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子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方 ― 内的対話を促す授業実践を通して ―

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Academic year: 2021

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(1)Title. 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方 ― 内的対話 を促す授業実践を通して ―. Author(s). 富田, 元; 近藤, 逸郎; 廣瀬, 隆人; 森, 健一郎. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 8: 117-129. Issue Date. 2018-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9834. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第8号. 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方 ― 内的対話を促す授業実践を通して ― 富田 元*1・近藤 逸郎*2・廣瀬 隆人*3・森 健一郎*2. 要 約 本研究では, 「内的対話を促す授業を意図的につくることで,学力と集団への所属感が向上するで あろう」という仮説のもと,公立小学校の子どもを対象にその仮説に基づく指導をおこなった。そし て,その指導が学力と集団への所属感に影響を及ぼす効果について検討をおこなった。その結果,1) 「確かな学力」については,対象とする子どもの「思考力・判断力・表現力等」を表出する姿が見ら れるようになった。 「算数作文」においては,自分の言葉を用いながら表現する子どもの姿も見るこ とができ,子どもの中で内的対話がなされ,文字言語として表現されたものと推測された。2)「集 団への所属感」については,子ども間の「友だちとのかかわり」を表出する姿が見られるようになっ た。これについては, 「相互のかかわりによって自己の考えをまとめ,表現をする」といった一連の 学習活動が,個々の所属感へ影響したものと考えられた。また,学習が進むにつれて,定型的なペア 活動ではない場面においても,周囲と相談する姿が見られるようになった。. 1 研究の目的 子どもたちをとりまく社会環境は大きく変化していくことが予想されている。子どもたちが激変の 時代を生き抜くために,学校教育が担う役割の重要性は想像に難くない。中央教育審議会答申では, 学校教育が子どもたちに養うべき能力として, 「汎用的能力」の重要性が述べられている。 また,筆者自身の教職経験の中で,学力の高い子どもたちおよび学級の様子として, 「一人一人が 課題に対して向き合っている」 「子どもたち同士の話合いが活発である」 「他者の意見の意図を読み取 ろうとする姿勢がある」といった特徴が見られた。これらのことは, 上記答申における「コミュニケー ション能力」や「行動力・実行力」などが十分に発揮された状態であったとも捉えられる。 以上のことから, 「確かな学力」と「子どもたち同士のかかわり」には相関関係があると考える。 そこで,本研究では子どもたちの学力と学級への所属感の向上を図る望ましい学級経営の在り方を 探っていく。なお,「確かな学力」については特に「思考力・判断力・表現力等」を中心にして論を 進める。そして,学級経営,つまり「集団への所属感」においては,学力との関連から「授業」に視 点を置きながら,成果と課題についてまとめていくこととする。. ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院 平成28年3月修了生. *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. *3. 元北海道教育大学釧路校教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. 117.

(3) 富田 元・近藤 逸郎・廣瀬 隆人・森 健一郎. 2 研究の方法 ⑴ 仮 説 北海道内の公立A小学校での調査結果を基に仮説を設定した。この小学校の第2学年(約20名)の 算数科で一単元を通じて「内的対話(秋田,2012) 」を促す授業をおこなった。そして,毎時間「友 だちとのかかわり」に関するアンケート(表1)および単元末に学習内容確認テストを実施した。そ の結果,設問1に対して,授業を重ねることで「友だちに考えを伝えたこと」 「友だちの考えを聞い たこと」の2つの項目を選択する子どもが増加した。また, 設問2に対して, 単元の導入段階では「先 生の話を聞いたとき」を選択していた子どもの多くが,単元終末では「友だちの話を聞いたとき」を 選択し,結果として項目の上位となった。以上のことから考察すると, 「友だちとのかかわりが満足 につながっていること」や「友だちとの対話を重ねることで,友だちの話を聞くこと自体に良さを感 じたり,『わかる』感覚が上昇したりしている」といった子どもの姿が見えてきた。 研究の目的及び,実習での経験に基づき,仮説を「内的対話を促す授業を意図的につくることで, 学力と集団への所属感が向上するであろう」と設定した。 ⑵ 根 拠 秋田(2012)は,授業の質を保つためには5つの原理がある,としている。それは, ① 参加の保障・・・・学びへの参加・存在の承認 ② 対話の保障・・・・聴きあいの関係 ③ 共有の保障・・・・一体感,自分たちのことばを形成することによるかけがえなさの共有 ④ 多様性の保障・・・差異の吟味と探求 ⑤ 探求の保障・・・・さまざまな観点からの「課題の発見―追求―振り返り―見通し」の継続的 なサイクル 表1 友だちとのかかわりに関するアンケート結果. 118.

(4) 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方. これら5つの原理のうち, 特に注目されるべきは, 子どもたちの関係性の基盤となっている「言葉」 に着目した「対話の保障」である。なお, 「対話の保障」がなされると以下の3つの営みが同時進行 しながら,授業における対話がおこなわれるようになるとされている。 表2 対話がおこなわれた場合の3つの営み. これら3つの営みと,本研究仮説を重ね合わせて考えると,学力向上が『知的営み』 ,所属感向上 が『社会的営み』 『実存的営み』によって保障されるであろう。 また,授業については,授業とは「ことば」という道具で,相互にやりとりすることを通して,他 者の考えや「ことば」を半ばわがものとして内化される, としている。そして, 内化された状態を「内 的対話」と呼び,次のように引用している。 「ことばの中のことばは,なかば他者のことばである。それが〈自分の〉ことばとなるのは,話者. がそのことばの中に自分の思考とアクセントを住まわせことばを支配し,ことばを自己の意味と表 現の志向性に吸収したときである」(バフチン,1996) 授業において,子どもたちの内的対話が促されることで,3つの営みが充実し,学習内容の理解と 他者とのかかわりが促されると考える。以上のことを仮説の根拠とし,検証していく。 ⑶ 方 法 北海道内の公立B小学校第5学年(約25名)での年間を通した国語科・算数科の授業および学級経 営を基に検証していく。国語科と算数科を取り上げた理由は,他教科等と比較したときの時数の多さ である。年間時数の約3分の1を占める2つの教科(一日一度授業があるペース)で仮説の「内的対 話」を促すことをねらいとする。 なお,「内的対話」については, 「協同学習への動機付け」 「相手意識の醸成」 「学習形態の工夫」の 3つの要素を取り入れた授業(図1)をおこない,積み重ねることで促していった。 ①『協同学習への動機付け』について 研究にあたっては,「協同学習(Cooperative Learning) 」の意味づけをおこなうため,以下のよう に類義語を整理した。 ○きょう−どう【協働】 [名](スル) 同じ目的のために,対等の立場で協力して共に働くこと。 ○きょうどう−がくしゅう【協働学習】 学習者が相互に協力しながら,共通の目標や課題の達成を目指す学習。 行きょう−どう【協同】  [名](スル) 複数の人または団体が,力を合わせて物事をおこなうこと。共同。 「住民が―して地 域の振興に努める」 「産学―」 協同の原理に基づく教育活動(日本協同教育学会による) 119.

(5) 富田 元・近藤 逸郎・廣瀬 隆人・森 健一郎. 学びの営みに参加する人たち相互の信頼関係を背景に,互いの学びを支え合い,共に高まること を目的にした学習活動を生起・促進させる働きかけ. 図1 3つの要素の関連. 本研究の趣旨に当てはめると,学習者同士が互恵的関係を保ちながら学びを進めていく「協同」の 考え方が相応しいことが見えてくる。 ②『相手意識の醸成』について 「相手意識」は,言語活動の充実を図るための手立ての一つである。授業において「相手意識」を もつことで,子どもたちは, 「どうしたら,友だちの考えや思いを理解することができるか」 「どうし たら,自分の考えや思いを友だちに伝えることができるか」といった考えを巡らすと想像できる。課 題に直面する中で「相手意識」が加わることにより,子どもたちは必要感をもって思考・判断し表現 活動へ向かうと考える。 ③『学習形態の工夫』について 「内的対話」に向かう中で,他者の「ことば」を内化するのと同様に大切なことが,一人一人の表 現活動である。例えば,体育科の学習において,逆上がりの仕方を「見ている」だけで自分もできる ようになるということは,まずありえない。手本を見た上で,考え,実際にやってみることで少しず つ自分の技能になっていくはずである。その他の教科も同様で,一人一人に音声言語あるいは文字言 語による表現活動を保障していくことが, 「内的対話」につながる手立てとなっていく。また,授業 全体の視点で考えると,個の取組が保障されて初めて成り立つのが「協同学習」だといえる。どの教 科も最終的には個の学力をつけていかなくてはならない。そのため, 「協同前の個人思考・個人作業」 「協同後の個人試行」の設定が大切である。 「協同学習」の形態については,その学習のその場面で の目的に応じて適宜変えていく必要がある。 学習形態を工夫することのねらいは, 一人一人に表現活動の時間を保障することにある。そのため, 上記で示した様々な学習と同様に,1対1のペア対話も重要な役割を担う。とりわけ,特定の子ども たちが中心になって話し合い活動が進められている場面では,一人一人に表現活動を促すことは重要 だと考える。しかしながら,闇雲にペア対話を取り入れてさえいれば,子どもたちに「内的対話」が 促されるわけではないだろう。授業における子どもたちの思考に沿った流れで,ペア対話を取り入れ ていくことが効果的な表現活動に誘う手立てとなるはずである。 120.

(6) 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方. 表3 ペア対話をおこなう場面例. ①②③の要素を国語科と算数科の授業の中で繰り返しおこなうことで, 「内的対話」を促していく。 なお,本研究の仮説検証については,各単元テストの結果や, 「社会的関係性」および「学習認知」 に関わるアンケート(表4)の相関関係,子どもたちのノート記述の変化や学級担任以外の教員によ る評価を用いながら検証した。 表4 「社会的関係性」および「学習認知」に関わるアンケート. 3 実 践 「内的対話」を促すために, 「協同学習への動機付け」 「相手意識の醸成」 「学習形態の工夫」の3 つの要素を取り入れた授業をおこなってきた。3つの要素の中でも特に, 「相手意識の醸成」は授業 121.

(7) 富田 元・近藤 逸郎・廣瀬 隆人・森 健一郎. づくりをおこなう上で重要になってくる。なぜなら,相手意識に向かうためには,それまでの授業展 開における教師の発問によって,他者とのかかわりが必然となる必要があるからである。逆の表現を するならば,本時における教師の発問次第で子どもたちの相手意識を高めることが可能になるといえ る。そのため,本項では「相手意識の醸成」に向かうための発問を中心にしながら,実践をまとめて いく。 ⑴ 国語科における小学校5学年での実践例 相手意識を高めるための発問として,一人一人の子どもたちが「考えたい!」 「答えたい!」とい う思いをもつような内容であるかが大切といえる。自分で考えてみて初めて「伝えたい!」という相 手意識につながるからである。 桂(2013)は国語科の指導法の一つとして,教材に仕掛けをつくることを提案している。仕掛けを つくることで,子どもたちが受動から能動的な姿になることが期待できる。つまり教材に仕掛けをつ くることは他者とのかかわりが必然となる。以下に教材に仕掛けをつくる手立て (表5) をまとめる。 表5 国語科の教材に仕掛けをつくる手立て. ⑵ 算数科における小学校5学年での実践例 国語科と同様,算数科においても相手意識を高めるための発問は,子どもたちの「考えたい!」「答 えたい!」という思いを切り口にして醸成していくことが大切といえる。とりわけ算数科については, 「あれっ?」「どうして?」といった未熟故の疑問や感覚も,相手意識につながりやすい。 尾崎(2014)は算数科の思考力・判断力・表現力等を育む手立ての一つとして,授業導入における 「ズレを生む仕掛け」をつくることを提案している。子どもたちが問題に出会ったときに,何らかの ズレを感じることで答えたいという思いにつなげることが期待できるという主張である。 国語科同様, 一人一人の能動的な思いは,他者とのかかわりを生み,相手意識へとつながっていくことが期待でき る。以下に「ズレを生む仕掛け」 (表6)をまとめる。. 122.

(8) 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方. 表6 ズレを生む仕掛け. 4 結 果 本研究の仮説に基づいて展開した本実践について,⑴  「社会的関係性」および「学習認知」に関わ るアンケートの結果,⑵ 各教科のテスト結果(単元,学期のまとめ) ,⑶ 授業内における子どもの 発言,⑷ 授業におけるノート記述,以上の4項目を考察の材料としてまとめていく。 ⑴ 「社会的関係性」および「学習認知」に関わるアンケートの結果 子どもたちの集団への所属感を測る手立てとして,鈴木(2012)の社会的関係性の尺度,および木 下・松浦・角屋ら(2005)のメタ認知尺度を基に,アンケートを作成した。具体としては,国語科・ 算数科についての「学習による満足度(社会関係性) 」と「友だちとの関わりによる学習認知」を測 定した。 測定は年度当初と,内的対話を促す授業をおこなってから2ヶ月後の2度おこなっており,各アン ケート集計結果の差を(表7)にまとめる。 表7 「学習による満足度(社会関係性)」「友だちとの関わりによる学習認知」集計結果. 123.

(9) 富田 元・近藤 逸郎・廣瀬 隆人・森 健一郎. 差の検討については,1回目平均と2回目平均の差の検討をおこなうために,各設問結果に関わっ てt検定をおこなった。その結果, 設問1「私は, 勉強のことで, 友だちに聞かれることがあります。」 (t = 2.66, df = 21, p < 0.05)と設問7「グループ(ペア)で話し合いをしていると,自分の考えが まとまることがあります。 」 (t = 2.60, df = 21, p < 0.05) , および設問8「先生の説明を聞いていると, 自分の考えがまとまることがあります。」(t = 2.59, df = 21, p < 0.05)について,1回目よりも2回 目の方が有意に高い得点を示していた。 ⑵ 各教科のテスト結果 年度当初に,前学年での学習内容を基にした国語科と算数科のテストを実施した。ここでの平均値 と比較対象として,当年度12月に5学年の学習内容を基にした国語科と算数科のテストを実施した。 各教科の平均値および差の具体的な数値については本稿に記載しないが,国語科では, 「物語読みの 内容」と「説明文読みの内容」の平均値の差が,いずれも10点以上となった。算数科では,各観点と も1~2点の範囲での差であり, 国語と比較すると, 得点が上昇した差も1.9とわずかなものであった。 ⑶ 授業におけるノート記述 算数科において,数学的な考え方の評価の観点に関わる時間に,作文形式でノートにまとめる実践 をおこなった。具体的には,一単位時間の終末に作文形式にまとめる。子どもたちは本時の学びのま とめおよび振り返りを文章として表現していく。書く時間は約10分(年度当初は15分くらい)で設定 した。 取組当初は,文章を書く際に指定した文字数まで到達できなかったり, 学習内容を踏まえていなかっ たりする子どもがいた。また,文章能力による取組内容の個人差も散見された。そのため,作文形式 の学習指導として(表8)のようなステップを踏んできた。併せて,思考力・判断力・表現力等を育 む手立ての「ズレを生む仕掛け」や, 「相手意識の醸成」をねらった指導をおこなってきた。 表8 算数作文の指導ステップ. 124.

(10) 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方. 指導を繰り返した結果,年度当初の記述内容と比較して,12月以降の内容は文章量,質ともに向上 が見られた。(図2)で示した各ノートは, 3名の子どもの年度当初からの変容を示したものである。 なお,3名については,年度当初の学習内容確認テストにおいて,A児=平均以上,B児=平均程度, C児=平均以下,を抽出している。 変容としては,どの子どもも文量が増えていることが顕著である。また,内容の質の変容として, 学習内容をより詳細に記述していることが挙げられる。A児のノートを例に挙げると,割合の学習で 核となる数直線を用いながら解法を再考していることがわかる。また, 「1200円のままだと30%の値 段になる」といった内容は,授業展開の中で実際におこなわれた子どもたちの思考である。自分の一 方的な解釈ではなく,多角的に問題をとらえている点からも質の向上が伺える。そして,A児,B児 については,記述内容に「○○さんが言っていて~」や「○○君が20cmは~」というように,授業 内容と他者を関連付けて表現していることが認められる。 A児のノート. 図2-1 算数作文における子どもの記述内容の変容(左が年度当初,右が12月時点のノート). 125.

(11) 富田 元・近藤 逸郎・廣瀬 隆人・森 健一郎. B児のノート. 図2-2 算数作文における子どもの記述内容の変容(左が年度当初,右が12月時点のノート). C児のノート. 図2-3 算数作文における子どもの記述内容の変容(左が年度当初,右が12月時点のノート). 126.

(12) 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方. 5 考 察 本研究では,仮説を「内的対話を促す授業を意図的につくることで,学力と集団への所属感が向上 するであろう」とし,北海道内の公立小学校5学年一クラスでの仮説に基づく指導が,学力と集団へ の所属感に影響を及ぼす効果を検討した。以下,本実践で得られた結果について考察する。 ⑴ 「確かな学力」の向上における成果 本実践を通して,対象とした子どもの「思考力・判断力・表現力等」を表出する姿が見られるよう になった。前項「⑶ 授業におけるノート記述」において,年度当初と比較し文量および内容の質に 向上が見られた。ここでの文量と質は別々の意味をもつものではなく表裏一体といえる。なぜなら, 本実践における「算数作文」は,一時間の学びを表現する性質を有するからである。文量の増加は質 の向上であり,即ち授業における思考力・判断力・表現力の向上と捉えることができる。 「算数作文」 を書く授業において,年度当初は文章自体を書くことに抵抗がある子どももいた。そして,書く時間 そのものが多くかかってしまうこともあった。しかし,教師が「相手意識の醸成」を図りながら授業 展開していくことで,どのような内容を書くと良いのかを子どもなりに明確に見据えることができた ようだ。事実, (図2-3)で示したC児は年度当初,書くことに困難を感じていた。それでも,授 業の中で友だちとかかわりながら学ぶことで, 「算数作文」で自分の言葉を用いながら表現すること ができるようになってきた。また,中には文章中に,授業内での友だちの発言と学習内容を結び付け て記述する子どももいた。これらの事実は,子ども一人一人の中で内的対話がなされ,文字言語とし て表現されたものと推測される。 また,前項「⑵ 各教科のテスト結果」において,年度当初と比較して国語科の得点が顕著に上昇 した。この結果は,国語科のテストの性質も大きく影響していたと推測する。国語科のテスト内容は 全て記述式でおこなった。子どもが回答する際には問題の意図を読み取った上で,一定の字数で文章 表現することが求められる。つまり,問題を読んで意図を解釈し,自分の考えを重ねながら表現する 内的対話がおこなわれたと考えられる。授業における子どもの思考過程と類似していたことが,得点 として表出したと推測する。 ⑵ 「集団への所属感」の向上における成果 本実践を通して,子ども達の「友だちとのかかわり」を表出する姿が見られるようになった。 客観的な事実として,前項「⑴ 「社会的関係性」および「学習認知」に関わるアンケートの結果」 において,9項目中6項目で平均値が3以上に移行したことは,授業における集団への所属感の向上 を示しているものと考える。特に有意の差が大きく出現した質問項目1「私は勉強のことで,友だち に聞かれることがあります。 」 ,質問項目7「グループ(ペア)で話し合いをしていると,自分の考え がまとまることがあります。 」については,それまでの授業において意識的におこなった内的対話の 3つの要素が影響していると推測する。実際の授業では,特にペア活動を重視しながら学習内容を進 めてきた。ペアのやり取りとして,考えがまとまらない子どもは相手に聞くことが必然となった。ま た,友だちの発言に対して呼応する姿が見られるようになった。こういった相手とのかかわりによっ て考えがまとまり,自分なりの表現をするといった一連の学習活動が,子どもの所属感へ影響したも のと考えられる。また,学習が進むにつれて,型にはまったペア活動をしていないときにも,周囲の 友だちと相談する姿が見られるようになった。秋田(2012)は,こういった子どもの談話にかかわっ 127.

(13) 富田 元・近藤 逸郎・廣瀬 隆人・森 健一郎. て, “教室談話は会話フロアを形成して進行するが, 実際は一つのフロアだけが形成されるのではなく, 席が近くの友人と小声で話すつぶやきが生じることも多く,教室の中で多層的に形成されることが多 い。”と述べている。そして, その効果として“このつぶやきこそ, 一人一人が学びに関わろうとして, 声を出している場面である。 ”と結論付けている。この視点に立ち,子どもが自ら「友だちにかかわ ろう」としたときには, (表3)の「教師がつぶやきを拾うため」のペア活動のねらいを意識した。 このことは,その後の授業展開を子どもの思考に合わせていく効果もあるが, 「友だちとのかかわり」 即ち「学習集団に安心してかかわることができる」という子どもの感覚につながったと推測する。 ⑶ 今後の課題 本実践では,内的対話を促す3つの要素を授業で実践することで, 上記の成果を得ることができた。 これは,「確かな学力」と「子どもたち同士のかかわり」には相関関係があり,授業において指導者 が協同的なかかわりを必然とすることで,学力と集団への所属感の向上が図られることを示唆するも のである。しかし, 「所属感」という本人の内面に迫る内容なだけに,本実践のみで明確に所属感の 向上を主張するには限界がある。事実, 「 『社会的関係性』および『学習認知』に関わるアンケート」 の質問項目3「友だちが,勉強がわからないとき,気軽に聞ける友だちがいます。 」の数値が他の項 目と比較すると低い値を示している。授業実践で得られるデータや,所属感を測るその他の尺度を活 用し,実証的検証に耐えられる提示法を検討する必要がある。また,本実践では学力について「思考 力・判断力・表現力」を中心に据えて論じてきた。授業における発言やノートの記述から,質的な向 上が見られたことは成果の一つである。しかし,算数科のテスト結果に焦点を当てると,各観点に大 きな変容は見られなかった。これは,テストの出題方法がいわゆる一問一答形式をとっており,知識 や技能を問うような内容であったことが要因として考えられる。 つまり, 本実践においては, 「基礎的・ 基本的な知識・技能」の定着を大幅に引き上げる効果が薄いことの裏付けともいえる。学校現場にお ける汎用性を高めるためにも,今後はさらに「基礎的・基本的な知識・技能」 「学習意欲」に関わる 授業実践に幅を広げて,学力と所属感の向上を図る実践方法を探っていきたい。 註 1)中央教育審議会答申 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(平成23年1月31日)」では, 以下のように説明されている。 基礎的・汎用的能力は,分野や職種にかかわらず,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力である と考える。例えば,企業が新規学卒者に期待する力は,就職の段階で「即戦力」といえる状態にまで学校教育を通 じて育成することを求めているわけではなく,一般的には「コミュニケーション能力」「熱意・意欲」「行動力・実 行力」等の基礎的な能力等を挙げることが多い。社会人・職業人に必要とされる基礎的な能力と現在学校教育で育 成している能力との接点を確認し, これらの能力育成をキャリア教育の視点に取り込んでいくことは,学校と社会・ 職業との接続を考える上で意義がある。. 引用および参考文献 秋田喜代美『新しい時代の教職入門』2006年 有斐閣アルマ 秋田喜代美『学びの心理学』2012年 左右社 秋田喜代美『教師の言葉とコミュニケーション』2010年 教育開発研究所 赤坂真二『THE 協同学習』2014年 明治図書 鈴木誠『 「ボクにもできる」がやる気を引き出す』2012年 東洋館出版社. 128.

(14) 子どもたちの学力と所属感の向上を図る学級経営の在り方. 木下博義,松浦拓也,角屋重樹「観察・実験活動における生徒のメタ認知の実態に関する研究−質問紙による調査 を通して−」 『理科教育学研究 46』2005年 日本理科教育学会 夏坂哲志『算数授業研究 VOL.93』より2014年 東洋館出版社 桂聖『教材にしかけをつくる国語授業10の方法』2013年 東洋館出版社 尾崎正彦『算数学力・日本一への挑戦』2014年 明治図書. 129.

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