小学校における「英語教育」の諸相 ― 青森県の先行実践事例 ―
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第9号. 自由投稿論文. 小学校における「英語教育」の諸相 ― 青森県の先行実践事例 ― 小谷 遥奈*1・阿部 二郎*2. 概 要 本稿は、小学校低学年から正規の授業として「英語教育」を先行実施している自治体の実態を調査 した結果の報告である。調査対象として、青森県の「教育課程特例校」を取り上げ、県内の当該5つ の自治体への悉皆訪問取材をしながら実態調査を行った。各自治体の小学校における「英語教育」目 標や「英語教育」の課程、 「英語教育」経営方法と「英語教育」のための独自制度等について比較・ 検討した結果を述べた。 キーワード:小学校 外国語活動 英語教育 教育課程特例校 青森県. 1.はじめに 平成29年3月告示の小学校学習指導要領(移行措置 平成30年度、31年度)から、中学年に「外国 語活動」、高学年に「外国語科」が導入された。本調査研究の目的は、平成29年の告示に先立って「英 語教育」を教育課程に正式に位置づけて実践している学校( 「教育課程特例校」 )や自治体への調査を 実施し、指導方針や指導内容を明らかにしつつ先行実践事例を整理して、踏襲するべき知見と内包さ れている課題を探ることである。 「教育課程特例校」では、現行(平成20年告示)の「外国語活動」を含みつつも、それに加えて「英 語」を正式な授業として取り扱っている。筆者らは、そうした状況に注目して実態調査を実施したが、 本研究においては便宜上、 「英語に関する教育全般」を「英語教育」と表記する。 ところで、「教育職員免許法施行規則及び免許状更新講習規則の一部を改正する省令(平成29年文 部科学省令第41号) 」が平成29年11月17日に公布され、文部科学省初等中等教育局長 髙橋道和 に よる通知「教育職員免許法施行規則及び免許状更新講習規則の一部を改正する省令の公布について 29文科初第1113号 平成29年11月17日」によって伝達された。 改正点は多岐にわたるが、 「ウ 小学校教諭の普通免許状について(第3条第1項の表関係) ・教科 に関する専門的事項に外国語が追加された。 (第3条第1項の表備考第1号)さらに、各教科の指導 法(情報機器及び教材の活用を含む。 )の単位の修得方法について、1専修免許状又は一種免許状の 授与を受けようとする場合には国語(書写を含む。 ) 、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家 ───────────────────── *1. 札幌市立東光小学校. *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)函館. 197.
(3) 小谷 遥奈・阿部 二郎. 庭、体育、外国語についてそれぞれ1単位以上修得すること。2二種免許状の授与を受けようとする 場合にも、国語(書写を含む。 ) 、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭、体育、外国語の うち6以上(音楽、図画工作、体育のうち2以上を含む)についてそれぞれ1単位以上修得すること とされた。」でわかるように、小学校教諭の普通免許状取得のための「教科に関する専門的事項」と「教 科の指導法」に、それぞれ「外国語」が追加されている。ただし、この省令が施行されるのは平成31 年4月1日である。 従って、現職の小学校教員は、小学校教員養成教育課程で「教科専門科目 小学校外国語」や「外 国語(英語)教育の指導方法」についての教育を受けてきていない。そうした実情を反映してか、小 学校学習指導要領の完全実施に向けて「外国語の教科指導に不安がある。 」などの意見が多数あるこ とは各種の先行研究でも示されている。小谷自身も、実際に中学年から「英語教育(≒外国語活動+ 外国語) 」が始まった場合、学校としての指導方針はどのようなものになるのか、具体的にどのよう な指導をすれば良いのか懸念している。 小学校(初等教育)課程の、 「英語教育」についての先行研究は数多い。筆者らの研究テーマに関 わる直近の先行研究としては、宮古真澄が行った「青森県三沢市の小学校『英語活動科』についての 」に指定されていた 調査研究」1)がある。この研究は、「構造開発特別区域(現在は教育課程特例校) 三沢市で、「小学校 低・中学年における英語教育」を実現化するために「小学校1年生から教科と しての英語教育を導入」している先行教育実践の実態を調査報告したものであった。 青森県には、三沢市以外にも「英語教育」への取組を標榜した「教育課程特例校」が他にも複数存 在している。小谷は青森県出身なので、県下の地域状況についてある程度の知識がある上、青森県で 義務教育を受けた実体験もあり、青森県固有の“各種の事情”についても理解できると考え、青森県 の小学校における「英語教育」への取り組みの実態を明らかにする調査研究に取り組むことにした。 本研究における調査対象は、三沢市(平成17年認定)の他に、青森県内で「教育課程特例校」に指 定されている学校の所在する以下の自治体4つを加え、計5つの自治体への悉皆調査を実施した。 ・鶴田町 鶴田町教育委員会(平成18年認定) ・東通村 東通村教育委員会(平成18年認定) ・三戸町 三戸町教育委員会(平成21年認定) ・田舎館村 田舎館村教育委員会(平成26年認定) ※ 上記の特区指定は、すべて「小学校低・中学年における英語教育」として指定を受けている(平 成28年4月現在) 。 本研究目的は、以下の2つである。 ① 小学校中学年(3年、4年)での「外国語活動」の導入と、高学年(5年、6年)の「外国語(英 語)」の教科化に向けての動向、それに伴って生じると推測される各種課題を整理しつつ、完全実 施に際して解決するべき課題を明らかにする。 ② 青森県下の「教育課程特例校」での“英語教育(各校独自の英語教育) ”実践状況を調査し、実 践の成果と内包される課題、自治体独自の教育方針と文部科学省の提示する目標との相違点を明ら かにし、①の課題整理をふまえた上で、将来において全国の公立小学校の低学年(1年、2年)か 198.
(4) 小学校における「英語教育」の諸相. ら「英語教育」を行う制度の導入が可能であるか否か、その可能性について検討を加える。. 2.研究方法 ① 各種文献及び先行研究成果の調査と学習を行いながら、文部科学省、各種委員会議事録などでの 事実確認・経過・進行状況調査を行い、研究者(学者) 、英語の専門家、教員、保護者など多様な 立場から述べられた英語教育論について整理した。 ② 青森県内の5つの自治体と青森県教育委員会への訪問取材調査(平成28年)を行い、事例データ を集積して整理し、検討を加えた。. 3.訪問取材調査結果の概要 3.1 特例開始時期・教科 青森県の「教育課程特例校」では、 特例開始時期が異なる。調査した5つの自治体での「英語教育」 の教科名は、それぞれ「英語科」 「英語活動科」 「国際科」という3つに分類できる。 教科として「英語教育」を開始した際に、 「参考にした自治体はなし」という自治体が2つ、 「参考 にした自治体がある」という自治体は2つ、大学の有識者などと協力したという自治体が1つであっ た(表1.2参照) 。 表1 「教育課程特例校」の開始時期と教科名 管理機関. 学校数. 認定年月. 特例開始年月. 特例の参考. 教科名. 三戸町教育委員会. 5校. H21.2. H21.4. 東京都品川区. 「英語科」. 鶴田町教育委員会. 6校. H18.3. H18.4. 埼玉県戸田市 「英語活動科」. 三沢市教育委員会. 7校. H17.7. H18.4. なし. 「英語活動科」. 東通村教育委員会. 1校. H18.7. H19.4. 大学の有識者. 「英語科」. 田舎館村教育委員会. 1校. H26.12. H27.4. なし. 「国際科」. ※管理機関の並び順は、文部科学省『教育課程特例校について』に準ずる。. (小谷が作成). 表2 「教育課程特例校」の開始時期と教科名(特例開始年月順) 管理機関. 学校数. 認定年月. 特例開始年月. 特例の参考. 教科名. 三沢市教育委員会. 7校. H17.7. H18.4. なし. 「英語活動科」. 鶴田町教育委員会. 6校. H18.3. H18.4. 埼玉県戸田市 「英語活動科」. 東通村教育委員会. 1校. H18.7. H19.4. 大学の有識者. 「英語科」. 三戸町教育委員会. 5校. H21.2. H21.4. 東京都品川区. 「英語科」. 田舎館村教育委員会. 1校. H26.12. H27.4. なし. 「国際科」. ※管理機関の並び順は、特例開始年月の順に変更した。. (小谷が作成). 199.
(5) 小谷 遥奈・阿部 二郎. 表1.2から明らかになったことは、以下の3つである。 ① 青森県の「教育課程特例校」の承認時期は、平成20年の小学校学習指導要領の前(古いグループ) と後(新しいグループ)の2つのグループに大別できる。 ② 他の「教育課程特例校」を参考にしている場合は、当該の自治体が使用している教材を踏襲して 購入し、それを使用している。 ③ 訪問取材調査(平成28年)時点で、 「教育課程特例校」認定当時の担当者がいないため「詳細が わからない。」という回答の自治体もある。 3.2 「教育課程特例校」の目標 5つの自治体では、それぞれ小学校と小中一貫校での調査を行うことができた。指導方針や教育目 標などは、各学校の学校長や「英語教育」の指導担当教諭にインタビュー調査を行い、指導内容は実 際に授業を見学して調査をした。それぞれ特例の承認時期や教育目標をまとめた結果、以下のことが 明らかになった(表3参照) 。 表3 「教育課程特例校」の教育目標 管理機関と学校名 三戸町教育委員会 A校 (小中一貫目標). 教 育 目 標 外国語を通じて、言葉や文化に対する興味・関心を高め、積極的にいろい ろな考えや文化を持つ人々と関わり合い、相手意識をもってコミュニケーショ ンを図ることの楽しさや大切さを深めるとともに、 「聞く」 「話す」 「読む」 「書 く」などのコミュニケーション能力の基礎を育成する。 ○ 人とのかかわりを大切にし、コミュニケーションを図ろうとする態度を. 鶴田町教育委員会 菖蒲川小学校. 養い、コミュニケーション能力の素地を養う。 ○ 他者を尊重し、人の話をよく聞き、自分から自身を持って発表する積極 的な態度、国際的マナーを身につける。 ○ 英語に慣れ親しみ、使える英語、通じる英語の基礎を身につける。 ○ 英語に対する関心を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする 態度を身につける。. 三沢市教育委員会 K小学校. ○ 英語で表現されている事柄を適切に理解することができる。 ○ 自分の考えを、学習段階に応じて表現することができる。 ○ 英語や外国の文化に親しみ、日本語や日本の文化を見つめなおすことが できる。. 東通村教育委員会 東通小学校 (小中一貫目標). ○ 外国語を通じて言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケー ションを図ろうとすることができる。 ○ 考えや気持ち、情報を的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケー ション能力の基礎を身につけることができる。 ○ 外国語の音声や基本的な表現を聞いたり話したりする楽しさを体験させ. 田舎館村教育委員会 田舎館小学校. ることによって、コミュニケーションを図ろうとすることができる。 ○ 外国の言語や文化に触れさせたり、異なる文化をもつ人々との交流を体 験させることによって、外国に対する理解を深めることができる。. ※三沢市と三戸町については学校名を伏せる。. 200. (各自治体資料から小谷が作成).
(6) 小学校における「英語教育」の諸相. 取材調査から明らかになったことは、以下の5つである。 ① 他の自治体の「教育課程特例校」を参考にしている場合は、目標や指導法についての助言を受け たり、授業参観を行ったりしている。 ② 他の自治体の「教育課程特例校」を参考にしていない場合は、独自に全てのカリキュラムを創り 上げている。 ③ 教育目標としては、 「コミュニケーションを図る」ことが5つの自治体全てで共通している。 ④ 「外国の文化に触れる、異なる文化に親しむ」といった「文化の違いに関する目標」も、5つす べての自治体で共通して設定されている。 (表3、太線部分) ⑤ “英語力”に関して教育目標として記載している(表3、波線部分)のは、前述の“古いグルー プ”では鶴田町、三沢市、 “新しいグループ”では田舎館村の3つであった。つまり、過去10年以 上「小学校における英語教育導入の在り方」が様々に議論されてきていながら、 “英語力”育成の 目標化については、承認時期の早い遅いにかかわらず大差なく、 “英語力”育成の価値についての 十分な認知・共有化が成されていないとも解釈できる状況がある。 3.3 指導教員体制 「教育課程特例校」では、指導教員体制に関しても「特例」が認められるため、自治体ごとに体制 は異なるが、調査した5つの自治体ではALT、AET、CIR2)が配置されていたり、独自に専科教員を 雇用したりしていた(表4参照) 。 表4 「教育課程特例校」の英語に関する指導教員 管理機関と学校名. 指導教員(T1). 指導教員(T2、T3). 三戸町教育委員会. 学級担任. ALT 2名(JET 1名、町採用1名). 学級担任. CIR(JETプログラム). 学級担任. AET10名、コーディネーター1名. 英語専科1名. ALT 1名(インタラック)、担任教員. 学級担任. 国際科担当学習支援員(村採用2名)、. A校 鶴田町教育委員会 菖蒲川小学校 三沢市教育委員会 K小学校 東通村教育委員会 東通小学校 田舎館村教育委員会 田舎館小学校. ALT(JETプログラム). ※三沢市と三戸町については学校名を伏せる。. (小谷が作成). ※リーダーとして授業を展開する教員をT1とする。. 取材調査から、以下の3つが明らかになった。 ① 「ティームティーチング(TT)で全体指導を行い、リーダーとして授業を展開する教員(T1) が学級担任である。 」という指導体制を採っている自治体は、5つのうち4つ(80%)であった。 ② 全ての自治体で、自治体への新任教員(新規採用者・異動による赴任者)に研修を行ったり、校 内研修として授業を見せ合ったりして指導力の向上を図っている。 201.
(7) 小谷 遥奈・阿部 二郎. ③ 東通村のみ学級担任が補助教員として機能するが、英語専科教員が小学校で指導する事例は青森 県の「教育課程特例校」の中でも他に例はなく、今回の調査結果でも珍しい事例であった。全額村 費負担による講師雇用のため、このような体制を全国の公立小学校で導入するのは財政問題や人材 の確保などの観点からも難しいと考えられる。もし仮に、全国の自治体毎に1名ずつ専任の新規教 員を配置するとしても1916名が必要になる。 (都道府県基本データ:2017年10月10日現在の自治体 構成より)自治体といっても人口や学校数が多い自治体には、英語専科教員1名程度の増員では効 果をあまり期待できないだろう。 3.4 年間授業時数と使用教材 年間授業数は、高学年の5、6年生は学習指導要領に定められている公立小学校の「外国語活動」 の授業数(標準授業時間数)と同じであった。1~4年生に関しては自治体ごとにばらつきがある。 それぞれ「英語」以外にも特例で定めている教科3)があるため、それらを配慮した結果としての授業 時間数であった。学習指導要領に定められている標準授業時間数よりも、 「英語」の分だけの純増で あったり、他の教科と組み合わせた結果としての増加だったりと、 「教育課程特例校」だからこそ可 能となる授業時間数の設定であった。 (表5参照。 ) 表5 「教育課程特例校」の年間授業時間数 管理機関と学校名. 教科名. 1年. 2年. 3年. 4年. 5年. 6年. 三戸町教育委員会. 「英語科」. 20. 20. 35. 35. 35. 35. 「英語活動科」. 15. 15. 30. 30. 35. 35. 「英語活動科」. 34. 35. 35. 35. 35. 35. 「英語科」. 34. 35. 35. 35. 35. 35. 「国際科」. 34. 35. 30. 30. 35. 35. A校 鶴田町教育委員会 菖蒲川小学校 三沢市教育委員会 K小学校 東通村教育委員会 東通小学校 田舎館村教育委員会 田舎館小学校. (+5) (+5) (+5) (+5). ※三沢市と三戸町については学校名を伏せる。. (小谷が作成). ※田舎館村小学校の「(+5)」とは「国際交流活動」の授業時間を指す。. 文部科学省は、学習指導要領(平成29年告示)から新設した法定教科「外国語(英語) 」では5、 6年で年間70時間の授業時間数を標準と定めている。これに対して、青森県の「教育課程特例校」の 先進的な取り組みでは、 「英語」の授業時間数は最大でも40時間である。 使用教材について(表6参照) 、文部科学省の「Hi, friends!」を使用しているのは三戸町、鶴田町、 田舎館村の5、6年生のみであった。青森県の「教育課程特例校」では「mpi 松香フォニックス」 (以 下、 「松香フォニックス」と表記する。)を使用している自治体が多かった。鶴田町のCIRの方に伺っ たところ、「いろいろな教材を見てきたが、 『松香フォニックス』がいちばん小学生に適しており、指 202.
(8) 小学校における「英語教育」の諸相. 表6 「教育課程特例校」の使用教材 管理機関と学校名. 1、2年生. 3、4年生. 5、6年生. 三戸町教育委員会. Popper step. Super step. 文部科学省. A校. KIDS. 鶴田町教育委員会. mpi. mpi. 文部科学省. 菖蒲川小学校. 松香フォニックス. 松香フォニックス. Hi, friends!. 三沢市教育委員会. mpi. mpi. mpi. K小学校. 松香フォニックス. 松香フォニックス. 松香フォニックス. 東通小学校. 独自教材. 独自教材. 独自教材. 田舎館村教育委員会. mpi. mpi. 文部科学省. 田舎館小学校. 松香フォニックス. 松香フォニックス. Hi, friends!. Hi, friends!. 東通村教育委員会. ※三沢市と三戸町については学校名を伏せる。. (小谷が作成). 導もしやすい」と述べていた。また鶴田町では、参考とした埼玉県戸田市で「松香フォニックス」を 教材として使用していたため、鶴田町でも導入したとのことであった。参考にした自治体がある他の 青森県の「教育課程特例校」では、特例認定当初のことなので教材選定の詳細については不明という 回答であった。. 4. 考 察(結論に代えて) 青森県の「教育課程特例校」で「英語教育」を行った成果と課題は、以下のように総括できる。 「教育課程特例校」の制度に則り、 「標準の教育課程」を変更して実践しているため、三沢市と鶴 田町が“課題”として挙げる“他の教科の授業時間数の削減”に関しては、物理的に仕方のないこと だと考えられる。この「授業時間数の問題」については、後述する。 「教育課程特例校」の教育実践成果として挙げられているのは、以下の3つに集約できる。 ① 英検Jr.の正答率の向上や、発音を聞き取ることができている。 ② 英語の学習に対する抵抗感が減少されている。 ③ 英語そのものを楽しんでいる。 「教育課程特例校」で企画され、試行錯誤を経ながら構築・蓄積されてきた実践事例は、予算の問 題、教員の指導組織体制などを考えれば、必ずしも全国の公立小学校へ導入できる一般的で普遍的な 内容や方法ばかりとは言えなかった。それは実践計画の最終目的が、一般的で普遍的な内容や方法の 探求にあったわけでは無いからである。あくまで、当該の自治体や学校の実態を踏まえて、それに対 応する最良の内容と方法を模索した成果として示されたものだからである。 しかし、教育方針や教育目標の設定の在り方、指導法・評価方法の選択も含めて、小学生に適した 教育内容や実践方法を何年もかけて試行錯誤して産み出してきているため、全国の公立小学校でも参 203.
(9) 小谷 遥奈・阿部 二郎. 考にできる部分が沢山あることが確認できた。 青森県の5つの自治体がそもそもなぜ特例を申請したのか、その動機は各自治体で詳細は異なるも のの、 「児童が英語に親しめるように」 、「児童が英語を楽しそうに話すのを見て」などどれも児童の 英語の関心を高めるためのものであった。ある自治体では海外の学校と姉妹校提携をしていて交換留 学を行ったり、別の自治体では独自に国際交流の活動の場を設けていたりしているため、 「その際に よりよい活動ができるように全校一貫で授業として行う。 」というものも動機に含まれていた。 低学年(1、2年)からの導入を行った理由として、小中一貫校のある自治体での調査結果からは、 小学校課程と中学校課程のより円滑な接続を図るため、小学校1年生から英語を授業として行うこと で英語の学習に対する抵抗をなくすという考え方が回答された。また、中学校の英語教員が小学校の 授業を指導するという取り組みも行われており、小学校の教員が英語の指導方法について学ぶことが できたり、中学校のような「空き時間」が生まれるため、授業の準備がしやすくなるというメリット についての回答もあった。 また、ある自治体では、保育園や幼稚園で英語を使った発表会が行われており、就学前の幼児が楽 しそうに英語を話すのを見て、 「小学校高学年(5年、6年)になるまで英語から離れるのはもった いない」と当該自治体の行政関係者が感想を持ったことが小学校低学年からの「英語教育」導入を策 定した理由の1つであるということであった。 それぞれの自治体の環境や、英語に触れる機会も異なるが、様々な活動を通して「児童の英語への 興味関心をしっかりと把握して目標や指導を決めている」ことが共通していたといえる。そして、児 童が楽しみながら「英語」に触れること、リスニング力やコミュニケーション能力が客観的な尺度で 比較しても向上していることが確認できているなど、全国の公立小学校でも目指すべき成果が生み出 されていることは高く評価するべきである。 青森県下、5つの自治体における「教育課程特例校」の実践事例、青森県としての“小学校におけ る英語教育”施策、文部科学省の“小学校における英語教育”施策の3つを加味して検討した結果、 筆者らが最終的に「結論」として導き出したのは、以下の4点である。 ① 小学校高学年に向けた法定教科「外国語(英語) 」が、 「コミュニケーション能力の育成」を中心 とする教育目標の下で設置されるのなら、設置には意味がある。 ② 小学校での“英語教育”の成功のためには、それを担う小学校教員の意識の在り方が大きな鍵を 握っていると言える。少なくとも、実施する以上は前向きに“児童と共に英語を学ぶ”位の積極的 に取り組む意識と臨む姿勢が必要であろう。 ③ 外部人材(ALTやAETなど)を採用する際には、明確な基準を設ける必要がある。可能な限り、 教育学の知識や教育実践経験がある人材を登用できるように配慮するべきである。 ④ 「教育課程特例校」で産み出されてきた“英語教育方法”や取り組み(アプローチ)は、全ての 一般的な公立小学校に適しているとは言い難い。それは物理的教育環境や地域環境が異なるからで ある。けれども、 “教科の設置趣旨”を活かした効果的な取組をしようとする際には、大いに参考 にできる部分もある。そうした先行実践の知見を積極的に学び、自分たちの実践に取り入れる可能 性を探るべきである。. ・ ・・・. 最後に、前述した「 「授業時間数の問題」について述べる。平成32年(2020年)度から完全実施さ 204.
(10) 小学校における「英語教育」の諸相. れる、新設法定教科「外国語(英語) 」の標準授業時間数は年間70時間と定められている。先進的に 何年も前から試行錯誤をしながら実践している自治体ですら、最大40時間程度の「英語教育」等を組 み込むことでも“他の教科の授業時間数の削減”という“課題”に直面している。少なくとも、現在 の学習指導要領(平成20年告示)で定める総授業時間数の下では、実効ある実践が困難となるのは明 らかである。そのため、次期学習指導要領(平成29年告示)では、従来の5、6年生の「外国語活動」 35時間と新たな35時間分の授業時間数を併せて総授業時間数を設定している。そのため、小学校5、 6年生の総授業時間数は1015時間(1単位時間45分間)にまで増加している。より正確には、小学校 4年生から総授業時間数が1015時間(1単位時間45分間)に増加している。 中学校における総授業時間数が、1015時間(1単位時間50分間)であることを考えれば、小学校教 育課程における授業時間確保が限界に来ているようにも感じられる。 注:小中学校間での「実際の授業時間の差」は、1015単位時間で換算すれば5分×1015÷60=84.6 時間となる。1週間あたりに換算すると84.6÷35=2.4時間 1日あたりで換算すれば、2.4÷5= 0.48時間になる。従って、単純計算上は1日につき28.8分程度の授業時間の差が生まれることに なるが、小学校4年生(10歳)と中学校3年生(15歳)の1日の授業時間数が29分程度しか違わ ない(平成20年告示の現行学習指導要領では、小学校6年生は中学生と比較して単純計算上は1 日あたり37.8分短い。)という状況が妥当であるのか否か、別の問題として検討するべき問題で ありそうである。 上記の「授業時間数」の問題と関わって、小学校の教育課程全体における「英語教育」の位置づけ と、他教科とのバランスの取り方(授業時間数の配分比重)については、今後も引き続き“課題”と して残り続けることが考えられる。この問題について、以下、若干の指摘をしておく。 日常の学校教育活動における出来事として、学校行事等により「週の時間割が変更される」のはよ くあることである。ところが、「外国語(英語) 」の場合は外部講師(非常勤講師)としてALT等が 関わることになるため、学校事情だけで授業配置や授業時間を安易に変更することは難しくなる。そ の結果として、教科「外国語(英語) 」の授業時間は安定して確保される可能性が高いことになる。 つまりその結果として、その分だけ「他の教科の授業時間数の削減」に繋がりかねないことが懸念さ れるのである。これは、青森県での先行実践事例成果から想定できる問題であり、将来的にも看過す るべき問題ではないだろう。. 5.おわりに 本研究を推進するに当たって、青森県議会の議事録も調査したが、 「教育課程特例校」についての 詳細な質疑応答記録はほとんど確認できなかった。そのため、県下の「教育課程特例校」の教育実践 の成果を青森県全体の“英語教育”に活かす施策や是非論などについて、行政施策レベルでの動向に ついては確認することができなかった。 青森県の「教育課程特例校」の取り組みや成果、 「見出された課題」を受けて、青森県全体として どのように今後の「英語教育」を進めていくべきだと考えているのか、青森県教育委員会への調査も 必要がありそうである。少なくとも、 県下でこれだけ先導的な取り組みが行われてきているのであり、 そこで生み出された貴重な知見は、是非、県全体で共有しつつ積極的に活用する方法を模索するべき であろう。 205.
(11) 小谷 遥奈・阿部 二郎. (本研究報告は、小谷の北海道教育大学教育学部平成28年度卒業研究論文「小学校における法定教科『外国語(英 語)』の必要性に関する研究 -青森県『教育課程特例校』の先行実践事例を参考として-」<函館校 阿部二郎研 究室所蔵>を基にして、青森県の当該自治体への悉皆調査部分について整理し直し、阿部の意見も加えて再検討・ 再構成した上で共同執筆したものである。 ). 6.謝 辞 本調査研究に際しては、青森県の当該自治体、学校に懇切丁寧な対応をしていただき、詳細なご教 示を賜った。また、貴重な資料も提供していただいた。匿名を前提として取材に応じていただいてい るので、逐一お名前を記してお礼申し上げないが、この場をお借りしてご教示下さった皆様に厚く御 礼を申し上げたい。 註 1)宮古真澄「青森県三沢市の小学校『英語活動科』の実態に関する調査研究」(北海道教育大学教育学部平成23年 度卒業研究論文) 。 (函館校 阿部二郎研究室所蔵)。 2)・ 「外国語指導助手(ALT) 」 外国語指導助手(Assistant Language Teacher 以下,ALTと表記する。)は主に学校,または教育委員会 に配属される。日本人外国語担当教員の助手として外国語授業に携わり,教育教材の準備や英語研究会のよ うな課外活動などに従事する。 ・ 「英語指導助手(AET) 」 英語指導助手(Assistant English Teacher)はALTと似ているが,ALTは英語に限らず外国語を指導する のに対し,AETは英語が専門となっている。今回の調査対象である自治体でAETが配置されているのは三沢 市のみであり,10名のAETは三沢市が独自に委嘱している。彼らは米軍基地関係者や,教育経験者である。 ・ 「国際交流員(CIR) 」 国際交流員(Coordinator for International Relations)は,主に地方公共団体の国際交流担当部局等に配属 され,国際交流活動に従事する。その職務内容から,応募者には高い日本語能力が求められる。 ※ 外国語指導助手(ALT) ,国際交流員(CIR)はJETプログラムの参加者である。このプログラムは, 「外国語教 育の充実と地域レベルの国際交流の進展を図ることを通し,日本と諸外国との相互理解の増進と日本の地域の国際 化の推進」を目的として,昭和62(1987)年度に開始されたものである。. 参考文献 1)小谷遥奈「小学校における法定教科『外国語(英語)』の必要性に関する研究 -青森県『教育課程特例校』の 先行実践事例を参考として-」 (北海道教育大学教育学部平成28年度卒業研究論文) ( 。函館校 阿部二郎研究室所蔵) 。. 206.
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