法政大学大学院理工学・工学研究科紀要 Vol.56(2015年3月) 法政大学
マグネシウム合金板材の圧着圧延による 接合界面の強度評価
STRENGTH ESTIMATION ON ROLL BONDED INTERFACE OF MAGNESIUM ALLOY
飯島利彦 Toshihiko IIJIMA 指導教員 大澤泰明
法政大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程
Recently increasing amount of light metal sheet is being involved into various structural constructions and functional components. Such a rising trend can be observed, for instance, at automotive, aerospace and electric industry. Especially in automobile, lightweight car body structure will be able to achieve saving energy by improving fuel efficiency and environmental measure by exhaust gas reduction. The hollow structural components including automobiles have been adopted in various products. Newly developed method, called Roll Bonding・Gas Inflation Forming(RB・GIF)has been proposed to produce the hollow structure such as truss or honeycomb inexpensively and easily. But at this forming process, it is thought that peeling and shear affect at bonded interface. This paper focuses on strength estimation on roll bonded interface using Mg alloy LA141. Bonding strength was estimated using Weibull distribution useful in instability.
Key Words:RB・GIF,LA141,Roll bonded interface strength,Weibull distribution
緒論 1.
自動車の軽量化が進んでいる 1),2).様々なアプローチ の中で,最も一般的な方法は,車体構造を軽量材で構成 することであり,鉄鋼の代替としてはAl合金が代表的存 在である.自動車に限らず,鉄道車両,航空機,船舶な どの乗り物の構造体についても,当然,同様な議論が該 当する.また,軽量化に付随した重要なテーマとなるの が材料同士の接合である.近年,特に自動車構造材は,
これまでの鉄鋼主体から,Al合金やMg合金,複合材料 等の軽量化素材の比率を増加させ,材料を適材適所に使 うマルチマテリアル化が進められている(Fig.1)3).その為 にも材料同士を接合する技術というのは非常に重要なも のである.接合に関して従来,スポット溶接,レーザー 溶接などが主流であったが,近年では接着剤による接合 や拡散接合,また,摩擦熱を利用して接合する摩擦撹拌 接合が用いられるようになってきた(Fig.2)3).その中で当 研究室では,次世代のAl,Ti,Mg合金などを含む軽量,
高比強度材を用いた溶接フリーの中空構造体をターゲッ トに圧着圧延と金属面への印刷技術,及びガス発生剤に よ る 高 温 ブ ロ ー 成 形 を 複 合 さ せ た RB・GIF(Roll
Bonding・Gas Inflation Forming)を提案し,研究を行 ってきた4).
本研究は,圧着界面の接合強度評価に着目し,実験的 な検討を実施した.RB・GIFにおけるガスブロー成形時 において,接合界面にはFig.3に示すような剥離を生ずる 垂直応力や剪断応力が重畳作用すると思われる.本研究 にてそれらの強度を各々測定評価した.材料は Mg 合金 LA141(Mg-14Li-1Al)であり,製品の事例としてはトラ ス構造3)を前提としている.
Fig.1 Characteristic map of materials
Fig.2 Various bonding technology
Fig.3 Forces affecting on the bonded interface
圧着圧延 2.
2.1供試材
供試材にはMg合金LA141(Mg-14Li-1Al)を使用した.
供試材寸法は,Skin材は2.0t×220×100mm,Core材は
2.0t×100×100mmの板材を用いた.
2.1.1Mg合金の特性
Mg 合金は実用金属中,最軽量かつ高比強度であるが,
非常に活性で燃えやすい性質を持っている上に,結晶構 造がhcp構造である為加工性に劣る.しかし近年,Caを 添加することで発火しにくい難燃性 Mg 合金が開発され た. また,Liを添加することにより,hcp構造のα相中 に加工性の良いbcc構造のβ相が出現し,(α+β)共晶組 織,あるいはβ単相組織となり,加工性が改善されるこ とが知られている5).以下にMg合金AZ31・LA141の機 械的性質を示す.
Table.1 Mechanical property of Mg alloys
Material
Ultimate Tensile Strength
[MPa]
Total Elongation
[%]
Specific Gravity
AZ31 276.2 20 1.78
LA141 153.1 27.7 1.36
2.2 表面処理
圧着圧延は経験がないと容易には接合しない.その主 な原因は接合に有害な酸化被膜や油分の存在である6),7). その為,圧着圧延の前段階として表面処理を施した.供 試材の表面を石灰にて脱脂を施し,その後,金属表面の 酸化膜を落とす為にワイヤーブラシにて研磨を行った.
2.3 プレパック
Core 材の表面には試験片を製作し易くする為に,黒鉛
(Stop off)をあるパターンになるように塗布し,その部分 が接合しないようにした.その後,供試材を100℃に加熱 したホットプレスで240kgf/cm2の圧力を加え,20分間保 持し,Pre-Clad材を製作した.Pre-Clad材とは,折り曲げ たSkin材にCore材を挟み込んだもので,Skin材とCore 材とが接触はしているが接合はしていない状態である.
この工程は圧延機に通す際のSkin材とCore材のずれを防 止する為に行った.
2.4 圧着圧延
圧延機に通す前に,Pre-Clad材を270℃に保持された電 気炉に20分入れて予熱した.その後,初期板厚6mmの
Pre-Clad材を,予め約120℃に加熱しておいた圧延ロール
により,最初のパスで厚さ 2.75mm(Reduction54%)の Clad 材に圧延した.圧延率を変化させ,数回のパスを経 て,最終的にTable.2に表記する目標板厚にした.
Table.2 Clad Metal Thickness
Total Reduction Initial Thickness [mm]
Target Thickness [mm]
75% 1.5
80% 1.2
83% 1.0
86% 0.85
6
圧着圧延において,初期Reductionは圧着の結果を大きく 左右する.Reduction50%で行った場合,圧着されないこ とが多く,Reduction58%で行った場合は圧延機が停止し てしまい圧延が行えなくなることがあった.よって,初 期Reductionは,圧着成功率が高いReduction54%で行うこ とにした.
実験方法 3.
それぞれの Reduction で圧着圧延を実施して製作した クラッド材の,方向や場所による接合強度の違いを比較 する為に,圧延方向に対して0°方向(R.D.),90°方向
(T.D.)にそれぞれクラッド材から試験片を切り出し,ク ラッド材を前後,かつ R.D.に関してはさらに幅方向に対 して内外に分け(Fig.4),その後,機械加工を経て試験 片の製作を行った.試験片の製作工程をFig.5に示す.
試験は剥離試験(Peeling),引張剪断試験(Lap Shear),
面状剥離試験(Planar Peeling)を行った.それぞれの試験 方法及び試験片寸法をFig.6に示す.
Fig.4 Distinction between inside and outside with respect to the width direction of the clad metal
Fig.5 Manufacturing process of the test piece
Fig.6 Test methods and test piece dimensions
引張剪断試験を行う際には偶力のモーメントが作用しや すく試験片の中心線から傾いてしまう為,試験片に当て 板をあてて試験を行った.
圧着界面の接合強度評価 4.
接合された界面には,いくつかの欠陥を内包している と考えられる.その為,強度のバラつきが大きく,これ を構造材料として用いるには強度に関する確率・統計的 な解析と信頼性解析が必要となってくる.そこで得られ たデータを,不安定性が高い破壊について有用なWeibull 分布に当てはめ強度評価を行った8).ここで,データの累 積破壊確率Fは,以下のメディアンランク法に依った.
F =
𝑛+0.4𝑖−0.3(1)
ただし,n はサンプル数,i は順序数(数値の低い順)で ある.
実験結果と考察 5.
それぞれの試験で得られる,強度-ストローク線図の
模式図をFig.7に示す.ピーリング試験は,得られた強度
値の合計から平均をとり,それを剥離強度とした.剪断 試験では,最大荷重からラップ面積(剪断が生じる面積)
で割った値を剪断強度とし9),面状剥離試験も同様に最大 荷重から剥離面積で割った値を強度とした.
Fig.7から,ピーリング試験と比べ,剪断と面状剥離はほ
とんど瞬間的な試験であることが分かる.
Fig.7 Schematic diagram of strength-stroke diagram
ピーリング試験のR.D.におけるWeibull分布をFig.8~
Fig.11に示す.ほとんどがReductionを上げていくと接合
強度が高くなると共に,バラつきの度合いを表すWeibull 係数も高くなり,接合強度が安定した値に近づく傾向と なった.また,内側と外側を比較すると内側の接合強度 の方が高い傾向を示した.それをよく表している結果を
Fig.12に示す.Reductionを上げるほど,内側と外側の強
度差が開いているのが分かる.これらは,Reductionを上 げれば板材により強い圧縮荷重が負荷されるので,界面 における欠陥が減少するからだと考えられる.
Fig.8 Comparison of peel strength at front and inside
Fig.9 Comparison of peel strength at front and outside
Fig.10 Comparison of peel strength at back and inside
Fig.11 Comparison of peel strength at back and outside
Fig.12 The difference of peel strength between inside and outside by rolling reduction
次にピーリング試験の T.D.における Weibull 分布を Fig.13,14 に 示 す . ク ラ ッ ド 材 の 前 後 に 関 し て , Reduction83%では接合強度に差が生じたが,これは圧着 圧延までの過程,例えば石灰による脱脂,またはワイヤ ーブラシによる研磨方法などがまだ最適化されておらず,
表面状態が均一に処理されていなかった為,このように 接合強度に差が生じたのではないかと考えられる.
Fig.13 Comparison of peel strength at front
Fig.14 Comparison of peel strength at back
剪断試験のR.D.におけるWeibull分布をFig.15~Fig.18 に示す.Reductionを上げると板厚も薄くなってしまい,
75%以外は全て母材(Skin材)で破断してしまったので,
それらの剪断強度を求めることは出来なかった.その為,
母材で破断したものに関しては,母材強度,つまり荷重 を母材の断面積で割った値を白塗りのプロットで示し,
剪断強度はそれよりも大きいことを表している.母材強 度に関する分布(Reduction80%~86%)について見ると,
Reductionが上がると,母材強度は小さくなっている.こ
れはReductionを上げればそれだけ板厚は薄くなり,かつ
圧延により加工硬化が生じて脆くなる為,Reductionが高 いものほど,母材強度は低くなっていくと考えられる.
剪断が可能であったもの(Reduction75%)に関して,
クラッド材の内側と外側を比較すると,ピーリング試験
の結果と同様に,内側の方が剪断強度は高く表れており,
剪断強度に関してクラッド材の内側と外側では約2倍の 差が生じる結果となった.これは,圧延を行う際,ロー ルを通過する板材の内側では平面ひずみ変形に近く,外 側は平面応力状態に移行していると考えられ,結果とし て接合強度に差を生じさせている.つまり,板材同士を 圧着させる際に,板材の幅方向では応力状態が異なり,
面圧が変化する為,内側と外側で接合強度に差が生じて いると考えられる.
Fig.15 Comparison of shear strength at front and inside
Fig.16 Comparison of shear strength at front and outside
Fig.17 Comparison of shear strength at back and inside
Fig.18 Comparison of shear strength at back and outside
剪断試験のT.D.におけるWeibull分布をFig.19,20に 示す.Reductionやクラッド材の前後の違いで強度に差が 生じることはなかった.T.D.に関してはReduction75%に
加えて80%も剪断に成功した.やはりReductionが高い方
がバラつきは小さくなっているが,どちらも剪断強度は ほとんど差が生じない結果となった.Reduction83%や 86%のものも同様の値を示すのかどうかは,今後さらなる 検討が必要である.
Fig.19 Comparison of shear strength at front
Fig.20 Comparison of shear strength at back
ここで,剥離強度と剪断強度との比較では,各々の表示 単位が示唆するように,物理的な意味が異なり,これら を組み合わせた議論をすることは困難である.その為,
面状剥離試験を提案し,面で垂直剥離させることにより 剪断強度との対比を可能にした.
面状剥離試験におけるWeibull分布をFig21,22に示す.
グラフから,クラッド材の前後による強度差はほとんど ないと考えられる.後部ではやはり,Reductionが上がる ほど強度も高くなる傾向が確認出来たが,クラッド材の 前部における強度傾向は微小な差ながらも,Reductionに 依存しない形となった.ただ,バラつき度合いを表す
Weibull係数はReductionの上昇と共に高くなっている,
つまりバラつきが小さくなっていることが分かる.
剪断試験と面状剥離試験について,各々の接合強度を 見てみると,剪断試験では30~100[MPa]の強度で,面状 剥離試験では2~3[MPa]と,オーダーが異なるくらい剥離 強度は小さいことが分かった.よってRB・GIFにて中空 構造体を製作する際,ガスブロー成形時において,接合 界面では剪断ではなく剥離が先に生じると考えられる.
今回は常温での試験だったが,実際の成形温度での接合 強度を測定することも必要不可欠である.その為には,
材料の変形抵抗の低下による母材破断を生じさせない為 にも,板厚を大きくする等の検討すべき課題は大いにあ るだろう.
Fig.21 Comparison of planar peel strength at front
Fig.22 Comparison of planar peel strength at back
結論 6.
Mg合金は酸化被膜の形成により,圧着接合させること は難しいと懸念されていたが,本実験にてLA141同士の 圧着は可能であることが分かった.しかし,Reductionが 83%以上という高い負荷を掛けなければ安定した接合は 出来ない.且つそれだけ板厚は薄くなるので,圧着でき たとしても母材で破断するリスクが増加するだろう.
その為,今後は初期板厚を大きく設定した場合の接合強 度の検討を行う必要がある.
また今回,様々な条件にて接合強度比較を行ったが,
クラッド材の前後,そして方向によって接合強度はほと んど差が生じない結果が見られた.しかし,クラッド材 の幅方向に対して内側と外側では接合強度は大きく異な ることが分かった.
前述したように,長さ当りの荷重で表す剥離強度と,
面積当りで表す剪断強度では表示単位が異なることから,
これらを組み合わせた考察は困難であった.しかし,今 回導入した面状剥離試験により,剪断強度と単位を統一 させることが可能となったので,この面状剥離試験は有 用であると考えられる.ただし,接合界面では単純に1 つの応力状態ではなく,複数の応力が重畳作用すると考 えられる為,様々な実験を行い,それらの相関を考慮し ながら評価をするのが望ましいと考える.
参考文献
1)日本アルミニウム協会,アルミニウム 第21巻
第89号,pp.8-11,2014
2)日本アルミニウム協会,アルミニウム 第21巻
第90号,pp.18-24,2014
3)新構造材料技術研究組合:革新的新構造材料等研究開 発「平成26年度成果報告会」,2015
4)Hiroaki OHSAWA and Hisashi NISHIMURA, ALUMINUM ALLOYS Their Physical and Mechanical Properties VOLUME 1,pp.71-73,1998 5)宅田裕彦,吉田哲幸,菊池潮美,岡原治男:Mg-9Li-iY
合金薄板の引張特性およびプレス成形性,第 33 回 塑性加工春季講演会 講演論文集,pp.177-178,2002 6)中村雅勇,牧清二郎:圧接強度向上に関する知識と工
夫,塑性と加工 第45巻 第524号,pp.8-15,2004-9 7)原賀康介:金属部品の接着とその強度・信頼性・耐久
性,塑性と加工 第55巻 第646号,pp.984-988,2014
8)平木俊介:Mg合金AZ31 における拡散接合性と接合
強度の評価,法政大学大学院工学研究科機械工学専 攻修士論文,2005
9)三村裕毅:RB/GIF における加工精度の向上と圧着界
面の接合強度評価,法政大学大学院工学研究科機械 工学専攻修士論文,2013