3章 従来のリン回収・リン除去技術
3−1.緒言
窒素やリンは、肥料、工業薬品などの原料、食料、飼料として大量に輸入されている。特にリンは 枯渇が懸念される資源であり、循環型社会形成のためにも「除去する」から「回収する」への転換が 重要である。下廃水からのリンの回収技術は30年以上も前から検討がなされており、本章ではこれ らの既往技術について述べる。なお、リンの形態としてリン酸態リンと有機性リンがあるが、ここでは リン酸態リンの回収技術を対象とする。
3−2.リンの回収方法と原理
リンを回収する方法として、液中のリンをヒドロキシアパタイト(HAP)やストラバイト(MAP)として晶析 する方法が実用化されており、本論文では前者をHAP 法、後者を MAP法とする。以下にそれぞ れの方法の概要を示す。
(1)HAP法
液中のPO43-とCa2+及びOH-の反応によって生成するヒドロキシアパタイト;Ca10(OH)2(PO4)6(HAP) の晶析現象を利用した方法である。反応式は次式の通りである。
10Ca2++2OH-+6PO4
3- ⇔ Ca10(OH)2(PO4)6 (3-1)
HAP法は、リンを含む廃水をにCa2+及びOH-を添加し、過飽和状態(準安定域)で種晶と接触させ
ることで、種晶表面にヒドロキシアパタイトを晶析させ液中のリンを除去・回収する。リン濃度が低い 場合には炭酸カルシウムと競合反応するため脱炭酸等の処理が必要となることがある。種晶には、
リン鉱石、骨炭、珪酸カルシウム水和物などが利用されている。
(2)MAP法 液 中 のPO4
3-とNH4
+、Mg2+の 反 応 に よ っ て 生 成 す る リ ン 酸 マ グ ネ シ ウ ム ア ン モ ニ ウ ム ;
MgNH4PO4·6H2O (MAP)の晶析現象を利用した方法である。反応式は次式の通りである。
Mg2++NH4++PO43- + 6H2O⇔ MgNH4PO4·6H2O (3-2)
MAP法はリンとアンモニウムを含む廃水が対象となる。一例として、嫌気消化槽の脱水ろ液に
Mg2+を添加し弱アルカリ領域でMAPを生成させる方法がある。一般的にMAPの結晶成長速度は 速いため、脱リン槽には別途脱リン材を充填せずに運転される。
3−3.廃水からのリン回収方法
生活廃水処理として、下水処理、下水処理における汚泥処理、し尿と浄化槽汚泥処理があり、こ れらの廃水からのリン回収方法についてまとめる。
3−3−1.下水処理からのリン回収
下水処理におけるリンの回収プロセスは、メインストリーム型とサイドストリーム型に分けられる。
Figure 3-1にそれぞれの方法を示す。メインストリーム型は、活性汚泥処理の後段にリン回収プロセ
スを設ける方法である。サイドストリーム型は、生物学的脱リン法におけるリン蓄積微生物のリン過 剰摂取・放出現象を利用する方法であり、汚泥からリンを放出させ、放出したリンを回収する。メイ ンストリーム型では、HAP 法の一方式である固定層型の接触脱リン法があり、サイドストリーム型に は、フォストリップ方式や中間沈殿池方式がある。サイドストリーム型のプロセスは、汚泥中のリン含 有率を低く保つことができるので、生物処理系のリン除去能力が安定するという特長がある。
excess sludge
P recovery process
P recovery (HAP) return sludge
biological treatment
wastewater influent effluent
biological treatment process P recovery process PP*
*PP;pre-treatment process
Figure 3-1(A) Phosphorus recovery process of main stream type
washing(*)
washing(*) P release
P recovery process
P recovery (HAP)
return sludge biological treatment wastewater
influent
effluent
excess sludge settling tank
Figure 3-1(B) Phosphorus recovery process of side stream type (PhoStrip process)
P recovery process
P recovery (HAP)
return sludge
wastewater influent effluent
intermediate settling tank
anaerobic oxic
excess sludge
Figure 3-1(C) Phosphorus recovery process of side stream type (intermediate settling tank type)
3−3−2.汚泥処理からのリン回収
下水処理における汚泥処理からリンを回収するプロセスは、Figure 3-2 に示すように濃縮した最 初沈殿池汚泥及び余剰汚泥の脱水ろ液(生汚泥脱水)からリンを回収する方法と、嫌気消化した汚 泥の脱水ろ液からリンを回収する方法に大別される。生汚泥脱水の場合はHAP法が考えられるが、
SS濃度が1000 mg·L-1以上と高いためリン回収にはSS除去が必要となる。そのため、凝集沈殿によ
るリン除去が検討されているが、HAP法によるリン回収には至っていない。後者の嫌気消化の脱水 ろ液からのリン回収は、アンモニウム濃度が数百〜数千mg·L-1と高いことからMAP法が適用され る。
raw sludge
excess sludge
gravity thickener
centrigugal thickener
centrigugal dehydrator
p recovery process
filtrate
sludge cake
P recovery (HAP) recycle flow
Figure 3-2(A) Phosphorus recovery process in the case of raw sludge dewatering
raw sluge
excess sludge
gravity thickener
centrifugal thickener
centrifugal dehydrator
P recovery process
filtrate
sludge cake
P recovery (MAP) recycle flow
anaerobic digester
Figure 3-2(B) Phosphorus recovery process in the case of anaerobically digested sludge dewatering
3−3−3.し尿、浄化槽汚泥処理過程からのリン回収
汚泥再生処理センターの資源化技術の一つとしてリン回収が組込まれた1)。この場合のリン回収 方法としてHAP法とMAP法がある。
3−4.実施例
3−4−1.下水処理からのリン回収
(1)メインストリーム型
1975 年〜1983 年にかけて、平沢らは接触脱リン法(HAP法)によるリン回収のパイロット実験を行 った2)。対象原水を下水二次処理水とした処理フローをFigure 3-3 に示す。原水は脱炭酸工程で 重炭酸イオンなどの炭酸物質を除去した後、石灰混和工程に導入した。石灰混和工程では適量 の消石灰を注入し、カルシウムイオンの供給とpH調整を行った。石灰混和工程の流出水は後段の 砂ろ過工程に導入した。以上の前処理工程を行った後、脱リン材(リン鉱石)を充填した接触脱リン 工程へ通水し、HAP法でリンを回収した。処理量 100 m3·d-1のパイロットプラントの実験結果を Figure 3-4に示す。処理性能は、原水のリン濃度1.3〜2.0 mg·L-1に対し、処理水のリン濃度は0.20
〜0.37 mg·L-1であった。この一連の研究・開発は 5年に渡って行われ、接触脱リン法は安定してリ ンを回収できることが実証できた。なお、リン回収工程でのリン回収率は77.7%であった。
Figure 3-3 Treatment flow diagram for the contact phosphorus removal process
(2)サイドストリーム型
・フォストリップ方式
フォストリップ・システムは生物―化学的リン除去法として1967年にLevinらによって開発された技 術であり、1980 年代からアメリカの実際の下水処理場で運転されている。フォストリップ・システムで は、リン回収に石灰凝集沈殿が採用されている。日本では、竹倉らがフォストリップ・システムによる リン除去のパイロットプラント実験を行った3)。下水処理に適用した処理フローをFigure 3-5に示す。
本システムは、通常の活性汚泥法の返送汚泥ラインに脱リン槽(リンの放出)と石灰凝沈槽が設置さ れている。脱リン槽には返送汚泥の一部と流入下水の一部を供給し、この槽で汚泥からのリンを放 出させ、石灰凝沈槽でHAPとしてリンを回収している。処理量 60m3·d-1の処理性能は、流入下水の T-P 4.5 mg·L-1、PO4-P 2.6 mg·L-1に対し、生物処理水のT-Pは0.37 mg·L-1、PO4-Pは0.09 mg·L-1で あり、良好な処理を行うことができた。
フォストリップ・システムと同様に、返送汚泥の一部を嫌気状態でリンを放出させた後、晶析法でリ ンを回収するパイロットプラント実験を東京都の鈴木らは行った4)。処理フローをFigure 3-6に示す。
処理プロセスとして、リン放出工程、pH前調整工程、リン回収工程の3つの工程からなる。リン放出 工程では、嫌気条件下で返送汚泥からリンを放出させると共に、その汚泥を固液分離して上澄み 液を得る。リン回収工程には、脱リン材として珪酸カルシウム水和物を充填し、流動層方式のリアク タを用いている。リン回収工程のみの処理性能は、原水のPO4-P 20〜80 mg·L-1に対して、処理水 のPO4-Pは3〜20 mg·L-1であった。
Figure 3-5 Treatment flow diagram for Phostrip process
Figure 3-6 Treatment flow diagram for the HAP process (Phostrip process type)
・中間沈殿池方式
田中ら5)は嫌気槽4m3、好気槽7m3、沈殿池7.5m3からなる嫌気―好気活性汚泥法に容積1m3の 中間沈殿池と容積 0.08m3の流動層接触脱リン装置を設置したパイロットプラントでリン回収実験を 行った。処理フローをFigure 3-7に示す。全体の処理水量は50 m3·d-1で、中間沈殿池―接触脱リ ン装置の処理量は7.1 m3·d-1と15 m3·d-1とした。なお、原水のT-Pは6.7〜7.7 mg·L-1であった。処理 結果をFigure 3-8に示す。プロセス全体では流入下水の平均リン量350 g·d-1に対し、接触脱リン装
置で約170 g·d-1が除去されている。接触脱リン装置単体のリン回収率は、中間沈殿池上澄み液中
のリンに対して60%であった。また、脱リン材の肥大化(体積で2倍)が確認された。
Figure 3-7 Biological phosphorus removal process using an intermediate settling tank type
Figure 3-8. The results of Biological phosphorus removal process using an intermediate settling tank type
3−4−2.汚泥処理系からのリン回収
MAP法によるリン回収は、消化汚泥の脱水ろ液を対象に、島根県や福岡市6)7)で実用化されてい
る。MAP法は晶析量が多いので、従来の技術では、処理過程でMAPが過大成長して流動の悪化 などが起こり、回収率が低下するなどの問題があった。筆者らは、従来技術の課題を解決するため に、種晶を生成するリアクタ(以下シーダーという)を併設した”TRプロセス”を考案した。6 章から 9 章では、TR プロセスの基礎的な晶析操作の検討を行うとともに、処理量20 m3·d-1のパイロットスケ ールでの実証試験を行い、実用化に目処をつけた。また、嫌気性消化槽内では少なからずMAP が自然発生している。そこで、消化汚泥からMAPを晶析させると共に、消化槽内で自然発生した
MAPを同時に回収する”CMプロセス”を考案した。10章から 12章ではCMプロセスの基礎的な晶
析操作の検討を行うとともに、処理量6 m3·d-1のパイロットスケールでの実証実験を行い、実用化に 目処をつけた。
3−4−3.し尿、浄化槽汚泥処理過程からのリン回収1)
リンの資源化という観点から、し尿と浄化槽汚泥処理の場合には、リンの回収率だけでなく、回収 したリンが肥料として要件を満たしていることも留意された。し尿処理等におけるHAP法のリン回収 方法をFigure 3-9に示す。Figure 3-9よりリン回収槽は生物学的脱窒工程の後段に設置される。リ ン回収はFigure 3-10 に示す完全混合型のリアクタで行われ、薬品として水酸化ナトリウムと塩化カ ルシウムが用いられる。同様にMAP法によるリン回収方法をFigure 3-11に示す。リン回収はアンモ ニウム濃度が高い前凝集分離液が対象となる。流動層型のMAPリアクタで、水酸化ナトリウムと塩 化マグネシウムが用いられる。HAP法、MAP法ともにリン回収率は 80%以上となっている。回収し たHAPの性状は、”クエン酸可溶性リン酸(ク溶性リン酸)”は固形物あたりP2O5換算で 30%以上で あり、副産リン酸肥料の含有すべき主成分の規格である15%を満足している。また、回収したMAP の性状は、ク溶性リン酸固形物あたりP2O5換算で28%以上、アンモニア性窒素5%程度が得られ、
化成肥料としての含有すべき主成分(窒素、リン酸の合計量)の規格である 10.0%以上を満足して いる。
septic tank sludgeq
night soil
advanced wastewater
treatment receive
tank
biological denitrificati on process
P recovery
process
P recovery
disinfection
effluent
Figure 3-9 Phosphorus recovery process in the night soil and septic tank sludge treatment
Figure 3-10 Completely mixed type HAP recovery reactor
Figure 3-11 Fluidized-bed type MAP recovery reactor
3−5.結言
富栄養化防止のために、水域へのリンの削減だけでなく、リン資源の枯渇対応としてリン資源の 回収が注目されている。下水からのリン除去方法としてLevinらがフォストリップシステムを実用化し てから30年以上が経過した。日本では、いままでに多くのリン回収技術が開発されており、今後は 開発技術の実用化が要望されている。
参考文献
1) 日本環境衛生施設工業会技術説明資料, (2004)
2) 平沢泉, 田中俊博, 岩井信幸, 接触脱リン法による排水中のリン除去に関する研究, 水質汚 濁研究, 6(4), 229-235 (1983)
3) 竹倉紘, フォストリップ法生物学的脱リン汚泥の肥料化への試み, 用水と廃水, 30(1), 46-51 (1988)
4) 鈴木清志, 松本学, 小島利広, 中町和雄, 活性汚泥からの効率的リン回収の検討, 第 38 回 下水道研究発表会公演集, 625-627, (2001)
5) 田中俊博, 川上彰, 加藤登, 生物学的脱リン法における汚泥処理工程からのリンの返流量の 軽減方法, 用水と廃水 30(1), 21-29 , (1988)
6) 安部静夫, 室須美夫, 福岡市の高度処理とMAP法の開発について, 下水道協会誌, 32(389), 89-96 (1995)
7) 飯島宏, リンの回収と資源化利用への道―MAP の肥料化―, 月間下水道, 26(12), 24-27 (2003)