局所洗掘を受けた橋梁・橋脚の地震時挙動の解析
杉山俊幸 池田光次 (昭和60年8月31日受理)Seismic Analysis of Locally Scoured
Caisson Bridge Foundations
ToshiyukiSUGIYAMA KojiIKEDA Abstruct Dynamic characteristics of locally scoured caisson bridge foundations subjected to earthquake are discussed based on the Finite Element Analysis. The result shows that the dynamic characteristics of bridges are significantly influenced by local scour. Effects of the configulation of local scour, the depth of foundation, and the elastic modulus and damping ratio of circumferential soil on the natural period and maximum response displacement of bridges are estimated quantitatively.
1.はじめに
富士川水系は我が国の三大急流河川の一つに数えら れている。この富士川水系に架設された数多くの橋梁 の幾つかが,昭和57年の台風10号および台風18号に より倒壊・流失し,大規模の橋梁災害を被ったことは 記憶に新しいところである。こうした橋梁災害の発生 は,年々進行しつつある河床低下に,洪水による橋脚 周辺の局所洗掘が重なって,はなはだしい場合には橋 脚基礎の一部が河床上に露出するという,いわゆる根 入れ不足状態となり,その強度が大幅に低下したこと に起因していると推測されている1)。 富士川水系に架かる橋梁の現況を,特に橋脚基礎部 に着目して調査してみると,橋梁によって多少の差は あるものの,ほとんど全ての橋梁において河床低下お よび橋脚周辺の局所洗掘が認められる。架設年度の古 い橋梁の中には,橋脚基礎部の上端が計画河床面上に 露出しているものも少なくないことは特筆すべきであ る。このように,河床低下・局所洗掘を受けた根入れ 不足状態の橋梁・橋脚の安全性は,洪水時のみでなく 地震時に対しても著しく低下していることは明らかで ある。したがって,現在根入れ不足状態にある橋梁・ * 土木工学科,Department of Civil Engineering **@日本道路公団,Nihon Dohro Kodan 橋脚に対して何らかの対策を講じないと,近い将来生 起が予想されている東海地震のような大地震が来襲し た場合に,甚大な橋梁災害が発生する可能性のあるこ とが指摘されている1)。 これまでに,周辺地盤との相互作用を考慮した橋脚 の地震時挙動に関する研究は数多くなされている(た とえば文献2),3))。しかしながら,局所洗掘を考慮し た橋脚の動的挙動に着目した研究はほとんどなされて いないのが実情である。本研究は,局所洗掘を受けた 橋脚の地震時挙動の解析を有限要素法を用いて行い, 地震時の橋梁の安全性を評価するための基礎研究を行 うことを目的とするものである。具体的には,地盤中 に根入れされたケーソン基礎橋脚と周辺地盤との連成 振動を2次元問題としてモデル化し,局所洗掘形態や その進行度,橋脚の根入れ長,周辺地盤の諸物性値(弾 性率・減衰定数など)の各要因が,橋梁・橋脚の地震 時挙動に及ぼす影響を有限要素法を用いた振動解析に より把握することを試みる。さらに,橋梁上部構造と の連成を考慮した橋脚の振動特性についても検討を加 える。なお,地盤と構造物の相互作用を考慮した振動 解析には,一般にバネーマスーダッシュポット多質点 系モデルが用いられることが多い。その理由は明確で はないが,モデル化・数値計算上の容易さによるもの と推測できる。しかしながら,有限要素法の方が多層 地盤中に構造物が存在するような振動系を精度よくモ一26一
デル化できると考えられる。そのため本研究ではプロ グラミングや計算時間等数値計算上の困難さを承知の 上で有限要素法を用いることにした。 2.有限要素法による振動解析 地盤とケーソン基礎橋脚の連成振動の解析に際して は,地盤が構造物に対し3次元的な広がりを有してい ることを考慮に入れる必要があろう。有限要素法によ る3次元問題としての解析は可能であるが,その取り 扱いは極めて複雑であり,また数値計算量も膨大とな る。そこで本研究では,ケーソン基礎橋脚と地盤を含 む橋軸直角方向の一垂直面を考え,2次元問題として 周辺地盤とケーソン基礎橋脚の連成振動を取り扱うこ とにする。 2.1局所洗掘を受けた橋脚および周辺地盤のモデ ル化 局所洗掘を受けていないケーソン基礎橋脚と周辺地 盤を三角形要素に分割しモデル化したのが図一1であ る(MODEL−1)。ケーソン基礎の根入れ長に関しては 5∼20m程度のものが多く用いられている9)ことから, ここでは15mとする。また有限要素分割するモデル の幅については,MODEL−1において,幅Wが80 m 以上になると系全体の固有振動周期がほぼ一定になる との結果を得たので,ル=100mとしている。次に, 局所洗掘を受けた状態を想定してケーソン基礎橋脚と 周辺地盤をモデル化し,有限要素分割したものを示し たのが図一2(a)∼(c)である。MODEL−2は一般的な洗掘 形態を,MODEL−3は実際に数多く存在するわけでは ないが,橋脚の両面が洗掘されている形態を,MODEL −4は,局所洗掘とはいえないが最も危険な状態を想定 したものである。このモデル化に関する理論的な裏付 けが十分にあるわけではないが,土木研究所で行われ た実験結果1°)や現場での観察に基づいて,直感的にも っともらしく思われる形態を想定している。 2.2 数値解析上の仮定 数値解析に際して用いた仮定は以下のとおりであ る。 (i)周辺地盤の弾性率・減衰定数・ボアソン比は,振 動の発生によるひずみ・拘束圧等の変化に伴って 変化するため,非線形振動としての取り扱いが必 要である。しかしここでは,数値計算上の容易さ を考慮して線形振動としての取り扱いをする。ま た,クリープ的な挙動については考慮しない。 (ii)減衰に関しては,数値解析を容易にするため比例 モデル化 地震波吸収部 橋脚 地震波入力部 @ \ 表層 1 第2層 第3層 支持層
「一一t 、・ 6・ 8。 1。。m
図一1ケーソン基礎橋脚と周辺地盤の有限要素分割によるモデル化(MODEL1)(a)MODEL−2 (b)MODEL−3
O 20 40 60 80 100 m 9−一一. 、。 、。 ,。 lc。。 m(c)MODEL−4
40 2 1 mOOO 0 20 40 60 80 100m 図一2局所洗掘形態のモデル化表一1 数値解析に用いた諸物性値 弾性率E[ton/m・] 減 衰 定 数 極めて軟ら @ かい砂 軟らカ・い砂 硬い砂 α β ボアソン比 単位体積重量@ [ton/m・] 表 層 3000 8000 24000 0,100 0,030 0.45 1.90 第 2 層 3000 8000 24000 0,100 0,030 0.45 1.90 第 3 層 3000 8000 24000 0,100 0,020 0.40 2.00 支 持 層 30000 30000 60000 0,050 0,020 0.35 2.10 入 力 部 3000 8000 24000 1,000 0,300 0.40 2.00 吸 収 部 30000 30000 60000 0,500 0,200 0.35 2.10 橋 脚 3000000 3000000 3000000 0,001 0,020 0.17 0.90 ケーソン頂部 3000000 3000000 3000000 0,100 0,020 0.17 2.30 ケーソン下部 3000000 3000000 3000000 0,100 0,020 0.17 2.00 減衰を仮定する。 (iii)ケーソン基礎は支持層に直接設置するものとし, ケーソン底面と支持地盤とのせん断的なずれは生 じないものとする。 (iv)入力地震波にはEl Centro地震波のN−S成分を 使用し,最大加速度は320galとする。また入力 は,簡単のため図一1および図一2において右側面か ら行い,左側面の固定点で全反射するのを防ぐた め,左端の要素における減衰を大きくとり反射波 を抑える。
(v)固有振動解析についてはHouseholder法一
Bisection法一Inverse Iteration法を用い,応答解 析についてはNewmarkのβ法をβ=1/4(平均 加速度法)として用いる。 なお,数値解析に用いた諸物性値を表一1に示す。周 辺地盤の弾性率およびボアソン比に関しては,富士川 水系の土質に関する実測調査等により得られる値を用 いるべきであるが,その十分な情報を得るのは容易で ないことから,本研究では文献11)に従い,表一1に示す 値を用いることにする。 3.解析結果および考察 3.1局所洗掘の存在が橋脚の振動特性に及ぼす影 響 図一3は,MODEL−1∼4のおのおのの1次,2次,3 次の固有振動モードを示したもので,実線は振動形を, 破線は静止の状態を表わしている。また各次の固有振 動周期も図中に記してある。これより,いずれのモデ ルにおいてもほぼ同じ固有振動周期および振動形をも つことがわかる。すなわち,局所洗掘の有無が橋脚の 固有振動周期および固有振動モード形に及ぼす影響は ほとんどないといえる。 図一4は,四つのモデルにおける最大応答変位および 最大応答加速度を,支持層以外の周辺地盤の弾性率E を変化させて調べたものである。ここで生じている最 大応答変位・最大応答加速度の増加量が有意な量であ るかどうかについては,橋梁の終局限界状態に関する 解析が必要なため一概に判断できないが,局所洗掘の 存在により最大応答変位および最大応答加速度の値が 1∼2割程度増加することがわかる。また周辺地盤が軟 らかい場合にはMODEL−2の局所洗掘形態,すなわち 橋脚前面のみが洗掘されている状態が地震時に最も危 険であることも同図からわかる。 3.2局所洗掘の進行度と最大応答変位 MODEL−2の形態で局所洗掘が進行していく場合 の進行度を,洗掘率=(洗掘深さ)/(根入れ長)で表 わす(図一5参照)。洗掘率が0%のときの最大応答変位 を基準として,洗掘率の増加に伴って最大応答変位が どの程度増加するのかを調べてみたのが図一5である。 これより,最大応答変位が洗掘率の増加に伴いほぼ直 線的に増加していることがわかる。また同図には,ケ ーソン基礎の根入れ長が5m,10 mの場合についても 示してある。これによれば,ケーソン基礎の根入れ長 が短い場合ほど最大応答変位の増加が緩やかである。 すなわち,根入れ長が大きい場合ほど局所洗掘の影響 が顕著となってくるといえよう。ただし本研究では, 根入れ長が短くなる場合には支持層がそれだけ表面に 近くなってくると仮定しているため,振動系全体に占 める良質な地盤の割合が増大し,揺れにくくなってく る。それ故に最大応答変位も小さくなり,上記のよう な結果が得られたと考えられる。なお,支持層の位置 を一定に保ったまま根入れ長を変化させた場合の応答 変位の増加量と洗掘率との関係については今後検討し ていく予定である。一28一
lst MODE (Tニ0.66) ls七 卜10DE (T=0.65) lst MODE (T=0◆65) u[cm] 15
10
5 0 3000 図一4 2nd MODE (Tニ0.42)(a)MODEL−1
2nd 卜10DE (↑=0.42)(b)MODEL−2
2nd MODE (Tニ0.42)(c)MODEL−3
2nd MODE (T=0.41) 3rd MODE (T=0・34) 3rd MODE (Tニ0.34) 3rd MUI)E (T=0.34) 3rd 卜10DE (Tニ0.33) (d)MODEL−4 図一3 1∼3次の固有振動モードと固有振動周期 (i[ga 1] 卜10DEL−1 2000 −一一 トIODEI.−2 1000 −一一MOI)E[,−2 −・−MC)DE’1.−3 一工一一⇔MObEL−48000 24000 030008000 24000
E[ton/m2] E[{on/tn2] 四つのモデルにおける最大応答変位U,最大応答加速度diと弾性率Eの関係q[%] 75
5
25
00 25 50
洗掘深さ 75 100 p [%] 図一5洗掘率ρと最大応答変位の増加率qの関係 3.3周辺地盤の諸物性値の大小が振 動特性に及ぼす影響 本研究での解析においては,減衰に関 し次式で表わされる比例減衰を仮定して いる。 [C]=α[M]+β[K] (1) [C]:減衰マトリクス,[M]:質 量マトリクス,[K]:剛性マトリ クス,α:質量比例減衰に関する 定数,β:剛性比例減衰に関する 定数 これは,主要な振動モードの特長は比例 減衰を仮定しても十分把握できること, および数値解析上の容易さによるためで u[〔:m] 20 15 10 5 0 E=3000[ton/m2] ▲・一 亀±・一一一▲ ”N・一一.一一e 8000[ton/m2] 24000[ton/m2] 一・一●■一・_.■■ 0.1 《)」3 0.6 (1 (a)αとUの関係(β=O.03) 図一6 u[cm] 20 5 E=3000[ton/m2] ’、・”・’.■ O. OlO,03 (b)βとuの関係CCtsO・ 質量比例減衰に関するパラメータα,剛性比例減衰に関するパラメ ータβと最大応答変位Uとの関係 ある。土に関するα,βの値は一般にα=0.07∼0.25, β=0.01∼0.04程度の値をとることが報告されてい る12)’13}。そこでここでは,(1)式に含まれるα,βの値 の評価が最大応答変位に及ぼす影響について調べてみ ることにする。図一6は,α,βの値と最大応答変位の関 係を,支持層を除く周辺地盤の弾性率Eをパラメータ として示したものである。これより次のことがいえる。 「αの値を変化させても最大応答変位の値の増減はほ とんどみられない。これに対しβの値の変化に伴う 最大応答変位の変化は顕著であり,場合によっては 応答変位の値が4倍ほど異なる。この傾向は,周辺 地盤が軟質であるほど著しい。また,周辺地盤の弾 性率の大小も最大応答変位に大きく影響を与えてい ることがわかる。」 40 30 20 10 0 上部構造 βD
4.上部構造との連成 ここまでの解析では,周辺地盤との相互作用を考慮 したケーソン基礎橋脚の振動を対象としてきた。しか し実際の橋梁では,橋脚と上部構造とは支承部を介し て連結されており,上部構造の存在が橋脚等の振動特 0 20 40 60 80 図一7上部構造との連成を考慮したモデル化 100m 性に影響を及ぼすと考えるのが妥当であろう。この上 部構造と下部構造との連成振動に関して実測を行った 文献3)においては,橋脚は橋軸直角方向には桁の拘束 を受けた振動性状を示し,橋軸方向には桁の拘束をほ とんど受けず独立に振動するとの結果が得られてい る。したがって,橋軸方向を対象とする場合にはこれ までの取り扱いでよいといえるが,局所洗掘の影響は 橋軸直角方向において顕著であるため,桁による拘束 を考慮する必要があろう。しかし,この点を考慮した一30一
U[cm]
15
10
5
0
図一8 {i[9a1]1500
1000
500
㊦一一一’n
上部構造考慮せず ケーソン1頁吾B 橋脚頂部12.55 1・、1。4°12.55 1・,1。・
Eu[七(》n/M2] Eu[ton/m2] 上部構造との連成を考慮した場合の弾性定数E。と橋脚頂部・ケーソン頂部の最大応答変位U および最大応答加速度a’の関係S
1.0 0.8 O.6 O.4 O.2 S 1.0as
O.604
O.20α5 、 2 3 5 00.5 1 2 3 5
周波数[H2] 周波数[H2] (a)上部構造との連成を考慮しない場合 (b)上部構造との連成を考慮する場合 図一9地震動から求めた橋脚頂部,ケーソン頂部のパワースペクトルS (E = 8000 〔ton/m2〕, Eu=3000000〔ton/m2〕) 解析を2次元の有限要素法を用いて行うことは極めて 困難であり,また未知の要因も多い。そこでここでは, 桁の両側面にバネとして働く要素を設け,その端を固 定支持することによりモデル化し(図一7参照,河床面 上の橋脚の高さ10m),桁による拘束が橋梁・橋脚の振 動持性に及ぼす影響の把握を試みることにする。 桁の両側に仮想的に設けたバネ要素の弾性定数Eza の違いにより橋脚頂部の水平変位および水平加速度が どのように変化するかを調べたのが図一8である。弾性 定数Eμは,上部構造の面外方向の剛性やねじり剛性 等を考慮して評価すべきである。ところが,それに関 する資料は現時点においては十分でないため,Euの 値をパラメトリックに変化させ,その定性的な影響を 調べている。同図より,桁による拘束を考慮する場合 には水平変位・加速度共にかなり小さな値となってお り,当然のことながらEuの値が大きい(すなわち桁の 拘束が大きい)ほど両者の値は小さくなっている。な お図一8には,ケーソン頂部の水平変位と水平加速度も 記してあるが,Euの値が大きいときには,橋脚頂部よ りもケーソン頂部の変位・加速度の方が大きく,Euの 値が小さいときにはその逆となっている。また図一9に は,上部構造との連成を考慮した場合とそうでない場 合の,地震動から求めた橋脚頂部・ケーソン頂部のパ ワースペクトル(橋脚頂部の最大値で正規化したもの) を示してある。これより,上部構造との連成を考慮す る場合には,卓越周波数の数は少なくなっており,し かも高周波成分がカットされていることが確かめられ る。すなわち,上部構造との連成を考慮する場合とそ うでない場合とでその周波数特性がかなり異なってい ることがわかる。 以上より,周辺地盤との相互作用を考慮した橋脚の 動的挙動を取り扱う場合には,上部構造との連成を考慮に入れる必要があるといえる。 5. ま と め 地震時の橋梁の安全性を評価するための基礎研究と して,局所洗掘を受けた橋梁・橋脚の地震時挙動の解 析を行った。その結果,以下のことが明らかとなった。 ①局所洗掘の存在による橋梁・橋脚の固有振動周期の 変化はほとんど認められないが,最大応答変位およ び最大応答加速度は増大する。 ②軟質地盤において地震時に最も危険である局所洗掘 形態は,橋脚前面のみが著しく洗掘された形態であ る。 ③局所洗掘の進行度を洗掘率(=洗掘深さ/根入れ長) で表わした時,最大応答変位は,洗掘率の増加に伴 いほぼ直線的に増加する。 ④周辺地盤の諸物性値の中では,剛性比例減衰に関す るパラメータ値および弾1生率の評価のしかたにより 最大応答変位が数倍異なる場合もあることから,こ れらの値の正確な把握が最も重要である。 ⑤上部構造の存在による橋脚の制振効果は大きく,上 部構造・下部構造の連成振動としての解析を行う必 要がある。 今後はこれらの成果を踏まえ,既存橋梁・橋脚の補 修あるいは架け換えの判断に際して有用となる情報を 提供できるよう,解析モデルの高精度化等について検 討を重ねていく必要がある。