、 優秀な犬が求められたであろう。実際、鷹狩がさかんに行なわれた時代には、権力者は優秀な犬 を得ようと血眼になった。 (中略)権力者が優秀な犬を求めたという点については、一般の猟犬も 同じであったが、鷹犬はおそらく、より高等な訓練を必要としたであろう。そのため、鷹犬は「御 犬」とよばれて大切にされた。 」 (谷口 2012:93)とのことである。 狩りで犬が獲物を食べてしまわない理由に関しては、「ものを運ぶだけで瞬間的満足感の得ら れる、このイヌの習性を上手に伸ばし、利用したのが、猟犬です。猟犬は、獲物をしとめると、 食いちぎったり食べたりしないで、まず飼い主のところに持ち帰ってきます。そして、どうだ、 とばかりにそれを差し出します。飼い主に「よくやった、えらいぞ!」と頭をなでられることで、 イヌの自尊心は満たされます。こうして、猟犬と猟師とのコミュニケーションが保たれているの です。 」 (小方 1994:23-24)とのことである。. 5. 日本獣医公衆衛生史編集委員会(1991)『日本獣医公衆衛生史』日本食品衛生協会. 32.
(8) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). なお、犬の走る速さに関しては、 「多くの犬種のなかで、グレーハウンドのスピードは抜きんで ている。世界最速のチーターは 300m を約 15.4 秒で走る(時速約 72km)。グレーハウンドは同じ 距離を走るのに約 16 秒かかり、時速は約 67km である。長距離の耐久力では、フォックス・ハウ ンドが最速で、時速 50km のスピードで数 km 走る。総じて犬はウマと並んで、抜群の運動能力を 有している。 」 (林(監修)2000:22)とのことである。. (オ)歩く 《幸運、不運》 ①犬も歩けば棒に当たる(思いがけない幸運に遭うこともある。才能のない者や身分の低い者で も、正直に励んでいるうちには報われることがある。また、物事を積極的に行う者は、それだ け災難に遭うことも多い。 ) このことわざの解釈に関しては、現在は肯定(幸運)と否定(不運)の二つの解釈があること わざとして知られているが、以前は必ずしもそうではなかったという。 「江戸期は文例では肯定の 色合いの方が強くあったものの、絵の作例では否定派も負けてない。そして明治以降はどちらが 強いとも言えない」 (時田 2009:77)とのことである。解釈の変遷に関しては、時田 2009(:75 -77)に詳しい。. (カ)尾を振る 《従順・愛想》 ①尾を振る犬は叩かれず(従順な者は人から害を加えられることはない。) ②犬も人を見れば尾を振る(犬でさえ、人を見れば尾を振って愛敬を見せる。人もあまり不愛想 で愛敬のないのはよくない。 ) 犬が尾を振ることに関しては、 「オオカミが友好的な気分を表現するとき、あるいはたいへん気 分が高まって興奮しているときには尾が振られる。このとき、表情や姿勢などほかの要素はすべ てリラックスしている(ツィーメン 19956)。この尾振り(tail-wagging)はイヌにもみられるが、 イヌではより種々の感情と関連しているようである(Fox and Bekoff 19757)。緩やかで自由な動 きは友好性を、尻全体を振る尾振りは服従を、また、下げた尾をぎこちなく振るのは不安や神経 質な感情を表現している。 」 (猪熊 2001:86-87)とのことである。. (キ)尾をすぼめる 《服従・恐れ》 ①旅の犬が尾をすぼめる(犬は見知らぬ土地では、自分の家の近所で吠え立てるほどの元気がな い。外に出るといくじがないが、内では強がる。) 尾をすぼめることに関しては、 「うつむいて耳を寝せ、尾を脚の間に巻き込んだ」姿勢は「強い 服従と恐れの姿勢」 (林(監修)2000:58)とのことである。また、「イヌの尻尾の部分は、様々. 6. ツィーメン,E.(1995)『オオカミ――その行動、生態、神話』(今泉みね子(訳))白水社(Zimen, E. 19 90. Der Wolf: Verhalten, Okologie und Mythos. Knesebeck & Schuler, Munchen.) 7 Fox, M. W. and M. Bekoff. 1975. The behaviour of dogs. In: (E. S. E. Hafez ed.) The Behaviour of Domestic Animals. 3rd ed. pp.370-409. Bailliere Tindall, London.. 33.
(9) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). な神経が集中している大事なところです。その上、非常にデリケートにできており、引っ張られ ただけで脱臼することもあります。脱臼すると尻尾は動かなくなります。神経がたくさん集約さ れている尻尾が動かなくなると、その障害は胴体や足にまで及びます。腰の神経がやられて排尿 障害を起こしたり、足が立たなくなることもあります。そのため、敵に背中を見せて逃げ出さざ るをえないような弱いイヌは、後方から敵に襲われることを考えて、大事な尻尾を攻撃されない よう、あらかじめ両足の間に尻尾をはさんで保護しようとする行動をとります。体勢は低く、は いつくばるようです。 」 (小方 1994:59)とのことである。. (ク)かけ尿(ばり)をする. 《場所を選ばない》. ①犬のかけ尿(犬が走りながら所々で少しずつして行く小便。所構わずすること、何でも手当た り次第に手をつけて働くこと。 ) 犬の尿に関しては、尿量は 20~100ml/kg 体重/日であり、ウマ(3~18ml/kg 体重/日)、ブタ(5 ~30ml/kg 体重/日) 、ヒト(8.6~28.6ml/kg 体重/日)に比べて、「犬の 1 日当たりの尿量(ml/k g・体重/日)は概して多く、どの動物種より高い数字を示している。」(林(監修)2000:34-35) とのことである。また、 「マーキングのための排尿も雄犬の特徴である。」(林(監修)2000:35) とのことである。 マーキングに関しては、 「犬が性成熟を迎えるのは普通生後 6 ヵ月~10 ヵ月に達したころであ るが、小型犬は大型犬に比べて早熟である。雄犬では片脚をあげた独特の姿勢で排尿するように なると性成熟したことになる。この尿のなかに含まれる生化学物質により、自分のなわばりを示 したり、発情期の雌犬やライバルの雄犬に自分の存在を知らせたりする。これを尿マーキングと よんでいる。ただし雄犬が片脚をあげて排尿するとき、どれがマーキングでどれが単なる排泄の ための排尿なのかの区別がしにくいことも多い。通常の排尿に比べて極端に少量の尿をあちこち の直立した物質に向かつて頻繁にかけるような場合は、尿マーキングである可能性が高い。 (中略) この尿のなかの特有の生化学物質を他の犬がかぐことにより、排尿した犬の性別や性ホルモンの 状態などを知ることができるといわれている。」(林(監修)2000:56)、「特にオスイヌは、排尿 の際に片足を上げ、できるだけ高いところに放尿しようと努力する(カケション)。排尿の位置が 高ければ高いほど、そのイヌが大きいことを表わすからである。」 (中川 1988:29) 、 「元気なオス イヌは、後ろ足をできるだけ高く上げてオシッコをします。足を高く上げれば上げるほど、オシ ッコは高いところにかかりますから、後から来る他のイヌに、オシッコの二度かけをされて、自 分の匂いをかき消される心配がないからです。」(小方 1994:120)、「排尿後を観察していると、 イヌが四肢で勢いよく土をかいて跳ね飛ばすことがある。これは尿の匂いを分散させる効果があ るのと同時に、ひっかきマークを地面に残すことにより、ほかの個体に対して視覚に訴える意味 もあるようだ(Bekoff 19798) 。糞もまた、なわばりの誇示のために用いられる。」 (猪熊 2001:8 9)とのことである。 8. Bekoff, M. 1979. Scent-marking by free ranging domestic dogs: olfactory and visual components.. Biology of Behaviour 4: 123-129.. 34.
(10) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). なお、犬が足を高く上げることができることについては、 「ウシなど大動物の場合、股関節は球 関節であるにもかかわらず、寛骨臼内の靭帯によって制約され可動範囲は広くない。ところが、 犬ではこの靭帯がないので運動範囲が広く可動性にすぐれている。このしくみにより、犬は排尿 するときにうしろ足をピンと上げたり、うしろ足で頭をかくこともできる。 」(林(監修)2000: 21)とのことである。 また、臭いに関しては、 「わたしたち人間は感知できないためふだんあまり意識していないが、 犬は相手を認識する際に、においをもっとも重要な手がかりの一つとして利用している。オオカ ミ同様、犬では排便のたびに、肛門の両脇にある肛門嚢の開口部から、肛門腺でつくられた分泌 物が少量出される。この分泌物のにおいにより、犬の健康状態や年齢、ホルモン状態などさまざ まな情報が近くを通りかかった犬どうしの間でやりとりされると考えられている。」(林(監修) 2000:58)とのことである。犬の嗅覚に関しては、 「嗅覚の感度は鼻腔の構造に基づいているが、 犬の鼻腔はたぐいまれな構造をもつ。ヒトの数十倍に及ぶ嗅上皮面積の広さ、数層に配列した嗅 細胞のほか、血管系の発達もみのがせない。このすぐれた嗅覚により、犬はさまざまな分野で抜 群の活躍をしている。 」 (林(監修)2000:46)、「犬はよく発達した嗅覚をもっていると同時に、 容易に訓練することができる。この能力が、狩猟、追跡あるいは探索に使われている。犬の追跡 能力は汗に含まれる揮発性脂肪酸を感知する能力に依存している。犬は臭気によってはヒトの 1 億倍まで感知できる。 」 (林(監修)2000:46-47)とのことである。また、 「イヌ自身に「かごう」 という意志がない場合、匂いは正確にとらえられない」 「イヌも自分にとってかぎわけが必要と思 われる匂いにしか反応しない」 (小方 1994:112-113)とのことである。. (ケ)ぐるぐる回る 《不自由・不運、報われない》 ①悪しき人に順って避けざれば、繫げる犬の柱をめぐるが如し/繫ぐ犬の柱をめぐる如し(悪い 人にしたがって離れないと、よくない事が身にふりかかる。柱に繫がれた犬がぐるぐる廻るう ちに自身の首を締めるようなものである。) ②犬の尾を食うて回る(犬が自分のしっぽをくわえようとしてもくわえられずに、ぐるぐる回る。 いくらあせっても思うようにできない。苦労が多いわりには報われることが少ない。) 犬がぐるぐる回ることに関しては、 「どんな時にイヌは回るのでしょうか。ひとつは、うれしい 時です。 (中略)イヌ自身もふざけ半分おもしろ半分で回っています。また、眠る前に二~三回ク ルクル回って座り込み、その後横たわることがあります。これは、眠る場所を平らにするために やっているしぐさで、野生時代の名残だと言われています。そして、このことわざ9のように、柱 などにつながれて自由になりたくてもなれない時に、せめてもの抵抗として、柱の周りをクルク ル回ります。 (中略)なかには病的な原因があって回っていることがあります。第一に、平衡感覚 をつかさどる三半規管が障害を受けたり、小脳に障害が起こると、ある日、突然、クルクル回り 出すことがあります。第二に、老化によるボケ症状のひとつとして、クルクル回る行動を示すこ. 9. 「繫ぐ犬の柱をめぐる如し」. 35.
(11) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). とがあります。 」 (小方 1994:35-36)とのことである。また、 「ひとり遊びで尻尾を追いかけ回し ているのならよいのですが、尻尾になんらかの病体があり、それを排除しようとして尻尾を追い かけ、それがクルクル回るという動きになっていることがあります。原因のひとつは、ノミです。 イヌはノミに刺されたかゆさから、尻尾をくわえようとして回ります。実際には尻尾ではなく、 腰の辺りにノミが寄生している場合がほとんどですが、イヌにとって一番かみやすいところであ る尻尾を追いかけてしまうのです。もうひとつは、尻尾に脂肪がたまり、そこがかゆくなってか もうとしている場合です。尻尾は、非常に過敏なところで、炎症を起こしやすい場所でもありま す。 」 (小方 1994:36-38)とのことである。 自分の尾を追って回り続ける尾追い行動に関しては、「発作様の異常行動の一種」(林(監修) 2000:69)であり、 (異常行動の一つである)「常同行動は、特定の行動がまったく同じパターン で何十回、ときには何百回、何千回というおびただしい回数くりかえされるというみかけの異常 性が特徴である。こうした行動は脳や神経の疾患や外傷が原因でおこることもあるが、真の常同 行動では、そうした異常がない、あるいは検査をしてもみつからないのにこのような行動が見ら れる。 」 (林(監修)2000:69)とのことである。なお、こうした常同行動は動物園で飼育されて いるクマやトラなどの動物にも見られるそうである(浅場ほか 2014:156) 。. (コ)蚤を嚙む 《困難》 ①犬の蚤の嚙み当て/犬の歯に嚙まるる蚤/犬の歯に蚤(ごくまれなこと。まぐれあたり。また、 当てずっぽうで不確かなこと。 ) このことわざは、犬が蚤を嚙むことはなかなかできないところから言ったことわざであるが、 「現代は死語となっているものだが、江戸前期から江戸期全般にわたって比較的よく見られたこ とわざであった。 」 (時田 2009:74)とのことである。 犬の蚤に関しては、 「犬によく見られる外部寄生虫はマダニとノミである。 」「ノミ(イヌノミ、 ネコノミ) 雄は 1.2~1.8 ㎜、雌は 1.6~2.0 ㎜で全世界に分布する。」(林(監修)2000:86-8 7) 、 「ノミの体長は二~三ミリです。イヌの毛の中をすばやく走り回るのに最適な、偏平なプロポ ーションをしています。イヌがかみあてようとしても、それにひっかかるようなのろまではあり ません。 (中略)本来ならば、ネコノミはネコに、イヌノミはイヌに、ヒトノミはヒトに寄生する ものですが、ネコノミに限っては寄生する対象をより好みしません。そのため、ネコノミはイヌ や人間にもつきます。 」 (小方 1994:43-44)、「ノミが毛の中でゴソゴソ動くことで、イヌは自分 の体にノミがいることを知り、むずがゆさを感じて、なんとか歯でかみついてノミを取り除こう とします。ところが、前に述べた通り、イヌの歯はすきっ歯で、ノミはすばしっこいため、イヌ がノミをかみあてるのは、まず不可能に近い作業です。その上、ノミは、イヌの歯が届かない首 の回りや下肢部などの、毛の深いところに住みつきます。」 (小方 1994:47-48)とのことである。. (サ)その他の行動 ①犬の川端歩き(犬が食べ物をあさりながら川端を歩いても何も得られないように、何かを食べ 36.
(12) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). たいと思いながらも、何も食べられずに素通りして歩いていくこと。金銭がなくて店先をぶら つくこと。 ) 犬が川端を歩く事に関しては、 「確かにイヌを観察していると川ならば川縁、海なら海岸線の水 際を好んで歩く習性があることに気付くはずです。その理由としては単純に、水辺は砂や土がし まっていて歩きやすい…といった物理的な要因が考えられます。しかしそれ以外にも、川端歩き には彼らにとって重要な理由があるのです。というのは、水辺には様々な動物たちが水を飲んだ り餌を取るためにやって来るからです。中でも絶えず水で洗われる岸辺は、動物たちの痕跡がは っきりと残り易い環境にあります。 (中略)刻まれた足跡、食べ跡、糞のようすなどから、いつご ろどんな動物が何をしにこの川辺に立ち寄ったのか?. この一帯にはどんな種類の動物が生息し. ているのか? といったような情報まで一挙に確認できてしまうのです。 (中略)それからもうひ とつ、イヌたちが川端歩きを止められないとっておきの理由があります。それは、川辺や海岸線 の波打ち際には、生き物の死体や腐敗した植物や果実、いろいろなゴミをはじめ、様々な興味深 い物が漂着しているからです。こうした漂着物は、イヌたちの食糧になったり、好奇心を満たし てくれるおもちゃになったりするわけですから、彼らにとって川端歩きは興味の尽きない宝探し ゲームになっているのです。そうは言っても野良犬の多かった昔は、イヌたちの食糧事情も逼迫 していたでしょうから、遊びやハンティングのための情報収集なんていうきれいごとよりは、例 え腐ったものでもいいから打ち上げられたゴミの中に少しでも食べられるものは混ざってないか …と探し歩き、食べられそうなものならなんでも食べていた…という、ことわざ通りの解釈をす るのが、一番正しかったのかもしれません。特に治安の悪かった奈良・室町時代あたりは、川に 流れ着く人の溺死体も多かったと想像できますから、そうした漂着腐乱死体が野良犬の重要な食 糧源になっていたとしても何ら不思議ではなさそうです。」 (佐草 1995:28-29)とのことである。. ②犬の子の徒(いたずら/ただ)歩き(当てもなくむやみに奔走するばかりで効果のないこと。 子犬がやたらにじゃれて走り回ること。) 子犬がじゃれて走り回ることに関しては、 「この時期10に盛んになる子犬どうしの攻撃的な遊び は、社会化の重要な機会と考えられている。遊びのなかでの追いかけっこやとっくみあい、かみ つきあいの際には、優位や服従を示す行動がみられることから、優位性行動をはじめ、社会性行 動の正常な発遠のためには、こうした子犬どうしの接触の経験が必須のものであると考えられて いる。社会化期には、人間に対する社会化も起こる。この時期にまったくヒトと接触させないま ま社会化期を過ごしてしまうと、その後はもはやヒトに慣らすことは生涯にわたってほとんど不 可能になってしまう。 」 (林(監修)2000:59)とのことである。. ③犬の身は寒に三日寒し、猫は暑に三日熱し(犬は一年中寒がらないが、猫は年中寒がる。) ④雪は犬の伯母(雪が降って犬が喜んで走り回るようす。子どもが伯母に会ってはしゃぎ回るよ 10. 生後 21 日以降 12 乃至 13 週頃までの、兄弟の子犬や母犬との接触を通して基本的社会化が起こり集団の中で の社会的関係が形成される時期。. 37.
(13) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). うすに見立てて言う。 ) 犬と寒さに関しては、 「寒さにどれぐらい強いかは、原産国に関係するといわれています。代表 的な例をあげれば、シベリアからカナダの北極圏あたりが原産国のシベリアンハスキーは、やは り寒さに強いですね。寒さのなかで体温を保つために、血管は皮膚のずっと深い場所にあるんで す。下毛(アンダーコート)が生える犬種かどうかも影響しますね。シベリアンハスキーはもち ろん、柴犬や秋田犬、ポメラニアンが、下毛が生える代表的な犬種です。」 「環境の変化は大きく 影響していると感じています。最近、特に東京などの都会では、室内で飼われる場合がほとんど です。冬でも暖かな家の中にいますから、大型犬でも、寒くなるとなかなか散歩にも行きたがら ないようです。一昔くらい前までは、歌にあるように、犬は庭を駆け回っていましたが、最近は、 犬もネコと同じように、あったかいところが好きみたいですよ。他にも、歳をとったり、病気に なったりすることも、寒がる原因になることがあります。」 (「犬は寒さを感じているの?獣医さん に聞いてみた - ネタりか」11)とのことである。 寒暖と犬の毛に関しては、 「イヌの毛には、剛毛と呼ばれる太くて丈夫な毛と、副毛と呼ばれる 綿毛のようなふわふわした毛の二種類があります。寒い時期には剛毛と副毛の両方をしっかりは やして、寒さを防ぎます。暑い時期には自然に副毛が抜けて、剛毛だけになり、涼しく過ごせま す。再び冬が近づいてくると、綿毛のような細くて細かい毛が体中にはえはじめ、ホンワカして くるのです。こうして、イヌは、四季に合わせて体毛を効果的に使い分けていきます。ところが、 最近は室内犬が増え、夏も涼しく、冬は暖かく過ごせるようになりました。暑い夏場も、冷房が ガンガンきいた部屋にいるために、イヌは副毛が抜けず、冬用の体毛でいます。冬は暖房がよく きいたぬくぬくした部屋にいますから、副毛は抜けて剛毛だけの夏用の体毛になってしまいます。 通常とまったく異なる逆転現状(ママ)を起こしているのです。」 (小方 1994:91)とのことであ る。. (2) その他(相性) ①犬猿の仲/犬と猿/犬と猫(互いにいがみあう関係。仲の悪いこと。) ②嫁と姑、犬と猿/当住と隠居とは犬と猿(嫁と姑[寺の新しい住職と前の住職]はとても仲が 悪い。 ) 犬と猿との相性に関しては、 「昔から、大ザルを追い詰めて倒す優秀な猟犬の話が、各地に残っ ているのは事実です。」、(イノシシなど他の動物は地上を走って逃げるだけであり猟犬に追い詰 められるが) 「サルの場合はそうはいきません。彼らは地上も走りますが、木を伝って逃げること もできるからです。ですから他の動物に比べてサルは、イヌの追跡からの逃走経路がずっと多い ことになります。ポスザルは、群れをイヌの追跡から遠ざけるために、一頭だけ残ってイヌを挑 発して、注意を群れから自分の方に向かせるという献身的な努力さえするのです。サルは、イヌ が木に登れないことは十分知っていますから、逃げ場の確保されている安全な木に登ると、今度. 11. https://netallica.yahoo.co.jp/news/20170324-03986744-netallicaq(2019 年 6 月閲覧). 38.
(14) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). はイヌに向かって威嚇したり、大袈裟に騒ぎ立てて木に登れないイヌの無能さをあざ笑うような 行動に出ます。イヌの方も、姿は見えているのに一向に手の届かない獲物に、いらつき一層激し く吠えたてることになるわけです。昔の人はこうした一連のやりとりを見て、サルは他の動物と は違い、イヌに対して互角に応戦しているように思ったのでしょう。しかし、実際のところ特に サルとイヌは相性が悪いという科学的な根拠は一切ありませんし、自然界においても、イヌ科の 動物がサルの天敵になっているというような事実は報告されていません。」 (佐草 1995:34-35) とのことである。 ただし、 「初対面のイヌとサル、それも、互いが大人になってから会った場合、両者はことわざ 通り「犬猿の仲」となります。 (中略)中型の日本犬とサルは、大きさがほぼ同じです。両者は、 互いの捕獲限界ギリギリの相手だったと言えるでしょう。はじめから勝負にならない相手に対し ては手出しもしませんが、両者の体格が互角であるばかりに、いい勝負ができる、よきライバル として、イヌとサルは敵対視したのです。 (中略)動物は、相手が自分より上位か下位かを見極め る時、まず大きさを比較します。ここで重要な基準となるのが目の高さです。自分よりも目の位 置が高く、図体が大きな者は上のランクに、自分よりも小さな者は下のランクに位置づけます。 イヌにとって、サルはほぼ同じ大きさ、同じ目の高さをしています。」 (小方 1994:78-80)とのこ とである。 犬と猫との相性に関しては、 「犬が敵になった時、多くの場合、猫はやられてしまいます。そう 考えれば、犬と猫の相性が悪いのは、当たり前ともいえるでしょう。ですが、犬と猫がみんなそ うなのかといわれれば、答えは NO です。世の中には、犬ととっても仲良しの猫もいます。同じお 皿でごはんを食べたり、眠るときには一緒にくっついて寝ていたり。はたまた、ケンカをすれば 犬よりも強い猫もいます。仲良しでなくても、寄らず触らずの距離を保てている場合もあります ね。 「犬と猫は、仲が悪いのか」という問には、決まった答えはありません。結局は、個体差や環 境によるところが多いのです。 」 ( 「猫と犬を一緒に飼うときのポイント。個体差にあわせて環境を 作る方法 | Catchu きゃっちゅ」12)とのことである。. 3 終わりに 犬は日本人にとって極めて身近な動物である。ことわざの数も十二支の動物名を含むことわざ の中では「馬」に次いで多く、犬の様々な特徴が取り上げられている。犬自体は肯定的、否定的、 中立的なさまざまな評価がされており、また尾や毛色などの部分的特徴、さらに吠える、食べる などのさまざまな行動に着目したことわざが数多くある。また、世界のことわざには、日本のこ とわざと共通した特徴に注目したものも数多く、一方、各文化独自の捉え方をしたことわざも多 い。 以上、本稿では、 「犬」に関することわざを示しながら、「犬」に対する見方や捉え方の特徴を 見た。. 12. https://nekogohan-web.jp/inutoissho10251/(2019 年 6 月閲覧). 39.
(15) 『札幌国語研究』第 25 号 北海道教育大学国語国文学会・札幌(2020 年). 参考文献 浅場明莉・菊水健史(2014) 『観察する目が変わる動物学入門』ベレ出版 猪熊壽(2001) 『イヌの動物学』東京大学出版会 小方宗次(1994) 『犬は三日飼えば三年恩を忘れないは本当か 北村孝一(編)(2012) 『故事俗信ことわざ大辞典. イヌのオモシロことわざ学』PHP研究所. 第二版』小学館. 斎藤誠治(1984) 「江戸時代の都市人口」 『地域開発』240、日本地域開発センター 佐草一優(1995) 『ウソ・ホント? 實吉達郎(1988) 『動物故事物語. 動物ことわざ事典』ビジネス社 上』河出書房新社(河出文庫). 柴田武・谷川俊太郎・矢川澄子(編) (1995)『世界ことわざ大事典』大修館書店 谷口研語(2012) 『犬の日本史. 人間とともに歩んだ一万年の物語』吉川弘文館. 時田昌瑞(2009) 『図説ことわざ事典』東京書籍 中川志郎(1988) 『日本の風土を伝えることわざ. 動物』創拓社. 馬場俊臣(2010)~(2019)「 「牛」に関することわざ」「「虎」に関することわざ類」「「兎」に関することわざ」 「「龍」に関することわざ」 「「蛇」に関することわざ」 「「馬」に関することわざ」 「 「羊」に関することわざ」 「「猿」 に関することわざ」「「鶏」に関することわざ」「「犬」に関することわざ(1)」『札幌国語研究』15~24、北海 道教育大学国語国文学会・札幌 林良博(監修) (2000)『イラストで見る犬学』講談社 平岩米吉(1999) 『犬を飼う知恵』築地書館 『日本大百科全書(ニッポニカ)』 (ジャパンナレッジ版) 「イヌ」の項目. 付記 本稿は、平成 30 年度北海道教育大学札幌校公開講座「文学に見られる動物たち(Ⅻ)―犬― 本語と犬」 (平成 30 年 9 月 29 日)の講演資料の一部に修正を加えたものである。. 40. 第3回. 日.
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