巻頭言
―地理学研究室の近況ならびに,地理学の考え方や方法について―
吉本 剛典
兵庫教育大学地理学研究室では,白井義彦先生が 1994(平成 6)年 3 月,藤井宏志先生 が 2000(平成 12)年 3 月,成瀬敏郎先生が 2008(平成 20)年 3 月にご退職されました。3 人の先生とも,その後お元気で,ありがたいことに折々ご連絡をいただき,地理学研究室 のことを気にかけていただいております。 2007(平成 19)年 7 月には,南埜猛先生が突然発病され,1 年 9 か月の長期間にわたり, 入退院と治療を続けてこられました。したがって,2008(平成 20)年度は,成瀬先生の担 当授業に加え,南埜先生の担当授業にも非常勤講師をお願いすることになりました。非常 勤講師の先生方には,本務に大変お忙しい中,熱心に担当していただき,お陰様で,自然 地理学と地誌学の授業を滞りなく全うすることができました。 学部 自然地理学概説・演習 加藤茂弘先生 兵庫県立人と自然の博物館 大学院 自然地域論,地誌学特論(夜間) 竹部嘉一先生 大阪府立八尾翠翔高等学校 学部 地誌学概説,地誌学演習,社会認識と地理情報 室谷茂先生 大学院 地誌学特論(昼間),地誌学特論演習 神戸市立摩耶兵庫高等学校 非常勤講師をお招きするに当たっては,それに伴う手続き,段取りなど,諸々の連絡, 調整の必要が生じます。また,どちらかというと本質的とは思えない,困難な局面もあっ たりして,些細なことでも手間暇のかかることがありました。非常勤講師の先生方には, あらためて感謝申しあげたいと思います。 地理学研究室にとって,明るい話題もあります。まず,南埜先生がその後順調に快復さ れ,2009(平成 21)年 4 月から完全復帰されることです。ご本人のこれまでのご苦労と ご努力に思いを致し,心よりお慶び申しあげたいと思います。 明るい話題その 2,研究報告第 14 号に,地理学研究室に関係する 4 人が論文を寄せてく れました。植原優子さんは,大学院社会系コースおよび小学校教員養成プログラムの課程 3 年間を修了し,4 月から兵庫県丹波市和田小学校の新任教諭となります。廣中悠里子さん は,学部総合学習系コースを卒業し,4 月から広島県公立小学校の新任教諭です。 中国内モンゴルからの留学生 2 人のうち,陳長江さんは,2007(平成 19)年 10 月から 1 年半の研究生期間を終え,2009(平成 21)年 4 月に本学大学院に入学します。梁海山さん は,2007(平成 19)年 3 月に本学大学院を修了し,続く 4 月から首都大学東京の大学院博 士課程に進学しています。 という訳で,掲載論文の中から,彼女ら,彼らが依拠し駆使した地理学の考え方や方法 を抽出し,この際,ごく一般的にまとめてみました。 皆様の益々のご活躍をお祈り申しあげます。 地理学の考え方 ・人間は,社会の中の生活者であると同時に,社会を外から眺める観察者でもある。 ・マクロとミクロ,一般普遍と個別具体,共通性と独自性,遍在と偏在など,相対的,双対的,相関的,複眼的な視点をもつ。 ・行政,支配者,企業家,供給者といった(上からの)立場と,地域住民,庶民,一般人, 消費者といった(下からの)立場の両方から見る。 ・日常生活圏から(形而上学的)世界まで,地域の広がりと空間的スケールを考える。 ・現実世界に生起する社会事象には,自然環境的要因,文化的要因,経済的要因など,多 様な要因が関与する。 ・地域と人間との関わりには,居住,労働,消費生活,自己実現,レクリエーションなど, 多様な局面がある。 ・地域の産業振興による活性化とともに,居住する人々の安全,安心,満足を保証する生 活の質が重要である。 ・経済発展は人々の衣食住の向上のため,もちろん大切だが,同時に,歴史や風土,人々 の精神生活を支える文化活動も忘れてはならない。 ・生産や消費のための施設や設備など,地域における資産の蓄積(ストック)だけでなく, 地域間の人やモノの移動,流動(フロー)によっても,地域は大きく変化する。 地理学の方法 ・自然,人文地理学や社会科学の成果を踏まえて,問題の所在を明らかにする。 ・実態調査や地域調査をとおして,現代社会の課題に迫る。 ・社会経済指標などの統計的分析や地図化により,具体的に表現し考察する。