国際理解教育のカリキュラムマネジメントの考察 −「人とのかかわりあい」をベースにした総合的な学習に焦点をあてて [ PDF
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(2) るものである。我が国の国際理解教育には、国際レベル. 「資質・能力」が未分化になりがちであると述べたが、. に立つ「ユネスコ型」とナショナルインタレストと外国. 上の6つの力からとらえると、これまでの目標設定の傾. 語能力育成に重点をおく「臨教審型」の2つの方向性が. 向 ( 「目的」 としての国際理解教育に重点があり、 「D. あるといわれてきたが、中教審答申(平成 8 年 7 月)に. んだ力」の育成に焦点をおく)を脱却し、 「目的」として. よって、この2つは統合される方向性にあり、これが実. の国際理解教育と「手段」としての国際理解教育を統合. 践主体のジレンマを緩和し、 「中教審型」 の目標は今後の. し、より具体的な「生きる力」としての目標を設定する. 実践レベルでの目標設定を規定すると予測される。. ことができる。. 学. また、実践における目標設定上の問題点として、簡潔 で共有化しやすい目標を掲げている分、「学習内容」と. 第2章. 教育目標を児童の学習活動において具現化す. 「資質・能力」が未分化で混在しがちなことが指摘でき. るためには、それをねらったカリキュラムを編成・実施. る。この点、佐藤は今までの国際理解教育は、 「目的とし. することが必須であるが、我が国では各学校独自にカリ. ての国際理解教育(環境問題など国際社会の現実を教材. キュラムを編成・実施・評価することはあまりなされて. 化しそれ自体の学習を目標とするもの)」 に偏重してきた. こなかった経緯がある。そこでまず、現行の学習指導要. ため技術主義に陥ったと指摘し、「手段としての国際理. 領と新学習指導要領を比較検討し、①新学習指導要領に. 解教育(国際社会で必要とされる資質・能力を育成する. おいては国際理解教育の重要性がより強調されたこと、. ことを目標とする) 」と「目的としての国際理解教育」の. ②今後の国際理解教育は、 「総合的な学習の時間」 を中心. 統合の必要性を説いている。従って、まずは目標を下位. とした横断的・総合的な学習によって、全カリキュラム. の具体的な目標に細分化し、育成する資質・能力を明ら. で行う可能性が広がったことを明らかにした。また、英. かにすることが必要である。. 語活動の増加が今後見込まれる。英語活動の実践によっ. 次に、「総合的な学習の時間」で行う国際理解教育に. て、児童については英語技能だけに限定しないコミュニ. ついては、 「総合的な学習の時間」 のねらいと国際理解教. ケーション能力の発達や外国への興味・関心の高まりと. 育の目標との接点を探る必要がある。「総合的な学習の. いった効果、教師については授業方法の転換や外国人や. 時間」は、 「生きる力」の主に方法知面や「徳(感性) 」. 英語への抵抗感の減少といった効果があったという報告. の育成、個々の児童が自らの「生き方」を考えるように. が多い。従って、やり方によっては国際理解教育の効果. なることである。そこで、 「生きる力」は具体的にどのよ. 的な方法のひとつとなりうる。しかし、英語活動イコー. うな力を指しているのか、学習指導要録の観点別評価項. ル国際理解教育という図式も単純には成り立たない。. 目や、中留による「総合的な学習の木」が示す学力観、. 「総合的な学習の時間」のカリキュラムの構成原理は、. 国際理解教育の実践校での目標設定例などを基盤におき. ①目標と課題の連関性、②各教科・領域等との双方向の. ながら、 「生きる力」を6つの構成要素に分析・抽出した。. 連関性である。特に、第2の特色とかかわって、横断的・. すなわち、 「A. 学ぼ. 総合的なカリキュラムを編成することになるが、その際. 学び方の. 「教師主体」と「子ども主体」、 「内容」と「方法」 、 「教. 学んだ力(知識・理. 科」と「総合的な学習の時間」という組み合わせは、相. 心を動かす力(感性・情意) 」 「B. うとする力(興味・関心・意欲・態度)」 「C 力(思考力・判断力・表現力) 「D 解・技能) 」 「E. 生み出す力(自尊感情)」 「F. 総合す. る力(行動力・実践力) 」である。 この 6 つの力の視点から、研究開発学校(主に英会話) 55 校における目標を分類・分析することを試みた。目標. 互補完的な、双方向性のある関係にある。これに国際理 解教育の観点を加えると、③内容・方法上の「多様性」 、 それを可能にする④「弾力性」も原理である。 また、今後の国際理解教育の目標の中心となる「共生」. として最も多く挙げられている「文化理解( 80%)」の. の力を育成するには、学習活動で追究するだけでなく、. うち 56%は「学んだ力」、45%は「学ぼうとする力」、. 児童が生活者として日々「現実の共生」を体験すること. 36%は「学び方の力」、9%は「心を動かす力」として. も必要である。それを可能にするのが、児童の「共同性」. それを捉えていた。同様の分析を「コミュニケーション. (共に学ぶ)と教師集団の「協働性」 (分業体制・役割体. 能力」や「人間尊重」 「国際性」 「自己の確立」 「共生」に. 制において協力しあうこと)である。. ついても行ったが、多くはそれらの目標が示す具体的な. 「総合的な学習の時間」の学習過程では、 「課題設定」. 力がどのようなものか判別が難しいという、実践上の課. と「自己の生き方につなぐ」ことが難しい課題であると. 題を残していることが明らかになった。. いわれている。一方、国際理解教育でも、グローバル・. 先に、国際理解教育の実践的な目標は「学習内容」と. イッシューや他者のことを自分に関わることとして捉え.
(3) たり、自己を問い直したりすることができる方法の開発. するものである。第一の視点である「目標」は「国際理. は課題である。その際、児童の感性に直接訴えかけ、 「双. 解教育の理念・目標」を基軸とし、第二の視点「カリキ. 方向の関係性(かかわりあい) 」をもてる「人」を学習過. ュラム」については、 「多様性」と「人とのかかわりあい」. 程に導入することは有効な手段である。同時に、 「人」は. を導入するために、 「内容・方法上の連関性」 「多様性と. 「多様性」をももたらす。「人」は、①大人、②同世代の. 弾力性」を基軸とした。第三の視点「マネジメント」に. 子ども、③クラスの友だちが考えられ、学習過程の各段. ついては、 「現実の共生」体験を実現するために、 「教師. 階で、 「①人との出会いによる課題設定」 「②人との学び. の主体性と協働性」 「児童の参画・共同性」を基軸とし、. あいによる追究活動」 「③人へ伝えあうためのまとめ・表. これに「特色ある学校づくり」の基軸も追加した。. 現活動」 「④人と認めあう、 振り返り活動」「⑤人と共に、 人の役に立つ実践をして、自己の生き方を考える」とい. 第4章. う学習活動が可能である。. 実践を質的調査によって比較分析した。目的は、国際理. さらに、「人とのかかわりあい」には、国際理解教. 上の枠組みを用いて、事例校(A、K、D)の. 解教育の促進要因を析出することである。事例校は、研. 育の目標である「コミュニケーション能力」を育成し、. 究歴の長さの差(A:2年目、K:6年目、D:13 年目). 「他者を理解」し、「自己を問い直す(自己の確立へ つながる) 」という作用も期待できる。以上、「人との. や、地域性の違い(A:地方都市の都心近くの新興住宅. かかわりあい」を学習過程に導入することは有効であ るが、これを実現するためには、カリキュラムの弾力. 基盤となる活動の違い(A:英語活動と地域の教育力の. 性と、カリキュラムを実働させる条件整備(マネジメ ント)が欠かせないのである。. 姉妹校との交流)のある3校をあえて選んで、その共通. 第3章. 地、K:農業・漁業地帯、D:住宅地) 、国際理解教育の 活用、K:英語活動(元研究開発校) 、D:韓国・中国の 性と固有性を抽出することを試みた。. 前章までに、国際理解教育における目標−内容. まず、目標の視点においては、各校の研究報告書分析. (方法)系列のいくつかの原理について論じてきたが、. やインタビューによって以下の共通性(促進要因)を見. これらを机上論にとどめず、実働させるためには、それ. 出した。. を支えるマネジメントが欠かせない。「総合的な学習の. ①目標は国際理解教育の理念・目標、生きる力、学校教. 時間」導入は、今後、各学校・各教師がカリキュラムマ. 育目標から導いている。その目標は、具体的な子ども. ネジメントに主体的に取り組む必要性をますます高めた。. の姿として表現し、具体的な育成手段( 「コミュニケ. 今改めて、カリキュラムは各学校・各教師、そして児童. ーション(対話)活動」)と共に、単元実施レベル、. 一人ひとりのものであり、カリキュラムマネジメントの. 児童の学習活動の評価にまで反映させている。. 主体はその3者であることを確認し、それに取り組まね ばならない。. ②目標を、関係者間で共有する。その手段として有効な のが、教師は授業公開・協議会・校内研修会であり、. そこで、中留によるカリキュラムマネジメントの基軸. 児童については学習活動上の「めあて」にすることで. (A 広義の基軸「資質・能力と単元の課題=ビジョン」. ある。保護者・地域には、直接説明もされるが、より. 「学校文化」と B 狭義の基軸「内容・方法上の連関性」. 深く共有化されるのは、保護者や地域の人々による学. 「組織・運営上の協働性」 )と、視点(目標、カリキュラ. 校の教育活動への参画によってである。. ム、マネジメント)、領域(学校全体のカリキュラム、 「総 合的な学習の時間」のカリキュラム、各単元、学習活動). 次に、カリキュラムについては、次の共通性と固有性. を援用し、筆者による基軸( 「弾力性」 「児童の共同性」. (促進要因)が明らかになった。. 「特色ある学校づくり」) も加え、 「総合的な学習の時間」. ③カリキュラムは、内容上の連関性と、方法上(コミュ. の分析枠組みを再構築した。 次に、国際理解教育の立場から「共生」 「多様性」 「人 とのかかわりあい」 「現実の共生」の観点を加え、国際理 解教育のカリキュラムマネジメントの分析枠組みとした。. ニケーション能力育成の方法や学習過程)の連関性を 意図して編成・実施されている。 ④学習過程各段階で「人とのかかわりあい」が重視され ている。. すなわち、4つの領域(学校全体のカリキュラム、 「総合. ⑤カリキュラムの弾力性は3校にみられるが、質的な違. 的な学習の時間」のカリキュラム、各単元、学習活動). いがある。Aは「進取の精神による弾力性」、Kは、 「科. を分析対象に据え、次の3つの視点とその基軸から分析. 学的枠組みに支えられた弾力性」 、Dは、 「総合的な学.
(4) 習の特質としての弾力性」といえる。. 結章. 国際理解教育の促進要因は第4章で述べた。阻害. 要因は実践上の課題ともいえるが、以下の通りである。 そして、マネジメントの視点では⑥∼⑧の促進要因が. ①教師の、外国人や英語に対する抵抗感。. 明らかになった。. ②各学校でカリキュラムを創造する習慣がないこと。. ⑥教師の主体性とウチなる協働性は3校とも、研究活動. ③カリキュラムの硬直性。. と授業公開を伴う校内研修を中心に各校にみられる。. ④教師の「教え込まねばならない」という意識。. しかし、その原動力には質的な違いがある。. ⑤学校の閉鎖性。. ⑦3校のウチなる協働は、まず学校の内側から作り出さ れたが、ソト(地域や全国、海外姉妹校など)からの. 最後に、本論文における研究上の課題を述べる。. 期待や協力にも支えられている。すなわち、「ウチな. ① 研究対象が初等教育に限られているため、中等教育. る協働」と「ソトとの協働」の相互補完関係が成立し. とのつながりや系統性を明らかにすることができな. ている。. かった。. ⑦3校とも学校を積極的に開放した結果、学校が人と人 を結ぶネットワークの核となっている。A・Dでは、. ② 国際理解教育・総合的な学習どちらの面でも、諸外 国の実践・研究にふれることがなかった。. 国際理解教育が地域の求心力のひとつである。KはA. ③ 総合的な学習の時間」の他の課題(環境教育や福祉. LT・CIRをパートナーとして最大限に活用してい. 教育)との比較検討による、国際理解教育の特色の. る。各校とも地域人材等の活用は活発で、高学年児童. 抽出ができなかった。. は自ら人材を探し出す。 ⑧3校とも、児童の希望を単元や評価に生かし(参画) 、. ④研究開発校による実践の分析の大半が、研究報告書の 内容からしか行うことができなかった。. 安心感のある雰囲気をつくり、多様な人々との交流に よって多様性をとりいれ開放感を作り出し、役割分担. 今後、このような視点から多面的・多層的に、「総合. して主体的、日常的に人の役に立つ活動を行う、児童. 的な学習の時間」で行う日本の国際理解教育の実践を研. の「共同」をこえた「協働」の姿も見られる。. 究することができれば、その全体像がより明確に浮かび 上がってくるだろう。. これら3校のマネジメントには次のような固有性が みられた。すなわち、教職員の協働性を高める取り組み. <主要参考文献>. (50 音順). の開始時期にあたるAでは、学校をまずは積極的に開放. 今谷順重編著『総合的な学習の新視点. ― 21 世紀のヒュ. し、 地域の協力を最大限に活用するところから始める 「実. ーマン・シティズンシップを育てる? 』黎明書房,1997. 践・開化型」 マネジメントを行っていることがわかった。. 魚住忠久『共生の時代を拓く国際理解教育』黎明書. 同校は目標に「多文化社会を共に生き抜く子ども」を掲. 房,2000. げており、その目標と学校の実践が一致する「地域共生. 木村一子『イギリスのグローバル教育』勁草書房,2001. 型」マネジメントであるともいえる。Kは元研究開発学. 佐藤郡衛 『国際理解教育. 校(英会話)である。その当時より、新しい実践や理論 を創造し、全国の実践に貢献しようという校風が続いて おり、独特の英語活動の学習構造を開発した。同校は「発. 多文化共生社会の学校づくり』. 明石書店,2001 佐伯胖・藤田英典・佐藤学『学びあう共同体』東京大学 出版会,1996. 信型コミュニケーション能力の育成」を学校の特色とし. 中留武昭『学校改善ストラテジー』東洋館出版社,1993. ている。児童の学習活動はもちろん、教職員の研究活動. 中留武昭編著『総合的な学習の時間−カリキュラムマネ. にあっても、 「創造・発信型」マネジメントを行っている ことがわかった。Dは韓国・中国の姉妹校との交流を 13 年間にわたって続けており、 「国際交流」 を特色としてい る。これはすでに関係者間の間で「伝統」になっている が、伝統を守るだけでなく新しい実践に取り組み、常に 刷新している。 「伝統継承・発展型」マネジメントといえ る。. ジメントの創造』日本教育綜合研究所,2001 中留武昭 「総合的な学習の時間の評価」 『CS研レポート No.4「評価と指導要録」 』啓林館,2002.
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