東 アジア生産ネットワークの変化とキャッチアップ
白 映 旻 † The Changes and Catch-Up of the East Asian Production Network
Youngmin Baek
Since the 1990s, the expansion of international production networks through trade liberalization is the most significant feature of the progress of globalization. East Asian production network is one of the most developed production networks in the world. Behind this network lies great diversity between countries in terms of population, land area, resources, and development stage. This paper empirically ex- amines the changes and catch-up of the East Asian production network using the upstreamness index from the Asian Input
‒Output Matrix. We find that the international specialization of the East Asian pro- duction network has deepened around the machinery industry. Japan, China, Korea and Singapore are located upstream, while ASEAN countries are located downstream in the machinery industry. However, in the electrical machinery industry, the upstream level of ASEAN countries, excluding Indonesia, has increased rapidly, and we find that there was a catch-up of ASEAN. Finally, by analyzing the effect of up- streamess on the localization rate of value-added and the inflow of value-added, we find that the inflow of value-added from foreign countries increases as industry moves upstream in the East Asian produc- tion network, and the localization rate of value-added increases in the form of a reverse-U shape.
第
1
節 はじめに東アジア地域は他の地域より域内生産ネットワークが発展している地域で,多くの構成国が地域生 産ネットワークに参加し,目覚ましい経済成長を成し遂げてきた。東アジア生産ネットワークの発展 には,人口,面積,資源賦存,経済発展段階などについて各国間の格差が大きく,そのような多様性 が経済成長の一つの原動力になっている1。この多様性により相対的に経済発展段階が高い高賃金国 の日本や
NIEs
(Newly Industrializing Economies
)は,相対的に経済発展段階が低い低賃金国の中 国やASEAN
(Association of Southeast Asian Nations
)の安い賃金を活用するためにFDI
(Foreign Direct Investment
)を積極的に行い,生産ネットワークが構築された。また,1990
年代以降の貿易 自由化の進展により,各生産工程をつなぐサービスリンクコストが低減され,企業の生産工程が最も 効率的に行われる国や地域に配置されるようになった。このような東アジア生産ネットワークの発展により,
1990
年代以降,東アジア地域の中間財貿易 が急増し,地域生産ネットワークに参加している多くの途上国において生産,輸出,雇用が大幅に増 加した。一方,理論的に途上国の生産ネットワーク参加は,生産と輸出が増加する量的な成長のみな らず,技術進歩や産業高度化などの質的な成長ももたらす。その背景には,域内先進国からの技術伝No. 37 November 2019
† 早稲田大学アジア太平洋研究センター助教, Assistant Professor at WIAPS, Waseda University
播があり,東アジア生産ネットワークにおける技術伝播の経路は,
FDI
と中間財輸入が考えられる。清田,神事(
2017
)によるとFDI
を通じる多国籍企業から投資受入国の企業に対する技術伝播があ る理由としては,外資企業における生産の様子を実際に見ることで効率的な生産方法を学ぶことがで きるデモンストレーション効果や外資系企業に勤務していた労働者が,地元の企業に転職して,外資 系企業で学んだ知識を伝えることなどが挙げられる。中間財輸入については,先進国の技術が体化さ れた中間財を輸入して生産に投入することで生産性が向上する効果があり,R&D
(Research and
Development
)に基づく成長理論2においても技術伝播の経路として,中間財輸入の重要性が強調されている。
生産ネットワークに関する研究において,途上国の量的な成長に関する研究は多くなされてきた が,質的な成長に関する研究は,事例研究や生産性の向上に着目した研究にとどまっており,地域レ ベルのキャッチアップに関する研究は殆どなされていない。したがって,本論文では上流度指数を通 じて,東アジア生産ネットワークがどのように変化してきたかについて,特に東アジア生産ネット ワークにおいて途上国のキャッチアップがあったかについて分析する。また,上流度指数とともに付 加価値流出入指数を計測し,ある国の産業が生産ネットワークのサプライチェーンの上流に上がるほ ど,付加価値の国産化率と海外から流入される付加価値が増加するかについて分析する。具体的には
1990
年,1995
年,2000
年,2005
年のアジア国際産業連関表を用いて,上流度指数を計測し,東ア ジア生産ネットワークの変化について分析する。上流度指数とは,生産ネットワークのサプライ チェーンにおける最終消費者までの生産段階数を計測し,ある産業が相対的にサプライチェーンの上 流にあるか下流にあるかを示す指標である。たとえば投資国の企業は海外直接投資を通じて労働集約 的な下流工程を海外に移管し,国内では付加価値の高い資本・技術集約的な上流工程に特化している 場合,上流度指数の分析により生産ネットワークにおける各国の産業の位置づけがわかる。本論文の構成は次のようになっている。第
2
節では上流度指数を用いた先行研究をレビューする。第
3
節では分析の枠組みについて説明する。第4
節では分析結果を示し,第5
節では結論をまとめる。第
2
節 先行研究従来は各国産業のサプライチェーン上の位置づけを検討するためには前方連関効果と後方連関効果 を分析する感応度指数と影響力指数による手法が多く用いられたが,
Antràs et al.
(2012
)以降は,上流度指数を用いる分析が主流となっている。上流度指数について,
Antràs and Chor
(2013
)にお いては,「生産段階の数で測った,当該産業の最終消費者までの距離」と定義されている。ほかにFally
(2012
)においては,上流度指数による産業の位置づけについて「当該産業の産出物がバリュー・チェーンの中で最終消費者からの距離が遠い産業において用いられる場合,その産業は上流 に位置する」とされている。
Antràs et al.
(2012
)においては,「当産業の付加価値が1
ドル増加した 時のほかの全産業の産出額の増加額」と定義され,Antràs and Chor
(2013
)の上流度指数がFally
(
2012
)の上流度指数と同じ値であることを示した。上流度指数を計測するためには産業連関表が必要となる。先行研究においては各国の国内産業連関 表と国際産業連関表を用いて上流度指数を計測し,サプライチェーンと関連性があるほかの変数との 関係を分析する研究が多い。
Antràs et al.
(2012
)は2002
年の米国の国内産業連関表と2005
年のOECD-STAN
データベースを用いてEU16
カ国の産業について上流度指数を計測し,各国の産業に おける順位相関係数が正の関係であることを確認した。Fally
(2012
)は1947
年から2002
年までの 米国の国内産業連関表を用いて産業別の上流度指数を計測したうえで,米国産業における上流度指数 の平均値が1947
年以降50
年にわたり低下し,米国の産業の垂直的なフラグメンテーションの程度 が低下したと論じた。また,製造業における上流度指数は資本集約度とは正の関係であり,労働集約 度とは負の関係があることを示した。Miller and Temurshoev
(2017
)は1995
年から2011
年までのWIOD
(World Input
‒Output Database
)を用いて40
カ国における35
産業の上流度指数を計測した。また,原材料からの生産段階数の指標となる下流度指数も計測し,各国の産業のサプライチェーンに おける位置づけを両指数により分析した。その分析において,中国はサプライチェーンの上流に位置 するという,これまでの通説とは異なる結果となった。また,サプライチェーンの上流に位置してい る国としては日本,韓国,台湾,オーストリア,ブルガリア,フィンランド,ルクセンブルクがあり,
資源が豊富な豪州やロシアもサプライチェーンの上流に位置している国であると論じた。
Ito and Veniza
(2016
)は1990
年から2005
年までのアジア国際産業連関表を用いて製造業の上流度指数を計 測し,生産段階と付加価値に関するスマイルカーブ曲線3が有効であることを示した。菅沼(2016
) は1995
年から2011
年までのWIOD
データを用いて上流度指数を計測し,グローバル上流度指数は2000
年代半ばに製造業およびサービス業の双方の寄与により大幅に上昇し,うち製造業における上 昇は東アジア地域の各国・地域の電機産業において顕著であり,それは同時期の東アジア地域におけ るサプライチェーンの深化と整合的であることを示した。本論文では,これらの先行研究を踏まえ,東アジア生産ネットワークの観点から機械産業を中心に 上流度指数の推移に着目して分析を行う。また,上流度指数が付加価値流出入に与える影響を分析 し,東アジア地域における生産ネットワークの変化とキャッチアップを明らかにする。
第
3
節 実証分析の枠組み(
1
)上流度指数の計測Antràs et al.
(2012
)によれば,i
∈{1, 2, 3, . . ., N
},N
数の産業が存在する閉鎖的な経済を仮定す ると,i
産業の生産物の一部は,最終財として消費者によって使われ,残りの一部は中間財としてj
産業によって使われる。これは式1
のように表すことができる。Y
iはi
産業の総算出で,F
iはi
産業 に対する最終需要,Z
iはi
産業に対する中間需要を意味する。また,i
産業の生産物が中間財として,j
産業だけに使われると仮定すると,式2
のように示される。ここでd
ijはj
産業が1
ドルの財を生産 するのに必要とするi
産業の中間財を意味する。一方,表1
のように産業連関表は,中間財需要,最 終財需要,総産出で構成され,式3
のように中間財需要をA,
最終財需要をベクトルF,
総産出をベク トルY
と定義すると,行列D
は式4
のようにA
Y-1と示される。次に,式2
におけるi
産業とj
産業 について,多数の産業が存在する生産ネットワークを想定すると,式2
は式5
になる。式5
右辺の第1
項はi
産業に対する直接的な最終需要,第2
項はi
産業に対するj
産業の中間需要,第3
項はi
産業 に対するk
産業を経由したj
産業の間接的な中間需要を示す。Y
i=F
i+Z
i (1
)
Ni i ij j
j
Y F d Y
=1
= +
(2
)
= = = = =
n
n nn n n n
a a F Y Y
A F Y dia Y
a a F Y Y
11 1 1 1 1
1
0 0
: , : , : , : 0 0 .
0 0
g
(3
)
n
n n
n nn n nn
n
a a
d d Y Y
D A
d d a a
Y Y
1 11
11 1 1
1
1 1
1
: = =
-= .
(4
)
N
N N
N N N
i i ij j ik kj j il lk kj j
j j k j k l
Y F d F d d F d d d F
1 1 1 1 1 1
.
= = = = = =
= + + + +
(5
)Antràs and Chor
(2013
)は式5
から次のように上流度を計算する。i
産業の生産物が最終財の生産 から離れている距離(生産段階)に各1
を加え,式5
の各項に掛け,i
産業の総算出で割る。この過 程を式で表すと式6
になる。
N N N N N N
ij j ik kj j il lk kj j
j j k j k l
i i
i i i i
d F d d F d d d F
U = × 1 Y F + × 2 Y
=1+ × 3
=1Y
=1+ × 4
=1 =1Y
=1+
(
6
) 上流度ベクトルをU
→=(U
1, . . ., U
n)とすると,式3
と式4
の行列表記から式6
は式7
に表現できる。表1 アジア国際産業連関表の形式
式
7
の両辺に[I
-D
]Yを乗じると式8
になり,上流度ベクトルU
→は式9
のように変形され,Antràs et al.
(2012
)における上流度指数の計算式となる。U
→=Y-1·[I
+2D
+3D
2+…]·F
→ (7
)[
I
-D
]·Y·U
→=[I
+D
+D
2+…]·F
→=[I
-D
]-1·F
→ (8
)U
→=Y-1·[I
-D
]-2·F
→ (9
)U
iの最小値は1
になる。i
産業の生産がすべて最終財として消費されると仮定すれば,式6
の右辺 の1
項は1
になり,ほかの項はゼロになるためである。また,i
産業の生産物の一部が他産業の中間 財として使われると,その量が少ないとしても生産段階によって加重平均されるため,1
より小さく なることはできない。一方,式6
から最大値は無限大になるが,現実の生産段階には限定があるため,上流度指数は産業ごとに一定の範囲を持つ。
(
2
)付加価値流出入指数の計測付加価値流出入指数を算出するためには投入係数が必要であり,表
2
における投入係数a
は産業連 関表における中間財投入をその産業の総生産額で除した値である。投入係数を行列式により示すと式10
になる。式10
を式11
にあるA
(投入係数行列),X
(生産額ベクトル),F
(最終需要ベクトル)で示すと式
12
になり,移項すると式13
になる。この式を式14
ように変形し,移項すると式15
と なり4,X
は(I
-A
)の逆行列にF
を乗じたものになる。(I
-A
)の逆行列はレオンティエフ逆行列 でありB
と表記し,付加価値係数ベクトルAvにレオンティエフ逆行列B
を乗じたものが式16
の付加 価値誘発係数VA
である5。レオンティエフ逆行列をB
ijklと表記すると,これはi
国j
産業への世界需 要が1
単位増加した場合に誘発されるk
国l
産業の産出単位を意味する。つまり,付加価値誘発係数(
VA
ijkl)の意味は,i
国j
産業の最終財に対する世界の最終需要が1
単位増加した場合に誘発されるk
国l
産業の付加価値単位である。表2 投入係数表
a a X F X
a
1121a
1222X
12F
12X
12
+ =
(10
)a a X F
A X F
a
1121a
1222, X
12, F
12
= = =
(11
)AX
+F
=X
(12
)X
-AX
=F
(13
)(
I
-A
)X
=F
(14
)X
=(I
-A
)-1F
(15
)VA
=Av×B
(16
)(
3
)推定モデル東アジア諸国のある産業が東アジア生産ネットワークにおけるサプライチェーンの上流に位置する ほど,付加価値国産化率と他国の産業から流入される付加価値は増加することを検証するために,
Ito and Veniza
(2016
)の推定式に沿って,以下のように定式化する。y
*ijt=β0+β1U
ijt+β2U
2 ijt+γi+δj+μt+εijt (17
) 被説明変数のy
*ijtはt
年i
国j
産業における付加価値国産化率と付加価値流入を示す。付加価値国産 化率とは自国商品に対する世界の最終需要が1
単位増加したとき,そのうち自国に帰属する付加価値 であり,付加価値流入とは他国のある産業に世界の需要が1
単位増加したとき,自国の産業に流入さ れる付加価値を示す。U
ijtはt
年i
国j
産業における上流度指数を示し,γiは国,δjは産業,μtは時間 の固定効果を示す。(
4
)データ分析対象は日本,韓国,中国,台湾,シンガポール,マレーシア,インドネシア,タイ,フィリピ ンの東アジア
9
カ国・地域における機械産業である。使用するデータは1990
年,1995
年,2000
年,2005
年のアジア国際産業連関表(Asian International Input
‒Output Table
)であり,4
時点のデータ を比較できるよう各年の産業分類は2005
年のアジア国際産業連関表を基準として統一する作業を行 い,また,全産業を機械産業をはじめとする9
産業へと再分類して分析する6。第
4
節 実証分析の結果(
1
)東アジア生産ネットワークの変化表
3
には東アジア地域における全産業についての上流度指数の基本統計量が示されている。全産業 の平均値は,1990
年3.248
から1995
年の3.457, 2000
年の3.675, 2005
年の3.950
へ継続的に上昇し,東アジア各国の産業が全体的に最終財から距離的に遠くなったことが分かる。これは東アジア地域の 各国で生産された財が,より多く他国において中間財として使われるようになってきたことを示して おり,東アジア生産ネットワークが深化してきたことを意味する。全産業についての標準偏差は,
1990
年には0.778
であったが,1995
年には0.859, 2000
年には0.871, 2005
年には0.993
に上昇し,上流度指数の上昇とともに産業間の差も拡大してきた。
表
4
には9
分類した産業別の上流度指数の平均値と増減率が示されている。最も上流度指数が高 い産業は「一般機械」で,全期間にわたり他産業より上流度指数が高く,2005
年には4.974
に達した。2
番目に上流度指数が高い産業は「化学」であり,2000
年には一時的に「電気機械」のほうが高くなっ たが,2005
年には大幅に上昇し4.778
となった。3
番目に上流度指数が高い産業は「電気機械」であり,
2005
年には4.302
に達した。それらに次ぐのは,順に「電気・ガス・水道,建設」,「低技術製造業」,「農林水産業,鉱業」,「精密機械」,「輸送機械」,「サービス」であった。機械産業の中でも,
一般機械と電気機械は比較的に上流度指数が高かったのに対し,輸送機械と精密機械は比較的に上流 度指数が低かった。
上流度指数の増減については,「農林水産業,鉱業」において
1995
年に若干ながら低下したこと を唯一の例外として,すべての産業において1995
年・2000
年・2005
年すべての時点において継続 的に上昇した。とりわけ上昇率が大きかったのは,2005
年における化学,1995
年と2000
年におけ る電気機械,1995
年,2000
年,2005
年における精密機械,2005
年における低技術製造業であり,そのうち精密機械の上昇率はいずれも
10
%超に達している。高技術産業の一つである精密機械にお ける上流度指数の急上昇は7,
精密機械において生産された部品などがより多く域内の他産業に中間 財として使われるようになったことを示しており,これは地域の産業構造の高度化を意味する。図
1
には機械産業における一般機械,電気機械,輸送機械,精密機械ごとに,日本(図における略 称はJPN
以下同様),韓国(KOR
),中国(CHN
),台湾(TWN
),シンガポール(SGP
),マレーシ ア(MYS
),インドネシア(IDN
),タイ(THA
),フィリピン(PHL
)9
カ国・地域における1990
年・表3 上流度指数の基本統計量(全産業)
表4 上流度指数の平均値と増減率(産業別)
1995
年・2000
年・2005
年という4
時点の上流度指数を示した。機械産業のうち一般機械について分析する。一般機械は上流度指数が最も高い産業であり,平均値 が持続的に上昇し,
1990
年4.258
から2005
年には4.974
に達している。一方,標準偏差値にはさほ どの変化がなく,1990
年0.610
から2005
年には0.630
に若干増大した程度である。すなわち一般機 械における上流度指数の平均値は,各国・地域とも均衡的に上昇してきた。一般機械についての上流 度指数が最も高かった国は,1990
年では日本であったが,1995
年以降中国と変わった。すなわち中 国はサプライチェーンの上流に位置する国となっているわけである。それは従来の通説8とは異なる ものと思われるものの,Miller and Temurshoev
(2017
)とは整合的である。中国や日本のほかに上 流に位置する国はシンガポールや韓国であり,ASEAN
諸国は下流に位置している。機械産業のうち電気機械について分析する。電気機械における上流度指数の平均値において,水準 は
2005
年時点では一般機械と化学に次いで高く,その推移は1990
年の3.340
から1995
年と2000
年に急速に上昇し,2005
年の4.302
に達している。その一方で標準偏差は比較的小さく,各国・地 域間の差が小さい。電気機械において上流度指数が最も高かった国は,1990
年時点では日本であっ たが,1995
年および2000
年の時点ではシンガポールとなり,さらに2005
年の時点ではフィリピン となっている。2005
年時点においてはインドネシア以外の国・地域の上流度指数はいずれも4
以上図1 機械産業における上流度指数
かつ
5
以下という比較的に高水準な範囲に稠密に分布している。また,1990
年時点と比べてインド ネシア以外のASEAN
諸国の向上が顕著であり,電気機械におけるASEAN
諸国のキャッチアップが 確認できる。機械産業のうち輸送機械について分析する。輸送機械についての上流度指数の平均値において,水 準は総じて他産業より低いものの,その推移は
1990
年の2.821
から2005
年の3.237
へ上昇してい る。ただし,標準偏差は1990
年時点で0.845
ともともと比較的大きかったうえ,2005
年には1.130
にまで拡大上昇し,各国・地域間の差は大きくなっている。輸送機械において上流度指数が最も高 かった国は,2005
年の時点において前述の一般機械と同様に中国である。総じて上流には中国,シ ンガポール,日本,韓国が位置し,下流には台湾やASEAN
諸国が位置している。機械産業のうち精密機械について分析する。精密機械における上流度指数の平均値において,水準 は全
9
産業の平均値より低いものの,その推移としては上昇率が最も高いものとなっている。その一 方で標準偏差にはさほどの変化はなく,各国・地域の上流度指数はほぼ均衡的に上昇している。精密 機械において上流度指数が最も高かった国は,1990
年時点および2000
年時点には中国であったが,2005
年時点では韓国となった。そのほか上流指数が高いのは日本やシンガポールである。なお2000
年時点までは最も下流に位置していたフィリピンは2005
年時点で急上昇を遂げている。フィリピン の急上昇の背景には,電気・精密機械における日本企業からの海外直接投資がある9。日本企業によ る進出が活発になされたことにより,フィリピンにおいて電気・精密機械は,輸出の総輸出額に占め る比率が1990
年の約2
割から2000
年代の約6
割にまで高まり,主力産業となっている。一方,インドネシアは全機械産業において上流度指数が上昇せず,低い水準に留まっている。特に
2000
年代以降の電気機械において,ほかの諸国との差がより広がった。その原因としてインドネシ アの低い中間財輸出が取り上げられる。図2
には電気機械における2005
年ASEAN
諸国の域内中間 財輸出額と総生産に占めるその割合が示されている。インドネシアの中間財輸出額は33
億ドルであり,
ASEAN5
のうち最も少なく,次に輸出額が少ないプィリピン(114
億ドル)の29
%にすぎない。総生産に占める中間財輸出の割合においても,インドネシアは
16
%であり,30
%以上のほかのASEAN
諸国に比べて低い水準である。しかし,インドネシアの国内最終財需要が総生産に占める比図2 電気機械産業における
ASEAN
諸国の域内中間財輸出(2005
年)率は
45
%で,3
%前後のほかのASEAN
諸国より15
倍も高い。つまり,インドネシアの機械産業に おける低い域内中間財輸出の割合と高い国内最終需要により,東アジア生産ネットワークにおいてイ ンドネシアの電気機械は前方連関効果が弱く下流に位置していた。(
2
)上流度が付加価値国産化率と付加価値流入に与える影響表
5
は上流度が付加価値国産化率と付加価値流入に与える影響を示したもので,モデル(1
)から モデル(4
)は,上流度が付加価値国産化率に与える影響を,モデル(5
)からモデル(8
)は,上流 度が付加価値流入に与える影響を示す。ここでは,国,産業,時間の固定効果を含むモデル(4
)と モデル(8
)を中心に解釈する。上流度が付加価値国産化率に与える影響について,上流度はモデル(
1
)からモデル(3
)において 統計的に有意ではなく,モデル(4
)においてはマイナスの有意な結果で,上流度の2
乗項はプラス の有意な結果となった。この結果は,2005
年のアジア国際産業連関表を分析したIto and Veniza
(
2016
)の推定結果と同様であり,上流度と付加価値国産化率が逆U
字の関係であることを意味する。次に,上流度が他国からの付加価値流入に与える影響について,上流度はモデル(
5
)から(8
)にお いてプラスの有意な結果であるが,モデル(8
)において上流度の2
乗項の係数は統計的な有意性を 持たなく,ある国の産業がサプライチェーンの上流に位置するほど,他国からの付加価値流入は増加 することが明らかになった。また,モデル(1
)からモデル(4
)の付加価値国産化率とモデル(5
) からモデル(8
)の付加価値流入における上流度の係数を比較すると,相対的に付加価値国産化率よ り付加価値流入における上流度の係数が高く,上流度の付加価値国産化率への影響より上流度の付加 価値流入への影響が大きいことがわかる。これらの分析結果をまとめると,東アジア生産ネットワークにおいて,ある産業はサプライチェー ンの上流に上れば上るほど他国からの付加価値流入は増加し,国内に帰属される付加価値は逆
U
字 に形で増加する。表5 推定結果
第
5
節 まとめ本論文では東アジア地域の生産ネットワークがどのように推移してきたかについて分析するために アジア国際産業連関表のデータを用いて,上流度指数と付加価値流出入指数を計測した。
上流度指数分析の結果では,
1990
年から2005
年までにおいて東アジア地域における全産業の上流 度指数は上昇した。特に生産ネットワークの中心である機械産業においては総じて上流度指数の上昇 が顕著であり,機械産業を中心に分業がさらに進んできた。2005
年時点では,上流度指数が最も高 かったのは一般機械であり,2
番目に高いのは化学であり,3
番目に高いのは電気機械であった。上流度指数によりサプライチェーンにおける各国・地域の位置づけを分析した結果では,機械産業 において全体的に日本,中国,韓国,シンガポールが上流に位置し,
ASEAN
諸国が下流に位置して いることが明らかになった。そのうち,中国については,通説とは異なりサプライチェーンの上流に 位置していることがわかった。ただし,機械産業のうち電気機械については,2005
年時点でインド ネシア以外のすべての国が上流度指数4
以上かつ5
以下という上流の位置し,1990
年と比べて,ASEAN
諸国の上流度指数の向上が顕著であり,ASEAN
諸国によるキャッチアップが確認できた。また,上流度指数が付加価値国産化率と付加価値流入に与える影響について分析した結果,東アジ ア生産ネットワークにおいて,ある産業はサプライチェーンの上流に上れば上るほど他国からの付加 価値流入は増加し,国内に帰属される付加価値は逆
U
字に形で増加することが明らかになった。付記
本論文は,筆者の博士学位論文の一部を修正したものである。
注記
1 浦田(2013)8頁。
2 体表的な研究としてRomer(1990),Grossman and Helpman(1991),Aghion and Howitt(1992)などが挙げられる。
3 生産段階と付加価値の関係がU字カーブの関係であることを意味する。
4 ここでIは単位行列を示す。
5 Avは国別・産業別の付加価値係数ベクトルを主対角要素とする対角行列を示す。
6 産業分類におけるマッチングについては付録1を参照されたい。
7 OECD(2011)ISIC REV. 3(https://www.oecd.org/sti/ind/48350231.pdf)により精密機械は高技術産業に属する。
8 東アジア生産ネットワークにおいて,中国は最終財を生産する組立工程を担当し,サプライチェーンの下流に位置している。
9 日本貿易振興機構(2012)によると,1990年代半ばからラモス政権により日本企業の誘致活動がなされ,日立製作所,東芝,
富士通,日本電気(NEC)がフィリピンへ進出し,ハードディスク駆動装置の製造事業などが開始された。それに伴い日本 から部品製造事業なども順次進出した。このような日本による海外直接投資が現在のフィリピンの電気・精密機械などの産 業の姿を決定づけたとされている。
付録
付録1 アジア国際産業連関表の産業分類
参考文献 日本語文献
浦田秀次郎(2013)「日本のアジア太平洋経済戦略―TPPへの対応」経済研究所年報,第26号,7‒39頁。
清田耕造,神事直(2017)『実証から学ぶ国際経済』有斐閣。
菅沼健司(2016)「グローバル・バリュー・チェーンの長さ指標:製造業とサービス業」金融研究,35(3),1‒34頁。
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英語文献
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