法理の展開 : Burlington Northern 判決を中心と して
著者 黒坂 則子
雑誌名 同志社アメリカ研究
号 49
ページ 45‑64
発行年 2013‑03‑19
権利 同志社大学アメリカ研究所
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013169
米国スーパーファンド法における 責任主体に関する法理の展開
− Burlington Northern 判決を中心として−
黒 坂 則 子
Ⅰ はじめに
1980 年にアメリカにおいて制定されたスーパーファンド法は、世界的にも先駆 的とされる土壌汚染対策立法である1。同法の主たる目的は土壌汚染サイトの迅速 な浄化にあるが、同法は、汚染に係る広範囲に及ぶ関係当事者である潜在的責任 当事者(potentially responsible parties)に対して、汚染サイトの浄化を命じ、そ の責任を追及するものである。この責任については判例法上、故意または過失の 証明を不要とする厳格責任(strict liability)、遡及責任(retroactive liability)、潜 在的責任当事者間の連帯責任(joint and several liability)が課せられてきた。し かしながら 2009 年 5 月 4 日、アメリカ連邦最高裁判所は、Burlington Northern
& Santa Fe Railway Co. v. United States(以下、Burlington Northern 判決と略 記する)2において、有害物質の製造業者など、潜在的責任当事者の一つのカテゴ リーとされる有害物質の処分の手配者(arranger)の責任を緩和し、また潜在的 責任当事者間の連帯責任を否定し寄与度に応じた責任の負担を命じるなど、従来 の判例の流れを覆す判断を示した。Burlington Northern 判決は、スーパーファ ンド法における責任負担のあり方に関する新たな指針となり得るものとして注目 に値する。他方、同判決は、これまで潜在的責任当事者による浄化作業を最優先 とし、公金の支出による浄化を可能な限り避けてきたアメリカにおける土壌汚染 浄化政策に大きな影響を与えるものと思われる。
本稿では以下、まずスーパーファンド法について、潜在的責任当事者に関する
1 スーパーファンド法とは、「包括的環境責任対処・補償・責任法(Comprehensive Environmental Response, Compensation and Liability Act, 以下 CERCLA と略記する)」と「スーパーファンド 修正および再授権法(Superfund Amendments and Reauthorization Act, 以下 SARA と略記す る)」 の 2 つの法律双方をあわせた俗称である。
2 556 U.S. 599(2009).
規定を中心に概観したうえで、今日までのアメリカにおける土壌汚染浄化政策を 簡潔にたどる。次に Burlington Northern 判決までの判例の動向を概観したのち に、Burlington Northern 判決を紹介し、同判決を考察する。そして最後に、同 判決が今後のアメリカの土壌汚染政策に与える影響について、若干の検討を試み ることにする。
Ⅱ スーパーファンド法および土壌汚染浄化政策
1 .スーパーファンド法の概説−潜在的責任当事者に関する規定を中心に−
ⅰ.スーパーファンド法とは
1978 年に起こったラブキャナル事件3を直接の契機として、2 年後の 1980 年に、
土壌などに排出された有害物質汚染に対して、非常に厳格な浄化責任を定めた CERCLA が制定された。同法は、環境中に有害物質、汚染物質、汚濁物質が放 出され、または放出されるおそれがあり、公衆の健康、公共の福祉、あるいは環 境に切迫した重大な危険が生じている場合に、大統領がそれらを保護するために 必要な措置を採ることができるとするものである。
同法の主たる特徴は以下の 4 点にある4。第 1 に、連邦および州政府が有害物質 の存在するサイトの特性を把握し、対応措置の優先順位を決定するための情報の 集約分析システムを構築したことである。第 2 に、連邦政府に、環境や公衆の健 康に影響を与える有害物質に対して、自らが除去措置(removal action)または 修復措置(remedial action)を行う強力な規制権限を付与したことである。ただ し、連邦政府がその規制権限を行使するのは、潜在的当事者が見つからないか、
それらの者が必要な措置を講じない場合に限られる。第 3 に、関係企業に対する 石 油 税 を 主 た る 財 源 と し た 有 害 物 質 信 託 基 金(Hazardous Substance Trust Fund、通称スーパーファンド基金)を設立したことである。このスーパーファ ンド基金は、前述の除去措置および修復措置に使われるものであるが、この課税 は 1995 年末に期限切れとなって、同基金の残額は徐々に減り(2003 年末に枯渇)、
現在は一般会計や潜在的当事者からの求償費用を主たる財源としている5。第 4 に、
3 同事件は 1978 年、ニューヨーク州ナイアガラフォールズ市の住宅地に生じた土壌汚染事件であ り、大統領による非常事態宣言が発せられた初の環境災害事件である。同事件の詳細な内容につ いては、THOMAS H. FLETCHER, FROM LOVE CANAL TO ENVIRONMENTAL JUSTICE(BROADVIEW PRESS 2003)を参照されたい。
4 DANIEL A. FARBER AND ROGER W. FINDLEY, ENVIRONMENTAL LAW 225-228(THOMSON REUTERS 2010). 5 オバマ大統領就任後、かかる課税の再導入が提案され注目されたが、現時点では再導入されてい
ない。
有害物質の放出について責任を有する潜在的責任当事者に対して、汚染の浄化ま たは浄化費用負担の義務を課したことである。
CERCLA 制定当初においては、融資者、親会社、経営者など、潜在的責任当 事者の範囲が広範に認められ、厳格責任、遡及責任、そして後述する連帯責任が 判例法上課されるなど、極めて厳格なものであった。CERCLA はラブキャナル のような汚染サイトには非常に効果的であったものの、浄化作業の進捗状況は当 初の見込みどおりにはいかず、浄化の促進を助長するような法改正が叫ばれ、
1986 年に、SARA によって修正が加えられることとなった。SARA における主 たる改正点は、①浄化基準に関する規定の導入、②基金の拡充6、③法人環境税の 新設、④善意の購入者の抗弁、⑤和解規定の導入である。
ⅱ.潜在的責任当事者
スーパーファンド法は、潜在的責任当事者として以下の 4 類型を規定する。第 1 に、107 条(a)(1)は、船舶または施設の現在の所有者および管理者を規定す る7。この施設は、建物だけでなく設備、装置、井戸、池、埋立地、自動車などを 含む広い範囲を指す8。第 2 に 107 条(a)(2)は、有害物質の処分時に、当該有害 物質が処分された施設を所有し、または管理していた者を規定する9。第 3 に、
Burlington Northern 判決においてその解釈が争われた 107 条(a)(3)であるが、
有害物質の処分や輸送の手配者を規定する10。これは多くの場合、有害物質の発生 者(通常は製造業者)を指すとされる。第 4 に 107 条(a)(4)は、有害物質を運 び込むサイトを選定した輸送者を規定する11。
ⅲ.和解規定
前述したように SARA において潜在的責任当事者による浄化作業を促進する ために和解に関する規定が設けられ(122 条)、大統領は、潜在的責任当事者が 対応措置を適切に行うであろうと判断した場合、その裁量で和解を結ぶことがで
6 5 年で 16 億ドルから 5 年で 85 億ドルに拡大した。
7 42 U.S.C. §9607(a)(1).
8 42 U.S.C. §9601(9).
9 42 U.S.C. §9607(a)(2).
10 具体的には、「契約、合意ないし別の方法で、当事者、他の者または事業体(entity)によって 所有または管理され、かつ有害物質を含む施設または焼却船で、当該当事者、他の当事者または 事業体によって所有または占有された有害物質の処分、処理を手配し(arrange)、あるいは処分、
処理のために輸送する輸送者を手配した者」と規定する。42 U.S.C. §9607(a)(3).
11 42 U.S.C. §9607(a)(4).
きるとされた。この和解の方法には、同意に基づく行政命令(administrative order on consent)および司法上の和解たる同意判決(consent decree)があ る12。大統領は、実行可能で公共の利益にかなうと判断するならば、効率的な修復 措置を促進し、訴訟を最小限にするために、合意をまとめるよう行動しなければ ならないとされる13。また大統領は、当事者が対応措置に関する同意判決を遵守し、
大 統 領 が そ の 措 置 を 承 認 し て い る 場 合 な ど に は、 裁 量 で 訴 訟 不 提 起 特 約
(covenant not to sue)を結ぶことができるものとされた14。なお、和解参加者は、
113 条(f)により費用請求を受けない旨が明示されたことで、潜在的責任当事 者に和解を結ぶインセンティブが与えられた。さらに SARA は、寄与度の僅少 な当事者との和解規定(de minimis settlement)を置いたが15、これにより潜在的 責任当事者が自らの責任割合に比して過大な責任を負わないよう配慮された。
2 .アメリカにおける土壌汚染浄化政策
上述したようなスーパーファンド法による規制は、すでに相当程度汚染された サイトに対しては有効なものであったが、後に制定時にはだれもが想定していな かった所謂ブラウンフィールド問題を引き起こすこととなった16。これは、潜在的 責任当事者がスーパーファンド法における厳格な浄化責任を負うことをおそれて 汚染の可能性のある土地の取得を避けるようになり、再開発されず放置された土 地が都市周辺部を中心に急増するというものである。このような塩漬けされたブ ラウンフィールドサイトは、全米で 45 万箇所以上存在するともいわれていた が17、その多くが従来の法制度のもとでは汚染基準以下の土地であるがゆえに法的 な規制がなされないという特徴があり、連邦政府はこれに対する新たな政策を講
12 除去措置、調査、修復措置設計、および一定額以下の費用回収の和解については、同意に基づく 行政命令が、修復措置または浄化費用の回収には同意判決が用いられる。大坂恵里「Ⅲ主体」『平 成 18 年度世界各国の土壌汚染に関する法制度の検討調査』(社団法人商事法務研究会,2007), 17. 参照。
13 42 U.S.C. §9622(a).ただし、大統領が仮に和解手続を用いないと決定したとしても司法審査の 対象とはならないとされる。
14 42 U.S.C. §9622(f)(1).
15 42 U.S.C. §9622(g).
16 アメリカにおけるブラウンフィールド問題を取り上げた邦語文献は数多く存在する。差し当たり 初期のものとして、拙稿「アメリカの土壌汚染政策における一考察−ブラウンフィールド政策を 中心として−」『同志社法学』55, no.3(2003), 65. のみ挙げておく。
17 United States Environmental Protection Agency(環境保護庁のことを指し、以下、EPA と略 記する)のウェブサイト http://www.epa.gov/swerosps/bf/ を参照。さらに多くのブラウンフィー ルドサイトを見積もる文献もみられる。 Kelly J. Shira,
, 34 ARIZ.ST.L.J.991, 993(2002).
じることを余儀なくされた。そこで連邦政府は、まず「中小企業免責およびブラ ウンフィールド活性化法(The Small Business Liability Relief and Brownfields Revitalization Act, 以下ブラウンフィールド新法と略記する)」を 2002 年に制定 した18。同法は、①潜在的責任当事者に対するスーパーファンド法上の厳格な責任 を緩和し19、土地取引の活性化をはかったこと、②州や地方自治体のブラウン フィールド浄化プログラムに対する資金援助を積極的に行うとしたこと、③連邦 政府の州政府のブラウンフィールド政策に対する敬譲を認めたことの 3 点が特徴 的である。次にブラウンフィールド新法 223 条を受ける形で、EPA は 2005 年、スー パーファンド法の厳格な責任追及から不動産の購入予定者等が免責されるための 要件を規定した「あらゆる適切な調査についての最終規則(All Appropriate Inquiries Final Rule)」を制定した20。このような連邦政府の政策と同時に、州レ ベルにおいても州独自のブラウンフィールドに対する自発的浄化プログラム
(Voluntary Cleanup Program)が展開されてきた。多くの州プログラムには、
自発的に汚染の浄化を申し出た当事者に対して協定書などを用いてその後の責任 追及を免除するもの、リスクアセスメントを行いそのリスクに応じた対応措置を 採るものなど様々なものがあるが、これにより多くの潜在的責任当事者が自発的 にブラウンフィールドサイトの積極的な浄化に乗り出してきた21。なお、ブラウン フィールド新法における②および③の内容は、この州のプログラムを後押しする ものといえる。
以上のように、アメリカにおいては、スーパーファンド法による厳格な規制を 背景として、潜在的責任当事者はスーパーファンド法上の和解規定あるいは州プ ログラムにおける協定などを活用することで、ブラウンフィールドサイトをはじ めとした土壌汚染サイトに対して積極的な対策を講じるようになっていった。ま た、ブラウンフィールド新法はこのような政策を後押しするものであった。
18 ブラウンフィールド新法の詳細な内容については、拙稿「アメリカにおける土壌汚染浄化政策の 新展開−ブラウンフィールド新法の意義−」『同志社法学』56, no.3(2004), 41. などを参照され たい。
19 同法において、善意の土地購入予定者、善意の土地所有者、隣接地の所有者の免責および寄与度 の少ない当事者の免責などが一定の要件のもと定められた。
20 同規則については、拙稿「ブラウンフィールド新法における AAI 規則の意義」『同志社法学』
60, no.3(2008), 317. 参照。なお同規則は、大塚直・黒坂則子・福田矩実子「アメリカ土壌汚染・
ブラウンフィールド問題−あらゆる適切な調査についての最終規則−」『季刊環境研究』148
(2008), 136. に訳出されている。
21 詳しくは、黒坂・前掲註(16)116 頁以下参照。
Ⅲ Burlington Northern 判決までの判例の動向
本章では、Burlington Northern 判決までの判例の動向について、手配者の責 任に関するものと連帯責任に関するものに分けて紹介していく。
1 .手配者の責任(arranger liability)
前述のように、スーパーファンド法 107 条(a)(3)は、有害物質の処分や輸送 を手配した者を潜在的責任当事者として規定する22。しかしながら、同法において は、有害物質に関与した者がどのような状況下で手配者の責任を負うかを具体的 には規定しておらず、とくに処分の「手配(arranged for)」 の文言解釈が従来か ら問題となってきた。従来の裁判例では、①厳格責任アプローチ、②明確な意図 のアプローチ、③折衷的なアプローチに分かれるといわれる23。
ⅰ.厳格責任アプローチ(strict liability approach)
初期の裁判例は、厳格責任アプローチを採用することが多い。このアプローチ は、手配者の責任を広く捉え、潜在的責任当事者の汚染への単なる関与によって これを肯定し、有害物質の処分の意図をもって潜在的責任当事者が行動したか否 かなどを必要としない考えである。このリーティングケースは、United States v.
Aceto Agricultural Corp.(以下、Aceto 判決と略記する)24である。同判決は、
EPA およびアイオワ州が倒産した Aidex 社の施設の浄化費用を回収するために、
この施設で工業銘柄の殺虫剤を商用銘柄のものに調合させた Aceto 農薬会社を 含む 8 社を訴えた事件である。第 8 巡回区連邦控訴裁判所は、「別の方法で手配 した(otherwise arranged for)」という文言について、連邦議会の意図に照らし 解釈するものとし、これを広義に捉え、手配者の責任を課すのに被告に違法な有 害物質の処分をしているとの認識がなくてもその責任を負うものとした。そして、
本件において被告 Aceto 社らは、有害物質の所有権を移転してもいないし、
Aidex 社は被告らの指示に従って、その利益のために製造物の加工を行っていた ことから CERCLA の手配者にあたると判示した25。
22 42 U.S.C. §9607(a)(3).
23 本稿における 3 つの分類は、主として Randy Boyer,
, 17 TUL. ENVTL. L. J.
201, 203(2003); Katrina Brown,
11 WYO. L. REV.485, 493(2011)に依拠している。
24 872 F.2d 1373(1989).
25 このアプローチを踏襲した判例として、 Florida Power & Light Co. v. Allis-Chalmers Corp., 893 F.2d 1313, 1318(11th Cir. 1990); Jones-Hamilton Co. v. Beazer Materials & Serv.
ⅱ.明確な意図のアプローチ(specific-intent approach)
Aceto 判決とは対照的に、第 7 巡回区連邦控訴裁判所は Amcast Industrial Corp. v. Detrex Corp.(以下、Amcast 判決と略記する)26において、手配者責任 を限定し、有害物質の処分という明確な意図を必要とする考え方を採用した。
Amcast 判決は、Elkhart 社がその仕入れ先である Detrex 社に対して、貯蔵タン クに運ぶ際に流出したトリクロロエチレンの浄化費用の回収を求めた事案であ る。この輸送過程には、Detrex 社自らが輸送する場合と輸送のために雇った者 が輸送した場合があったが、第 7 巡回区連邦控訴裁判所は、Detrex 社は自らが 輸送した場合にはその責任を負うものの、輸送のために雇った者がその汚染に寄 与した場合に関しては責任を負わないものと判示した。同裁判所は、「処分
(disposal)」という文言に偶発的な流出は含まれるけれども、偶発的な流出を手 配することは不可能であり、Detrex 社は有益な製品(useful product)の輸送を 手配したのであって、処分を手配したものではないとした。このアプローチは、
処分の意図という明確な意思を必要とするものといわれる。同判決は、これまで の厳格責任アプローチとその結論を異にするものとして注目された27。
ⅲ.折衷的なアプローチ(middle ground approach)
このように連邦控訴裁判所において、手配者責任の規定の解釈が分かれるとこ ろとなり、その後折衷的なアプローチが採られるようになった28。たとえば、
South Florida Water Management District v. Montalvo(以下、Montalvo 判決 と略記する)29は、農薬販売業者などが契約にて農薬撒布事業を施していた土地所 有者に対して、その農薬の流出に関する浄化費用の回収を求めたものである。同 事件においても処分の手配の文言解釈が争われたが、第 11 巡回区連邦控訴裁判 所は、当事者が手配者の責任を負うか否かを判断にするのに際しては、多くの事 実を考慮に入れ個別判断をするものとした。具体的には、有害物質の所有権や潜 在的責任当事者の処分の意図などを、これらがすべての要素ではないとしつつも、
その主たる考慮要素としている30。その後、連邦地方裁判所判決ではあるが、
Inc., 973 F.2d 688, 695(9th Cir. 1992).
26 2 F.3d 746(7th Cir. 1993).
27 Beth A. Caretti,
, 41 WAYNE L. REV. 227, 228(1994).
28 このアプローチはケースバイケースアプローチとも呼ばれる。Brown, note 23, at 494.
29 84 F.3d 402(11th Cir. 1996).
30 . at 407.
Mathews v. Dow Chemical Co.31は、Montalvo 判決に依拠し、このアプローチが CERCLA の文言および目的に最も忠実であると評価している。また、同連邦地 方裁判所判決は、Aceto 判決を手配の文言を広範に捉えすぎているとし、反対に Amcast 判決は厳格に解釈しすぎており、CERCLA における浄化の意味を的確 に捉えていないとする32。なお、他にも、Morton International, Inc. v. A.E. Staley Manufacturing Co.33がこのアプローチを採用していると評価できる。同判決にお いて第 3 巡回区連邦控訴裁判所は、手配者の責任を考える上で最も重要な考慮要 素は、その有害物質の所有権、潜在的責任当事者の有害物質の放出という結果を 招くであろうとの認識、そして生産過程における潜在的責任当事者の管理権限で あると述べる34。
2 .連帯責任(joint and several liability)
前述したように、スーパーファンド法において連帯責任は明示されていない。
しかしながら、長い間判例法上、潜在的責任当事者は連帯責任を負うとされてき た。以下、簡単にその判例の変遷をたどることにする。
裁判所が初めて連帯責任問題について言及したのは、1983 年の United States v.
Chem-Dyne Corp.(以下 Chem-Dyne 判決と略記する)35とされる。この事件は、
連邦政府が汚染サイトの浄化費用の回収を求めて 24 社もの潜在的責任当事者を 訴えたものであるが、連帯責任問題に関する重要なリーディングケースとなった。
オハイオ州南部地区連邦地方裁判所は、まず制定法の文言からだけでは連帯責任 適用の可否を判断できず、立法制定時の議会の意図をたどることとし、強制的に 連帯責任を課すと極めて不衡平な結果になる場合には連帯責任は排除されるべき であるが、そうでない場合にはコモンローに従って判断すべきであると判断した。
そしてコモンローの適用に関しては、第 2 次不法行為リステイトメント36を参考 にするとし、損害が可分であることを被告が証明した場合にはそれぞれの寄与度 に応じてその責任を負担することが可能であるが、損害が不可分である場合には 連帯責任が課されるものと判断した。その際、証明責任は被告にあるものとし、
本件における被告の証明は不十分であるから結論として連帯責任を課すと判示し
31 947 F. Supp. 1517(D. Colo. 1996).
32
33 343 F.3d 669(3d Cir. 2003).
34 at 676-679.
35 572 F. Supp. 802(S.D. Ohio 1983).
36 Restatement(Second)of Torts.
た。
Chem-Dyne 判決のあと、同じく連帯責任が争点となった連邦控訴裁判所判決 として、United States v. Monsanto Co.(以下、Monsanto 判決と略記する)37が ある。同判決は、Chem-Dyne 判決の結論に沿うものであったが、Chem-Dyne 判決が残した疑問点に少なからず応えたものとされている38。たとえば、Chem- Dyne 判決において、被告たる潜在的責任当事者が連帯責任から逃れるために何 を証明すればよいのかが不明であったが、この点について、被告は損害の可分性 を証明しなければならず、それには有害物質の量や有害物質の放出とサイトの損 害との関係を示す証拠を提出しなければならず、さらに有害物質の相対的毒性、
移動可能性、他の有害物質が混合する可能性などもその考慮要素となり得るとし た39。その結果、同判決は結局被告に重い証明責任を課し、結論として連帯責任を 認めるものになった。
Chem-Dyne 判決および Monsanto 判決の後、連帯責任に関して例外とも呼ぶ べ き 判 決 が い く つ か 出 さ れ る こ と と な っ た。 ま ず、United States v. Alcan Aluminum Corp.40は、浄化費用を発生させない程度のごくわずかな有害物質の放 出に寄与した潜在的責任当事者は連帯責任を負わないものと判断した。次に、In re Bell Petroleum Services., Inc.41は、当該施設の所有および管理が連続した所有 者および管理者が、異なる時期に同種の有害物質を処分していた場合には、責任 を分配する合理的な根拠があるとした。さらに United States v. Township of Brighton42は、所有者または管理者がその施設と何ら関係がなくなったあとであ れば当該サイトの浄化費用について責任を負わないものとした。ただし、これら の判決は極めて例外であるといわれ、潜在的責任当事者はスーパーファンド法上 連帯責任を負うとするのが Burlington Northern 判決が出されるまで依然として 原則とされる状況にあったといえる43。
37 858 F.2d 160(4th Cir. 1988).
38 Aaron Gershonowitz,
, 50 DUQ. L. REV. 83, 87-90(2012).
39 その他にも、Chem-Dyne 判決は第 2 次不法行為リステイトメント §433A をその根拠としてい るが、同判決は損害が可分であり、さらに、その損害の可分性を主張する合理的な根拠があるな らば、それぞれの当事者はその負担部分につき責任を負うとするが、リステイトメントは and ではなく or を用いているので、裁判所はこれらの両方を必要とすることで、被告の証明責任を 付加する意図があったのであろうかなどといった疑問があった。
40 964 F.2d 252(3d Cir. 1992).
41 3 F.3d 889(5th Cir.1993).
42 153 F.3d 307(6th Cir. 1998).
43 Gershonowitz, note 38, at 104.
3 .小括
以上、手配者の責任と連帯責任について、Burlington Northern 判決に至るま での判例の動向を概観した。まず手配者の責任については、当初は厳格責任アプ ローチが採られ、潜在的責任当事者の範囲が広く認められていた。その後、潜在 的責任当事者の範囲を限定する明確な意図のアプローチが採られるようになり、
連邦控訴裁判所の立場が分かれることとなった。その後、折衷的なアプローチが 導かれ、手配者の責任が認められる際のいくつかの考慮事項が提示された。この アプローチには CERCLA の文言および目的に最も忠実であるとの肯定的な評価 がある一方で、そこで示された考慮要素は必ずしもそれだけが決定要因ではなく、
またどの考慮要素を重視するかによって結論が異なることになる可能性があるこ とから44、これが確固たるアプローチ足り得るかは疑問視されてきた45。次に、連帯 責任についてであるが、Chem-Dyne 判決の出されたあと、ほぼすべての判決が これを踏襲することになり、潜在的責任当事者は広く連帯責任を負うとされた。
これまでの多くの判例における共通認識は、スーパーファンド法自体は連帯責任 を課していないこと、そしてその根拠となるのは、第 2 次不法行為リステイトメ ントであるということであった。また多くの判例が損害の分担に関する証明責任 を被告の潜在的責任当事者に課しており、そのためその証明は容易ではなく、結 果的に連帯責任が認められる傾向にあった。ただし、原則ともいわれてきた46連 帯責任の例外、すなわち寄与度に応じた分配責任を認める判決が見られるように なったのは前述のとおりである。
以上のように、Burlington Northern 判決に至るまでの判例の動向としては、
近年の判例は初期の判例に比べ、全体としては潜在的責任当事者の責任を緩和す る方向にあったと評価することができよう。次章では、Burlington Northern 判 決がこのような流れにどのような影響を与えたかについて検討していく。
44 Boyer, note 23, at 213-215.
45 とはいえ、Aceto 判決のような厳格アプローチについては、最も責任を負うべき施設の管理者が その有害物質の管理を怠り、その責任を手配者に転嫁することもあることから、折衷的なアプロー チが望ましいとの指摘も見られる。
46 JOHN S. APPLEGATE AND JAN G. LAITOS, ENVIRONMENTAL LAW, RCRA, CERCLA, AND THE MANAGEMENT OF HAZARDOUS WASTE 180(FOUNDATION PRESS 2006).
Ⅳ Burlington Northern 判決
1 .事案の概要
1960 年、Brown & Bryant 社(以下、B&B 社と略記する)は、カリフォルニ ア州 Arvin 市の 3.8 エーカーの用地において農薬販売事業を開始した。B&B 社は、
Shell Oil Company(以下、Shell 社と略記する)などの仕入れ業者から多くの農 薬を購入していた。B&B 社は 1975 年、Burlington Northern & Santa Fe Railway などの鉄道会社ら47と賃貸借契約を結び、B&B 社の所有地の隣接地にあたる 0.9 エーカーの用地を新たに借りて、同地を農薬散布機の駐車場などの用途に供し、
その事業を拡大した。その後、これら両方の用地において、農薬中の有害物質が 漏れ出し、地下水を汚染した。この頃(1960 年代半ば)より、Shell 社は、D-D という腐食性の高い化学薬品などについては大量貯蔵施設において保管すること を販売業者に求めていたが、その製品の輸送過程において有害物質が流出した。
Shell 社は日常的な有害物質の流出を知ったとき、詳細な安全処理マニュアルを 販売業者である B&B 社に提供し、安全点検を要求し、また販売業者が貯蔵施設 を改良するための費用を差し引くなど、農薬の安全管理を促進するようないくつ かの対策を講じていた。しかしながら、これら Shell 社の対策は功を奏せず、
B&B 社は依然として農薬の流出を阻止しなかったため、当該土地および地下水 の汚染は広がっていった。B&B 社はその後、浄化作業に従事したものの、1989 年に同社は倒産し、それゆえカリフォルニア州および EPA が 800 万ドルをかけ て浄化作業を行うこととなった。1991 年 EPA は、鉄道会社に浄化作業に協力す るよう要請し、彼らは 300 万ドルを費やし浄化作業を行った。そこで鉄道会社は、
B&B 社に対する浄化費用の回収を求めて訴訟を提起したが、カリフォルニア州 および EPA が鉄道会社および Shell 社に対してその浄化費用の回収を求めた訴 訟と併合審理されたのが本件である。本件では、手配者の責任および潜在的責任 当事者間の連帯責任の 2 つが主たる争点となった。
2 .カリフォルニア州東部地区連邦地方裁判所判決48
カリフォルニア州東部地区連邦地方裁判所は、結論としてカリフォルニア州お よび EPA の主張を支持し、鉄道会社と Shell 社はともに潜在的責任当事者に該
47 たとえば、Union Pacific Railroad Company もこれに該当するが、本稿では以下、これら複数の 鉄道会社らを便宜上単に鉄道会社と略記することにする。
48 United States v. Atchison, Topeka & Santa Fe Ry. Co., Nos.CV-F-92-5068 OWW, CV-F-96-6226 OWW, CV-F-96-6228 OWW, 2003 WL 25518047(E.D. Cal. July 15, 2003).
当すると判示した。鉄道会社は、少なくともその施設の一部分を所有していた責 任があり、Shell 社は、農薬の売却および輸送を通じて、その有害物質の処分を 手配した責任があるというのがその理由である。
しかしながら連邦地方裁判所は、連邦政府らが被った浄化費用全体に対する連 帯責任を両社に課さなかった。同裁判所は、確かに当該サイトの汚染は一つの損 害を創出したけれども、その責任は分配することが可能なものであると判断した。
そのうえで、所有地の割合、所有の期間、有害物質の種類等の要素を考慮して、
その寄与度に応じた負担を算出するものとした。具体的には、①鉄道会社は当該 汚染サイトの 19%のみを所有していたこと、②鉄道会社は B&B 社が操業してい た 45%の期間のみ当該土地を B&B 社に貸していたこと、③ B&B 社の土地は鉄 道会社の土地の 10 倍以上の大きさがあり、当該土地において発見された 3 種類 の有害物質のうち 2 種類のみについて浄化作業が必要であったことの 3 点を挙げ、
さらに 50%未満の計算ミスを考慮に入れて、鉄道会社は 9%の責任を負うと判示 した49。Shell 社については、同社からの農薬の流出を 6%と見積もり、その責任 を負担すると結論付けた。
3 .第 9 巡回区連邦控訴裁判所判決50
連邦政府らは連邦地方裁判所判決を不服として第 9 巡回区連邦控訴裁判所に控 訴を提起した51。同裁判所は、連邦地方裁判所判決を一部認容し、一部破棄した。
具体的には、手配者の責任について連邦地方裁判所判決の結論を支持し、連帯責 任についてはこれを否定した。まず手配者の責任について、CERCLA の処分の 定義が流出等を含むよう広義に定義されていることを明示したうえで、潜在的責 任当事者に有害物質の処分の意図がなかったとしても、それがその者にとって予 見し得る結果であれば手配者としての責任を負うとした。Shell 社は、輸送過程 で幾分かの流出が起こったことを認識しており、輸送および保管過程で助言、監 督をしていたのであるから、有害物質を売却したことなどを通じて有害物質の処 分の手配者としての責任を負うと判示した。
次に第 9 巡回区連邦控訴裁判所は、連帯責任について、まず潜在的責任当事者 によってもたらされた損害は分配しうるとの考えに議論の余地はない明示した。
49
50 520 F.3d 918(9th Cir. 2008).同判決においては、連帯責任についてが先に検討されているが、
連邦地方裁判所判決および連邦最高裁判所判決との関係上、本稿においては先に手配者の責任の 項目を検討することにした。
51 Shell 社も手配者の責任について、交差上訴している。
しかしながら連帯責任から免れる証明責任は、被告たる潜在的責任当事者にあり、
連邦地方裁判所判決に示された証拠ではその分配の合理的な根拠が証明されてい ないと判断した52。そのうえで鉄道会社および Shell 社は連帯責任を負うことにな るとの結論を下した。
4 .連邦最高裁判所判決53
ⅰ.法廷意見
連邦最高裁判所は、鉄道会社および Shell 社の裁量上訴を受け入れ、2009 年 5 月 4 日、8 対 1 で第 9 巡回区連邦控訴裁判所判決を覆すに至った。本判決におい ては、Stevens 裁判官が法廷意見を述べている。連邦最高裁判所は、まず制定法 の文言を検討し、手配者の責任について以下のような分析を加えた。
制定法は、有害物質の処分の手配について定義しておらず、それゆえ社会通念 に従って解釈することになるが、そうすると潜在的責任当事者が手配者となるの は、有害物質の処分に対する意図的な段階を踏んだ場合を指すことになる。確か に、その製品が流出するであろう、または流出したとの潜在的責任当事者の認識 が有害物質の処分の意図を示す証拠となる場合もある。しかしながら、とくにそ の有害物質の処分が、未使用かつ有益な製品の合法的な売買の結果に起因するも のであれば、潜在的責任当事者の有害物質の流出に関する認識のみでは処分を計 画したとするには不十分である。従って本件連邦地方裁判所判決による事実認定 は、処分の意図を証明するのに十分ではない。Shell 社は、製品の輸送過程にお いて偶然的な有害物質の流出を認識していたけれども、それは Shell 社がその流 出が起きることを意図していたとの根拠とはならず、むしろ Shell 社は販売業者 にその流出を減らすことを意図して、いくつかの段階を踏んでいた証拠があるこ とから、Shell 社の有害物質の流出に関する単なる認識は、Shell 社が手配者の責 任を負うのに十分な根拠とはならず、従って同社は手配者責任を負わない。
このように連邦最高裁判所は Shell 社が手配者としての責任を負わないと判断 したため、鉄道会社についてのみ連帯責任を負うか否かを検討した。連邦最高裁 判所は、CERCLA 訴訟において損害を分配しうるということについては、当事
52 端的にいえば、Arvin サイトは一つの施設であり、その鉄道会社から借りていた用地の面積と期 間という情報のみでは、当該サイトでの活動に起因する汚染の寄与度を算定することはできない ということを指す。また連邦地方裁判所判決のいう、3 つの汚染物質のうち 2 つのみが浄化作業 を必要としたことについては、残りの 1 つが、わずかながらでもそのサイトで発見された場合に は、これを除外すべきではないとする。520 F.3d 918(9th Cir. 2008).
53 556 U.S. 599(2009).
者および下級審判決においても異論はなく、本件で問題となるのは、鉄道会社は 9%のみの責任を負うとした連邦地方裁判所判決の結論に合理的な根拠があるか 否かであると判示した。そのうえで連邦最高裁判所は、連邦地方裁判所判決の 3 つの考慮要素、すなわち所有地の割合、所有の期間、有害物質の種類の要素につ いて検討を加え、それぞれを適切なものと判断し、さらに 50%の計算ミスを考 慮に入れた連邦地方裁判所判決の結論は妥当であるとの結論を下した。
ⅱ.反対意見
本判決においては、両方の争点について Ginsburg 裁判官が反対意見を述べて いる54。まず Shell 社の手配者の責任について、連邦地方裁判所判決および連邦控 訴裁判所判決と同じくこれを肯定する。なぜならその農薬の輸送手段は Shell 社 の決定であり、その輸送過程において有害物質の流出が起こったのであって、そ の流出に関して同社は 20 年にわたり継続的に認識していたからである。すなわ ち同社は単に有害物質の流出を知っていただけではなく、その輸送過程に関与し ていたことからその責任を負うとする。そして Shell 社の責任を免除し、連邦政 府らが浄化することは CERCLA の目的と調和しないであろうと述べる。
次に連帯責任については、Ginsburg 裁判官もこれを肯定しないが、鉄道会社 および Shell 社ら潜在的責任当事者は、有害物質の流出に寄与したとの認識がな く、その損害の分担について主張する機会もなかったので、連邦地方裁判所に差 し戻すべきであるという。すなわち連邦政府も含めたすべての潜在的責任当事者 が、本件の費用負担について議論する衡平な機会が与えられるべきであると述べ ている。
5 .本判決の検討
連邦最高裁判所は、本判決において、Shell 社の手配者責任および潜在的責任 当事者の連帯責任のいずれの争点についても否定するという結論を下している。
まず連邦最高裁判所は、Shell 社の手配者責任については、連邦地方裁判所判決 および連邦控訴裁判所判決とは反対の結論を採り、これを否定している。前章で 検討してきたように、スーパーファンド法は、手配者の責任について詳細には定 義しておらず、この点に関する下級審の判断は大きく 3 つに分かれてきた。連邦 最高裁判所は、連邦地方裁判所判決および連邦控訴裁判所判決とは異なり、有害 物質の処分という明確な意図を必要とする考え方、すなわち明確な意図のアプ
54 at 620.
ローチを採り、先例の文言解釈の争いに終止符を打ったといえるが、この結論は 妥当といえるであろうか。このように判断が分かれたのは、連邦控訴裁判所が CERCLA における「処分(disposal)」という文言が、非意図的な放出、たとえ ば流出や漏出を含むものと規定していることに着目するのに対して、連邦最高裁 判所は、処分という文言ではなく、「手配する(to arrange for)」という文言に 着目し、この文言が通常意図的な行為を指すため、有害物質の処分を手配する者 は、その製品の処分の意図を必要とするとしたことにあるといえる55。連邦最高裁 判所がこのような解釈を採った背景として、有益な製品の製造業者などの供給者 が消費者56に売却したのちに、その消費者が不適切に有害物質の処理をした場合 に、供給者が責任を負うとすれば衡平性に欠け、製品の供給に委縮効果を及ぼす ことになり効果的ではないとの政策的な配慮があるように思われる57。
しかしながら、この連邦最高裁判所の明確な意図を必要とする解釈には批判が あろう。なぜなら、連邦最高裁判所の解釈によれば、有害物質の特定の処分の意 図を証明しうるような場合、すなわち多くは営利的な処分契約があった場合にの み手配者の責任が課されることとなるので、有益な製品を売却する者は、通常製 品を処分する意図はないとみなされ、一旦売却してしまえばほぼ手配者の責任を 負うことがなくなるからである。確かに連邦最高裁判所のアプローチは、その消 費者(実際の汚染者)に比べ寄与度が少ない供給者の責任を認めないことで、こ れらの潜在的当事者間においては衡平であり、将来的な化学薬品開発にインセン ティブを与える利点がある。
一方で、Ginsburg 裁判官の指摘するように、連邦最高裁判所のアプローチは スーパーファンド法のそもそもの目的を阻害しうるであろう。すなわち連邦最高 裁判所の解釈は、供給者の責任を一切認めないのであるから、その浄化費用は結 局すべて税負担となり、潜在的責任当事者への責任追及を第一として、汚染者負 担原則を厳格に実践してきたスーパーファンド法の目的に反することとなるから である。従ってこの問題は、結局、誰にその浄化費用の負担を負わせるのが妥当 といえるかに帰着するであろう。厳格責任を採用するスーパーファンド法の趣旨 に鑑みれば、税負担で浄化するのは最終手段であるべきであるし、また潜在的当 事者間においても連邦最高裁判所の結論では、Shell 社は手配者としての責任を 一切負わず、鉄道会社は 9%の責任を負うことになる。しかし、当該土地を
55 Rachel k. Evans, 34 HARV. ENVTL. L. REV. 311, 314(2010).
56 ここにいう消費者には本件における販売業者を含む。
57 Evans, note 55, at 316.
B&B に貸しただけの鉄道会社が、農薬の供給者の Shell 社よりもなぜ重い責任 を負うのか、Shell 社はその農薬ビジネスから利益を得ていたであろうのに対し、
鉄道会社の得た土地の賃料はどのようなビジネスでも同じはずであったことに鑑 みれば不衡平ではないかとの批判もある58。むしろ供給者に責任を負わせば、その 環境リスクを内部化し、その後のより慎重な有害物質の取り扱いを促すことにな ると思われる。以上のことから、本事案においては、スーパーファンド法の趣旨 に鑑みて厳格責任アプローチか、少なくとも多くの要素を当該事案に応じて具体 的に検討する折衷的なアプローチが採られるべきであったといえよう。
次に、連帯責任については、Chem-Dyne 判決以降長い間、スーパーファンド 法のもとでは連帯責任が原則であって、潜在的責任当事者が寄与度に応じた負担 を主張するのであれば、その当事者が合理的根拠を示さなければならないとされ てきた。本件連邦最高裁判所判決は、今まで例外とされてきた寄与度に応じた責 任負担を原則としうるものであり、これはスーパーファンド法の法体系に重大な 影響を与えるものとして注目される。連邦最高裁判所は、責任を可分とする検討 事項について新たな確固たる基準を提示しないものの、連邦地方裁判所判決の考 慮要素、すなわち所有地の割合、所有の期間、有害物質の種類に基づく概算を肯 定しており、今後の同種の事案に参考となるものと思われる。そもそも連邦最高 裁判所がこのように寄与度に応じた負担を認めるに至った背景には、寄与度の小 さい鉄道会社に連帯責任を課すのは衡平でないとの事情があったと考えられる。
これは手配者の責任と同様、結局は誰にその浄化費用の負担を負わせるのが妥当 といえるかに帰着する。確かに、鉄道会社の責任は極めて小さいものであるが、
本判決の結論に沿えば、残りの 91%の浄化費用について税金を投入することに なる59。これが果たしてスーパーファンド法の趣旨と合致しているのか、手配者の 責任と同様、疑問が残る。むしろ、Ginsburg 裁判官の反対意見のように、これ を連邦地方裁判所に差し戻すことで、寄与度に応じた負担を主張する潜在的責任 当事者に証明責任を改めて課し、十分な証明がなされない限り連帯責任を負うと することがこれまでの先例の流れにも沿う妥当な結論であるともいえよう。
では、Burlington Northern 判決は今後のアメリカにおける土壌汚染浄化政策 にどのような影響を与えるであろうか。本件連邦最高裁判所判決は、全体として 衡平の観点からスーパーファンド法における潜在的責任当事者の責任負担を減少 させるものと評価できる60。しかしこの評価は、スーパーファンド法における潜在
58 . at 315-316.
59 しかも基金が枯渇している現状においては、多くのサイトの浄化の遅延が見込まれよう。
60 David Terry,
的責任当事者に対する厳格責任の追及とは反対の方向を示している。前述のよう に、アメリカにおいてはスーパーファンド法の厳格な規制を背景として、潜在的 責任当事者に和解を結ぶインセンティブを与え、また潜在的責任当事者自らが自 発的にブラウンフィールド政策を乗り出すインセンティブを与えてきた。言い換 えれば、これらの積極的な政策が促進されてきたのは、スーパーファンド法にお ける規制が十分に厳格とされてきたからである。本判決によって潜在的責任当事 者の範囲が限定的に解釈され、また潜在的責任当事者間の連帯責任が採られにく くなることによって、潜在的責任当事者の和解を結ぶインセンティブは減退し、
訴訟においてその責任を積極的に争うことになりかねず、ひいては連邦政府の浄 化費用のみならず訴訟費用の増加を招くことにもなりかねない61。以上に鑑みる と、本判決は、確かに潜在的責任当事者間においては衡平の観点から妥当といえ るものの、これまで押し進められてきたアメリカの土壌汚染浄化政策にマイナス の影響を与えうるものと思われる。
Ⅴ おわりに
本稿の考察対象としてきた Burlington Northern 判決の 2 年前の 2007 年に出 された United States v. Atlantic Research Corp.(以下、Atlantic Research 判決 と略記する)62は、2004 年の Cooper Industries Inc. v. Aviall Services Inc.(以下、
Aviall 判決と略記する)63によって衰退が懸念されたアメリカにおける積極的な土 壌汚染浄化政策の途を再び開くであろうと期待される判決であった。具体的には、
Aviall 判決が、自発的な浄化作業に従事した潜在的責任当事者の求償権を否定し たことで、州の自発的浄化プログラムにマイナスの影響を与えるのではないかと
, 5 ENVTʼL & ENERGY L. & POLʼY J. 158, 164-165(2010).同論文は、こ のような結論は法改正によって行うべきであるとする。
61 Gregory A. Weimer,
,35 VER. B. J. & L.
DIG. 46, 46-47(2009); Peter J McGrath Jr.,
, 3 CHARLOTTE L. REV. 85, 92-94
(2011).
62 551 U.S. 128(2007).同判決については、拙稿「米国スーパーファンド法 107 条をめぐる判例の 動向− Atlantic Research 判決がブラウンフィールド政策に与える影響を中心に−」『同志社法学』
63, no.5(2011), 409. 参照。
63 543 U.S. 157(2004).同判決については、拙稿「米国スーパーファンド法上の寄与分求償訴訟と ブラウンフィールド問題− Cooper 判決の意義−」『循環型社会の環境政策と法』(関西大学法学 研究所, 2006), 247. 参照。
の懸念があったところ、Atlantic Research 判決はこれを結論として覆し、その 懸念を払拭したものと評価しうるものであった。Atlantic Research 判決は、
Burlington Northern 判決とは適用が争われたスーパーファンド法上の条項は異 なるが64、潜在的責任当事者のカテゴリーに、制定法で明示されていない制限を課 すような解釈を否定するものであり、潜在的責任当事者に州のプログラムに沿っ た自発的な浄化作業に従事するインセンティブを再び与えるものであったといえ る。
しかしながら、本稿で検討してきたように、Atlantic Research 判決のわずか 2 年後に出された Burlington Northern 判決は、手配者の責任を限定的に捉え、
また潜在的責任当事者間の連帯責任を否定した。Burlington Northern 判決によっ て Atlantic Research 判決で払拭されたとされる懸念、すなわち潜在的責任当事 者がスーパーファンド法における厳格な法規制を背景に州政府と協定などを結ぶ ことなどによって展開されてきた土壌汚染浄化政策が再度衰退することが予想さ れる。
本稿において検討してきた Burlington Northern 判決が果たして実際にアメリ カの土壌汚染浄化政策にマイナスの影響を与えるのか、今後のスーパーファンド 法における判例の動向と土壌汚染浄化政策の行方が注目される。
64 Atlantic Research 判決は、潜在的責任当事者の塡補賠償請求権および寄与分求償請求権が争わ れた事例である。
Guidance on Arranger Liability and Apportionment:
Burlington Northern & Santa Fe Railway Co. v.
United States.
Noriko Kurosaka
On May 4, 2009, the U.S. Supreme Court issued its decision in Burlington Northern & Santa Fe Railway Co. v. United States. The Supreme Court provided much-needed guidance on two issues raised by language of the Comprehensive Environmental Response, Compensation, and Liability Act (CERCLA), the scope of so-called arranger liability under CERCLA and the extent to which liability under CERCLA is joint and several.
The first issue is about arranger liability. In Burlington Northern, the Supreme Court held Shell Oil Company not liable for cleanup costs as an arranger after it knowingly contributed to contamination on a land parcel.
Although Shell knew of the improper management of hazardous materials, the Supreme Court reasoned the evidence failed to show Shell sold the contaminating chemicals with the intent to dispose of those chemicals.
Burlington Northern effectively resolved circuit split by requiring an intent element. It underscores a larger judicial trend toward a less draconian interpretation of CERCLA.
The second issue is about apportionment. In Burlington Northern, the Supreme Court reversed the Ninth Circuit decision that applied joint and several liability. Despite the conclusion of the appeals court that there was insufficient data to support the district courtʼs finding on apportionment, the Supreme Court concluded that the facts contained in the record reasonably supported the apportionment of liability. In short, the Supreme Court found that the district courtʼs reliance on the percentages of land area, time of ownership, and types of hazardous products involved in determining its allocation and apportionment was appropriate. After Burlington Northern, joint and several liability in CERCLA actions might become the exception and not
the rule.
The Supreme Courtʼs decision in Burlington Northern seems to reflect the growing trend of reducing CERCLAʼs liability scheme. While the arguments against a broad CERCLA liability scheme have strong roots based on fairness, CERCLA was intended as a strict imposition of liability to facilitate better hazardous disposal practices. This paper examines the impact of Burlington Northern on future CERCLA liability scheme and Brownfields Policy.