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電子天びんを用いた布の摩擦特性の測定
Measurement of Friction Properties of Fabrics by Electric Balance
勢 田 二 郎
Jiro SETA
1.緒言 着衣の着心地に関する研究は、衣服と人体の間の空間の温度および湿度が、被服内気候として、主 として検討されているが、多量の発汗時の衣服の纏わりつきが不快であるように、衣服のすべり摩擦 性も重要な着心地因子であることは明白である。このような摩擦特性を因子とした研究1)もなされて いる。従来、この摩擦特性を評価するには、例えば、摩擦試験機あるいはインストロンなどの専門的 設備が必要であった。しかしながら、現在のIT技術の発展により、どこにでもある天秤とパソコンを 接続することにより、多くの物理的測定が可能となり、摩擦特性も対象となる。筆者は、このような 特別の設備のいらない研究に取り組み、今までに吸水性に関する多くの報告2)をしている。その中で、 吸汗速乾素材の吸水性を評価したもの3)では、吸水性能と吸水後の乾燥性能を天秤とパソコンを接続 することにより、容易に評価できることを示した。一般に、衣服の着心地は、吸汗速乾性や衣服内気 候だけではなく、すなわち湿度と温度だけではなく、皮膚と被服の接触による摩擦特性に依存すると 考えられる。水や油が付着した場合の布帛のすべり抵抗を測定することにより、汗をかいた状態での 着衣の着心地や、汚れに対する布帛のふきとり性能を評価することが可能であると考えられる。すな わち、着衣の人体に対する絡みつきやべとつき感は、布帛のすべり抵抗に依存すると考えられるので、 各種繊維製品のすべり抵抗を容易に測定する方法を確立することが必要となる。一方、油の付着した 繊維製品のすべり抵抗の評価は、繊維のリサイクルと関連した工業用ウエスやいわゆる“アクリルた わし”4)の性能評価をも可能にする。現在、繊維製品リサイクルとしての工業用ウエスの性能評価は 確立されておらず、また、環境問題への意識の増加により、生活行為による環境負荷の低減として、 洗剤使用量の削減と排水汚染量の低下を目的に、社会的に知られつつある “アクリルたわし”の評価 に対する学術的報告5)もほとんどないのが実状である。 以上のように、繊維製品の摩擦特性を天秤のような一般的な装置により、容易に評価できれば、繊 維製品の着心地やリサイクルおよび繊維製品(例えば、ふきんやたわし等)等の摩擦に係る性能評価 だけでなく、高等学校等での被服教育へも簡単に応用できる可能性がある。 2.実験 著者の調査では、天秤を用いた摩擦に関する学術報告は見当たらず、僅かにフォースゲージを用い た鈴木の報告6)が見られたに過ぎない。そこで、本報告では、鈴木の報告に従い、以下のような手法 を用いた。 図1は、恒温恒湿度(25±1℃、65±2 %RH)ボックス中に置いた記録計の回転部を使用し、一定 回転数(65cm/min)で駆動させる実験装置である。記録計の回転部は、直径4.8cmの市販塩ビパイプ を用い改良した。これは、記録紙の芯が厚紙であったため、そのままでは使用できないことによる。 用いた記録計は、市販品(TOYOBALDWIN AR6000)を流用した。このような手法により、一定回 転数における実験が容易に実現できた。試料布(幅2.0cm、長さ10cm)を、図1のように、回転部に 置いた。天秤(エーアンドデー社 HA180M)底部のフックと試料布の上端とは、荷重の僅かな金属平成 19 年(2007年)度 山 梨 大 学 教 育 人 間 科 学 部 紀 要 第 9 巻 ─ 80 ─ 製フック(0.05g)を用い、摩擦の無視でき るボールベアリングを通してナイロン糸に より接続した。金属製フックの荷重は以後 の計算では無視した。試料布の長さは、接 触部分より長くとり(垂下長3.5cm)、その 下端には垂下荷重(3.18g、13.18g、23.18g、 33.18g)をとりつけた。 鈴木に従い、天秤の指示値、すなわちす べり抵抗R (g)を用い、下式から摩擦係数 μおよび密着力F (g/cm2)を求めることがで きる。 R = R0・eπμ/2 + bw0(1 + α/ 100 ) ( r + d / 2)・{(1-μ2) + 2μeπμ/2} / (1 +μ2) + b r (eπμ/2 -1) F (1) また、R0は初荷重(g)であり、次式で示される。 R0 = Rs + w0 (1 + α/ 100) b l (2) ここに、Rs は上述の垂下荷重(g)、w0は布の単位当たりの乾燥重量 (g/cm2)、αは布の水分率(%)、 b は布の幅(cm)、 l は垂下長(cm)、 d は布の厚さ(cm)、および r は回転半径(cm)である。鈴木は、 Eulerのベルト理論を適用し、摩擦条件が低荷重のために試料の自重を補正し、密着力とすべり抵抗と による摩擦力を関係付けた。 式(1)から、種々の荷重の下にすべり抵抗を測定すれば、摩擦係数および密着力を実験的に求 めることができる。本報告では、すべり抵抗に関する第1報として、25℃-65%の条件下、摩擦速度 を65 cm/minとして実験した。速度の影響や水分率および油汚れの評価については今後の課題とした。 試料としては、市販綿、麻およびレーヨン布を用い、定法7)により洗浄後、経糸および緯糸方向に ついて測定した。試料布の目付および打ち込み本数を表1に示した。 3.結果 図2は、上述の実験装置にセット した綿布について、荷重3.18g、無回 転下の天秤の1分毎の指示値である。 図に明らかなように、天秤の指示値 は振動している。このような振動は、 フォースゲージを用いた鈴木の報告 には記載されていない。図は、60分 間の観測値であるが、24時間後も振 動は収束せず継続した。本報告にお ける実験条件下において、無回転状 態の塩ビパイプと布の摩擦現象が、 一定にならず、すべり現象が断続的 に生じていると考えられる。このよ うな観測は、従来の報告には見当た らず、天秤の精度の高さと、パソコ 00.000 BALANCE P.C. CONTROL BOX DRY�BOX 25℃ 65% SAMPLE RECORDER WEIGHT WATER�RESERVOIR
Fig.1 �Schematic� diagram� for� measuring� the� sliding� resistance�of�fabrics 15 10 5 0 0 20 40 60 R(g) time(min) 0�c m/min cotton(weft)
Fig.2 �Relation� between� the� sliding� resistance�R� and� the� experimental�time
─ 81 ─ ンとの接続という実験手法による自 動測定の成果と考えられる。 図3は、同じ垂下荷重における回 転時(65 cm/min)の結果である。対 比のために、図2と同じスケ-ルで表 示した。試料は緯糸方向に回転方向 をセットした。同方向にセットした 図2の無回転時に比較し、天秤の指示 値、すなわちすべり抵抗値の振動は 小さくなっているが、ゼロではない。 この傾向は、実験した試料および荷 重のすべての条件下においてみられ、 一定した測定値は得られなかった。 一般的に、実際の布の摩擦測定に使 用されているKESシステムでは、滑っ ている間の動摩擦係数は変動している。その変動の大きさは摩擦係数の平均値の数十パーセントに及 ぶことが知られ、動摩擦係数の変動を表す数値として、平均偏差が用いられている。そこで、図3か ら予測されるように、一定の振動幅で実測されるので、以下では測定60分間の平均値を使用すること とした。本実験におけるすべり抵抗Rの標準偏差は平均値の5%以下であった。 図4は、摩擦係数および密着力を、式(1)の関係から算出するために、布の垂下長を補正した初 期荷重R0に対するすべり抵抗Rとの関係を示したものである。図に明らかなように、相関係数は0.999 となる良好な直線関係が得られた。近似直線の勾配および切片から、摩擦係数μおよび密着力Fを求 めることができる。 同様に、麻布(緯糸方向)に対す るR vs. R0の プ ロ ッ ト を 図 5 に 示 し た。綿布と同様に、良好な直線関係 が得られた。近似曲線の勾配は同程 度であったが、切片の値は大きく異 なり、両者の摩擦特性の差異が推察 される。これらの結果を表1にまとめ た。表には、同じセルロース系の布 としてレーヨンの結果も示した。摩 擦係数の値は、いずれの布の場合に も、経糸と緯糸方向に大きな差は見 られず、綿と麻では同程度の値を示 したが、レーヨンではやや小さい値 が得られた。これらの結果は、経糸 と緯糸の構成にほとんど影響されな いことがわかる。一方、密着力につ いては、対照的な結果であり、綿と レーヨンの緯糸方向が大きな値であ り、麻は綿の3~8分の1程度の値であった。この結果は、麻が綿より「サラリ」としているという 15 10 5 0 0 20 40 60 R(g) time(min) cotton(weft) 65�cm/min Fig.3 �Relation�between�R�and�the�experimental�time�at�the� sliding�velocity�65�cm/min 60 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 R(g) R0(g) cotton(weft) R�=�1.437 R0�+�1.119
Fig.4 �Relation� between� the� sliding� resistance�R� of� cotton� fabrics�along�the�weft�direction�and�the�initial�load�R0 電子天びんを用いた布の摩擦特性の測定 (勢田)
─ 82 ─ 従来からの着心地に関する経験をよ く現していると考えられる。同一布 の経緯方向の数値の差は、織物構造 による接触面積から説明されると思 われるが、一様ではなく、さらなる データの積み重ねが必要であろう。 本報告では、摩擦挙動に及ぼす水 分率の影響や、アクリルなどの疎水 性合成繊維の測定は行っていない。 本研究を始めるきっかけとなった“ア クリルたわし”の優位性に関する学 術論文は見あたらず、汚れ拭き取り 性についてアクリルたわしの優位性 が見られないとした著者の報告8)が あるだけである。本研究者は古着回 収業者から工業用ウエスには綿製品 が適しているという風聞を経験して いる。このように布帛の拭き取り性 能評価方法が確立されていない現状があり、加えて“アクリルたわし”が家庭科教材として使われて いることの適否を明確にすることは必要であろう。 繊維製品の汚れ拭き取り性能に関する研究はほ とんど見当たらず、試験規格も存在しない。今後の検討課題である。 文献 1)例えば、繊維学会編;“繊維便覧 第3版”,220-224(2004) 2) 例えば、勢田二郎;「バイレック法装置によるふきんの吸水試験とその評価」,日本家政学会誌,53,355-359 (2002) 3)勢田二郎ら;「吸汗速乾素材のバイレック法による性能評価」,山梨大学教育人間科学部紀要,7, 1-6(2005) 4)例えば、発行人:瀬戸信昭;“はじめてのふしぎなタワシ”,ヴォーグ社 (1997) 5)甲斐今日子ら;「アクリルたわしの洗浄性と衛生性」,日本家政学会誌,52,641-646(2001) 6)鈴木 淳;「布の湿感限界水分率に関する一考察」,繊維学会誌,38,T163-T170(1982) 7)塩見 昭ら;「パイル地の吸水性について」,繊維製品消費科学誌,31,48-56(1990) 8)勢田二郎ら;「布たわしの油汚れ拭き取り性能」,山梨大学教育人間科学部紀要,6, 1-6(2004) 60 50 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 R(g) R0(g) hemp(weft) R�=�1.468 R0�+�0.227
Fig.5 �Relation� between� the� sliding� resistance�R� of� hemp� fabrics�along�the�weft�direction�and�the�initial�load�R0 平成 19 年(2007年)度 山 梨 大 学 教 育 人 間 科 学 部 紀 要 第 9 巻
Table�1�Friction�Properties�of�Cellulose�Fabrics sample dry weight
( g /cm2 ) sliding direction number�of yarns�(�/cm) friction coefficient clingy force ( g /cm2 ) cotton 120 weft 30 0.23 0.51 warp 60 0.23 0.49 hemp 130 weft 26 0.24 0.06 warp 32 0.24 0.19 rayon 84 weft 30 0.19 0.51 warp 40 0.18 0.24