DOI 10.18957/rr.9.3.170
SPring-8/SACLA 利⽤研究成果集
Section A170
2017A1722 BL08W
放射光高エネルギー蛍光 X 線分析法を用いた平安時代前期の
緑釉陶器の胎土分析
Clay Analysis of Green Lead Glaze Earthenware Belong to the Early
Heian Period by SR-high Energy X-ray Fluorescence Method
降幡 順子a,森川 実b,柳 成煜b,神野 恵b,辻 成希c
Junko Furihataa, Minoru Morikawab, Ryu SungWookb, Megumi Jinnob, Naruki Tsujic a京都国立博物館,b奈良文化財研究所, c高輝度光科学研究センター
aKyoto National Museum, bNara National Research Institute for Cultural Properties, cJapan Synchrotron Radiation Research Institute
遺跡から出土した緑釉陶器(鉛釉陶器)について、その製作場所(産地)の特徴に関する元 素情報を得ることを目的とした。放射光高エネルギー蛍光 X 線分析法により、胎土に含まれ るごく微量の比較的重い特徴的な元素を検出し、非破壊分析で産地推定に関する有用な元 素情報を得ることにより、詳細な産地推定の検討ができないかと考え基礎的研究を実施し た。本実験から比較可能な元素として Ba、Ce、La が候補として期待が持てることがわかっ た。 キーワード 平安緑釉 胎土分析 背景と研究目的 本研究は、平安時代前期に比定される消費地遺跡から出土した緑釉陶器を対象とし、胎土 分析から産地推定を可能とするデータ取得を目的としている。9 世紀代の遺跡から出土する 緑釉陶器の産地としては、山城、尾張、長門の 3 地域が知られており、これらは考古学的な 見解から産地を推定しているものが多い。しかしその際の指標の一つとなる形態観察は、小 さい破片の場合、産地不明となる資料群も少なからず存在してしまう。今回の分析は、まず 始めに一括性の高い平安時代前期の緑釉陶器群[1]を対象とし、考古学的な見解から山城産 と尾張産の 2 種類と考えられる資料を中心におこなった。平安時代前期の段階では、尾張産 の生産がまだ限定的であったと考えられ、尾張産緑釉陶器の初現期の特徴を有していると いえる。いっぽう山城産は、奈良・平城京から京都・平安京へ遷都直後の段階で、奈良時代 の要素を未だ残す資料群である。8 世紀末以降の山城産の鉛釉陶器は、従来の奈良三彩等と 共通の特徴が多くあり、尾張産とは異なる平安京遷都以前からおこなわれていた生産技術 の特徴を有していると考えられる。これらの資料群の測定から、尾張産初現期および山城産 の特徴を明確にしていく。さらに、これらの資料群と比較するために、8 世紀の緑釉陶器・ 奈良三彩資料[2-6]を併せて測定し、微小破片の非破壊分析によって、原材料の相違を検討
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的少ない 30 keV~40 keV の範囲にピークが得られたため、Ba、La、Ce、Nd に着目した(図 2 拡大図)。ピーク分離によるデータ解析を実施し、積分強度の大きい Ba、および資料によ り強度差のみられた La、Ce に着目し、Ba 強度が 100 になるように規格化した値で図を作成 し、検討を試みた。 9 世紀前半の消費地遺跡から出土した資料で、考古学的な見解から推定される山城産と尾 張産資料の結果を図 3 に示す。重複している領域もあるが、尾張産とした資料群のほうが、 Ce、La の強度が大きい傾向が認められた。古い要素を残す比較資料である 8 世紀の緑釉陶 器・奈良三彩の結果を重ねてプロットすると、8 世紀資料は山城産と推定される資料群と類 似する分布を示す資料も多いが、全体的に分布範囲が広い結果となった。8 世紀の緑釉陶器・ 奈良三彩の分布と山城産と推定される胎土の分布が比較的広いことは、周辺の複数地域か ら適した粘土を採取し、それぞれ使用していたとも考えられ、いっぽう尾張産は、ある程度 決まった粘土採取地の存在が想定できるとも考えられる。 九州・東海地域の消費地遺跡出土資料および前出の尾張産資料よりやや時代の下る 9~10 世紀の尾張産資料の結果をあわせて図 3 に示す。東海地域出土資料および 9~10 世紀の尾 張産資料は規格化した Ce、La 値が大きく、初現期の尾張産の特徴と類似しているが、やや La 値が高い傾向を示した。初現期の粘土採取地の近傍に異なる採取地が存在していた可能 性や、尾張から美濃地域への窯元の移動などを反映していることも考えられる。九州地域か ら出土した資料は、Ce、La の値が小さく、8 世紀緑釉陶器資料と分布範囲が類似する資料 3 点と、東海地域および 9~10 世紀尾張産と類似する資料 1 点が認められた。長門(防長)で も 9 世紀以降は緑釉陶器の在地生産が開始されていたと考えられている。防長産の窯跡遺 跡が未発見のため詳細は今後の発掘調査を待ちたいが、今回調査した 8 世紀から 10 世紀の 遺構から出土している消費地遺跡出土資料のうち1点は尾張産が、8 世紀緑釉陶器と類似す る 3 点は畿内産の緑釉陶器が搬入された可能性が考えられる。しかしこれらをより明確に するためには防長産と推定されている資料群の追加調査を実施し、その分布を明らかにす る必要がある。 図 2 緑釉陶器(9 世紀)測定結果一例
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Section A 173 今回の分析は、Ba、Ce、La の積分強度比を比較して時代・地域の異なる出土資料の産地 推定に活用した初めての試みである。その結果、一部では重複する資料や、分布範囲の広い 資料も存在しているが、時代・生産地の特徴の一端は捉えることができたのではないかと考 える。 今後の課題 今後は、窯跡出土資料、防長産と推定されている資料等の分析資料数を増やす必要がある と考えている。非破壊分析法による鉛釉陶器の産地推定に有用なデータ収集に今後も努め ていきたい。 本研究は JSPS 科研費 16K01190 の助成を受けたものです。 参考文献 [1] 降幡順子,尾野善裕, 平成 27 年度京都市埋蔵文化財出土遺物文化財指定準備業務報告 書 平安京左京二条二坊「冷然(泉)院」出土品,京都市文化市民局, 72 (2016). [2] 降幡順子,奈良文化財研究所学報第 92 冊文化財論叢Ⅳ,1385(2012). [3] 降幡順子,神野恵, 河南省鞏義市白河窯跡の発掘調査概,奈良文化財研究所研究報告第 11 冊, 107, (2013). [4] 降幡順子,齋藤努,玉田芳英,東アジア文化遺産保存国際シンポジウム発表要旨集,122 (2015). [5] 降幡順子,神野恵,除楓訳, 華夏考古 2015-4, 135 (2015). [6] 今井晃樹,神野恵,降幡順子, 奈良文化財研究所紀要 2017, 280 (2017). [7] 降幡順子,博士論文,総合研究大学院大学,(2015).[8] I. Nakai et al., J. Synchrotron Rad., 8, 1078 (2001).
(Received: September 24, 2020; Accepted: March 16, 2021; Published: April 27, 2021) 図 3 規格化した Ce、La による比較