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1 大学開放講座の法的基礎

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(1)

三 井 為 友

1 大学開放講座の法的基礎

 わが国戦後における大学開放講座の法的基礎は早く昭和22年3月31日に公布 された「学校教育法」にある。大学について規定した第5章の中の第69条に,

  大学においては,公開講座の施設を設けることができる。

  2 公開講座に関し必要な事項は,監督庁が,これを定める。

と書かれている。

 この規定は,当然同時に公布された「教育基本法」を受けている。基本法は,

日本教育の目的を明らかにし,それを受けて,第2条で「教育の方針」,第3 条で「教育の機会均等」を規定した。すなわち教育の方針として,

  教育の目的は,あらゆる機会に,あらゆる場所において実現されなけれぽならない。

といっている。このことは,教育目的実現の方策が,学校やその他の組織され た教育機関に限定されるものでないことを明らかにしたものといえるであろ

う。さらにこれに続いて,

  この目的を達成するためには,学問の自由を尊重し,実際生活に即し,自発的精神  を養い,自他の敬愛と協力によって,文化の創造と発展に貢献するように努めなけれ  ぽならない。

といっているが,このことの意味は,立法者の意識の如何にかかわらず,とく に重要なものというべきであろう。すなわち,「あらゆる機会,あらゆる場所」

で,教育活動が実現するためには, 「学問の自由の尊重」が特に重要であるこ

とが明確にされているという点である。真実を追求する自由と表現の自由のな

いところに,教育活動は成立しない。すなわち,虚偽を伝播し,誤謬をわかち

あうことを,教育活動とは名づけないという基本的視点が,ここには明確にさ

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れているといってよい。しかも,学問の自由が最大限に保障されているところ が大学であるとするならば,大学こそ教育目的実現の先頭に立って,とくに構 内での正規学生に限定されないinformalな教育活動を営むべきことが想定さ れていたといわなければならない。また,第3条で,すべての国民に教育を受 ける機会が均等でなければならないことを規定したことは,基本的にはやはり 大学教育の特権性(戦前のような,性による差別や,身分,経済的地位による 差別)の否定を意味しようとしたものとみるべきである。

 すでに,憲法第26条で,教育を受けることを国民の基本的な権利として規定 したことは,当然教育機会の可能な限りの均等な提供を条件としなければなら なかったし,この条件を実現していこうとすることが,教育行政の第一の任務 でなければならないことを確認しないわけにいかなかった。学校教育のわくを 超えて,教育行政がこのような条件の確立につくすべきことを規定したものが,

教育基本法第7条の条文と見られる。しかしそこでは,家庭教育,職場教育を 例としてあげ,学校や大学が行うべき社会教育機能をとくに指摘することなく

「その他社会において行われる教育」ということばの中に一括した。このこと のために,社会教育行政が,格別に学校や大学での条件づくり(社会教育のた めの)に力を入れることを軽視した傾向は否定できない。

 大学が行うべき社会教育活動については,学校教育法公布の2年後に成立し た「社会教育法」 (昭和24年6月10日)において,ようやくわずかに具体化へ の一歩をふみ出した。すなわち,同法では,第6章において「学校施設の利用」

と題する章を設け,その第48条に,

  学校の管理機関は,それぞれの管理する学校に対し,その教育組織及び学校の施設  の状況に応じ,文化講座,専門講座,夏期講座,社会学級講座等学校施設の利用によ  る社会教育のための講座の開設を求めることができる。

と規定し,本条の第2項以下で,そのそれぞれの内容を簡単に示している。こ れを一覧表に変えてみると第1表のようになる。

 すなわち,大学の開放講座として法が予定しているものは,文化講座,専門

講座,夏期講座の3種類であるが,これらは,いずれも高等学校も提供し得る

(3)

第1表学校開放講座種別表

講 座 名 容園射 開設場所

文 化 講 座 一 般教 養

専門講園専門的学術知識

夏 期 講 座 一般的教養又は 専門的学術知識

成刈大靱塙等学校

成 人 同 上

成刈同上

随 時

随 時

夏期休暇中

社会学級講座 一般的教養 成 人 小学校又は中学校 随 時

ものであって,そこに大学としての特殊性はあまり考えられていない。その 上,これらの講座の開設は,学校の管理機関が学校に対し「求めることがでぎ

る」ものである。求めるということは,任意的なものであり,その義務性とか 当然性とかいうものが考えられているものではない。また,管理機関から「求 められること」なしには,学校(大学も含めて)側が,みずから進んで開設す るようなことは考えられていない。自主的自発的に開設することへの奨励の意 味は全く含んでいないものと見られるのである。

 いうまでもなく,これらの開放講座を開設するについては,相当の経費を必 要とするものであるが,その経費については,同じ第48条の第4項に, 「第1 項に規定する講座を担当する講師の報酬その他必要な経費は,予算の範囲内に おいて,国又は地方公共団体が負担する」とある。あくまで予算の範囲内にお ける経費の公的負担なのであるが,ここで「第1項に規定する講座」というか

ぎり, 「開設を求められた講座」に関してであることは明らかである。大学や 学校が,自分の意志にもとついて自主的に開設した講座に関するかぎりは・経 費自己負担で実施すべしという意志が言外にかくされている・

 しかも,社会教育活動のための学校施設の利用が,学校の自発性において行

なわれるものでなく, 「学校の管理機関」が施設利用をするものであるという

考え方は,この章の全体を貫く考え方である。すなわち,第44条に,「学校の

管理機関は,学校教育上支障がないと認める限り,その管理する学校の施設を

(4)

社会教育のために利用に供するように努めなければならない」といい,第46条 でも, 「国又は地方公共団体が社会教育のために,学校の施設を利用しようと するときは……」といって,社会教育活動を展開するのはあくまで「管理機関」

であることを明らかにしている。大学に直接関係のないものとして,後に追加        (1)

された青年学級も,小中高校の「管理機関」が,その管理に属する学校に対し て,その教員組織および学校の施設の状況に応じ,学校施設の利用による青年 学級の実施を求めることができるもの(第47条の2)としている。この意味で

も,学校自身の主体的開設を奨励する意図が充分であるとは言えない。第45条 などを厳密に解釈すると,たとえある学校(または大学)が,みずからの意志 で,その施設を利用して,「一時的でない」(第47条の例外規定のため)長期 的な開放講座を実施しようとするさいにも,自校の管理機関の許可を受けなけ ればならないということになるのである。

 もちろん,ここでの諸条文は,国立または公立学校の社会教育的利用につい て規定しているだけであるが,このように国公立の学校における主体的な社会 教育活動を奨励する意図に欠けている状況においては,私立学校の側での自主 的開放活動を,教育行政機関が財政的に援助奨励しようなどという意図は全く 見られないといわねばならない。わが国における大学開放講座の不振の一因 が,こうした行政的配慮の不備の中にも追求されるわけである。

 このような,社会教育法の不備が,学校教育法第69条を空文化させ,いまだ いかなる監督庁も「公開講座に関し必要な事項」を定めていないという状況を 招いていると見なければならない。

  註

 (1)青年学級が大学に関係のないものであることは社会教育法第47条の2に,「学校   (大学を除く,以下本条において同じ)の管理機関はその管理に属する学校に対し,

  その教員組織及び学校の施設の状況に応じ,学校施設の利用による青年学級の実施

  を求めることができる」とあることによって明らかである。青年学級の実施機関と

  して何故に大学を除外したか,その間の事情は明らかでないが,この点にこそ,わ

  が国における社会教育観の特殊性が見られるともいえよう。

(5)

2 戦後における委嘱大学開放講座の変遷

 以上のような法規定の発想から由来して,わが国の大学開放講座は,結局の ところ文部省が経費を支出して,大学に開放講座を委嘱するものを中心とせざ るを得ない事態を招いてきた。委嘱講座は,戦前にもあったものであるが,お そらくそのような伝統的発想が根拠になって,戦後も早くからこれが実施され たのであろう。それは,社会教育法や学校教育法などによって,開放講座が法 的根拠を持つ以前からはじめられている。

 すなわち,文部省に社会教育局が復活する(昭和20年10月)とともに,同局 は盛んに「社会教育振興に関する通達」を都道府県知事宛に出して・社会教育 活動の再興を呼びかけたが,単に呼びかけるだけでは容易に地方自治体も実施 に踏みきらないので(もちろん団体再結成のような,経費のあまりかからない 事業については例外であるが),自らの支出に於て委嘱講座を各地に開設させ たわけである。

 この中で,文化講座という名称のものが,最も早くあらわれた。これは,「民 主主義精神の普及徹底を目的とし,学習時間数10時間ないし20時間の一一ma成人

購座産呈」,昭和2・鞭において舩私立学校29榔開謎れている・翌22

年度には,一般成人向きの講座として,文化講座のほかに,新らしく専門講座,

夏期講座が加わった。専門講座は, 「人文,社会,自然の各科学の諸部門の1 ないし数科目について,専門の知識技能を習得したいと希望する者にたいして,

2,3ヵ月にわたり,総学習時間数250時間程度の系統的な講義・解説を行う 講座で,主として大学で醸」するものとした.夏騰座は,「主として高等 専門学校(旧制)の夏期休暇を利用し,その施設と教授組織を一般勤労者のた めに開放する組織的講座で,地方の事情によって数校連合して実施するとか,

巡回講座とするとかの方法によって,4週間前後にわたり,総時間数100時間

程翻護」するものであった.そして昭和22鞭には,専門講座・7,夏期講座

29,文化講座28が開設されている。また,この年度からは,新らしいものとし

て国民科学講座が各都道府県に委嘱されている。これは大学に直接関係ふかい

(6)

ものとは言えない。国民の自然科学に対する関心を高めて,科学思想および科 学知識を職場生活や家庭生活に浸透させることを目的として,当初科学教育局 の所管として生まれたものであるが,同局の廃止とともに,社会教育局に引ぎ 継がれたものである。

 昭和23年度になると,専門講座の内容が高度に過ぎるという反省がおこっ て,内容を一一般成人に理解し易く解説講義するということなど取扱い方法が改 められ,専門17,夏期20,文化19が開設されているが,専門講座の退勢は争え ず,社会教育法が制定され新制大学が発足した昭和24年度には,文化講座が39 と急増しているのに対し,専門講座はわずか4講座となり,夏期講座は15が開

かれている。

 昭和25年度もこの方針は踏襲され,専門講座5,夏期講座16,文化講i座31が 全国の大学その他に委嘱されれている。これらの講座は,開設当初の1,2年 間は,講義内容の如何にかかわりなく,何でも求められる傾向であったが,し だいに自らの従事している専門的職業に直接間接役立つような,教養を身につ        (1)

けようとする傾向,すなわち選択受講的傾向を示して来たといわれている。ま た,この年度に社会教育講座の中に,新たに労働者教育を目的とする労働文化 講座が設置され,委嘱開設されているが,これも大学と直接の関係は全く持っ ていない。すなわち,大学の教授が個人的に依頼されてこの講座に出講するこ

とはあっても,大学自体として,機関開設するものではなかった。この点,英 国などの労働者教育と大きく異るところである。

 昭和26年度になると,文化講座は受講者の要求と程度とを考慮して,高等学 校に委嘱して開設することになったので,大学が開設するものは,専門講座と 夏期講座だけとなった。いずれも国立大学に委嘱し,前者は32講座,後者は9 講座で,計41講座である。この年の学校開放講座およびこれに類するものとし て文部省が委嘱した講座(及び学級)数2,024に対して2%にすぎず,委嘱経 費総額7,495,000円にたいして,1,899,500円であるから,全体の約25%を占め るに過ぎない。

 昭和27年度は,サンフランシスコ条約の発効をひかえて,自前自衛力強化と

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いう方向に予算が傾斜してきたため,社会教育予算の大巾な削減にあい,従来 の文化講座と夏期講座は委嘱廃止の運命となり,漸く専門講座と国民科学講座 だけが残った。また専門講座も,経費節減のため,県内数ヵ所への移動開講と いうようなことは実現できなくなり,大学所在地の住民のみが恩恵を受けると いう状況を強めた。この年は,37国立大学の47学部にたいして,47講座を委嘱 開設している。

 昭和28年度になると,さらに予算の削減にあい,夏期講座,文化講座が依然 復活し得ないばかりでなく,専門講座も37講座の委嘱ということに減少せざる を得なくなった。このため,もともと国公立の大学へ委嘱するたてまえのとこ ろ,前年通り国立大学のみへの委嘱となり,大学側の希望をみたすことは愈々 困難になった。すなわち,この年全国の国立大学72校に専門講座実施希望の有 無を照会したところでは,40校の大学から72講座の実施希望が出ている有様で ある。予算の限度内で,最大多数委嘱したとしても37講座にすぎず,しかも1 講座あたり37,000円で,これが100時間分と計算されているため,謝金庁費を 含めて1時間あたり370円ということになる。この辺にも,大学開放講座の実 施上の困難性が由来している。しかも,この種開放講座の受講生からは,1名 100円の受講料を徴集し,これがすべて国庫収入として吸い上げられる規定に なっていたのであるから,予算的窮屈さは一層激化していた。もしも,仮りに 500人の受講生があるとすると,国庫は37,000円の委嘱費を支出して,50,000

円の収入を得るという結果になる。公費支弁という公的社会教育の原則が,逆 に公費の収益ということにさえなりかねないわけである。戦後の社会教育行政

の中で,こうした矛盾こそ,漸次解決されねばならない問題であった。

 昭和29年度は,大学開放関係では,やはり専門講座だけとなってしまったが・

これの委嘱経i費を1講座あたり43,000円に値上げし,その代り講習料の方も1 人あたり150円に上げた。こうして,全国の国立大学に31講座を委嘱したので

あるが,この程度の縮小形態が固定化する傾向をもってきた。予算の面では,

増額の見込みは薄く,逆に減額の傾向さえ顕著になってきた。

 早く,昭和25年6月に,文部省では社会教育審議会を設置し,(昭和25年4R

(8)

27日社会教育審議会令,政令第97号)文部大臣の諮問に応じて,社会教育に関 する事項を調査審議し,それらに関して必要な事項を文部大臣に建議する機関 とした。これには,はじめとくに学校開放を主題とする分科審議会を置かなか ったが,成人教育分科審議会で,「婦人教育,労働者教育その他成人に対する社 会教育及び学校開放に関する事項」を扱うこととし,この分科審議会の中に,

昭和29年度には3部会を設け,その中の一つである学校開放部会で, 「学校開 放の実施運営はいかにあるべきか」の諮問事項に対する答申案を作成し,社会 教育審議会の総会にかけて,翌昭和30年3月18日に答申した。

 昭和27年2月16日附, 「学校開放活動促進方策について」の建議を除けぽ,

正式に社会教育審議会において,学校開放を調査審議の主題としてとりあげた

最初である。

 この答申では,

  (前略)終戦後の教育は,日本国憲法,教育基本法のいずれも,国民に対し教育の機  会の均等を保障し,かつ家庭,職場その他社会において行われる教育活動の振興を奨  励する方針を明示し,教育思潮もまた地域社会学校としての学校経営を唱えきたっ  た。しかし学校教育の現状は必ずしもこの方向をとってすすんでいるとはいえない。

と述べて,文部当局の適切な施策によって, 「学校の公共性をいっそう明確に し,教員は全体の奉仕者たる自覚に基いて,学校開放の職責を全うすることが 肝要である」とし,小中学校,高等学校,大学の3領域について具体的な行政 的措置を要望している。その大学に関する項をみると,

  大学は地域的にも内容的にも多方面の要求に応じ得るものを有しているが,とくに  その自主的な開放活動(例えば通信教育,公開講座,専門講座,学外出張講座等)な  らびに他から委嘱を受けて行う諸活動(例えぽ社会教育主事講習,図書館司書講習,

 その他の研究指導活動等)を行うことが望ましい。

  1 学校開放活動を総合的に計画しまたは連絡調整して運営の任に当るため,大学  開放部もしくは大学開放に関する委員会(何れも仮称)を設けること。その際原則と  しては,社会教育関係の教職員をその構成員に加え,専門的立場から助言を行うよう  にすること。

  2 社会教育の指導者養成につとめ,かつ学校の教員を志す者にも社会教育の知識

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を十分に把握させるよう関係講座の充実をはかること。

 なお,これを実現する附帯的措置として,次の諸点に留意することを要望する。

 1 大学はとくに社会教育の基礎的な諸研究を積極的にとりあげること。

 2 大学の夜間開設をはかること。

と建議している。なお,文部省,および教育委員会が,学校開放のために講ず べき具体的措置をそれぞれ数項目にわたって指摘しているが,とくに強い現実 性を持った提案と見ることはできない。関連行政部局間の連絡とか,教員の負 担軽減などのほかに,国立教育研究所に社会教育研究部門を設けよというの が,やや具体性を持った提案というべきであろう。

 すでに,大学開放を飛躍的に前進させるためには,局部的改革では問題は解 決しないところに来ていたと見られる。昭和30年版の文部省の年次報告「社会 教育の現状1955」も,専門講座の問題点について,つぎのような指摘をしてい るが,これがその後の10年の経過の中でも,ほとんど解決のきざしを見せてい

ないという層 アとは,注目すべきことである。

  問題点

   この講座の開設委嘱希望数は年々増加している。これは一つには大学の機構が整備   され教授陣容が充実してきたことによるものであろうが,一つにはまた地域住民の側   にも,日進月歩の勢いをもって進歩していく科学の進歩に応じ,また複雑な今日の社  会に処していくための専門的知識技術を必要とするという要求が高まってきたことに   よるものであろう。

   しかしながら,この講座についても問題が少くない。よってこの講座に附随する鴬   もなものはつぎのとおりである。

   1 経費の僅少,ならびに予算費目の問題。希望が増加しているのに反し予算は少   額ずつではあるが減額されつつあり,またその費目も謝金のみに偏在しており,さら   に庁費その他の経費が増額される必要があること。

   2 講義偏重のきらいがあること。大学によっては,依然としてその対象である成

  人の特質も充分考慮せず,またその内容,教授法についても,とくに研究することな

  く,学生に対する講義の一部をただ単に講義するという傾向がないでもない。大学が

(10)

  このような態度を改めず,またその指導者が依然としてその姿勢を改めないならぽ,

  いかに口に新しき理想を語り理論を説いても,しょせんは国民から遊離したものと化   してしまうであろうことを恐れるものである。

   3 大学自体としての開放講座,公開講座へという方向へいまだ踏み出していない   こと。もちろんそのためには,行政上さらに整備されなければならない点も少なくな   いのであるが,現在社会教育の面からの誘い水によってのみ,これがなされるという   傾向はやがては排除されなけれぽならないであろう。

   4 関係者の情報の交換その他が充分でないこと。しかしながらその反面,いく多   の大学においては,とくに機構的にも全学をあげて学校開放への方途を目ざしており,

  またその研究も進み・開設される科目,講義等にも真に地域社会の要求に答えんとす   るものが見られており,これらの傾向はますます助長されていくべきであろうと考え

  る。

 また・この年の年報は,学校開放全体に通ずる問題点として,つぎのような 5項目をあげ,それぞれに説明を加えている。項目名のみをあげると,つぎの

ようである。

   (1)学校開放活動に関する認識の是正   (2)学校開放活動に要する経費の増額   (3)学校の積極的活動の要望

  (4)指導力の充実と指導技術の向上   (5)合理的な企画と運営

 これらの指摘は,いずれも非常に重要な意味をもっているが,大学開放をも 含めて,わが国の学校開放を軌道に乗せるためには,もっと基本的な点にメス を入れる必要があったとおもわれる。

 昭和30年度には,前年度よりもさらに,1講座を減じて,委嘱専門講座とし ては,30講座とし,1講座あたりの経費もさらに減じて41,000円となった。こ の年の委嘱講座総数122に対して1/4,経費総額2,886,000円に対しては,約43%

にあたる。

 この年9月15日現在で,指定統計第83号として,はじめて社会教育の総合的

調査が,文部省調査局によって実施されており,ここでは学校開放講座につい

(11)

ても,比較的詳細な実態把握がおこなわれているが,これは次の節でふれるこ

ととしよう。

 昭和31年度もほとんど前年通りが踏襲され,32講座の委嘱,1講座当り41,000 円というところに固定した。この頃から,学校開放講座というよりも,むしろ 公民館や教育委員会が,文部省の委嘱をうけて直接に開設するものとしての

「社会学級講座」が急速に拡大する傾向をみせて来て居り,数年ならずしてこ の方面での委嘱経費が一挙に数倍になる事態をはらんでいたのであるが,これ に比較すると,大学の専門講座は気息えんえんという外はない。

 昭和32年度はさらに減じて27講座となり,1講座当りの委嘱経費は前年と同 様である。しかし,徴収さるべき講習料は1人当450円というように物価に応

じて一挙3倍に高騰してきている。これについては,開設大学の側から,「講 習料が高すぎる。300円程度とすべきである」という反響が,さっそくに出て

いる。

 この年の実施大学27(内訳は国立25,公立2)において実施された講座の専 門別分類をみると,第2表のようになっている。

        第2表昭和32年度委嘱専門講座の内容内訳

人文科学系

自然科学系

総合的

文学・歴史を主とするもの 教育・学芸・教養を主とするもの 法律・経済・商業を主とするもの 家政・生活を主とするもの

2 8

 115

41

1/

工学(原子力,鉱床学等)

農学(開拓農学を含む)

理学

4/

l/

総合的に実施したもの

1

計 27

(12)

  この年の実施校からの反省としては,

   イ 概ね所期の目的を達したものと思われる。

   ロ 地域の産業界は今後大学を中心として密接なつながりを持つ。

   ハ 講座の内容は今少し理論的でなく実際に活用できる講義を希望していた。

   二 宣伝活動をさらに徹底すること。

   ホ 今後も毎年開設してほしい。

などとなっているが,このころから委嘱開設の申し込みがとくに減少して来て おり,この年度も当初30講座委嘱を予定していたにもかかわらず,委嘱し得る ものが予定の数に満たなかったという事実は,単に講習料の値上げのためばか りではないと思われる。

 しかし,実施者の側に新しい工夫のあとも見えはじめてきている。たとえば,

高知大学と三重大学の農業経営や農学林学に関する講座は,それぞれ県下農山 村に出張して開設され,現地指導が行なわれているし,大阪府立大学では,「国 土開発農業講座」として,特に開拓民,海外移民のための講座を実施している。

これらは,実施方法やテーマのとりあげ方についての新方向というべきであろ

う。

 昭和33年度も前年の状況が踏襲され,この頃,青少年指導への傾斜とともに,

この方面の予算が飛躍的に増大してきているのに対比して,専門講座の予算は 少額ながら減額してきている。(32年度1,425,000円→33年度1,418,0,00円)

 昭和34年度もやはり27講座の委嘱である。この年度はまた国立大学のみにな ったが,原則としての1大学1講座が崩れて,実施大学の数は25に減少してい る。この年の講座を専門別にみると,人文科学系8講座,社会科学系6,自然 科学系7,芸能2,その他総合的に行なわれるもの4となっている。

 学習時間は,委嘱条件が年間を通じて80時間以上であるが,平均83時間で,

90時間以上が3講座ある。参加者の総計は864人で,1講座平均32人と規模的に は理想のものにまで近づいてきているが,実施校からの声としては,受講生の 少ないことを訴えている。受講生の少い理由として大学側が指摘するところに

よれば,

(13)

 ①地方において行なわれるこの種の講座としては,受講料(450円)が高額である。

 ②宣伝広報活動の徹底を欠く一このため,早期委嘱の決定と,宣伝費等への考慮が   望ましい。

 ⑧講座が長期にわたるため,とくに北陸等では冬期に入るので出席が困難になる。

等であるが,とくに①②は各大学共通に指摘している。しかし,諸外国や戦前

      (2)

の大学開放講座に照らしてみても,平均32人の受講者は決して少ないとはいえ ない。最少人数のものが,福井大学学芸学部で実施した「生活に結びついた工 芸・工作」の12名である。

 昭和35年度においても,大学関係の委嘱成人教育講座は専門講座だけであ り,これを当初1講座あたり21,000円と従来の約半分の経費に切りさげて,56 講座の委嘱を予定したのであるが,実質上委嘱したのは,27大学44講座になっ てしまった。委嘱経費の切り下げと共に,1講座の学習時間を40時間とし,受 講料もまた1講座当り225円としている。これは,従来の委嘱条件80時間以上

というのが多すぎるという意見と,1講座の受講料450円は高価にすぎるという 意見を入れて,改訂を試みたものである。いずれも国立大学のみへの委嘱であ

り,1大学につき3講座以内という原則がからくも守られた。すなわち,3講 座を同一大学に委嘱したところが3大学も出ているのである。

 委嘱講座としては,この年もこの外に社会学級講座(40府県47講座,他に研 究指定学級8県8講座),国民科学講座(36府県45講座,他に研究指定7県7講 座),労働文化講座(28県30講座)等のほかに,委嘱婦人学級がこの年度から飛 躍的に増加し,全都道府県に,郡部1.5学級,市部1学級の割合で,1,431学級       (3)

設置されるに至っている。これら,教育委員会が直接開設する種類の委嘱講座 の状況に比して,大学開放講座が停滞する傾向はとくにいちじるしいものとい わねばならない。

 昭和36年度には,新たに市町村の教育委員会に成人学校の委嘱を実験的に行

ない,28県28校計86コースを実施した。また,従来からの労働文化講座は25県

25講座(1講座につき27,000円),婦人学級は,さらに増加して1,454学級(1

学級平均40,000円)になっているが,大学関係の専門講座は,その名称も消え

(14)

「学校等開放講座」なる名称のもとに一括されることになった。

 この学校等開放講座は,(1)大学開放講座,(2)高等学校等開放講座,(3)中学校

小学校等開放講座の3種類にわかれるが,いずれも学習時間は40時間以上,1 講座当りの委嘱費は27,000円,ということで,大学開放講座のみが,受講料1 人あたり225円を徴収するということになっている。この点では,大学開放講 座が委嘱婦人学級の1学級当り経費の%にもみたない上,他の学校開放講座と 比べても,最も不利な条件に追いこまれたものというべきであろう。

 実施状況からみると,大学開放講座は21国立大学で28講座, (これは申請数 と全く同じ),これに対し高等学校開放講座は28講座,中学校開放講座11,小学 校等開放講座25,となっていて,大学以外の学校開放講座は38県64講座(申請 数は41県106講座)となっている。新設されたものとしての小,中,高校の開放 講座が・申請数から見ても相当の積極的熱意が持たれているのにたいして,大 学開放講座の伸びはいちじるしくわるいばかりか,むしろ衰退のきざしを見せ ているというべきであろう。これは,単に大学人の積極性の欠除というような 理由に帰し得ないものを内蔵しているといわねばならない。

 昭和37年度に至って,長い間沈滞の底にあった大学開放講座にも,漸く好転 のきざしが見えてきた。それは委嘱予定の講座数において必ずしも増加したと はいえないが(20講座の予定),高等学校開放講座との差をつけて,1講座当り 委嘱費が46,000円に増額されたことと,従来国の歳入として徴収されていた受 講料が廃止されたことである。このため,28国立大学から計41講座の申請があ

り,結局予定よりも7講座を増して,実質上は26大学27講座を委嘱した。

 昭和38年度になると,やはり国立大学のみが委嘱予定校になっている点は同 じであるが,1講座あたりの委嘱経費は同額であるにもかかわらず,予定講座 i数は2倍以上にふえて,41講座となっている。しかし,実質上は29大学40講座 が実施された。また,1大学2講座までという予定はくずれて,3講座を実施

する大学も見られた。

 昭和39年度は・1講座あたりの委嘱経費が58,000円に増額され,その上,講

座予定数も1国立大学3講座以内で全国計60講座と増大した。そして実質上開

(15)

設されたのは,40大学63講座であった。この年度の特徴として,講座名を「家 庭教育」と銘うったものが5校もあり,これに類する題目,たとえぽ「子ども

の人間形成と家庭の役割」とか, 「幼年教育」とか, 「今日の家庭と社会にお ける教育問題」などに類するものが7校もあって,合計すると2割近い講座が 塚庭教育的な題目を扱っている。大学として必ずしも時流に投じたとか,政府 の家庭教育振興ブームに迎合したとかいうわけではないであろうが,注目すべ き現象である。

 註

  (1)文部省「社会教育十年の歩み」1958,p.76.

 〈2)戦前の大学開放講座として,その一例を昭和2年度に実施した「東京帝国大学医    学部医学講習科」の受講人数をみると,下の表のようになっている。これらの講義    はいずれも夏期休暇中6週間連続で行なわれたものである。

      男16女0     解剖学       毎週6時間

組織学

内科学

内科物理療法学

婦人科学

産科学

小児科学

〃 6時間

〃 18時間

〃 12時間

〃 18時間

〃 24時間

〃 10時間

皮膚病学・徽毒学  〃 9時間

泌尿器病学 精神病学

〃 9時間

〃 6時間

教授 井上 通夫 助手 横尾 安夫 教授 井上 通夫

同  西  成甫外3名 教授 稲田 竜吉

同  島薗順次郎 同  呉   建外16名 教授 真鍋嘉一一郎         外5名

教授 磐瀬 雄一         外5名

教授 磐瀬 雄一         外5名

講師 山本 康祐         外3名

教授 遠山 郁三         外3名

教授 遠山 郁三

        外3名 教授 三宅 鉱一

        外3名

男7女0

男27女1

男18女0

男18女0

男19女0

男21女2

男9女0 男7女0 男3女0

これによってみると,実に精神病学などは,たった3名の受講者に対して・4名

(16)

 の教官がたとえ交替制にせよ36時間を講義しているのである。

(3)この年度(35年)における婦人学級の増大は,画期的である。その根拠はどこに  あったのかという点については,さまざまな解釈が成立するであろう。昭和29年度  から実験婦人学級が開始され,当初社会学級という概念に包括されていたものが,

 独立して婦人学級として通用する概念になり,委嘱学級は昭和31年度からはじめら  れて,31年度230学級,32年度270学級,33年度241学級,34年度245学級と,緩慢な  伸びを示していたものが,35年度に至って1,431学級の委嘱経費を得るに至ったわb,

 けである。婦人が一種流行的に学習にとりくむ傾向が高まってきていた事実は否定  できない。

3 大学開放講座20年史の問題点

 わが国のばあい,文部省が委嘱し,委嘱経費を支出して実施する大学開放講 座のほかにも,なお大学が実施機関となって,あるいは他の実施機関が大学を 会場として,その人的スタッフの協力を求めて,開設する社会教育講座が無い わけではない。しかし,後者の場合は,単に一時的な講演会に過ぎなかったり,

ほとんど社会教育的な意図も配慮も持っていないものもあり得るわけである。

この点から,どの程度までを大学開放講座と名づけてよいかということになる と,なお多くの論議のあるところと思われる。

 こうした意味から見ても,委嘱大学開放講座に関する限り,それは明確な社 会教育的意図をもっているし,その教育学習内容の企画についても,慎重な配 慮が払われていると考えてよい。それは,真に「講座」の名に値するものを目

ざしているが故に,一般の大学開放運動にとっても,刺戟剤として存在する意 味を充分担っているといってよいであろう。前節で,とくに委嘱講座を中心に

して,戦後20年の大学開放の歩みを見てきた理由はここにある。

 そこで,戦後20年の委嘱大学開放講座の歩みを,簡単にグラフ化して問題点 をさらに明確にすると共に,大学が関係する開放講座全体の視野からも,問題 点を明らかにしてみよう。

 前節でふれてきた事項をグラフ化しようとするさいに,大体つぎの6個の比 較の視点が考えられる。

 (1)委嘱予定数 当年度において何講座を委嘱予定として立てたか。一これは,現

(17)

 実に実施に移された講座数と対比してみて,予定を上廻ったのか下廻ったのかによ  って,ある程度,当該年度の実施意欲を判定する材料となる。

〈2)開設講座数 現実にどれだけの講座が,委嘱講座として実施されたか。この数字  の年度別増減状況は,わが国における大学開放の伸縮のメドとなり得る最も重要な  手がかりといえる。しかし,このさい,委嘱講座の数ばかり多くても,経費支給が  極端に少額であったり,あるいは要求される最低時間数が少なく見積られていたの  では,必ずしも全国的に見て大学開放が盛んであるということはできない。これら  との関連が重要になる。

く3)実施大学数 これは大体において開設講座数と見合うものであるが,必ずしもこ  れと並行しない。すなわち,少数の大学では開設意欲が旺盛で,3講座も5講座も  委嘱を受けて実施するけれども,他の大部分の大学は,開設に無関心であるという  こともあり得るからである。それ故,ある年度に委嘱大学数が減少したということ  は,たとえ委嘱者側での審査選定という事実があるとしても,やはり一つの危険な  兆候といわなけれぽならない。

《4)委嘱経費1講座当り金額 是は本来ならぽ,その時々の物価にスライドすべきも  のであるが,ここ20年間の著しい物価の変動にもかかわらず,委嘱経費には,ほと  んどこの事が,考慮に入れられていないという事実がみられる。この点で,文部省   (というよりも,むしろ予算配分を決定する当局の者)は,大学開放講座というも  のを一・体何と考えているのだろうかという問題がのこる。これを大学人の単なるひ  まつぶしとか余技とかと考えているのではなかろうかとさえ言いたくなる。あるい  は,雑誌社や出版社が,自社の宣伝活動のために行う「文化講演会」などというも  のと同一視しているのではなかろうかとさえ言いたくなる。いずれにしても,この  委嘱経費の消長は,大学開放講座の消長に大きく関連している。

く5)受講者1人当り受講料 受講者が受講料として納入し,国庫に吸い上げられる受

 講料なるものは,はじめどのような意図で設定されたのか明らかでない。おそらく

 有料制をとっている欧米諸国での大学開放講座のやり方をとり入れたものと考えら

 れる。そして,委嘱講座が,あくまで自主開設講座への誘い水として,次の年度か

 らの自弁自営開設を促がそうとするものならぽ,受講料は生きてくるというべきで

 あろう。受講生から受講料を微集してみて,内容さえよければ,これだけ高額の受

 講料でも,集る人はあるのだという確信をもたせること,また国庫納付の受講料総

(18)

  額と,実質的に必要とした経費総額とを対比してみて,収支つぐない得るかどうか   を研究してみることができるならば,これは好都合な措置であるかもしれない。し   かし,受講料が急激に上昇しながら,委嘱経費の方は何等増額されないというよう   な年度があるとするならば,このようなさいには,何等かの重要な否定的要因が作   用していると見ることができる。大学開放講座を積極的に行き詰らせようという意   図がかくされているのかも知れないとも見られる。この要因はやはり見逃せないも   のである。

 (6)要求される最低時間数 委嘱講座において,年間どの程度の学習時間を要求する   かということも,重要な問題である。それは,どの程度のまとまりある単元を,大   学開放講座として求めているかということに関連してくるからである。例えぽ「農   業発達史」という単元を考えてみても,1回の講義2時間でも可能であろうし,こ   れを5回10時間でも,50回100時間でも実施できるわけである。但し,そこに盛ら   れる内容については,実施時間数によって大きな差異が予想される。この点で,要   求時数は,あきらかに講座そのものの内容の程度をあらわすといえるが,これは反   面,委嘱経費の点からも伸縮するわけである。委嘱経費の中で,大きな割合を占め   るものが,講師謝金であるから,委嘱予算が少いときには,内容の低下などに介意   する余裕すらなく,講座時間数を切り下げざるを得ないのである。

 以上6個の視点をすべてグラフの中に盛りこむことができれば幸いである が,これではかえって混線を生じる危険もあるし,入手できる可能な資料から

は,実数がつかみ難い部分も非常に多いので,ここでは(2)(4)(6)の三点のみをグ

ラフ化した。すなわち,次のページの第1図であるが,この図の上部にも説曝 してある通り,1講座あたりの委嘱経費(上記の(4))のうつりかわりをブPッ ク線で示し,1講座当り要求されている最低時間数(上記の(6))を実線で,ま た,実際に実施された全国の委嘱「大学開放講座」数(上記の(2))を点線で示

した。昭和21年度の最初の年から明らかになっているものは,全国の委嘱講座

数だけCあって,1講座当りの要求最低時間数は,翌22年度から,また,1講

座あたりの委嘱経費は,昭和25年度からでないと明らかに把握できない。この

点,これら初期の年度について,3種の視点の比較はできないが,グラフ線O

逆方向への延長線から,およその察しはつくものといってよいであろう。

(19)

講 座

来女 最低時数

講座経費

130時

 120時 5万一

4万一90時

3万

2万一40時

第1図委嘱大学開放講座20年の消長

)望

一再興期←

21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39

一年度         *       *    *

 上のグラフから推定できることはつぎのようなことである。即ち,戦後初期 は,大学開放講座にたいして相当な期待がもたれ,これを盛んにしていこうと いう意気ごみが感じられるが,まもなく数年にわたっての急速な衰退期に入

り,これは昭和29年頃まで続く。ここから衰退したままの停滞期に移って,こ れがまた数年つづき,昭和35年というドン底の年,消tw−一歩手前という年にま

で至る。それから漸く再興期に入って,最低時間数の面では伸びていないが,

       (1)

予算と委嘱講座数の面で,急激な伸びが見られて現在に至っている。

 このような3つの時期,これを一応(1)衰退期,(2)停滞期,(3)再興期と名づけ

てみた。はじめから衰退期があって,盛んになる時期はなかったのか,また盛

んな時期がなかったのに,再興とはどういう意味なのか,という問題が残るか

(20)

もしれない。しかし,重要なのは,敗戦後の開花そのものが,占領による日本 の民主主義と全く同様に,実質のない開花であったということ,いわば風船の

ように急激にふくらんで,あっというまもなく,しぼんでいったという事実を 指摘するほかない。それは,日本の占領下の新教育運動と異らない経過をたど

っているわけである。

 口糸をきらしてしまった風船のようにしぼんでいった衰退期の7年を過し て,そのまま,どん底の停滞期がまた7年程続くのである。ここから再び過去 の大きな風船にまでふくらませようとする努力がはじまる。これを実質ある内 容で埋めて,再び簡単にしぼむことのないものにするか,あるいは単なる一種 の流行とかブームとかいわれるものに終らせるか,現在はそういう重要な転機 に来ていると見るべきであろう。

 文部省が,調査局を通じて,指定統計第83号として,社会教育に関する実態 調査を実施したのは,戦後現在まで3回である。それは,昭和30年,35年,38 年に実施されているのであるが.社会教育講座に関する実態は,いずれもその 前年度の状況が把握されている。これらの年度は,偶然にも第1図の消長グラ

フの上で(年度にX印がつけてあるところ)それぞれに転機に当る時期をあら わしている。すなわち,昭和29年度は,衰退期の終り,停滞期への入り口の時 期を示しているし,昭和34年度は停滞期の終末,いわば35年度の最低期の前年 にあたる。37年度は漸く再興への曙光が明らかになってきた年である。

 これら三つの重要な年の統計的な実態調査は,多くのものを教えている。と くに,こういう時点をとり出して比較してみることは,第1図の消長を解釈す るために多くの手がかりを与える。しかしながら,3時点での調査の方法が必 ずしも同一でなく,且つまた統計的処理でも,分類方法その他を異にしている ために,単純に比較することができない。そこで,以下では三つの指定統計調 査報告書をまずそれぞれ個別に検討し,その後において比較し得るかぎりの見 地を比較検討してみようと思う。

 まず昭和29年度の実態についてであるが,この年度において全国で実施され

た社会教育講座の総数は39,040講座である。これは,都道府県の教育委員会,

(21)

市町村の教育委員会が実施したもののほか,各段階の学校が実施したものをも 含んでいる。但し,私的団体が,学校とも,教育委員会とも何の関連もなく実 施した講座(そういうものはほとんど無いと想像されるが)は含まれていない。

ふつうの常識からすれば,全国のすべての都道府県教育委員会において,すく なくとも一つ以上の社会教育講座が実施されているであろうと想像されるが,

事黙必ずしもそうでない・す肋ち・社会楯鍵を一D以峡靴冷る

都道府県教育委員会は34であるから,実施しない県が12あることになる・

 この39,040講座のうち,教育委員会が実施した講座は25,221(64.6%)で多 くの部分を占める。残りの13,819講座が,いわゆる学校開放講座で,35.4%で

ある。

 教育委員会が実施した講座は,国民科学講座2.6%,労働文化講座1.O%,成 人学校13.6%,その他47.4%で合計64.6%になる。これに対し,学校開放講座 の方は,最も多いのが社会学級講座25.3%,つぎが文化講座1.0%,専門講座 0.8%,夏期講座0.6%,その他7.7%の順となっている。すなわち,大学が関

係する専門講座は,全体の社会教育講座の中で0.8%,実数にして331講座であ る。この中,この年に実施された委嘱専門講座が31講座であるから,委嘱以外 に行なわれたものが300講座あることになる。これらは,大学が独自に実施し たものもあるだろうし,都道府県や市町村の教育委員会と共催という形で実施 したものもあるであろう。いずれにせよ,委嘱講座の約10倍の自主講座をもつ ということは,決して悲観すべき数字ではない。

 大学で実施したと見られる専門講座は331であるが,すべての社会教育講座 のうち,大学を会場として実施したものは315にすぎないから,専門講座といっ ても,かなりの数のものが,大学以外のところで実施されていると見てよい。

  このことは,この年度に開設された専門講座の開設場所を明らかにする第3 表によってみると,一層明瞭である。

 第3表によってみると,大学を会場として実施された専門講座は,ただ6講

座となる。これは当然この年の委嘱講座(31)をも含めてである。すなわち・全

専門講座のうち,たった1.8%しか大学を会場として実施されていないという

(22)

第3表昭和29年度専門講座開設場所

開 設 場 所 小学校または中学校

高大公そ

等  学

民の計

校学館他

講座数 百分比

101 150

 5ハ00ゾ

15 331

30。5 45.3

1.8

17.8  4.5 100.0

ことである。これは,大学 への委嘱開放講座全体の÷一

ということになる。

 もしも,この全国指定統 計の数字を信頼するなら ば,驚くべきことといわね ばならない。もちろん,大 学が,地域住民の便宜のた めを考えて,地方の小,中 学校や,高等学校,公民館 等を会場として,専門講座を開設しているのであるならば,それは真に大学開 放の名に値するものとして,望ましい傾向といわなければならない。しかし,

もしも,専門講座の名のもとに,実質上の開設機関は公民館や教育委員会であ って,大学はその職員を個人的に派遣する程度の協力しかしていないとするな らば,これは問題である。

 この年度における,専門講座の学習内容を相当こまかく分類してみて,それ ぞれにどの程度の時間が使われているかを見たものが,第4表である。専門講 座と名づけていても,学習時間の平均をみると1講座あたり20時間に満たな い。委嘱講座に関するかぎりは,この年度において最低100時間を下らないこ ととなっていたのであるから,これを最低時間だけすべての委嘱講座が実施し たものとして差し引くと,残りの委嘱以外の専門講座(300講座)は,平均学習 時間が12時間にさえ成らない。これで果たして専門講座の名に値するものなの かどうかということも,問題にされなければならない。

 時間配分上の傾向をみると,職業に関するものが大部分の時間を占めて,

65.9%である。これはあるいは専門講座として当然のことというべきかもしれ

ない。しかしながら,その内訳に立ち入ってみると,農林漁業または畜産業と

いう項が圧倒的に多く,職業関係の時数のほぼ半分を占めている。これに水産

をも含めると,ほとんど大部分がこれに注がれていて,工業や商業に関するも

(23)

のは,全く微々たるものであることがわかる。

 第4表昭和29年度専門講座内容別学習時間数

学 習 内 容 別

実  数

6,591

百分比

100,0

 計

農林漁業または畜産業 水 産 業

工   業 商   業 そ の 他

鶴∴庭

認保健.衛生

般教養

  計

政治経済社会または時事問題 哲学道徳または修養

国語算数または外国語 趣   味

自然科学

体育,レクリエーショソまたは芸能

そ の 他

4,342 1,945

 827  340  364  866

65.8 29.5 12.5

5.2

5.5 13.1

1,534 1,419

 115 512 192 57 97 161  5

173

30

23.3 21.5

1.8

7.8 2.9 0.9

1.5 2.4 0.1

2.6

゜・5

P

 このことは,生活・

家庭に関する領域に ついても言えること

であろう。生活・家 庭に関するものは,

全体の時数の23.3%

を占めていて,決し て少い時間数とは言 えない。しかし,そ の内訳をみると,保 健・衛生に関するも のは全く僅少であっ て,大部分が家政・

家庭に関するもので ある。これで専門講 座として正常な形な のだろうかという疑 念をもたざるを得な

い。

 一般教養について も,もう少し大きな 比重を持つであろう かという予想を裏ぎ

って,全体の7.8%

しか占めていない。しかもその中の多くの時数が「趣味」に使われている。第 1位が,政治・経済・社会または時事問題であることは肯定できるとしても,

これについで「趣味」の時数が多いということは,一体どのように解釈すべぎ

(24)

であろうか。これをしも,専門講座と名づけるべきなのであろうか。

 この年度の社会教育講座全体について,学習総時間数462, 805時間の,学習

内容別百分比だけをと咄したのが,第5表で魂 第5表 昭和29年度社会教育講座

    学習内容別時数表(%のみ)

言ロ

   計

  農・林・畜産業   水 産 業

 工   業

業 商   業   そ の 他

祭ト∴庭

庭/保健・衛生

   計

 政治・経済・社会・時事問題  1

剛哲学・道徳・擁

等 語 外 国

数味学 語 然 算 科

教養 国趣自

体育,レクリエーション,芸能 そ の 他

100

19.8 11.3

1.0 1.4

2.8 3.3

33.4 25.0

8.4

33.7 13.2

7.1

3.8 8.0 1.6

8.6 4.5

 この第5表と第4表とを比較し

てみると,両者の数字のずれの中 に,第4表での専門講座らしい特 色は,相当明瞭であるということ は言えるであろう。しかしなが

ら,専門講座の内容別時数配分は,

もっと明確に専門講座らしさを出 してもよいのではないか。

 この点について,専門講座の講 師にどのような人が当っているか を見ると,一層はっきりする。

(第6表)

 第6表によって,すべての社会 教育講座と専門講座との講師の構 成比を比較してみると,明らかに 専門講座では小中学校の教員が講 師になることは少ない。それでは 大学の教員が専門講座の講師にな

っているのかというと,必ずしも そういうこともできない。むし ろ,全社会教育講座の中に,大学 教員が占める比率よりも,専門講 座の方が0.2%だけ低下している。

そして,専門講座の講師は,その大部分(67.8%)が,高等学校教員によって

占められていることがわかる。全社会教育講座において,高校教員が占める比

(25)

第6表昭和29年度全社会教育講座及その中の専門講座講師内訳

講  師 種  別 全社会教育講座

実 数  百分比     計

小 学 校 教 員 中 学 校 教 員

高 等 学校教員

大  学  教  員

その他の学校教員 教員以外の公務員

そ    の    他

76,697 16,860 9,586 5,231 5,301 2,638 14,687 22,394

100.0 22.0 12.5  6.8  6.9  3.5

19.1

29.2

専 門 講 座

実 数  百分比

793 22 33 538 53 28 57 62

100.0  2.8  4.2 67.8  6.7  3.4  7.2  7.9

率が6.8%であったのに対して,専門講座では67.8%を占めているという数字 は,明らかにつぎのような事実を示している。

 すなわち,わが国において,本来大学で実施し,大学が担当すべきものと思 われている専門講座も,そのほとんどすべては,高等学校で実施されていると いうこと。委嘱講座のみが大学というたてまえを守っているだけであって,他 は大部分が高等学校一しかも学習内容と時間数の考察からも明らかなよう に,農林業関係の高等学校で実施されているということである。端的に言えば,

わが国の一般の大学は,開放講座にたいしても,必ずしも強い情熱を持って居 ないということである。

 1講座当りの講師数をみると,全社会教育講座の平均は1.96人であるが,専 門講座に関しては,ややこれを上廻って,2.4人となっている。それにしても,

講師の数も決して多いということはできない。

 さらに問題にしなければならないことは,専門講座は, 「大学設置地域の一 般成人に専門的学術知識を習得させ,もって地方文化の進展に寄与することを

目的とす鴇ものとして,また,「その講座内容馳の社会鮪灘に比して

かなり程度の高いものであり,とくに職業に関する専門的,学術的なものを取

(26)

扱う関係上,最近では受講者の中には各職域における指導者,技師等がだんだ       (5)

ん多くなっていくという傾向すら見られる」ものとして,教育内容が専門的に なればなるほど,その積み上げ方式の上からも,受講生を定員登録制にしてい かなければならないものと思われるのに,この年度における331の専門講座の

うち,実に200講座は自由参加制であるという事実である。はっきり定員制に しないかぎり,受講人員をおさえることも無意味というほかはない。一時的に 人気の湧きそうな講義にのみ多数参加者があるというような事態を放任して,

 「専門講座」などと名づけること自体が問題である。ただ,定員制講座(131講 座)のばあい,1講座あたりの受講者数が,他の講座にくらべて最少であると いうことは見られる。すなわち,社会学級のばあいは,1講座当り定員91.4名 に対して実人員は105.2名となっており,夏期講座でも定員40.9人に対して実 人員は41.2人,文化講座は62.9人の定員にたいして実人員53.6人,国民科学講 座は119.0人の定員に対し120.8人,労働文化講座は定員40.1人に対して,実人 員37.4人,その他の社会教育講座は定員57.0人に対して50.3人となっている。

これに対して専門講座は定員も23.1人であり,実人員も23.7人という状況であ る。受講者数の点では,わが国の社会教育がとかく員数主義で,人員の多いこ とにばかり関心を持ちやすいのに対して,理想的な規模ということができよ

う。

 また,受講者の男女比についてみても,大部分の社会教育講座は圧倒的に女 性受講者が多く,一,二の講座で女性の方が少ない(夏期講座,労働文化講座)

ばあいでも,ほとんど男女同数といってもよい状況であるのにたいして,専門 講座だけは,23.7名の実人員のうち,男子15.5名に対し女子8.2名と,約半数 になっている。この点も専門講座の つの特色というべきかもしれないが,こ れは,農林業関係が多いこと,その方面の高校で実施されるものが多いことな

どの要因から理解されることであろう。

 昭和35年の文部省統計「社会教育調査報告書」によると,昭和34年度の1年

間に開設された社会教育講座の総数は114,845講座であって,5年前の状況と

比べて,2・9倍の激増である。しかし,これの過半数を占めるS2.5%は,婦人

(27)

学級によって占められている。青年のみを対象とするものは全体の8.0%であ るが,これは青年学級振興法による青年学級を除外しているからで,これを加 えると,青年を対象とするものは,21,029講座となり,社会教育講座全体の 16.6%を占める。 (婦人対象の講座全部が婦人学級というものではなく,婦人 学級と名づけるものは,48,268学級で,全社会教育講座の42.0%である。)

 社会教育講座全体でさえ,2.9倍という激増ぶりであるのに,専門講座はさら に21.7倍という激増である。これは,委嘱専門講座の退潮気風とは異った傾向

を示していて注目される。

 この年度まで進んできても,社会教育講座全体の中で,定員制をとっている ものは18.5%にすぎず,その他の81.5%は,自由参加制というルースな学級形 式をとっている。ただ,その中では,専門講座はやや平均を上廻っており,定

員制をとっているものが20.2%である。

 この年度における114,845講座の社会教育講座のうち,19.6%が教育委員会 の開設したもので,公民館の開設は60.1%で最も多く,ついで8.1%の小中学 校開設,高校開設は0.3%,大学開設はたった6講座にすぎないから,0.0%に も達しない。専門講座だけをとり出すと,この比率が可成り異ってくる。(第

7表)

   第7表実施機関別にみた社会教育講座とその中の専門講座の数

実  施  機  関

 員

   学学  委民   

   中等

 育

 教公小高大そ

会館校校学他

社会教育講座

実 数  百分比

114,845 22,453 69,041  9,328   341

  6

13,676

100.0 19.6 60.1  8。1  0.3  0.0

11.9

専  門  講  座 実 数  百分比

7,166

 842

5,213

 244

 31

  4 832

100.0

11.7

72.8

 3.4

 0.4

 0.1

11.6

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