xiv+283pp.
著者 守屋 哲治
雑誌名 英文学研究 = Studies in English Literature
巻 75
号 2
ページ 293‑298
発行年 1998‑01‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/47937
doi: 10.20759/elsjp.75.2_293
だ か ら、
一方の女
性
が彼
自身
の 「他者」
、す なわち 自らの 目的や意志を も た ない 役 を当てら れ るのは必然的と もい える。 実際、 ジ ャクソ ン 自身、 今日の ロ マ ン ス の
多
くの女性
主人 公が未だに一一一方的に男性に 「「青緒的働き」 を捧げる養 育者的 入 物であ るこ とを 強 調 してお り、最終的には 序 論 に水 を さ す結論を提示 してい る。 すな わちい か に局部 的には進 歩的な 多 様性を示そうと も、大多数の ロ マ ン ス小説は究極的には未だにMr
.Right
を 見 出 す こと を 至 上の 目 的とな す 女 性た ちの 物 語で あ り、それ ゆえフ ェ ミニ ス ト たちは今 後もロ マ ンス や愛の 言説 を体 制の イデ オロ ギーと して警戒 する こ と を怠らず、 批判し続 ける必要が あ るとい うこ と なの であ る。
以上、
本書
に示
さ れた二様
の ロ マ ン ス 観を見て きた。 両者の相 違は、 明らかに、 現在、popular
culture に関 して交わ さ れ てい る二つ の相 異なる立場に立脚する もの とも見 ら れる。 す な わ ち、かつ て フ ラ ンクフ ル ト学 派 が 示 し た
popular
culture 観そ れを、 大 衆
を操作 する悪しき消 費文 化と して と ら える もの 、 お よ び、 近年スチュ アート・ホール な どが提 唱して広 く受け人 れ ら れ る よ
う
になっ た新 しい見 方大衆の 一人一人 が能動 的
に参加し て、 そこ か ら個 別の 意 味 を 引 き 出 し うる もの と して の
popular
culture 観 .一 である。 実際 、
本
書はロ マ ン ス に焦 点を あて た有意義なpopular
culture 論 と して も読 め、流 行 中の カルチュ ラル ・ス タ ディーズに寄与 する貴 重 な一冊で ある と もい え よう。
最後に、今一度ロ マ ン ス に言及してお く と、 男女にか か わ らず、個 人 が他者との 問 に真
に相互的な
親密
さを求
め る 限 り、今後
もロ マ ン ス は存在
意義を保 ち続 ける こ と だろ う。 た だし当事者の二 人 が 互い に疑 似一体 感に陥るこ とな く、 相 互の差異
を常に意
識しつ つ 、 た え ざる対話を通 して互い の ダ イ ナ ミッ ク な変容が 可能と な る よ う な 関 係 性 が 求め ら れる とい えば、再び余 り にも観念 的にす ぎるだろ うか。 い ずれに しろ、 ロ マ ン ス その もの に関す
る活発な対 話を誘発 す る本書の よ うな 本 が今後 も出版 され続けてい くこ と を期待 したい 。
早稲田大 学
小 林 富 久 子
Renaat
DeClerCk
:When
− (71aUSe
∫ and7r 診 卿
0雇 伽
吻 鯉London
:Routledge
, Ig97
・xiv + 283PP ・1, 概 要
本書
( WCrS
)は 、Declcrck
(lggl )で詳細に論 じ ら れ た時制の体 系を、When
節(
以 下Wc )
を含む文の分析に応 用 し た もの で あ る。91
年の 著書 が 時制体 系 自体の説明が 中心であ るの に対 し、本 書は豊富な実例を用い て仮 説の検 証を行っ てい るた め、
事
実観察
の 面でも興 味深い 点が多い 。
本 書の構成は以 下の ようになっ てい る。
294 書 評
(
1)
IIntroduction
zAT }
1
)olQgy of 賜 齶 一Clauses3The
‘Temp
・衂l
C
・中
n・d
・n’1
% 6〃4 AModel
of theEnghsh
Tense
System
51E7hen
−Clauses
andTcmporal
Strucuユre6 Canonical
賜 ♂形一Clauses
and theExpression
ofTempralRelations 7 Special
RelativeTense
Uses
in
Canonical
VBZbe
〃℃1auses
8
Canonical
賜 齢Clauses
Establishing
aTemporal
Domain g The
Intetpretation
ofCanonical
隔 齶 一Clauses
Io
Narrative
聯 齶 .Clauses
II 賜 θ〃_
Clauses
Oth
¢r thanCanor
ゴcal orNarradve
賜 6”−ClausesI2
Conclusion
z 章で は、 本書の分析の対
象
とな るWC
を 8 種類に大別し、 その概 略 的 な性 質 を述べ てい る。 時 を示 す 副詞節 と して の働 きが その中の…つ に位置付け られてい る が、 これ が さ らに7 種 類に類別され てい る。 その 中で 主
節 (
以 下、HC )
の事
態が起こ る時点 を指定
する か、その 時 点と 関 連 を 持つ 別の時点を指 定 する
WC
を典型 的WC
と してい る。本書の主 たる 分析の対象はこ の典型 的WC
で、 3章
、及び5 章か らg
章までがこの分析
にあて ら れている。 10 章は、
(
z)
に示 すような、 when が and then と言い換
える こと が 可能で 、WC
がHC
的な働 き をする narrativeWC
の性質を 述べ てい る。(
2) Iwas
sittingqUietly
in the kitchen when suddenly a stranger enteredthe
room .←and then
it
suddenlyhapPened
that ...)( W
()rS
:39 )
II
章
で は典型的WC
及び narrative ・WC
以外のWC
の性 質が略述され てい る。z. 典型 的
WC
5 章で は、 時を示 す接続 詞の when は自
由
関係詞であ り、 at thetime
when の意味 を持つ とい う主張 を、共時 ・通 時的の両 面の事 実から裏付 けてい る。
4 章は、 主 とし て
Declerck
(IggI )に基づい た時制の体 系を、5
章 以降に 必要と な る範囲に絞っ て紹介し てい る。 この 中で、時制 は事態の起こ る時点と基準とな る時点との 関係 を 示 す 文 法 範 疇 と定義さ れて い る。 こ の定 義か ら、英語の時 制は現在 と過去に限
定
され ず、 未来や完了な ども含ま れる こ とに な る。 し か し現 在と過去の対
立は英語話者が時 間を 概 念 化する際の 二つ の 時 間範囲( timc
−sphere)
と して残
さ れて い る。 現在の 時間範囲は さ ら にprepresent
,present
,post
−present
の三つ の区分(
sector)
に分 割さ れ る。事
態の起こる時 点が、他の
何
に も依存
しない 絶対 的時点(
通常は発話時、以 下 tS)
と関連付 けられ る場 合 、その 時制を絶対 時 制と呼び、 そ れ 以外の 時点と関連付 ける時制を相対 時制と 呼ぶ。時 制が 関連付け を行
う
時点をTime
ofOrientation (
以下、TO )
と し、 その中で叙述を受
け る事
態が起きる時点を situation −TO (
以 下、STO )
とする。 従っ て時制の働 き は、STO
を別のTO
と関連付
けること と言い 換え ら れる。 また、基準 と なるTO
はSTO
を束縛
( bind )
する と言 う。 文 中の 、少
な くとも一一つ の時
制は絶
対時
制 としてTO
と t。 を直接
関連付
ける が、 この絶対時制は 「時間領域を確立する(
establish a temporaldomain )
」とい
う
。 領域に成 りうる のは、 時 間範 囲と して の過去、 及び現在の 中のpre
−present
,pres
−ent ,
post
−present
の 三つ の区 分で 、4 種類 の領域が存
在しう
る こ とになる。 現 在完 了もpre
−present
の領域 を確立する の で絶対 時制になりうる。 相 対時 制は同一領域 内のTO
同 士の 関係 を示す。 従っ て、同 じ時 制で も絶 対 時 制 と相 対 時 制の用 法 が 存 在 す る。 (3)はその こ と を示す例で あ る。
(
3) He
saidhe
had
panicked
when the milkboiled
over .(WCTS :72
)said の過
去
時制は taに束縛さ れる絶対 時制、had
panicked
の過去完 了は、 こ の節のTO
が 、 Hc の
To
に束 縛 さ れ、かつsTo
が 時 間 的に先行する こ と を示 す相対 時制、boilcd
の過 去時 制は
had
panicked
のSTO
を束 縛するTO
との 同時性を示す相対時制である。同一文 中、あ るい は ディス コ ース な どで新たに時 間領域 が確立 さ れる こと を、 時 間領域
の転 換
(
shift
of tempornldomain
)と呼ぶ。 また 歴史的現在の ように本来とは異な る区 分 で時 制が用い られ る場 合 を時間的視 点の転 換 (shift of temporalperspective )
と呼
んで いる。
5
章で は、 WC が時制や時の副 詞 と結びつ い て どの ような時間構
造 (temporal structure)
を
作
り出すか を論じて い る。 時の 副 詞は時 間構造の 中にある部分の 時間を指 すが、 その時 間 及 び文脈上指定さ れ る時間 を既定時間(
time established 、 以 下TE )
と呼ぶ。TE
とSTO
の 関 係は時 制で は示 さ れ ない の で 、時 間構造と時制 構造は区別さ れる。 副詞が指 す
TE
がSTO
を含む場合、 その副詞をSTO
副詞と呼び、TE
がSTO
を束縛 する別 のTO
を含む 場 合 は その 副 詞 をTO
副 詞 と呼ぶ。 (4a)のyesterday
はSTO
副詞で あ り、(
4b)
の atfive
o’clock は
TO
副詞であるQ( 4)
a.Heleft
yesterday
.( WCTS
: Io5)
b
,At
five
o,clock ,John
had
alreadyleft
thehouse
.(sJvTcTs:io8 )また、
TE
に含 まれ るTO
はincluded
TO
(以 下 ITO )と呼ぶ。STO
副 詞で は ITO はSTO
と一致 す る が、TO
副詞の 場合はSTO
がITO
に時間的に先行 し た り、 後続 し た り する。( 3 )
の that 節では、had
panicked
のSTO
はITO
に先 行して い るがWC
の ほ うはSTO
とITO
が一致 し てい る。
これ らの 道具立て を用い て、 典型 的 WC の when の 意味 構造は、
HC
とWC が共通の TE を持
ち、 HC −ITO とwC
−ITが 一致して い る とい う形である と主張
して い る。 これ は、(
5)
の よ うに 図示され てい る。( WCTS
:II2)
(
5)
HC
−ITO
X
ト
ー 一 一 一ニ
ー 一 一 一→ crE
×
VCic.ITO
296 書 評
CTE
とは共有 さ れて い るTE
の こ とを指す。こ の ような分析の利点の一つ と して
、
( 6
)の ような文を例外とし て扱 う必 要が な くなるこ と を挙 げてい る。 (
WCTS
:II3 )(
6
)Iwill
do
it
whcnI { have
/* wiUhave } time
.WC
の現 在形は、post
−present
の領域に おい てWGSTO
とWC
−ITO
との 同 時 制 を示 してい る の であ り、tSに直接 束縛されて時間的に後続 する こ と を示すの で はない の で、未来 形 が 用 い ら れ ない こ と にな る。
ま た、
( 1 )
の意味構 造は、HC
−STO
とWC
−STO
の一致を表わ して い る わけで は ない の で、 (7)の文の ように時制がこ れ らの一致 を示 してい て も、語 用 論 的にずれて解釈さ れるい わ ゆ る sloppy simultaneity が 予 測で き る と してい る。
( 7 ) when
John
’s carbreaks
down
,he
willprobably
buy
a ncw car .(wcTs
:II4)
先 に 述べ た 通 り、ITO
がSTO
と一一一致 す る 場 合 と し ない 場合が あ り、一致 し ない 場合に は、
STO
が ITO に時 間的に先行 するか後続 するかの可能性がある。 これらの 可能性
は HC とWC
に 同様
に存在
する の で 、 典型的WC
とHC
が作 り出す 時間構 造の 配 置は、g
通 り
存
在する こ とになる。6 章
で は、 4 章で仮 定 し た4 種 類の時 間領域 と、 5 章で仮 定 した g 通 りの時 間構造の配 置の組み合わ せ が、 実 際 に 可能で あ る か を 調べ ること に よっ て仮説の妥 当性を検 証している。 この 中で、コ ーパ ス な ど か ら多 くの実例 を 引用 し てい る点が注目さ れ る。
7
章は、典型的WC
の 中で、WGSTO
とWC
−ITO
の束縛関係が典 型 的 な 場 合 と は異 なる ケース を ま とめ て取 り上 げて お り、8章
では歴 史 的 現在の ように、WC
が独 自に時間 領 域 を確立 す る ケース を ま と めて論 じて い る。g
章は、 情 報構造 、主題構造 、ア ス ペ ク トなど が、WC
の意味解釈
上 どの よう
に関わり うる か の可能性 を検
討 して い る。3. 特 徴お よ び位 置付 け
本書 は
WC
の 様々 な用 法 ・性 質を き め細か く調べ ており、 特に典型 的WC
につ い ては 非常に詳しい 事実観 察に基づ い た議論 を 展 開 して い る。 本書の 時制構造 及び時間構造に関 する体系
は、どの よう
な 理論 的背 景を持っ た研究 者に とっ て も参考になる と思わ れ る。 用 例に関して は、 冒頭で も述べ た とお り数多
くの実例 が 用い ら れてお り、 興味 深い もの も多い。 その一例 を挙 げる。
HC
が現在 完了の場合、 過去の時 点を示 すWC
は用い られ ない とさ れてい る が、 どの ような場 合にその よ うなWC
が可能になるか が6
章 2 節で論 じ ら れてい る。 (8)はその議論の 中で使われてい る 実 例の一部である。
(
8)
a.Ican
,timagine
how
you
got
hold
of thatidea
.1
’ve alwayshad
aChristian
namc , cven whenI
was ababy
.( WCTS
: i4g )b
.Indeed, analysts say thatpayouts
have
sometimes risen most sharply whcnprices
〃erealready
on their waydown
from
cyclicalpeaks
.(WCTS :151 )(
8a)
はHC
で示さ れ てい る継続 的状況の一部 分にWC
が焦点を当て てい る場 合であ り、(
8b)
は文全体が習慣 的な解釈を受 ける場 合である。Declerck
(lggl )及び本 書は、時 制 を 時点同 士の 関係付け と捉え る点におい て、Reich
−enbach
(
ig47)
の延 長線上にある とい える。 しか し、 R.eichenbach の体系
の部
分 的修
正 と 言 える Comric(
ig8S)
やHornstein
(
iggo)
な ど と異
なり、 道 具立て を大幅に見 直し ている。
Reichenbach (ig47 )は、
Speech
Time ( S )
、Reference
Time ( R )
、Event
Time ( E )
とい う三つ の時 点を原 始要素 とし、 時間軸上 に お ける
S
,R , E の相対 的位置 関 係 によっ て 時 制 を表
現 してい る。 これ に対してDeclerck
の体 系では、( i ) S
とR
の 区別を せずに、 ど ちら も基 本 的に はTO
と して同列に扱 う、 (li
)時の 副 詞 や文脈 な どが 言及す る 時 間 をR
とす るの で はな く、
TE
と して独 立の位置付け を してい る、(
皿)
一 つ の時 間軸上で 三つ の時 点が相対的に位置付け ら れ るの で は な く、TO の 問の 束 縛 関 係は二 つ の TO 問に限られ 、
三 つ 以 上の TO が
存在す
る場合
にはそれ らの 関係を、 連鎖 的に捉 える、 とい っ た特徴を 持っ てい る。( g )
a.Ihad
meth
三myesterday
.b
,Iheard
yesterday
thatJohn
had
been
in
London
theday
bcfbre
.Declerck (
lggl ;z30)
(
ga
)は多
義で あるが、そ れはyesterday
がR
を指す読みだけでなく、E
を指す 読み も可 能な た めで ある。 (gb
)の that 節 中の過 去完 了は、Reichenbach
の体系で はE
−R
−S
(X
−Y
は
X
がY
に時 間軸上先行 するこ と を表 す)
と分析 さ れ る。R
はyesterday
が指す 時点と なる が、そうなる と the
day
before
が指 す時 点が時間軸上で は表
わせ ない こ とに な る。 これらの問 題 は、
R
が二つ 存在 する と考 えれば解 消 す る。( gb )
の場合、yesterday
と theday before
が異なるR
を指す とい うこ と が 可能になる。 しかし 二番目のR
は動 詞の 時制が表 す もの で は ない の で、副詞 が指 す時 点は時制構造とは別 個 に導入する 必 要 が 生 じる。 これ は単に( 9 )
の よ う な文を説 明す る た め に必 要な 道具立て とい うだけに と ど ま らず、(
lo)
に述べ られてい る ような
考
え方に基づ い てい る。(
10)
...,it
is
moreinteresting
tobuild
afull
−fledged
theory ofdme
reference than torestrict oneself to the role
played
by
tcnsc. What is more , Ido
notbeheve
oneshQuld even try to
build
a theory of tensein
isolation
.A
theo エy
of tense must長)rm
part
of a 魚11
theory of reference , andits
value can onlybe
iudged
withrcfヒrencc to
d1C
latter
,Declerck (
Iggl :z5斗)
こ の よ うな考 え方に基づ い た体