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死亡退職金・遺族給付の民法九〇三条の特別受益性 について

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(1)

死亡退職金・遺族給付の民法九〇三条の特別受益性 について

その他のタイトル Sur le rapport a la succession par un coher itier de la retraite et la pension familiale d'un defunt

著者 千藤 洋三

雑誌名 關西大學法學論集

巻 43

号 1‑2

ページ 579‑629

発行年 1993‑06‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/2074

(2)

千 藤 洋

死亡退職金・遺族給付の

民法九 0

三条の特別受益性について

(3)

退

(4)

遺産分割に際しては︑共同相続人の間で︑相続財産の範囲︑その内容︑分割方法等がしばしば紛議の対象となる︒

とりわけ範囲に関して︑ある財産権が相続財産に含まれるか否か︑あるいは被相続人による法定相続人への生前贈与

や遺贈の有無︑ならびにその取扱いがよく問題となる︒相続財産それ自体に該当するものとして︑あるいは贈与や遺

贈に準じるものとして︑公務員や私企業の従業員である被相続人の在職中の死亡による死亡退職金受給権︵以下︑

(1 ) 

﹁死亡退職金﹂とする︶や遺族給付受給権︵遺族扶助料とも呼べるもので︑特別弔慰金や家族弔慰金︑あるいは特別

功労金︑遺族年金︑退職者遺族共済金︑慰霊金︑退職者記念品代等といった名義で死者と一定の関係にある者に給付

(2 ) 

される財産受給権のことをいう︒死亡退職金とは別に支給されることが多い︒以下︑﹁遺族給付﹂とする︶を共同相

続人中のある者が取得したときに︑これらの扱いをめぐり争いが生じる場合がある︒とりわけ死亡退職金は︑賃金の

後払い︑長年勤続に対する功労報酬︑あるいは遺族への生活保障等を本質とするが︑そのいずれがもっとも根幹をな

すかについて議論の分かれるところである︒また受給権者の範囲や順序は国家公務員退職手当法とか条例といった法

令や︑退職金規定である内規︑あるいは労働協約等により︑民法とは離れて定められている場合がほとんどである︒

もっとも︑ただ単に﹁相続人﹂となっていたり︑まったく明規されていないこともある︒同じことがさまざまな名目

を有する遺族給付についてもいえよう︒ともあれ︑受給権者以外に他に共同相続人が存在している場合に︑死亡退職

金や遺族給付をまった<除外して遣産を分割するのであれば︑他の共同相続人に不満が残る︒とりわけ︑こうした財

産権以外にめぼしい財産がない場合には︑受給権者である特定者のみが利益を受け︑その結果︑共同相続人の間での

退

0

, J.  

(5)

第四三巻第一・ニ合併号

︵ 九 0 1

そこでまず︑死亡退職金や遺族給付を相続財産と解し︑共同相続人間で分割するという解決方法が考えられる︒

この考えは︑死亡退職金についていえば︑その性格を主として賃金の後払いとみて死亡退職金を死亡退職者の財産と

する︒この場合︑法令等による受給権者の指定は︑死亡退職金の処理を遺族に委ねるために遺族の代表者とされてい

るに過ぎず︑支給者の責任免除規定であるという理解に基づく︒これは︑受給権者以外の他の共同相続人には満足の

いくやり方であるが︑しかし︑賃金の後払い的性格がより妥当する生前退職金の場合と異なり︑死亡退職金は︑受給

権者の固有財産として被相続人死亡後の受給権者の生活保障を本来の目的の一っとしていることから︑この点を強調

すれば︑その相続財産性

(1

1遺産性︶を容易に肯定するわけにはいかない︒そこで︑今日の学説の多くや裁判例は︑

生活保障的機能にプラスして︑死亡退職金の受給権者が国家公務員退職手当法や労働協約等により民法が定める相続

人の範囲や順位と異なって指定されていることが多いことなどを根拠に︑死亡退職金の相続財産性を否定的に解する︒

同じようなことが︑社会保障関係の特別法や企業の内規などにより給付される遺族給付についてもいえる︒

このように死亡退職金や遺族給付の相続財産性が否定された結果︑他の共同相続人には不満が募るため︑次に出

てくる考えは︑受給権者にも応分の負担を課する方法︑つまりわが民法九0三条を類推適用し︑遺贈もしくは婚姻・養子縁組•生計の資本のための三種の贈与財産(これらは「特別受益財産」と呼ばれる)に準じて、計算上、死亡退

職金額や遺族給付金額を遺産総額に持ち戻すという解決方法である︒その場合︑受給権者の受領した額が相続分の価

額に等しく︑またはこれを超えたときは︑相続分を受けることができないし

ほとんどないケースでは︑受領額が遺留分減殺に服するということがありうる︒こうしたやり方によれば︑受給権者 衡平を損なうことになりかねない︒

(6)

︵もしくは特別受益性を有 ︵もしくは相続財産性を有するか否か︶を概

には不満が残るものの︑他の共同相続人には︑それなりに満足のいく結果をもたらすといえよう︒死亡退職金や遺族 給付が特別受益財産に該当しないとした場合︑いいかえれば受給権者が死亡退職金等を受領した上で︑さらに他の共 同相続人と同じ立場で相続財産にかかっていけるという場合よりも︑受給権者以外の共同相続人にとってはましだか らである︒しかし︑これに対しては︑死亡退職金や遺族給付の生活保障的機能を損なうのではないかという批判が出 てくる︒また︑このような死亡退職金等の特別受益財産扱いは︑特別受益持戻し制度の趣旨を逸脱するのではないか との疑問が残る︒その理由は︑もともと民法が︑すべての遺贈と生計の資本などの三種の贈与財産に限り︑これらの 財産価額を計算の上で持戻しさせているのは︑複数の相続人を平等に扱うのが被相続人

(1

1遺言者もしくは贈与者︶

の意思と推定されたことに拠る︒つまり︑遺贈あるいは三種の贈与がなされていても︑受遺者や受贈者に本来の相続 分外に特別の利益が付与されるのではなく︑それは相続分の前渡しであって︑後の遺産分割時に︑これをいわば吐き 出させるぺきであるというのが︑被相続人の意思であるというものである︵もっとも私は︑年来︑遺贈については︑

(3 ) 

原則は相続分外の特別な利益の付与であり原則として持戻す必要はない︑と解すべきことを提唱している︶︒ところ

が︑このような九0

三条の立法趣旨とは異なり︑死亡退職金や遺族給付は︑多くの場合︑法律とか条例︑あるいは各 企業の内規等により受給権者が決められており︑被相続人の意思に基づくものではないことから︑特別受益性を有す

る財産と同列に扱えないのではないかという疑問である︒

本稿は︑死亡退職金ならびに遺族給付が相続財産に該当するか否か

観し︑該当しないとした場合に︑それらが民法九

0 1

︱一条の特別受益財産に該当するか否か

するか否か︶について︑学説・裁判例を紹介し検討を加えようとするものである︒この主題については︑これまです

退

0

(7)

後に掲載してみた︒

でに多くの論稿が存在する︒とりわけ数年前に伊藤昌司教授による緻密な判例研究がなされ︑その後︑実務家による

裁判例の収集とその分析をみて︑昨年には高木多喜男教授の優れた論文が公表された︒これらの先達に教えを受けつ

つ︑私なりに掘り下げて検討を加えてみたいと思う︒ここで予め若干の点についてお許しやお断りしておきたい︒ま

ず第一に︑私はすでに別稿で︑死亡退職金の相続財産性について検討を加えたことがある︒今回は︑死亡退職金なら

びに遺族給付の特別受益性に焦点をあてることにするが︑特別受益性の有無の検討に際しては︑相続財産性の有無が

前提問題となっているため︑再説という形になるけれども︑本稿で相続財産性の有無に簡潔に触れる︒第二に︑私は他稿で、生命保険金の相続財産性•特別受益性を扱ったことがある。そこで紹介した裁判例のうち七例が、生命保険

金以外にも死亡退職金や遺族給付を問題としていることから︑これらの裁判例を今回も再び取り上げている︒第三に︑

遺族給付は死亡退職金に準ずる場合がほとんどあり︑学説の中には両者を必ずしも厳密に区別することなく論じてい

る場合がままみられる︒確かに︑被相続人の死亡という事実を原因として提供された金銭という意味では共通するも

のがあり︑また遺族給付が死亡退職金の代わりに支給されることもある︒しかし︑遺族給付は死亡退職金とは別個の

形式で給付されるケースが多く︑両者はその内容を異にし︑また法的性質に隔たりがあること等から︑本稿では︑死

亡退職金と遺族給付とを別の章に分けて扱うことにする︒最後に︑裁判例の検討に際して︑死亡退職金や遺族給付の

事実だけを各事案の中から切り取って論じるのでは不十分であることはいうまでもない︒当該事案の遺産総額︑相続

人の数︑対立している当事者の立場︵後妻と先妻の子の争いなど︶︑生命保険金などの他に問題となっている特別受

益性の有無等のトータルな状況のなかでこそ分析も意味をもつ︒こうした点から︑裁判例の一覧表を作成し本稿の最

(8)

今日の裁判例ならびに多数学説は︑共同相続人のうちの一人が受給した死亡退職金について︑死亡退職金の生 活保障的機能を重視し死亡退職金を相続財産ではないと解した上で︵ただし︑死亡退職金を扱った九裁判例のうち︑

一例は相続財産性を肯定する︶︑他の共同相続人との衡平を考慮し︑民法九

0三条の特別受益財産に準ずる扱いをす

べきか否かを論じる︒八裁判例中︑三例が特別受益性を肯定し 定例とよぶ︶︒残りの一例は︑肯定を原則とするものの︑事件内容を勘案し最終的には否定したものである 原則肯定例とよぶ︶︒学説は︑これまで肯定・否定の両説が相半ばし︑次第に肯定説が強くなる傾向にあるといえよ 死亡退職金の特別受益性の肯否に関する考え方として︑①全面的に特別受益財産となる︑②原則として特別受

益財産となるが︑例外的に特別受益財産とならない︑③原則として特別受益財産とならないが︑例外的に特別受益財

産となる︑④全面的に特別受益財産とならない︑

ることは明らかだが︑肯定例はすべて①︑否定例はすべて④︑とは断定できない︒判旨がそこまで明確に述べていな いからである︶︒私は︑このうち③が妥当ではないかと思う︒死亡退職金は︑本来︑遺族の一人である受給権者その 人の生活保障のために提供されるものであり︑その生活保障的機能を高く評価しなければならない︒このことは︑死 亡退職金が仮に被相続人の給与の一部からの積立てによるものであり︵まった<被相続人の拠出金によらないケース

退

0 1

( I )

死亡退職金について

五八五

の四通りがあろう︵裁判例中︑原則肯定例が分類中の②の立場であ

︵以下︑肯定例とよぶ︶︑四例が否定する︵以下︑否

本稿で述べようとする点をあらかじめまとめれば︑以下のようになろう︒

(9)

もある︶︑また被相続人が生前に退職しておれば︑それは未払賃金等の受領ということで結果的には遺産となること

から︑死亡後の退職であっても遺産性が強いといえるのではないかという点に配慮したとしても︑なお無視しえない

面である︒この点は︑死亡退職金と同様に特別受益性が問題となる生命保険金の場合には︑それが近年における預金

的性格︑あるいは相続税対策的な性格への変貌を遂げていることから︑その生活保障的機能を喪失しつつあるといえ

ようが︑死亡退職金については︑それは維持されているものといわなければならない︒そして︑とりわけ︑生命保険

金では︑被相続人の意思による保険者

(1

1保険会社︶との間の契約締結や契約に基づく受取人の指定等がなされるの

に比して︑死亡退職金では︑被相続人の意思が介入する余地がほとんどないことが強調されるべきであろう︒また生

命保険金の場合には原則として持戻しさせたとしても︑相続人間の利害得失のバランスをとるために持戻し額にいわ

ば操作が可能であるが︑死亡退職金の場合には︑退職金全額が持戻し対象財産となることから︑オール・オア・ナッ

シングであり操作の可能性が残されていない︒ここにも︑例外として持戻しさせるべきだとの理由の︱つがある︒

しかし︑死亡退職金を特定者に取得させることが共同相続人間の衡平をひどく損なう場合には︑法の下の平等

といういわば公序良俗的な観点から︑死亡退職金を特別受益財産扱いし︑これを遺産総額に持戻しさせるべきである︒

とりわけ︑受給権者以外に共同相続人が存在している場合には︑これらの共同相続人もまた遺族であるケースがほと

んどであることを考慮する必要がある︒本来︑死亡退職金の受給権者は遺族その者であり︑たまたま遺族のうちの特

定者が受給権代表者となっているのであって︑その受給権者自身を含めた遺族全体の生活保障に奉仕すべきであると

いう場合があろう︒もっとも︑遺族である受給権者が他の共同相続人の単なる代表者でないことはいうまでもないが︑

しかし遺族のうちのその特定者のみに帰属させるべきだという筋合いのものでもあるまい︒そして︑持戻しさせる場 関法五八六

(10)

退

0

(1)最高裁判所事務総局『改訂家事執務資料集中巻の三(乙類九号の二•

¥0

であると解したい︒

遺族給付は︑死亡退職金と同時に給付されることが多いが︑死亡退職金よりもより一層︑生活保障的な役割を

担っているといえよう︒さらに大きな点は︑遺族給付の受領権者は被相続人にもっとも身近な者であり︑そのために

葬儀等の万端において支出が協むこと︑あるいは精神的慰藉という面から︑受領権者個人への特別法等による給付が

なされている︒遺族給付と死亡退職金との本質的な相違は︑これらの点にあるといえる︒したがって︑否定説が妥当 学説は︑特別受益性を否定する者が多い︒ たらない︒遺族給付の相続財産性を否定した七つの裁判例のうち︑二例がその特別受益性を肯定し︑五例が否定する︒ 相続財産性を肯定した裁判例はない

( I I )  

遺族給付について を評価して︑例外的に死亡退職金の特別受益財産性を認めるべきである︒

退

合の条件として︑①共同相続人の中での受給権者の占める位置︵後妻が受給権者となっていたが︑先妻の子が未成熟

で︑しかも後妻に養育の意思がみられない場合とか︑老年である受給権者を扶養する者が他にいる︑あるいは住居が

確保されているなど︶②死亡退職金以外にめぼしい財産が残されていない︑③受給権者の遺産への寄与の有無など

遣族給付に関する裁判例ならびに学説の扱いは︑死亡退職金の場合よりも否定的傾向が強い︒まず遺族給付の

︵死亡退職金については肯定例が存在する︶︒学説にもこれを肯定する者は見当

(11)

関法

(2

)

高木多喜男﹁死亡退職金・遺族給付﹂﹃遺産分割・遺言

2 1 5

題﹄判夕六八八号︵平元︶七九頁では︑遺族給付という文言を

用いて︑これに遺族年金と特別弔慰金を含めている︒

( 3 )

遺贈については︑遺贈行為の中に遺言者の持戻し免除の黙示の意思表示があるものと解することにより︑解釈論の枠内で︑

民法九0三条が持戻しを原則として同じ扱いをしている遺贈と一︳一種の贈与を︑異なって扱うことができると思う︒つまり︑

遺贈は原則として持戻しが免除されており︑持戻し要求の意思表示がなされたときにはじめて持戻しに服する︒これに対し

て︑贈与は原則として持戻しに服し︑持戻し免除の意思表示がなされたときに持戻しを免れることとなる︵千藤洋三﹁民法

0三条でいう意思の表示について﹂関大法学論集三八巻ニ・三号︵昭六三︶︱‑九五頁以下参照︶︒

(4

)

本テーマに関する主だった論稿を以下に挙げる︒ただし︑死亡退職金ならびに遺族給付の特別受益性に関する問題は︑一

般的には︑まず相続財産性が論ぜられ︑その後で検討されていることから︑以下で紹介された論稿には︑相続財産性に比重

を置いて論じたものをも含めている︒なお︑判例評釈や解説の類は︑各裁判例の紹介の場で指摘する︒

青木宗也﹁退職金﹂﹃石井"有泉編・労働法大系>﹄︵有斐閣︑昭三八︶一四七頁︑浅見公子﹁

2 7

死亡退職金﹂﹃島津他

編・新版相続法の基礎﹄︵青林書院新社︑昭五六︶九0頁︑有地亨﹁死亡退職金受給権と相続財産への帰属﹂判夕四七二号

1 0 0

講﹄︵学陽書房︑昭六一︶一七九頁︑遠藤

浩﹁相続財産の範囲﹂﹃家族法大系

V I 相続

( I )

﹄︵有斐閣︑昭三五︶一七四頁︑糟谷忠男﹁死亡退職金﹂﹃小山他編・遺産分

0頁︑近藤壽夫﹁死亡退職金﹂﹃岡垣"野田編・講座実務家事審判法3相続関

係﹄︵日本評論社︑平元︶一五一頁︑﹃埼玉弁護士会編・遺留分の法律と実務﹄︵ぎょうせい︑平三︶八二頁︑千藤洋三﹁死

退

La sw

ch

oo

l

四四号︵昭五七︶五八頁︵後に︑﹃中川編・財産法と家族法の交錯﹄︵立花書房︑昭五九︶ニ

六一頁に収載︶︑高木多喜男﹁死亡退職金・遺族給付﹂﹃遺産分割・遺言

2 1 5

題﹄︵判例タイムズ社︑平元︶七九頁︑高木多喜男「相続の平等と持戻制度ー~生命保険金と死亡退職金の場合ーーー」『加藤古稀記念・現代社会と民法学の動向下』(有斐閣、

平四︶四三一︳︳頁︑田坂友男﹁退職金は相続財産に加算さるべきであるか﹂民商四四巻四号︵昭三六︶一八一頁︑西原道雄

﹁遺族給付の法的性格﹂﹃我妻還暦記念・損害賠償責任の研究︵上︶﹄︵有斐閣︑昭三二︶三九八頁︑山口浩一郎﹁死亡退職

金の受給権者﹂﹃労働基準実例百選︵第三版︶﹄︵有斐閣︑昭六一︶五一頁︑山本満保

1 1高柳正信"笹竹英穂﹁遺産分割事件

(12)

における生前贈与︵特別受益︶の調査について﹂家裁月報四三巻五号︵平三︶五三頁︑宗方武﹁生命保険金・死亡退職金と

遺産分割﹂﹃家族法の理論と実務︵別冊判夕八号︶﹄︵昭五五︶三二六頁︒

口体系書・注釈書の類

1 1

0)

一 八

0頁︑﹃最高裁判所事務総局編・改訂家事執務資料

集中巻の三︵乙類九号の二

1

0号︶﹄︵平元︶六九八頁︑鈴木禄弥﹃相続法講義﹄︵創文社︑昭六一︶四三頁︑高木多喜男

﹃口述相続法﹄︵成文堂︑昭六三︶八二頁︑田中恒朗﹃島津"久貴編・新判例コンメンタール民法

1 4

相続︹1

平四︶二五四頁︑﹃高木編・条解民法

w

4

法・相続法﹄︵青林書院︑平四︶六一八頁︑中川淳﹃相続法逐条解説︵上巻︶﹄︵日本加除出版社︑昭六

0)

二三一頁︑中川

0 頁︑沼邊愛一﹃島津編・基本法コンメンタール[第三版]相0

続﹄︵日本評論社︑平元︶五八頁︑三島宗彦"右近健男﹃谷口

1 1久貴編・新版注釈民法⑳相続②﹄︵有斐閣︑平元︶九0

頁 ︒

(5

)

00

(6)山本満保11高柳正信"笹竹英穂•前掲五三頁以下。

(7

)

高木・前掲﹁相続の平等と持戻制度﹂四三三頁以下︒

( 8 )

千藤・前掲﹁死亡退職金と相続﹂五八頁以下︒(9)千藤「生命保険金請求権の民法九01―一条の特別受益性について」関大法学論集四二巻三•四号(平四)==二頁以下。

退 本章を二節に分け︑まず第一節で︑死亡退職金の相続財産性に関する学説︑ならびに相続財産性の肯否を判断し た裁判例を簡潔に紹介しておく︒死亡退職金が相続財産であると解された場合には︑共同相続人間の遺産分割の対象 財産となる︒これと異なり︑死亡退職金が受給権者の固有財産と解された場合は︑すでに述べたように︑さらに二つ

死亡退職金・遺族給付の民法九

0 1

(13)

公務員や私企業の従業員等が在職中に死亡した場合に支給されるいわゆる死亡退職金は︑相続財産に含まれるか︑

(1 ) 

あるいは受給権者の固有財産となるかが︑まず問題となる︒死亡退職金は︑

る報酬︑すなわち未払い賃金の後払いであるから︑相続財産と解すべきであり︑受給権者の指定は単に受取代表者を

(2 ) 

定めたものに過ぎない︑との有力な見解がある︒しかし︑逆に死亡退職金が相続財産に含まれると解すれば︑相続人

間の衡平︵それは形式的平等に過ぎないこともある︶には役立つが︑受給権者である特定の遺族の生活保障に欠ける

ことから実質的平等を破壊し︑また相続法上の難問の︱つである﹁損害賠償請求権の相続﹂と同様に︑死亡退職者本 I

第四三巻第一・ニ合併号

︱つは︑共同相続人間の衡平という観点から︑その特別受益性が肯定され︑死亡退職金を遺産

総額に持戻すという扱いである︒他の︱つは︑特別受益性が否定され︑死亡退職金は全面的に受給権者のものとする

扱いである︒死亡退職金を受領しながら︑さらに相続財産に他の共同相続人と同じ立場でかかっていけるという点で︑

受給権者にとっては︑後者の扱いがもっとも有利であるが︑他の共同相続人には不利ということになる︒

第二節では︑死亡退職金の特別受益性の有無︑ならびにその持戻し額について学説・裁判例を紹介し検討を加え

ることにしたい︒もっとも︑裁判例の中には︑死亡退職金を遺族固有の権利と判断しながら︑その特別受益性の有無

に触れていないものがみられる︵そうしたケースでは︑特別受益性が問題とならなかったことから︑ほぼ否定されて

いるといえるであろう︶︒本稿では︑こうした裁判例は︑第二節の中で②否定例として紹介しておく︒

死亡退職金の相続財産性の肯否 関法

一般的には被相続人の生前の労務に対す

0)

(14)

人に請求権が発生すると解しなければこの説は成り立たないことから︑こうした相続財産説は理論上の解決困難な問

題に直面する︒さらにより重要なことは︑死亡退職金の受給権者は︑国家公務員退職手当法︵昭二八︶や国家公務員

等共済組合法︵昭三一︱‑︶などの法令︑労働協約もしくは就業規則等で指定され︑それは民法が規定する相続人の範囲 および順位と異なることが多く︑このことを無視した形での解釈が許されるかといった問題がでてこよう︒とりわけ︑

内縁夫の死亡退職金の内縁妻への帰属については︑死亡退職金が相続財産に含まれると解することの余地が出てこな

(3 ) 

い︒こうした批判状況のなかで︑近時︑最高裁は︑相次いで︑公務員と民間とで︑あるいは民間の中でも退職金規定

の有無等で異なる面があることから一律に処理できないものの︑受給権者の生活保障を主たる根拠に︑受給権者が固

︵後述参照︶︒判例としては確立したといえよう︒学説は︑

以上のように︑現在の判例ならびに通説によれば︑受給権者が法令や規則等により定まっている場合には︑死亡

退職金請求権はこの者の固有の権利となると解される︒定まっていない場合には︑法定相続人が固有の資格として死

亡退職金を取得し︑その取得割合は法定相続分割合によるとの説と︑受取人である被相続人の地位を相続人が承継す

るのであって︑死亡退職金を相続財産と解するとの説がある︵もっとも︑この相続財産説を唱えた中川"泉教授は︑

(6 ) 

その後︑意見を変更されたようでもある︶︒思うに︑民法が定めた相続人の範囲や順位においても︑死亡退職者の遺

族の生活保障等が考慮されているとはいうものの︑内縁配偶者に相続権がないこと︑成年となり十分な生活能力を取

得しうることになった相続人である子どもにも相続権が付与されていること︑たとえ相続財産が少額であっても共同

相続人にいわぱ同等割合で分割されることにより特定者の生活保障に欠けることなどから︑筆者も判例・通説と同様

退

0

有の資格で死亡退職金を取得すると判示した

(4 ) 

(15)

2

は相続人全員を受給権者と推認したものである︒事案は︑共同相続人として妻・長女・ニ女がおり︑二女と四

0 0

円の死亡退職金を受領した妻との争いであった︒本件では︑今回の紛争前に当事者間で死亡退職金を含めた遺産分割

協議がなされていたことから︑裁判所はすでになされていた一部分割を有効と解し︑この度の遺産分割では死亡退職

金を遺産の範囲に加えて︑各当事者の法定相続分の過不足分を算出したものである︒本事例は︑

なわれており︑そこでは共同相続人の一人が死亡退職金を受領することを認めていたという特殊事情を考慮する必要

人の姉︵申立人︶︑同弟︵相手方︶︑同甥︵相手方︶︑同姪︵相手方︶ 1

に︑受給権者が死亡退職金を自己固有の財産権として取得しうることを認めるのが妥当と思う︒

以下では︑相続財産性を肯定した裁判例を︑ついで否定した裁判例を概観する︒否定裁判例については︑

別受益性の有無が問題となりうるので︑本稿のメインテーマとして︑特別受益性の有無に関する判断にまで踏み込ん

だ裁判例を次節で詳しく紹介し検討していくことにしたい︒したがって︑ここで概観する否定例とは︑特別受益性の

東京家審昭四七・一―•一五

神戸家尼崎支審昭四七・︱ニ・ニ八︵家月二五巻八号六五頁︶ 肯定例 判断がないものである︒ I I

︵家月二五巻九号一〇七頁︶は︑死亡退職金の支給規定がないケースで︑裁判所

の事案は︑被相続人の妻︵相手方︶と︑被相続

の五名が共同相続人となっており︑主として妻

一部分割が以前に行

つぎに特

(16)

4 3

と姉とが遺産分割の交渉を行なったが不調に終わった︒被相続人は機械輸入会社経営者で財産を有しており︑申立人

の子が被相続人により学資等を受けたこと︑甥・姪の父も学資を受けていたこと︑なども争われたが︑とりわけ︑株

主総会で受取人を指定していなかった死亡退職金の扱いが問題となった︒判旨は︑﹁取締役の退職慰労金は︑在職中

における職務執行の対価として︑或は在職中の功労に対する対価として支給されるものであるが︑その死亡時に支給

される場合に株主総会において受取人を定めなかったときは相続財産となるものと解するのが相当である﹂というも

のであった︒受取人に関する規定がないという点で︑︹1︺と同様の範疇に入るものといえよう︒

青森家八戸支審昭三八•三・ニ八(家月一五巻七号一――二頁)

の二人であった︒国家公務員であった被相続人の死亡により支給された死亡退職金の遺産分割を申立人が求め

た点について︑裁判所は︑﹁国家公務貝等退職手当法第二条第一項第一一条に基き配偶者を第一順位者として支給さ

れるべきことが法定されておる︒したがつて︑右退職金二二万八0円は相手方が自己の固有の権利として受領すべき

ものであって︑被相続人の遺産には含まれないこと明らかである︒﹂と判示した︒裁判所の態度は︑条文の文理解釈

そのもので︑十分な説得力を有しているとはいえない︒なお︑学説には︑本事例を特別受益の持戻しを否定したケー

(7 ) 

スと捉えているものがみられるが︑特別受益性の肯否の判断はなされていない︒

東京高判昭四0•一・ニ七(下民集一六巻一号一0五頁)

退

0

の事案は︑共同相続人は妻︵相手方︶と父︵申

の事案は︑先妻との間の子︵控訴人︶と︑夫の死亡

退職金約ニニ九万円を受領した後妻︵被控訴人︶との争いであった︒控訴人は︑死亡退職金は職員の死亡を不確定期

限とする賃金の後払いの性質を有するから︑当然に相続財産に含まれると主張した︒これに対して︑裁判所は︑退職

五 九 ︱ ︱

︵ 五 九 ︱

︱ ‑

(17)

5 第四三巻第一・ニ合併号

金は﹁場合によっては贈与︑賃金の後払等の性質を持ち得ないではないが︑何らこれらの点について定めのないとき

は︑賃金の後払の性質をもつものではなく︑むしろ企業者の労働者に対する保障義務に由来し退職後の労働者の相当

期間の生活保障の性質をもつというべきである︒﹂と述べ︑また職員退職給与金支給﹁規則第六条にいう﹃遺族﹄と

0

0の配偶者及び同人と民法上扶養義務関係に在つて同人と生活を共にし且つその収入によって生活していた子︑

父母︑孫︑祖父母等を指称﹂すると判示して︑被相続人と生計を異にしていた控訴人は遺族とは認めがたいとして︑

控訴を棄却した︒死亡退職金の法的性質を生活保障的なものとし︑また遺族の範囲を明確にした点で評価できる判決

(8 ) 

福岡家審昭四一・九・ニ九︵家月一九巻四号一〇七頁︶の事案は︑被相続人Aは昭和四0年にひき逃げによる

交通事故で死亡したが、相続人は、妻Yl•長女Y•長男Ya.二女Yと非嫡出子Xの五人であった。遺産としては事故

死による政府に対する補償金請求権以外にみるべきものがない︒そこで

が共済組合から受領した死亡退職金と︑受Y I

取人に指定された者が郵便局︑日本生命︑住友生命各相互会社から受けた生命保険金が遺産に含まれるか否かが問題

となった︒判旨は︑﹁被相続人死亡により相手方

は国家公務員共済組合から死亡退職金を受領しているが︑右退職Y I

金債権は同組合法に基づき第一順位者として配偶者たる同人に与えられるものであるから遺産の対象とならない﹂と

いう︒本裁判例は︑国家公務員死亡退職金が遺産の対象にならないと判示しているだけで︑その特別受益性について

は判断を加えていない︵同じく︑生命保険金も遺産でないと解したが︑死亡退職金の場合と同様にその特別受益性の

(9 ) 

判断はない︶︒にも拘らず︑特別受益の持戻しを否定した事例と捉えている学説がみられる︒遺産性が否定されれば

次に︑当然にその特別受益性が問題となりうるはずであるが︑審判はこの点に触れていない︒当事者がこの点につい

(18)

7

て争わなかったのであろうか︒それにしても︑遺産性を否定する理由が︑国家公務員共済組合法により死亡退職金が 配偶者に与えられているからというのでは︑説得力不足の感じがする︵生命保険金の遺産性否定理由についても︑保

険契約に受取人が指定されているというだけである︶︒

大阪高判昭五四・九・ニ八

0

は︑次の︹7︺最判の原審判断であった︒事案は︑

日本貿易振興会の従業員が法定相続人を残さず死亡したので︑相続財産法人が組織され︑この法人︵原告︶が振典会

︵被告︶に対して死亡退職金が相続財産に含まれるからという理由で支払請求を行なったものである︒第一審は︑被 告の職員は公務に従事する職員とみなされ︑この職員に対する退職手当等の支給基準が定められているときは通商産 業大臣の監督を受けるものの︑被告が定めた規程により支給されることが認められるから︑死亡退職金は相続財産を

構成すると判示して︑原告勝訴の判決を下した︒これに対して︑︹6︺大阪高裁は︑死亡退職金︵および弔慰金︶は︑

受給権者である遺族の固有の権利であると判示した︒その判決理由は︑死亡退職金の法的性質は︑相続財産に属する か受給権者の固有権利かは一律に決することができず︑当該企業の労働協約︑就業規則あるいは規程の内容から考え るべきであるとして︑遺族の範囲・順位等を明規した本件﹁規程の中心的機能は遺族自体の扶養にあって遺族が右規 程に基づき直接死亡退職金を受給できるとみられるので︑本件規程による死亡退職金は相続財産に属せず﹂というも のであった︵弔慰金については︑受給権者を特に定めていないが︑額から葬式費用ないし遺族に対する金銭をもって

する慰藉のための贈与と解すると判示︶︒

( 10 )  

最判昭五五・一︱・ニ七︵民集三四巻六号八一五頁︑家月︳︱‑三巻三号三一頁︑判夕四三四号一六九頁︶も︑振

興会の定める規定上の受給権者の範囲・順位は︑民法の規定する相続人の順位決定の原則と異なる定め方がされてい 6

退

0

(19)

9

るから︑このような死亡退職金の受給権は︑相続財産に属さず︑受給権者である遺族固有の権利であるとした︒この

最高裁判決は︑この問題に関するはじめての最高裁判断であり︑学界でも広く取り上げられたところである︒第一審

の判決理由がやや意味不明であり︑二審・三審は︑いずれも妥当な解決といえよう︒

( 11 )  

最判昭五八

・ 1

O ・  

︱四︵判時一ーニ四号一八六頁︑判夕五三二号一︱︱︱︱頁︶の事案は︑県立高校教諭であっ

た地方公務員Aが死亡退職金をAの母および兄姉に遺贈していたため︑Aの死亡時にすでに別居中の妻との間で争い

となったものである︒原告は遺言執行者︑被告は県で︑死亡退職金の支払請求事件であるが︑被告は︑死亡退職金は

条例に基づき妻に支給すべきもので︑亡Aの相続財産に属さないからとの理由で︑支給を拒否した︒

妻に固有に帰属すると判示︒最高裁判所も︑死亡退職金の受給権は遺族固有の権利であり︑当該職員の遺贈の対象に

はならないと解した︒支給に関する規定が︑専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし︑民法とは別

の立場で受給権者を定めたものとの点を根拠とするものであった︒こうした判断で妥当といえるが︑ただ︑本件事案

に限っていえば︑別居中という事態に︑つまり︑どういう理由で︑またどれほどの期間なのか等にもう少し配慮する

必要があったのではあるまいか︒

( 1 2 )  

最判昭六O·1•三一(家月三七巻八号三九頁、労働経済判例速報―二三八号三頁) 8

の事案は︑被相続人は私

立大学に教授として勤務中に死亡したが︑死亡退職金の支給等を定めた学校法人の規程は︑死亡退職金について︑単

に﹁遺族にこれを支給する﹂とのみ定めていたため︑約四四八万円の死亡退職金をめぐり︑唯一の法定相続人である

養子︵被上告人︶と内縁の妻︵上告人︶とで争いとなった︒原審の福岡高裁は︑死亡退職金は死亡者の生存中の勤続

に対して支給されるものであって︑死亡者の相続財産またはこれに準ずる性質を有するものと解せられる︑と判示し

(20)

九号三頁︑金法︱一五八号三0

頁 ︶

が︑理事会の決議により配偶者︵被上告人︶

A

の相続財産として相続人の代表者としての被上告人に支給されたものではなく︑相続という関係を離れて

A

の配偶者であった被上告人個人に対して支給されたものである﹂というものであった︒判旨は正当であろう︒

相続人の実母である相続人ではなく内縁の妻としたが︑共済掛金還付金と埋葬金の受給権者については相続人である と判示した下級審裁判例である︒なお︑内縁の妻にではなく︑

はっきりと拒否してきた戸籍上の妻に︑死亡退職金の受給権があるとした判例がある 民集二九巻一号六五頁︶︒ただし︑この判決は︑その後の最高裁判決とマッチせず︑すでに変更されたとの学説があ

( 14 )

る ︒   1 1

1 0

一五年にわたって別居しているものの離婚の申出を

た︒これに対して︑最高裁は︑当該大学が被相続人の死亡後に改正した﹁右規程の定めは︑専ら職員の収入に依拠し ていた遺族の生活保障を目的とし︑民法とは別の立場で受給権者を定めたもので︑受給権者たる遺族は︑相続人とし てではなく︑右規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当である﹂と述べ︑

また改正前の規程六条も同趣旨であると判示した︒本事案は退職金支給規定があるケースであり︑その解釈をめぐっ

て争われたものである︒

( 13 )  

最判昭六ニ・三・三︵家月三九巻一0号六一頁︑判時︱二三二号一0三頁︑判夕六三八号ニ︱

1 0

頁︑金商七六

の事案は︑被相続人A

が勤務していた財団法人に死亡退職金支給規定はなかった に支給されたケースであった︒二人の子がこれを不満として訴訟を提起 一審は子の側の勝訴︑二審は敗訴︒上告審では子の側が敗訴ということになった︒判旨は︑﹁死亡退職

大阪地判平三・八・二九

は︑国家公務員の死亡に伴う退職手当金の受給権者を被

退

0

参照

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