学位 研究 第
1号 平成
5年
3月 ( 論文)
〔 学位授与機構 研究紀要〕
日本の成人教育 と高等教育の開放
OpeningtheDoortoAdt此 Learners:theRoleof HigherEducationinJapan
溝 上 智 恵 子
ChiekoMIZOUEResearchinAcademicDegrees,No.1(March,1993) lthearticle] TheJournalofNationalInstitutionforAcademicDegrees
日本 の成人教育 と高等教育 の開放
溝 上 智 恵子*
1.
は じ め に
本研究の 目的は,わが国における成人教育の現状を統計的に把垣 し, とりわけ学校教育 と成人教 育の結びつ きを通 して,現在の成人教育がかかえる問題点を整理 し,今後の成人教育発展 のための 一方策を考えるものである。
この研究の意義は, 「生涯学習」推進の中心的存在である成人を対 象 とした教育が, どの くらい の規模で実施 されてい るか とい った実態を明 らかにす ることであ り, さらに成人を対象に した教育 が遅れてい るといわれ る大学におけ る成人教育の今後 の位置づ げを考察す るものである。
本研究をすすめるにあた っては,文部省の社会教育調査をは じめ各種統計資料や,すでに社会教 育あるいは高等教育研究の分野における成果 に依拠 しつつ, とくに成人に注 目して 「生涯学習」関 係の定義の整理を行ない,資料 の分析を試みた。
2.
生涯 学習 と成人教育
1992
年
7月,生涯学習審議会は 「今後の社会 の動 向に対応 した生涯学習の振興方策」 と題す る答 申を行なった。( 生涯学習審議会,1
992年,pp.
6ト66)今回の答申は,1
990年
8月に設置 された生 涯学習審議会が行な う初めての答 申であ り,当面の重点課題 として,(
1)リカレン ト教育の推進,(
2)ボランテ ィア活動 の支援 ・推進,(
3)青少年 の学校外活動 の充実,及び( 4 ) 現代的課題に関す る学習機 会の充実,の四点を挙げている。中で も リカレン ト教育は, 「職業人を中心 とした社会人に対 して 学校教育の修了後,い ったん社会に出た後に行なわれ る教育であ り,職業か ら離れて行なわれ るフ ルタイムの再教育のみな らず,職業に就 きなが ら行なわれ るパ ー トタイムの教育 も含む」 と定義 し, 重点課題の筆頭に挙げてい る。 この リカレン ト教育重視の姿勢は,単 なる生涯学習振興の一方策 と い うばか りでな く,従来 こどもに力点がおかれていたわが国の文教政策において,成人に対す る教 育を重要視 した もの ととらえることもで きるだろ う。
そ もそ も 「生涯教育
(lifelongeducation)」 とい う言葉は,
1965年1
2月にユネス コ本部で開催 さ れた 「世界成人教育推進 国際委員会」で ラングランが提 出した ワーキ ング ・ペ ‑パ ーにおいて最初 に使われた といわれてい る.その後, 「l )カレン ト教育」,「継続教育」,「ノン ・フォーマル教育」
等 の言葉が,国に よ り,人に よ り様 々な意味を もって使われて きた。以下,総合研究開 発 機 構 の
『日本の生涯教育』を参考にそれぞれの意味を整理 してみたい。
まず,ユネス コ研究所の生涯教育の定義をみ ると, 「生涯教育 とは,個 々人及び諸集団の生活を
* 総合研究開発機構主任研究員,学位授与機構学習情報企画調査研究会委員
向上 させ るために,人々の全生涯を通 じる人間的,社会〔 軌 職業的発達をなし遂げ る過程である。
それは,様 々な人生段階及び生活領域において啓発をもた らし,たかめることを 目的 とし,定型的
(formal),非定型的
(non‑fom al),無定形
(informal)学習すべてを包摂す る, 総合的,統一的な理念」である。( 総合研究開発機構
,1980年
,p.10)つ ま り, 「学校教育のみではな く,成人教 育や職業教育を含めた総体的な一生にわたる教育
」( 市川昭午
,1981年
,p.19)を意味 している0
‑万, 「リカレン ト教育」 とい う言葉は
,1969年にヴェルサ イユで開催 された, ヨーロッパ文部 大臣会議で,当時スウェーデンの文部大臣であ ったパル メがスピーチの中で最初に使 った といわれ ている。その後,
OECD ・CERI( 経済協力開発機構 ・教育研究セ ンター)が注 目し
,1970年代の
OECD教育政策論の主流 として加盟国に普及 してい った。
OECDに よれば, 「リカレン ト教育は, 義務教育ないし基礎教育以後のすべての教育活動に関す る総合的戦略であるが,その基本的特質は
リカレン ト的な仕方,すなわち教育 とそれ以外の諸活動 と交互に行な うや り方で,教育を個人の全 生涯にわたって分布 させ る点にある」 とい う。 ( 総合研究開発機構
,1980年
,p.10)また, 「継続教育
(continuingeducation)」とは, イギ l )スの継続教育調査委員会に よれば,
「フルタイムの義務教育が終了した後に履修 され るすべての学習機会を含むOそれ らの学習機会は フルタイムのこともあれば,パー トタイムの こともあ り,また職業教育及び非職業教育の双方を含 む もの」である。 ( 総合研究開発機構
,1980年
,p.ll)日本では,当初 「生涯教育」 として普及が図 られたが,最近では 自己啓発的側面を強調す ること もあって, 「生涯学習」 とい う言葉が使われ るようにな り,その内容 もリカレン ト教育の側面や継 続教育の側面が強 くなって きている。 しか しなが ら, 日本における生涯学習の概念定義は必ず しも 一定 しない ようであるし,ましてやその内容や方法については,非常にあいまいなまま,言葉 とし ての 「生涯学習」がひ とり歩 きしているようである。アメリカで筆者が 「生涯学習」の言葉を使 っ た とき, 「あなたは,乳幼児の教育か ら,高齢者の教育 まで勉強す るのか」 と言われた ことがある。
そのアメ 1 )カにおいて も,生涯学習に関す る合意 された定義があるわけではな く,一般には,成人 教育 と同義に用い られていることが多い といわれている。 ( 今村令子
,1989年
,p.94)それでは, 「成人教育」 とは何だろ うか。 「成人があ らゆる場面で行な うところの学習活動に対 し,ある程度組織化 された教育的条件を提供す るもの」を 「成人教育」 と定義す ると,成人教育に は実に様々な教育的営みが含 まれ ることになる。歴史を さかのぼれば,宗教の普及 とい う営みは, まさし く成人を対象にした,組織化 された学習活動にちがいな く, この点をみて も成人教育はすで に長い時を きざんでいる。しかしなが ら,近年産業構造の変化 とともに,それまでの知識や技術で は社会の変化に対応で きな くなってしまった ところか ら,成人教育は新 しい展開をみせ るようにな り,組織的にその意義を考えるよ うになったのである
。20世紀だけみて も第一次世界大戦
,1930年 代の大恐慌,そして第二次世界大戦 とい った社会変化を契機 として,成人に対す る教育がその都度 脚光を集めてきている。 日本で も,明治期の図書館な ど施設利用を積極的に図った 「通俗教育」概 念の登場,大恐慌後の文部省社会教育局設置,そして第二次世界大戦後の社会教育法の制定など, 社会が大 きく変動す るたびに,成人に対す る教育は注 目をあびてきた。
そして,現在では生涯学習の振興 とい う言葉が語 られるとき,多 くの人は成人が新 しい時代に対
I . ‑ '
32‑応す るため,あるいは 自己の教養や生活の向上のため,知識や技術を学ぶ ことを想定 している。生 涯学習の主たる対象は,社会人あるいは成人 といわれ る人たちである。 ところが, 日本では,その 成人を対象 とした 「成人教育
(adulteducation)」の概念について, 学問的には確立 されていない ようである。いわゆる 「おけい こごと」 と呼ばれる茶道,華道か ら囲碁,将棋, さらには短歌や俳 句 といった 「学習活動」を例にあげれば, 日本では長い 「成人を対象にした教育」の歴史を有す る
ことになる。 しか し,概念 として成立 していない ことを示す事例 として,大学の教育関係の学部に
「社会教育」に関す る専政はあって も,「成人教育」の専政はない ことが挙げ られる。「成人教育」
とい う概念が不在のまま,実態 として 日本では成人が学習活動を続けて きた といえるだろ う。
では,現在の 日本の成人に対す る教育には どの ような形態があ り, どの くらいの規模でお こなわ れているのだろ うか。 また, 日本の成人教育が今後発展す るためには, どの ような問題が残 されて いるのだろ うか。本稿では,まず, 日本における成人教育の現状をみた後,成人教育が取 り組むべ
き課題, とりわけ高等教育機関 との関係について考えてみたい。
3.
わが 国におけ る成人教育の現状
(1 ) 成人教育の構造
本稿では,成人教育を 「成人を対象に一定期間継続 して学習す る形態の もの」 と考え,講演会や シンポジウム等の受講 とい った単発の事業,あるいは 日常生活の会話か ら得 られ る知識 といった, 教育を主たる 目的 としない場で行なわれ る学習活動を除外 して考えてい くことにす る。 もちろんこ
うした学習機会が成人に とって有益な学習手段であることを否定す るものではない。
成人教育は,碇供 され る場か らみると,学校教育の場で行なわれ る教育 と,それ以外の場で行な われる教育の二つに大別 され ようO後者の例には,いわゆる 「おけい こごと」, 社会教育や企業内 教育が含 まれ る。
(2)
社会教育 と成人
わが国の成人を対象にした教育プ ログラムは,長い間,社会教育の一環 として とらえられて きた。
例 えば,江戸時代,石 田梅厳に よって開かれた 「石門心学」は,新興階級である町人に対 して,吋 人道を説いた ものであるが,その方法は道話 とい う通俗講話の席を設け,図絵,錦絵等を用いて庶 民に布教を行なった。江戸後期には,全 国に二百余 りの請合を もつ までにいた った。( 唐津富太郎,
1968年
,p.177)その後, 成人を対象にした社会教育が もつ教育的意義については,かな り早 くか
ら注 目され,その体系化,組織化がはか られるようになった
。1917年 ( 大正
6年)
9月に設置 され た臨時教育会議は,学校教育改革の問題 とともに 「通俗教育」 として明治期か ら登場 していた社会 教育に関す る議論 も行なってお り,社会教育のための条件を整備 して, これを積極的に振興す るこ
とを促 した。(中野光
,1975年
,p.140)さらに
,1920年代にはいると, 「社会教育」 とい う言葉が
用い られるようにな り,第二次世界大戦後
,1949年 (昭和
24年)に社会教育法が公布 された。同法
に よれば,社会教育 とは, 「学校教育法に基 き,学校の教育課程 として行われ る教育活動を除き,
主 として青少年お よび成人に対 して行なわれ る組織的な教育活動 ( 体育及び レクリエーシ ョンの活
動を含む) 」( 社会教育法第
2条)であると定義 され,教育委員会及び公民館等 の社会教育施設,知 事部局や市町村長部局,社会教育関係公益法人,及び民間の社会教育団体において,成人の学習活 動が推進 されて きた。
こうした長い歴史 とともに,今 日では 自由時間の増大,科学技術の進展に よる社会変化を背景に, 成人の学習意欲が高 ま り,提供 され るプ ログラムも量的増大 と多様化の傾 向をた どっている。
次に,統計資料か ら社会教育の中の成人教育の現状をみてみ よ う0
1990
年 ( 平成
2年)の 『 社会教育調査報告書 』 に よれば
,1989年度に教育委員会及び公民館等社 会教育施設が成人を対象に実施 した学級 ・講座 ( 一定期間継続 して学習す る形態の もの)は,約
21万件
(208,252件),その受講者数は,約
1,049万人
(10,492,155人)に達 してい る1 ' 。 ちなみに教 育委員会が実施す る社会教育学級 ・講座を対象別にみ ると, 成人一般対象が
,34,586件 ( 総 数 の
54.3%)で最 も多 く,ついで婦人のみ対象が
16,869件
(26.5%)とな ってい る。( 表
1,表
2参照)
また
,1989年度知事部局や市町村長部局の開設 した学級 ・講座 は,年 間約
17万件
(170,728件) で,受講者数 は,約
999万人
(9,987,220人)である。( 文部省
,1990年
,p.47)さらに近年伸張が 著 しい といわれ る 「カルチ ャーセ ンター」な どの民間の社会教育団体
2'が実施 した学級 ・講座数 は,
表1
教育委員会及び公民館等の社会教育施設による成人対象の学級 ・講座数
(1989
年度間)
計( 資料) 文部省 『 社会教育調査報告書 平成
2年度
』1992より算出
‑ 34‑
表
2 教育委員会及び公民館等の社会教育施設による成人対象の学級 ・講座受講者数
(1989年度間)
計
(資料)
文部省 『 社会教育調査報告書 平成
2年度」]1992より算出
表3
民間の社会教育団体の企業系列別事業所数
( 注)
1990年10月1日現在,調査回収率 (推定)
90.6%(資料)
文部省 『 社会教育調査報告書 平成
2年度』1992表4
民間の社会教育団体の企業系列別学級 ・講座実施状況
(1989年度間)
(資料)
文部省 『 社会教育調査報告書 平成
2年度』1992約
6万件
(55,279件)で,受講者数 は,約
138万人
(1,375,391人) とな ってい る。 この民間の社会 教育団体を,企業系列別 にみ る と,デパ ‑ ト ・スーパ ーマーケ ッ ト系が
25.8%と最 も多 く,ついで 新 聞社系の
20.5%とな ってい る。 ( 表
3,表
4参照)
こ うした社会教育施設や教育団体が埴供す る教育プ ログラムの内容紘, 「教養 の向上,情操 の陶 冶」に関す る ものが 中心 を 占めてい る。例 えば,教育委員会が 開催す るプ ログ ラムでは, 「教養の 向上 ・情操 の陶冶」が
24,472件 ( 総数 の
38.5%), 「家庭教育 ・家庭生活」が
16,701件
(26.2%),
「体育 ・レク l )‑ ‑シ ョソ」が
11,786件
(18.5%)とな ってい る.民間の社会教育団体が実施す る 学級 ・講座 では,必ず しも成人 のみを対象 としていないが, 「教養 の向上 ・情操 の陶冶」が
37,256件
(67.4%)で最 も多 く, この うち 「趣味 ・けい こご と」は
,27,975件 ( 総数 の
50.6%)を しめ,
「体育 ・レク リエ ーシ ョン」が
9,876件
(17.9%)とな ってい る。わが 国の成人教育の特徴のひ と つ として,職業知識や技術の向上に関す るプ ログ ラム ( 技能 ・聴能開発型)が少な く,教養 の向上
と体育 ・レク リエ ーシ ョン ( 趣味 ・教養型)に片寄 りがちであ ることが挙げ られ る。
時間的. ・距離的制約を受け ることな く学習で きる個人学習 システム として,社会通信教育 も成人
表
5民間の社会教育団体の学習内容別学級 ・講座の実施状況
(1989
年度間)
計
( 資料) 文部省 『 社会教育調査報告書 平成
2年度
』1992教育の一つに数 えることがで きる。現在,文部省認定の社会通信教育の実施団体は
43,課 程 数 l は
192であ り
,1990年度の受講者数は約
37万人である。オーデ ィオ ・テープや ビデオ ・テープの普及 をはじめ,衛星や コンビュ‑タの利用等, メデ ィアの多様化に応 じて新 しい形の通信教育が今後 ま す ます盛んになると思われ る。
(3)
企業内教育 と成人
わが国の企業内教育が,経済や経営の分野か ら国際的に も注 目を集めている
。1980年代のおわ り にアメリカのマサチ ューセ ッツ工科大学産業生産性調査委員会が行なった調査の報告書
『MadeinA
merica』において も, 日本の企業内教育は高 く評価 されている。「日本では,特定の職務 や 昇 格
のための教育 ・訓練は,各企業が計画 ・実行 してお り,‑‑大企業は,訓練や人事計画に高い優先 順位を与 えている」 と分析 している。
(MIT産業生産性調査委員会
,1990年
,p.134)少 し古いデータになるが,労働省が
1984年に実施 した 「雇用管理調査」に よれば,調査対象総数 の約
80%の企業で教育あるいは訓練が実施 された とい う。 とくに従業員の規模別に教育 ・訓練の実 施率をみると,従業員が
100名か ら
299名の企業では
90.7%,300名か ら
999名の企業では
96.4%,
1,000名か ら
4,999名の企業では
99.8%,5,000名以上では
100%となってお り,従業員の規模が大 き
くなるにつれ,実施率 も高 くなっている。 ( 労働省政策調査部
,1984年
,p.9)また,職場を離れて行な う教育 ・訓練
(o払the‑job‑training)をみて も,
1989年に労働省が実施 した 「民間教育訓練実態調査」に よれば, 有効回答のあった
2,358事業所の うち約
70%が
o払tbe‑ joも‑trainingを実施 した とい う。 ( 労働省職業能力開発局
,1991年
,p.5)(4)
学校教育 と成人
学校教育,いわゆる 「伝統型教育」の場における成人の受け入れについては,わが国では最近に いたるまで極めて消極的であった。義務教育修了後の学校教育へのアクセスについては,入学試験 が障害 とな り,長い間 「フルタイム」の学生のみが受け入れの対象 として考えられて きた。 こうし た中では,夜間部 ( 定時制) と通信教育が,成人に とって唯一の学習機会であった とい って も過言 ではない。
まず,高等学校の定時制,通信制課程を考えてみ よう
。1992年度の在籍者が,定時制 ( 本科)課
‑ 36‑
程1
24,978人 ( 全高等学校在籍者数
(5,38
0,492人)の2.
3%),通信制課程1
61,053人 (同3.
0%)であ る。( 文部省,1
992年,p.
558) 1976年以降の統計 (図
1)でみ る と,定時制課程在籍者 は,1
984年に底値を示 し,その後一定の値を示 していたが,最近1
5歳 人 口の減 少 とともに再び在籍者数 も減 少債 向に転 じてい る。それに対 し通信制在籍者数は,1
987年 に定時制在籍者数 を抜 き,1
990年 まで 増加 を示 している。両者は動労青年 に後期 中等教育の機会 を碇供す る役割 を果た して きたが,近年 では,全 日制を退学 した者が再び入学す るな ど生徒の実態が多様化 してい るといわ れてい るO
図
1高等学校定時制 ・通信制在籍者敬
(千人)
200
150
ユ00
50
0
1
976
77 78 79 80 818 2 8 3 8
48
5 86 8 78 8
89 90 91 92(年度) (資料) 文部省 『 我が国の文教施策 平成4 年度
』1992また,成人学習者の多様 な学習意欲に こた える形で,新 しい タイプの学校 も創設 され,専修学校 や各種学校は,職業教育や専門的な技術教育を行 な うことをその特 色に してい る。専 修 学 校 は,
「職業や実際生活に必要 な能 力を育成 し,または教養 の向上を図ることを 目的 として」 ( 文部省,
1992年,p.
193),1976年 に発足 し. 当時
893校, 学生数 は
131,492人であ ったが,1
992年には,
3,408校,8
61,423人にのぼ ってい る。最近ではいわゆ る 「ダブルス クール現象」 といわれ るよ うに, 大学や短期大学に在籍 してい る者が,専修学校な どに も通学 し,語学や情報処理技術を学ぶ傾 向が み られ る。 まさし く技能 ・職能開発型の成人教育を提供す る場 とな ってい る といえ るだろ う。
各種学校は , 「学校教育に類す る教育を行 な う教育施設」 ( 文部省
,1992年,p.
194)一 として各 種職業 に必要 な教育を行 な うところが多いD1
992年には学校数が3,
202校,学生数は,3
94,10
1人で あ る。
次に,成人教育の中で も,今最 も注 目をあびている大学 におけ る成人教育の動 向をみてみたい。
4.
大学 と成人教育
大学 と成人教育 との フォーマルな結び付 きは,1
873年,イギ リスの ケンブ リッジ大学が成人学習 者を対象に して講義を行な った ことを もって第一歩を記 した と言われてい る
d (Hatfield,1989年,
p.304)アメ リカで も, こ うしたイギ リスの動 きを うけて, 「イ クステ ンシ ョン (extension)」 とい
う名で, まず は大学におけ る農業教育の分野か ら,成人学習者の受け入れが展 開 され,次第に非農 業分野に も広が ってい った。
これに対 して,わが国では全体的にみれば大学 と成人教育 との結び付 きは,依然 として弱い もの
‑ 37
‑
の,最近では新 しいい くつかの試み も定著 しはじめている。今後, 日本の成人教育を考えるとき, 大学 との結び付 きが中心テーマになるであろ う。 ここでは,高等教育‑のアクセス,大学の機能の 開放,及び新 しいタイプの大学 とい う観点か ら現状をみてみたい。
(1 ) 高等教育へのアクセス
大学等に成人を受け入れるためには, 日本では 「受験戟争」 といわれる試験の関門があるので, まず学校へのアクセスを容易にかつ多様化す ることか ら始め られている。
従来成人学習者の受け入れ窓 口であったのが,大学の夜間部 と通信教育課程である
。1992年度の 大学の夜間部の在籍者数は
,122,653人 ( 全学部学生の約
5.8%),短期大学が
23,434人 ( 全本科学 生の約
4.5%)であ り,通信教育の在籍者数は,大学が
169,328人 (うち正規課程在籍者
146,879人), 短期大学が
41,115人 (うち正規課程在籍者
39,766人)となっている。( 文部省調査統計企画課
,1992年
,p.5,p.22,p.33)大学通信教育学生については,年齢別構成が公表 されているO( 表
6参照)
1992年度では
,23‑39歳の学生が
79,162人
(53.9%)と最 も多 く,ついで
18‑22歳の学生が
37,350人
(25.4%)となっている。 これを
1980年度の年齢別構成 と比べ ると,
23‑39歳の層が,
65.2%(71,629
人
,1980)か ら
53.9% (79,162人
,1992)‑ と減少 しているのに対 し
,60歳以上が
0.3%(368
人)か ら
,2.1% (3,048人)へ と実数ばか りでな く,割合の上において も大 きく伸びているこ とがわかる。まさし く生涯にわたる学習 としての 「生涯学習」が普及 してい る一つの証拠 といえよ う。 しかし,大学通信教育学生総数が
,1980年に
109,873人で
,1992年には
,146,879人 と,全体で は
1.33倍伸びているのに対 し
,23‑39歳では,1
.11倍
(71,629人
‑79,162人) とい う低い伸び しか 示 していない こと, この年齢層に属す る学生数は, 依然 として多いが, その割合は
65.2% (1980年)か ら
53.9% (1992年)へ減少 していることを考えると,技能開発 ・職能型成人教育,すなわち
リカレン ト教育,継続教育の場 として,大学通信教育が利用 されているとはいい難い ようである。
その理 由の一つに考えられることは,大学通信教育 とい う教育形態その ものが もつ特質に起因し ているといえよう。現在,大学通信教育では,教科書を学生に配布 し, レポー ト形式で 学 習 す る
「通信教育」の形を採 るところが多い。しか もその教科書は数年間使用で きるものを用いるため, 最新の情報 といった もの より,各分野ですでに確立 された意見や議論を中心に掲載 され ることが多 い.また,教師 とじかに接す ることので きるスクー リングは , 「夏期集中」とい ったかたちを とるこ とが多 く,時期や時間数の点で十分 とはいい難い。 こうした制約か ら技能開発 ・職能開発型成人教 育がめざす最新情報の提供,あるいは リメデ ィアルな機能 といった ものを提供す る場 とはな りえて いない ようである。
ちなみに昼間部や夜間部,及び大学院学生の年齢別構成は, 日本では公表 された統計資料がない ので,成人学習者が学校教育の場で どの くらい存在 し, どの ような分布になっているかは,不覗で ある。今後,文部省が生涯学習を推進 してい くなら, こ うした基礎的統計資料がないままでは,そ の発展状況 も正確につかめない とい うことを指摘 してお きたい。
最近では,社会人を対象 とす る特別選抜制度を導入す る大学 が 増 加 している。 (ただ し, この
「社会人」‑とはなにか とい うことを考え出す と,明確には定義 されていない ようで あ る が‑
‑)
‑ 38‑
表6
大学通信教育学生数
合 計 l 18‑22
歳
l 23‑39歳
1 40‑59歳
1 60歳以上
人
% 109,873 (100)
108,290(100) 106,032(100) 108,565(100) 101,224(100) 101,638(100) 104,915(100) 106,170 (100) 109,056(100) 110,318(100) 119,840(100) 133,376(100) 146,879(100)人
% 27,982(25.47)
26,990(24.92) 25,726(24.26) 26,618(24.52) 23,841(23.55) 25,788(25.37) 27,455(26.17) 28,991(27.31) 30,992(28.42) 25,061(22.72) 29,065(24.25)33,159(24.86) 37,350(25.43)
人
%7
1,629(65.19)
70,568(65.17)68,884(64.97) 69,991(64.47) 65,335(64.54) 63,478(62.45) 63,835(60.84) 62,916(59.26) 62,249(57.08) 63,369(57.44) 66,454(55.45) 72,713(54.52) 79,162(53.90)
人
% 9,894 (9.00)
10,253(9.47) 10,880(10.26)l
l,322(10.43)l
l,389(ll.25)l
l,544 (l
l.36) 12,714(12.12) 13,215(12.45) 14,529(13.32) 19,842(17.99) 22,057(18.41) 24,830 (18.62) 27,319(18.60)人
% 368(0.33)
479(0.44) 542(0.51) 634(0.58) 659(0.65) 828(0.81) 911(0.87) 1,048(0.99) 1,286(1.18) 2,046(1.85) 2,264(1.89) 2,674(2.00)3,048(2.08)
( 資料) 文部省 『 我が国の文教施策 平成
4年度
』1992( %については算出)
( 注)
卒業を 目的 とす る正規課程在籍者のみ1979
年に立教大学法学部ではじめて この制度が実施 され
,1983年には国立大学で も始 まった。国公 立大学の場合,対象の学部は工学部,経済学部,人文学部 と多岐にわた るが,夜間部での実施が多 く,試験科 目は,小論文,英語,面接 とい うところが多い
。1992年度には
34の国公立大学 において 実施 され,その特別選抜に よる入学者は
,558人 とな っている。 文部省に よれば
,1993年度は
39大 学
57学部で特別選抜を予定 している。
私立大学で も
,1993年は
134大学で社会人の受け入れを予定 してい る。例 えば青山学院大学では, 文学,経済,経営の
3学部の二部で社会人入試を実施 してい るが,昨年度は
3学部で
506人の志願 者があ り, うち
142人が合格 した とい う。 ( 毎 日新 聞
,1992年
3月
24日)
さらに,専門知識を深 め,実務家を養成す ることを 目的 とした 「社会人大学院」を設ける大学が,
1992年度には百近 くにのぼ り,今年度の開設計画 も相次いでい る。典型的な技能 ・職能開発型成人 教育の場の登場である。夜間大学院は
,1952年 の法政大学人文科学研究科 の修士課程がその噂矢 で あるが,近年の夜間大学院ブームとで も呼べそ うな動 きは
,1989年 の筑波大学か ら始 ま り
,1990年 の青 山学院大学
(1992年度か ら昼夜 開講制),
1991年 の姫路独協大学 と続 き,
1992年 には,国立 と 私立の
9専攻科 において夜間大学院が設置 されてい る。 また大学院設置基準の特例 ( 昼夜 開講制) で 「社会人」を受け入れてい る修士課程は
,1987年には
22専政だ ったが
,1991年には
186専攻 と
8倍以上に急増 している。 ( 文部省高等教育局
,1992年
,p.22)昼間の コース としては
,1962年 に開設 された慶応義塾大学経営管理研究科や
1982年 の国際大学な
どが挙げ られ るが,例 えば,一昨年か ら東京大学法学政治学研究科専修 コースで も 「職業人枠」を
設け,成人学習者の受け入れを始めた。昼間 とい うことで,企業や 自治体 の派遣者が多い よ うであ
るが,かつて 「日本の大学に教わ ることな どない」 と人事担当の役員が発言 していた企業か らの派
遣者 もいるとい う。( 「 根付 く社会人大学院」, 日本経済新聞
,1992年1 1月
21日)
1993年春 に開講予
定の神戸大学法学研究科が昨秋発表 した合格者
33人の顔ぶれは,来春大学を卒業す る一般選抜組が
2
人で,残 りは大学卒業後
2年以上の社会経験を もつ 「社会人」であった。 ( 読売新聞,1
992年1
0月2
3日)文部省によれば,社会人特別選抜を実施 した大学院は,1
987年度には国立大学で1
5研究科, 公立
1研究科,私立
7研究科で,合わせて23 研究科にす ぎなかったが,1
991年度には,国立6
0研究 料,公立
6研究科,私立41 研究科 とあわせて
107研究科にのぼ り,
4年間で
4倍以上の伸びをしめ している。( 文部省高等教育局,
1992年,p.
21) ただ, 全体 としては, 制度が定着 し, こうした
「社会人大学院」の動 向が新聞等で大 き くとりあげ られることもあ り,量的拡大のみに焦点があつ ま りがちである。 しか し 「定員若干名」に入学者は ごくわずか とい うところもあれば,毎年7
0人前 後が入学する大学な どもあ り,学生の実態にはかな りバ ラツキがみ られるようである。
聴講生 と研究生制度 も各大学の学則に よっで慣行的に認め られて きた ものであるが,成人学習者 に とっては高等教育‑のアクセスのひ とつ となっている。聴講生 とは 「高等学校卒業課程を資格 と し履修期間 1 年以内に 1 ‑数科 目を履修す る」者であ り,研究生は 「大学卒業程度を資格 として履 修期限はほぼ
1年で特殊な専門事項の研究を行な う」者である。( 文部省,1
992年,p.
198)1992年 の 「学校基本調査速報」に よれば,大学では,両者合わせて約
5万人
(51,464人), 短期大学では 約
2千人
(2,194人)である。 ( 文部省調査統計企画課,1
992年,p.
2)(2)
大学機能の開放
大学で研究や教育の成果を社会に開放 し,成人のみな らず,青少年にも学習の機会を提供す るの が,「公開講座」である。1
989年の大学公開講座の実施状況をみると,全講座数は,3,1
47で,1
979 午 (1,181講座)に比べ ると,約2.
7倍 となっている。受講者数は,41
5,198人である。( 文部省高等 教育局,1
992年,p.
24)講座 の内容は,一般教養,語学,スポ‑ツか ら,専門的内容 ま で 幅 広 い が, この中で職業に関す る講座は全体の
1割 り程度 と言われ ( 文部省,1
992年,p.
200),趣味 ・教 養型に大 き く片寄 っていることがわかる。 このほか,短期大学の公開講座数は
1,097,受講者数 は
102,785人である
4)0(3)
新 しいタイプの大学
上記に述べた大学の開放に加えて,放送等を利用 して大学教育をひろ く国民に捷供す ることを 目 的にした放送大学が1
985年学生の受け入れを開始 した。 「いつで も, どこで も,だれで も」 とい う 看板をかかげ,わが国初の本格的な公開大学 として出発 したのが,放送大学である。生涯学習推進 機運のもと文部省が積極的にすすめるプ ロジ ェク トの一つであるO 現在, 学生総数は
41,468人で
1992年
9月までに
2,795人の卒業生を出してい る。放送大学に よれば, この学生総数の年齢別構成 は,1
0代
8.8%,20代
27.7%,30代
20.9%,40代
22.6%,50代
12.2%,60代以上
7.8%となっている。 ( 放送大学,1
992年,p.
16)文部省では,大学通信教育学生 と放送大学学生のみ年齢別構成を公表 しているが,卒業を 目的 と す る正規課程の学生だけを対象 としてお り,全学生ではない。放送大学についていえば,卒業を 目 的 とす る学生は学生総数の6
0%である。次に この放送大学正規課程学生の年齢別構成をみてみると, 18‑22歳の層は,関学当初1
5.9%であったが,1992年度には
20.2%と増 え,60歳以上 も
1.7%か ら‑ 40‑
表7
放送大学学生数
合
計 l 18‑22歳
l 23‑39歳
l 40‑59歳
1 60歳以上
56789012888889999999999911111111
人
% 8,157(100)
10,455(100) 13,229(100) 15,467(100) 17,719(100) 20,912(100) 23,481(100) 24,799(100)人
% 1,297(15.90)1,366(13.07) 1,957(14.79) 2,511(16.23) 3,374(19.04) 4,359(20.84) 4,872(20.75) 5,015(20.22)
人
% 4,168(51.1
0)
5,423(51.87) 6,528(49.35) 7,156(46.27) 7,705(43.48) 8,784(42.00) 9,762(41.57)1
0,204(41.15)人
% 2,553(31.30)
3,365(32.19) 4,248(32.ll) 5,129(33.16) 5,824(32.87) 6,781(32.43) 7,672(32.67) 8,231(33.19)人
% 139(1.70)
301(2.88) 496(3.75) 671(4.34) 816(4.61) 988(4.72) 1,175(5.00) 1,349(5.44)( 資料) 文部省 『 我が国の文教施策 平成4
年度』1992( %については算出)
( 注) 卒業を目的とする正規課程在籍者のみ
5.4%に増えている。(
表
7参照) 若年層が増加 した理 由の一つは,1
992年 までは,1
8歳人 口の増 加 とともに大学進学率が高ま り, 「伝統塾大学」に入学で きなか った層を取 り組んだ結果ではない か と考えられ る。 さらに,60 歳以上の学生数が増加 している一因には,在籍年限が1
0年 とい うこと もあ り,卒業を 目的 とす るものの,時間を気にしない,あえてゆ っくり学習す る人たちがいること があげ られるのではないだろ うか。
とくに既存の通信教育学生 と比較す ると
,40‑59歳の層が,放送大学では33.
2%いるのに対 し,他方は1
8.6%と少ない。 この一因には,放送大学が教養学部のみで,資格を取得で きるコースがな い ことがあるのではないか。つ ま り技能 ・職能開発型学習を求める学坐,年齢的には23‑39 歳 まで の層に とっては,放送大学は既存 の通信教育 とくらべ ると魅力の乏 しい ところ とうつ るのではない だろ うか。そのため,技能 ・職能開発をそれほ ど追究 しない4
0‑59歳の層の割合が他の通信教育に 比べて多 くなっていると思われ る。
最後に,新 しいタイプの 「大学」ではないが,1
991年
7月に創設 された 「学位授与機構」につい て述べたい。
日本では,明治初期には文部大臣が学位を授与 して きたが,18
78年に東京大学が学位授与権を得 てか ら,大学がその権 限を有す るようになった。 ところが,その 「学位授与権」を,大学以外の機 関で得たのが,学位授与機構である。つ ま り,
「4年制大学お よび大学院以外の場で学習お よび研 究を行い,その内容な らびに成果が 4 年制大学お よび大学院におけるそれ と同等 とみ とめ られる者 に対 して」,学位を授与す る機関である。( 飯島宗一,1
991年,p.
3)具体的には,(
1)短期大学や高 等専門学校卒業者 ( 以下 「 短期大学卒業者等」 とい う)が,その後所定の単位を取得 し,同機構の 審査に合格すれば, 「学士」の資格を得 ることがで きた り
,(2)防衛大学校な どの ように,同機構が 認定 した,学校以外の教育施設の課程修了者 ( 以下 「大学校認定課程修了者」 とい う)が審査に合 格すれば , 「学士」 , 「修士」や 「博士」を得 ることがで きるようになった。
学位授与機構に よれば,1
993年
3月現在,短期大学卒業者等で学士の学位が
3名,大学校認定課程修了者で学士の学位が
1,712名,修士の学位が81 名,博士 の学位が23 名の者に授与 され,総計で
1,819名にのぼ っている。 この制度が誕生 して2年以内 とい うことを考えると, この数字は決 して 少な くないが,学位授与者の うち,すでに教育形態が大学 と比べて遜色のない大学校認定課程修了
‑ 41‑
者がその大半をしめていること, また,短期大学卒業者等にして も,一定の場所で継続的に教育を 受けることが基本条件 となってい るので,今後 この制度が 日本の成人教育に どの ような影響を及ぼ すのか とい うことについて即断はで きない。
一方,成人教育の先進 国であるイギ リスでは,すでにパー トタイム学生 として取得 した単位の累 積に よる学位取得は もちろんの こと,企業内教育 も一部単位 として認め られ る道が開いた とい う。
( 安原義仁,1
991年,p.
45)もし,今後 この制度がわが 国で弾力的に運用 され るな ら,高等教育 と はなにか とい う根本的な問題に までかかわ る側面を もつが,成人学習者に とってほ 「新 しい タイプ の大学」 となることは間違いない。
5.
わが 国の成人教育の問題点一学校教育 との結び つきか ら
わが国における成人教育は,学校教育以外の場では,一定の発展 ・拡大を遂げて きたが,その学 習内容は,企業 内教育を除 くと,趣味 ・教養塾に大 き く片寄 っていることが特徴 の一つ となってい る。今後,技術革新に ともな う社会 ・産業構造の変化に よ り,成人教育の果たす役割 も変容 してい かざるえない ことを考 えると,成人教育の現状にい くつかの問題点を指摘す ることがで きる。つい ては,学校教育, とりわけ高等教育における成人教育のあ り方を中心 に議論が展開され ると思われ るので, 日本における成人教育が直面 している,あるいは直面す るであろ うと言われてい る問題点 を,主にアメ リカとの比較を通 じて以下整理 してみたい。
(1 ) 成人教育によ り得た資格が,採用や昇進 と結びついていない
社会人特別選抜に よ り,大学が狭いなが らも入 り口を広げつつあるのに対 し,卒業後の道は極 め て狭い状況にある。例 えば,教員希望の成人学生は教育実習の受け入れ先す ら探すのが大変だ った り, 「社会人学生のために採用時の年齢制限を外す とい う企業は きいた ことがない」 とい う現状 で ある。( 読売新聞,1
992年
9月2
7日) この ような状況では,成人教育の量的発展を見込む ことは難 しい。い くら文部省が生涯学習の推進や大学の活性化の観点か ら社会人特別選抜の導入を推進 して ち,その後の 「受け皿」がな くてほ,個人の趣味 ・教養のための成人高等教育に終わ って しま う可 能性が高い。 さらに,通信教育や夜間の コ‑スで得た卒業資格を,昼間部の卒業資格 と同等 に企業 の側で評価す るよ うにな らない と,技能 ・職能型成人教育の発展は難 しいのではないだろ うか。
(2)
新 しい不平等の拡大
成人教育に携わ る者の間では,すでに指摘 されているところだが,成人教育の機会 に著 しい偏 り が生 じつつあることである。つ ま り 「よ り高い教育経歴を もつ者が, さらに高い教育を受ける」 と い う傾 向である。生涯学習審議会の答申において も, 「生涯学習は,各人の 自発的意思に基づいて 行な うことを基本」 とし, 「必要に応 じ,可能 な限 り自己に適 した手段 ・方法を 自ら」選択 して行 な うもの としてい る。成人教育は, 自己啓発 とい った言葉 と結びついて,本人 の意思を強調す るあ ま り, まさしく 「ヤル気」 のある者だけが,成人教育分野 の対 象 とな って きた きらいがある。
このため,言葉をかえる と,市場 メカニズムが働 きやすい場 とな り,学習‑の意欲 と動機づけを
‑ 42‑
もつ者,そのために必要 な経費 の負担が可能 な者に とってほ,多様な学習機会が提供 され る反面, 学習意欲や動機づけの劣る者は, この市場か らおちこぼれ る とい う結果を招いているCいわゆる高 学歴者はます ます高学歴化 し,それ とともに経済的に も上昇 し,低学歴者 との間の経済的格差や社 会的地位 の格差が拡大 してい くとい うことにな りかねない。
さらに,成人の学習機会に関す る情報その もの も, じつは教育機関を通 じて入手 され ることが多 いので,情報を得 るとい うことだけをみて も,高学歴者 と低学歴者の間の不平等が拡大 してい くこ
とになるのである。
例 えば,放送大学 の
1992年度第
1学期在籍者の うち
,22.3%はすでに大学 もし くは大学院卒業資 格を有 している。( 放送大学
,1992年
,p.16)また,放送大学 の岩永雅也氏に よれば
,1989年度の 第
1回卒業か ら
,1992年
10月までに放送大学を卒業 した
老3,050名の うち,約
6割にあた る
1,815名 が再び学生 として放送大学に戻 り,学習を続 けてい るとい う8 ) 。 放送大学 の場合,そ こで得 られた 学士 の資格がその後の採用あるいは昇進に どれほ ど寄与 してい るかについて, まだ公表 された もの はないが,一般の大学の よ うに学 内に就職斡旋に関す る部 門はない し,学部 も教養学部のみで,学 士号以外の 「資格」は取得で きない。 こ うした大学に もかかわ らず,高学歴者が よ り高い教育経歴 を求めるとい う懐 向がすでにみて とれ る。
成人教育や生涯学習の機会が 「新 しい不平等」を生んでい る可能性 もあるわけで, この点を不問 に して成人教育 の推進をはか るばか りで よいのだろ うか。
(3)