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ゼミ論  第一章

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「日本における外国人児童生徒の教育」

国際学部国際学科

20327265

横山 真梨子

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目次

はじめに 第1章 外国人児童生徒問題とは 1.外国人児童生徒の増加 2.不就学・不登校の現状 3.学校の中の子どもたち 第2章 外国人児童生徒への取り組み 1.外国人児童生徒への対応 (1)文部科学省の取り組み (2)県・市教育委員会の取り組み (3)市民団体、地域ボランティアの取り組み 2.外国人集住都市会議の取り組み 第3章 多文化教育の展望 1.多文化教育の必要性とねらい 2.日本における外国人学校 (1)ブラジル人学校 (2)朝鮮学校 (3)定住化に向けた外国人学校の設立は可能か 3.多文化教育のあり方――多文化主義国に学ぶ (1)カナダの多文化教育 (2)ESLカリキュラムの実践――アメリカの事例 4.日本の公立学校におけるJSLカリキュラムの展開 5.ボランティア活動を通して 6.多文化教育の課題と展望

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はじめに

今日、日本社会において外国人は労働力として欠かせない存在であり、外国人登録者の数は 年々増加している。中でも出稼ぎ労働者としてやって来た日系人をはじめとする外国人の子どもたち をめぐる教育問題が近年、深刻になっている。日本の公立の小・中学校で日本語教育が必要な外 国人児童の数は約2万人にのぼり、国際結婚や帰化など様々な文化的背景を持つ子どもたちは、 日本の学校に通いながらも小学校低学年程度の日本語力、漢字が読めない、学校に通えないと いった様々な問題を抱えている。その結果、不登校・不就学といった問題も浮上し、迅速な対応が急 がれている。子どもたちの多くは、ポルトガル語、中国語、スペイン語を母国語とする生徒が大多数 である。様々な教育上の問題には、日本政府や教育機関の対応が求められている。 日本は外国人児童生徒の存在をどのように捉え、どう対策をとるべきだと考えているのか。現在、 日本語専任教師を配置し、日本語指導教材を作成するなどの動きがあり、日本語を教えるボラン ティアが必要とされている。私がこのテーマを選んだ理由の一つも、実際に私自身が小学校で外国 人の子どもたちに教科学習のボランティアをすることになり、日本の外国人児童生徒の教育につい て関心を持つようになったためである。しかし、子どもたちに接すれば接するほど、彼らの学習意欲 のばらつき、家庭内の諸事情が見えてくる。本を通して見ていた問題が自分の目の前にあり、その都 度日本の将来を真剣に考えることの必要性を実感する。 さらに、少子高齢化が急速に進む日本は、今後日本への外国人移民者受入れ数を増やすことが 不可欠になるといわれている。中でも技術者、専門家などの需要は高まり、日本は外国人労働者な しでは現在の日本社会構造を維持することさえ出来なくなると考えられる。日本に限らず外国人移民 者の受入れはヨーロッパ各国でも重視され、積極的に受け入れを認めている国は多い。 本論文では、前文で挙げた日系人同伴者の子どもたちに加え、主にニューカマーと呼ばれるブラ ジル人、そしてインドシナ難民として日本にやって来たヴェトナム人やカンボジア人の外国籍の子ど もたちにおける教育問題について考察する。2003 年の統計によると、インドシナ出身者は外国人登 録者総数191 万 5030 人の 1.5%程度にすぎないと報告され、人数の少なさ、年月の経過によるイン ドシナ難民に関する記憶の忘却から、彼らは忘れられがちな存在となってしまっているように思える。 しかし、インドシナ出身定住者の多くは難民とその呼び寄せ家族という背景をもっているため、帰国 を予定していないケースが多い現在でも言語がネックとなって教育環境の中で困難な状況にある子 どもたちがいる。 今後、各教育機関は外国人児童生徒を対象としてカリキュラムの改編を行うなど、現在の教育方 針を見直さなければならない。日本政府は外国人学校の位置づけを怠ってきたとも言われ、外国人 児童生徒たちが自らのアイデンティティを喪失せずに、日本社会で豊かに共生していくためには、国 はどう対処していくべきなのか。 第1章では、日本の外国人児童生徒が抱える問題と現状を挙げ、第2章は文部科学省や教育機 関の対応を考察する。第3章では外国人学校と公立学校の比較から、多文化教育の展望を考えて いく。また、多文化教育の成功例としてあげられることの多いカナダやアメリカのカリキュラムを通して、 より将来性のある日本の多文化教育を展開する方法を考察していく。

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第1章 外国人児童生徒問題とは

1、外国人児童生徒の増加 2005 年現在、文部科学省によると日本語指導が必要な外国人の生徒数は 1 万 9000 人と報告される。 1980 年代後半から増えてくる中国、ブラジル、フィリピン、ペルーなどの出身国の滞在長期化が進むに つれ、子どもの「不就学」「不登校」が問題となっている。外国人の多住自治体が多い静岡県、愛知県、三 重県など東海地方では全国的に知られる以前から、「学校をやめる子どもたち」や「学校へ行かない子ど もたち」のことが議論の焦点となっていた[宮島・太田 2005:1]。 では、外国人の子どもとは誰を指すのか。1980 年代まで、外国人登録をしている中で圧倒的多数を占 めるのが韓国・朝鮮の人たちであった。多くは日本の朝鮮支配時に自らの意志で来日したか、強制連行 された人々であるが、現在その子孫は第3 世代、第 4 世代になり日本語に問題はないとみられる。このよ うなオールドカマーの定住外国人と対照的なのがニューカマーの子どもたちであり、その中でも70年代か ら注目され始めたのが中国帰国者である。横浜・神戸・長崎など華僑社会の人たち、日中平和条約締結 後の中国帰国者の家族、留学生や就学生、そして就労目的で来日した人などの子孫にあたる。 1980 年代に入ると主に東南アジアの女性、ヴェトナム、ラオス、カンボジアのインドシナ 3 国などから来 日する「難民」と、1989 年に日本が「出入国管理及び難民認定法1」を改定したことによるブラジル人の増 加がみられた。日系移民の子孫に定住者の在留資格を与え、永住権保有者に近い在留、就労資格を認 めたことがブラジル人増加の要因である。このほか、フィリピン、アメリカ、イギリス、タイ、ヴェトナムなどの 人たちも急増している。しかも、家族を伴って入国するケースが増加していることから住宅や教育など外 国籍の家族の処遇という課題に直面することになった。教授言語である日本語が理解できない子どもた ちが日本の学校に就学するケースが増え、外国人の子どもの教育が大きな問題として浮かび上がってき たのである[中西 1995:1-3]。 文頭でも述べたが、日本語指導が必要な外国人児童・生徒の数は1 万 9000 人とされており、最近の 調査(2005 年 9 月 1 日実施)によると、公立の小・中・高等学校に在籍するその数は、小学校 12,523 人、 中学校5,317 人、高等学校 1,143 人となっている。子どもたちの母国語別にその状況をみると、ポルトガ ル語の数が6,772 人で最も多く、次いで中国語 4,913 人、スペイン語 2,665 人、フィリピノ語(タガログ語) 1,523 人、韓国・朝鮮語 849 人、ヴェトナム語 648 人、英語 528 人となっている。 ここで触れておかなければならないのが、近年増えつつある新しい形の外国人の子どもたちである。親 に同伴して来日した子どもたちとは異なり、外国人の親のもとに日本で生まれ、日本で育つ子どもたちで ある。彼らは編入や転校ではなく初期の段階から日本の学校に通うケースが多く、そのため日本語の日 常会話に問題はないといえる。しかし、彼らもまた中学・高等学校へと進学するには足りない日本語力で あり、前者と同様、学校内および家庭内で多くの問題を抱えるのである。本論文では後者も考察の対象 に含める。 子どもたちの居住地は、特定の地域に集中する傾向にあるものの全国的規模に拡大し、すべての都 道府県に及んでいる。最も多いのは愛知県、次いで神奈川県、静岡県、東京都、大阪府となっており、地 域によってはニューカマーの子どもが1クラスに10人近く在籍する学校も現れている[太田 2000:14]。 1 本邦に入国し、又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を図るとともに、難民の認定 手続を整備することを目的とした法律。

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このように、日本の小・中学校は日本語のできない子どもの就学という未だ経験したことのなかった事態 に直面し、日本語学習の保障、学力保障などの課題が提起されている[中西 1995:3]。 図1 母国語別児童生徒数 (出所)文部科学省ホームページ 2、不就学・不登校の現状 日本国籍を持つ子どもたちについては、親もしくは保護者に「就学義務」が法的に課せられており、子 どもたちが不就学になることはほとんどない。一方、日本国籍を有しない子どもを持つ親には、法律上の 「就学義務」はないとされる。そのため、子どもの就学は親の意思に関わる問題となり、親にその意思が ない場合子どもが「不就学」の状況に置かれてしまう可能性がある。 日本国籍を持たない子どもたちが義務教育を受ける機会はどのように提供されるのであろうか。大きく 分けて「日本の学校」と「それ以外の教育機関」に分類できる。公立学校への就学を希望する場合、親 や保護者が地域の教育委員会に出向いて就学申請書を提出し、教育委員会が許可することによって 就学できるようになっている。ニューカマーの子どもたちが私立の小・中学校に在籍することはきわめて 稀であるようだ。「学校以外の教育機関」としては、外国人学校(民族学校)とインターナショナルスクー ルの二種類があり、前者は特定の国籍を持つ子どもや特定の民族語を母語とする子どもを対象とし、後 者は複数国の子どもを対象にしている学校である。在日コリアンの子どもの場合、9 割以上が日本の学 校に在籍しているといわれるが、ニューカマーの子どもに関しては、とりわけ公立学校に通っている場合 が多い。 最近相次いで設立されているブラジル学校に関しては、いまだ各種学校として認可されていないのが 実情で、国や自治体からの教育助成や補助金を一切受けることのできない状況にある。それゆえ、授業 料は高く、親や保護者の経済的な負担が大きくなるという問題点もある[宮島・太田 2005:19]。 「不就学」「不登校」となる要因は、第一に、日本の学校教育に参加できない子どもたちの学習困難、 学力の不適合があげられる。外国出身の子どもたちにとって、出身国と移住国との間の言語の相違が大 きな負荷となり、すなわち多くの子どもたちは学校教育で使用される言語を理解しないために、学習上

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の困難を経験するのである。外国人の子どもたちが苦手とするのが国語の授業であり、 語彙や漢字な どの学習は可能であっても内容面の理解、つまり読解力の面で学習が困難になるという。国語以外では 次いで社会科があげられる。日本語力や日本の基礎的な知識を必要とする上、生活体験の違いが大き く関わっているといえる。授業についていけない状況は、中学生の段階でよりいっそう顕著になってくる [中西 1995:53-54]。 また、教科学習の困難から、長期欠席を引き起こし、それが不登校や不就学状態へと至るケースに関 して、小中学校への就学が外国人の子どもにとっては義務でないために、学校や教育委員会が長期欠 席をしている外国人の子どもの保護者に対して積極的に登校をもとめることをしていないとういう。そして、 退学届けや除籍といった手続きが、外国人の子どもの場合、比較的容易に進められてしまう傾向にある。 外国人の子どもたちが日本の学校に在籍することによって生み出される様々な問題が、このような動きを 促すことにつながるのだろうか。不登校をめぐって、学校側が保護者に対して積極的に働きかけ、子ども の教育権の保障のために学校と保護者が教育機会を模索し、慎重な対応をしようという配慮が欠けてい ることがわかる[宮島・太田 2005:127]。 学校内の人間関係に注目すると、外国人ということでいじめにあったり、それが原因で不登校もしくは 転校という場合もある。学校内において集団で行動しなくてはならないことに違和感を持つ者や、クラス 内にグループがありなかなか友達を作れないなどといったことから、「日本人とはあまり話をしない」という 結果につながる場合がある。外国人の子ども全員がそのような悩みを持っているというわけではなく、共 通の話題や遊びで日本人の友達と交流したり、一緒に勉強したり、自国語のあいさつや国の様子につ いて話したりと、友好関係を築く子どもたちも多くいる。しかし、小学生と異なり中学生になると、次第に日 本人の友達を作るのは困難になるようである[中西 1995:27-29]。その意味で、日本の学校文化は、異 なる文化、言語、肌の色、生活習慣を持つ子どもたちを学校から排除する要素を持っているともいえる [宮島・太田 2005:127]。 以下では、制度的側面にある問題点をみていきたい。学校に通わない子どもたちが少なくない背景 の一つには、情報や周囲のサポートの欠如が考えられる。文部科学省が、県教委を通じて市教委に対 し外国人保護者への就学援助制度の周知を促す通知を行っているものの、日本の教育システムを適切 につかんでいない外国人保護者は少なくない。義務教育は無償であることや、就学援助制度が存在す ることを知らせる必要がある。 さらに、低収入、不安定な雇用、長時間労働、繰り返される転居など、保護者が抱える生活上の問題、 そして生活スタイルが、子どもの教育への支障をきたす場合がある。このような様々な問題から、高校ま で進学する者の割合は 50%程度にとどまっている。つまり、日本人の子どもに比べ、外国籍の子どもた ちが各段階において「不就学」状況に陥る可能性が高いのは、複数の制度や要因からなる構造的な問 題であり、単に外国人の子どもたちの学校嫌いや怠慢のみによって引き起こされているのではないとい える[宮島・太田 2005:33-34]。 3、学校の中の子どもたち 外国人の子どもたちが、日本の学校で抱える不安や問題は、第一に言葉の壁である。自分の気持ちが 通じないことから友達ができず、孤立する子どもも少なくない。第二に学習の壁で、日本での滞在が長い 生徒は自然に日常会話はできるようになる。しかし、学習言語の習得は困難であり、特に漢字が学習の大 きな壁となっている。そして第三の壁は、文化や生活習慣の違いによる周りの生徒との摩擦である。周り の生徒は彼らのもつ生活習慣や考え方に自分たちとは異質のものを感じ取り、中には疎外しようとする者

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もいる[梶田・松本・加賀澤 1997:28]。 第三の壁について具体的に例を上げると、例えば女子中学生の場合、服装やピアス・化粧などという 文化的要素が強く反映する問題がある。また、日本人家庭の場合、子どもが学校を休むのは一つの「事 件」であって学校に何らかの手段でその旨を連絡するのが当然と受けとめられるが、ニューカマーの家庭 では「無断欠席」は何も不思議なことではなく、連絡の必要性が理解できないとい[太田 2000:194]。 また、外国人の子どもたちは大きく3 つのケースに分けることができる。第一は日本語力も母国語の力も 低い子ども、第二は日本語力は低いが母語の力は十分な子ども、そして第三に日本語力が高まるにつ れ、母語の力が徐々に低下している子どもである。母語で抽象的、論理的な思考ができる子どもであれ ば、基礎的な学習用語や語彙を母語で橋渡しすれば、学習についていくだけの学力がつく。しかし、そ れができず、日本語力も不十分ないわゆる「セミリンガル」な子どもは学習についていけないという。こうし た意味で、母語も日本語も不十分な子どもには、日本語指導だけでなく、母語により抽象的、論理的思考 力の発展を促進させることも必要になってくるのである[中西 1995:57-60]。 このような数多くの問題に対し、「外国人」の子どもが存在するという環境を生かし、国際理解教育を実 践する学校が出てきた。その具体的な学校の対応については2 章、3 章で述べることにする。 学校は子どもへの指導のみならず、家庭との連絡や父母とのコミュニケーションも容易ではない。学校、 教師と父母との間の大きな障害もやはり言葉である。言葉が分からない場合には言葉を理解できる第三 者を介した接触となることもある。学校から家庭への連絡方法の一つである印刷物、学習に関するお知ら せ、行事、持ち物、保険関係、通知表などは、最近、各自治体が重要な連絡事項について、いくつかの 言語に翻訳した「手引き」を作成している。しかし、問題は言葉だけではなく、考え方や価値観の違いにも ある。「保護者がいくら約束しても遅れたり、来なかったりということが多い」、「電話がないため連絡のとりよ うがない」といった問題もみられる。単に文化の問題ではなく、社会経済的な要因も絡み、問題をより複雑 にしている[中西 1995:65-67]。 さらに、子どものたちは家庭内でのコミュニケーションについても問題を抱える。日本で生活する中で、 家庭内で使用する言語は次第に母語から日本語へと移行する。その理由としては多くの要因が考えられ るが、両親が仕事を持つ日系人労働者という事情がその移行を促進していることが考えられる。つまり、 親の職場では学校と同様に日本語の使用が余儀なくされ、職務上日本語の必要性を認識することとなる ためである。その結果、日系人の家庭では親も家庭で日本語を話すようになり、親子間の会話が日本語 でなされるようになっていくのである。両親の一方が日系人でない場合、母語の使用は継続されるが、両 親が長時間労働についている場合も多く、会話が日常的に限られてしまいがちである。 また、言語的なギャップを解消するべく、日本の学校が選択している方略は、「日本人と同様の教育」を 実現することであり、そのため子どもの教育は「日本語習得」と「日本語教育・指導」に焦点化される[太田 2005:60]。 このように、ニューカマーの子どもたちは学校生活の中で友達や教師との意思疎通を図るために必要 な日本語は確実に身につけていくが、一方、母語での会話や読み書きはごく限られた機会しかなく、母 語を保持することさえ困難な状況にある。よって多くの子どもの場合,日本語習得の課程はすなわち母語 喪失の過程となる可能性が高いのである[太田 2000:177-178]。 日本語の習得において、日常会話の習得が必ずしも授業理解へつながるとはかぎらず、学習に必要と なる言語能力を獲得するには、子ども自身の相当な努力と、教師や周りの長期かつ適切な支援が必要な ことは言うまでもない。「第二言語習得研究によると、第二言語におけるこのような言語能力を習得するに は、少なくとも五-七年あるいはそれ以上の年月を必要とするといわれている[宮島・太田 2005:61]。

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以上をまとめると、外国人の子どもたちにとって言語の問題は、学校内、家庭内を始めとする様々な場 面でコミュニケーションに支障をきたし、さらに文化、生活習慣などからも考え方によって相違がでてくると いうことである。近年では、エスニック学校や、ボランティアによる学習室など、学校外の教育エージェント をサポートする自治体もみられるようになっているが、公立の学校とこれらの学習施設の間にはシステムそ のものの違いがあるため、地域内の子どもの教育に対する連係したサポート体制を確立するまでにいたっ ていない[宮島・太田 2005:34]。

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第2章 「外国人児童生徒への取り組み」

1.外国人児童生徒への対応 (1)文部科学省の取り組み 外国人児童生徒の増加に応じ、文科省はこれまで様々な対策をとってきた。 「帰国児童生徒については、単に国内の学校生活への円滑な適応を図るだけでなく、海外における学 習・生活体験を尊重した教育を推進するために、帰国児童生徒の特性の伸長・活用を図るとともに、その 他の児童生徒との相互啓発を通じた国際理解教育を促進するような取り組みが必要である。また、外国 人の子弟には就学義務が課せられていないが、我が国の公立小・中学校への就学を希望する場合には、 これらの者を受け入れることとしており、受け入れた後の取扱いについては、授業料不徴収、教科書の無 償給与など、日本人児童生徒と同様に取り扱うことになっている。このような外国人児童生徒の我が国の 学校への受入れに当たっては、日本語指導や生活面・学習面での指導について特段の配慮が必要であ る。」 以上のことから、文部科学省では、次のような施策を行っている。 ①日本語指導等特別な配慮を要する児童生徒に対応した教員の配置 平成4 年度から、「外国人児童生徒・帰国児童生徒」の日本語指導等に対応した教員定数の特例加に より、その給与費等を国庫負担している。 ②「帰国・外国人児童生徒教育支援体制モデル事業」(平成18 年度~) 帰国・外国人児童生徒の受入体制の包括的な整備を行うため、地域にセンター校を設定し、当該セン ター校に母語のわかる指導協力者やコーディネーターの配置、日本語指導教室の設置等を行うととも に、域内の各学校にも巡回指導を行うことにより、地域における日本語指導、適応指導の充実を図る支 援体制モデルの構築を行う。併せて、帰国・外国人児童生徒の培った語学力や国際性等の特性の伸 長に配慮した指導体制のあり方等に関する調査研究を行う。 モデル事業委託地域:茨城県神栖市、群馬県太田市、千葉県船橋市、東京都目黒区、神奈川県川崎 市、愛知県豊田市、三重県亀山市、高知県高知市など16地域 ③「帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域」事業の実施 学校及び地域における教育の国際化の推進に資するため、帰国・外国人児童生徒の個に応じた特色 ある教育の在り方及び帰国・外国人児童生徒とその他の児童生徒との相互啓発を通じた国際理解教 育の推進の在り方等について、学校と地域との連携のもと、実践研究を行う「帰国・外国人児童生徒と 共に進める教育の国際化推進地域」事業を実施した。 ④帰国・外国人児童生徒教育担当者を対象とした研究協議会等の開催 平成13 年度から、帰国・外国人児童生徒と共に進める教育の国際化推進地域のセンター校の担当者、 並びに都道府県・市町村教育委員会の指導主事及びその他帰国・外国人児童生徒教育担当者等を 対象に、各地域における施策の実施状況や先進的な取組等についての情報交換を行なうとともに、直 面する課題やその対応方策等についての研究協議を行なう「帰国・外国人児童生徒教育研究協議 会」を開催している。 ⑤「学校教育におけるJSLカリキュラム」の開発 ⑥各種教材・資料の作成 JSL カリキュラムとは、学習活動に日本語で参加する力を育成することを目的に、様々な子どもの実態

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に応じて柔軟にカリキュラムを組み立て、日本語指導と教科指導とを融合させたものである。詳しい内容 については3章で述べることにする。教材・資料に関しては、英語、韓国・朝鮮語、ヴェトナム語、フィリピノ 語、中国語、ポルトガル語、スペイン語での就学ガイドブックを作成している。 また文化庁においては、国内外の日本語学習者の増大や学習目的の多様化等に対応し,コミュニ ケーション言語としての日本語学習を振興するとともに、文化発信の基盤としての日本語の積極的な普及 を測っていく必要があるとし、文化庁国語課では、様々な施策を実施している。インドシナ難民に対する 日本語教育は財団法人アジア福祉教育団体2に委託し、日本への定住を希望するインドシナ難民等に 対して約4か月間の集中的な日本語教育を国際救援センター(東京都品川区)で実施するほか、教材の 提供、日本語講師の派遣、通信教育の実施等を行っている[文部科学省ホームページ]。 (2)県・市教育委員会の取り組み 文科省以外で対応が実施されている機関は、まず各県と市町村教育委員会である。外国人児童生徒 が多い県の一つ兵庫県教育委員会では、7ヶ国語による学校生活ガイドの作成、子ども多文化共生セン ターの設立など、増える外国人児童生徒の対応に力を注いでいる。また、多くの県や市町村教育委員会 では「人権教育基本方針」を定めており、外国人児童生徒の存在を意識して作成されたものも多い。内容 は各教育委員会によって異なるが、兵庫県教育委員会では「外国人児童生徒に関わる教育指針」を別 途に作成している。 「外国人児童生徒に関わる教育指針」 ・外国人児童生徒が民族的自覚をもち、自己実現を図ることができるよう支援する。 ・すべての児童生徒に、外国人に対する偏見や差別の不当性についての認識を深めさせるとともに あらゆる偏見や差別をなくしていこうとする意欲や態度を身につけさせる。 ・共生の心を育成することを目指し、すべての児童生徒に多様な文化を持った人々と共に生きていく ための資質や技能を身に付けさせる。 ・外国人児童生徒にかかわる教育指導の充実に向け、教職員一人一人が人権意識の高揚に努めると ともに、実践的指導力の向上を図るための研修体制を確立する[兵庫県教育委員会ホームページ]。 そして、2005 年から文科省後援の下、市町村教育委員会では、「外国人児童生徒の就学状況の調査と 不就学の要因分析」、「個々の事情に即した就学支援のあり方に関する実践研究」行われるようになった。 その内容は、教育委員会、学校、外国人登録所官部局、外国人労働者担当部局、NPOの連携のため の連絡会議の設置、家族構成や保護者の就労状況、来日前後の学習状況や日本語の習得状況の把握 のため、関係機関共通カードの作成、市町村窓口における情報提供を充実させるため母国語別ガイド ブックの作成をするなど細かい事業内容については各市に任される。 この調査の実施地域は、浜松市、岡崎市、四日市市、大阪市、神戸市、姫路市など特定の全12地域で、 2年間の調査が実行されている。 2 難民事業本部。政府の委託を受け、日本に定住する難民の定住促進を行う団体。日本に定住する条 約難民等に対して、日本語教育や日本社会の制度、風俗・習慣に関する生活ガイダンスを行うほか、就 職のあっせん、さらにインドシナ難民と条約難民等(難民定住者)アフターケアを行い自立と定住を支援 する。

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図2 都道府県における施策の実施状況 (3)市民団体・地域ボランティアの取り組み 外国人児童生徒への対応を行う組織のもう一つは、地域のボランティアなど市民団体である。様々な 文化的背景をもつ子どもたちの共生と自立を目的として、外国人や異文化を背景に育った子どもたちの 教育にかかわっている教員や市民、有志の学生などによって立ち上げられる。圧倒的多数のブラジル人 が生活していることで知られる豊田市の保見団地内には、学校や集会所を使って日本語教室や母国語 教室、交流会を行うボランティア団体が多く活動している。保見団地周辺にはトヨタ関連の企業や工場が 多くあり、団地の約半数がブラジルを始めとする外国人であるという。 保見団地内で活動している、NPO 法人保見ヶ丘国際交流センターでは、学習者とボランティアの交流 を図りながら、毎週日曜日2時間、入門・初級・中上級の会話クラスに分かれて日本語学習と教科学習を 行っている。子どもたちの親、地域住民、子ども支援NPO、学校などと連携して母語学習を視野に入れ、 1時間半のポルトガル語教室を開講し、講演、研修、勉強会を企画・開催するなど、よりよい共生社会の 形成に力を入れており、静岡県の浜松市では、不就学の課題を解決していくために2002 年度から「外国 人学習サポート教室」を4 箇所設置し、基本教科のバイリンガル指導を実施している。このように NPO 法 人団体から任意団体まで、このようなボランティア団体は年々増えており、幅広い活動が行われている。

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2.外国人集住都市会議の取り組み 外国人集住都市会議とは、ニューカマーの中でも南米日系人を中心とする外国人住民が多数居住す る都市の行政ならびに地域の国際交流協会等をもって構成し、外国人住民に係わる施策や活動に関す る情報交換を行うなかで、地域に顕在化しつつある様々な問題解決に積極的に取り組んでいくことを目 的として2001 年 5 月に設立された。参加都市は静岡県、愛知県、三重県、長野県といったブラジル人や ペルー人の南米系外国人住民が多い地域ではあるが、以外の外国人住民地域にとっても活動のヒントを 得ることができると考える。外交順集住都市会議では、外国人住民に関わる課題は広域かつ多岐にわた るとともに、就労、教育、医療、社会保障など法律や制度に起因することも多いことから、必要に応じて首 長会議を開催し、国・県及び関係機関への提言や連携した取り組みを検討していくこととしている。 2004 年、豊田市で開催された外国人集住都市会議での教育、コミュニティ、労働の 3 つの分科会の報告 から教育報告を以下に載せた。 「教育部会報告―多文化共生をめざした教育体制づくり」 文部科学省は外国人児童生徒の増加に伴いこれまで日本語指導教材の作成や教員の加配などの施 策を実施し、文化庁においても地域の状況に応じた日本語教育の推進に力を入れてきた。一方、外国人 児童生徒の多い地方自治体でも、独自に日本語指導等を担当する教員や非常勤講師、日本語指導協 力者の配置などを行ってきた。こういった取り組みにもかかわらず、外国人児童生徒の教育環境について いまだ大きな改善が見られないことは、外国人の子どもの不就学問題が常に取り上げられていることから も明らかである。外国人の急増した地域では、ここ数年の間にブラジル人学校など外国人学校が次々と 生まれている。こうした学校は本国政府の認可を受けたものもあり、不就学の子どもの減少に貢献してい るがその財政基盤は弱く、多くの課題を抱えている。今後のさらなる少子高齢化、そして生産年齢人口の 急増によって、在住外国人の増加と定着傾向に拍車がかかるものと見込まれる。しかし、現在の日本の公 教育制度は、日本人のみを対象としており、外国人児童生徒の存在を想定していない。こうした教育のあ り方は今まさに根本的に見直す必要がある。 ①教育体制の整備について ・学習指導要領等に外国人児童生徒の教育方針を盛り込むとともに、日本語指導カリキュラムの策定を 早急に行う。 ・大学において日本語教育の免許の設置を検討し、外国人児童生徒の母語を話す教員を養成、外国 人児童生徒を担う専任教員の充実を図る。 ②不就学について ・外国人の子どもの不就学状況が把握できるシステムを確立し、定期的に全国調査を実施する。 ・全国の公立学校が外国人保護者に対して小学校と中学校入学時の就学案内や就学援助制度の周 知を多言語で行うよう、都道府県への支持を徹底する。保護者を含めて外国人の就学意識の高揚を 図るとともに、在留資格更新の要件として子どもの就学を定める。 ③外国人学校の支援について ・都道府県は、現在私塾扱いの外国人学校に対して地域の実情に応じて各種学校として認定すること を検討する。国はこうした都道府県の施策を支援し、外国人学校の法的地位の確立をめざす。 ・自治体等が外国人学校に対して私立学校と同様な財政支援が可能となるような制度を検討する。 「教育による人づくり」は多文化共生社会の実現に向けてのまちづくりの原点であり、外国人児童生徒の 教 育 方 針 の 確 立 は 今 ま さ に 緊 要 な 課 題 で あ る[ 財 団 法 人 ア ジ ア ・ 太 平 洋 人 権 情 報 セ ン タ ー 2005:132-138]。

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第3章 「多文化教育の展望」

1.多文化教育の必要性とねらい 外国人児童生徒の不登校・不就学、文化的背景の違いによる差別等、学校での様々な教育問題改善 に有効だと考えられるのが多文化教育である。その定義はさまざまであるが、一般的には、「少数・多民族 集団の共存を促進させるために教育内容や方法、教育環境の全般にわたって改善を求める広範な活 動」と理解されている[天野 2001 267]。 多文化教育は、多文化主義の考え方に基づいて、社会システムとしての学校改革を目指し、学校経営 と方策、カリキュラムや学習ニーズ、教材、地域参加など多くの要素に焦点を置く。しかしその一つの改革 だけでは、様々な学生に対する学校での教育の公正、多文化教育の目標達成に繋がらない。学校改革 を続行することが重要になる[渡戸・川村 2002 151-152]。 多文化教育は 1960 年代以降、主としてアメリカにおいて、その後イギリスやカナダなどの国々におい て発展してきた。その対象は民族的マイノリティだけでなく、性、社会階級、障害などによる差別を克服す る教育でもあり、異なる文化に対する尊重にも繋がると考えられる[渡戸・川村 2002]。 つまり、それは必ずしも外国人=外国籍の子どもを意味せず、今日では民族や人種だけでなく、ジェン ダーや社会経済的背景、障害者、高齢者など、社会において不利益を被る立場におかれる人々を含む のが移民国家やヨーロッパにおいても一般的である。しかし日本では、一国家=一民族=一文化的発想 が根強いことから、「日本人の教育(国民教育)」と「日本人以外の教育(外国人教育)」に分けられ、外国 人教育が意味をもつのは、国際理解教育の手段としてだけであると言える。したがって、異文化を理解す ることの必要性と、多文化教育を学校教育の改革のための視点として捉え、どのように日本の教育に導入 されうるのかに注目される「中島 1998:24-25」。 アメリカでは長い間、マイノリティが差別されてきた経緯をふまえて、教育の機会均等のみならず結果の 平等を目指す教育の一つとして、多文化教育が位置付けられているといえる。国内にマイノリティを抱え るが、アメリカと比べれば圧倒的に少ない日本にアメリカの定義そのものを持ち込んで、多文化教育の必 要性を訴えることは難しい。そこで日本は日本の文脈で多文化教育を受け入れていくことになる。だが、 現段階ではアイデンティティの形成という視点がかなり弱くなり、かわりに異なる文化への理解といった視 点が強くなっている。そのため、「異文化教育」や「国際理解教育」といった形で多文化教育が受容されや すくなっているともいえる[溝上・堀 1998 21-22] しかし一方で、現実の多文化教育政策において、文化の多様性をどこまで認めるかという点で十分な コンセンサスができていない、また社会のマイノリティに対して属性的基準によってより差別されている状 況を取り除く程度にすぎないといった批判もある。 また、日本の教育方針に関しては、しばしば「日本人らしい外国人」が好まれ、日本人への「同化」が求 められがちであるという声がある。日本の公立学校に在籍し、日本語による授業を受けながら、マジョリ ティの文化である日本文化の同化要請にならないような教育がはたして本当に可能なのだろうか。現状の 日本語教育は日本の学校への適応を課すものに過ぎないと指摘されている。歴史を振り返ると、日本の 学校は在日の子どもたちに対して、言語をはじめとして「同化教育」を強いてきた。その結果、民族的差別 と偏見を助長し、「民族的アイデンティティ」の形成と保持を妨げてきたのである。日本の学校が選択して いる方略は、日本語を母語としない子どもに日本語を習得させることによって、言語的ギャップを解消する ことにあるという。「日本語が分からないと授業は理解できない」という認識に基づき、「日本人と同様の教 育」を実現するため、子どもの教育は「日本語取得」と「日本語教育・指導」に焦点化される。そして「日本

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人と同様の教育」を提供することが外国人の子どもを日本の学校に受け入れるための基本的なスタンスと して示唆され、その際、子どもたちの母語は否定されないまでも、積極的には採用されない状態に置かれ るのが一般的である[宮島 2005:60]。 日本語を唯一の授業言語として学習活動が展開される日本の学校との言語的なギャップをどう捉え、 どう対処するのかが、ニューカマーの教育をめぐる最大の課題である。 2.日本における外国人学校 (1)ブラジル人学校 外国人児童生徒の日本人への同化に伴い彼らのアイデンティティ喪失が懸念される中、外国人にお いて教育の場の選択肢の一つとなっている外国人学校について考えてみたい。外国人学校は近年、ブ ラジル人人口が圧倒的に多い静岡、愛知、群馬などで多く開校され、生徒数は増えている。日本には朝 鮮学校・韓国学校を始め、中華学校、ブラジル学校、ペルー学校、インターナショナルスクールなどが全 国に位置する。 中でもブラジル人は、在日外国人コミュニティの中でも在日韓国・朝鮮人、中国人に続き三番目に多 く、ブラジル人国籍の子どもの数は40,400 人に上る。彼らのほとんどが日本の学校に通うが 2003 年の調 査では、ブラジル教育省認定校33校に2,362 人、非認定校 28 校に約 2400 名が在籍しており、日本に 住むブラジル人児童・生徒の約24%がブラジル人学校に在籍していることが分かった[宮島 2005:]。 ブラジル人学校の規模は学校により異なるが、一年間の授業日数はブラジル国内の学校より大幅に多 いのが特徴である。子どもたちはブラジルと同様の教育を受けることができ、母語のポルトガル語を使って 学ぶことができる。そのため、ブラジル人学校においては日本人への同化の心配はない。また、子どもた ちがブラジルへ帰国した際新しい環境に慣れるのに苦労する一方、日本でブラジル人学校に通っていた 子どもたちは、ポルトガル語の運用能力を維持しているため比較的容易にブラジルの学校に適応するこ とができる。さらに、年に一度ブラジル教育省により高校卒業資格試験が行われるようになり、またブラジ ル人学校の19校が、ブラジル教育省の許可を受けていることを根拠に、大学入学に関して高等教育卒 業者と同等以上の学力がある者として認められる教育施設となった。文部科学省は 2003 年に日本の外 国人学校の取り扱いについて、本国における位置づけを尊重するという方向性を打ち出し、ブラジル人 学校は公的認知を受けたといえる。 しかし、ブラジル人学校へ通う生徒のうち、帰国する者が多数派ではないという問題がある。日本のブラジ ル人学校の目的は、ブラジルへ帰国してから子どもたちが現地の教育システムに困難なく適応できるよう にすることである。つまり、帰国を前提に教育を行っている。日本語及び日本文化の授業は週一時間程 で、日本語を書き漢字も含めてマスターしている者はほとんどいないという。 また、ブラジル教育省認定のブラジル人学校に在籍する子どものうち、41%が保育所・幼稚園児(0-6 歳)、54%が一から八年生(7-14歳)、高校(15 歳以上)は 5%であるということから、子どもが学校を修了 しても親は帰国できず、日本滞在を延長するケースが多いことが読み取れる。さらに、親の経済的事情に より退学する児童・生徒も後を絶たず、15 歳以上の子どもの場合、仕事に就くために学校を辞める例も少 なくなく、ブラジル人学校への入学に様々な問題点があることが分かる[宮島 2005:88-99]。

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図3 ブラジル人学校(少等部・中等部・高等部)の授業時間数

学 年

項 目

8 高1

年間授業日数 205 205 205 205 205 205 205 205 205

年間授業時数 1333 1333 1333 1333 1333 1333 1333 1333 1333

ポルトガル語 344 344 258 258 215 215 215 215

43

日 本 語

43

43

43

43

86

86

86

86

43

数 学 344 344 258 258 215 215 215 215 215

化 学

86

86 129 129 129 129 129 129

86

物 理

86

86 129 129 129 129 129 129

86

音 楽

43

43

43

43

43

86

86

86

43

美 術

86

86

86

86

86

86

86

86

43

保健体育

86

86

86

86

86

86

86

86

86

地 理

43

43

86

86

86

86

86

86

86

歴 史

43

43

86

86

86

86

86

86

86

コンピューター

86

86

86

86

86

86

86

86

86

文 学

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文 法

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生 物

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道 徳

43

43

43

43

43

43

43

43

43

学級活動

43

43

43

43

43

43

43

43

43

英 語

43

43

86

86

86

86

86

86

86

授業内容に注目してみると、1997 年に設立された「浜松ブラジル人学校」では、小・中学生にブラジル 本国の学校と同じポルトガル語、算数、数学、社会科(歴史・地理)、理科、英語を教えている。教科書は ブラジル私立学校ポズィティポのものを使用し、授業料は3 万 5000 円である。1999 年には群馬県太田 市にブラジル人学校「ピタゴラス太田校」が創設された。これはブラジルに私立の本校を持つ学校法人ピ タゴラス財団が設立したもので、日系ブラジル人の幼稚園から小・中・高校生までを対象にブラジルの学 校と同等レベルの教育を行っている。同校はブラジル文部省により公認されているため、その教育は帰国 後もブラジルの学校教育と同等と認められ、編入も可能となる。教育内容は小学校低学年から、ポルトガ ル語、算数、理科、社会科、体育、英語を学ぶ。小学校高学年になると社会科は歴史、地理となる。これ らに加えて、幼稚園から日本語、小学校から日本語、日本文化も教えている。しかし授業料は教材費、給 食費を入れて約6 万円となり、出稼ぎ労働者として来日する家族にとって、経済的に容易ではないといえ る[天野・村田 2001:151]。

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(2)朝鮮学校 現在、日本にある朝鮮学校は、在日本朝鮮総連会を主たる運営母体とする学校法人朝鮮学園を指し、 全国にまたがる。朝鮮学校の設立は在日朝鮮人が設立した学校であることが特徴である。そもそもの原 型は1945年8月15日、日本の敗戦にさかのぼる。植民地支配から解放された在日朝鮮人が失われた朝 鮮語を取り戻すため、また帰国を急ぐ在日朝鮮人にとって朝鮮語を話せない子どもの問題は切実な教育 問題であったことから、「国語講習会」が始まった。その後、在日本朝鮮総連会は民族教育に力を注ぎ、 朝鮮学校の拡充に努め、学校数、生徒数ともに増加したが、今では全国に121 校、約 12,000 人程度に なっている。 地方自治体による在日韓国・朝鮮人教育の方針、また学校が掲げる目的においては、次の三つの要素 が基本的な課題として含まれる。 ①自己の民族に対して自覚と誇りを持てるようにすること ②民族的な差別・偏見を除去し、人権尊重の態度を育成すること ③互いの文化を尊重する態度を持ち、国際友好の発展や共生社会の実現を担う人材を育成すること 朝鮮学校での教育課題は、「民主主義的教育」と規定されたのである。民主主義的教育とは、「形式にお いては民族的であり、内容においては民主主義的な教育をすること」であった。大切なことは母国語であ る朝鮮語を学ぶこと、独立国家公民としての民族的な自覚と誇りを持つこととされ、そのことが日本人の朝 鮮学校に対する一方的イメージを増幅させることに繋がったとも考えられる「中島 1998:99-103」。 つまり、朝鮮学校で学ぶためには多大な経済力・社会的リスクを覚悟しなければいけないということも分か る。しかし一方でカリキュラムに注目してみると、初等部 1 年から日本語の授業が週4時間きっちりと組ま れていることが分かる。少なくともブラジル人学校と比べて日本での定住が意識されたカリキュラムになっ ている。 図4 朝鮮学校初級部の授業時間数(2003年度)

1 年 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 朝鮮語 9 8 7 7 6 6 社会 1 2 2 2 朝鮮歴史 2 朝鮮地理 2 算数 4 5 5 5 5 5 理科 3 3 3 3 日本語 4 4 4 4 4 4 保健体育 2 2 2 2 2 2 音楽 2 2 2 2 2 2 図工 2 2 2 2 2 2 授業時間数の 総計(週) 23 23 26 27 28 28 授業週数 34 35 35 35 35 35

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図5 朝鮮学校中級部の授業時間数(2003 年度) 1 年 2 年 3 年 朝鮮語 5 5 5 朝鮮語文法 1 社会 2 2 2 朝鮮歴史 2 2 朝鮮地理 2 数学 4 4 4 理科 4 4 3 日本語 4 4 4 英語 4 4 4 保健体育 2 2 2 音楽 1 1 1 美術 1 1 1 家庭 1 情報 1 1 授業時間数 の総計(週) 30 30 30 授業週数 35 35 35 (出所:“民族学校問題を考える”ホームページ) (3)定住化に向けた外国人学校の設立は可能か 日本の公立学校か、もしくはブラジル人学校といった外国人学校に入学するか、それは彼らの将来を大 きく左右する重要な選択となる。ブラジル人においては日本での滞在計画がはっきりしていないことにより 子どもへの教育方針も一貫性を欠く傾向があるが、来日当初の計画に従い短期の滞在でブラジルへ帰 国する者のブラジルの教育を提供すると同時に、長期滞在・定住傾向の事実を認め、日本の学校ととも に今後、日本の社会、労働市場に参加できる個人を育成する教育方針を採用することが望まれる。 朝鮮学校とブラジル人学校を比較すれば、同じ各種学校に位置付けされる外国人学校であっても、朝 鮮学校の教育内容は少なからず日本への定住が考慮されたものとなっている。ブラジル人学校では子ど もたちが帰国してから現地の教育システムに困難なく適応できるようにすることを目的としている一方、朝 鮮学校は1980 年頃から、これまでの「帰国」を前提とされていた教育内容に対し、「定住」という現実を前 提にした教育要求が子どもたちや親に生まれてきたのである。そして朝鮮学校ではこのような要求に沿っ た形のカリキュラムの見直しがなされた。1983 年にカリキュラムと教科書の全面的な改編が着手され、そ の翌年には定住化に沿った内容へと教科書が改編された。中でも社会科の改編が著しく、中等部ではこ れまでの朝鮮の歴史に加え、日本と世界の歴史の教科書が編纂され週二時間から四時間に増えた。ま た、地理は朝鮮半島中心であったが、日本や世界の地理を取り入れた教科書に変わった。理科・数学な どは日本の教科書出版社の許可を取って転載するなど、日本の教科書を意識したものとなり、朝鮮・朝鮮

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語が据えられながらも、「日本」や「日本語」が意識されたものになっていったのである[中島 1998:100 -103]。 つまり、朝鮮学校では教育方針として、朝鮮人であることを誇りに持つ人材の育成、朝鮮民族の一員と して民族的自覚をしっかりと持つことを掲げながらも、「定住化」する朝鮮人の現状に向き合ったカリキュラ ムの改編が行われているのである。これに従ってブラジル人学校をはじめとする各外国人学校において も、長期滞在・定住化に向けたカリキュラムや授業内容への改編によって、より将来性のある外国人学校 へと変わりうるのではないだろうか。 3.多文化教育のあり方――多文化主義国に学ぶ (1)カナダの多文化教育

カナダにおける多文化教育といえば、遺産言語プログラム(Heritage Language Program)と、第二言 語によるイマージョン・プログラム(Immersion Program)である。両方とも多文化主義を政策として掲げ、 二つの公用語を採用しているカナダにおいて出来うる教育プログラムといえる。カナダは移民の数が多い ことから国内に様々な文化が混在することを許容しており、これは学校教育においても適用される。児童 生徒は、カナダの公用語である英語・フランス語に加えて、もう一つの言語の習得及びその背景にある文 化の学習を奨励される。もう一つの言語とは保護者の出身国の言語、もしくは家庭で使っている言語をさ す。小学校におけるこのような外国語・外国文化の教育を、遺産言語教育という。"Heritage"という単語 には「遺産」といった意味があり、児童生徒に保護者の言語・文化遺産を継承させる教育である。遺産言 語の授業は一般に週に2 時間 30 分、開講される。受講は児童生徒の自由選択となる。受講するのに特 別な授業料はかからない。授業時間は学校によって異なるが、放課後、夜間に開講している学校もあれ ば土曜日、夏休みに開講している学校もある。移民の多いトロント市教育委員会では三十八種類におよ ぶ遺産言語プログラムを開講し、1万40000 人の児童生徒が受講したことが分かっている。 一方イマージョンプログラムは、児童生徒の母語でない公用語を使って教育を行うプログラムである。イ ギリス系移民の多い伝統から日常的に英語を使うオンタリオ州では、小学校 4 年生から毎日 40 分フラン ス語だけで教育を行うクラスがある。逆にフランス語が日常的に使われるケベック州の場合、フランス語は ほとんど使わずに英語だけで行うクラスがある。それによって児童生徒の自然な英語、フランス語の習得 を目指しているのである[江原 2000:234-237]。 遺産言語教育とイマージョンプログラム以外の多文化教育を挙げると、文化の多様性に関するイベント やシンポジウム、保護者や地域社会とのつながりを深めるためのワークショップ、教員を対象にした先住 民やマイノリティ・グループの文化についての研修会、反人種差別主義についての学習がある。一方、公 立学校では、ESLの需要が高まっている。公立学校でのESLの実践についてアメリカの学校を通してみ てみたい。 (2)ESLプログラムの実践――アメリカの事例 「移民の国」を自称するアメリカには英語以外の言語を第一言語とする人達が多数いる。1990 年の国 勢調査からの推計によると、家庭で英語以外の言語を話す人、あるいは家庭に英語以外の言語を話す 人がいる人は約 4700 万人で、これは総人口の 20%を上回る。学齢期の子どもに限定すると、全生徒の 15%に相応し、つまり 7 人に1人が英語を第一言語としない子どもである。それゆえ、学校教育を受けるう えで言語上問題があると考えられる子どもたちを特定するために、LEP(Limited-English-Proficient) Students という概念を用いられるのが一般的である。直訳すれば「英語能力が十分でない生徒」というこ

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とになるが、次のようなカテゴリーに入る者ととらえることができる。 ①アメリカ国外で出生し、第一言語が英語でない生徒 ②英語以外の言語が主に話される環境のなかにいる生徒 ③英語の読み書き及び理解が不十分でないため、英語で行われる学校の授業についていくことができな い生徒である。 アメリカは1960 年代まで英語を母語としない生徒に対して特別な英語教育プログラムが実施されたこと は、まれであった。ほとんどの場合彼らは英語を母語とする生徒と一緒に授業を受ける過程で、自然と英 語を習得することが期待されていた。連邦最高裁判所は 1974 年に、そうした教育は結果的に教育の機 会均等に反するという判決を下した。「同じ施設・教科書・教師・カリキュラムを提供するだけでは平等の教 育を保障することにはならない。なぜなら、英語を理解しない生徒にとって英語による授業は意味のある 教育とはいいがたいものである」というのが判決の主旨であった。この判決以後、LEP生徒の英語教育は ESLプログラムを中心に展開されることになる。 一般的にESLプログラムはある時間だけLEP生徒のみを対象にした英語の特別授業が実施される。こ の特別授業は英語でのみ行われる普通教室での授業についていくだけの第二言語としての英語能力を 養成することを主眼としている。英語のレベルが同様の者どうしで授業を受けることにより、生徒は自信を 持つことができ、英語でのやりとりが活発になされるという効果が期待できると考えられている。問題点は、 第一に英語学習の期間LEP生徒が教科の授業にアクセスすることを妨げてしまうことである。というのは、 教科の授業を理解するために必要となる抽象的思考を伴う英語能力を習得するには相当の期間が必要 だとされており、この間における知的発達の阻害が問題となる。また、特別授業を受けるために毎日クラス を出て行くことにより生徒に劣等感を抱かせるといった指摘もある。 こうした問題を克服するために、従来の「取り出し」方式とは異な新しいESLプログラムの試みがなされる ようになった。例えば、英語学習と教科学習とを統合する教科学習型ESLもそのひとつである。この方式 では、教科内容の指導を通して英語の習得が目指される。ESLクラスでの学習は英語だけでなく教科の 内容に重点が置かれる。このような新しい方式により、問題点は一定程度改善されると考えられる。 4.日本の公立学校におけるJSLカリキュラムの展開 文部科学省は、平成13年度から日本語指導が必要な外国人児童生徒を学校生活に速やかに適応さ せるために、日本語の初期指導から教科指導につながる段階の「JSLカリキュラム」の開発を進め、平成1 5年、学校教育におけるJSLカリキュラムの最終報告を行った。

JSLカリキュラム(Japanese as Second Language)とは、「学習活動に日本語で参加するための力 (学ぶ力)の育成」をねらいとし、学習項目を固定した順序で配置するのではなく、生活背景、学習歴、日 本語力、発達段階などの多様な子どもの実態に応じて、教師自身が柔軟にカリキュラムを組み立てること を支援するものである。子どもたちの理解を促すよう直接体験等に基づいた学習を重視するとともに、子 どもたちに理解しやすい日本語を使い、表現を工夫している。外国人の子どもたちは体験したことを日本 語で表現したり、学習の過程や結果について日本語で考えたり、さらに学習したことを人に伝えたりするこ とによって日本語の力を高めていくことが可能であると考えられるため、具体物や直接体験を豊富に盛り 込んだ学びの場を創ることが必要になる。「学ぶ力」の育成の方法として、以下の三つが挙げられる。 ①直接体験などの活動への参加 ②子どもたちの学ぶ力に応じて参加可能な学習活動を設定し、活動に応じた様々な日本語表現のバ リエーションを用意し、理解可能な日本語表現を工夫することにより子どもたちの学習活動への参加と

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理解を促進 ③実践事例や教材、ワークシートなどに関する情報を共有するサポートシステムを構想し、授業に役立つ 様々な工夫を支援 しかし、こうした対応が行われる背景には、次のような前提がある。一つ目に、日本語が出来るようにな れば学習活動に参加するための力も習得できるというもの、二つ目に日本の子どもたちと一緒に学習す るほうが学習活動に参加できるというもの、そして三つ目に日本語が出来るようになれば学習活動に参加 するための力も習得できるというものである。学習活動に参加するには日本語は不可欠だが、日本語を 習得すれば自ずと学習に参加するための力が身に付くとはいえない。人との出会いを通して多くのことを 学習する子どもたちにとって、日本語を母語とする子どもと一緒に学習することも重要であるが、適切な教 材や教師、指導者の支えが不可欠だと考えられる[中島 1998:35-41]。 現在、日本語を母語としない子どもたちはその生育背景、学習歴、日本語能力、認知発達などにおい て非常に多様になっており、画一的な内容や定型的な日本語カリキュラムだけでは対応できないという指 摘が出てきた。このため、JSLカリキュラムでは、固定した内容を一定の順序性をもとに配列するのではな く、一人一人の子どもの実態に応じて教師・指導者自らがカリキュラムを作るためのツールという意味合い を持たせている。これまで、日本語を母語としない子どもたちの教育に関わる教師・指導者はその専門性 が問われることなく、数年単位で異動する例が多かった。しかし、このJSLカリキュラムは一人一人の実態 に応じた教材作り、学習内容の理解度の把握など、教師・指導者の実践的力量を高めていくことができる ようになっている。JSLカリキュラムでは教師・指導者の日々の実践をサポートするシステムを構想し、指導 に役立つような様々な工夫を取り入れている[文部科学省ホームページ]。 そして、JSLカリキュラムの導入とともに、母語の重要性を見直す必要がある。未就学年齢で来日した外 国人児童生徒たちは、長時間保育の日本語の生活により母語を忘れた子どもと、長時間労働で子どもと の時間がもてず、日本語も習得できない親とのコミュニケーションの断絶の問題がある。子どもが間違った ことをしたときでも、言葉が性格に通じないため間違いを正し、諭すことができなかったり、親として子ども に教えたいことが伝えられないという悩みもある。さらに、なかなか日本語が上達しない親を馬鹿にし、親 の考えを受け入れようとせず、ブラジル人であることを恥ずかしいと思う子どももいる。こうした切実な問題 に直面した親や、教師の間から、母語指導の必要性が訴えられている。学習言語レベルの日本語力がな い子どもたちであっても、彼らの母語を媒体として、授業に参加し、教科学習に継続して取り組むことが出 来れば、そこで養った母語の力は、学習言語レベルの日本語力に移行し得ることになる。母語を活用し た教科活動に注目する意義は大きい。 しかし、これを実践している教師は少ない。それは、まず一つ目に、一般的に現行の公的教育の枠組 みの中では母語の教科学習への活用がなされていないため、新たな取り組みをするのが難しいこと。二 つ目に、国内における母語を生かした教科学習の研究、実践が浅く、カリキュラムもないこと。三つ目に、 教師が独自に母語を生かした学習支援に取り組もうと思っても、校内の理解を得るのが難しいこと、そして 四つ目に、子どもの母語の分かる適当な教師、支援者が校内に見つからず、地域に求めるのも大変なた め、諦めてしまうこと等の原因が考えられる[天野 2001 303]。 母語や母国の文化を学び、母国への誇りをもつことは外国籍の子どもの人格形成やアイデンティティを 保持するために必要なことである。本来、母語や母国の文化を学ぶ核となるのは家族である。まず親がそ のことを認識し、親の文化を教え、母語によるコミュニケーションを保つことが重要である。そして、外国人 児童生徒を受け入れた学校は、母語指導を通じて彼らを支援し、さらに日本人児童生徒が、異なった文 化的背景をもった彼らを受け入れる姿勢を示すように指導する必要がある。日本語指導のみを重視し、

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日本人児童生徒と変わらない子どもたちにすることを、目標にしてはならないのである[梶田・松本・加賀 澤 1997 187-188]。その上、言語・文化はアイデンティティ形成において大きな役割を果たす。よって、 母語や母語文化に対する理解・支援があり、自尊心を保持できた場合に教育効果がみられると考えられ るのである[梶田・松本・加賀澤 1997 231]。 5.ボランティア活動を通して 横浜市泉区の神奈川県営、いちょう団地の中にある「いちょう小学校」は、外国籍児童が多数在籍する ことで知られている。平成10年まで隣接する大和市に、「インドシナ難民定住促進センター3」があったこと が関係しており、センターを出たインドシナ難民の人々が徐々にいちょう団地に住むようになった。近年は 家族の呼び寄せに加え、中国帰国者の家族も入居するようになっている。いちょう団地の中にあるいちょ う小学校には外国人児童が、81名が在籍し、国籍はヴェトナム、中国、カンボジア、ラオス、フィリピン、ブ ラジルの子どもたちである。全校生徒215名に占める外国人児童の割合は38%、外国に繋がる児童34 名を含めると53%に上り、全校児童の過半数が外国に繋がる児童ということになる。 図6 いちょう小学校の児童数推移 年度(平成) 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 全校児童数(人) 346 297 271 241 223 215 224 230 232 213 215 外国籍児童数(人) 31 43 40 37 49 64 66 67 74 76 81 全体に占める割合(%) 9 14 15 15 22 30 28 30 31 36 38 (出所:いちょう小学校ホームページ) いちょう小学校との連携で日本語教室を開講しているボランティア団体「多文化まちづくり工房」は、い ちょう小の国際交流室を借り、子どもたちの教科学習と子どもから大人を対象とした日本語学習を行って いる。毎週火曜日と金曜日、4年生から6年生の生徒が10名程集まり、5名前後のボランティアが宿題や プリント、問題集を20分の休憩を挟んで2時間勉強の時間を設けている。小学生教室はまだ始まったば かりで、生徒・ボランティアともにまだ少人数である。子どもたちは各自、漢字や算数の宿題を持って教室 にやってくるのだが、遊び盛りの小学生が放課後まで勉強に集中するのは難しい。それでも、彼らは親に 後押しされてか、もしくは自分の意思なのかもしれないが、毎週2回必ずやってくるのである。 教室終了後は、ボランティアが子どもたち全員を団地まで見送ることになっている。その際驚いたことが、 学校や家の外へ自分の子どもを向かえにくる母親が多いことだった。多文化まちづくり工房の代表者から 聞いた話では、ブラジル人が多い愛知県に比べ、いちょう団地の外国人の親は教育への関心が高い傾 向にあるとのことだった。実際、毎週水曜日と土曜日に開講される日本語教室にはヴェトナム、カンボジア、 ラオス出身の母親、自動車工場で働く20代から30代の男性も多く集まっている。私が担当しているヴェト 3 日本へ定住を希望する人への日本語教育、健康管理、就職あっせんを目的として、1980(昭和 55)年 2 月神奈川県大和市に開設された。

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