捜索差押に対する相当性による規律
著者 ?田 毅
雑誌名 同志社法學
巻 69
号 7
ページ 3003‑3091
発行年 2018‑02‑28
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000315
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九七五三〇〇三捜 索 差 押 に 対 す る 相 当 性 に よ る 規 律
濵 田 毅
一 はじめに︱︱比例原則(相当性)の意義とこれに対する警戒二 差押における相当性︱︱昭和四四年判例の法理三 裁判例における﹁被疑事実との関連性﹂判断の分析・検討四 平成一〇年判例の検討五 おわりに︱︱﹁相当性﹂による規律に当たっての留意点
一 はじめに――比例原則(相当性)の意義とこれに対する警戒 捜査を適正妥当ならしめるため、直接これを規律する法原理として、現行法上重要なのは、強制処分法定主義 )1
(、令状主義 )2
(及び比例原則の三つを挙げることができる。
( )同志社法学 六九巻七号
九七六捜索差押に対する相当性による規律三〇〇四これらのうち比例原則とは、比例権衡原則とも呼ばれ、論者により異なる定義が付与されることもあろうが、ここでは、当該措置が正当な法の目的達成に適合的であって(目的適合性)、同目的達成のための手段として必要最小限度のものでなければならず(手段の必要最小限度性)、かつ、その必要性が被侵害法益と合理的均衡を保っていなければならない(均衡性)との三つの内容からなる原則と捉えることとする )3
(。
同原則の適用に当たり、必要性にかかわる事情とその対立事情である法益侵害等との比較衡量判断が行われることから、比例原則は、﹁利益衡量論﹂の一種であり、他方で、手段の必要最小限度性が﹁手段の相当性﹂、必要性と被侵害法益とが合理的均衡を失していないことが﹁具体的状況の下で相当﹂と表現されることから、同原則による規律を﹁相当性による規律﹂とも言い得る。
比例原則は、その内容からして、公権力の発動である捜査権行使を抑制的に規律する機能を間違いなく有しているが、刑訴法学説上、強制処分法定主義や令状主義ほどには重視されていないように思われる。
それには、いくつかの理由があると思われる。 まず、一点目は、実定法規との関係である。強制処分法定主義と令状主義については、それぞれ、刑訴法に、両原則の現れとして、各種強制処分の根拠規定及び令状主義の要件を定める規定(逮捕につき一九九条以下、勾留につき二〇七条一項・六二条、捜索差押・検証等につき二一八条以下)など個別的な規定が置かれているだけでなく、刑訴法・憲法に明確に一般的な根拠規定まで置かれている(強制処分法定主義︹刑訴法一九七条一項但書き︺、令状主義︹憲法三三条、三五条︺)。これに対し、比例原則にあっては、憲法及び刑訴法上、その根拠や内容を定める明文規定は置かれていない。
また、二点目として、規律の対象や他の原則との結びつきを挙げ得る。刑訴法が目指す重要な目的である﹁個人の基
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九七七三〇〇五 本的人権の保障﹂(法一条)の観点からすれば、まずもって対象者(国民個人)の重要な権利利益の侵害形態である強制処分を適正妥当ならしめることこそが第一の目標であるところ、その目標実現のため、立法による規律(強制処分法定主義)及び司法による抑制(令状主義)が他の憲法上の理念(国民主権、三権分立)からも正当化されるばかりでなく、最も実効的な手段であることは明白である。さらに、立法による強制処分の規律において、原則として令状主義の統制に置くという手法が採用されており、両原則は深く結びついている。ところが、比例原則は、従前は、もっぱら任意捜査を規律するものであると理解され、したがってまた、他の二つの原則との協働につき深く考察されることはあまりなかったように思われる。さらに、三点目として、他の二つの原則が、当該処分の実施前における規律(事前抑制)を主たる規制形態としているのに対し、比例原則にあっては、その原則の遵守を、当該処分実施における具体的状況の下で、捜査官の判断に委ねざるを得ず、あくまでその適法性に関する司法審査は刑事訴訟・国賠訴訟における事後的なものにとどまることが指摘できよう。
しかしながら、根拠となる明文の実定規定を欠くことが、必ずしも概念・原則としての重要性を否定するものではないし )4
(、学説は、刑訴法の捜査に関する各種規定(法一九七条一項本文、二一八条一項第一文、二二二条一項・一一一条一項等)における﹁必要﹂との文言に比例原則を読み込むとの解釈を行うのみならず )5
(、同原則が憲法一三条あるいは三一条に内在する原理であるなどと、憲法に淵源をもつ法原理であるとの解釈論まで展開している )6
(。
次に、二点目についても、既に、長井教授が的確に指摘されているとおり、比例原則は、任意捜査のみならず強制捜査を含めた捜査一般を規律する原則として捉えられるべきである )7
(。また、比例原則は、他の二つの原則と決して無関係なのではなく、後記のとおり、令状主義とは一定の補完協働関係にあり、また、強制処分法定主義との関係についても、
( )同志社法学 六九巻七号
九七八捜索差押に対する相当性による規律三〇〇六例えば、一定の重大犯罪のみ緊急逮捕が認められ(法二一〇条)、一定の軽微な犯罪については現行犯逮捕の要件が加重されているなど(法二一七条)、強制処分の根拠規定それ自体が捜査の必要性と対象者の権利侵害との利益衡量の調和点として定められている。
問題は、三点目の指摘である。比例原則は、その適用に当たっては、捜査側の事情とその対立利益等の諸般事情との衡量判断を本質する。このような衡量判断を事前に適法要件として条文に規定することは立法技術上困難と言わざるを得ず )8
(、したがってまた、同原則は、裁判官の審査に対し明確な基準を提供するものではない。衡量判断が捜査現場における具体的状況の下で行われるということは、司法による事後的審査においても捜査官の裁量を相当程度認めざるを得ず、当然のことながら、比例原則により捜査官の裁量の範囲内として許容された捜査活動は、対象者の権利侵害を伴うものであっても適法とされ、当該侵害は正当化されることになる。
そこで、例えば、もし、ある捜査活動につき、比例原則による規律を課す解釈を行ったとしても、併せて﹁強制処分﹂概念を縮減させる解釈も伴うならば、結論的には、厳格な強制処分法定主義による規律から逃れて、具体的利益衡量判断の領域に移行して比例原則の下で任意処分として適法とされる余地が増えることとなる )9
(。いわば、強制処分法定主義によって厳格に規律されるべき範囲が比例原則により浸食されているかのようである。
このように、比例原則の﹁活動﹂領域を拡大する解釈論を展開することは、捜査を規律するというより、むしろこれを正当化する口実として用いられかねないとして警戒されることになる。
しかしながら、本稿で取り上げる捜索差押の実施場面など、現実に、判例法理において比例原則が採用され捜査実務に大きな影響を与えていることは否定できない以上、同原則による規律の射程範囲を明らかにすることの意義は決して少なくないと思われる。特に、オウム真理教越谷アジト捜索事件・最二小決平成一〇年五月一日刑集五二巻四号二七五
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九七九三〇〇七 頁(以下﹁平成一〇年判例﹂ともいう。)は、電磁的記録媒体の包括的差押の適否が問題となった最高裁判例であって、その判示するところは、既に、捜査実務に対する重要な指針となっているが、その理論的根拠をめぐって見解が対立しており、未だ判例理論が十分に定まっていないところ、同判例についても、令状主義の面ばかりでなく比例原則の面から分析すれば、既に確立している差押に関する一般法理と整合的で、より簡明な説明が可能ではないか、これが本稿の主たる問題意識である。(
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2
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) 長井・前掲注(( 有訟法﹂三四頁(斐事閣、二〇一五年)。訴
3
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3
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) 長井・前掲注(3
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3
)一八頁以下参照。8
裁ば、平成二八年法改正後の量例保釈に関する法九〇条参照え() 慮そこで、要件ではなく、考事る情として定められることもあ)。( )同志社法学 六九巻七号
九八〇捜索差押に対する相当性による規律三〇〇八(
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1 昭 和 四 四 年 判 例 に よ る 「 差 押 の 必 要 性 ( 相 当 性 )」 の 法 理
⑴ 令 状 主 義 と 「 被 疑 事 実 と の 関 連 性 」
捜査機関による捜索差押許可状に基づく捜索差押が適法であったと認めるためには、憲法三五条が定める令状主義の要請から、次のとおりの要件の充足が求められる。すなわち 第一に、裁判官において、憲法三五条にいう﹁正当な理由﹂、すなわち被処分者をして当該捜索差押を受忍させることを正当化し得る事由が存在することを、特定の﹁罪名及び犯罪事実﹂﹁差し押さえるべき物(以下﹁差押目的物﹂ともいう。)﹂﹁捜索すべき場所、身体又は物(以下﹁捜索場所等﹂ともいう。)﹂等(これらは令状請求書に記載される︹規則一五五条一項︺。)を指標に審査したこと
第二に、この審査により﹁正当な理由﹂があると認めた裁判官において、捜索場所等、差押目的物を明示・特定した適式の令状を発付したこと(憲法三五条一項、二項並びに法二一八条一項及び二一九条一項)
第三に、捜査機関において、当該令状により明示・特定された範囲内で実施したこと、すなわち令状記載の捜索
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九八一三〇〇九 場所等に限りこれを捜索し、令状記載の差押目的物のみを差し押さえたことである )₁₀(。
差押目的物は、捜索差押許可状請求の基礎となった特定の﹁被疑事実との関連性﹂を有する物でなければならない。 書﹂さ求要が載記の旨て要の実事罪犯﹁にれい求一かほの)号四項条る五五一則規(とこ ₁₁) ﹁で押こるなと件要の物的目差はが﹂性連関のと実事疑と、はいない被、令状請けわるて刑れさ定規接直、上法訴が
(、差押目的物が、法文上、﹁証拠物・・と思料するもの﹂(法二二二条一項、九九条一項)とされており、﹁証拠物﹂概念そのものが﹁被疑事実との関連性﹂を内包していること(﹁被疑事実との関連性﹂を持たないのであればそれは刑訴法上﹁証拠﹂とはいえない。)などから )₁₂
(、刑訴法令の文理解釈によっても導かれるものである。
そもそも、差押対象が﹁被疑事実との関連性﹂を有する物であるからこそ、その差押が当該事件(被疑事実)の捜査のため必要であって、被処分者をしてこれを受忍させてもやむを得ないと言い得る。その意味で、﹁被疑事実との関連性﹂の存在は、憲法三五条の﹁正当な理由﹂の一内容を構成し、令状主義による捜索差押に対する規律の一翼を担う重要概念といえよう。
⑵ 昭 和 四 四 年 判 例 に よ る 「 相 当 性 」 に よ る 規 律
しかし、仮に適式の令状が発付され、捜査機関が、その実施において、差し押さえようとする物が、令状記載物件に類型的に該当し、かつ﹁被疑事実との関連性﹂があると認めて(どのような場合に﹁認めた﹂ことになるかは後述する。)、先に述べた令状主義から直接導かれる各要件を充足したとしても、それだけでは不十分である。最終的に当該差押が適法であったと評価するには、さらに﹁相当性﹂の要件をも充たす必要があるからである。( )同志社法学 六九巻七号
九八二捜索差押に対する相当性による規律三〇一〇かかる法理を明示的に述べ、以後の実務に大きな影響を及ぼしたのが、国学院大学映研フィルム事件・最三小決昭和四四年三月一八日刑集二三巻三号一五三頁(以下﹁昭和四四年判例﹂ともいう。)である。
昭和四四年判例は、被疑者Aに対する騒擾等被疑事件の捜査のため、司法警察員が捜索差押許可状に基づき、国学院大学施設内の映画研究室を捜索し、ビラ、フィルム、録音テープ等を差し押さえたところ、同映画研究会代表者Bが準抗告を申し立て、準抗告審(原審)である東京地裁が同申立の一部を認容し前記差押処分の一部を取り消したことに対し、検察官等が、差押の実質的必要性の判断は捜査の主体たる捜査官の裁量に属し裁判官に審査判断権がないことは三権分立を基本原理とする憲法の立場から明らかである、などと主張して特別抗告を申し立てたものである。
本決定は、かかる特別抗告を棄却するに当たり、準抗告審たる裁判所に差押の必要性の有無についての審査権があることを認めたものとして名高いが、さらに重要なのは、同決定が示したその必要性の審査基準である。同決定は、前記審査権の判示に引き続き、﹁そして、差押は﹃証拠物または没収すべき物と思料するもの﹄について行なわれることは、刑訴法二二二条一項により準用される同法九九条一項に規定するところであり、差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである場合においては、差押の必要性が認められることが多いであろう。しかし、差押物が右のようなものである場合であつても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によつて受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない﹂(傍線筆者)として、裁判所が差押の必要性を審査する際の基準を明らかにした。
るのの物押差﹂﹁重軽・様態罪滅犯、﹁かほの。)る得え換隠毀言必げ挙を情事る係に性要の損査捜のどな﹂れそおのい ﹁差事証の物押差、﹁てしと情慮と考の断判﹂性要必の押拠しと事度程の﹂性連関のと実疑て被﹁﹂(性要重・値価のも
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九八三三〇一一 一方、﹁被差押者の不利益の程度﹂という被処分者側からみた差押による弊害という事情も指摘しており、結局、﹁差押の必要性﹂の判断は、狭義の﹁差押の必要性﹂(捜査機関側からみた証拠としての確保の必要性)とその対立要素である﹁差押の弊害﹂(被処分者の不利益の程度)その他の諸般の事情との比較衡量を経て最終的に決すべきもの、との趣旨と解される。これは、明らかに、差押における相当性(比例原則)の規律を宣言したものである。 同判例は、準抗告審たる裁判所の権限・審査に関して判示したものであるが、当然、その趣旨は、令状裁判官にも等しく妥当するものであると解されている )₁₃
(。また、捜査機関は、令状裁判官からの令状発付を介しての授権範囲を超えて、差押等の権限を行使し得ないことから、前記相当性の規律は、準抗告審査・令状審査のみならず、捜査機関による令状実施段階にも及ぶということになる。
さらに、この昭和四四年判例の判示には、刑訴法・憲法解釈に当たり二つの重要な意義が見出せよう。すなわち、第一に、﹁差押の必要性﹂の条文上の根拠である﹁(犯罪の捜査をするについて)必要があるとき﹂(法二一八条一項)には、字義通りの﹁捜査機関にとっての必要性﹂のみならず、被処分者の不利益などの比較衡量判断を経た﹁相当性﹂をも含み得る、すなわち、法二一八条一項の﹁必要性﹂とは、﹁必要かつ相当﹂を意味する広義の﹁必要性﹂であるということになる。したがって、同条項の﹁必要性﹂は、法一九七条一項本文の﹁必要性﹂とともに、(捜査)比例原則の実定法規上の根拠となる。
第二に、比例原則は、法一九七条一項本文の﹁必要性﹂が適用される任意捜査の場面を典型例として、通常、捜査機関が当該捜査を実施するとの段階でその裁量の幅を規律するものである(法二二二条一項、一一一条一項の﹁必要な処分﹂も同様である。)。しかし、差押の﹁相当性﹂の判断審査権が令状裁判官の権限に含まれるとの解釈を行うことによ
( )同志社法学 六九巻七号
九八四捜索差押に対する相当性による規律三〇一二って、捜査機関の権限行使に対し、現場における行使段階のみならず、その前段階である令状審査の段階でも相当性の観点からも抑止することが可能となる、すなわち捜査機関による濫用的権限行使の事前抑止という令状審査の機能を拡大させているといえよう。このように、﹁相当性﹂が﹁差押の必要性﹂ひいては憲法三五条の﹁正当な理由﹂の一内容となっている )₁₄
(こと、換言すれば、比例原則(相当性)が、憲法の令状主義に取り込まれ、令状主義による規律機能を強化していることに注意を要する。
そして、ここでいう﹁被差押者の不利益﹂とは、単に差押物件についての被処分者の占有喪失等の財産権侵害にとどまるものではない。
周知のとおり、最高裁は、報道機関の取材フィルムの押収の適法性が問題となった一連の判例(博多駅事件・最大決昭和四四年一一月二六日刑集二三巻一一号一四九〇頁、日本テレビ事件・最二小決平成元年一月三〇日刑集四三巻一号一九頁、TBS事件・最二小決平成二年七月九日刑集四四巻五号四二一頁)において、公正な刑事裁判の実現や迅速適正な捜査の遂行という国家機関側の証拠としての取得の必要性に対置する衡量事情として、報道機関の報道の自由・取材の自由を挙げている。
差押の必要性(相当性)が利益衡量の問題であれば、何も、考慮すべき事情は、被疑者又は被処分者の不利益にとどまらない。下級審裁判例においては、被疑者不詳のわいせつ図画公然陳列事件の捜査のため、捜査機関が捜索差押許可状に基づき、インターネット接続会社を捜索し、顧客管理データ(四二八人分)が記録されたフロッピーディスク一枚を差し押さえたことにつき、捜索差押の必要性と並んで﹁(インターネット)利用者のプライバシー保護﹂を十分に考慮する必要があるとして、﹁差押の必要性﹂を否定して当該差押処分を取り消したものがある )₁₅
(。
近時では、被告人・弁護人の﹁防御方法の内容の秘密﹂が指摘されたことが注目される。すなわち、大阪高判平成二
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九八五三〇一三 八年四月二二日判時二三一五号六一頁は、検察官が、捜索差押許可状に基づき、被告人の勾留先の拘置所居室及び書信室等を捜索し(検察官の指揮を受けた検察事務官が実施)、弁護人宛ての手紙等を差し押さえたことにつき、被告人及び弁護人の両者が国家賠償請求した事案において、防御方法の内容の秘密が、憲法三四条に基づく被告人の接見交通権又は防御権及び弁護人の弁護権として保障されている旨指摘し、昭和四四年判例の判示と同旨の判断枠組みにより捜査権の行使との利益衡量を行っている(一部認容の原判断を維持した。)。このように、昭和四四年判例が示した﹁差押の必要性(相当性)﹂の法理は、その後の判例を通じ、捜査側の必要性と対置されるべき被処分者側の事情につき種々のものを取り込みつつ発展してきた。
したがって、捜査機関は、差押を実施する際、﹁令状記載物件との類型的該当性﹂﹁被疑事実との関連性﹂の有無など令状主義からの本来的な要件たる﹁狭義の必要性﹂充足の判断に加え(第一段階)、他の必要性(犯罪の態様・軽重、証拠としての価値・重要性、証拠隠滅のおそれ等)を加味した上、被処分者の不利益などの諸般の事情を比較衡量し、昭和四四年判例の法理(比例原則)からの要件たる﹁広義の必要性(相当性)﹂充足の判断(第二段階)を行わなければならない。
もっとも、このような二段階の判断の仕組みは、昭和四四年判例が判示するとおり、﹁被疑事実との関連性﹂などが肯定され、﹁証拠物・・と思料されるものである場合﹂においては、通常、これを差し押さえる必要性が認められるので、第一段階の判断審査を通過すれば、第二段階の﹁相当性﹂の判断は、﹁明らかに差押の必要がないと認められるとき﹂に限りそれが否定される、ということになっている )₁₆
(。
確かに、このように、第一段階での判断で﹁被疑事実との関連性﹂などの﹁狭義の必要性﹂が肯定されれば、事実上、特段の事情のない限り、第二段階の﹁広義の必要性(相当性)﹂もその存在が推認されるものとなっているが、決して、
( )同志社法学 六九巻七号
九八六捜索差押に対する相当性による規律三〇一四第二段階の判断そのものの省略が認められるものではない。
このことは、差押の適法性が争点となった下級審裁判例において、静岡地判平成一一年九月二日判例地方自治一九九号八九頁(別添裁判例一覧表の裁判例⑬。以下﹁裁判例〇﹂とのみ表示する。)が、﹁警察官は、差押えを行うにあたり、捜索差押現場において発見された物件について、各物件ごとに、・・・・︹2︺被疑事実との関連性があるか、︹3︺差押えの必要性があるかについて確認しなければならない﹂旨判示するなど、この二段階の判断を一般法理として判示するものがあるほか、実際に、当該押収物件につき﹁被疑事実との関連性﹂が肯定されるものであったかどうかの判断に加え、昭和四四年判例の相当性の判断枠組みによる判断を行っているものが少なくないことからも明らかである )₁₇
(。
2 「
相 当 性 」 に よ る 規 律 が 果 た す 令 状 主 義 補 完 機 能
。担制機能の強化の一翼をっのていることは既に述べた統 ﹁判例裁状令・所判裁るよに判官年四四和昭、は﹂性当判の断相審査権の拡大という形、そ令状主義に取り込まれで さらに、﹁相当性﹂による規律は、差押の実施の場面において、令状主義本来の要件たる﹁被疑事実との関連性﹂とともに(あるいはそれ以上に)、無用な差押から被処分者の権利利益を保護する役割を現実に果たしていることは、前記下級審裁判例の存在から明らかである。
これは、一面において、﹁被疑事実との関連性﹂要件にさほど高度の規律機能を期待できないことの現れともいえよう。 その規律機能の脆弱性の原因は、﹁被疑事実との関連性﹂概念が持つ、次のとおりの性質に由来する。 第一点目は、﹁被疑事実﹂の広汎性である。 ﹁と実に対する証拠し疑ての価値﹂をいう事被被﹁疑事実との関連性﹂とは、いうまでもなく ₁₈)
(。しかし、ここでいう﹁被
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九八七三〇一五 疑事実﹂とは、犯罪事実(公訴提起の際に起訴状に記載される﹁罪となるべき事実﹂︹法二五六条三項︺)そのものだけでなく、間接事実、情状事実も含まれる )₁₉(。刑事訴訟の目的が、窮極的には刑罰権の存否及びその量を明らかにすることにある以上、刑罰権の直接の要件事実たる犯罪事実のみならず、その存否認定の根拠となる間接事実、及び刑罰権の量に係る情状事実の各立証に役立つ資料も、証拠として取調べの対象となり得るからである。そうだとすれば、実質証拠の証明力に影響を及ぼす補助事実についても、犯罪事実の立証におけるその役割の重要性にかんがみ、除外される理由はないということになろう。また、暴力団等の組織の関係者によりその事実を背景として敢行された事件にあっては、当該組織の性格、被疑者と同組織との関係、組織的背景などを解明するのに役立つ証拠も﹁被疑事実との関連性﹂を有する証拠といえる(最一小判昭和五一年一一月一八日裁判集刑事二〇二号三七九頁)。
したがって、暴力団、過激派あるいは特殊な宗教団体による組織的背景を持つ事件につき、組織的犯行を解明するため関係箇所を捜索する場合、書面その他の記録媒体に、当該﹁犯罪﹂そのものに関する情報ではなくとも、例えば、組織本部・上層部からの人事・資金等に関する指示連絡等の組織性を立証するのに役立つ情報が記録されておれば、﹁被疑事実との関連性﹂を肯定できよう(通常、間接証拠あるいは情状証拠に該当すると認められる。)。すなわち﹁被疑事実関連情報﹂とは﹁犯罪関連情報﹂に限られないのである。
第二点目は、﹁証拠価値﹂の多様性である。
。と立証する価値がるかどうか、あいりうるあでちがなに法方考思 てのいつに断判と無有﹂性連関の、も自対事を体事在存の実疑象被に的極積が物実疑とそ﹁るけおに押差、に様同被れ ﹁の人告被がて官察検、えいおに判公、ば責いと﹂拠刑証を実、しジーメイを拠証質る立す求請べ調証めたるす証拠 しかし、争点が絞り込まれ立証対象が特定されている公判段階とは異なり、捜査の初期段階でも行われる捜索差押に
( )同志社法学 六九巻七号
九八八捜索差押に対する相当性による規律三〇一六あっては、はるかに多くの多種多様な証拠を収集確保する必要がある。既に、捜査実務家が指摘しているところであるが、対象物に想定される犯罪関連情報が﹁記録・記載されていない﹂こと自体が証拠価値を持つ場合があり、例えば、その不存在が事後的な罪証隠滅工作の結果であることを示すものであったり、また被疑事実の証明に消極に作用する方向で働くという意味での証拠価値があれば、捜査官の見立てと異なるからといって除外されてはならないのである )₂₀
(。
また、別の例を挙げると、被疑者自身が、犯行に関係する情報を自らパソコンを操作して、自宅の机付近にある﹁複数のUSBのうちいずれか一つ﹂に保管した旨の供述(自白)が得られている場合、同机を捜索して候補となるUSBが二本発見されれば、通常の捜査官ならば、二つとも証拠価値ありと判断して差し押さえるであろう。差押後の分析により、関連情報が﹁一本にあるが、もう一本にはなかった﹂ならば前記被疑者自白が確かに裏付けられる。すなわち、関連情報が記録されている一本は実質証拠足り得ることはもちろんであるが、記録されていない一本についても補助証 000000000000000000
拠としての価値を有する 00000000000のである。もし﹁二本ともに記録されていた場合﹂﹁二本とも記録されていなかった場合﹂であっても、同様である。なぜなら、いずれの場合であっても前記自白内容と食い違っており、本当に被疑者が犯人・パソコン操作者であったのかとの疑問を生じさせ、いずれのUSBも前記自白の信用性を減殺する補助証拠となり得る 000000000000000000000000000000からである。
このように、﹁被疑事実との関連性﹂とは、決して﹁関連情報が記録されていること﹂と同義ではない。そこでいう﹁証拠価値﹂とは、積極方向での直接証拠としての価値だけでなく、消極方向での証拠価値も当然含まれるべきであるし、また間接証拠、あるいは補助証拠としての価値など多種多様なものが想定されることに留意されるべきである。
三点目は、﹁被疑事実との関連性﹂判断が予測可能性を内包した蓋然的判断であること、である )₂₁
(。
公判段階においては、﹁自然的関連性﹂が証拠能力の要件となると説かれるように、取調請求された﹁証拠﹂が、公
( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九八九三〇一七 訴事実や争点との関係で、どの程度の証明力を有するのか、証拠調べ請求時点であればある程度確定的・具体的に判断できよう。しかし、捜索差押は、捜査の初期段階で、事件の全容が未解明の状況で行われることも多く、その場合、捜索差押の実施に当たる捜査官において、被疑事実の内容、性質等にかんがみ、将来いかなる点が争点となり得るのかなども想定して、その職業的経験、知見を踏まえて、対象物が将来証拠物となる可能性の有無を判断せざるを得ない。例えば、石山検事は、刃物(一本)を使用した殺人事件で、被疑者宅から三本の包丁が発見された場合、うち二本は少なくとも被疑事実と無関係と考えられるが、三本とも形状等からしていずれも凶器である可能性がある限り、捜査官としては三本とも押収せざるを得ない(差押後の微物鑑定等により凶器が特定される)との例を挙げる )₂₂
(。また、脱税捜査(調査)においては、仮名預金特定のため、金融機関にある一定の候補となる預金口座群に関する帳簿類を差し押さえて、その後の他の証拠や資金の流れと照らし合わせながら消去法的に被疑者(犯則嫌疑者)に帰属する仮名預金を特定するとの手法も認められている )₂₃
(。
以上の二つの例でも明らかなように、既に、差押時点での判断においても、差押物件の中には後の精査の結果無関係なものと判明するものが入っていることが前提となっている場合がある。しかし、これを﹁令状主義に反する包括的差押﹂として一切許容しない見解は、差押時点において要求される﹁関連性﹂水準と、証拠調べ請求の時点におけるそれとを混同するものと言わざるを得ない )₂₄
(。差押の時点では、それ以上の選別ができない以上、包丁三本のうち二本は無関係の可能性があるとの点ではなく、その時点では三本ともその形状や保管場所等の外形事情から凶器である可能性があることが判断の基礎とされねばならない。捜査によって事実と証拠を絞り込んで嫌疑を固めていくものである以上、差押対象となるのは、決して、最終的に法廷で証拠採用できるほどの﹁関連性﹂があると確定したもの(先の例でいえば、凶器と特定された一本の包丁、被疑者に帰属すると確定した仮名預金の資料)に限定されるわけではないのである。
( )同志社法学 六九巻七号
九九〇捜索差押に対する相当性による規律三〇一八このように、差押時の﹁被疑事実との関連性﹂判断は、あくまでその時点における﹁蓋然性﹂の判断に過ぎない。捜査官は、差押後、通常、警察署等において、いわゆる﹁物(ぶつ)読み﹂作業、すなわち関係箇所から収集された他の多くの物証、刻々収集される供述証拠との関係に留意しながら、個々の証拠物を精査分析することにより、個々の押収証拠の証拠価値を解明していくのである。事後の精査の結果、関連性がないと判明した場合、法は、被差押者等に対し還付するとの仕組みを用意している(法二二二条一項、一二三条) )₂₅
(。
味介するのではなく、後に紹す意る蓋然性説に立つ裁判例 ₂₆) ﹁れ性わ言と﹂難困が断判の連る関、はで場現の押差索れがは時単純に捜索差押作業捜間、的余裕がないことをそに
(が指摘するとおり、﹁差押後の詳細な検討によって関連性が明らかになる﹂こと、すなわち、そもそも捜索差押の現場ではいくら時間をかけても関連性というものは十分に判明するものではない、ということに留意を要する。
以上述べたとおり、﹁被疑事実との関連性﹂要件については、①立証対象範囲たる﹁被疑事実﹂の広汎性、②問題となる証拠価値の多種多様性、及び③該当性が蓋然的判断とならざるを得ないことから、実際問題として、その要求水準はさほど高い﹁ハードル﹂ではなく、そこで、被処分者にとっては、﹁相当性﹂による歯止めにも相当程度期待せざるを得ない、ということになる。
裁判例においても、前掲注(
、組四四年判による相当性の判断枠例み同を5号中録目番だ示、﹁上たした ら本件被疑と事実のる関かせ得りなと料資るさ認推を性連めはら認和昭、もつつと。﹂いなしなれけなわいとるれらば 計組、性画事前事の実疑性織な、犯行の動機、目的、背景ど右被たあさ間接的にではるが推認せる資料となり得るしま れ物件もそ自体あるれの、ずい﹁きつに件物押差各はいに他てを者疑被の実事疑被件本つのよ件とこるす合綜と料資で
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事年は日〇三月六八司四和昭決地沢金、法告分抗準るす対に等処警押差るよに員察)14
の容内載記、質性物にのそ、はていつか( )捜索差押に対する相当性による規律同志社法学 六九巻七号
九九一三〇一九 らみてそれ自体としても又差押の必要性のある前記各物件に比べても前記推認の程度は著しく低く従つて証拠としての重要性は乏しいこと並びに差押えられた他の物件の内容、数量、被疑者以外の第三者である申立人の右物件に対して有する利益を勘案すれば差押の必要性は認められず従つて右物件に対する差押処分は失当といわなければならない。﹂とし、一部の物件につき﹁広義の必要性(相当性)﹂を欠くことを理由に差押処分を取り消した )₂₇(。
また、国賠訴訟にあっても、前掲注(
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二収押、﹁は)⑰例判裁(日二)月三年四一成平判地屋古名品。法当該警察官の押が違差でしあいてる示判とる 拠め極が性連関もてしと動証るすにから明を景、背機いて薄とないてしと)﹂る(あで物い、も必の押、差ず得をるざわ要 止活動防内法に関する破壊・がラビ記上・、・らがなしで容、ありるるすに実事疑被件本関あでから明てし見一こはと 事実等景)の背事盗(窃、注稿本実事疑と被情な全い本かし、﹁もつしと。﹂えくいはといなが性連関件、しと拠証すて Mのらを派者関係るとしN者あで難害被の実事疑被件本非てすが示をとこるあにる関立対係派っMものであて、D派と 実の被疑事しとの関連性て動と件要の収押、りおとの記上は背、さ機、ラビ同、ろことるれは解関と景等の、連性を含む てあでのもたれさ収押っのし際に索捜物建件本、は、てべ本物い、てしそ。るれま含にき件るえ押し差の載記1状令て
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つにラビの このような裁判例からも明らかなように、昭和四四年判例法理の下では、﹁関連性﹂等の判断のみならず、﹁相当性﹂の判断という二段階の判断審査をすることが義務付けられていることから、捜査官としては、捜索場所にあった物が、その外形事情や記載内容から﹁被疑事実との関連性﹂を有すると判断できても、さらに個別に吟味し、それが被処分者の不利益と均衡を失さない程度に証拠価値を有するものかどうか、つまり被疑事実との関連性の有無のみならずその程度をも判断して一層の絞り込みをしなければならない。かかる絞り込み作業を怠り、明らかに被処分者の不利益と均衡を失するような関連性の乏しいものを差押えすれば、﹁相当性﹂の観点から違法となる。( )同志社法学 六九巻七号
九九二捜索差押に対する相当性による規律三〇二〇物理的一体性や機能的一体性の観点から﹁ひとつ﹂の物といえるものであっても、﹁被疑事実との関連性﹂が高い部分と高くない部分(あるいは全くない部分)とが分離可能であれば、相当性の観点から、差し押さえるのは﹁高い部分﹂のみとすることも要請されよう。例えば、大きな家具に備え付けられた﹁鍵付き金庫﹂が証拠物に該当するとして同金庫を差し押さえる場合、家具自体も、同金庫と物理的一体性があり全体として﹁被疑事実との関連性﹂を肯定できるとしても、ネジ等を外すことで両者を容易に分離できるならば、分離して金庫のみを差し押さえるべきであろう。また、差押対象物が容器としての金庫の場合、その内容物を含めて機能的一体性は肯定できようが、もし、財産的価値の高いものの証拠価値の乏しい物が在中しておれば、それも取り除いてから金庫を差し押さえるべきである。
このように一体性が認められる物でも、相当性の観点から、構成部分ごとに差押の可否が吟味される場合があるのであるから、複数の物が一括して﹁被疑事実との関連性﹂が認められる場合には、一層のこと個別的に内容を逐一確認することを要するといえよう。例えば、法人税法違反事件で、被疑会社の会計帳簿過去一〇年分が保管されていたとする。過去十数年前から敢行した脱税による資金隠匿のための不正な会計処理が現在まで続いているとの疑いがあれば、全ての年度の帳簿につき﹁被疑事実との関連性﹂を肯定できよう。しかし、進行期(最新年度)の帳簿は日々の業務に必要不可欠である反面、告発対象期でもないことから証拠価値はさほど高いものではない場合もあろう。そうであれば、捜索現場においてできる限り、内容をさらに吟味し、例えば、差し押さえるのは、告発事実との﹁関連性﹂が高い、告発対象期及びその前後数年の帳簿のみとし、相当性の観点から、進行期のそれは除外すべきとの判断もあり得る。
以上述べたとおり、﹁被疑事実との関連性﹂要件からの要求される﹁関連性﹂の水準が低いものとならざるを得ないものの、昭和四四年判例による﹁相当性﹂の要件が、被処分者の権利利益を保護する方向での補完機能を果たしているといえるのである。