本邦産玄能石とアメリカ西部Pyramid Lake産チノライト : 特に酸素・炭素安定同位体比
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(2) 北海道教育大学紀要(自然科学編)第55巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(NaturalSciences)Vol.55,No.1. 平成16年9月. September,2004. 本邦産玄能石とアメリカ西部PyramidLake産チノライト 一時に酸素・炭素安定同位体比−. 伊 藤 俊 彦 北海道教育大学釧路校地学教室. Comparativeisotopic(∂180,∂13c)studybetweengennoishi andthinoliteofPyramidLake,Nevada ITO,Toshihiko. DepartmentofEarthSciences,KushiroCampus, HokkaidoUniversityofEducation,KusiroO85−8580. Abstract. SincealargeeuhedralikaitecrystalwasdiscoveredinsedimentoftheAntarcticShelf(Suess,etal・, 1982),ikaitehasbeenconsideredtobetheprecursormineralofcalcitepseudomorphssuchasgennois andthinolite.. The∂13cvalueofthinolitefromPyramidLakeinNevadashowspositivevalue+3・28%oincontrast tothenegativevalues(−11.9∼−10.9%。)ofgennoishifromShunkushitakaraineasternHokkaido・The positivevaluesofthinoliteandcalciteafterShiowakkaikaiteareconcordancewiththesprlngWaterOrigin. andthefreshwaterenvironmentwherethelatterwasformed.ThelightcarbonisotoplCCOmpOSitionsof calciteaftermodernikaitefromdeepseaikaite(−22.9∼−18.8%。)andgennoishisuggestthatCO2derived. fromorganicmatterinsedimentarysequences.The∂180valuesofcalciteafterShiowakkaikaite(−3・69 %。)andthecalcareoussinter(−2.09%。),andthehighsalinewaterchemistryofShiowakkacoldspr. watersuggeststhattheoriginofcoldwaterderivedfromfossilseawater,andthat∂180valuesshould beraisedbytheisotopeexchangereactionofwaterandcalcareousrocksatlowtemperatures・. はじめに. 玄能石の名は,我が国で見られる方解石仮像(先駆鉱物の結晶形を残したまま方解石に置き換わったもの) に対して,その形態的特徴から名づけられた名称であり,世界各地で同様の特徴を持つ方解石仮像に対して 種々の異なった呼称が用いられている.北アメリカ西部ネバダ州のピラミッド湖(PyramidLake)の湖岸, またカリフォルニア州モノ湖(MonoLake)の現在の湖面より離れて100m以上高い位置にトウフア・マウ. 1.
(3) 伊 藤 俊 彦. ンド(tufamound)を形づくるチノライト(thinolite)もまた,同じ方解石仮像と報告されている.トウファ とは陸域で生成する炭酸塩堆積物であり,石灰岩地埠の湧泉や河川,湖の溢流部に堤や滝を形成する多孔質 で,藻類・植物根等の痕跡を持ち,微品質の炭酸カルシウム(主に方解石)がゆるく固結したものである. より赦密で硬く,縞状構造を示すものはトラバーテンと呼ばれる.Thinoliteの命名者はKing(1878)で, LahontanandMonoLakebasinsに第四紀の初頭にかって存在した巨大湖をLakeLahontanと命名し,そ. こでトウファを構成する特徴的な形態を持つ炭酸カルシウム鉱物をthinoliteと呼んだ.彼はこのcalcite仮. 像をgaylussite[Na2Ca(CO3)2・5H20:塩湖の堆積物として産出]として生じたものが,後にその結晶 形態を保持したままcalcite集合へ替わったものと考えた.その後もgaylussite以外にもアラレ石,石膏‥ 等多くの鉱物が原鉱物として候補に上がったが,何れも決め手となる証拠に乏しかった.. 20c末,Suessらは南極海水深1950m,水温零下の海底から発見したikaite(イカアイト)に見られた両 錐形結晶(斜方晶系)の形態的特徴と鉱物学的性質から,Calcite仮像の原鉱物・preCurSOr(先駆鉱物) はikaiteであるとする説(Suessetal.1982)を唱えた.Ikaite原鉱物説は,複数の研究者がその後も支持を表. 明している・更に新たなikaiteの生成が冬にMono湖の湖底から,Bishoffら(1993)とCouncil&Bennett. (1993)によって報告され,陸上では最初の発見場所となった.方解石仮像がikaite後の仮像であるとの説 に基づき,方解石仮像の存在それ自体がマイナスに近い寒冷気候の地質時代の指示“化石”とする研究が多 く発表されるようになった.しかしながら,特に玄能石の先駆(原)鉱物がikaiteと考えるには,細部に渡っ た十分な検討や説明がなされているようには見えない. Pyramid湖とMono湖のトウファについて2003年夏,. 現地調査を行った(図−1).Mono湖はヨセミテ国立公. 柵ぬ. Pyramid Lake. 園の真東に位置し,80種を超える多くの渡り鳥の中継地・ カリフォルニアカモメの増殖地として野生生物たちにとっ. て,またロサンゼルス市の水瓶(年平均 盲守戦巧!砧勺. 「十 1億2,300万t)として市民にとって大 言. Lake Taho. 切な湖でもある(倉田,2001). Pyramid湖では今回調査した西岸の m∫J討〝7ど トウファにはスプレーによる落書き等も. あり,Mono湖ほど管理されているよ. うには見られなかった.同湖の北東岸に. 〟月「化〃〟圧. SÅN FRANCISCO 100km. はNeedleという地名からして,より. 尖った特徴的な方解石仮像の集合が見ら れることが文献からも知られる.両湖に. 図−1 調査地点. おいて見られるトウフア・マウンドを構. 成するthinoliteと我が国で泥岩中のノジュールに含まれる玄能石では産状が全く違う.ここでは,二つの. 異なる方解石仮像を比較検討することから,仮像そのもののを理解しようとするものである.ここでは方解 石仮像の原鉱物がikaiteであるとの見方に立って論を進める.. Ⅰ− ピラミッド湖・モノ湖におけるtufamoundをなす炭酸カルシウム沈殿物の産状と鉱物組成 先述したように両湖はシエラネバダ山脈東側のベーズン構造BasineandRangeprovinceに位置して(都 城ほか,]朋9),そこに産する炭酸カルシウム沈殿物はトランスフォーム断層に沿って湧き出た泉によって. 2.
(4) 本邦産玄能石とアメリカ西部PyramidLake産チノライト. もたらされたと考えられている(松本 良・PaulSchenk,1995). これらトウフア・マウンドは,それぞれの場所において異なった景観を示す.Pyramid湖で見られるトウ. ファの産状は頂部が丸いドーム状が特徴的であり,それらの破断面において,長さ数cmから数10cmの細 長い柱状のthinoliteが放射状集合体として見られる(写真−1a,b).そこで観察されたthinoliteの結晶 面は,本邦の玄能石ほど平坦・平滑な面を示さないが,その柱状結晶の横断面が矩形であることが玄能石に. 類似する.一方,Mono湖のトウファは全体に尖塔状で林立し(写真−2),その内部では間隙を埋める湖 底に堆積した砂の層状構造が明瞭に残っている.間近で観察したトウファは,丸みを帯びた凹凸に富む表面 構造からブロッコリー状集合体を呈する.これが自形結晶の集合からなるとするならば,細かな空隙が多く. 表面全体が溶解し,平面や陵などの結晶形を判断するのに必要な特徴が見られない点でPyramid湖に産す るトウファとは異なる.現在Mono湖湖岸で見られるトウプア・マウンドは200∼900年前の生成とされ,. より高い位置にある古湖岸で見られる更新世トウフア・マウンドは1万3,000年ほど前に出来たと推測され. る(CaliforniaStateParks,1997).Mono湖で記載されているthinoliteは,更新世のトウフア・マウンド からのものである(Russell,1889).. Mono湖現湖岸に見られるトウファを構成してる鉱物はaragonaiteであり,Calciteが少量含まれること がⅩ線回折分析により確認された.即ち,鉱物学的にもcalcite仮像でないことが判った.これに対して Pyramid湖のトウファは,柱状結晶様の集合体で文献に表れるthinoliteの形態的特徴を示しており,鉱物 組成もcalciteのみからなっていた.先述の形態的な違いは,両トウプア・マウンドの構成鉱物と当時の生. 成環境の違いが,形に反映された可能性が考えられる.Mono湖現湖底において冬期間にikaiteが生じてい る(Bishoffetal.,1993;CouncilandBennett,1993)事実は,aragOniteが生成した水質からでも,冬の寒 冷な水温の下ではikaiteが生成することを示している.よってthinolite(ikaite後の仮像)の晶出を,氷期 の零下前後の水温で説明することの根拠になり得ると考える. Pyramid湖岸で観察されるthinoliteと我が国の玄能石とでは,両集合体が量的にもその形態においても. 全く異なることは先述した.また,Pyramid湖から報告されている長く延びた小枝状(dendritic)の特徴 的な形態(Shearman,etal.,1989)は,これまでのところ玄能石でも,原鉱物とされるikaite結晶でも知ら れていない.その成因を含め興味深いものがある.チムニーとは異なりdendriticなものの生成の場として は,ある面に沿った自由空間が必要なので,ノジュール伴われる玄能石がdendritic結晶で産することは当. 然起こりえないと考えられる.また,Pyramid湖の柱状仮像は比較的赦密であり,仮像相互の接触部には 泥などの爽雑物は存在せず,その境界は不明瞭である.更に,玄能石の断面で一般的な,晶出ステージの異. なる3種のcalciteが示す特徴のある組織は認められない.それは泥岩中で生成した玄能石にだけ認められ る内部組織と言えるので,それは玄能石がthinoliteとは異なり続成作用の過程で形成されたことを示唆する.. Ⅰ.炭酸カルシウム仮像の酸素及び炭素の安定同位体比 軽い元素の同位体はわずかな質量の差によって反応性に違いが生じる.従って自然環境における物理,化 学的過程で同位体分別作用が起こり,それを同位体比の違いとして知ることが出来る.自然界における酸素. と炭素の同位体比(∂180sM。W,∂13cpDB)の変動の概要を図−2に示す.∂180は天水や熱水で負の値 をとる傾向にあり,高い値(正の値)は堆積岩で見られる.それは低温での海水との相互作用によって生じ る(松尾,1989).また,∂13cは海底炭酸塩が海洋中の溶存炭酸を素材とするため高い値をとり,陸上植 物や堆積岩中の有機物炭素で大きな負の値を示す.. 3.
(5) 伊 藤 俊 彦 堆積岩中の有機物 堆積岩. 陸上植物・石炭・石油 I l. 変成岩. 海洋植物. l. 花コウ岩. 」. 玄武岩. 大気CO2. [:コ. ー55一三コ丁+. 天水・熱水. −20. 0. −10. 十10. ⊂]. 海成炭酸塩 Pee Dee層の矢石化石(PDB). 海水(SMOW). 口. −30. =. カーボナイトダイヤモンド・熱水性方解石 [=コ. +20. +30. −50. +40. −40. −30. −20. −10. 0. +10. ∂130(%。). ∂180(‰). 天然における酸素同位体比(∂180(%。)値)の変動. 天然における炭素同位体比(∂】30(‰)値)の変動. 図2 自然界での安定同位体比(松尾禎士,1989). 今回,酸素・炭素の同位体比(共にPDBスケール)の検討を行った試料は,Mono湖トウフア (aragonite質),pyramid湖トウフア(thinolite),釧路管内シュンクシタカラ産玄能石及びシオワッカ産. の石灰華(夏季に沈殿)とikaite(冬季生成)から転移後のcalcite,更に比較のために熱水性方解石とし て鹿児島県串木野金山産脈石方解石についても分析をした(表−1).また,それらを図−3に表示した. 同国には比較検討のために,南極海の大陸棚から採取されたikaiteの同位体比(Suessetal.,1982)もまた プロットした.固からは,陸上(陸水)で生成した炭酸カルシウム鉱物はcalcite,aragOniteの鉱物種とは 無関係に∂180と∂13cは共に高い値をとり,海成泥岩(舌辛層)中のノジュールに含まれて産する玄能石 では,前者とは対照的に∂180,∂13cは共に低いことが示される. 表−1 酸素,炭素安定同位体比. 8180,DB 613c,。B 1. −2.01 5. 2. −2.60. 7.78 3.28. 7. 3. −9.73. 4. −2.09 −3.69. 6. 8 9. −12.4. 6.1 4.20. −7.41. −11.9. −7.76. −10.9. 3,38 3.84. −22.9 −18.8. 1.Mono湖aragonite 2.Pyramid湖thinolite. 3.串木野鉱山calcite 4.シオワッカ石灰華 5.Ikaite後calcite. 6.7.Syunkussitakara産玄能石 8.9.南極海底産ikaite (Suessetal.). それらは生成環境や起源物質の違いを反映していると考えられる.尚,Coplenら(1983)は,炭酸塩の. 酸素同位対比∂180pDBを∂180sM。Wに変換する式,∂180sM。W=1.03092∂180pDB+30.92を提示して いる.. 玄能石が示す大きな負の∂13c値(軽い炭素組成)は,その炭酸が海底堆積物に含まれた有機物質起源で あることを示唆する.玄能石に比べると南極海海底の堆積物中から得られたikaiteでは,一層軽い炭素と重 い酸素からなっている.玄能石(Calcite仮像)は,ikaiteから続成作用の過程でcalciteに変わったものと の考えに従えば,炭素同位体比はikaiteの分解生成によって軽い炭素組成からより重い炭素組成へと変化し たことになり,重い酸素同位体比もまた低温下での生成に合致する.炭素同位体比の変化の傍証を他に求め ると,深海の炭酸塩ノジュールにおいても地質時代の古いものほど(続成作用が進んだ深部のものほど)よ. 4.
(6) 本邦産玄能石とアメリカ西部PyramidLake産チノライト. り重い炭素同位体比を示す(WadaandOkada,2000)ことが報告されており,図−3の右下から左上に向 けた同位体比の変化もまたikaiteが玄能石の先駆鉱物(precursormieral)とする事に矛盾しない. 凡 例 ○:aragOnite質トウフア(Mono湖) ●:thinolite(pyramid湖) 0. □:シオワッカikaite後の方解石. ■. ■:シオワッカ石灰華. 口●. 5. −10. −5. ◆:玄能石(シュンクシタカラ産). ◇:ikaite(南極海:Suessら、1982) ◆. ×:熱水性方解石(串木野). ×◆. ◇ ◇. 図−3. CaCO3鉱物の安定同位体比. 他方,これが最初の報告となる陸上生成物であるシオワッカ冷泉産のikaite後の方解石とMono湖産 aragonite及びpyramid湖産thinolite(calcite)の∂13c値は共に重い類似した値を示し,玄能石が軽い炭素 組成を示すのとは対照的である点で注目される.しかし,生成に関わった両者の陸水の起源は異なっており, 前者は冷泉に由来し,後者では炭酸はアルカリ度の高い湖水に由来する.Mono湖におけるikaiteは,詳し くは水温3∼6℃,高塩濃度で高いアルカリ度の湖水と湖底から湧き出したCaイオンに富む水温8∼18℃ の冷泉との混合による(Bischoffetal.,1993).光合成によってより軽い炭素が有機物として除かれる環境 では水中の∂13cはプラス側になることが知られているが,Mono湖では塩分濃度が高いため植物プランク. トンの棲息は2種類が認められるのみであり(倉田,2001),光合成の働きは不明である.シオワッカ冷泉. 水の場合も流水であるため光合成による有機物生成による同位体分別への影響は考え難い・他には,高い∂13 cの炭酸塩物質の溶存や地下水(熱水)の湧出途中での同位体分別作用に寄った炭酸の∂13c値の上昇など. が考えられる.また,湧き口から絶えず気泡として放出されている二酸化炭素側に軽い炭素が含まれ,冷泉 から除かれるとすれば,分別作用は更に進むであろう.. ∂180に関してはMono湖とPyramid湖は共に出口の無い内陸の湖なので,蒸発によって湖水の∂180は 当然高い値に変わることが考えられ,そこで生じた石灰華の∂180倦もまた高い値を示すであろうことは理 解できる.しかし,シオワッカ産石灰華及びikaite後の方解石が示す高い∂180備については別な理由が考 えられなければならない.シオワッカ冷泉水はその高い塩濃度から化石海水?或いは天水の混合起源が考え られる.松葉谷(1991)は化石海水が比較的低温で岩石との酸素同位体交換が進むと∂180が高められ,特 に石灰岩や炭酸塩鉱物を多く含む地層の場合は高まる割合が大きくなる傾向があると述べている.シオワッ カ冷泉の水質(伊藤,1993)はそのことと矛盾しない.. 玄能石のikaite原鉱物説は両者の∂13c,∂180からも矛盾無く説明が可能と考えられるが,陸上生成で あるthinoliteについては十分な説明がつかない点が存在する.一つは既に報告されている樹状集合をはじ. 5.
(7) 伊 藤 俊 彦. めとする特異な産状であり,もう一つは今回明らかになった比較的重い炭素安定同位体比である.後者に関 しては海成に比べて陸成の炭酸塩の炭素同位体の研究はそのデータが数の上でも十分では無い.バクテリア. 等の働きによる影響は十分考えられ,塩濃度の高い内陸湖での炭素循環においても未知の部分が存在する可. 能性が考えられる.pyramid湖におけるトウフア・マウンド断面において観察される幾層にも重なる同心 円構造と,樹状集合からなり空隙に富む中心部と尖った柱状結晶形を残して隙間なく接着した外周部で示さ れる内部の特異な形態の違いは,内部と外周部の生成環境が大きく変わったことを示唆する.同心円構造に おいて境界はシャープであることから,環境の変化は微生物活動等の外部要因や湧水の間断などを考える方. が妥当と考えられる.しかし,Shearmanら(1989)は段階的形態の変化から,「内側のdendritic結晶は 直接湖水と湧き水の接触で生じ,外側のthinoliteは前の結晶の間を通過する過程でより平衡に近い状態で 晶出したので自形を示した」と説明し,内部要因による連続的変化として解釈している.. Ⅲ.ま と め Pyramid湖トウファのthinoliteとMono湖のthinolite生成時期(約13,000年前)より若い時代(200∼500. 年前)の生成物であるaragonaite・Calcite集合の炭素と酸素の安定同位体比が,ほぼ同じであることが今 回明らかになった.このことからは,生成時代の異なる両トウファが沈殿した当時の水の供給源や水質がさ ほど大きく違っていなかった可能性が示唆される.更に,1993年の冬季のMono湖でのikaite生成の発見は,. 現在の湖水標高がthinoliteトウフア・マウンドが形成された時期より100m以上も低下(Council&Ben− nett,1993)しているにも関わらず,水質においてはikaiteの生成が今も可能であることを示しており, ikaiteが生成する水質にはある程度幅がある様に見られる点で興味深い.. 他方,陸成の方解石仮像(thinolite)と海成の方解石仮像(玄能石)の間では,∂13c,∂180値は大きく 異なることが知られ,生成環境の違いが反映されていることが確かめられた.特に玄能石(海成方解石仮像) が「ikaite結晶→続成作用→Calcite集合」という変化の道筋をたどったことが,炭素の安定同位体比の点. からも明らかになった. Thinoliteとシオワッカ産ikaite後のcalciteが似かよった安定同位体比を示したことは,湖と冷泉といっ た生成環境の違いからは予想外のことであった.これらについて十分な説明は出来なかったが,高塩濃度の. 陸水から生成する炭酸カルシウム塩に共通する安定同位体比の特徴か否かは,今後の研究に待ちたい.尚,. 両方の環境で共通して考えられるファクターの1つにbiomineralizationの関わりが挙げられ,これまでに も同地のikaite以外のCaCO3の生成については,バクテリアや緑藻の関与が論じられていることを付け加. えておく(Scho11&Taft,1964;伊藤,1993). Mono湖内や岸で見られた尖塔状トウフア・マウンドの規模からは,これまでの文献で述べられたように 大きなボリュー. ムのthinolite集合が湖水と湧水の混合で容易に生成することは考えれる.しかし,現在. Mono湖とシオワッカで生成しているikaite自形結晶の大きさが何れも最大でも数ミリと小さく,大きな thinoliteの結晶が生成する条件の説明,更にthinoliteにあっては,現在Mono湖で見られるような尖塔状 のトウファをつくらず,丸みのあるマウンドを形成した環境条件とプロセスは不明のまま残った.. 文 献 Bishoff,J・LリStine,S・,Rosenbauer,R・JりFitzpatrick,J.A.andStaffordJrりT.W.(1993)Ikaiteprecipitationbymixingof Shorelinespringsandlakewater,MonoLake,California,USA,Geochim.Cosmochim.Acta57,p.3855−3865. 6.
(8) 本邦産玄能石とアメリカ西部PyramidLake産チノライト. CaliforniaStateParks(1997)MonoLakeTufaStateReserve,1sheet.. Coplen,T.B.,Kendall,C.andHopple,J.(1983)Comparisonofstableisotopereferencesamples,Nature,302,P.236−2. CouncilandBennett(1993)GeochemistryofikaiteformationatmonoLake,California:Implicationsfortheoriginoftu mound,Geology,21,p.971q974.. 伊藤 俊彦(1993)北海道足寄町,シオワッカの冷泉石灰華に産するmonohydrocalciteの産状,岩鉱,88(10),p.485−491. 倉田 亮(2001)世界の湖と水環境 成山堂書店182pp,. King,C(1878)Geologicalexplorationofthefortiethparallel,Vol.1,Washington,D.C.,U.S.GovernmentPrintingOff p.488etseq. 松尾 禎士(1989)地球化学 講談社サイエンティフィツク 266pp. 松葉谷 治(1991)熱水の地球化学 裳華房139pp.. 松本 良・PaulSchenk(1995)カナダ東部,ロツホ・マカンパ(前期石炭紀)の菓理石灰岩とトウーフア・マウンド,月 刊地球,Vol.17,No.9,584−589. 都城 秋穂(1979)地球科学16(世界の地質),都城秋穂編,岩波書店 p.99−142.. Russell,I.C.(1889)QuarternaryhistoryofMonoVa11ey,California,U.S.Geologicalsurvey,8thAnnualReport,P.267. Scholl,D.W.andTaft,W.H.(1964)Algae,COntributorstotheformationofcalcareoustufa,MonoLake,California:Jour. SedimentaryPetrology,Ⅴ.34,p.309−319.. Shearman,D.J.,McGugan,A.,Stein,C.andSmith,A.J.(1989)Ikaite,CaCO3・6H20,preCurSOrOfthethinoliteinth. tufasandtufamoundsoftheLahontanandMonoLakebasins,WeSternUnitedStates,GeologicalSocietyofAmericaBulleti Ⅴ.101,p.913−917.. Suess,E.,Balzer.W.,Hess,K.F.,Muller,P.].,Ungerer,C.A.andWefer,G.(1982)Calcium OrganicqrichsedimentsoftheAntacticShelf:Precursorofglendonite,Science,V.1216,p.1128−1131. WadaandOkada(2000)Natureandoriginofdeep−SeaCarbonatenodulescollectedfromtheJapanTrench,Amer.Assoc. Petro.Geol.Memoir.34,p.661−672.. 7.
(9) 伊 藤 俊 彦. 写真−la:Pyramid湖トウプア. b:同クローズアップ(thinolite). 写真−2:Mono湖トウフア. 8.
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