論 文
都市ごみ焼却飛灰からの重金属の溶出
金子栄廣 山口稔
(平成5年8月31日受理)Leaching Behavior of Heavy Metals from
Municipal Waste Combustion Fly Ash
HidehiroKANEKO MinoruYAMAGUCHI Abstract The effects of contact time, pH and the type of acid which was added to maintain pH constant during extraction on the amounts of heavy metals released from municipal waste combustion fly ash were investigated. The results showed that pH control was essential to obtain the maximum release of heavy metals. The extraction condition of 6 hours contact time and pH=4gave the maximum release of cadmium, copper and zinc. This condition, however, was not aggressive enough to obtain the maximum release of iron, manganese and lead. These facts show that one extraction procedure is not satisfactory to evaluate the amounts of all constituents which are available for leaching. It is necessary to choose adequate extraction conditions according to the target constituents. 1.はじめに 都市ごみの焼却処理に伴って発生する飛灰中にはカ ドミウムや鉛などの低沸点の重金属が高濃度に含まれ るため,これを他の一般廃棄物と一緒に最終処分する ことの危険性が指摘され,環境汚染を防止するための 処理方法等についての検討がなされてきた1)。このこ とを受け,平成3年に改正された廃棄物の処理及び清 掃に関する法律(以下,改正廃掃法という)では,一 般廃棄物の焼却に伴って発生するぽいじんのうち集じ ん施設で捕集されたものすなわち飛灰を特別管理一般 廃棄物に指定し,適正な処理をした後でなければ最終 処分してはならないこととなった。 飛灰の処理方法としては,セメントなどのバインダ *土木環境工学科,Department of Civi1&Environ− mental Engineering 一による固化,溶融による固化,金属を不溶化する薬 剤による処理など,いわゆる安定化が主流となってい る。廃棄物が雨水や地下水などと接触したときにそこ に含まれる成分が水中に放出される現象は溶出と呼ぽ れるが,安定化の目的は有害成分が溶出しにくい形態 にすることにある。したがって,安定化処理をしても 有害成分そのものが最終処分地に入ることには変わり がなく,溶出による環境汚染の危険性について常に監 視するなど安全性の確保に細心の注意を払う必要があ る。 このような有害廃棄物による環境汚染の危険性を事 前に評価する方法として溶出試験がある。溶出試験は, 実際の処分地内で起こる有害物質の溶出を実験室内に おける簡便な方法で評価しようというもので,様々な 方法が開発,提唱されている2)3)。しかし,複雑な機構 を持ち,長時間を要し,最終処分地に固有の条件によ
表一1 単一バッチ型標準溶出試験の操作条件 試 験 方 法 溶 媒 固液比 抽出時間 粒 径 撹拝方法 Availability Test(オランダ) 環境庁告示13号法 (日本)
TCLP
(USA) EP−Tox (USA) DIN 38414 (ドイツ) 脱イオン水+硝酸 (pH=4、維持) 脱イオン水 (初期pH=5.8−6.3) 緩衝酢酸溶液 (初期pH=2.9/4.9) 脱イオン水+酢酸 (pH≦5、維持) 蒸留水 1% 10% 5% 5% 10% 6時間 6時間 18時間 24−48時間 24時間 <125μm<5mm
<9.5mm <9.5mm <10mm スターラ 振盈 転倒 規定なし 連続撹搾 転倒 って影響を受ける溶出を,簡単な操作で再現すること には限界がある。また,ほとんどの溶出試験では典型 的な最終処分地の状況を想定して溶出操作条件を設定 しているため,操作条件に統一性がなく,複数の溶出 試験を行っても得られた結果の科学的な解釈が難しい ため比較ができないなどの問題を抱えている。 そのような状況の中,最大溶出可能量という概念4) が廃棄物の有害性の客観的な指標として注目され5), これを評価するための溶出試験方法が検討,提唱され ている6)。最大溶出可能量とは,対象となる廃棄物の中 に含まれる成分のうち条件次第では溶出する可能性の ある部分の量をいい,実際には溶出試験結果に影響を 与える様々な操作因子すべてについてそれらが溶出量 の制限とならないように条件を設定して溶出試験を行 ったときの溶出量ということになる。この概念は,実 際の場での溶出条件を想定して操作条件を決めていた 従来の溶出試験に比べて測定対象が明確であると同時 に,有害性を安全側で評価できるという利点を持って いる。 本研究では,以上の点を踏まえ,都市ごみ焼却飛灰 中の重金属を対象として,その最大溶出可能量を調べ るための溶出条件のうち,溶出時間とpHとについて 検討を行った。また,わが国の公定法である環境庁告 示13号法による試験結果との比較も行った。 2.溶出実験 溶出操作には様々な形態のものがあるが,操作が容 易であることから,単一バッチ型2)の溶出試験操作に よって溶出実験を行った。現在標準試験方法となって いるもののうち代表的なものについて操作条件をまと めると表一1のようになる。中でも,本研究で着目して いる最大溶出可能量を評価することを目的としている オランダのAvailability Test 7)の場合には,他の方法口
1/ 〃〃/ ○ ○Magnetic Stirrer pH Controller AcidRoller Pump
Reservoir 図一1 溶出試験装置 に比べてpHを低く,固液比を小さく,粒径を細かくす ることによって溶出強度を大きくしている。そこで, 本研究ではこれを参考に,以下の要領で溶出実験を行 った。 溶出操作には図一1の装置を用いた。まず,試料飛灰
5gをあらかじめ11の三角フラスコ内に用意した蒸
留水500mlと混合し,定速回転マグネチックスターラ ーによる撹持を行った。溶出操作中混合液のpHを所 定の値に保つため,液中に挿入した電極を通してpH コントローラーによりpHをモニタリングすると同時 に,これに連動する定量ポンプによりpH調整液をフ ラスコ内に供給した。 所定時間撹]牛した後,直ちに孔径1.0μmのグラスフ ァイバーフィルターによる固液分離を行い,得られた 液を溶出液とした。 溶出液を王水分解により前処理した後,原子吸光法 によりカドミウム,銅,鉄,マンガン,鉛および亜鉛 の6種類の重金属の分析を行った。 本研究で設定した溶出操作条件を表一2に示す。溶出 試験結果に影響を与えると考えられる因子のうち,接触時間,pHおよびpH調整剤について検討を行うた
表一2 実験条件 固液比 1 W/V% 溶出時間 1∼48 時間 撹絆速度 500rpm 酸とpH 塩酸(pH=2∼6) 硝酸(pH・=4) 酢酸(pH=3.5∼6) め,これらについては表一2の範囲で随時設定値を変え て溶出実験を行った。 また,試料飛灰を王水分解して得られる液について 溶出液と同様に重金属の分析を行い,含有量を求めた。 なお,本研究で試料として用いた飛灰は,ストーカ ー型の都市ごみ焼却炉に付帯する電気集塵器によって 捕集されたものである。 3.結果と考察 3.1 接触時間と溶出量 塩酸を用いてpHを4に設定し,接触時間を変えて 溶出操作を行ったときの各金属の溶出量を図一2に示 す。鉄を除く各金属は速やかに溶出し,接触時間1時 間でも十分量溶出し,それ以上接触時間を長くしても 溶出量の変化はなく安定した値を示した。これに対し, 鉄は接触時間を長くとるほど溶出量が大きくなり,接 触時間を48時間にしても最大値は得られなかった。 この結果から,接触時間をさらに長くとれば鉄も含 めて最大溶出可能量を把握することは可能と考えられ る。しかし,本研究で用いた装置の場合,長時間にわ たる撹搾によってスターラー用マグネットが摩滅して しまうため,これ以上接触時間を長くとることは技術 的に難しいという問題がある。また,鉄は有害性とい う面ではその寄与が小さいと判断されるので,本研究 では標準的な接触時間を6時間とすることにした。 100
§10
… 茎11
§ ホ・.1 0.01 0 〉一・二ごi“”:一一一一一…一一一…● つ二二二魯言 10 20 30 Contact time(hrs) 40 503.2 pH調整剤と溶出量
金属の溶解度はpHによって影響を受けるため,そ の最大溶出可能量を評価するにはpHを低く設定する ことが必要となる。実際,表一1に示したようにいくつ かの溶出試験ではpHを低く設定することになってい る。しかし,pHを調整するのに用いる酸は多種多様で 統一がとれていない。 そこでpH調整剤として,塩酸,硝酸または酢酸を用 い,pHを4に設定した溶出試験を行い,各金属の溶出 量に対する酸の種類の影響について調べた。その結果 を,塩酸を用いたときの溶出量を基準として整理する と図一3のようになった。 Cd Cu Fe Mn Pb Zn −e− ・・日・ △ 一●一 一■一 一占一 § 150 §・i」、100 § 巴8
8 ヨ菖e50
8’ 0 図一2 溶出操作時間と重金属の溶出量 Cd Cu Fe Mn Pb Zn Xヨ HC1 圏 HNO3 [ミ]CH3 COOH 図一3 酸の種類による溶出量の相違100
§10
… 曇 § § ξ・.1 O.Ol 2 3 4 pH 5 6 100§10
… 妻11
t 竃・.t O.01 3 4 pH 5 6 Cd Cu Fe Mn Pb Zn−e− ・・日・ △ 一●一 一書一 一▲一 −e− ・・日・ △ 一●一 一書一 一▲一Cd Cu Fe Mn Pb Zn
図一4 pHと金属溶出量(塩酸使用) 図一5 pHと金属溶出量(酢酸使用) 塩酸を用いた場合と硝酸を用いた場合とを比較する と,鉄については硝酸を用いた方が1割ほど溶出量が 小さくなったが,他の5種類の金属についてはほぼ等 しい溶出量が得られた。そこで,以下のpHを変化させ る実験においては,無機の酸として塩酸を用いること とした。 塩酸を用いた場合と酢酸を用いた場合の溶出量を比 較すると,鉄では酢酸の方が塩酸の80%と小さくなっ たが,逆に鉛では約140%と大きくなった。また,残り の4種類の金属についてはどちらの酸を用いてもほぼ 等しい溶出量が得られた。
3.3 pHと溶出量
図一4に塩酸を使用してpHをコントロールして行 った溶出実験でのpHと各金属の溶出量との関係を示 す。pHを低くするとどの金属も溶出量が大きくなる 傾向を示したが,カドミウムおよび亜鉛ではpH6以 下,銅および鉛ではpH5以下でほぼ安定した溶出量を 示した。したがって,これら4種の金属については,例えばpHを4に設定することでpHによる溶解度制
限をなくした形で溶出量を知ることができると考えら れる。これに対し,鉄およびマンガンはpHを低くする ほど溶出量が大きくなり,pHが溶出量に影響を与え ないようなpH領域を見いだすことはできなかった。 特に鉄の場合は溶出量がpHに大きく影響され, pH が1下がると溶出量が約10倍大きくなった。 図一5は,酢酸を使用してpHをコントロールして溶 出操作を行ったときのpHと各金属の溶出量との関係 を示したものである。鉛を除く5種類の金属について は,それぞれのpHにおいて塩酸を使用したときとほ ぼ等しい溶出量が得られた。これに対し,鉛は塩酸の 時とは異なる挙動を示し,pHが低くなるほど溶出量 が大きくなった。また,同じpHでも酢酸を用いた方が 鉛の溶出量が大きく,pH4では約1.5倍の溶出量を示し た。 以上のことから,カドミウム,銅および亜鉛につい ては,pH調整剤として塩酸または酢酸を用いてpH を4に制御することで最大溶出可能量が測定できると 考えられる。 鉄およびマンガンについては,pHを4以下にして も溶出量にpHが影響を与えるため,最大溶出可能量 を測定するための溶出条件を決めることは難しい。し かし,2種類の酸によってpHをコントロールしたと きの溶出量がほぼ等しかったことから,これら2つの 金属の溶出量はpH自体に支配されていると判断でき る。 これに対して鉛の場合,塩酸を用いた実験結果からみてpH5以下の領域ではpH自体が溶出量に影響を
表一3 溶出方法と各金属の溶出量 試 験 方 法
pH
(一) Cd (mg/kg) Cu (mg/kg) Fe (mg/kg)Mn
(mg/kg) Pb (mg/kg) Zn (mg/kg) 環境庁告示13号法 Availability Test 含 有 量 6.4 4.0 4.5×102 (86) 4.8×102 (92) 5.2×102 1.4×101 (0.47) 2.3×103 (77) 3.0×103 1.0×100 (0.01) 1.3×102 (0.13) 9.7×103 8.8×101 (11) 1.8×102 (23) 7.8×102 5.0×101 (0.17) 6.2×102 (2.1) 2.9×104 8.4×103 (32) 2.1×104 (81) 2.6×104 注) ()内は含有量に対する溶出量の百分率を示す。9
ε8
8 7 6 5 0 10 20 30 Cl’1SOOH(mmol/1) 図一6 溶出液中の酢酸濃度と鉛濃度との関係 40 与えることはないと判断できるので,酢酸を用いた場 合にpHが低いほど溶出量が大きくなるようにみえる のは,鉛の溶出にpHが効いているのではなく酢酸が 鉛の溶出を促進したためと考えられる。 3.4 酢酸の存在と鉛の溶出 3.3において,酢酸の存在によって鉛の溶出量が大 きくなることが示唆された。そこで,酢酸と鉛の溶出 の関係について定量的に検討するため,塩酸と酢酸と を比率を変えて混合した混酸を用いてpH=4にコン トPt ・一ルした溶出操作を行った。 そのときの溶出液中の酢酸濃度と鉛濃度との関係を 調べると図一6のようになり,酢酸濃度と鉛濃度との間 に直線関係(相関係数0.986)が成り立つことがわかっ た。この直線の傾きから酢酸による鉛の溶出促進効果 を求めると2.4×10−4mo1Pb/mo1CH3COOHとなっ た。 3.5 環境庁告示13号法との比較 以上の検討の結果,飛灰中に含まれる重金属の最大 溶出可能量を把握するためには,pHを低くコントロ 一ルすることが必要であることが示された。そこで, pHコントロールが必須のオランダのAvailability TestとpHコントロールを行わない環境庁告示13号 法に準じて溶出を行い,それぞれの溶出量を比較した。 表一3は,それぞれの溶出操作を行ったときの各金属 の溶出量ならびに含有量に対する溶出量の割合すなわ ち溶出率をまとめたものである。カドミウムの場合に はいずれの方法によって溶出させても飛灰中の含有量 のほとんどが溶出し溶出量に大きな差は見られなかっ たが,その他の金属については溶出量に大きな違いが 見られた。 先に述べたように,改正廃掃法では飛灰の処理を義 務づけているが,処理基準となる溶出試験には環境庁 告示13号法が適用されることとなっている。しかし, 表一3が示すようにこの方法では重金属の溶出量を過 小評価してしまう危険性がある。特に,セメント固化 による安定化処理を施した場合には試料のpHが高く なるため,金属によってはこの溶出試験では殆ど溶出 しないことも考えられる。もちろんpHを高くするこ とも最終処分地内での溶出を抑制する効果はあるが, 長期にわたって酸性雨や有機酸などを含む埋立浸出水 と接触する過程で永久にpHを高く保てるとは考えに くい。いずれpHは低下するものと考えた方が妥当で あり,また,その方が溶出を安全側で評価することに なる。その意味から,飛灰などの有害廃棄物の安定化 処理の効果を評価するには,少なくともpHを低くコ ントロ 一一ルした溶出操作を行う必要がある。 4.まとめ 都市ごみ焼却飛灰に含まれる重金属の最大溶出量を 評価するための溶出条件を検討することを目的として, 溶出時間,pHおよびpHコントロールに使用する酸 の種類を変えて単一バッチ型の溶出試験を行い,各条 件下における重金属の溶出量を調べた。 その結果,カドミウム,銅,亜鉛については,オラ ンダのAvailability Testと同等の条件(pH=4,接触時間6時間)で最大溶出可能量を把握できることが 明らかとなった。Availability TestでpHを4に規定 した理由についてvan der Slootは,廃棄物の最終処 分地の対象となるような環境で予測されるpHの下限 がこの程度であるからと述べている8)が,pHに関して だけは現実の状況に見合う最も厳しい条件を設定し, 他の操作因子に関しては溶出の制限にならないように 条件設定をすることで最大溶出可能量が評価できると するこの考えに基づくならば,マンガンも同一の条件 でそれを把握することが可能である。 しかし,鉄の場合には溶出時間6時間では溶出量の 最大値が得られず,また,鉛の場合にはpHコントロー ルのために添加する酸の種類によって溶出量が影響を 受けるというように,上で設定した溶出操作条件です べての物質の最大溶出可能量が測定できるわけではな い。最大溶出可能量の評価を目的とした溶出試験では, 従来のように単一の溶出条件下で溶出させるのではな く,目的とする成分に応じて適当な操作条件を選択で きるような配慮も必要である。 参考文献 1) 廃棄物研究財団:灰の安定化等処理技術開発プ ロジェクト報告書(昭和63年,平成元年,平成3年) 2) 金子栄廣:溶出試験方法の現状と展望,廃棄物学 会誌,VoL3, No.3, pp.182−191(1992) 3)Wastewater Technology Centre, Environment Canada, Compendiu;n of Waste Leaching Tests, EPS 3/HA/7(1990) 4) P.L.Cδt6 and T.R.Bridle:Long Term Leach− ing Scenario for Cement Based Waste Forms, Waste Management&Research, Vol.5, pp.55− 66 (1987) 5) A.Fallman:International Seminar on Leach Tests, Held at Swedish Environmental Protec− tion Agency, Solna, Sweden(1990) 6) H.A.van der Sloot, D.Hoede and P Bonouvrie: Comparison of Different Regulatory Leaching Test Procedures for Waste Materials and Con− struction Materials, Netherlands Energy Research Foundation ECN, ECN−C−91−082(1991) 7) Dutch Standarization Institute NNI: NVN2508 Determination of Leaching Charac− teristics of Inorganic Components from granular (wastes)materials(1990) 8) HAvan der Sloot:Systematic Leaching Behaviour of Trace Elements from Construction Materials and Waste Materials, Waste Mate− rials in Construction, PP.19−36 (1991)