博 士 ( 水 産 科 学 ) ム ク テ イザ イ ヌ ッ デ イ ン
Predicting Potential Habitat Hot Spots and Migration Pattern for Albacore Tuna, ThunTzus alalunga, in the Northwestern North Pacific using Satellite Remote Sensing and GIS
(衛星リモートセンシングと地理情報システム(GIS)による 北西 北太 平洋に おけ るビ ンナ ガマグ ロThunnus alalungaの 潜在生息域ホットスポットと回遊パターンの予測に関する研究)
学位論文内容の要旨
【 序 論 】
ビ ン ナ ガ マ グ ロThuれnusロlalungaは 北 太 平 洋 に お い て 日 本 の 延繩 漁 業 の 対 象 魚 で あ り 、 商 業 的 に も 生 態 学 的 に も 重 要 な 漁 業 資 源 で あ る 。経 済 的 な 観 点 か ら は 、 こ の 種 は 高 経 済 価 値 が あ り 、 広 い 市 場 性 も あ る 。 本種 は 、 北 太 平 洋 の 北 緯10度 か ら 北 緯50度 。 ま で の 熱 帯 域 か ら 亜 寒 帯 域 に 出現 し 、 日 本 周 辺 海 域 か ら 米 国 西 海 岸 ま で 広 く 回 遊 す る 。1950年 か ら2000年 に か け て 漁 獲 量 は 増 加 し た に も か か わ ら ず 、 漁 獲 量 は 安 定 し て 推 移 し てい る 。 北 太 平 洋 で は 、 ビ ン ナ ガマ グ ロ の 総 漁 獲 量 は 年 平 均200,000ト ン 以 下で ある。
こ の こ と は 、 本 種 の 潜 在 的 な 漁 場 が ぃ ま だ 完 全 に 理 解 さ れ て お らず 、 そ の 結 果 、 本 資 源 は 開 発 途 上 と い え る 。 特 に 北 西 北 太 平 洋 に お い て 、ビ ン ナ ガ マ グ ロ の 高 生 産 漁 場 ( 生 息 域 ホ ッ ト ス ポ ッ ト ) を 制 御 し て い る 海洋 環 境 条 件 を 明 ら か に す る こ とが 非 常 に 重 要 で あ る 。
ビ ン ナ ガ マ グ ロ の 回遊 、 出 現 、 分 布 量 は 、 . 海洋 前 線 や 渦 の よ うな 海洋構 造 に 強 く 影 響 さ れ て い る こ と も 報 告 さ れ て い る 。 ビ ン ナ ガ マ グ ロ漁 場 を 形 成 す る 要 因 と し て 、 海 洋 物 理 構 造 は 、 黒 潮 ― 親 潮 移 行 域 付 近 の 海洋 ホ ッ ト ス ポ ッ ト 形 成 に 関 す る 重 要 な メ カ ニ ズ ム に 関 係 し て い る 。 生 息 域ホ ッ ト ス ポ ッ ト は 、 海 表 面 水 温 (SST)、 海 面 ク ロ ロ フ イ ルa濃 度 (SSC)、 海 面 高 度 ア ノ マ リ ー (SSHA)の よ う な 環 境 変 数 を 代 表 値 と し て 定 義 で き る 可 能 性 が あ る。 近年 ・、 漁獲デ ータ と衛 星リ モート セン シン グデー タと 組み 合わ せて、
地 理 情 報 シ ス テ ム (GIS) 技 術 を 駆 使 す る こ と が 、 海 盆 域 ス ケ ー ル で の 、 生 息 域 ホ ッ ト ス ポ ッ ト に 関 連 し た 環 境 条 件 の 動 態 理 解 の た め の 強 カ な ツ ー ル で あ る と 認 識 さ れ る よ う に な っ て き た 。 海 洋 好 生 息 域 は 、 研究 水 域 に
おけるビンナガマグロの回遊パターンとも関連しているものと考えられ る。
本研究の目的は以下の通りである。(1)ビンナガマグロ漁場分布と海洋 環境(海表面温度(SST)、クロロフイルa濃度(SSC)、海面高度アノマリ ー(SSHA))との関係を明らかにする。(2)ビンナガマグロの潜在的生息 域ホットスポットを明らかにする。(3)(2)をもとに高生産生息域ホッ トスポットを予測する。(4)衛星リモートセンシングとGISを用いてビ ンナガマグロの回遊パターンを理解する。
【使用デ―タ】
本 研 究 で は 漁 獲 デ ー タ と 衛 星 デ ー タ の2つ の デ ー タ を 用 い た 。 漁獲主ニタ
1998年‑‑ 2003年の6年間のビンナガマグロ延繩漁獲データを用いた。
漁獲データは漁業情報サービスセンターから入手した。漁獲データは日単 位の漁獲位置、CPUEを含み、衛星データの時空間スケールにあわせて、
これら を8日間平 均、 月平均 で0.088度 (約9kmX9km)のグリッドデータ に再編集して解析に用いた。
衛星霊ニタ
衛星 データ として、SST、SSC、SSHAの3種類を用いた。海表面温度デ ータは、日単位と月平均のTRMM/TMI SST data version 3aと8日間平均お よび月平均のNOAA/AVHRR SST data pathfinder version5を用いた。空間 解 像 度 は TMIが 25 km、AVHRRが4kmで あ る が 、 こ れ を す べ て9kmに 再構築した。TMIは日単位データから、8日間平均データを作成した。海 面クロロフィルa濃度データは、8日間平均および月平均のNASA. Global Area Coverage (GAC)のSeaWiFS level3standard mapped images(SMI)を用い た。海面高度アノマリーデータは、メルカトール図法の空間解像度1/3度、
時間解像度1週間のthe Maps of Sea Level Anomalies (MSLA/AVISO)を用い た。海面高度アノマリーデータを用いて、渦運動エネルギー分布およぴ地 衡流分布を計算し、渦分布や黒潮続流分布の解析に用いた。SeaWiFS level 3 standard mapped images(SMI)のPAR(日射量)データおよぴAVHRR海表 面水温データと海面クロロフイルa濃度データと組み合わせて、基礎生産 量も算出した。
【解析方法】
ビンナガマグ里金査と塰注還壇とQ閣堡
CPUEデータを用いて、(1)CPUE(1日当たり1漁船あたりの漁獲尾数)
が ゼ ロ の 場 合、 (2)CPUEがO〜17の場 合、 (3)CPUEが17以 上の場 合 ‑ 1457ー
にわけ、(3)を 高漁獲期(High catches)とした 。特に、経験 的積算分布 関数(Empirical Cumulative Distribution Function:ECDF)を計算して、こ の 高 漁 獲 期 に お け る 、 ビ ンナ ガ マグ ロの 好 適なSST、SSC、SSHAを 算 出し た。
生疊璽杢2ヒスポ2b堕抽出
1998年 〜 2003年 の11月か ら3月 まで の高 漁 獲期 に おけ る 、海 洋環 境 要 素 (SST、SSC、SSHA) のヒ ス トグ ラ ム分 布 とECDF解 析の 結 果を 用い て 、 平均 値と 標 準偏 差 値に よる単 純な漁場推定 マップを作成 した。さらに 、好 適環 境要 素 のう ちSSTとSSCの平均値を 用いて、等値 線解析をおこな った。
生皇壇杢2bスポ2b堕捻壁
抽 出で きた 好 適環 境 要素(SST、SSC)を 用いて潜在的 生息域ホット スポ ッ ト マ ッ プ を 作 成 し て 、 ビン ナ ガマ グロCPUE分 布デ ータ と 照合 し た。 そ の結 果か ら 、空 間 解析 ソフト ウェアを利用 して確率イン デックスマッ プを 作成 した 。 さら に 、渦 運動エ ネルギー分布 および地衡流 分布、基礎生 産量 分 布 と 生 息 域 ホ ッ ト ス ポ ッ ト と の 空 間 的 対 応 関 係 に つ い て 解 析 し た 。 生疊壇杢2ヒ丕遂2ヒ堕推定
ビ ンナ ガマ グ ロの 出 現と分布 量を推定する ための手法とし て、空間統計 学手法の一般化 加法モデル(Generalized Additive Model:GAM)と一般化 線形モデル(Generalized Liner Model:GLM)を用いた。海洋環境要素(SST、 SSC、SSHA) とCPUEを入 カ デー タ とし て、binominalモ ,デ ルに よ ルビ ン ナガ マグ ロ の出 現 推定 、gaussianモデルに よルビンナガ マグロの分布 量推 定をおこなった。
Kinesisモデルによ塗回遊2ミユーヒニ2里と
日 単 位 のTMISSTデ ー タ を 利 用 し て 、 海 面 水 温 情 報 を 好 適 環 境 と し て 回遊 を制 御 して い ると 仮 定し たKinesisモ デル を作 成 して 、回遊の 数値実 験を試みた。ビ ンナガマグロ にとっての好 適海面水温は20℃ 土1.6℃、遊泳 速度は6.6 km h‑lとした。
【結果と考察 】
妊適遼注遼鐘 と生!疊壇杢2ヒ 墨遂2と堕抽出
ビ ンナガマグロ の好適海洋環境は、SSTが18.5‑21.5°C、SSCが0.2‑0.4 mg m‥ 、SSHAが ―5‑40 cmの範 囲 であ るこ と が明 ら かに な った 。 最も 頻度 の 高 いSSTは20°C、SSCは0.3 mgm‥ 、SSHAは18 cmで あ っ た 。 こ れ ら は ECDF解 析の結果にお いて統計的に有 意であった。
得 られ た 好適 海洋 環境条件を 用いて、潜在 的生息域ホッ トスポットマ ツ プを 作成 し 、実 際 の漁場分 布と比較した 。その結果、シ ャツキー海嶺 周辺 の黒 潮続 流 の北 側 で良 い 一致 が みら れた 。 さら に 、高CPUEの漁場は、SST
が200Cの 等 温 線 と 、SSCが0.3 mg m‑3の 等濃 度線と の緯 度方向 の距 離が、
CPUEに逆 相 関 し て い る こと が 明ら かに なった 。そ の関係 は、CPUE:39.39
‑ 3.9078x(距離)(R=―0.76,Pく0.0001)で表すことができる。このこと は、 好適海 洋環 境要素 が隣 接する 海域 では、 ビン ナガマ グロ がより 高密度 で分布することを示唆している。
生皇壇杢2ヒ丕耋zヒcD檢証
好 適海 洋 環 境 に 基 づ ぃた 潜 在 的 生 息 域 ホ ット ス ポ ッ ト マ ッ プと ビンナ ガ マ グ ロCPUE分 布 と の 比 較 よ り 、 全CPUE値 と 漁 場 分 布 確 率 指 数と の 関 係は 、確率 指数55%で 変曲 点をも って 線形回 帰し ている こと が明ら かにな った。これをもとに、潜在的生息域ホットスポットマップを、Poor(O−55%)、
Fair(55―75%)、Good(75‑90%)、Excellent(90%以上)に区分して作成し た 。 漁 場 推 定 上 で 最 も 重 要 なExcellent域 は 、 例 え ば1998年11月 は 36ー370N、167‑170°Eの狭 い 海域 に分 布し、 研究 水域の わず か1.1%しか 占 め てい な か っ た 。 こ れら の 高 密 度 海 域 は 、正 のSSHAで 、 相 対的 に渦運 動 エ ネル ギ ー の 高 い シ ヤツ キ ー 海 嶺 周 辺 海 域や 黒 潮 続 流 の 北 側海 域と一 致していた。
一般 化加 法モデ ルと 一般化 線形 モデル を利 用する こと により、潜在的生 息域 ホ ッ ト ス ポ ッ ト マッ プ を 確 率 パ ー セン ト で 表 現 でき た。 さらにCPUE 推 定 マ ッ プ もCPUE値 で 表 現 で き た 。1998〜2000年 は 、2002、2003年 と 比較し て、 高確率 域が 多く現 れた のは、 渦・ フロン ト分 布が多く、下層か ら栄 養 塩 供 給 が 多 く 、1次 生 産か ら2次 生産 へ と 影 響 し、 餌料 環境が 良か ったことに起因すると考えられた。
回遊三!2ーZ堕推定
シミューレーショ.ンの結果と、延縄漁業データによる高密度域分布の南 下パ タ ー ン と は 、 特 に11月 、12月 に つ いて 良 い 一 致 を示 した 。回遊 モデ ルか ら 得 ら れ た ビ ンナ ガマグ ロの 高密度 分布 域のSST分布 は、 これま での 衛星リ モー トセン シン グデー タ解 析の結 果と 良く一 致し た。特に、南下回 遊にっ いて は、ビ ンナ ガマグ ロの 餌生物 (イ カ類な ど) の回遊パターンと 一致しており、モデルの有効性が示唆された。
【お わり に】
本 研 究は 、衛星 リモ ートセ ンシ ングとGIS技 術を 応用し て、 どのよ うに ビン ナガ マグロ が海 洋環境 に応 答して いる か理解し、その漁場推定モデル の開 発に 挑戦し たも のであ る。 本研究 を発 展させることにより、 オベレ ーシ ョナ ル 水 産海 洋学を さら に一歩 進め て、このモデルを実際の漁業ー 応用 して 、効率 的で 持続可 能な 漁業の 推進 に貢献できることを期待してい る。 1459―
学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査 副 査 副 査
教授 教授 教授 教授 助教授 助教授
齊 藤 誠 一 三 浦 汀 介 飯 田 浩 二 桜 井 泰 憲 米田國三郎 清 水 晋
Predicting Potential Habitat Hot Spots and Migration Pattern for Albacore Tuna, Thunnus alalunga, in the Northwestern North Pacific using Satellite Remote Sensing and GIS
(衛星リモートセンシングと地理情報システム(GIS)による 北 西北太 平洋 にお ける ビンナ ガマ グロThunnus alalungaの 潜在生息域ホットスポットと回遊パターンの予測に関する研究)
近年、国連海洋法により、排他的経済水域(EEZ)内での充分な資源の開発利用と、も し資源が必要以上にある場合に、それを他国に利用させることを義務付けられている。
このようを状況の中から、わが国周辺水域の環境収容カを明らかにすることを目的に従 来の資源量推定法に加え、広い海域の資源量や生産環境を、短時間かつ高精度に探査で きる新しい資源量推定法やりアルタイム海洋生物資源環境モニタリングシステムの開発 が急務である。そして、持続的に海洋生物資源を利用する視点や資源回復計画案の策定 上からも、いつ、どこに、どのくらいの資源が利用可能かりアルタイムで知る必要があ る。
本研究で対象としたビンナガマグロ7hunn salalungaは、北太平洋に韜いて日本の延繩 漁業の対象魚であり、商業的にも生態学的にも重要な漁業資源である。経済的な観点か らは、この種は高経済価値があり、広い市場性もある。本種は、北太平洋の北緯10度か ら北緯50度までの熱帯域から亜寒帯域に出現し、日本周辺海域から米国西海岸まで広く 回遊する。1950年から2000年にかけて漁獲量は増加したにもかかわらず、漁獲量は安定 して推移している。北太平洋では、ビンナガマグロの総漁獲量は年平均200,OOOトン以下 である。このことは、本種の潜在的な漁場がいまだ完全に理解されておらず、その結果、
本資源は開発途上といえる。特に北西北太平洋において、ビンナガマグロの高生産漁場 (生息域ホットスポット〕を制御している海洋環境条件を明らかにすることが非常に重 要である。 .1^£n−
これまでのビンナガマグロ資源と生態に関する調査研究では、調査船による漁獲・観 測データや標識放流・再捕などにより、その分布・豊度や回遊経路が調べられている。
しかし、年間を通した生息海域全体での分布・移動、あるいは海洋環境と統合した漁場 形成に関する知見は断片的である。
そこで本研究では、主に人工衛星により観測された海面水温、クロロフィルa濃度、海 面高度データ韜よび6年間の漁獲データを用いて、衛星情報が漁場形成の指標として使 用できるかを検証し、ビンナガマグロの回遊と漁場形成に関わる海洋環境との関係を明 らかにしようとしたものである。さらに、漁場予測モデルの開発および回遊シミュレー ションをおこなった。
特に審査員一同が評価した点は以下の通りである。
1.ビンナガマグロの好適海洋環境は、海表面温度が18.5〜21.50C、クロロフィル濃度が 0.2〜0.4 mgm‥、海面高度偏差が‑5〜40 cmの範囲であることが明らかにした。
2.好適 海洋環境 に基づいた 潜在的生息 域ホットス ポットマッ プとビンナ ガマグロ CPUE分布との比較より、全CPUE値と漁場分布確率指数との関係を明らかにした。
3.一般化加法モデルと一般化線形モデルを利用することにより、潜在的生息域ホット スポットマップを確率パーセントで表現できる潜在漁場予測モデルを開発した。
4.回遊シミュレーションモデルに、環境情報として日単位の衛星観測海表面温度を適 用 し て 、 高 密 度 域 分 布 の 南 下 パ タ ー ン の 予 測 可 能 性 を 示 し た 。 本研究は、衛星リモートセンシングとGIS技術を応用して、どのようにビンナガマグ ロが海洋環境に応答しているか理解し、その漁場推定モデルの開発に挑戦したものであ る。本研究を発展させることにより、 オベレーショナル 水産海洋学をさらに一歩進め て、このモデルを実際の漁業ヘ応用して、効率的で持続可能な漁業の推進に貢献できる ことを期待している。
審査員一同は、本研究が、ビンナガマグロの回遊と漁場形成機構に関する統合的な知 見を得たものと高く評価し、本論文が博士(水産科学)の学位を授与される資格のある ものと判定した。