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中年期女性における運動行動の実態と運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連 ~高校生の子を持つ母親を対象とした質問紙調査~

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Academic year: 2021

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17Research Journal of JAPEW 37:17-30, 2021. 原著論文. 中年期女性における運動行動の実態と 運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連. ~高校生の子を持つ母親を対象とした質問紙調査~. 田中 安理(専修大学非常勤講師) 助友 裕子(日本女子体育大学) Examination of the Relationship Between Exercise Behavior and Social Support or . Environmental Factors Among Middle-aged Women-Questionnaire Survey for Mothers with High School Children. Anri TANAKA(Part-time lecturer, Senshu University) Hiroko YAKO-SUKETOMO(Japan Women's College of Physical Education). 要 旨 本研究では,多重役割を果たす中年期女性,とりわけ高校生の子を持つ母親の運動行動の実態を把握し,運. 動ソーシャルサポート及び環境要因との関連性について検討することを目的とした。 研究方法は,東京都内にある二校の高等学校に通う在校生の保護者に配票留置法による自記式質問紙調査を. 実施した。運動行動の実態の把握は,トランスセオレティカル・モデルを用いた。運動行動に影響を及ぼす運 動ソーシャルサポート及び環境要因との関連性について,運動行動の実態別の群間比較を行った。その結果, 運動行動の実施状況と運動ソーシャルサポート得点(17.6>15.3)に,有意な差が見られた(p<0.001)。また, 末子年齢(p<0.05)や親世代同居(p<0.05)の関連について有意な差が見られた。 このことから,中年期女性, 特に高校生の子を持つ母親は,女性のライフステージに応じた,周囲の人々から与えられる環境が良好である ことが,運動実施の向上に寄与する可能性が示唆された。. Abstract The purpose of this study was to determine the exercise behavior of middle-aged women who play. multiple roles, especially mothers of high school children, and to examine the relationship between the exercise behavior and exercise social support or environmental factors.. A self-administered questionnaire survey was implemented to the parents in two high schools in Tokyo. The Transtheoretical Model approach was considered to determine the actual condition of exercise behavior. Then, the relationship between exercise behavior and exercise social support or environmental factors affecting exercise behavior was examined. The results showed a significant difference between exercise behavior and exercise social support scores (17.6>15.3) (p<0.001). Significant differences were also found for the associations of youngest child age (p<0.05) and parental generation cohabitation (p<0.05). These findings suggest that middle-aged women, especially mothers of high school children, may benefit from social network, depending on their life stage, which may contribute to improved exercise behavior.. Key words: middle-aged women, transtheoretical model, exercise social support, environmental factors, mothers with high school children. キーワード:‌‌‌中年期女性,トランスセオレティカル・モデル,運動ソーシャルサポート,環境要因,‌ 高校生の子を持つ母親‌. 18 田中 助友. Ⅰ 緒言 近年,我が国では長寿化が進み,人生100年時. 代を迎えようとしている。中でも女性の平均寿命 はますます伸長し,女性が活動的に過ごせる期間 を延伸させることは喫緊の課題である。特に,老 年期に入る前段階において,運動行動を促進させ ることは,健康寿命の延伸に繋がり,豊かな人生 を,より長く過ごすことを可能とする。老年期の 前段階である中年期 1 )は,ライフサイクルの視 点から見ると,人生の折り返し地点にあたり,「人 生半ばの峠」とも言われている。岡本(2008)は, 中年期女性を,身体・家族などに大きな変化がみ られる人生の曲がり角,人生のターニングポイン トと捉え,残りの人生を肯定的,積極的に生きる ための再構築の時期と考える視点が重要であると 指摘している。. 日常生活において運動行動が健康に好ましい影 響を与えることについては明らかであるものの, 中年期女性の運動行動実施率は全世代の中で最も 低い 2 )。中年期女性の運動非実施者の特徴は,仕 事や家庭内における多重役割によるものが多いこ とであるが,その実態は明らかでない。また,子 を持つ女性の運動行動は,その意思はあっても十 分に実行できていないと回答している者の割合 が,他世代より多いという報告もある(長野ら 2018)。. 中年期女性の健康課題 3 )は,おおよそ40代後 半から50代頃に訪れるといわれる更年期症状があ げられる。自覚症状には個人差があり,症状が重 い場合には家庭生活に支障をきたすほか,女性の 労働など社会活動に影響を与える場合がある。平 島(2015)は,女性のライフステージ特有の健康 課題として,第二次性徴以降,周産期や更年期に 代表されるようにライフステージの重要な時期と 内分泌が大きく変動する時期が重なり,男性とは 異なる心身のストレスが健康に影響をもたらす可 能性があると指摘している。更年期以降30年余り ある女性のライフステージに対し,更年期に対す る肯定的認識を持つようなセルフケアの能力向上 へは,運動や食事指導を含む教育が必要であると 指摘している(宮内ら2009)。. 女性が生涯にわたり健康を保持増進していくた めには,中年期の健康管理,とりわけ運動行動の. 維持が極めて重要であり,それを促進する環境づ くりが必要である。さらに,日常生活の中で無理 なくできる身体活動や運動行動を長期間継続して 行うことが重要である。このことから,運動を習 慣化させる方策として,行動科学の理論やモデル に基づいたアプローチを検討することは意義があ る。. 行動変容の段階を示したもので代表的なのは, Prochaskaら(1983)が提唱したトランスセオレ ティカル・モデル(Transtheoretical Model:以 下TTM 4 ) である。岡(2000)は,行動変容の TTMに基づき,運動行動変容の尺度を開発した。 人の行動が変わり,それが維持されるには,「無 関心期」,「関心期」,「準備期」,「実行期」,「維 持期」の 5 つのステージ(表 1)を通ること,ひ いては対象者が現在どのステージにいるかによっ て,対象者への有効な働きかけの方法が異なるこ とを説明したモデルである。なお行動変容のプロ セスは,常に「無関心期」から「維持期」に順調 に進むとは限らない。特に女性においてはライフ ステージにおける運動行動の阻害因子が多く存在 することから,一時期,停滞や逆戻りすることも あるとされている(青木2005)。したがって,中 年期女性の運動行動の実態を把握することが,ま ず求められる。. 表 1 運動行動変容の段階の定義(岡‌2000). 段 階 定 義 無関心期 わたしは現在,運動していない. また,これから先(6か月以内)もする つもりはない. 関心期 わたしは現在,運動していない しかし,これから先(6か月以内)に始 めようとは思っている. 準備期 わたしは現在,運動している しかし,定期的ではない. 実行期 わたしは現在,運動している しかし,始めてからまだ間もない(6か 月以内). 維持期 わたしは現在,運動している また,長期(6か月以上)にわたって継 続している. 19中年期女性における運動行動の実態と運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連. 運動行動の促進要因として,運動ソーシャルサ ポート 5 )が影響を及ぼしていることは様々な. 先行研究で明らかとなっている(板倉ら2003: 山本ら2014:中山ら2015)。. したがって,中年期女性,とりわけ家庭内や職 場において多重役割を担う女性について,運動行 動の実態を明らかにし,どのような運動ソーシャ ルサポートが運動行動の促進と関連しているのか 詳細に検討することは意義がある。仕事,家事, 子育てなど女性の社会的立場に係る環境要因と運 動行動の関連については,比較的若い世代の母親 や高齢者を対象とした研究が散見される。しかし, 子育てがひと段落しつつある高校生の子を持つ母 親に焦点をあてた研究は未だ行われていない。お おむね15歳の中学生から高校生の子を持つこの時 期は,子どもの自立により家庭における親の役割 が減少し家族構造に変化が起こるとされている。 したがって,高校生の子を持つ母親(石原2015) の運動行動は,その変化に応じた運動ソーシャル サポートやそれを中心とした環境要因の影響を受 ける可能性がある。. 他方で,高校生の運動・スポーツ離れの実態が 報告されている(谷川ら2014)。子どもの体力は 母親の運動行動への意識と強く関連していること が報告されている(長野ら2018)。つまり,運動 行動に対する母親の意識は,子の運動行動にも影 響を与える波及効果も期待することができよう。. そこで,本研究では,高校生の子を持つ母親の 運動行動の実態を把握し,運動行動を促進するた めの運動ソーシャルサポート及び環境要因との関 連性について検討することを目的とした。. Ⅱ 方法 1.調査対象者. 東京都内にある都立T高等学校及び私立N高等 学校に通う高校 1 ~ 3 年生の保護者1,281名に配 票留置法による自記式質問紙調査を実施した。総 配布数1,281名に対し,520名から回答が得られた。 回収率は40.6%であった。このうち,子との続柄 で母親と回答し,年齢が30 ~ 50代の女性を本研 究の対象とした。さらに,運動行動変容ステージ, 運動ソーシャルサポートの各質問項目に欠損を含 む87名を除外した433名(有効回答率33.8%)を. 分析対象とした。. 2.調査概要 2-1 調査実施手続き. 調査に先立ち,各学校の管理職に書面で調査概 要を説明し,調査実施への許可を得た。その後, 都立T高等学校においては, 4 月に行われた各学 年の保護者会に参加する保護者に向け,管理職か ら調査実施について口頭で説明を行った。調査票 は,配布用封筒の中に調査依頼文及び回収方法の 説明文と回収用封筒をセットにし,各クラス担任 から全校生徒に配布した。調査票の回答期間を 2 週間設け,同意の得られた保護者から生徒を介し 回収された。提出はクラス担任への手渡し,また は職員室に設置された回収箱に生徒自身が投函し た。私立N高等学校は,各学年の保護者会におい て学年主任から保護者に向け調査の趣旨を書面な らびに口頭で説明し,同意の得られた保護者から 回答を得て,その場で学年主任が回収を行った。 なお,全校生徒の保護者を調査対象とするため, 保護者会を欠席した保護者に対しては,後日クラ ス担任から生徒を介して調査依頼,調査票の配布 及び回収を行った。調査期間は,2019年 4 月15日 ~ 27日にかけて実施された。 2-2 倫理的配慮. 研究対象者に対し,研究目的及び研究内容,注 意事項等を記載した研究説明文書を配布した。さ らに説明文には,調査への提出をもって本研究に 同意したとみなすことを明記した。調査協力者に 対し,本研究の趣旨とともに,参加は自由である こと,個人を特定することなく,協力の有無によ って何らかの不利益が生じないこと,個人情報の 保護に細心の注意を払い,本研究のみにデータを 使用し研究者以外の者がデータを利用することは ないことを記載した。本調査の実施に当たり,日 本女子体育大学に設置された,人を対象とする研 究に関する倫理審査委員会の承認を得て実施した. (承認番号2018-29- 2 承認年月日2019年 4 月 3 日)。 2-3 調査内容. 調査内容は,基本属性11項目,子(高校生)の 基本属性 4 項目,TTMによる運動行動実施状況 5 項目,運動ソーシャルサポート 5 項目,運動に. 20 田中 助友. 影響を及ぼす個人要因14項目及び環境要因 6 項目 とした。 (1)基本属性及び特性に関する調査内容. 高校生の子を持つ母親に対し,性別,年齢,職 業,居住形態,婚姻状況,同居している家族成員, 末子の年齢,主観的健康感,月経状態,生活習慣, 自身が過去に行っていた部活動,回答者の高校生 の子の性別,学年,子との続柄,その子が所属し ている部活動について尋ねた。末子の年齢は,既 婚女性の運動実施と関連する一つの要因であると 指摘されていることから(佐藤2003),子の中で 一番年齢の低い末子の年齢を尋ねた。主観的健康 感は,現在の健康状態を「非常に良い」,「良い」,. 「悪い」,「非常に悪い」の 4 件法で尋ねた。更年 期の身体的変化を客観的にとらえる指標として月 経状態が適していることから,現在の月経状態を 尋ねた。生活習慣はブレスローの 7 つの健康習慣 の設問について,当てはまるものすべてを選択さ せた。現在の運動習慣は,過去の運動経験が影響 を及ぼしていることから(鈴木2009),回答者自 身が過去(中学校・高校時代)に加入していた部 活動についてあてはまるものすべてを選択させ た。 (2)運動行動変容ステージに関する調査内容. 運動行動変容ステージに関する調査項目は,岡 (2000)が作成した運動TTMを使用した(表 1)。 このモデルは,過去及び現在における実際の運動 行動 6 )と,その行動に対する動機づけの準備性 の状態を測定する 5 つの項目から構成されてい る。各項目に対し,現在の自分の考えや行動に最 も当てはまるものを 1 つ選択させた。本研究では, まだ実行するに至っていないが実行する意思のあ る者や働きかけによって行動変容が可能となる者 に対する介入効果は大きいとした岡(2003a)の 主張に依拠し,関心期と準備期への移行段階に着 目する。また,運動行動の変容プロセスは,常に 無関心期から維持期に順調に進むとは限らず,特 に女性においてはライフステージにおける運動行 動の阻害因子が多く存在する。この影響により, 一時期,停滞や逆戻りすることがある(青木 2005)。そのため,無関心期,関心期を選択した 者を運動非実施群,準備期,実行期,維持期を選 択した者を運動実施群とし,各項目について 2 群. 間比較を行った。 (3)運動ソーシャルサポートに関する調査内容. 運動に関するソーシャルサポートとは,運動を 行うことに対して得られる身近な人からの有形・ 無形の援助のことである。運動ソーシャルサポー ト項目は,板倉ら(2005)が作成した,運動実施 に関連したソーシャルサポートの測定尺度を用い た。この尺度は,家族や友人が各項目の内容のサ ポートを提供してくれているかどうかを,「全く そう思わない」( 1 点)~「かなりそう思う」( 5 点)までの 5 件法で尋ねるものである。各項目の 得点を単純合計し,ソーシャルサポート尺度得点 とした。得点範囲は 5 ~ 25点であり,得点が高 いほど運動に対するソーシャルサポートが高いこ とを示す。 (4)‌運動行動に影響を及ぼす個人要因及び環境. 要因 運動行動に影響を及ぼす環境要因の項目につい. ては,石井ら(2009)による簡易版運動習慣の促 進阻害要因尺度20項目を用いた。その中から14項 目については,運動行動に影響を及ぼす個人要因 として抽出した。因子内容の各項目に対し,「全 くそう思わない」( 1 点)~かなりそう思う」( 5 点)までの 5 件法で尋ねた。 5 段階で評価した後, 1 ~ 3 点を「思わない」, 4 ~ 5 点を「思う」 として 2 群に分け,分析を行った。. 3.解析方法 解析方法は,性別に女性と回答し,30歳以上60. 歳未満の者で,子との続柄に母親と回答した者, かつ運動TTMと運動ソーシャルサポートに対し 欠損のない者を分析対象とした。. 運動行動変容ステージについて,無関心期と関 心期を「運動非実施群」,準備期,実行期,維持 期を「運動実施群」の 2 群に分類し,運動ソーシ ャルサポート,運動に影響を及ぼす環境要因,属 性・特性の各項目との関連性について群間比較を 行った。変数特性により,対応のないt検定,χ 2 検定ならびにFisherの正確確率検定を用いて検 討した。統計解析ソフトはSPSS Statistics23を用 い,統計的有意水準は両側 5 %未満とした。. 21中年期女性における運動行動の実態と運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連. Ⅲ 結果 1.対象者の属性と特性. 分析対象者の属性及び特性を表 2 に示した。対 象者の平均年齢は47.3歳(標準偏差±4.2歳)で, 313名(72.3%)が40歳代,120名(27.7%)が50 歳代であった。婚姻状況は403名(93.1%)が既 婚者であり,27名(6.2%)が離別・死別を含む 未婚者であった。職業は「パート・アルバイト」 である者が全体の約 5 割であり,約 2 割が「専業 主婦」であった。全体の就労率は約 8 割であった。 居住形態は,「持ち家(一戸建て)」,「持ち家(マ ンション)」である者が83.3%であった。. 同居形態は,親世代と同居している者は全体の. 1 割程度(10.4%),中学生以下の子どもと同居し ている者は42.5%であった。回答者の子どものうち 末子の年齢は 2 歳から18歳までの幅があり,平均 年齢は13.8歳(標準偏差±2.9)であった。このうち, 15歳が全体の25.2%(n=109)で一番多かった。 対象者の更年期症状の指標を示す月経状況は,順 調148名(34.4%),不順204名(47.4%),閉経78名. (18.1%)であった。健康状態は全体の約 9 割の者 が良好と回答した。実行している生活習慣を選択 した者は,「規則的な運動」が94名(21.7%),「 7 - 8 時間睡眠」が88名(20.4%),「過度の飲酒をしない」 が275名(63.5%),「たばこは吸わない」が336名(77.6 %),「朝食を欠かさない」が319名(73.7%),「間. 表 2 対象者の属性と特性. 項目 カテゴリー 人数 % 平均 ±SD. 年齢 47.3 ±4.2 婚姻状況 既婚 403 (93.1). 未婚(離別死別含) 27 (6.2) 職業 職業あり 345 (79.7). 専業主婦 85 (19.8) 居住形態 持ち家(一戸建て・マンション) 359 (83.3). 賃貸住宅 72 (16.7) 同居形態 配偶者 383 (88.5). 親世代 45 (10.4) 中学生以下 184 (42.5) 大学生以上 147 (33.9). 月経状態 順調(はい) 148 (34.4) 不順(いいえ) 204 (47.4) 閉経(なし) 78 (18.1). 健康状態 良好 390 (90.1) 不調 42 (9.7). 生活習慣 規則的な運動 94 (21.7) 7-8時間睡眠 88 (20.4) 過度の飲酒なし 275 (63.5) 喫煙なし 336 (77.6) 朝食を欠かさない 319 (73.7) 間食なし 24 (5.6) 適切な体重維持 177 (40.9). 過去運動部活 経験あり 331 (77.2) 末子年齢 13.8 ±2.9. 無回答は除外 注)SD:標準偏差(standard deviation) * 過去運動部活:過去(中学校・高校時代)に加入していた運動部活経験者を 「経験あり」とした. 22 田中 助友. 食をしない」が24名(5.6%),「適切な体重維持」 が177名(40.9%)であった.子の属性については, 男子171名(39.5%),女子262名(60.5%)であった。 学年は 1 年生213名(49.4%),2 年生139名(32.3%), 3 年生79名(18.3%)であった。. 2.運動行動変容ステージの分布 表 3に対象者の運動行動変容ステージの内訳. を示した。運動実施群が228名(52.7%),運動非 実施群が205名(47.3%)であり,僅かに運動実 施群が多い。運動行動の変容ステージ別では,運 動の必要性を感じていない「無関心期」が114名. (26.3%),次いで,すでに習慣化させている「維 持期」が110名(25.4%),定期的ではないが運動 を実施している「準備期」が105名(24.2%)で あった。運動行動の意思はあるが実施に至ってい. ない「関心期」は91名(21.0%),運動行動の実 施間もない「実行期」は13名(3.0%)であった。. 3.運動行動と基本属性及び特性との関連 対象者の属性及び特性の各項目について運動行. 動の 2 群間比較を行った結果を表 4に示す。平. 表 4 運動行動と基本属性及び特性との関連. 項 目* カテゴリー 運動実施群 運動非実施群. P値†n=228 n=205 n(%) n(%). 年齢 Mean (SD) 47.6(4.6) 47.0(3.8) 0.105 49歳以下 151(66.2) 162(79.0). 0.003 50歳以上 77(33.8) 43(21.0). 婚姻状況 既婚 215(94.7) 188(92.6) 0.370. 未婚(離・死別含) 12(5.3) 15(7.4) 健康状態 良好 216(95.2) 174(84.9). 0.000 不調 11(4.8) 31(15.1). 月経状態 順調 74(32.7) 74(36.3) 0.442. 不順・閉経 152(67.3) 130(63.7) 生活習慣 低意識群 126(55.5) 154(75.9). 0.000 高意識群 101(44.5) 49(24.1). 末子年齢 Mean(SD) 14.1(2.9) 13.5(3.0) 0.044 中学生以下 114(63.2) 148(72.2). 0.045 高校生以上 84(36.8) 57(27.8). 同居形態 親世代 30(13.2) 15(7.3) 0.047 中学生以下 86(37.7) 98(47.8) 0.034 大学生以上 83(36.4) 64(31.2) 0.256. *未回答は欠損値として除外した *年齢:平均と標準偏差(SD)を示した.それ以外の数値は,人数と割合(%)を示した *健康状態:「非常に良い」「良い」を『良好』,「悪い」「非常に悪い」を『不調』とした * 生活習慣:「3つ以下選択した者」を『低意識群』,「4つ以上選択した者」を『高意識群』. とした * 末子年齢:15歳以下を「中学生以下」,16歳~ 18歳を「高校生」とした * 同居形態:「親世代」は,父,母,義父,義母,と回答したもの,「中学生以下」は,就学. 前の子ども,小学生中学生と回答したもの,「大学生以上」は,大学・短大他学生(浪人生含), 職業についてい子ども,とした. †運動行動2群間差についてはχ2検定またはFisherの直接確率検定を用いた. 表 3 運動行動変容ステージの分布表. カテゴリー n=433 % 運動非実施群 205 (47.3). 無関心期 114 (26.3) 関心期 91 (21.0). 運動実施群 228 (52.7) 準備期 105 (24.2) 実行期 13 ( 3.0) 維持期 110 (25.4). 無回答は除外. 23中年期女性における運動行動の実態と運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連. 均年齢については両群に有意差はみられなかった ものの,運動実施群には運動非実施群よりも50歳 以上の者の割合が有意に高い割合を示した(p< 0.05)。また,健康状態においては「良好」の者(p <0.001),生活習慣においては「高意識群」の者(p <0.001)の割合がそれぞれ,運動実施群の方に 有意に高い傾向が認められた。一方,月経状態に ついては,全体の約 7 割弱の者が「不順」または. 「閉経」と回答していたが,特に運動行動との有 意な関連はみられなかった。. 末子の平均年齢について,運動実施群の方は, 平均年齢が高く(14.1歳±2.9),有意に高い傾向 を示した。また,「高校生(16 ~ 18歳)」の末子 と同居している者は,運動実施群の方に有意に高 い回答割合を示した。同居形態についてたずねた 項目のうち,親世代と同居をしていると回答して いる者は運動実施群において高く(p<0.05),中 学生以下の子どもと同居していると回答した者は 運動非実施群において有意に高い回答割合を示し た(p<0.05)。. 4.運動行動と運動SSとの関連 表 5は本研究対象者の運動SS及び特性との関. 連を示した。運動実施群(n=228)は運動非実 施群(n=205)と比して運動ソーシャルサポー ト得点の平均値が2.3ポイント(17.6>15.3)高く, 有意な差を示した(p<0.001)。運動ソーシャル サポートでは,すべてのカテゴリーについて運動 実施群が有意に高い値を示した。. 5.‌運動行動と運動に影響を及ぼす環境要因との 関連. 5-1 運動行動と環境要因との関連 運動行動と環境要因との関連については表 6. に示した。「施設がない」以外の変数において, 運動実施群と運動非実施群の間に統計的な有意差 が示された。「家族がすすめない」(p<0.001),「運 動する仲間がいない」(p<0.05),「十分な時間が ない」(p<0.05),「仕事が多すぎる」(p<0.001) それぞれを選択した者は,運動非実施群の方が運 動実施群より有意に高い割合であった。「天気が 悪い」については,運動実施群の方が運動非実施 群より有意に高い回答割合を示した(p<0.05)。 5-2 運動行動と個人要因との関連. 運動行動と運動にかかわる個人要因との関連に ついて表 7に示した。「ストレスを解消し, リラ ックスできる」(p<0.001),「友達と一緒にできる」. (p<0.001),「自分の能力を他人に認めてもらう」 (p<0.001),「楽しくエンジョイできる」(p< 0.001),「交友関係が深まる」(p<0.001),「可能 性への挑戦になる」(p<0.05)の 6 項目を選択し た者は,運動実施群の方が運動非実施群と比して 有意に高い回答割合を示した。一方,「適正体重 を維持できる」(p<0.05),「運動はつまらない」(p <0.001),「無精である」(p<0.001),「運動によ って疲れてしまう」(p <0.001),「動機づけに欠 ける」(p<0.001)の 5 項目を選択した者は,運 動非実施群の方が運動実施群と比して有意に高い 回答割合を示した。. 表 5 運動行動と運動SSとの関連. 項 目* カテゴリー 運動実施群 運動非実施群. P値† n=228 n=205. 運動SS得点 Mean(SD) 17.6(4.3) 15.3(4.3) 0.000 アドバイス・指導 2.97(1.2) 2.63(1.2) 0.004 理解・共感 4.21(0.8) 3.60(1.0) 0.000 激励・応援 3.68(1.0) 3.19(1.0) 0.000 共同実施 3.25(0.2) 2.79(1.1) 0.000 賞賛・評価 3.49(1.1) 3.13(1.0) 0.000. *未回答は欠損値として除外した *SS:Social Support *運動SS得点:平均と標準偏差(SD)を示した †運動行動2群間差についてはχ2検定またはFisherの直接確率検定を用いた. 24 田中 助友. Ⅳ 考察 本研究では,高校生の子を持つ母親の運動行動. の実態を把握し,運動ソーシャルサポート及び運 動行動を促進するための環境要因との関連性につ いて検討した。. 1.基本的属性と運動行動変容ステージの分布 1-1 対象者の属性. 本研究の分析対象者である高校生の子を持つ母. 親の平均年齢は,47.3±4.2歳であった。対象者の 年齢を年代別に分け,運動行動との関連を検討し た結果,49歳以下の者に比べ50歳以上の者は運動 実施群に有意に高い割合を示した。先行研究(岡 2003a)においても中年期世代では年齢が上がる につれ運動実施率が高くなることが示されてい る。また,本研究結果は,「スポーツの実施状況 等に関する世論調査」(スポーツ庁2019)で報告 された内容と同様の結果であったことから,これ. 表 6 運動行動に影響を及ぼす環境要因との関連. 項 目* 運動実施群 運動非実施群. P値†n=228 n=205 n(%) n(%). 家族がすすめない 0(0.0) 12(5.9) 0.000 運動する仲間がいない 28(12.8) 50(24.6) 0.002 十分な時間がない 147(66.8) 162(79.0) 0.005 仕事が多すぎる 102(46.6) 142(69.3) 0.000 天気が悪い 76(34.9) 45(22.2) 0.004 施設がない 29(13.2) 33(16.3) 0.382. *未回答は欠損値として除外した †運動行動2群間差についてはχ2検定またはFisherの直接確率検定を用いた. 表 7 運動行動に影響を及ぼす個人要因との関連. 項 目* 運動実施群 運動非実施群. P値†n=228 n=205 n(%) n(%). 全身持久力が増す 179(79.2) 173(85.6) 0.082 ストレスを解消し,リラックスできる 201(88.9) 150(74.6) 0.000 友達と一緒にできる 105(46.5) 47(23.4) 0.000 適性体重を維持できる 160(71.1) 160(79.6) 0.043 自分の能力を他人に認めてもらう 59(26.2) 19(9.5) 0.000 健康になる 217(95.2) 191(94.6) 0.771 楽しくエンジョイできる 197(87.2) 123(61.2) 0.000 交友関係が深まる 122(54.0) 77(38.3) 0.001 外見が良くなる 123(54.4) 114(56.7) 0.634 可能性への挑戦になる 121(53.5) 85(42.3) 0.020 運動はつまらない 10(4.6) 37(18.2) 0.000 無精である 71(32.7) 131(64.9) 0.000 運動によって疲れてしまう 84(38.4) 126(62.1) 0.000 動機づけに欠ける 27(12.3) 83(40.9) 0.000. *未回答は欠損値として除外した †運動行動2群間差についてはχ2検定またはFisherの直接確率検定を用いた. 25中年期女性における運動行動の実態と運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連. らの知見を支持する結果であった。 本研究対象者の身体的側面からみた特徴では,. 閉経している者と月経に変化を感じている者が全 体の約 7 割弱であった。このことから,概ね更年 期の初期段階に属する集団であることが推測され る。年齢と更年期症状の指標となる月経の変化状 況の調査(菅沼ら2000)とも,ほぼ同様の特性集 団であった。. 本研究の分析対象者のうち,健康状態が良好で あると回答している者は 9 割存在した。しかし, 中年期女性は多少の更年期症状が出現しても「健 康である」と回答することも報告されており,更 年期症状そのものがあっても健康問題として認識 していない可能性がある(植田ら2002)。中年期 女性の健康課題とされる更年期症状に対する対処 法は,閉経段階や症状によって有効となる対処法 に違いが見られると報告(田仲2015)されている。 漆山ら(2010)が行った更年期様症状とその対処 行動の実態の調査では,主な対処法として,栄養 を考えた食事や規則正しい生活をするなどの日常 に関連したものが多く,運動行動に関連する対処 項目は示されていない。つまり,本研究の対象者 の多くは,運動行動ではない別の生活習慣によっ て健康状態が良好であると回答している可能性が ある。. 一方,本研究では,健康状態が良好であると回 答している者の割合は,運動実施群において有意 に高い傾向が示された(p<0.001)。中年期女性 の更年期症状である肩こりや腰痛の高い有訴率と 運動行動には関連があり,運動行動がない者にお いてはこれらが更年期症状のリスク要因であるこ とが報告されている(辻下ら2016)。この報告では, 特に運動療法などが有効であると結論づけられて いる。つまり,本研究の対象者のうち運動実施群 に属する者は,運動行動によって少なくともこれ らの身体症状の軽減や緩和につながっている可能 性がある。. 他方,本研究では,生活習慣に対する高意識群 は,運動実施群の方が有意に高い割合であった。 仕事や家事などで時間的余裕がなく,良好な生活 習慣,食生活を送ることが困難であり健康と感じ にくくなる気づきが運動実施のきっかけになるこ とが指摘されている(本多ら2005)。このことから,. 本研究で運動行動の実施に至ってはいないが運動 の意図がある関心期に相当する者が相当数(21.0 %)いることから,今後,この層に対するより一 層の介入が必要であろう。 1-2 対象者の運動行動の特徴. 本研究対象者の運動行動の変容ステージに着目 すると,運動実施群は全体の52.7%,運動非実施 群は47.3%であった。岡ら(2003b)が40歳から 65歳の中年期男女608名を対象に調査した結果に よると,運動実施群は全体の46.4%,運動非実施 群は全体の53.6%であり,運動実施群という観点 からは,本研究対象者よりやや低い。この差異は, 集団特性の違いだけでなく,運動行動変容ステー ジによって運動行動の有無を定義した本研究の特 徴でもある。特に,運動非実施群の中でも運動実 施の意思がある関心期や運動実施が定着していな い準備期に該当する人々が,運動実施に対し流動 的である可能性がある。. 関心期から準備期への移行は,末子の年齢が関 連している可能性もある。本研究では,中学生以 下の末子を持つ者の割合は,運動非実施群で有意 に高い傾向がみられた。幼い子どもを持つ女性の 運動実施は困難とされることが多い。例えば, 1 歳から 6 歳までの育児期にある母親を対象とした 調査(山西ら2018)では,運動非実施群は全体の 74.6%であるものの,そのうち44.5%が関心期で あったことも報告されている。つまり,年齢の低 い子を持つ母親は運動したいと思っているものの 実行に移せない者が多い。したがって,高校生の 子を持つ母親についても同様のことが言える可能 性がある。本研究対象者の運動実施群が全体の半 数を超えていたことから,より年齢の低い子を持 つ母親集団に比べ,運動行動変容ステージは運動 実施の方向に移行していることが伺える。. 本研究対象者の生活習慣に対する意識は,運動 実施群の方が高意識群の回答割合が高かった。仕 事や家事などで時間的余裕がなく,良好な生活習 慣,食生活を送ることが困難であり健康と感じに くくなる気づきが運動実施のきっかけになる可能 性があるという指摘もあることから(赤松ら 2007),本研究において関心期に該当する者(21.0 %)への介入方策を検討することは,今後の大き な課題である。. 26 田中 助友. 2.運動ソーシャルサポートと環境要因 本研究では家族や友人から受ける運動ソーシャ. ルサポートが運動実施の促進につながる可能性が あることが示された。板倉ら(2003)による研究 では,運動行動の変容ステージが進むにつれ運動 ソーシャルサポートの評価が高くなることが示唆 されている。本研究では,変容ステージ 5 段階と 運動ソーシャルサポートの関連について直接的な 検討は行っていないが,変容ステージ 2 段階と捉 えれば,この結果の妥当性が支持されたといえる。 また,本研究では運動に関わる個人要因のうち「友 人と一緒にできる」(p<0.001)や運動ソーシャ ルサポートの下位項目のうち「共同実施」(p< 0.001)の各項目において,いずれも運動実施群 に有意に高い回答割合を示していた。このように, 運動ソーシャルサポートと同義の項目についても 運動行動との関連が認められた。. 一方,本研究では「家族がすすめない」(p< 0.001),「運動する仲間がいない」(P<0.05)のそ れぞれにおいて,運動非実施群に有意に高い回答 割合であった。また,運動ソーシャルサポートの 下位項目である「理解・共感」(p<0.001)や「激 励・応援」(p<0.001)では,運動非実施群の平均 得点は運動実施群より低かった。常行ら(2015)は, 中年期を対象とした運動・スポーツ実施の行動変 容ステージに影響を及ぼす要因について質的な研 究を行った結果,人的支援による影響が最も強く 示されたと報告している。特に,姑が家事を手伝 うなど,運動行動の促進につながる家庭環境の存 在が可能性として示されている。本研究において も,運動実施群に親と同居している者の割合が高 かった。つまり,本研究では,親との同居が高校 生の子を持つ母親自身の時間的な余裕やゆとりを 促進し,運動行動につながる可能性が示された。. 一方で,親との同居は,親の介護問題により介 護者自身の健康問題と関連することが明らかとな っている(山田ら1998)。同居している主な介護 者の性・年齢階級構成割合をみると,40歳代女性 が介護者となっている者の割合は全体の4.6%で ある(厚生労働省2016)。このことから,平均年 齢40歳代である本研究対象者については,介護に よる健康問題ひいては運動行動への影響は,まだ 先のことと推測される。. 3.運動行動との関連要因 3-1 運動行動と環境要因との関連. 運動行動と関連のある環境要因として,唯一関 連が認められなかったものとして,「施設がない」 があげられる。身体活動を行うための施設・設備 の利用しやすさは運動行動に直接的に影響を与え ることが示されているが (岡2011),本研究はこ の先行研究結果を支持していない。石井ら(2009) は,施設や天気などの物理的環境は,実際に運動 しようと意図し始めたり運動を開始したりする 者,すなわち運動行動変容ステージが移行する各 段階に作用する要因であることを示している。し かし,一方で国の世論調査(スポーツ庁2019)に よると,女性が 1 年間に実施した種目は,ウォー キングや体操,階段昇降,トレーニングなど施設 を問わない種目が上位を占めている。このことか ら,本研究対象者も施設が必要条件に当てはまら ず,運動実施に対し影響がないことが考えられる。. 他方で,運動施設等の充実は,量だけでなく質 の面からも重要である。本研究では,中学生以下 の子と同居している者の割合が運動非実施群に多 かったことに鑑みれば,そのような母親を支援す るための物理的環境が必要である。海外の女性ス ポーツの積極策に目を向けると,杉山(2011)は, 1960年代スポーツの大衆化を国の政策に掲げた時 のイギリスを例に挙げ,女性参加に様々なアイデ ィアを凝らした活動を紹介している。スポーツク ラブ設置の際,スポーツだけではなく読書や刺繍, コーラスなどの部門を併設し,託児所とともにベ ビーシッターを配しており子育てしている女性に 対する配慮が展開されている。常行ら(2011)は 高齢女性においては,運動・スポーツそのものが 目的というよりも,食事や睡眠などを含めた包括 的な健康づくりの一環として運動・スポーツを実 施している可能性が示唆されている。女性の各ラ イフステージにおける環境や特性を考慮した運動 行動のための環境づくりが重要である。 3-2 運動行動と個人要因との関連. 本研究では,「ストレスを解消し,リラックス できる」,「友達と一緒にできる」,「自分の能力を 他人に認めてもらう」,「楽しくエンジョイでき る」,「交友関係が深まる」,「可能性への挑戦にな る」の 6 項目それぞれを選択した者の割合は,運. 27中年期女性における運動行動の実態と運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連. 動実施群の方が有意に高い傾向を示している。一 方で,「適正体重を維持できる」,「運動はつまら ない」,「無精である」,「運動によって疲れてしま う」,「動機づけに欠ける」の 5 項目それぞれを選 択した者の割合は,運動非実施群が有意に高い傾 向を示した。このような結果は,岡ら(2003b)が, 運動行動に対する捉え方や評価の仕方には,対象 者により逆転するポイントがあるとした指摘を支 持している。さらに,このような逆転ポイントは 概ね関心期から準備期のステージにある者に出現 するとされており,運動に関する意思決定に働き かける際の最も重要な介入ターゲットであると指 摘している(岡2000)。原田(2013)も,効果的 な身体活動の促進方策は,人々の特性や人々の置 かれている環境によって異なるとし,最も効果的 な身体活動の促進方策を探る研究の必要性を主張 している。つまり,本研究結果に見られる個人要 因の多様性もまた,運動行動変容ステージに影響 を与える可能性がある。 3-3 運動行動と社会的役割 (1)多重役割との関連. 本研究対象者の約 8 割は就労者であり,仕事, 家事,子育てなど多重役割の中で生活しているこ とが推測される。また,本研究対象者の運動に影 響を及ぼす環境要因については,「十分な時間が ない」や「仕事が多すぎる」を選択した者の割合 が,運動非実施群の方に有意に高い傾向があった。 女性としての多重役割は,中年女性の運動行動に 間接的に影響を及ぼすことが指摘されている(西 村ら2003:梅原ら2006)。さらに,池田ら(2010)は, 中年期女性は早い時期から生活改善のきっかけを 求めているが,自分自身が多重役割の中で生活し ており,家族の都合に左右されることや時間がな いことなどの理由が生活改善の阻害要因であるこ とを明らかにしている。 (2)女性のライフステージとの関連. 一方,本研究対象者の就労状況と運動行動との 関連は見られなかったため,多重役割とは主に家 庭内役割に限定している可能性もある。夫婦の 1 日(平日)の平均家事時間は,妻が夫の2.8 ~ 3.6 倍,育児時間は,2.1 ~ 2.7倍と,それぞれ大きな 差があることが分かっている(内閣府2019)。家 庭内における性役割が優先されることにより母親. 自身のことが後回しになる傾向にある。女性のラ イフステージと既婚女性のスポーツ実施の関連に ついて調査する上では,本人の年齢と末子の年齢 についての検討(佐藤2003)が必要である。本研 究対象者では,本人年齢が「49歳以下」,末子の 年齢が「中学生(15歳)以下」と回答している者 の割合は,運動実施群より運動非実施群の方に有 意に高い傾向が認められた。つまり,本研究結果 は,本人の年齢及び末子の年齢が高まることが家 事や育児といった家庭内役割の安定につながり, 運動行動の実施に影響を与えている可能性を示し た。. また,梅原ら(2006)は多重役割を担う子を持 つ母親の行動変容を促すような支援を,研究結果 を踏まえ実践させることが重要であると述べてい る。このことから,高校生の子を持つ母親という 同義の集団に対しても,運動への興味や関心が個 人要因によって異なる可能性があることは否定で きず,今後はそのような要因も細かく検討してい く必要がある。. 4.本研究の限界と課題 本研究から得られた知見は,都市部の限られた. 二校を対象としているため,先に論じた物理的環 境のように地方部とは異なる環境要因が存在する 可能性がある。このことから,本研究結果を一般 化するには限界がある。今後は都市部だけでなく 地方部の母親を対象とするなど,地域性を考慮し た調査を実施することが課題としてあげられる。 さらに,回収率が40.6%と低く,本研究対象者は 教育または健康に対し関心が高いなどの特性に偏 りがある可能性がある。特に,運動行動に影響を 及ぼすもののひとつとして,経済格差が挙げられ ていることから,今後は,公立高校と私立高校に 通う生徒の母親の学校間比較をするなど,社会科 学的な視点から検討する必要もあろう。. Ⅴ 結論 本研究では,高校生の子を持つ母親の運動行動. の実態として,運動行動変容ステージ別分布を明 らかにするとともに,末子の年齢が高校生(16 ~ 18歳)以上であることや親世代と同居してい ることといった運動ソーシャルサポート及び環境. 28 田中 助友. 要因が運動行動実施と関連している可能性を示し た。女性のライフステージに応じた,周囲の人々 から与えられる環境が良好であることが,運動実 施の向上に寄与する可能性が示唆された。. (当該論文は,令和元年度日本女子体育大学大学 院スポーツ科学研究科修士論文をもとに作成した ものである。). 謝辞 調査協力に快く応じてくださいました高等学校. 関係者の皆様,保護者の皆様,本論文の作成にあ たりご協力及びご助言をいただきました皆様に, 厚く御礼申し上げます。. 註 1 ) 中年期:厚生労働省の健康日本21によれば,. 中年期は45 ~ 64歳代とされている。 2 ) スポーツ実施率:スポーツ庁平成30年度スポ. ーツの実施状況等に関する世論調査(報道発 表)平成31年 2 月2019年ライフステージに応 じたスポーツ活動の推進 として取り組まれ ている成人の運動・スポーツ実施率は,週 1 日以上運動・スポーツをする者の割合が65% 程度となることを目指しているが,現状は全 年代女性の平均値は53.4%である。しかし, 40代女性の実施率は43.9%であり,60代以上 女性の60.6%と比べると低い。. 3 ) 中年期における健康課題:女性のライフステ ージでいう更年期に相当する。加齢による卵 巣ホルモンの減少が原因で,血管運動神経系 症状(のぼせ,発汗,動悸など),精神神経 系症状(憂うつ,不眠など),運動器系症状(肩 こり,腰痛,関節痛など),泌尿・生殖器系 症状(外陰部の萎縮性変化)など様々な症状 を訴える。厚生省児童家庭局母子保健課 生 涯を通じた女性の健康施策に関する研究会報 告書 平成11年 7 月http://www.mhlw.go.jp. (2019年 6 月13日アクセス可能) 4 ) TTM:特定健診,保健指導,栄養教育,喫. 煙行動など不健康な習慣的行動の変容を目指 したプログラムに利用されている。身体活動・ 運動などの行動変容過程にも応用されてい. る。 5 ) 運動ソーシャルサポート:もともとソーシャ. ルサポートとは「社会的関係の中でやりとり される支援のこと」として,健康行動の維持 やストレッサーの影響を緩和する働きがあ る。板倉ら(2005)により,運動ソーシャル サポート「運動を行うことに対して得られる 身近な人からの有形・無形の援助」として作 成された尺度である。. 6 ) 本研究の運動の定義:厚生労働省は健康日本 21(身体活動・運動)の基本方針の中で,身 体活動量を増やすためには,状況に応じて, 通勤・買い物で歩くこと,階段を上がること, 運動・スポーツを行なうことなどを日常生活 に取り入れること,その前段階として身体活 動や運動に対する意識を向上させることが必 要であるとしている。このことから,本研究 では,運動を「日頃から日常生活の中で,健 康の維持・増進のために意識的に体を動かす 身体活動のうち,体力の維持・向上を目標と して計画的・意図的に実施すること」とし, 定期的とは, 1 回あたり20 ~ 30分以上の運 動を週 2 ~ 3 回以上行うことを定義とした。. 引用・参考文献 青木邦夫(2005)在宅高齢者の運動行動のステー. ジと関連する要因.体育学研究50:13-26. 赤松利恵,武見ゆかり(2007)トランスセオレテ. ィカル・モデルの栄養教育への適用に関する研 究の動向.日本健康教育学会誌 15(1):3-18.. 原田和弘(2013)身体活動の促進に関する心理学 研究の動向.運動疫学研究15(1):8-16. 平島奈津子(2015)女性のライフステージと健康. 公衆衛生79:78-81.. 本多妙,福島倫子(2005)大学生の喫煙行動に影 響を与える要因の検討.日本公衆衛生学会誌; 52(6):477-485.. 池畑 智絵,田口理恵ら(2011)地域在住壮年期 女性における健康づくり運動教室受講行動に影 響を与える要因の検討.横浜看護学雑誌;4(1): 42-48.. 池田智子,前田隆子(2010)女性のための更年期 を中心とする健康支援に関する基礎調査.日本. 29中年期女性における運動行動の実態と運動ソーシャルサポート及び環境要因との関連. 女性心身医学会雑誌15(1):162-168. 石井 香織ら(2009)簡易版運動習慣の促進要因・. 阻害要因尺度の開発.体力科学54:219-228. 石原英樹(2012)日本における成人男女の運動頻. 度と家族ライフステージの関わり─JGSSを用 いた既定要因分析─.日本女子体育大学スポー ツトレーニングセンター紀要15:25-33.. 板倉正弥,武田典子ら(2003)成人の運動行動と 運動ソーシャルサポートの関係.ウォーキング 研究(7):151-158. 板倉正弥,岡浩一朗ら(2005)運動ソーシャルサ ポート及びウォーキング環境認知と身体活動・ 運動の促進との関係.体力化学54(3): 219-227.. 梶川敦子(2008)日本の労働時間規制の課題 長 時間労働の原因をめぐる法学的分析.日本労働 研究雑誌 575 :17-26. 厚生労働省(2012)21世紀における国民健康づく り 健康日本21(第二次)平成24年 7. http://www.mhlw.go.jp.( 2019年 6 月13日アク セス可能). 厚生労働省(2019)平成28年国民生活基礎調査 介 護 の 状 況https//www.mhlw.go.jp/toukei/ saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/05.pdf. 厚生労働省生活習慣予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「ソーシャルサポート」. https//www.ehealthnet.mhlw.go.jp>information >dictionary>exercise(2019年08月13日 ア ク セス可能). 宮内清子(2009)更年期女性に対する健康教育に 関する過去10年間の文献検討.日本健康教育誌 日健教誌17(1):3-13.. 内閣府(2020)男女共同参画局 令和 2 年度版男 女共同参画白書. http//www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/ r02/gaiyou/pdf/r02_gaiyou.pdf. 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