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第4章 限定充てん工法の開発

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第4章 限定充てん工法の開発

4.1 限定充てん工法の概要

高流動性充てん工法のスラリー状態の充てん材は高い流動性を有することから,空洞内 を均質に隅々まで充てんできることが特徴であるが,反面,空洞率が高く広い空洞の一区 画を充てんしようとすると,充てん材の高い流動性が災いし,その充てん材が対象範囲外 にまで大量に流出するロスの発生が課題であった.限定充てん工法は,空洞分布地域で,

新設される道路や鉄道の直下の空洞範囲を充てんするニーズが発生したことを契機として 開発に至った工法で,充てん材の流動性を制御することで対象範囲から外側の空洞部分へ の充てん材の大量流出を防止する工法である.

限定充てん工法では,最初に端部材とよぶ充てん材を空洞内に注入して対象とする空洞 範囲の境界線上に隔壁を形成する.その後,内部に中詰材とよぶ充てん材を注入して空洞 の一定領域を充てんする.このように端部材には遺漏のない連続した壁が形成できるよう に,可能な限り境界線の外側に流出しないような低い流動性が必要とされる.そのために,

前章で述べた高流動性充てん工法に用いる材料種類に,さらに流動性を低下させる材料を 添加し,充てん材の流動性を低い値に制御する.一方,中詰材には端部材の隔壁により閉 塞された内部の全範囲に充てんできるような高い流動性を持つ充てん材を用いる.図-4.1 に限定充てん工法の概念を示す.

充てん対象範囲 充てん孔

流動性を低下させるために添加する材料には,水ガラスを用いる場合と吹付けコンクリ ート用急結剤を用いる場合がある.以下,ここでは前者を緩勾配タイプ,後者を急勾配タ イプとよぶ.

図-4.1 限定充てん工法の概念図1),2),3),4),5),6)

空洞高 地下水位

空 洞 深 度 中詰材

端部材

到達距離

空洞 地盤

n 1

勾配 端部材

(a) 透視図(中詰材施工時) (b) 端部材断面図

(2)

端部材を空洞内に注入したときに形成される側面勾配は,緩勾配タイプの場合は空洞高 さが3m程度までの範囲で約1:5,急勾配タイプの場合は空洞高さが3m程度を超える範囲

でも約1:2~1:3となる傾向にある.また,端部材の上面が充てん孔から空洞内部で広がり

うる到達距離は,緩勾配タイプで 4m を,急勾配タイプで 2m程度を確保できることがわ かっている.端部材を連続した隔壁とするためには,この到達距離の2倍以下の間隔で充 てん孔を設置することになり,コストに大きく影響する.

表-4.1 限定充てん工法端部材の標準性能 緩勾配タイプ 急勾配タイプ 流動性制御用

添加剤 特殊水ガラス 吹付けコンクリート用 急結剤

ゲルタイム 10秒程度 2分以内

フロー値 160~180mm程度 110~140mm程度

隔壁の勾配 1:5程度 1:3程度 到達距離 4m程度 2m程度以上 空洞高さの適用範囲 3m弱程度以下※ (3+数)m以下

※ 空洞内部が地下水で充満している場合

(3)

4.2 緩勾配タイプの開発と施工

4.2.1 必要とする性能と実工事への適用に向けた検討経緯

3.1.3で述べたように,岐阜県可児郡御嵩町の比衣地区から隣接する可児市柿田地区では,

広範囲に亜炭廃坑が分布し,たびたび陥没などの被害が発生していることから,この地域 を通る東海環状自動車道と可児御嵩バイパスの建設工事の計画にあたり,亜炭廃坑の陥没 等による影響が懸念された.そこで(財)先端建設技術センター内に「亜炭坑施工技術委員 会」が設置され,充てん工法などにより対策を行うこととした基本方針が示された.

基本方針では,土工部の場合は主に廃坑の上の軟岩厚さによって対策方法を充てん工法 とする部分と道路面に連続鉄筋コンクリート舗装を施す部分に分けられた.このときの充 てん工法による対策は,残柱の補強や空洞上部の天盤を直接支持するような空洞周辺部の 補強を目的としたものではなく,廃坑の埋め戻しによる陥没原因の除去が目的とされ,充 てん材の強度もこれまで宅地開発地区の亜炭廃坑を対象とした高流動性充てん工法の充て ん材強度を元にして設定された.このときの充てん範囲は側道を含む用地幅である.

橋梁部の場合の対策は,軟岩厚さにかかわらず,すべての廃坑を充てん工法で埋め戻す ことと同時に,直接基礎形式のフーチングおよび静定構造の上部工とする方針である.橋 梁部下に充てんされる充てん材の強度は,充てん材が上部の地盤と橋梁の荷重を支持でき る値に設定された.施工範囲はフーチングから亜炭廃坑への荷重分散の影響範囲である.

このように,本工法の要求性能は対象とする空洞の一定範囲から外側に充てん材が流出 することを極力制限することで,確実に対象範囲の廃坑を充てんすることであった.検討 委員会から示された条件に対し,著者等は限定充てん工法を提案した.そして,試験施工 結果等に基づいた審議を経て,実工事の対策工法として採用された8)

実工事では,空洞率が約70%の残柱式の亜炭廃坑が対象となり,空洞の深さは8~90m,

空洞高さは数10cm~2.8m程度,充てん量は約8万m3であった.また,空洞内は水が充満 した状態であった.さらに,施工予定地には,上下2層で採掘された亜炭廃坑も存在した.

当地の地層は,上部より 6m 程度の沖積層,軟岩層,亜炭層と続く構成である.また,図 -4.4に東海環状自動車道の土工部充てん箇所の完成断面概念図を示す8)

(4)

空洞深度 832m

空洞 10cm2.8m 充てん対象範囲

土工部盛土

沖積層 亜炭軟岩

軟岩 中詰材

端部材 未充てん空洞

図-4.2 東海環状自動車道完成断面の概念図(土工部充てん箇所)

4.2.2 工法に用いる材料と施工法 (1) 材料

先に述べたように,緩勾配タイプで隔壁を形成するために,高流動性充てん工法に用い る材料種類に,さらに水ガラス(ケイ酸ナトリウム;Na2O・nSiO2(n;モル比))を添加し,

固化材中のセメント成分との反応によるゲル化作用で充てん材の流動性を低い値に制御す る.一方,中詰材には端部材の壁により閉塞された内部の全範囲に充てんできるような高 い流動性が必要となる.このため,中詰材には高流動性充てん工法の充てん材を用いるこ ともできるが,道路施設や鉄道施設のような重要構造物が建設される地下の空洞対策の場 合には,この充てん材にも水ガラスを添加して,ゲル化によって材料の分離抵抗性を高め ることとしている.ただし,その添加量は端部材の場合より少なくし,端部材と中詰材の 流動性に相違が出るようにしている.本工法の第一の目的は,空洞内における対象領域外 への充てん材の流出を抑制することであるが,この他に,空洞内に水が存在する場合でも,

ゲル化作用によって材料の分離抵抗性が高まり,また,これにより水質保全に対しても有 効となる.さらに,ゲル化後の充てん材の流動特性により,空洞天端への密着充てんも良 好である.

水ガラスは一般に溶脱によって長期耐久性が低下する傾向がある.緩勾配タイプの限定 充てん工法では材料に水ガラスを用いることから,充てん材の長期耐久性に配慮した材料 の選定が重要である.水ガラス系グラウトの耐久性を向上させるには,劣化原因となるア ルカリ分の Na2O の溶脱を低下させるか,またはグラウト固化体の強度を高めることが有 効とされる 9) ,10).このため,本工法で用いる水ガラスは,前者の対策方法として,Na2O の含有量の少ない特殊水ガラスを用いる.

一方,後者の対策の効果を示す資料として,図-4.3に水ガラス系薬液注入材である LW

(5)

グラウトの高強度モルタルと低強度モルタルの一軸圧縮強度の変化を比較したものを示す.

図より,低強度モルタルは1年間が経過した後に減少に転じているが,高強度モルタルは その後も増強していることがわかる10).固化体強度を高めるには,固化材の量を多くする 方法もあるが,本工法では固化材として微粉砕高炉スラグを混入したスラグ-セメント系 固化材を用いることとしている.スラグはアルカリ塩類を含む水に対して水和物を生成し て凝結および硬化反応を起こす,いわゆる潜在硬化性を持っていることから,固化材中の セメントクリンカーのアルカリ分に加え,水ガラスのアルカリ分とも反応して強度増進を 図ることができるためである.この水ガラスによるスラグの凝結および硬化は,水ガラス のアルカリ分をスラグの硬化に消費させることになるため,アルカリ分の溶脱低下も期待 でき,耐久性向上に優れるとされている9) ,10).図-4.4のように,セメントと水ガラスを用 いたグラウトの長期材齢強度は90日以降に大きく低下するのに対して,セメントの相当量 をスラグに置換したスラグ-セメントと水ガラスによるグラウトの場合は強度低下がみら れないことが示されている10)

なお,以上のような固化材および水ガラスについて,本工法に用いる充てん材の材料と して検討した経緯は4.2.3で詳述する.

図-4.3 LWモルタルの長期材齢と強度9) 図-4.4 ホモゲルグラウトの長期材齢と強度9)

(2) 配合と品質管理

図-4.5に緩勾配タイプ限定充てん工法における充てん材製造フローを示す.本工法にお ける充てん材の製造は,まず,粘土キラ・砂キラ・水ガラスの水溶液であるA液とセメン トミルクのB液を別系統で製造する.その後,各液を充てん孔位置までポンプ圧送し,ス タティックミキサで連続的に混合して,ゲル化した充てん材を空洞内に注入する.

(6)

材料置場

粘土キラ供給機 砂キラ供給機

撹拌機

(粘土キラ)

撹拌機

(砂キラ)

撹拌槽

特殊水ガラス 混合槽

スクイズポンプ

スタティックミキサ 充填孔

セメントミルク プラント 充填用特殊 固化材サイロ

モノポンプ

A液系統 B液系統

攪拌槽

充てん孔 攪拌機

(粘土キラ) 攪拌機

(砂キラ)

充てん用特殊 固化材サイロ

図-4.5 緩勾配タイプ限定充てん工法の充てん材製造フロー5)

後述する新設高規格道路下の亜炭廃坑を充てんする実工事に用いた配合例を表-4.2 に,

品質目標値の例を表-4.3に示す.これらの表中における高強度タイプおよび低強度タイプ とは,それぞれ橋梁および盛土の道路構造であることに対応させて強度の目標値を設定し たものである.すなわち,前者は亜炭廃坑深度での土被り荷重とフーチング底面からの荷 重分散の合計が200kN/m2程度であることから,安全率を2として400 kN/m2に,また,

後者は一般に住宅地下部の充てんに用いられている表-3.13の目標値50 kN/m2に対し,高 規格道路であることを考慮して,安全率を2とし,100 kN/m2に設定されたものである.

表-4.2 緩勾配タイプ充てん材の配合例11

粘土キラ 砂キラ 特殊

水ガラス 水 充てん用 特殊固化材 水

端部材 360 180 48.8(40l) 595 120 120

中詰材 360 180 24.4(20l) 575 150 150

端部材 360 180 48.8(40l) 634 90 90

中詰材 340 170 12.2(10l) 663 100 100

高強度タイプ

(橋梁部)

低強度タイプ

(土工部)

配合種別

単位量(kg/m3

A液 B液

(7)

表-4.3 緩勾配タイプ充てん材の品質目標値の例11

フロー値 一軸圧縮強度 ブリーディング率 端部材 160~180mm

中詰材 180mm以上

端部材 160~180mm

中詰材 180mm以上

ロー値の上限値を設けない.

注(1) フロー値はフロー試験(テーブルフロー;JIS R 5201)に,一軸圧縮   強度は土の一軸圧縮試験(JGS 0511)に,ブリーディング率はブリー   ディング試験(ポリエチレン袋方法;JSCE-F 522)による.

(2) 中詰材は端部材で仕切られた空洞内部に十分充てんできるように,フ

配合種別 目 標 値

高強度タイプ

(橋梁部) 400kN/m2以上

3%以下 低強度タイプ

(土工部) 100kN/m2以上

4.2.3 工法開発の試験 (1) 固化材の検討

先に述べたように,緩勾配タイプの充てん材では水ガラスを添加することから,長期耐 久性の低下に留意する必要がある.そこで,固化材の検討においては,耐久性向上策のひ とつとして,強度発現が大きくなる固化材を選定するために,4 種類の固化材を用いて練 り混ぜた充てん材について一軸圧縮試験を行い,比較検討した.検討に用いた固化材を表 -4.4に示す.固化材bおよびcは今回の検討のために試作したスラグ-セメント系固化材 である.また,aおよびdは比較のために用いた市販の固化材で,aは軟弱土の地盤改良 およびヘドロや建設発生土の固化処理などに用いられるセメント系固化材,dは普通ポル トランドセメントである.これらの4種類の固化材を用いた充てん材について,配合試験 を行って長期材齢における強度を求めた.そのときの実験配合を表-4.5に示す.水ガラス は Na2O 含有量の少ないものほど長期耐久性に優れていることから,表中の特殊水ガラス には,後述する水ガラスの検討に用いた特殊水ガラスのなかで最も Na2O 含有量の少ない 水ガラスAを用いた.なお,養生条件は,水中養生で20℃の標準養生と40℃の促進養生の 2ケースとした.これらの強度発現状況を図-4.6に示す.図中,充てん材a,充てん材b,

充てん材cおよび充てん材dとは,それぞれ固化材a,固化材b,固化材cおよび固化材 dを用いた充てん材を指す.

図より,養生温度 20℃ではスラグ-セメント系の充てん材cの強度発現が最も大きく,

材齢28日で1000kN/mを超える強度が得られた.また,養生温度40℃でも,充てん材c

の強度発現は他に比べて良好で,材齢90日以降で1400 kN/m程度と高い強度が得られた.

一方,充てん材aと充てん材bの材齢 90 日以降の強度をみると,養生温度 20℃の場合と

(8)

40℃の促進養生の場合とではほとんど変化はないことから,長期間経過した後の強度増進 は期待できないと考えられた.また,充てん材dは40℃の場合において強度増進が大きい が充てん材cの強度までは達しておらず,さらに,初期強度も低いことからアルカリ分の 溶脱を抑える効果もないと考えられ,長期耐久性を要求する固化材として適さないと判断 した.

表-4.4 固化材の検討で用いた固化材1),5) 固化材の名称

固化材a 一般軟弱土用セメント系固化材 ,密度3.12g/cm3,市販品 固化材b ス ラ グ - セ メ ン ト 系 固 化 材(1),密度2.98g/cm3,試作品 固化材c ス ラ グ - セ メ ン ト 系 固 化 材(2),密度3.03g/cm3,試作品 固化材d 普 通 ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン ト ,密度3.16g/cm3,市販品

備 考

表-4.5 固化材の検討用実験配合1),5)

粘土キラ 砂キラ 特殊

水ガラス 水 固化材

a~dの4種類 水

400 200 61(50l) 590 100 100

単位量(kg/m3

A液 B液

0 500 1000 1500

1 10 100 1000

材齢(日)

一軸圧縮強度 (kN/m2 )

充てん材a 充てん材b 充てん材c 充てん材d

0 500 1000 1500

1 10 100 1000

材齢(日)

一軸圧縮強度 (kN/m2 )

充てん材a 充てん材b 充てん材c 充てん材d

(b) 養生温度40℃

(a) 養生温度20℃

図-4.6 圧縮強度試験結果1),5)

以上により,固化材cを用いた充てん材は,初期から長期に至るまで最も高い強度を発 現できるとともにスラグによるアルカリ分溶脱低下効果も期待できることから,充てん材 の耐久性を向上させるのに効果的と考えられ,これを本工法で専用に用いる固化材(充て ん用特殊固化材)とした.表-4.6に充てん用特殊固化材の諸元を示す.

(9)

表-4.6 充てん用特殊固化材の諸元5) 密 度 (g/cm3) 3.03 比 表 面 積 (cm2/g) 3550

強 熱 減 量 ig-loss 1.2

不 溶 残 分 insol 0.2

二 酸 化 ケ イ 素 SiO2 25.1 酸化アルミニウム Al2O3 8.5 酸 化 第 二 鉄 Fe2O3 1.9 酸 化 カ ル シ ウ ム CaO 54.6 酸化マグネシウム MgO 3.5 三 酸 化 イ オ ウ SO3 4.2 化

学 成 分(

%)

主成分:ポルトランド系クリンカ,石こう,

    微粉砕高炉スラグ

(2) 水ガラスの検討

水ガラスの検討では,先の固化材cに対して水ガラスAおよび他の特殊水ガラス3種類 を組み合わせて練り混ぜた充てん材について,限定充てん工法の性能として重要な流動性 抑制に関するフレッシュ性状について比較検討した.表-4.7に試験で用いた4種類の特殊 水ガラスを,表-4.8にその配合を示す.なお,フレッシュ性状の試験については,A液・

B液混合前に流動性試験を行い,混合直後にはゲルタイム試験と流動性低下時間の測定お よび一定時間経過ごとにフロー試験を行った.ここに,流動性低下時間の測定では,容器 に入れたゲル化後の少量の充てん材をヘラによりかき混ぜ,ゲル状から塑性状に状態変化 すると考えられる粘性の増加する時間を測定したものである.図-4.7(a)に混合直後のゲル タイムと流動性低下時間を測定した結果を,図-4.7(b)にその後のフロー試験の結果を示す.

図中,充てん材A,充てん材B,充てん材C,充てん材Dとは,それぞれ水ガラスA,水 ガラスB,水ガラスCおよび水ガラスDを用いた充てん材を指す.

表-4.7 水ガラスの検討に用いた特殊水ガラス1),5)

特殊水ガラスの名称 備  考

水ガラスA 密度1.22g/cm3,モル比4.44,市販品 水ガラスB 密度1.24g/cm3,メラミン樹脂系,市販品 水ガラスC 密度1.32g/cm3,モル比3.73,市販品 水ガラスD 密度1.26g/cm3,モル比3.93,市販品

表-4.8 水ガラスの検討用実験配合1),5)

粘土キラ 砂キラ 特殊

水ガラス 充てん用 特殊固化材 水ガラスA 61(50l

水ガラスB 60(50l 水ガラスC 66(50l 水ガラスD 63(50l

100

400 200 588 100

単位量(kg/m3 特殊水ガラス

の名称

A液 B液

(10)

0.3 1.3 2.3 3.3 4.3 5.3

0 10 20 30 40 50 60 70 80

経過時間(sec)

ゲル化 流動性低下 充てん材A

充てん材B 充てん材C 充てん材D

110 120 130 140 150 160 170

10 100 1000 10000

経過時間(sec)

フロー値(mm)

充てん材A 充てん材B 充てん材C 充てん材D

3分

30分

60分 90分 3分

3分 3分

(b) フロー値 (a) ゲルタイムと流動性低下時間

図-4.7 フレッシュ性状の試験結果1),5)

図-4.7(a)より,充てん材Aのゲルタイム 9秒に比べて,充てん材B,C,Dは 17~22 秒と緩慢なゲル化性状を示した.本工法では,端部材の充てん材が空洞内に充てんされた 直後から充てんの対象範囲外へ極力流出しないために瞬時のゲル化を必要とする.A液と B液は充てん孔に注入する直前で混合するため,ゲルタイム20秒程度ではゲル化していな い充てん材が空洞内に注入されることになり,所定の端部材の壁が形成されないと考えら れた.したがって,充てん材B,C,Dは,流出防止の面で充てん材Aに比べて劣る.ま た,図-4.7(b)より,3分経過時の充てん材B,C,Dのフロー値は充てん材Aに比べて小 さい.塑性状の充てん材で空洞天端への密着充てんを図るためには,適度な流動性も必要 となることから,充てん材B,C,Dはこの面でも劣るといえる.

以上の検討から,瞬時のゲル化と塑性状の流動性に優れる充てん材が得られる水ガラス Aを本工法に用いる水ガラスとした.

なお,ここでの検討は候補材料の性状の相対比較であるが,後述する試験施工の端部材 において,側面の平均勾配がほぼ一定値に制御できたことから適切なゲルタイムであるこ と,および,充てん孔から空洞内部に注入された充てん材が一定の距離まで到達し,また,

空洞天端での空隙も認められなかったことから塑性状態でも適切な流動性を有するなど,

性能として十分満足できることを確認した1),2),3),4),5)

(11)

(3) 試験施工

試験施工は,50m以浅の浅層部(平均深度約25m)と大深度部(平均深度約68m)の2 箇所のフィールドで実際の亜炭廃坑を対象として実施した.

試験施工のうち,浅層部は実工事に先立ち実施することとしていたため,工事の計画お よび設計に必要な基本データの取得を主目的とした.浅層部の試験施工に用いた配合は,

表-4.9に示すような高強度タイプの端部材と低強度タイプの中詰材の2種類である.配合 の決定にあたっては,各材料の単位量を試行的に変化させた充てん材供試体を作製し,フ ロー値と一軸圧縮強度が目標値を満足するように室内試験を行って検討したものである.

このときのフロー値の目標値は暫定的なもので,端部材で150±10mm,中詰材で170±10mm,

一軸圧縮強度の目標値は表-4.3に示した値であった.

大深度部の試験施工は,後の実工事の比較的浅い箇所の充てん施工と同時期に行った.

大深度部の試験施工に用いた配合は実工事の配合と同じである.これを表-4.9にあわせて 示す.

試験施工における確認事項とその結果を表-4.10 に示す.表中の実施内容にある充てん 高探査とは,充てん材の接触を電圧変化により感知するセンサーを多段に取り付けたロッ ドを充てん孔の近くのボーリング孔から空洞内に挿入し,センサー位置への充てん材の到 達を管理する自動監視システムである.また,音響測深探査とは,方位性を持った超音波 送信機と受信機を取り付けたロッドをボーリング孔に挿入して,対象物からの反射波を測 定することで,対象物の位置や形状を把握する機器で,最初に充てんする端部材の連続し た壁形成による閉塞状況を計測するために用いた.なお,通常,音響測深探査は空洞内の 残柱や空洞範囲を把握するための事前調査にも用いられる.確認ボーリングとは,充てん 材の固化後にボーリングを行い,充てん材と空洞天端の間の空隙の有無を確認し,また,

原位置での充てん材の圧縮強度を調査するためのコア採取を行うものである.以上,表の ように,浅層部および大深度部ともに,端部材の閉塞と空洞天端への密着充てんおよび充 てん材の品質について,所定の性能を満足していることを確認した.

表-4.9 試験施工の配合5)

粘土キラ 砂キラ 特殊

水ガラス 水 充てん用 特殊固化材 水 高強度タイプ

(橋梁部) 端部材 360 180 61.0(50l) 585 120 120 低強度タイプ

(土工部) 中詰材 340 170 12.2(10l) 663 100 100

端部材 360 180 48.8(40l) 595 120 120

中詰材 360 180 24.4(20l) 575 150 150

浅層部

大深度部 高強度タイプ

(橋梁部)

配合種別

単位量(kg/m3

A液 B液

(12)

表-4.10 試験施工における確認事項とその結果5)

浅層部(平成11年度) 大深度部(平成12年度)

充てん材の種別 ―――― 1) 橋梁部端部材,2) 土工部中詰材 1) 橋梁部端部材,2) 橋梁部中詰材

充てん量 ―――― 1) 1,018m3,2) 236m3,計 1,254m3 1) 3,430m,2) 1,090m,計 4,520m

地表からの深さ ―――― 約25m 約68m

充てん高探査により,端部充てん材の到

達距離を確認する. 12箇所の端部材充てんについて,周辺 の観測孔(3~5本/箇所)で充てん高探 査により充てん材の到達距離を確認し た結果,平均最小到達距離は4.6mで あった.これにより,本工事での端部 材充てん孔間隔を4mの2倍の8mとし

・3m,3.5m,4m位置で到達を確認し た.

・平均最小到達距離は5.1mであった.

2m間隔に設けた観測孔により端部形 状(勾配)を確認する.

端部材充てんの勾配は24.1%および 17.0%で平均20.6%.

端部材充てんの勾配は19.2%および 20.6%で平均19.9%.浅層部と同程度の 勾配であった.

中詰材充てんの前後に,閉塞した端 部材の形状を外側から音響測深探査 により観察することで,端部材から の中詰材の漏洩を確認する.

端部材5箇所中の2箇所から当初中詰材 の多少の漏洩があったが,充てんの進 行とともに自然に閉塞した.

漏洩は認められなかった.

充 て ん 性 確認ボーリングにより充てん材と空 洞天端の空隙の有無を確認する.

空洞天盤部での空隙は認められなかっ た.(8孔実施)

空洞天盤部での空隙は認められなかっ た.(5孔実施)

a) 流動性試験, すべて目標値を満足した.

b) ブリーディング試験,

c) ゲルタイム測定, (目標値)ブリーディング率:3%以下 (目標値)ブリーディング率:3%以下

d) フロー試験 フロー値:橋梁部端部材 150±10mm フロー値:橋梁部端部材 160~180mm

     土工部中詰材 170±10mm      橋梁部中詰材 180mm以上

e) 室内養生供試体の一軸圧縮試験 すべて目標値を満足した. すべて目標値を満足した.

f) 原位置コア供試体の一軸圧縮試験 e) 橋梁部端部材430~1040kN/m2 e) 橋梁部端部材 712~1240kN/m2

  平均790kN/m2   平均 959kN/m2

土工部中詰材170kN/m2 f) 橋梁部端部材 1110~1470kN/m2

f) 橋梁部端部材403~896kN/m2   平均 1277kN/m2   平均570kN/m2 橋梁部中詰材 895~1340kN/m2

  平均 1049kN/m2

(目標値)橋梁部端部材400KN/m2以上 (目標値)橋梁部端部材 400KN/m2以上   土工部中詰材100KN/m2以上   橋梁部中詰材 400KN/m2以上 g) 水道法での水質試験

h) 原位置試験(pH,SS,水位)

g) 充てん前・充てん後 46項目 g) 充てん前・充てん後 46項目

充てん中 17項目 充てん中 10項目

水質試験

充てん施工による変化は認められな かった.

充てん施工による変化は認められな かった.

フレッシュ性状

フロー値が若干目標値を下回るものが あったが,他は全て目標値を満足し

強 度

確認事項 実施内容 試験施工結果

空洞

勾配 土被り

到達距離

端部材

出 来 形

水質試験の調査箇所は,充てん範囲から 20~220mの範囲に位置する既設井戸 2 箇所,

地表より3~5mの沖積層に滞水している地下水3箇所,空洞水3箇所および河川水1箇所

の計9箇所である.これらの箇所において採取した水について,水道法に定められた水質 試験として,充てん前と充てん後には全46項目について,充てん中には浅層部で17項目,

大深度部で10項目について行った.その結果,いずれの項目も,充てん前,充てん中およ び充てん後において大きな変化は認められなかった.また,原位置で水素イオン濃度 pH および浮遊物質量SSおよび水位測定を行った.原位置でのpHおよびSSの試験結果を図 -4.8 に示す.pH については充てん材からのアルカリの溶出による上昇が懸念されたが,

図からわかるように,ほとんど変化は認められなかった.なお pH が総理府排水基準の下 限値 5.8 を下回る値もあったが,充てん前からの値であることから,もともとある当地の 水質の傾向と推察された.以上の結果は,水ガラスのゲル化が充てん材の水への希釈防止

(13)

に有効であることを示すものと考えられ,本工法は周辺の水環境に対しても影響を与える ことのない工法であるといえる1),2),3),4),5)

0 50 100 150 200

9/1 9/15 9/29 10/13

浮遊物質量SS (mg/l)

井戸 地下水

空洞水 河川水 総理府排水基準 200mg/l

充てん期間:9月2日~10月14日 5

6 7 8 9

水素イオン濃度pH

総理府排水基準 上限値 8.6

下限値 5.8

図-4.8 浅層部試験施工におけるpHとSSのモニタリング結果1),5)

(14)

4.2.4 工法の実工事への適用と検証

(1) 実工事における充てん材の配合の検討

限定充てん工法を実工事に適用するに際し,充てん材の強度のばらつきに基づいた配合 強度の設定を行い,その配合強度とおよび同時にフロー値の目標値を満足する実工事の配 合について検討した.

a) 配合強度の設定

充てん材の強度特性において無視できない要因の 1つに,施工に起因するばらつきがあ る.そのため,充てん材の設計基準強度を設定するためには,同一配合における強度のば らつきを考慮して配合強度を設定する必要がある.ここでは,コンクリート標準示方書に 示される方法で割り増し係数を算出して設定することとし,浅層部試験施工の充てん材製 造プラントで製造した橋梁部端部材の充てん材スラリーをサンプル採取して,標準養生

(20℃水中養生)を行い,一軸圧縮試験を行った.その試験結果を図-4.9に示す.図に示 した統計値より,充てん材の強度が基準強度を下回る確率を 5%とした場合,基準強度に 対する配合強度の割り増し係数は,図より,790/559=1.41 と計算された.これにより,橋 梁部および土工部の充てん材の配合強度を,それぞれの基準強度400 kN/mおよび100 kN/

に割り増し係数を乗じ,565 kN/mおよび141 kN/mと設定した.なお,この割り増 し係数は実機プラント製造による強度のばらつきの影響を含んだものになっているが,

20℃標準養生の温度と実際の空洞内での養生温度の違いによる差や,空洞内に実際に注入 された充てん材が残柱や堆積物などから受ける流動障害や混入の影響は反映されていない.

これらの要因による強度への影響については,(5) 実工事への適用と検証の項において述 べる.

0 1 2 3 4 5 6

400 500 600 700 800 900 1000 1100 一軸圧縮強度(kN/m2

試料数

試 料 数 16 平 均 値 790kN/m2 標 準 偏 差 141kN/m2 変 動 係 数 17.80%

図-4.9 橋梁部端部材の強度1),5)

(15)

b) 配合の検討

配合の検討を行うために,各構成材料の単位量を変化させた配合試験を行い,配合要因 による充てん材のフロー値および強度への影響を検討した.変化させた単位量の範囲は,

粘土キラ:340~440 kg/m3,砂キラ:170~220 kg/m3,充てん用特殊固化材:70~150 kg/

3,特殊水ガラス:12.2~61.0 kg/m3,水:695~766 kg/m3である.この条件で,26種類 の配合を練り混ぜ,フレッシュ状態でのフロー値,および標準養生(20℃水中養生)の供 試体の28日材齢で圧縮強度を測定した.

試験結果から,充てん材のフロー値と圧縮強度に与える影響が顕著な配合パラメータを 選定した.これらの関係をそれぞれ図-4.10(a)および(b)に示す.図-4.10(a)より,フロー 値は,水の単位量 Wと特殊水ガラスの単位量 WGによる配合パラメータ W-0.4WGとの相 関が高く,寄与率 R2 は,R2=0.887 であった.また,図-4.10(b)より,圧縮強度には,W および充てん用特殊固化材の単位量Cの他に,特殊水ガラスの強度増加への寄与も考慮し てWGを組み合わせた配合パラメータW/(C+0.45WG)0.4の相関が高く,R2=0.811であった.

なお,それぞれの配合パラメータにおける係数は,最も相関が高くなるように試行によっ て求めた値である.

得られた配合パラメータと品質特性の回帰式から,前項で示したフロー値の目標値と配 合強度の目標値の両者に同時に適合する配合を表-4.11 のように設定した.ただし,配合 を決定する条件として,この他に,表-3.8(b)に示した従来の配合と同様に,粘土キラと砂 キラの比率を 2:1 とし,またそれぞれの単位量を従来の単位量に近い値とした.表-4.11 には,その配合としたときのフロー値と圧縮強度を回帰式によって算出した値を推定値と して示した.

y = 0.7613x - 360.99 R2 = 0.887 125

150 175 200 225

650 670 690 710 730 750 770 W-0.4WG (kg/m3)

フロー値 (mm)

0 200 400 600 800 1000 1200

90 95 100 105 110 115 120 W/(C+0.45WG)0.4

一軸圧縮強度 (kN/m2 )

=1.272×1015・x-6.17 =0.811

(a) フロー値 (b) 一軸圧縮強度 図-4.10 影響因子による分析5)

(16)

表-4.11 実工事の配合および品質の推定値と実測値5)

ゲルタイム

(sec)

Kc Ks WG C W

端部材 360 180 48.8(40l) 120 715 160180 171 173 8.8 400 565 620 734

中詰材 360 180 24.4(20l) 150 725 180以上 186 180 5.9 400 565 776 771

端部材 360 180 48.8(40l) 90 724 160180 179 169 10.5 100 141 317 314

中詰材 340 170 12.2(10l) 100 763 180以上 219 210 5.4 100 141 200 196

低強度タイプ

(土工部)

配合強度 推定値 実測値

高強度タイプ

(橋梁部)

推定値 実測値 実測値 目標値 (基準強度) 配合種別

単位量(kg/m3 フロー値(mm 一軸圧縮強度(kN/m2 粘土キラ 砂キラ 特殊

水ガラス

充てん用 特殊固化材

目標値

なお,冬期において,充てん材スラリーの練り上がり温度が低下するとともに,凝結や 強度発現が遅延する可能性があることから,養生温度が低下したときの強度についても検 討した.練り上がり温度をもとにした温度解析により,冬期の養生温度は10℃程度と推定 されたため,養生温度を低下させた供試体の一軸圧縮試験を行った.図-4.11 に,養生温

度を10℃および5℃としたときの一軸圧縮試験結果を,養生温度20℃の場合と同じ方法で

整理した結果を示す.表-4.11 の配合はこの冬期養生温度の低下の影響も考慮して決定し たものである.

0 200 400 600 800 1000 1200

90 95 100 105 110 115 120 W/(C+0.45WG)0.4

一軸圧縮強度(kN/m2 )

10℃

5℃

20℃

図-4.11 養生温度による一軸圧縮強度と影響因子5)

次に,表-4.11 の配合で,あらためて実験室で充てん材の供試体を作製してフロー試験 を行い,また,20℃の標準水中養生を行った28日材齢で一軸圧縮強度試験を行い,設定し た配合による品質を確認した.その結果も表に実測値としてあわせて示した.表より,フ ロー値および一軸圧縮強度の実測値はいずれも推定値に近い値を示し,目標値を満足した ことから,この配合を実工事における配合とした.

(17)

(2) 実工事における充てん材の強度特性 実工事の概要は以下のようである.

工事件名:平成12年度東海環状可児亜炭坑充填工事 工事場所:岐阜県可児郡御嵩町顔戸~可児市柿田 発注者:国土交通省中部地方整備局多治見工事事務所 工 期:平成13年3月16日~平成14年10月31日 削孔工:総延長54,145m

充てん量:81,147m3

実工事においても,充てんの出来形として,確認ボーリングの 48箇所すべてにおいて充 てん材と空洞天端の間に空隙がないことを確認した.これは音響測深探査による事前の空 洞内部状況の把握と施工管理,充てん高探査による充てん材の到達管理に加え,空洞内の 水を閉じ込めないように充てん材を標高の低い箇所から順に充てんしたことなどの施工手 順も有効であったためと考えられる.

次に,実工事における充てん材の一軸圧縮試験結果のヒストグラムを図-4.12 に示す.

図中,室内養生とは,日常管理として,充てん材製造プラントで製造される充てん材をサ ンプル採取し,室内で標準養生(20℃水中養生)を行った材齢28日の供試体の一軸圧縮試 験結果である.原位置コアとは,空洞内充てん材を28日目以降に確認ボーリングで採取し,

成形して一軸圧縮試験を行った結果である.

図より,室内養生および原位置コアのすべての試験結果(データ数418試料)は,基準 強度を上回り,要求品質を満足した.しかし,いずれの配合種類においても,室内養生お よび原位置コアともにばらつきが大きく現れた.なかでも,橋梁部中詰材,土工部端部材 および土工部中詰材の配合種類では,室内養生の場合より原位置コアの場合の方がばらつ きが大きく目立つ結果であった.原位置コア強度のばらつきが大きかった理由としては,

空洞内の残柱などによる流動障害や残置された土塊および堆積物混入の影響を受けたこと が考えられる.また,充てん時の圧送圧力による締め固め効果による密度増加の影響によ りばらつきが大きくなったことも考えられる.図-4.13 に,室内養生と原位置コアについ ての一軸圧縮強度と密度の相関図を示す.図より,室内養生の密度の分布する範囲は1.35

~1.50g/cm3 程度であるのに対して,原位置コアの密度分布範囲は 1.35~1.58g/cm3 程度 と,ばらつきが大きく,また全体的に大きくなっていることがわかる.しかし,強度と密 度の相関は,両者のばらつきの影響もあり,明確ではなかった.

また,図-4.12 において,各配合の室内養生強度と原位置コア強度を比較すると,橋梁 部端部材と橋梁部中詰材では,室内養生と原位置コアの場合で,ほぼ同じ傾向の強度の分 布であったが,土工部端部材と土工部中詰材の場合は,原位置コア強度は室内養生強度よ

(18)

り大きな値を示す傾向であった.平均値でみても,原位置コア強度は室内養生強度の約1.5 倍の値であった.室内養生強度より原位置コア強度が大きくなる場合,その原因としては,

一般に,養生温度の違いによる促進効果,充てん時の施工状況による状態変化などが考え られるが,養生温度については室内養生の温度を20℃としていることから,空洞内の水温 がこれ以上であったとは考えにくい.また,特に土工部でこのような傾向が現れたことを 考えると,土工部充てん材では固化材単位量を少ない配合としているため,充てん時の圧 送圧力による締固めの影響を大きく受け,充てん材が圧密脱水されて密度増加したことで 強度が増加したものと推察される.

図-4.12 実工事における充てん材の強度試験結果ヒストグラム3),5) (d) 土工部中詰材 (c) 土工部端部材

(b) 橋梁部中詰材 (a) 橋梁部端部材

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100

一軸圧縮強度 (kN/m2)

試料数(室内養生)

0 1 2 3 4 5 6 7 8

試料数(原位置コア

室内養生 原位置コア

室内養生 原位置コア 平均値 979 829 標準偏差 232 191

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100

一軸圧縮強度 (kN/m2)

試料数(室内養生)

0 1 2 3 4 5 6 7 8

試料数(原位置コア

室内養生 原位置コア 平均値 938 1150 標準偏差 231 406

室内養生 原位置コア

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100

一軸圧縮強度 (kN/m2)

試料数(室内養生)

0 1 2 3 4 5 6 7 8

試料数(原位置コア

室内養生 原位置コア

室内養生 原位置コア 平均値 432 636 標準偏差 134 265

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 2000 2100

一軸圧縮強度 (kN/m2)

試料数(室内養生)

0 1 2 3 4 5 6 7 8

試料数(原位置コア

室内養生 原位置コア 平均値 429 661 標準偏差 114 349

室内養生 原位置コア

(19)

0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000

1.30 1.35 1.40 1.45 1.50 1.55 1.60 密度 (g/cm3)

一軸圧縮強度 (kN/m2 )

橋梁部端部材 橋梁部中詰材 土工部端部材 土工部中詰材

0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000

1.30 1.35 1.40 1.45 1.50 1.55 1.60 密度 (g/cm3)

一軸圧縮強度 (kN/m2 )

橋梁部端部材 橋梁部中詰材 土工部端部材 土工部中詰材

(b) 原位置コア (a) 室内養生

図-4.13 実工事における充てん材の一軸圧縮強度と密度の相関5)

次に,充てん工事にともなう地下水および空洞内水質への影響を調べるために,既設井 戸,地下水および空洞水について,水質モニタリング(pH,SS)を行った.その結果,全 体的に降雨により水位,SSに多少の変化はあるものの,試験施工の際と同様な傾向で,工 事によると考えられる著しい水質の変化は認められなかった.

さらに,事前に材料および充てん材について,「環境省告示第46号 土壌の汚染に係る環 境基準について(土壌環境基準)」に規定される項目のうち,表-4.12に示す項目について 溶出試験を実施した.その結果,いずれの項目においても基準に適合していることを確認 した1),2),3),4),5)

表-4.12 材料と充填材の溶出試験項目5) 項  目 粘土キラ

砂キラ

カドミウム,全シアン,鉛,六価クロ ム,総水銀,セレン,フッ素,ホウ素 特殊水ガラス カドミウム,全シアン,鉛,六価クロ ム,総水銀,セレン,フッ素,ホウ素 六価クロム

原材料

分  類

充てん材

(3) 充てん材の長期耐久性の検証

4.2.3 工法開発の試験において緩勾配タイプに用いる固化材と水ガラスについて,これ らを用いた充てん材の長期耐久性を考慮した材料の検討および選定を行った過程を説明し たが,その耐久性を検証する目的で,後の実工事の際に充てん材製造プラントで製造した 充てん材スラリーを採取して供試体を作製し,長期の水中養生を開始した.これは空洞内

(20)

に充てんされた充てん材端部材は,充てんエリア外の空洞水に接した環境となるため,長 期間経過後に水にアルカリ分が溶出して強度低下を招くことがないかを確認するためであ る.充てん材の配合は表-4.3の高強度タイプの端部材と中詰材に相当する 2 種類である.

図-4.14 に材齢 2 年までの一軸圧縮試験結果を示す.図より,この材齢の範囲では,端部 材および中詰材ともに強度が増加している.

0 500 1000 1500 2000 2500

10 100 1000

材齢(日)

一 軸圧縮 強度 (k N /m

2

) 端部材

中詰材

2年

図-4.14 標準養生を行った供試体の長期材齢と強度(高強度タイプ)5)

一方,実工事で施工した土工部充てん材(低強度タイプ)を,約4年の長期間を経過し た後,現地でコアサンプリングし,一軸圧縮試験を行った.サンプリング位置は,施工当 時に空洞内に充てんした充てん材の強度を確認するためのコア採取を目的とした確認ボー リング位置の直近である.

図-4.15 にこのときのボーリングコアを示す.図より,充てん材と上下面の亜炭層とは 完全に密着した状態であった.また,充てん材はきれいな棒状で採取された.図の写真で はいくつかに分割されているが,これはコア抜き出しにともなって分離したものである.

また,空洞下部に存在していたと思われる堆積土砂にも充てん材が脈状に入り込んで固化 しており,ここでも充てん工法の良好な充てん性を確認できた.

図-4.16 に,この採取コアの長期材齢強度を,当時の直近で行った確認ボーリングによ る4週材齢経過後の強度からの変化として示す.図より,長期間経過により端部材および 中詰材ともに強度は大きく増加しており,劣化の傾向は認められない.なお,図-4.14 の 試験結果は室内で水中養生した供試体の強度であるが,図-4.16 の試験コアは,空洞内に 充てんされた充てん材の上下端面および水と接触する側面から一定の距離がある内部から 採取したものであることから,こちらの結果の方がより現実を反映していると考えられる.

図より,この材齢の範囲では,強度上からみた耐久性に関する問題はないといえる.

(21)

BU-1 中詰 深度 17.50m

17.55m

18.15m

19.00m

19.20m

19.50m

BU-2 端部 深度 9.00m

9.15m

9.25m

9.65m

9.95m

10.00m

地層 記事

軟岩 砂岩。硬いCLクラス

亜炭 炭化が進んでいる。岩片状に砕ける 逸水は認められない。

充填材 比較的硬い。青緑色。

逸水は認められない。

堆積土砂+充填材 やや軟弱。土砂の中に充填材が流入している。

逸水は認められない。

亜炭 炭化している。硬い。

地層 記事

軟岩 泥岩。硬いCLクラス

亜炭 炭化が進んでいる。岩片状に砕ける 逸水は認められない。

亜炭 炭化している。硬い。

充填材 比較的硬い。青緑色。

逸水は認められない。

堆積土砂+充填材 やや軟弱。上部は土砂主体下部に充填材が流入してい る。逸水は認められない。

図-4.15 長期強度確認のために行ったボーリングコア 充てん材

やや軟弱。土砂の中に充てん材が流入している。

堆積土砂+充てん材

充てん材

やや軟弱。上部は土砂主体下部に充てん材が流入してい 堆積土砂+充てん材

(22)

図-4.16 原位置コア供試体の長期材齢と強度(低強度タイプ)

0 200 400 600 800 1000 1200 1400

10 100 1000 10000

材齢(日)

一軸圧縮強度 (k N /m

2

)

端部材 中詰材 (当時)

35日 55日

4年 4年

また,採取したコアを粗砕した後,40℃の乾燥機中で乾燥し,鉢で微粉砕したものを試 料として,X線回折測定を行った.測定結果を図-4.17に,解析によって確認された鉱物を 表-4.13にまとめた.

図および表より,セメント系水和物関連鉱物のエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4

32H2O)やカルシウムアルミネートシリケート水和物(2CaO・Al2O3・SiO2・8H2O)が確

認されたことから,施工当時の水和物が現在も維持されていることがわかる.また,いず れの試料でもカルサイト(CaCO3)が確認されているが,これは当時の充てん材練り混ぜ 用に用いた水に含まれていた炭酸ガスとセメント系材料との反応により生成したものと考 えられる.なお,この他に確認された石英,正長石,イライトおよびカオリナイトは,粘 土キラおよび砂キラに含まれていた土壌関連鉱物である.

回折強度cps

土工部端部材 土工部中詰材

(23)

表-4.13 原位置コア供試体のX線回折解析結果

エトリンガイト ○ ○

カルシウムアルミネート

シリケート水和物 ― ○

カルサイト ○ ○

石英 ◎ ◎

正長石 ○ ○

イライト ○ ○

カオリナイト ○ ○

端部材 中詰材         試料名

確認鉱物

◎;主な確認鉱物(最強ピーク),○;確認鉱物,―;確認されず

採取したコアについて,自然界に存在して含有の可能性が疑われる10項目について行っ た溶出試験の結果を表-4.14に示す.表より,すべて「土壌の汚染に係る環境基準」(環境省 告示第46号)に適合しており,長期間経過後の溶出特性にも問題がないことが示された.

なお,施工当時も六価クロムの溶出試験を低強度タイプの中詰材で10試料,端部材で8試料 実施しているが,いずれも表示下限値以下であり土壌環境基準に適合していた.

以上により,本工法の充てん材の長期耐久性に関する問題はないと考えられる.

単位  基準値 ※ 中詰材 端部材 カドミウム Cd mg/L 0.01以下 <0.001 <0.001 全シアン CN mg/L 検出されないこと 不検出 不検出

鉛 Pb mg/L 0.01以下 <0.005 <0.005

六価クロム CrⅥ mg/L 0.05以下 <0.04 <0.04

ヒ素 As mg/L 0.01以下 <0.005 <0.005

総水銀 Hg mg/L 0.0005以下 <0.0005 <0.0005 ホウ素 B mg/L 1 <0.1 <0.1

セレン Se mg/L 0.01以下 <0.002 <0.002

フッ素 F mg/L 0.8 0.3 0.2

銅 Cu mg/kg 125 <0.5 <0.5

適合 適合 試

験 結 果

合否判定

(試験機関:(株)ユニチカ環境技術センター中部事業所)

※基準値;「土壌の汚染に係る環境基準」(環境庁告示第46号)

表-4.14 原位置コア供試体の溶出試験結果

(24)

4.3 急勾配タイプの開発と施工

4.3.1 必要とする性能

緩勾配タイプの充てん材端部材は,亜炭廃坑や地下壕などのように空洞高さが比較的低 い場合は,充てん孔から注入された充てん材は周囲に数mの広がりでとどまるが,高さの 高い大きな空洞の場合には,膨大な充てん量になる課題があった.わが国には地下採石場 のように,数10mの高さに及ぶ巨大な空間が形成されている地下空洞がある.急勾配タイ プの限定充てん工法を開発することになった契機は,宇都宮市にある大谷石採石場跡の地 下空洞上を通過する道路の一部が陥没し,その事後対策として充てん工事が検討されたこ とであった.当該箇所は 1 つの採掘範囲の端の方に位置し,道路直下での空洞高さは 3m 程度と,同採石場跡としては低い方ではあるが,これまで充てん工法が施工の対象として きた空洞高さの実績のなかでは最も高い部類に入ること,内部に地下水が侵入していない ことおよび下盤が対象範囲外の方向に傾斜していることもあって,高流動性充てん工法の 充てん材はもとより,緩勾配タイプの充てん材を適用したとしても大量に対象範囲外の空 洞部分に流出すると想定された.このため,地下水の侵入のない空洞で緩勾配タイプの標 準勾配 1:5 を超える勾配で高さが 3m以上の隔壁が形成できる端部材を開発することとし た(図-4.1参照).

4.3.2 工法に用いる材料と施工法

表-4.15 に急勾配タイプ端部材の流動性制御のために添加する急結剤の諸元の例を示す.

急結剤は,一般に,セメントおよび水との反応で,セメントの水和反応を早めて凝結時間 を著しく短くする混和剤である.表に示した急結剤は,水との反応性を弱めたスラリー急 結剤(水と混合して添加する粉体急結剤)で,カルシウムサルフォアルミネートを主成分 としているため,エトリンガイトの生成による早期の強度発現が期待できるものである.

表-4.16 に急勾配タイプ充てん材の配合例を示す.ここに,特殊土用固化材とは,一般 軟弱土から有機質土の固化まで様々な土質に対応し,特に六価クロム溶出量が土壌環境基 準を上回るおそれがある土(特殊土)からの六価クロム溶出量を低減することを目的とし た市販の固化材である.特殊土用固化材は,近年,高流動性充てん工法にも用いられるこ とが多い.緩勾配タイプでは,A 液をキラ,水ガラスおよび水の混合液,B液をセメント ミルクとして,この両液を空洞注入直前に混合していたが,急勾配タイプではA液を脱水 ケーキ(粘土キラ相当),固化材および水の混合液,B液を急結剤と水の混合液として製造 し,最後に両液を混合する.このように充てん材の製造過程が緩勾配タイプと異なるが,

充てん孔までの両液の移送や空洞内への注入などの施工方法は,基本的に同じである.

(25)

表-4.15 急結剤の諸元の例

主成分 密 度 形 態 品 質 備 考 カルシウムサル

フォアルミネート 2.65~2.95 灰白色粉末 JSCE-D-102-

2001に適合 市販品

表-4.16 急勾配タイプ充てん材の配合例

脱水 ケーキ

特殊土用

固化材 水 急結剤 水

450 100 701 20 100

単位量(kg/m3

A液 B液

4.3.3 工法開発の試験

工法開発の試験では,急勾配タイプの端部材として必要な基本性能を,空洞高さが 3m 以上で,内部に地下水が浸入していない状況下でも,打設したときの側面の勾配が 1:2.5 以下となることを目標とした.この目標を満足する配合を検討するために,多数の配合を 変化させた充てん材の小規模な打設試験を行い,あらかじめ候補とする配合を選定した.

次に,実際の施工に近い規模を想定して,フィールドで充てん材を製造および打設する 試験施工を行った.試験施工では,実大スケールに近い条件下で端部材による急勾配の隔 壁が形成できることを確認することを目的とした試験(以下,勾配試験とよぶ)を行った.

また,急結剤により急激な凝結が進むことから,空洞内に注入される充てん材が,先に注 入された充てん材を連続して押し広げることができることを確認する試験(以下,押し広 げ試験とよぶ)も合わせて行った.この目標値を,図-4.18のように2m以上とした.

図-4.18 工法開発の試験における端部材の必要性能の概念12) 到達距離

2m以上

空洞 地盤 充填孔

2.5以下 勾配 1

端部材 押し広げ

参照

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