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リカード中立命題の日本経済での検証( 1)
GMMを用いたEuler方程式推定による検証
矢 野 光
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*やの・あきら:敬愛大学国際学部教授 マクロ経済学・産業連関分析
ProfessorofMacroeconomics,FacultyofInternationalStudies,KeiaiUniversity; macroeconomicsandinput-outputanalysis.
はじめに
今日、日本経済の財政赤字の累積は膨大な額に達し、最近時点での債務 残高は655兆6,840億円(2003年 9月末現在)という数字になっている。この ような多額の財政赤字が果たして許容されるものなのか。しかしながら日 本で財政赤字の国民経済に与える影響についての実証分析が意外と少ない のは不思議なことである。そこで本稿は、財政赤字の日本経済への影響を 分析することを最終目的として、Ricard中立命題が日本経済で成立する か否かの検証を行った。 米国では、1980年代財政赤字が継続した時代(所謂双子の赤字現象)に、経済学者の間で多くの論争が行われ、・goldenageoftheliteratureon Ricardianequivalence・と呼ばれる状況が生まれた。更にヨーロッパ諸国 でも、程度の差はあれ財政赤字の解消が重要な政策課題であったので、米 国での論争に積極的に参加した。論争の成果は現実のマクロ経済政策に多 少なりとも投影されてきたと思われる。現在、欧米先進諸国のマクロ経済 政策の中心は、財政政策から金融政策に移行しつつある。 他方日本では、最近までマクロ経済政策の中心は財政政策であった。こ れにより膨大な公債発行が累積したことは、冒頭に述べた通りである。日 本では Keynes政策があくまで中心で、これと対峙する Ricard中立命題 の研究は低調であったと言える。無論、日本でもRicard中立命題を日本に 適用し分析を行った例はある(本間ほか 1977、井堀ほか 2002)。しかし財政 赤字に関する実証研究は、諸種の角度からより精力的に行われて然るべき と思われる。 分析内容としては、前半の理論フレーム編と後半の実証テスト編に二分 される。理論フレーム編(本号)では、Ricard中立命題の理論の発展経過 をサーベイし、後半の実証テスト編(次号以降)では前半の理論フレーム を踏まえて、日本での Ricard中立命題に関する実証分析を行う。
1.Ri
cardi
anEqui
val
enceの骨子
RicardianEquivalenceとは何か。これに関して諸種の説明は可能であ るが、 最も簡潔に表したのは、 経済成長論としての Ramsey,Cass, Koopmansモデルである。これは簡潔であるばかりでなく、現在のマクロ 経済学の潮流となっている代表的個人による動学的最適化を基礎とし、そ の中で Ricardの中立命題(等価定理とも呼ばれる)を位置付けている。まず 当該モデルを援用して Ricard中立命題の要旨を述べてみよう(1)。 Ricard中立命題を定式化するには、基本的には 3本の方程式が必要と なる。それは、(a)家計の効用関数、(b)家計の予算制約式、(c)政府 の予算制約式である。Ricardの中立命題は、家計と政府の予算制約の中 で、消費を通して家計の効用を最大化する過程で導出される。 A.家計の効用関数 家計の効用関数は、 U・
・
t・ 0∞e -ρtu(C(t))L(t) H dt (11) で与えられるものとする。u(・)は家計構成員の時点毎の効用水準を示 す時点効用関数である。記号としては、C:家計の各構成員の消費、L: 経済全体の総人口、H:世帯数、ρ:時間選好率(主観的割引率)とする。 また時点効用関数は、 u (C(t))=C(t・ 1・・ 1・・,θ>0,ρ-n-(1-・)η> 0 (12)で与えられる。これは、周知の相対的危険回避度一定(Constant-Relati
ve-Risk-Avertion:CRRA)の効用関数と呼ばれているものである。ηは技術
進歩率を表し、θは相対的危険回避係数である。・は Cとは独立の関係を
前提としている。なお、ρ-n-(1-・)η>0は、生涯効用が発散しないこ
とを意味している。この条件を設定しないと、家計は無限に効用水準の上 昇を達成出来ることになり、家計の最大化問題は解を持ち得ない。
B.家計の予算制約 家計の予算制約は、生涯に亘る消費の現在価値が初期時点に於ける財産 と生涯の労働所得の和を超えないことである。これを式で表現すれば(1 3)式のように定式化される。記号としては、効率単位当たりの消費を小 文字の c(t),wは効率労働当たりの実質賃金とする。なお、家計の予算制 約式を定義するには、消費等の経済変数を現在価値で表すための割引ファ クターを予め定義しておく必要がある。これは rを実質利子率とすれば R(t)=
・
・= 0t(τ)dr τのように表される。・
・ t= 0e -R(t)(tc)e(n+η)tdt≦k(0)+・
・ t= 0e -R(t)w(t)e(n+η)tdt (13) C.政府の予算制約 政府支出の財源調達手段は、税と国債発行の 2種類とする。政府の予算 制約は、政府支出の現在価値が初期時点における資産に税収の現在価値を 加えたものと等しいか、或いはそれより小さくなければならない。但し、 ここでは政府の予算制約は等号で満たされるものとする。不等号では資産 が永久に増大し続けるケースも出てくることになるが、現実には、このよ うなことは有り得ない。この仮定の下では政府の予算制約は、(14)式と なる。記号としては、G,T:効率労働単位当たりの政府支出及び税、b: 労働効率単位当たりの政府債務残高である。・
・ t= 0e -R(t)G(t)e(n+η)tdt=-b(0)+・
・ t= 0e -R(t)T(t)e(n+η)tdt (14) 政府の予算制約式の等号が成立する場合、(14)式から(15)式の関 係が導かれる。 lim s・ ・e -R(s)e(n+η)s(sb)=0 (15) これは時点 0の労働効率(産出物)単位で評価した政府の債務残高の価 値は、いずれゼロに収束しなければならないことを意味している。均斉成 長経路上においては、rは n+ηより大きいから e-R(s)e(n+η)sは徐々に減少し ていく。D.政府活動を考慮した場合の家計の予算制約 家計において税負担が存在する場合、家計の予算制約としては、消費の 現在価値は初期資産に課税後労働生涯所得の現在価値を加えた額以下にな る必要がある。ここで初期資産は、物的資本と債券の双方から構成されて いるとする。効率労働単位当たりの変数で表現すると、条件式は(16) のように定式化が可能である。kは労働の効率で表した資本量、即ち労働 の資本装備率である。
・
・ t= 0e -R(t)(tc)e(n+η)tdt≦k(0)+b(0)+・
・ t= 0e -R(t[w) (t)-T(t)]e(n+η)tdt (16) 政府の予算制約(16)式は、税の現在価値が初期債務 b(0)に政府支 出の現在価値を加えたものに等しいことを意味している。故に、(14)式 と(16)式から、以下の(17)式が導かれる。・
・ t=0e -R(t)(tc)e(n+η)tdt≦k(0)+・
・ t=0e -R(t)w(t)e(n+η)tdt-・
・ t=0e -R(t)G(t)e(n+η)tdt (17) (17)式から、家計の予算制約が政府支出の現在価値によって表現する ことが可能であり、加えて各時点の政府支出の為の資金調達手段の別(税 か公債か)は関係しないことが判明する(〔17〕式からTとbが消去されている)。 以上が Ricard中立命題の骨子である。即ち、家計に影響を与えるのは、 政府支出の経路のみであり、政府の資金調達手段の意志決定は家計・経済 全体に影響を与えないのである。2.Ri
card中立命題理論に関するRobertJ.Barroの貢献
(1) Davi
dRi
cardの公債発行に関する見解
現在経済学で Ricard中立命題と呼ばれている理論は、古典派経済学者
ない。 Ricardの古典的経済論文を現代に再構成して紹介したのは、 RobertJ.Barroである。だが Barro自身も、自分が展開した公債発行の
経済効果に関する理論が、Ricardの公債論と関係を有していることに気
付かなかった(2)。Barroが「Ricard中立命題」を初めて発表した論文は、
・AreGovernmentBondsNetWealth?・であり、1974年 JournalofPolitical
Economy誌に掲載された。しかし Barroが論文で主柱としている重複世代
間の理論フレームは、P.A.Samuelsonと P.A.Diamondから啓発を受けて いた(3)。Barroの理論展開を Ricardと結びつけて RicardianEquivalence と呼んだのは、Buchanan(1976)である(4)。 さて、Ricard自身は公債発行の効果に関してどのような見解を述べて いるであろうか。日本では意外にこれについて触れられていない。 Ricardは、政府負債に関して二つの論文で言及している。一つはリカー ドウ全集(5)第Ⅰ巻『経済学および課税の原理』(Ricard1817)の中の第17章 「原生産物以外の商品に対する租税」と、もう一つは同全集第Ⅳ巻所収の 「公債制度論」(Ricard1820)(6)である。このうち後者の公債制度論の方が、 鮮明に Ricardの見解が表されている(原書186-187ページ)。その重要箇所 を引用すると以下の如くである。 「いまここに公債をもたない国があり、そこに戦争が勃発して二〇〇〇万ポ ンドの追加支出を伴ったと仮定しよう。この追加的歳出を調達するためには 三つの方法がある。その第一は毎年二〇〇〇万ポンドの租税を賦課し、平和 回復のときにはこれを全廃することである。その第二は、その金額だけ毎年、 公債発行によってまかなうことである。この場合、もしその契約利子が五パー セントであれば、第一年目の経費のために毎年一〇〇万ポンドの租税が永久 に賦課され、しかもそれは平時においても、またそれは将来の戦争において も免除されることがないであろう。……(中略)……戦費調達の第三の方法 は、前の方法と同じく毎年必要な二〇〇〇万ポンドを公債発行によってまか なうのだが、租税徴収によって利子以外に一定の基金を蓄積し、それが複利 で増殖されて、ついにはその公債額と同額になるような仕組みを持つ方法で ある。……(中略)……経済の面では、以上の方法に実質的差異はない。と いうのは二〇〇〇万ポンドを一度に支払うのも、毎年一〇〇万ポンドずつを 永久に支払うのも、または一二〇万ポンドを四五年間支払うことも、まった
く同じ価値である。……(中略)……金額はいくらでもいいのだが、かりに二 万ポンドを所有している人に年額五〇ポンドを永久に支払いつづけることと、 一〇〇〇ポンドの租税を一度に支払うのとは負担としては同額だと信じさせ るのは難しいであろう。彼は、年額五〇ポンドが子孫によって支払われるの であり彼が支払うのではないであろう、という漠然とした考えをもつもので ある。しかし、もし彼がその財産を息子に残し、しかもその財産とともに永 久的な租税をも残すとすれば、彼がこの租税負担付きの二万ポンドを息子に 残すことと、租税負担なしの一万九〇〇〇ポンドを残すこととどんな違いが あるというのであろう。われわれの公債利子負担を子孫に残すとか、または こうした利子負担の一部分を彼から免除するとかいった議論は、他の分野の 知識人によってもしばしば論ぜられるが、ありのままに告白すれば、われわ れはこうした議論にはなんらの重要性も認めない」。 以上が Ricard自身が中立命題に関連して言及している部分である。当 該箇所には現在議論されている Ricardの中立命題と近い部分があること
はある程度認められる。故に RicardianEquivalenceの理論は後世 Barro
が確立したとしても、Ricardianという用語は決して不適切とは言えない(7)。
(2) Geral
dP.O・
Dri
scol
l
,Jr.の指摘
だが注意すべきは、Ricard自身の著作を精読すると Ricard中立命題と
全く異なった見解が引き出せるような論述も見出せることである。この点
では Ricardの論文は曖昧さを残している。 これを指摘したのは、
O・Driscoll,Jr.(1977)である。彼は Ricardの「公債制度論」の中の以下の
ような点に着目した(リカードウ全集Ⅳ巻、原書187188ページ)。 「しかし租税を納める国民は、この事情をけっしてこのようには評価しない し、したがって彼らの個人的事情を右の論理のようには処理しない。われわ れはまた、戦争の圧迫を、そのためにその時に租税として支払うよう要求さ れる金額に比例して感ずるだけであり、この租税がおそらく何年間つづくで あろうといったことは反省しないものである。金額はいくらでもいいのだが、 かりに二万ポンドを所有している人に年額五〇ポンドを永久に払いつづける ことと、一〇〇〇ポンドの租税を一度に支払うのとは負担としては同額だと 信じさせるのは難しいであろう。……(中略)……もし個人が所得税として 一〇〇〇ポンドを支払うように要求されたとすれば、彼はおそらくその全額 を彼の所得から節約しようと努力するであろう。ところが、もしこの戦時税 のかわりに公債が発行され、その利子のためにわずか五〇ポンドの年間所得
税の徴収を受けるだけのばあいは、戦費全額におよぶ節約をしようとする努 力が払われて、国民の資本はなんら減少せずに維持されるからである。他の 場合にはこの経費の利子部分を節約する努力がなされるにすぎず、それゆえ 国民の資本はその額だけ減少することになる」。
O・Driscoll,Jr.は、更に Ricardの『経済学および課税の原理』にも言及 している(原書247248ページ)。 「仮に、ある戦争の経費が年額四〇〇〇万ポンドであり、ある人がその年経 費にたいして寄与しなければならない分担が一〇〇ポンドであるとすれば、 彼は、彼の分けまえを一時に求められるさいには、すみやかに彼の所得から 一〇〇ポンドを節約しようと努めるであろう。公債の制度によれば、彼はた んにこの一〇〇ポンドの利子すなわち年額五ポンドを支払うことを求められ るにすぎない、そして彼は彼の支出から五ポンドを節約するだけで十分であ ると考え、そこで自分は以前と同様に富んでいるとの信念で自らを欺くので ある」。 このように Ricard本人は、純粋な経済の理論面では戦費を調達するの に徴税に拠ってでも公債に拠ってでも同じことであるが、納税者は「財政 錯覚(fiscalillusion)」に悩むであろうことは認めていた。即ち Ricard自身 は、必ずしも公債と徴税の効果は同様と評価しているのではなく、従って
・Ricardian・ではないという皮肉な解釈も可能である。
(3) R.
J.Barroの中立命題の定式化
Barroが ・AreGovernmentBondsNetWealth?・で主張したかったこと は、まず有限の生存期間での家計も、世代から世代への移転(遺産譲渡) を考慮すると無限の生存期間を有する家計とみなすことが可能である。そ の下では公債は家計にとって純資産ではなくなるということである。 さて実際に Barroは Ricardの中立命題をどのように記述しているであ ろうか(8)。Barro自身のオリジナルの定式化は、ストック変数を中心にな されている。ここでは参考の為に要点のみを紹介しておく。 A.モデルのセットアップ まず、理論を展開するための重要な前提は以下のようなものである。 ①個々人の生存期間を、現役期間(若年期:記号では yと表す)と退職期 間(老年期:記号では oと表す)2期間に分けて考える。②世代としては、現在の世代が生存する第 1世代(記号は 1と表す)とそ の子孫が生存する第 2世代(記号は 2と表す)に分ける。 ③個々の世代では、現役期間に働き賃金所得 wを得るものとする。将 来世代の期待賃金も現在価値で計ると wで変わらないものとする。 ④資産の収益率は rと表し、1期間内に 1回支払われる。将来の収益率 も現在価値で rとする。なお、賃金所得も利子収入も各期間の期初に 受け取るものとする。 ⑤退職した世代は、自分の次の世代である i+1世代に遺産を譲渡する ものとする。 以上の諸前提をおくと、第 1世代の老年期の人達の家計の予算制約式は、 (21)式のようになる。 Ay 1+Ao0=co1+(1-r)Ao1 (21) 左辺の収入は、現役期間の資産 Ay 1、前の世代からの遺産 Ao0を加えたも のである。右辺の支出については、老年期の消費 co 1と遺産として次世代に 譲る分 Ao 1の合計となる。 第 2世代の若年期の予算制約式については、賃金(w)は若年期の最初 に支払われるものと仮定して(22)式の形で表される。 w=cy 2+(1-r)Ay2 (22) 更に第 2世代の老年期の人達の予算制約式は、(23)式となる。 Ay 2+Ao2=co2+(1-r)Ao2 (23) さて i世代の資源配分として、i世代の人々は i+ 1世代の人々に遺産 を譲渡する。ここで重要なのは、i世代の効用は i+ 1世代への遺産に依 存しているということである。すなわち、i世代の人々の効用は、自分達 の 2期間の消費 cy i、 coiと彼らの直接の子孫の効用 U*i+1に依存することを意 味する。記号*は、与えられた資産と価格の下での効用の最大値を示すも のである。かくして第 i世代の効用関数は、次のような形をとる。
Ui=U(ci yi,coi,U*i+1) (24) 第 1世代の各々は、方程式(21)-(24)の中で、U1を最大にするよう に資産を配分すると同時に、すべての iに関して(cy i,coi,Aoi)≧0、の関係を 満たすように行動する。ここでの重要な制約は、次世代への遺産は負であっ てはならないことである。遺産が非負であることは、第 1世代の資産が第 2世代の資産額に影響を及ぼし、各世代の効用は、次世代の効用に影響を 与えることとなる。これを一般的に表現すれば、以下のようになる。 co 1=c(Ao1 y1+Ao0,w,r) Ao 1= 1
1・r(Ay1+Ao0-co1)=A(Ao1 y0+Ao0,w,r) (25)
同様に第 2世代の人々(より一般的には i>2)の予算制約式を示せば以 下のようになる。 cy 2=c(Ay2 o1,w,r) Ay 2= 1 1・r(w-cy2)=A(Ay2 o1,w,r) co 2=c(Ao2 y2+Ao1,w,r) Ao 2= 1
1・r(Ay2+Ao1-co2)=A(Ao2 y2+Ao1,w,r)
B.政府債務 政府債務に関する前提は、以下のようなものである。 ①いま政府債務の額は Bで、1期間、実質価値で表された公債の形をと る。これらの公債の実質利子は今期 rBで、次の期には元本 Bが償還 されるものとする。 ②資産保有者にとっては、公債と株式は完全に代替可能である。 ③また、公債は世代 1の老年期の人々にとっては、ヘリコプター・ドロッ プ(helicopterdrop)としての位置付けとなる。 ④公債に関しての将来の利子は、支払わなければならないし、元本も完 全に償還されなければならない。政府の次世代への公債の借換は許さ
れない。 ⑤政府の現在の利子支払は、第 2世代の若年期への一括固定税(l ump-sum taxes)によりなされる。そして公債の元本の返還資金は、第 2世 代の老年期の最初に追加的な固定税で調達される。従って公債発行の 影響は、第 3世代以降に影響されることはない。 いまや第 1世代老年期の予算制約は、以下のようになる。 Ay 1+Ao0+B=co1+(1-r)Ao1 (26) Bは期初に受け取る移転収入であり、第 2世代の若年期の予算制約は、 w=cy 2+(1-r)Ay2+rB (27) となる。rBは政府の利子支払のための課税額である。そこで第 2世代の 老年期の予算制約は、 Ay 2+Ao1=co2+(1-r)Ao2+B と表される。Bは公債の元本償還のための課税額を示している。 ここで第 2世代における若年期と老年期の 2期間の予算制約式を一本の 式にまとめると(28)式の如くになる。当該式は第 2世代の効用が(2 9)式のような形となることを含意している。 w+(1-r)Ao 1-B=cy2+(1-r)co2+(1-r)2Ao2 (28) U* 2=f*2[(1-r)Ao1-B,w,r] (29) 言うまでもないが、(1-r)Ao 1-Bは、第 2世代への純遺産額を規定す ることになる。 さて(26)式から左辺の Ay 1+Ao0が与えられているので、co1は(1-r) Ao 1-Bとは逆の動きをする。従って先決されている cy1と方程式(24)、 (26)、(29)から、U1は以下の如く書き換えることが可能となる。
与えられた cy 1,Ay1+Ao0,w,rの下で、第 1世代の人々の意志決定は、純 遺産(1-r)Ao 1-Bを最適な額に設定することである。当然純遺産は粗遺 産 Ao 1(非負の値をとることが必要条件)の額に影響を受けることになる。 いま公債発行額 Bが変化したケースを考えてみよう。これは Ao 1を変化 させる。何故ならば(1-r)Ao 1-Bは一定額の必要があるからである。純 資産の額が変化しなければ co 1,cy2,co2,Ao2の値は一定となる。従って各世 代の人々の効用は、Bの変化に影響を受けない。 r(利子率=資本のレンタル価格)への影響はどうであろうか。公債発行が ない場合の市場がクリアーされる条件は、K(r,w)= A0 1+Ay2である。Kは 資本ストックで、r,wはそれぞれ資本の労働の限界生産物である(9)。ここ
に公債発行を考慮すると、資産市場の clearingconditionは、(210)式の ように修正される。 K(r,w)+B=Ao 1+Ay2 (210) 上式の左辺は資産の供給であり、右辺は需要である。Bの増加は、(2 10)式の左辺から、資産供給の増加を意味する。だが、Ao 1は純資産の額 (1-r)Ao 1-Bを一定に保つ為に Bの増加分の 1/(1-r)倍上昇する。更に cy 2が固定された下では、(27)式での税額 rBの増加は、Ay2が Bの増加 額の r(1-r/ )倍低下することを意味する。つまり 方程式(210)右辺の 純総資産額は、Bに即応する形で変化する。これは資産市場でマーケット をクリアーするのに rが変化しなくとも良いことになる。 商品市場の clearingconditionである co
1+cy2+ΔK=yも初期の状態が維持される。何 故なら公債発行は総需要に影響を与えないからである。 以上が Barroのオリジナル論文の重要部分の骨子である。先述した如く 一般の解説書の説明とは異なっている。 また論文では精緻な数理モデルは使っておらず、考え方(フレーム)を平 易な数式を使って主張している。当時 Barroは、まず第一に従来の主流で あった Keynes経済学から決別したかったのである(10)。従って公債発行の 経済理論も Keynes理論とは異なった市場均衡アプローチで分析した。
Barroの直接の貢献は、人々の寿命が無限でない限り Ricardの中立命 題は成立しないという従来の批判に対し、個人がそれぞれの子孫の厚生水 準を考慮する場合には遺産行動を通じて同命題が成立するということを示 した点にある。従って本章の冒頭でも述べたが、Barroの最初の関心は Ricardよりも Diamondが発展させた重複世代の均衡モデルであった訳だ。
3.Bl
anchardモデル
Ri
card中立命題理論の発展
R.J.Barroの1974年の論文をきっかけに Ricardの中立命題に関して大 きな論争を呼び、中立命題の理論・実証分析も高度化してきた。特に1980 年代は、「はじめに」で述べた如く Ricard中立命題論争の ・goldenage・とも呼べるものであり多くの論文が発表された(11)。研究の方向性としては、
以下のように要約出来よう。
(i)一つは、Ricardの中立命題の成立要件を緩めた場合の中立命題の妥
当性(一般化への方向) (ii)もう一つは、現実のデータを用いて統計検定による中立命題の現実 的妥当性評価(実証面の研究) の二つの面に関して考えることができる。 理論面の発展のポイントは、Barroの論文で述べられている理論の成立 前提としている幾つかの前提・仮定に関するものである。いま、それらの 前提条件の内、主なものを列挙すると以下のようになる。 ①政府消費は初期値の値で不変であること。 ②公債の利子・元本の償還は、将来の徴税によってなされること。 ③非ポンジー・ゲーム条件(no-Ponzi-Gamecondition)が満たされる(12)。 ④租税は一括固定税(lump-sum taxes)である。
⑤将来の所得に関して不確実性はないこと。
⑥個人は公債発行の結果として、将来納税義務が発生することを十分に 予想している。
りが可能)。 ⑧消費者の生存期間と政府活動期間は同一であること。 ⑧が何を意味しているかを簡潔に説明しておきたい。意味としては、政 府の公債発行は、個人の生存期間中に償還されるということである。また 個人の生存期間が無限であれば、当然無限の期間内に公債は償還される。 また無限でなくとも Barroが提起したように、消費者の生存期間は有限で あるが、世代間の遺産贈与行動が行われれば、実質的には無限生存期間と 同様な結論を得ることが出来るというものである。 以 上 の よ う な 前 提 を 有 す る Ricardの 中 立 命 題 に 関 す る 批 判 は 、 Buchananに指摘されるまでもなく、余りにも現実離れしているというこ とである。これに対し中立命題の研究者は非現実性を打破すべく、徐々に 制約条件を少なくして現実に近付いた理論の発展に努力してきた。
(1) 消費関数の導出
R.J.Barroにより提起されたリカードの中立命題は、先に述べた如くか なり限定された前提の下に成立する理論である。これをより一般化して、 前提条件を緩める形で理論を発展させた代表的研究者が、 Blanchard (1985)である。確かに Ricardの中立命題では、人々は恰も王族(dynasticgroupings)の ように結びついて、遺産が子々孫々に受け継がれていくことを前提として いるし、税が一括固定税であるというのも現実性がない。また価格の問題 は全く考慮されていない等々の問題もある。 Blanchardは、まず、人間の生命が無限であるという前提を外した。ま た一つの家計は親から遺産を譲り受け、それが子々孫々無限に続くという ような仮定も取り払われたし、また、消費者の時間選好率が利子率と同じ であるという実際には実現が困難な前提も取り払われた。 その点で Blanchardの理論面での貢献は大きいであろう。 更に加えるならば、Blanchardの理論構成は、マクロの集計的消費関数 導出に当たってミクロの消費関数から出発している。ミクロ行動に基礎を
置いたマクロ理論であるという点も指摘できる。以下、Blanchardの理論 を追ってみよう。 A.個人の消費 Blanchardは、経済全体の消費関数を導くのに二つの重要な仮定を置い ている。まず第 1の仮定は、個人の死亡確率は年齢にかかわりなく一定と することである。死亡確率を Pとし、現在からの寿命の期待値を E(X) とすると、Xの確率密度関数は、以下の式で与えられる。 E(X)=
・
0・tPe -ptdt=P-1P-1は、個人の視野の長さ指標(horizonindex)と呼ぶことが出来る。も し、P=0ならば、個人は無限の視野を持つことになる。もしコーホート の数が十分に大きいと仮定すれば、コーホート全体の減少率は非確率的に 減少していく。また各時点において死亡率が Pであるコーホートが新た に生まれてくる。そうすると時間 sで生まれた集団のコーホートの時間 t でのサイズは、Pe-ptで与えられることになる。従って時間 tでの総人口の 大きさは、次の如く示される。
・
t ・・Pe -P(t-s)ds=1 個人は自分自身の期待効用を最大化するように行動する。Blanchardの 場合には Barroと異なり、個人は遺産動機を持つことは想定していない。 しかし、生命保険の存在を想定している。保険が存在せず、死亡時期が不 確実であれば、個人は遺産譲渡の意志はなくても、予期しない遺産を子孫 に残す可能性が出てくる。Blanchardのモデルでは、個人は生涯の中で資 産を使い残さないことが前提となっている。もし個人は、no-Ponzi-Game条件で負債(負の遺産)を残せないならば、
資産が非負という条件の下で消費経路を見出さなければならない。それを
可能にするのが生命保険会社の利用である。Blanchardは、Yaari(1965)
の生命保険の概念を利用して、この問題に解答を与えた。即ち、負の遺産 が生じる可能性がある時、個人は資産をすべて生命保険にして、代わりに
保険会社から保険料を受け取るという選択をするのである。 これが Blanchardの理論の第 2の重要な仮定である。人口が多数であれば、生命 保険会社の不確実性はなくなる。その場合参入が自由、利潤がゼロであれ ば、保険料率は Pとなる。彼が死亡しない時はその資産 wを生命保険に して Pwの額を受け取り、死亡した場合にそれを支払い清算する(13)。 時点 sで生まれた個人の、時点 tでの消費を c(s,t)、非利子所得を y(s,t)、 非人的資産を w(s,t)、人的資産を h(s,t)の記号で表すことにする。また、 r (t)は時点 tでの利子率である。 最初は、集計的消費関数の導出を単純化するため二つの仮定を導入する。 一つは個人の効用関数は対数の形を取るということ、もう一つには労働所 得は個人に等しく分配される、ということである。個人の時点時点の効用 は対数で表され死亡率は P(一定)で与えられたものとすれば、唯一の不 確実性は死亡時期となり、個人は以下に示される生涯の効用を最大化する ものとする。
・
・ tlogc(s,v)e (θ+p)(t-v)dv (31) 有効な時間割引率は(P+θ)となる。θは元来の個人の時間選好率で ある。もし個人の時間選好率がゼロであっても、Pが正の値をとる限り個 人の効用は将来割り引かれることになる。もし個人の時間 tにおける資産 が w(s,t)ならば、彼の利子受取額 r(t)w(s,t)とPw(s,t)を生命保険会 社から受け取る。このようにして個人の動学的予算制約は(32)式のよ うになる。 dw(s,t) dt ・[r(t)+P]w(s,t)+y(s,t)-c(s,t) (32) この場合には、個人が無制限に借金をして生命保険を購入するのを防ぐために、no-Ponzi-Game条件が必要となる。この条件の具体的な形は個人
が時点 vでいまだ生存しているとすると、 lv・ ・im1・・v
t・r(μ)+p・dμ
となる。かくて個人の予算制約式は一般的な形で以下のように示される。
・
・ t(sc,v)1 ・・v t・r(μ)+p・dμ e dv=w(s,t)+h(s,t) h (s,t)=・
t・(sy,v)1・・v t・r(μ)+p・dμ e dv (33) 個人は(33)の予算制約式の下で(31)式の効用関数を最大化するよ うに行動するとすれば、(34)式のような個人の消費関数が求められる。 c (s,t)=(P+θ)[w(s,t)+h(s,t)] (34) 結果として個人の消費は、総資産(非人的資産+人的資産)、資産に対す る消費性向(P+θ)に依存して決まる。 B.集計的消費関数 集計された変数を大文字で X(t)と表し、個人の変数を x(s,t)とする と、X(t)と x(s,t)の関係は、 X(t)=・
・・t(sx,t)Pe p (S-t)ds となる。C(t),Y(t),W(t),H(t)を時間 tにおける集計された消費・非 利子所得・非人的資産・人的資産とする。(34)式から集計された消費は、 C(t)=(P+θ)[H(t)+W(t)] となる。明らかな如く、集計された消費は、集計された人的及び非人的資 産の線形関数となる。さらに必要な手続きとしては、人的、非人的資産の 性質を知ることである。上式右辺で示されている経済全体の人的資産 (H)の性質は、労働所得 yの動きを特定化することにより明らかとなる。 労働所得は年齢とともに減少していくことを前提とすると、以下のように 表される。 H(t)=・
t・[・
t ・・(sy,v)Pe p (s-v)ds]1・・v tr(μ)d・ e dv したがって経済全体の人的資産 Hは、現在生存している人々の将来の 労働所得を現在価値で表した値となる。またもう一つの変数である非人的資産の性質は、以下のように示される。 W(t)=
・
・・tw(s,t)Pe p (s-t)ds 上式を時間に関して微分する。 dW(t) dt =w(t,t)-PW(t)+・
t ・・ dw(s,t) dt Pep(s-t)ds 右辺の第 1項は、新たに生まれてきた人々の金融資産であるからゼロと なる。第 2項は死亡した人々の資産である。第 3項は生存している人々の 資産の変化である。(32)式と当該式で、次の式が導かれる。 dW(t) dt =r(t)W(t)+Y(t)-C(t) 個人にとって彼等が生存していれば非人的資産の利子率は P+rとなる が、社会全体で集計された人的資産の利子率は rとなる。理由は、PW は 生命保険会社を通しての死亡した人から生存している人への移転なのであ り、社会全体の資産を増加させるものではないからである。 ここで今まで述べてきた式をまとめてみる。簡潔に表現するため時間の 添字 tを落とし、変数記号の上に記した・は、時間に関して変数を微分し たものとすれば、集計的消費関数は(35)-(37)式のように記述可能で ある。これらの式は比較的単純に表現されているが、ミクロの変数を集計 した結果であり、ミクロ的基礎を有するものである。 C=( p+θ)(H+W) (35) H・=(r+p)H-Y (36) W・=rW+Y-C (37) もし個人が有限期間生存し、P>0ならば、(36)式の非利子所得の割 引率は利子率より高くなる。総消費のもう一つの特徴は重要である。そこ で(35)式の微分をとり、H・と W・を消去すると、 C・=(r-θ)C-P(P+θ)W (38)W・=rW+Y-C (39) となる。 もし個人の生存期間が無限、即ち P=0ならば、(38)式は通常のタイ プの式となる。しかし P>0の場合には、Cの変化は非人的資産のレベル に依存することになる。
(2) 政府の予算制約下での集計的消費関数
ここで政府の行動を導入する。行動の仮定としては、政府支出は、個人 の消費の限界効用には影響を与えない、更には、支出のファイナンスは一 括固定税(lump-sum taxes)か借入とする。政府の動学的予算制約は、D・=rD+G-Tであり、記号としては、Dは政府債務、Gは政府支出、Tは租
税である。政府も個人の消費と同様横断条件(transversalitycondition)を満 たすことが課せられる。ここで政府部門における横断条件とは、政府の存 続が終了する時に債務を残したままにしないという条件である。 lt・ ・imD1・
・
strvdv te =0 上記式が満足されれば、現在の政府債務は、将来の財政黒字を現在価値 で評価した値と同額になることは当然である(310式)。 Dt・・
・ t Gs・・・
s trvdv e ds=・
t・Ts・・・
s trvdv e ds (310) 以上のように政府の予算制約を導入すると、集計的消費関数は次のよう に修正される。 Ct=(P+θ)(Ht+Wt);Wt=Dt+Kt (311) Ht・・
・ t Ys・ ・・
ts・rv・p・dv e ds-・
tsTs・・・
s t・rv・p・dv e ds (312) W・t=rWt+Yt+Gt-Tt (313) 金融資産 W はいまや政府債務(公債)と他の資産 Kから構成されることになる。
人的資産は、非利子所得から租税を差し引いたものを(r+P)で割り引い
た現在価値の値となる。
(3) 課税の変更(real
l
ocati
on)の効果
いま時間 tで減税を行い、時間 t+τで増税を行うと仮定してみよう。 政府支出のレベルは Gのままで変化なく、政府の予算制約も(310)式 のようであれば、課税の変更は次の式を満足させなければならない。 dTt+τ=-e・・
・
t+・ t rvdvdTt 時点 tでの消費者は、人的資産への多寡により影響を受けることになる。 (312)式より dHt=-dTt-dTt+τ・・・
t・・ t ・rv・p・dv e =-dT(1-et -pτ) となるので、もし P= 0でなければ、減税は人的資産と消費を増加させ ることになる。すなわち dT(t)<0であるので、所得・利子率が与えられ ていれば、減税(dT(t)<0)は、人的資産 Hを増加させ、消費を増加さ せる。 増税の時期が遅くなればなる程減税の効果は大きくなる。この理由とし ては、課税のタイミングの変化に影響を持ちうるのは、(312)式に示さ れる如く、利子率と人的資産の割引率(r+P)の違いによるからである。 これは課税の一部が将来に転嫁されることを意味する。(1-e-Pτ)は、現 在生存している人々がτ期後に死亡してしまい、税金を払わなくてすむ確 率である。 しかし P=0ならば、個人は永遠に生き長らえ、課税のタイミングの変 更は人的資産の変更に何ら影響を与えず、従って消費も総需要も全く変化 しない。この場合には、減税は個人の可処分所得は増加させるものの、そ れがすべて個人貯蓄の増加になってしまい、経済全体でみると政府赤字が ちょうど民間部門の貯蓄の増加と相殺してしまう。個々人は将来増税があることを予想しているので、政府の発行した国債に高い利子率を要求せず 現行の利子率で消化してしまうのである。
Ricardの中立命題は、Blanchardモデルの P=0の場合には成立するが、
P>0の場合には成立しない。
このように Blanchardは、RicardianEquivalenceをマクロ経済成長に おける消費と投資の最適化の中に位置付け、より一般化した理論体系の中 で、成立する条件を提示したのである。
4.Ri
card中立命題実証分析のフレーム
Ri
card中立命題の現実適合性テスト
Ricardの中立命題が経済理論として意味を有するか否かの結論は、実 証テストの結果を検討するより他にない。当該理論の問題点は、前述した 如く理論前提が余りにも現実的妥当性に欠けるというものであった。しかし元来経済理論は理念型(idealitypus)の性格を備えたものであり正確に
現実を描写したものではない。多かれ少なかれ現実の抽象化の過程を含ん でいる。理論が経済行動の本質を捉えているならば、現実経済の単純化は 許されるであろう。問題は、現実が Ricard中立命題にどれ程近いかであ る。もし Pの値がゼロに近ければ、人々の消費計画は長いものと解釈さ れ中立命題を支持することとなる。
(1) Ri
card中立命題の実証テストの方法
Ricardの中立命題の実証テストの方法については、大別して 2種類に分 類される。一つは消費関数でのテストであり、もう一つは財政赤字の下で の利子率変化のテストである(14)。 後者の利子率でのテストは、Ricardの中立命題と開放経済下での完全 資本市場仮説との識別が困難という大きな問題を抱えている。周知の如く 開放経済下では、消費者が政府債務に対応して消費を増加させても利子率 は不変に止まる。それは国際間の資本移動が利子率の arbitrageを可能にし平準化させるからである。その場合、政府債務は国内の利子率を変化さ せることなく海外からの資本流入によりファイナンスされる。 本稿では利子率での検証の困難性をさける、さらに Blanchardモデルの 実証を行うために消費関数からの分析アプローチを採用するものとする。
(2) Eul
er方程式アプローチ
Ricardの中立命題は、こと理論に関してはマクロ経済学、財政学、公 共経済学等で取り上げられているが、日本での実証分析はそれ程多い訳で はない。いままでの中立命題の検証の手順は概ね以下のようなものである。 最初に政府の予算制約も考慮に入れて行動する家計の消費関数が理論モ デルとして導出される。このモデルが統計的に有意な結果を持つか否かが 検証される。消費関数は中立命題の性質から、恒常所得仮説に基づく消費 関数が応用される。最近では実証分析に合理的期待形成に基礎を置く消費 関数での検証が取り入れられるようになってきた(井堀ほか 2002)。 本稿では、推計の基となる理論フレームは 3章で解説した Blanchardモ デルである。また、モデルの中で定式化されるEuler方程式からの消費関 数の推計手法に関しては GMM(GeneralizedMethodofMoments)を採用し た。GMM を採用した理由は、GMM の場合誤差項の分布を特定化する 必要がないというメリットを有しているからである。消費関数のパラメー タを推計する場合、前提とする誤差項の確率分布を間違うと大きな判断の 誤りをおかしてしまう。本推計方法では、モデル自身の妥当性を純粋に検 証することが可能である。 Blanchardモデルをベースに、GMM による Ricard中立命題を検証し た先駆的な論文にはBrunila(1997)がある。今回はこれを日本に適用し計 測を行う。この理由には、AnneBrunilaが先述した Blanchardモデルをベースと
して実証分析している他に、ヨーロッパ10ヵ国(オーストリア、ベルギー、
フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、オランダ、スウェーデン、 イギリス)について分析を行っていることである。これと日本とを比較検
討することが可能となり、日本の特徴が鮮明になるであろうと考えた訳で ある。 A.Blanchardモデルと恒常所得仮説の下での消費関数 重複世代モデルで個人の消費を社会全体で合計して集計的消費を求める 場合、幾つかの困難が伴う。各世代の人口・生存期間・保有資産かつ消費 性向がそれぞれ異なるとすると、集計的消費関数の推計は非常に難しくな る。その場合の対応として、二つの方法が考えられる。一つは、世代の考 察期間を短くして、単純化して集計するという方法である。もう一つは、 Blanchardモデルで示したように、すべての消費者の死亡確率は同一とし、 年齢・保有資産レベルは異なっても、同一の消費性向を有するとの仮定を 置くことである。これにより各世代の消費の集計が可能となる。更に Blanchardモデルは、死亡確率の計測が幾つかの方法で可能であり、また Barroのように世代間の強い遺産行動を仮定しなくともよい。加えて、近 視眼的な消費者と将来を見通した合理的な消費者が混在するケースも扱え る、という長所もある。だが反面当該モデルは、個人の生存期間中、消費 行動を変化させるという問題は扱えない。その意味で Blanchardのアプロー チは、消費関数においてライフ・サイクル仮説(life-cyclehypothesis)より も恒常所得仮説(permanentincomehypothesis)に近いものとなる。従って Blanchardモデルによる中立命題の検証は、基本的には恒常所得仮説の消 費関数の応用が出発点となる。 B.家計消費におけるEuler方程式 消費における Euler方程式(15)は、予算制約の下で異時点間で効用を最大 化する消費配分に関する条件を求めたものである。その結果から合理的な 消費行動を反映した消費関数が導かれる。その手続きを述べれば以下のよ うになる。 各々の消費者は、期間 t-kの間に生まれ時点 tで未だ生存しているも のとする。彼らは、t時点で期待される生涯の効用を最大化しようとする。 MaxEt・ ・ j・ 0(γ・) jU(cT t+j,k+j),o<γ≦1 (41)
cT t,k=cPt,k+θgt,θ><0 (42) (記号)γ:個人の生存確率、cT t,k:t時点で k歳の個人の実質総有効消費額、cPt: 個人の実質消費額、・:主観的時間割引率で(1+δ)-1と定義される。δ:主 観的時間選好率、g:政府消費。E:個人の期間 tでの利用可能な情報に基づ く数学的期待演算子。 u(cT t)は時間とともに変化し、1期間の効用関数は当然微分可能で極値 を持つべく、u・>0、u・<0の条件を満足するものとする。全体の消費は、 個人の消費 cP tと政府消費 gtの 1次結合である。θは、政府消費のうち民 間に回る割合を示すパラメータである。(42)式が成立するということは、 政府消費の一定部分(θ)は、個人と同様な効用を有するということを意 味する。また、θの値がプラスであれば、政府消費は個人の消費と代替関 係にあることを表す(すなわち、政府消費の増加は個人消費の限界効用を低下さ せる。θがマイナスであれば、政府消費は民間消費の限界効用を増加させる す なわち両者は補完関係にある)。 年齢 kの個人は、それぞれ(41)式で表される効用を 1期間内におい て以下の予算制約の下で最大化する。 CT t,k=yt,k+τt,k-tt,k-at,k+1・r ・at-1,k-1+θgt =ht,k-at,k+1・r ・at-1,k-1+θgt (43) (記号)yt,k:実質税引き前労働所得、τt,k:実質政府移転、tt,k:実質一括固定税 支払額、ht,k:実質可処分所得(= y+τ-t)、at,k:実質非労働資産(含む政 府公債、負の場合は債務)、r:実質利子率(一定)、at-1,k:非労働資産の残 高、gt:個人の実質政府消費、なお、(1+r)/γは、非人的資産のリスク回避 調整後の(粗)利子率。
ここで必要なのは、前章で述べた no-Ponzi-Gameの条件である。これ
の制約条件がないと個人は各時点で借入が自由となり、消費も無限に増大
し続けることとなる。no-Ponzi-Gameの条件は、資産の期待成長率がリス
ク回避調整後の利子率(=(1+r)/γ)を下回ることである。この条件の
EtCTt,k=EtHt,k+θEtGt+1・r ・at-1,k-1=EtWt,K (44) 方程式(44)は、時点 tでの消費の現在価値の期待値が、可処分所得 および期初の非人的資産、個人消費のうち政府の負担する部分のそれぞれ の現在価値の期待値と、時点 t1と tの間の利子所得と等しくなることを 示している。ここで重要なことは、個々の消費者は生涯を通じての予算制 約の下で生活するということである。故に所得の変動の影響は、資金の貸 借により緩和される。すなわち、安定した消費行動が可能ということであ る。 個人の重複世代間にわたる消費の最適化のための 1階の条件は(45) 式であり、これが Euler方程式である。 Etu・(cTt+j,K+j)=[ ・(1+r)]-ju・(cTt,k) (45) (45)式は消費が最適経路を辿っている時には、二つの期間の間で効 用を増加させることが出来ないことを意味している。 さて(45)式で求められた個人の Euler方程式を経済全体に集計する ために、個人の効用関数の具体的な形は、2次のタイプを想定する。 u (cT t)=-1 2(c*-cTt)2 このような想定は予算制約下での効用最大化の最適解、即ち消費関数を 求めるのが容易であるという長所を有している。なお c*は、個人にとっ ての理想的な消費水準を表すものとする。 前述での仮定は、Euler方程式を(46)式のように書き換えることが 可能である。 EtcTt+1=r・・ 1・rc*+r1・r・・cTt (46) (46)式は生存確率γと独立であることは留意すべき点である(すな わち、個人の動学的均衡状態では、生存確率から独立になるということである)。 (44)式の予算制約とEuler方程式(46)から時点 tの k歳の個人の
総有効消費関数は、 cT t,k=・0+・[E1 tHt,k+θEtGt+1・r ・at-1,k-1]=・0+・1EtWt,k ・0= ・・・・r・ ・1・r・・1・r・・・c* ・1=1・・1・・・ ・1・r・2 (47) となる。 個人の消費関数は、(47)式より(48)式のように表すことが可能と なる。 cp t,k=・0+・[E1 tHt,k+θEtGt+1・r ・ at-1,k-1]-θgt =・0+・1EtWt,k-θgt (48) C.集計的消費関数 人口規模については、初期時点で各世代1と規準化(normalize)してお く。各期間の k歳の人々がγk人存在するとすれば、人口規模は一定で、(4 9)式のように与えられる。 ・・ k・ 0・ k・ 1 1・・ (49) 集計的消費は、それぞれの個人の消費額を合計し、人口で除して 1人当 たり消費額を算出したものに他ならない。以下の変数(資産、可処分所得) も、同様の考えから算出する。 cP t=(1-γ)・ ・ k・ 0γ kcP t,k (410) EtWt=(1-γ)・ ・ k・ 0γ kW
t,k=EtHt+(1+r)at-1+θEtGt (411)
EtHt=(1-γ)・ ・ k・ 0γ k・・ j・ 0( ・ 1・r)jEtht+j,k+j = ・j・ 0・(1・r・)jE tht+j (412) at-1=(1-γ)・ ・ k・ 1γ k-1a t-1,k-1 (413)
θEtGt=θ(1-γ)・ ・ k・ 0γ k・・ j・ 0( ・ 1・r)jEtgt+j=θ ・ ・ j・ 0( ・ 1・r)jEtgt+j(414) 1人当たりの集計的消費は、いまや 1人当たりの集計的期待資産の関数 として以下のように書き直すこと可能である。 cp
t=・0+・(E1 tHt+θEtGt+(1+r)at-1)-θgt (415)
方程式(415)は、期待変数が含まれているのでこのままでは推計でき ない。したがって実際のパラメータ推計を考慮して、(416)式のように 展開することが必要となる。その場合、資産の予算制約は、at=ht+(1+r) at-1-cptである。 cp t=-r・0+(1+r)(1-・1)cpt-1+・(1-γ)E1 tHt+・1θ(1-γ)EtGt-θgt +(1+r)(1-・1)θgt-1+・1γ(eHt+θeGt)+ut (416) なお、誤差項は、以下のように記述される。 eHt=(Et-Et-1)・ ・ j・ 0( ・ 1・r)jht+j,eGt=(Et-Et-1)・ ・ j・ 0( ・ 1・r)jgt+j ここでは、個人消費の予期せぬ変動は、予期せぬ労働所得からもたらさ れる資産の変動、租税(純)及び政府支出である。(416)式から Ricard の中立命題は特殊なケースに該当することが分かる。すなわち、中立命題 の keyparameterはγ、θであるが、中立命題が該当するのはγ=1のケー スで、ここでの個人の生存期間は無限となり、個人は合理的消費者となる。 そして政府赤字は現在の個人消費に何も影響をもたらさない。 θは、政府消費と個人消費との関係を表すものである。θ>0の場合は、 政府消費の増大は個人消費の限界効用を低下させる。 さて、実際に(416)式にデータを当て嵌め推計を可能にするには、期 待変数の処理が必要になる。期待変数は人々の心理であるから現実のデー タは存在しない。これについては、Hayashi(1982)の方法を踏襲する。 この手続きにより期待変数は推計可能な現実のデータから作成可能となる。 但し、Hayashiの手法を適用するには合理的期待仮説を前提としなくては
ならない。かくて期間を t-1から tにとると期待変数は以下のように表 される。 EtHt-1・r ・ Et-1Ht-1=-1・r ・ ht-1+eHt, EtGt-1・r ・ Et-1Gt-1=-1・r ・ gt-1+eGt (417)
eHtとeGtは、時点 t-1から時点 tにかけての期待の修正(revisions)であ る。この構造は、(416)式で示したものと同様である。(417)式により (416)式から計測不能な期待変数を取り除くと、最終的に観測可能な消 費関数(418)式が導かれる。 cp t=・・0+[(1+r)(1-・1)+1・r ・]cpt-1-(1-・1)・1・r・ 2 ・ cpt-2 -・(1-r1 )1・r ・ht-1-θgt+θ(1-・1+γ)1・r ・ gt-1 -θ(1-・1)・1・r・ 2 ・ gt-2+vt, (418) ・・0=r・・・r・ ・1・r・c* ・1=1-・・1・ ・・ ・1・r・2
vt=・(e1 Ht+θeGt)-・(1+r1 )(eHt-1+θeGt-1)+ut-1・r ・ut-1 上記の(418)式が Ricard中立命題を検証するのに出発点となる消費 関数である。先述した如く Euler方程式から誘導された消費関数は、タイ プとしては恒常所得仮説の消費関数である。当該関数の変数の中には、γ やθ、・1が含まれている。とくにγの推計は重要であり、これは消費・貯 蓄の計画期間を表すことになる。もしこれが 1以下の値に推計されれば、 個人の消費計画期間は短く、中立性は成り立たなくなる。AnneBrunila は、ヨーロッパ10ヵ国についてγ=1,θ=0のケースについて Wald検定 を行い評価を行っている。 さて以上の検討により一応の実証テストの準備が整ったことになる。次 章からは実際の日本の経済データを用い、Ricard中立命題が果たして日 本で現実妥当性を有するか否かの検証を行う。
(実証テスト編へ続く)
(注)
(1) Romer(1996)による。
(2) 論文 ・AreGovernmentBondsNetWealth?・の中で、Barroは一言も Ricardに触れてい ないし、referencesの中でも Ricardの文献は挙げられていない。
(3) Barroを有名にした ・AreGovernmentBondsNetWealth?・がどのような問題意識から生 まれてきたか、或いは Chicago大学での論文審査の過程等について、Barro自身が20年後に NBERの WorkingPaperで詳細に述べている(Barro1996b)。優れた論文の誕生過程が窺え て興味深い。 (4) Barro自身も他の著作(Barro1996a)で以下のようなことを述べている。 「財政資金を税金で賄っても国債で賄っても、経済に及ぼす影響が同じになるとするリカー ドの中立命題は、いまでは経済学部の学生なら誰でも知っている。ジャーナル・オブ・ポリ ティカル・エコノミー誌が「国債は純資産か」とわたくしの論文を掲載した一九七四年当時 はそうでなかった。もちろん、わたしの論文は完全に無視された。そして、リカードが正当 に評価されるには、一九七六年に同じ雑誌に、ジェームズ・ブキャナンが論文を発表するま で待たなければならなかった。ブキャナンは、『経済学および課税の原理』(初版一八一七年) の中で述べられた政府債務の箇所を引用したが、リカードが『ブリタニカ百科事典』(一八 二〇年版)のために書いた「資金調達システム」(邦訳原文)をもっと正当に評価すべきだ と思う」。
(5) DavidRicardの日本語訳としてリカードと訳されている場合が一般的であり本稿もこれ に沿っているが、雄松堂出版のリカード全集の日本語訳ではリカードウと訳されている。 (6) 当該論文は、『エンサイクロペディア・ブリタニカの第 4,5および 6版への補巻』のため
に執筆したものであり、論文の主題は減債基金について執筆されたものである。
(7) 実は Barro以前に、RicardianEquivalenceと同様なことを述べた人がいた(1967年論文 執筆)。彼は BobHallという名前の MITの一介の卒業生である。彼は、これに関する研究 を諦めた。それは彼の指導教官であった PeterDiamondが Hallの研究の価値を認めず、研 究の時間を費やす価値がないと言ったからである。後に Diamondは Barroに学生の指導に は注意深くなったと言ったそうである。この辺のエピソードは、文献(Barro1996b)を参照。 (8) R.J.Barro及び彼の論文 ・AreGovernmentBondsNetWealth?・が注目されたのは、先に 述べた如く、皮肉にもノーベル経済学者である J.M.Buchananに批判されたことによるもの であった(Buchanan1976)。Buchananの批判は詳細に亘っているが、要点は、Barroの理論 は現実性が無いということである。Barroの提起した理論は、多くの前提と仮説から成り立っ ているのだが、それらは余りにも現実から離れたものである、と批判している。例えば、公 債発行により齎される将来の増税は、本当に徴税可能なのか。もし可能だとしても財政政策 の変化は政府支出に影響を及ぼさないのか、等々である。 (9) これは、 収穫一定の生産関数の存在を前提としていることになる。 当然生産物は y=rK+wで与えられ、商品市場の clearingconditionは、co
1+cy2+ΔK=yとなる。
(10) Barro1996bで自ら述べている。
(11) リカードの等価定理を巡る論争のサーベイに関しては、Bernheim(1987)が詳細に行っ ている。
(12) No-Ponzi-Game条件とは、BlanchardandFischer(1989)に詳説されているが以下のよ うなものである。これは、消費者の合理的行動を示す条件であり、消費者が所有する富 atに
関して非負の条件を満たすことを表す。これには人口 1人当たりの借入が近似的に利子率の 速さでは増えないという条件が自然である。No-Ponzi-Game条件を定式化すると以下のよう
になる。rを利子率、nを人口増加率とする。 lt・ ・imat・・・・
t
0・rv・n・dv・・ 0 e
この条件は、no-Ponzi-Game条件と呼ばれる。上記式自体は不等式で表現されているが、 消費の限界効用が正である限り消費者が資産を r-nの割合で増やしていく筈はないので、こ れは等式となる。この条件の持つ意味を理解するため、予算制約式を時点 0からある時点 T まで積分してみる。
・
T 0ct・ ・・tT・rv・n・dv・ e dt+aT=・
T 0wt・ ・・tT・rv・n・dv・ e dt+a0・・・ t 0・rv・n・dv・ e 上式において、両辺に ・・・0T・r・n・dv・ eをかけて時点 0での現在価値に戻し、T→∞の極限をとって no-Ponzi-Game条件を用いると、
・
・ 0ct・ ・・・0t・rv・n・dv・ e dt=a0+h0,h0=・
・ 0wt・ ・・・0t・rv・n・dv・ e dt となり、この式は、消費の現在価値が資産の総額(=初期に保有している非人的資産+人的 資産の現在価値)に等しくなることを意味していることになる。 (13) これは生存している間に保険料を支払い、死亡時に相続人が保険料を受け取るという我々 が一般に経験している生命保険の逆になる。(14) 最近時点での実証テストのサーベイ論文としては、Marinheiro(2001)、Zabolotnyuk (2003)が挙げられる。Ricard中立命題の実証分析の先駆者は、Kormendi(1983)である。
参考にその計測方法と結果を以下に紹介しておく。
Kormendiの計測例(実証テスト)は、リカードの中立命題を支持した分析として有名で ある。無論、その他にも数多くの実証分析例は存在するが、中立命題に対して否定的な結論 となっている論文も多くあり、現在でも決着はついていない。
Kormendiは ・consolidatedapproach・として、従来の標準型(keynesian)のアプローチに 替わる合理的な行動様式を持つ個人を前提とした消費関数を提起した。Keynesianの消費関 数では、説明変数は基本的に可処分所得と家計の純資産である。これは消費者は、将来に関 して短期的な視野しか持っていないことを前提としている。これに対し Kormendiは、消費 者は公共セクターと民間セクターの両方の動向を勘案しながら消費を行っているとして、こ の消費者行動を consolidatedapproachと称した。これの推定結果より、現実の消費者は、 Ricardianなのか keynesianが検証可能としている。本アプローチは、理解が容易でかつ推計 方法も平易なので、多くの論文で取り上げられ、中立命題に関する実証分析の古典とも位置 付けられる労作である。
具体的に Kormendiの消費関数は、以下のような消費関数を計測している。 ΔPCt=a0+a11ΔYt+a12ΔYt-1+a2ΔGSt+a3ΔWt+a4ΔTRt
+a5ΔTXt+a6ΔREt+a7ΔGINTt+a8ΔGBt+ut (1)
(記号)PC:個人消費、Y:純国民生産、GS:政府支出、W:人的、非人的資産、TR:政 府の個人への移転支出、TX:政府税収、RE:企業の内部留保、GINT:政府の債務に 対する利子支払、GB:政府債務の市場価額 すべての変数は、実質値でありかつ人口 1人当たりの数値である。また、Δは、1階の差 分を表す。また、所得のラグ変数( Yt-1)は、意味的には恒常所得の代理変数とみなしてい る。
Keynesianと consolidatedで は 、(1) 式 の 推 計 に お け る 制 約 条 件 が 異 な っ て く る 。 Keynesianでは、政府支出の動向は消費に直接影響を与えないので、(1)式の a2=0となる。
消費は可処分所得の恒常部分により決定されると理論付けられているので、a5<0、a6<0、a7 >0でなければならない。政府債務(公債発行)はプラスの資産効果を有するとされるので、 当然 a8>0の条件が課せられる。 他方consolidatedでは、政府支出は消費に対してネガティブに働くとされるので、a2では a2 <0が必要とされる。税と公債の選択は意味を持たないということが中立命題の結論なので、 これが現実に妥当するならば a5=0でなければならない。企業の内部留保は個人の株式保有 の配当に回されると考えれば、民間貯蓄の範囲に位置付けられる。これから a6=0の条件が 必要となる。政府債務と政府の公債への利子支払は消費には影響を与えないので、当然 a7= a8=0が必要条件となる。 また Kormendiは、a4は a11より大であることを想定した。それは、移転所得の消費性向は、 その他の所得の消費性向よりも高いであろうと考えたからである。 推計データは、19311976年の期間の年ベースのデータを用いて行われた。推計結果は、 keynesian型消費行動が否定され、consolidated型消費行動を支持するもであった。しかしこ れは多くの議論を呼ぶこととなった。データの作成に始まり、推計モデルの構造に関する批 判もある。これの論争は、未だ終了していない。
(15) Euler方程式については一言解説を加えておく。Euler方程式は、元来は数学の数理計画 法の最適化法(optimizationtechnique)の解法プロセスの中から得られるものである。制約 条件下で目的関数を最大或いは最小にする解を、変分法(variationalmethod)で求めるもの としてみよう。すなわち、区間 t(a,b)に対して定義される関数 x(t)について、汎関数 y=・b af(x,x(1),t)dt を最大または最小にするように x(t)を決定する。x(1)は xの第 1次導関数 dx/dtであり、fは 3 変数 x,x(1),tに関する通常の関数である。汎関数 F[x(t)]=・b af(x,x(1),t)dt があり、このとき x(t)が Fを極大または極小にするために、満足すべき必要条件は第 1変 分∂Fが、0であること、すなわち ∂F=0 である。これは∂F[x+απ]/∂αを計算し、α=0とおけばよい。これから Eulerの方程式 ・f ・x・dtd x・f(1)・ 0 が導かれる。 (参考文献) Af onso,Antnio(2001),・GovernmentIndebtednessandEuropeanConsumersBe-havior?・DepartmentofEconomics,InstitutoSuperiordeEconomiaeGesta~o,
UniversidadeTcnicadeLisboa.
Barro,RobertJ.(1974),・AreGovernmentBondsNetWealth?・JournalofPolitical Economy82(6),pp.10951117.
(1979),・OntheDeterminationofthePublicDebt,・JournalofPoliticalEconomy 87(5),pp.940971.
(1984)、 Macroeconomics,New York:JohnWijey& Sons,Inc.(谷内満訳『マ クロ経済学』、1987,多賀出版)。