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債権法改正が不法行為法の検討に 託した課題

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(1)

■アブストラクト

今般の民法(債権法)改正案に含まれる中間利息控除の新たな規律は,変 動制に移行する法定利率の適用について定めるものであり,賠償責任保険の 実務に多大な影響を及ぼすことが想定される。新規律は,損害賠償制度全般 に関する議論に立ち入らず最低限の手当てをしたものと言え,将来における 不法行為法の検討に多くの課題を託すものである。中間利息控除への変動利 率の適用は,現行実務に対する問題意識も考慮した対応ではあるが,不法行 為時が異なることで賠償額に大きな差異を生じさせ,また損害賠償制度に係 る従来の整理や既存の実務に修正を迫ることも想定されるものであり,その 合理性について検証が試みられる必要がある。不法行為法の検討においては,

想定される諸論点を網羅した議論を通じ,変動・固定双方の利率を組み合わ せた中間利息控除スキームの是非も含め,様々な選択肢から最適な仕組みを 採ることが追求されるべきである。

■キーワード

中間利息控除,債権法改正,不法行為法

.はじめに

法制審議会が民法(債権関係)部会(以下, 部会 という。)における / 平成27年 月13日原稿受領。

【査読済み論文】

債権法改正が不法行為法の検討に 託した課題

在るべき中間利息控除の仕組みの探求

西 羽 真

(2)

年余りにわたる審議の末に採択した要綱を踏まえた 民法の一部を改正する 法律案 が,平成27年 月31日に閣議決定され,同日第189回国会に提出さ れた1)

法案は,年率 %へと引き下げたうえで変動制へと移行する法定利率を,

将来の逸失利益または積極損害に関する損害賠償額を定める場合において 中間利息控除 (将来の額を現在価値に換算するための利息相当額の控除)

を行うときにも用いるものとする,第417条の に定める新たな規律2)(以 下, 新規律 という。)を含むものであり,賠償責任保険の実務に多大な影 響を及ぼすことが想定される。このような規律に対しては,不法行為法の領 域に属する損害賠償額算定の在り方に関する議論もない中で採られることの 妥当性に疑問を呈する見方もあり3),損害保険業界も慎重な検討を求める意 見書を部会宛てに提出していた4)。しかしながら, 中間利息控除について の基本的な考え方や法制度の在り方についても,今般の改正において変更を 加えることは想定されていない し, 将来,損害賠償額の算定に関する全 般的な議論を行う際にその議論を拘束する趣旨を含むものではない 5)との 考えもあって,最終的には前述のような規律が採られることとなった。これ は,債権法に係る審議という諮問事項の範囲も踏まえて損害賠償額算定の在 り方に関する議論に立ち入ることは避け,損害賠償実務の混乱を避ける最低

1) 本稿の記載は,第189回国会提出時法案の内容を前提としたものである。

2) これまで明文の規定は存在しなかったこと,判例,実務家の検討等により形 成されてきた現在の実務は固定制の法定利率を用いるものであることから,

新たな規律 としている。

3) 民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(平成25年 月 日補 訂)102頁など。

4) 日本損害保険協会および外国損害保険協会が日本共済協会基本政策委員会と 連名で第83回部会に提出した意見書は,第90回部会の委員等提供資料 日本損 害保険協会 損害賠償額算定における中間利息控除について(参考資料) で 確認可能。

5) 第83回部会資料74B の11頁・12頁参照。

(3)

限の手当てとして法定利率が引き続き中間利息控除に用いられることのみ明 定することを最優先とした結果の産物6)と言うべきなのであろう。

このような対応が採られた結果,第90回部会におけるヒアリングで日本損 害保険協会が提示したものをはじめとした新規律に係る多くの課題は,将来 における不法行為法の検討に託された格好となったと言えることから,本稿 では,将来の検討に資するよう,想定される課題および課題検討時の論点に ついて考察し,また課題を克服する選択肢の提示を試みる次第である。

.想定される課題の概観

想定される課題は,以下のとおり 当該規律を採る論拠とされた考え方か ら招来される課題 と 当該規律の制度設計の在り方から招来される課題 とに大別される。

⑴ 新規律を採る論拠とされた考え方から招来される課題

部会において変動制となる法定利率を中間利息控除にも用いるものとする 方向性が決定的となった第93回部会の資料81B では,その方向を採る論拠と して, 中間利息控除に用いる利率についても市中の金利との乖離が過度に 広がることには合理性に乏しい こと,および 中間利息控除に用いる利率 を固定制とするのでは,同一の被害について損害賠償の遅延損害金と中間利 息控除の利率とに大きな乖離が生じ得ることになり,公平感を欠く ことの 二点が挙げられている7)

上記論拠の一点目で示された 中間利息控除に用いる利率と市中金利との 過度な乖離 は,長らく低金利が続く中で実務においても強く指摘されてき

6) 第93回部会資料81B の 頁・ 頁では, 法定利率の数値の違いによって損 害賠償額に差が生じ得ることについてどのように考えるかという問題 が提起 されたことには言及しつつも,この点に関する考えを示すことはせず,結局 法定利率の変動の頻度を抑制的なものとすることによって緩和する といっ た対症療法的な対応を示すにとどまっている。

7) 第93回部会資料81B の 頁・ 頁参照。

(4)

た問題であり,これを合理的であるとする意見は恐らくないであろう。一方 で,上で述べたような 損害賠償額算定の在り方に立ち入らない議論 の中 では, 市中金利に連動して変動する利率を用いた中間利息控除が,より合 理的な帰結を導き得るのか という点に関する検証は試みられていないこと から,そのような検証も含め, 合理的な帰結を導く中間利息控除の在り方 をあらためて追求することが不法行為法の検討に託された課題と言えるであ ろう(課題Ⅰ)。

上記論拠の二点目に示された 同一の被害について損害賠償の遅延損害金 と中間利息控除額との間に大きな乖離が生ずること もまた公正とは言えな い問題であり,対応が検討されるべきであるが,これが今般の規律を採る決 め手の一つとなったのであれば,前件否定の誤謬が生じていないか,検証さ れる必要があろう。言うまでもなく, 遅延損害金と中間利息控除額に乖離 があるのは不適当である という見解が正しいとしても, 遅延損害金と中 間利息控除額に乖離がないのは適当である という結論に直ちに結びつくこ とにはならないはずなのだが, 双方に乖離がないこと に関して,その合 理性や既存実務との整合性,あるいはそれによりかえって大きな問題が生ず る虞の有無など,必要と考えられる議論・検証が尽くされているとは言い難 い。その意味で,(遅延損害金と中間利息控除額の算定における)利率一元 論の合理性・必要性および実務との整合性 も不法行為法の検討に委ねられ た課題となろう(課題Ⅱ)。

⑵ 新規律制度設計の在り方から招来される課題

新規律は,損害賠償額を定める場合において中間利息控除を行うときには 損害賠償請求権が発生した時点における法定利率(法改正時には %とし,

その後,一定の条件に基づき変動)をもってすることを定めている。

損害賠償請求権の発生時を基準時とすることについて,部会資料81B では 基準時がいつであるかを巡って深刻な紛争を生ずることは望ましくないた

(5)

め,客観的で明快な基準とすることが望ましい 8)と説明し,不法行為に基 づく損害賠償請求権の発生時は判例9)が採る 不法行為時 であり,これが 基準時になると解説している。基準時を明快かつ客観的に定めるべきである という点について全く異論はないが,部会における過去の審議において,不 法行為に基づく損害賠償請求権の発生時を不法行為時とする明文規定を置く ことが検討されながら,これが見送られた経緯10)からすると,果たして新規 律で規定された基準時は明快性・客観性を満たしたものと言えるのか,疑問 も残る。そのような観点から, 不法行為に基づく損害賠償請求権の発生時 に関する整理 が不法行為法の検討に託された課題となる,ということにつ いて異論はないであろう11)(課題Ⅲ)。

また,新規律によって,法施行時以降に発生する不法行為に基づく損害賠 償額を算定する場合において中間利息控除をするときには,当面 %の割合 によることとなる。従来 %の割合を用いる中で図られてきた整理がこのよ うに大幅な変更によって大きく影響を受けることも想定されることから,

法施行当初の適用利率が %に下がることによる賠償実務への影響 も課 題となろう( 課題Ⅳ )。

8) 第93回部会資料81B の 頁参照。

9) 最判昭和37年 月 日民集16巻 号1834頁。

10) 第37回部会資料32の18頁では 不法行為による損害賠償債務が遅滞に陥る時 期に関しては,確立した判例法理に基づき実務運用がされている一方,これに 対する学説上の異論は少なくないもののまだ定説を見るには至っていない と する。

11) 第37回部会資料32の18頁でも,不法行為に基づく損害賠償請求権の発生時に ついて この論点は,主に不法行為における賠償額算定の在り方と関連して議 論されており,諮問事項との関係でもこの部会において正面から議論すること が適当でないと考えられる とするなど,不法行為法の検討に委ねる姿勢が明 確に表れている。

(6)

.各課題検討時の論点に関する考察

⑴ 課題Ⅰ:合理的な帰結を導く中間利息控除の在り方

本課題を検討するにあたり論ずべき点は,次の三点と考える。

当初の利率差が終始変わらないとの前提で行う中間利息控除は妥当か:

論点ⅠA

適用利率の違いで損害の軽重と賠償額の大小が逆転する仕組みは妥当 か:論点ⅠB

市中金利に連動する利率を用いる方が,より合理的な帰結を導くのか:

論点ⅠC

① 論点ⅠA:当初の利率差が終始変わらないとの前提で行う中間利息控除 は妥当か

現行実務において,中間利息控除に用いた当初利率を事後に変更し,そ れに伴い支払い済みの賠償金を返戻したり,あるいは賠償金を積み増した りするような対応は行われていないことから, 当初の利率が終始変わら ない との前提で中間利息控除を行うことに関する新旧制度の差異はない。

新規律固有の問題は, 不法行為の時期の違いによって中間利息控除に用 いられる利率に差異が生じ,当初におけるその利率差は終始埋められない ものとされる という点である。これにより,同じ能力喪失期間30年の後 遺障害を負った被害者であっても,法定利率が %の時に損害賠償請求権 が生じた場合と法定利率が %の時に損害賠償請求権が生じた場合とで控 除可能な利息相当額に差異が生じ,逸失利益損害額に約13%(期間30年の ライプニッツ係数の差異:(19.6004

÷

17.2920

1)

×

100

13.3)の開 きが生じ得ることとなる。損害賠償請求権発生時点における %という法 定利率の差がその後30年間にわたって一貫して解消されないかのような前 提で現在価値割引を行うことで,そのような差異を生じさせ得る制度が果 たして妥当なものと言えるのか,ということが本問題のポイントである。

(7)

本問題は,第90回部会において日本損害保険協会が指摘しているとこ 12)であるが,部会の場ではこの点に関する明確な議論は行われず,先に 述べたとおり 対症療法的な対応 が採られた形に止まっていることから,

あらためて不法行為法検討時の論点として挙げるものである。

② 論点ⅠB:適用利率の違いで損害の軽重と賠償額の大小が逆転する仕組 みは妥当か

本論点に関しても,労働能力喪失期間40年の後遺障害の場合において,

利率 %時の不法行為による後遺障害 級(片腕の肘関節と同じ腕の手 首の機能を廃した場合など)の場合の逸失利益損害額 が 利率 %時の 不法行為による後遺障害 級(両腕の機能を全廃した場合など)の場合の 逸失利益損害額 を上回ってしまう例を挙げる形で,日本損害保険協会が 第90回部会において指摘しているところ13)であるが,部会ではこの点につ いても明確な議論は行われていないことから,あらためて不法行為法検討 時の論点として挙げるものである。

このような 逆転 は後遺障害の等級に関してのみ起こり得るものでは なく,このほか, 収入額の大小と賠償額の大小との逆転 や 労働能力 喪失期間の長短と賠償額の大小との逆転 も想定されること,とりわけ前 者に関しては,長年にわたり損害賠償制度における重要な課題とされなが ら未だ解決に至っていない 逸失利益における男女間格差 を結果的に解 消してしまうほどに大きな逆転を生じさせ得る(不法行為時が逆になれば,

格差はむしろ従来以上に増幅されることになる)性質を持つものであるこ と(図表 参照)などを十分に認識したうえで,本論点について議論する 必要がある。

12) 第90回部会の委員等提供資料 日本損害保険協会 損害賠償額算定における 中間利息控除について 頁・ 頁参照。

13) 第90回部会の委員等提供資料 日本損害保険協会 損害賠償額算定における 中間利息控除について 頁参照。

(8)

③ 論点ⅠC:市中金利に連動する利率を用いる方が,より合理的な帰結を 導くのか

今般,法定利率を変動制とするにあたり,部会ではドイツ,フランス,

イタリアなどの立法例が参照された14)が,中間利息控除については比較法 的考察を行うことなく新規律が導入された。変動利率のある一時点におけ る数値をもって将来の逸失利益または積極損害について全期間にわたり中 間利息控除を行うような制度は,比較法的にも稀な存在であるためか15) 部会ではそのような制度に関する課題・評価などに関する調査等も行われ ていない。金利の上昇局面あるいは低下局面において,その後の金利推移 とは乖離した水準の利率が採られて中間利息控除が行われた場合,当事者 にとっては合理性を欠くものと感じられる対応となってしまう虞もあるこ 14) 第19回部会資料19‑2の11頁‑13頁参照。

15) 変動制の法定利率を採るものの定期金賠償が原則となっているドイツ(民法 第843条)のような法域があることに加え,本邦における従来の状況と同じく 中間利息控除について法文上明定していない法域も多いことが新規律同様の制 度が少ない要因なのではないかと想定される。

図表 利率変更により結果的に男女間格差を解消してしまう例 級の後遺障害(能力喪失期間45年)を負った以下の場合の逸失利益額 を比較

a) 22歳男子大学生が利率 %時の事故により,ほどなく症状固定と なる場合

b) 22歳女子大学生が利率 %時の事故により,ほどなく症状固定と なる場合

基礎収入※ ライプニッツ係数(45年) 逸失利益額 a) 6,487,100円 15.4558 100,263,320円 b) 4,479,800円 24.5187 109,838,872円

※平成26年賃金センサスの大学・大学院卒全年齢計で,a) は男子,b) は女子

(9)

とから,不法行為法の検討の際には,変動利率を用いる制度が合理的な帰 結を導くか否かに関する実証的な検証が試みられるべきである。検証方法 としては,過去の金利変動実績データを用いて,変動利率を用いる中間利 息控除が行われていたとしたら,固定利率による中間利息控除の場合と比 較して,金利実績を用いた現在価値換算結果に対し,より近似した金額が 算定される結果となっていたかどうかを確認する,という方法が考えられ る。また,今後の金利変動を考えると過去の金利実績を用いた検証は適当 ではないということであれば,未来の金利変動データを仮想し,これに基 づいた検証をするというのも一案であり,文末に参考としてそのような検 証の一例を掲載する。当該検証例は,変動する市中金利に合わせる形で中 間利息控除に用いる利率も変動させるものとすることが常に合理的な帰結 を導くとは限らないということを示すものと言え,このような検証の方 法・評価に対しては多くの異論や批判もあるかも知れないが,在るべき制 度を追求するにあたっては,このような点についても活発に議論されるべ きであり,今後の検討に期待したい。

なお,中間利息控除に用いる利率をめぐっては,これを実質利子率・名 目利子率のいずれで考えるべきか,という点も従来議論のあるところであ り,中間試案に対する意見照会でも前者を用いるべきとの主張が寄せられ ていた16)。しかしながら,これを正面から検討する場合には将来の損害額 算定におけるインフレ考慮の要否など,適用利率に止まらない議論を要す ることになるせいか,部会において採り上げられることはなかったことか ら,この点も中間利息控除に用いる適切な利率の在り方を議論するうえで 採り上げられるべきであろう。

⑵ 課題Ⅱ:利率一元論の合理性・必要性および実務との整合性 本課題を検討するにあたり論ずべき点は,次の四点と考える。

遅延後の期間についても同一利率を適用することが合理的かつ不可欠 16) 第80回部会資料71‑3の12頁。

(10)

か:論点ⅡA

中間利息控除をせず算定した賠償金に遅延損害金を付すことは妥当か:

論点ⅡB

中間利息控除をして算定した賠償金の遅延損害金は複利で算出すべき か:論点ⅡC

中間利息控除の適用を義務付ける必要はないか:論点ⅡD

① 論点ⅡA:遅延後の期間についても同一利率を適用することが合理的か つ不可欠か

先に述べたとおり 遅延損害金と中間利息控除額との間に大きな乖離が 生ずること への問題意識が新規律導入に結び付けられたことには,疑問 がある。遅延期間を過ぎた後の期間に対応する得べかりし利益についても 遅延損害金算定に用いたものと同一の利率を適用して中間利息控除をしな ければならないとすることに対しては,従前から批判的な意見も示されて おり17),不法行為法の検討を経てもなお新規律を維持するということがあ るのであれば,この点に関して十分な説明責任が果たされることが期待さ れる。

② 論点ⅡB:中間利息控除をせず算定した賠償金に遅延損害金を付すこと は妥当か

本論点をめぐっては,弁護士費用に係る債務が遅滞に陥る時期を不法行 17) 二木雄策 逸失利益と遅延損害金 判タ1104号48頁(2002)は, 支払いが 行われた後の期間についても将来所得の割引率が遅延損害金の率に等しくなけ ればならないという論理は成立しない とし, 遅延期間は逸失利益の算定期 間全体からすれば極めて短いのが普通である。両者の関係を基に将来取得の割 引率を全期間にわたって五%にするという方法はその関係を誤って拡張したも のであると言わなければならない。 とする。これは,固定 %による中間利 息控除の実務を批判としたものであり,新規律に対する同氏の評価はこれとは 異なる可能性もあるが,利率一元論の合理性に対する問題指摘という部分では 新規律にも該当し得るものであろう。

(11)

為時であると判示した最判昭和58年 日(民集37巻 号901頁)が 被害者が弁護士費用につき不法行為時からその支払時までの間に生ずる ことのありうべき中間利息を不当に利得することのないように算定すべき ものであることは,いうまでもない とすることで,中間利息控除をして いない期間に関して遅延損害金を付すことは 妥当でない とする見解を 明確に示している。しかしながら,実務はこの点について必ずしも厳密に は対応しておらず18),不法行為時から支払時までの期間に対応した中間利 息控除を行わないで算定した損害額に対しても同期間に対応した遅延損害 金を付すことで 中間利息の二重取り となりかねない対応が広く行われ てきたようである19)。そのような実務の実態は,利率一元論と整合するも のとは言い難いことから,あらためてその在り方が問い直される必要があ る。

③ 論点ⅡC:中間利息控除をして算定した賠償金の遅延損害金は複利で算 出すべきか

中間利息控除には複式計算のライプニッツ係数を用いる実務が定着して いるのに対し,遅延損害金については法定重利の規定を用いない限り複式 計算を行わないものとされていることから,遅延期間が長期にわたる場合 には遅延損害金と中間利息控除額との乖離が大きくなる。この問題は従来 指摘されてきたところであり,また部会でも言及されたが,明確な整理は

18) 田中俊行 判例の立場を前提とした損害論と中間利息控除の基準時(下) 判 タ1397号68頁(2014)は,現状について 一般に実務上,必ずしも厳密な中間 利息控除が行われていない とする。

19) 藤原弘道 損害賠償債務とその遅延損害金の発生時期(上) 判タ627号

(1987)は, 症状固定後の将来の逸失利益について,その現在価格算定の基準 日を症状固定の時点とし,その時点以降の中間利息を控除する計算方法をとっ ているものが殆どである。しかしそうなると,その分については事故時(また はその翌日)から症状固定時までの損害金が二重取りになるようにみえるが,

その点について特に説明をしている裁判例は見当たらなかった。 として,厳 密な対応が行われていない実務の問題点を指摘する。

(12)

図られておらず,利率一元論を採るのであれば,整理が必要であろう。そ の際,本問題の解消策として,中間利息控除を複利計算ではなく単利計算 とすることが主張されることも考えられる20)が,そもそも 元本からは毎 年利息が生ずるが,果実として得た利息からは一切利息が生じない とい う事態は現実には想定し難いことから,このような主張には賛同しかねる。

④ 論点ⅡD:中間利息控除の適用を義務付ける必要はないか

仮に,遅延損害金と中間利息控除額との間に僅かな乖離が生ずることも 許さないとして利率一元論を厳密に運用するなら,不法行為債務に関して,

前者は一律に付されるが,後者は賠償金算定の際に勘案することが必ずし も求められない,という規定の差異もまた不合理であると考えられること から,中間利息控除の適用義務付けが必要となるのではないか21)

一方,小さな乖離は許される,とするのであれば,その理由および許容 範囲が明確にされる必要がある。この点に関して,上記論点ⅡBで言及し た 実務では厳密な対応をしていないこと (被害者有利に働く)と上記

ⅡCで課題として指摘した 遅延損害金の単利計算 (被害者不利に働く)

とは相殺されているとみることも可能で,厳密な対応をしても計算事務が 煩雑になるばかりで効果のない場合も多い,として一定の乖離が生ずるこ とを許したものと解される現行実務を肯定する考え方もある。実務の負荷 を踏まえ現実的な対応とすることは不可欠であることから,このような考 え方を否定するつもりはないが, 蓋然性に疑がもたれるときは,被害者 側にとって控え目な算定方法 22)を採るものとされる損害賠償制度の理念

20) 第80回部会資料71‑3の13頁は,意見照会で寄せられたそのような主張も紹介 する。

21) 米国では,カリフォルニア州(Judicial Council of California Civil Jury In- structions “3904A. Present Cash Value”),フロリダ州(STANDARD JURY INSTRUCTIONS IN CIVIL CASES “501.7 REDUCTION OF DAMAGES TO PRESENT VALUE”)など現在価値化を必須とする州も少なくないようである。

22) 最判昭和39年 月24日民集18巻 号874頁。

(13)

に照らして,あるいは IT の発展によって複雑な計算を簡便に行うツール も容易に入手可能となった現状に照らして,なお許容されると言えるか,

十分に議論すべきであろう23)

以上のような論点を踏まえた不法行為法の検討に期待されるのは,利率一 元論に固執せず,損害賠償額算定における中間利息控除の趣旨に適った在る べき利率を追求することであろう。そもそも,期間の長短を問わず一律の利 率を適用することは合理性に欠け,また中間利息控除には遅延損害金と異な る利率を用いる必要があるとする立法提案もあった24)中で今般の規律が採ら れたのは,そのような理想形の追求を不法行為法の検討に委ねたからにほか ならず,この点は重く受け止めて対応する必要がある。

なお,利率一元論を排した制度化を図る場合に問題となる 遅延損害金と 中間利息控除額との乖離 の問題への対応については,例えば 中間利息控 除を行い算定された賠償金については,通常の利率ではなく中間利息控除に 用いられる利率をもって複式計算により遅延損害金を算定するものとする といったような特則を設けることも考えられ,様々な選択肢の中から最適な 解が採られるべきであろう。

⑶ 課題Ⅲ:不法行為に基づく損害賠償請求権の発生時に関する整理 本課題を検討するにあたり論ずべき点は,次の二点と考える。

不法行為に基づく損害賠償請求権発生時についてどのように整理する 23) 田中・前掲注18) 論稿全体は,乖離を許容する考え方を提示しつつ, 許容 される範囲 を適切に画そうと精緻な整理を試みている。利率一元論について 厳密に運用することまでは必要ないとするのであれば,その理由を曖昧にせず,

かような試みに努めるべきではないか。

24) 民法(債権法)改正検討委員会 債権法改正の基本方針 【3.1.1.49】(中間 利息の控除)は,人身損害に対する中間利息控除について長期の法定利率を用 いるものとすることを提案し,提案要旨において 仮に現在の算定方式を利用 して中間利息を控除するとすれば,その場合の利率は短期の法定利率によるの が妥当とは思われない と説明する。

(14)

か:論点ⅢA

賠償請求権発生時を不法行為時とする場合の従来の賠償実務との整合:

論点ⅢB

① 論点ⅢA:不法行為に基づく損害賠償請求権発生時についてどのように 整理するか

先に述べたとおり,不法行為に基づく損害賠償請求権発生時に関しては 確立した判例法理に基づき運用されているとのことであるが,当該法理の 運用に対して疑問を呈する実務家も存在する25)。また,弁護士費用の請求 権発生時を不法行為時であると判示した最判昭和58年 月 日民集37巻 号901頁では,当該費用について その余の費目の損害と同一の不法行為 による身体傷害など同一利益の侵害に基づいて生じたものである場合には 一個の損害賠償債務の一部を構成するものというべき とするが,一方で 当該費用に関する消滅時効の起算点が損害賠償請求権発生時と異なる時点 となることを疑問視する向きもあり26),また手続法分野において,後遺障 害に関する損害賠償請求権について同一不法行為に基づく他の損害に対す る賠償請求権と合わせて一個のものとすることに対して懐疑的な考え方も あり27),本問題について検討する際には関連する論点も含めた形で様々な

25) 藤原・前掲注19) 14頁は,金員騙取のような 類型の不法行為について形成 されてきた抽象論が独り歩きをはじめて,〔交通事故による人身傷害〕につい てまでその法理が適用されるようになると,そのことに果たしてどれだけの合 理性・説得的根拠があるのか,かなり疑問であるといわざるをえなくなってく るであろう。 とする。

26) 潮見佳男・不法行為法〔第 版〕268頁(信山社,1999)は,弁護士費用の 賠償義務が遅滞に陥る時期について, 他の損害項目と区別して扱う必要はな い としたうえで, このように捉えた場合には,弁護士費用相当額の損害賠 償請求権の消滅時効について,不法行為時ではなく報酬支払契約時を起算点と した前掲最判昭和45年 月19日には,疑問がある とする。

27) 伊藤眞・民事訴訟法〔第 版再訂版〕189頁(有斐閣,2006)は, 前訴の口 頭弁論以後に明らかになった後遺症にもとづく損害賠償請求権は,同一不法行

(15)

観点から議論する必要があろう。

なお,部会審議において不法行為に基づく損害賠償請求権の発生時の明 文化見送りが決定された第37回会議の開催時点では中間利息控除に変動利 率を用いるものとする方向付けは図られておらず,したがって中間利息控 除に用いる利率の基準時として明快性・客観性が求められることを前提と した 不法行為に基づく損害賠償請求権の発生時 の在り方は未議論のま ま現在に至っている。検討にあたっては,その点を踏まえた議論が望まれ,

仮にそのような前提に合わない整理が図られるのであれば,中間利息控除 の規律についてはあらためて一から議論をし直すことが必要であると考え る。

不法行為に基づく損害賠償請求権の発生時に関する整理が図られるまで の間は,損害賠償請求権発生時が法文上明定されていないことで適用すべ き利率に対する当事者同士の見解が相違する事態が生じないか,という点 が懸念され,立案担当者によるQ&A等において損害賠償請求権発生時の 意義が明確に示されることが期待される。裁判においては,これを不法行 為時とする実務運用が確立されているようなので問題が生ずる虞は余りな いのであろうが,裁判外での対応も同様である保証はなく,法施行後の動 向について注意深く見守っていく必要がある。

② 論点ⅢB:賠償請求権発生時を不法行為時とする場合の従来の賠償実務 との整合

不法行為による逸失利益に関しては,その損害の本質をめぐる 差額 説 と 労働(稼働)能力喪失説 との理論的対立が長年にわたり続いた 結果,現在の実務は双方の要素を掛け合わせたようなものとなっている28)

為にもとづくものではあるが,別個の被侵害利益によるものとして,実体法上 別の権利であるから,前訴の訴訟物とは別の訴訟物となり,何ら前訴判決によ る訴訟法上の制限または効果を受けるものではないと考えるべきである。 と する。

28) 損害賠償算定基準研究会編・注解 交通損害賠償算定基準(上)〔三訂版〕144

(16)

また,後遺障害に伴う逸失利益を算定する際の中間利息控除の計算始期に 関しては 症状固定時説 ・ 事故時説 の二つの考え方が併存し,逸失利 益額算定時に参照すべき賃金センサスに関しても 事故時のもの , 症状 固定時のもの , 口頭弁論終結時のもの など様々な考え方が乱立してい て,逸失利益損害に関する理論および実務は未だ統一的な形には収束され ない状況にある,と言える。そのような状況もある中,仮に部会資料81B で示された,後遺障害による逸失利益を算定する場合にも 障害の原因と なった不法行為時が利率の基準時となる 29)との整理を図ろうとする際に は,当該整理と従来の賠償実務との整合が問題になる。

賃金センサスに関して,賠償請求権が発生するとされる事故時のものよ り症状固定時や口頭弁論終結時のものを採るのが実務ではむしろ有力とさ れてきたのは,将来の収入を推計するのにあたり,できるだけ蓋然性の高 いデータを用いようとする配慮に因るものである。ただ,蓋然性という点 では,中間利息控除に用いる利率も同様に直近のものであればある程これ が高まるとも考えられる中で,新規律は敢えて損害賠償請求権発生時点の ものを用いることとしているのであり,このような新規律の考え方と賃金 センサスに関する実務とは相容れないように思われる。そもそも,収入額 に関する蓋然性を高めようとするのであれば,直近の賃金センサスを用い るという対応より論点ICで言及したインフレを考慮した対応の方が適当 であるとも思われ,将来の検討においてこの点も議論されるべきであろう。

中間利息控除の計算始期に関して実務で主流とされる症状固定時説30) また,事故時点の利率を採る新規律とは相容れないと考えられる。症状固 定時説が採られてきたのは,計算結果が被害者にとって一見有利なものに 見えることに加え, 後遺障害による逸失利益に係る損害賠償債務も不法 頁(ぎょうせい,2002)は,現行実務について 従前の理解による差額説と労 働能力喪失説の中間的性質 と評する。

29) 第93回部会資料81B の 頁参照。

30) 田中・前掲注18) 論稿全体のように,裁判例は症状固定時説が大多数である との見方自体に疑問を呈するものもある。

(17)

行為時から遅滞に陥る とすることについて疑問を持つ向きも少なくなか ったからである,と考えられる31)。したがって,上記整理により当該疑問 が解消されることとなってもなお同説を維持する理窟があるのかが問題と なる。症状固定時説が主流とされる現行実務は,損害賠償請求権発生時と 異なる時点を計算始期とすることにより論点ⅡBで述べた 中間利息の二 重取り を生じ易くさせるものであると同時に, 不法行為から症状固定 までの期間の長さ次第では裁量的に事故時説を採る32) という一貫性を欠 いた対応を許容するものでもあり,上記整理が図られるのであれば,これ と整合する事故時説へと実務を変えていくべきであろう。なお,事故時を 始期として計算した場合に症状固定時を始期とする場合に比べて計算結果 が低額になる,ということは現在価値計算においては至極当然のことであ り, 算定した事故時現価に,症状固定時までの遅延損害金を複利で計 33)して付加すれば,症状固定時説に基づき算定した症状固定時現価と等 価になる という考え方を採るなど,不利益を被害者に強いない対応を検 討することによって克服可能である。また,実務の負荷増大に伴う混乱を 避けるため,そのような考え方の下に事故時説を採りつつ症状固定時を始 期とする現行計算方式を変えない,という対応も考えられよう。

31) 症状固定時説を採る論拠については,堺充廣 逸失利益の現価算定の基準時 について 判時1566号 頁以降(1996)を参照されたい。

32) 田中俊行 判例の立場を前提とした損害論と中間利息控除の基準時(上) 判 タ1396号85頁(2014)は,事故から症状固定まで 年半を経過した事案で事故 時説的計算を行う判決について紹介する。このほか,平成26年の 月と11月に 東京地裁民事第27部において事故時説を採った形の判決各一件(事故から 年 か月後および16年 か月後の症状固定案件)が下されたことが保険毎日新聞 で紹介されており(平成27年 月23日および同年 月14日),長期経過後の症 状固定に対しては事故時説を採る傾向が強まってきていることが窺われる。

33) 複利計算による遅延損害金算出という課題については,論点ⅡCで述べたと おり。

(18)

⑷ 課題Ⅳ:法施行当初の適用利率が %に下がることによる賠償実務への 影響

本課題を検討するにあたり論ずべき点は,次の点と考える。

利率切り下げが重度後遺障害者の将来介護費に係る実務に及ぼす影響:

論点ⅣA

① 論点ⅣA:利率切り下げが重度後遺障害者の将来介護費に係る実務に及 ぼす影響

前述のとおり,将来介護費のような積極損害についても中間利息控除を 行うときには新規律が適用されるが,当該費用については,逸失利益と異 なり 継続説 ではなく 切断説 が採られていることや植物状態の被害 者については生存余命が短いとの統計データがあることなどから,実務家 の間では,これを一時金賠償とした場合には加害者に過大な負担を強いる ことになりかねないとして 定期金賠償とすることが望ましいことは,ほ ぼ異論がないところ34) とされる。もっとも,原告の申立てなく定期金賠 償とすることは処分権主義に反するとする有力な考えなどもあって定期金 賠償を採る判決は未だ限定的であるが,最近では原告が一時金での賠償を 求めたのに対し,裁判所が定期金での賠償金支払いを採るケース35)も現れ るなど,本件をめぐる状況には変化も起きつつある。これに対し,通常ど おりの余命期間を認定し一時金で支払うことを主張する側からは,その論 拠として,中間利息控除の割合が %という市中金利に比べて高い割合で あるため,余命期間を通常どおり認定しても双方のプラス・マイナスが相 殺され過大とはならない,とする考え方が示されることもある36)。このよ

34) 大島眞一 重度後遺障害事案における将来の介護費用 判タ1169号78頁

(2005)

35) 東京高判平成25年 月14日判タ1392号203頁。

36) 東京三弁護士会交通事故処理委員会編・新しい交通賠償論の胎動199頁(ぎ ょうせい,2002)は,中間利息控除における高い割合と通常どおりに余命期間 を認定することとが 相殺されて結果的には妥当な賠償水準の範囲内にとどま

(19)

うな状況の中で利率切り下げが行われ,そのような 相殺の関係 が崩れ ることとなれば,上で述べた 変化しつつある状況 にも少なからぬ影響 が及ぶとも想定されるが,この点に関しては今後の判例動向を注意深く見 守っていくほかないであろう。

当該動向次第では,不法行為法の検討において,切断説・継続説の対象 の明確化や一時金賠償・定期金賠償に係る規律の見直し・明確化などが課 題となることも想定されるのではないか。

.様々な課題を踏まえた中間利息控除の在り方の考察

ここまで,将来において不法行為法の検討が行われる場合に中間利息控除 に係る規律に関し検討されるべき課題について,考察してきた。様々な課題 がある中で,在るべき中間利息控除の仕組みを追求するうえでの制度設計上 の要点は,次の三点に絞ることができるものと考える。

a) 市中金利と適用利率との大きな乖離の発生が抑制されるものであること b) 遅延損害金と中間利息控除額との大きな乖離の発生が抑制されるもので

あること

c) 利率基準時の利率差を要因とした不合理な帰結の発生が抑制されるもの であること

新規律は,a) およびb) に配慮して採られたものと評価できるが,これ まで述べてきたとおりc) の観点では課題もある。将来の検討においては,

上記観点についてバランス良く配慮された仕組みが模索されるべきであり,

そのようなものとなり得るのではないかと考える以下の試案を提示しておき たい(図表 参照)。

っているのではないかと,筆者には経験則上感じられる という実務家の指 摘があるが,これは我々の実感でもあろうと思われる とする。

(20)

〔ポイント〕

中間利息控除に用いる利率が一つに限定されなければならない理由はな 37)ため,複数の利率を用いるものとするスキーム。 X は,損害賠償 請求権発生時の利率を維持することが一般的に妥当と考えられる期間の 長さを考慮して設定し, Y は,将来的な金利の変動範囲の予測を考慮 した固定利率を設定する。複数利率の組合せ方としては,利益(費用)

について発生すべき時期の別に細分して適用利率を変える方式(イ方式)

と,利益(費用)の発生すべき時期を問わず割引計算において一定期間 までは一方の利率を用いるものとする方式(ロ方式)とが想定される38) が,本案は前者を採っている。

賠償請求権発生後一定期間経過までは市中金利に近い利率の適用に蓋然 性があるが,遠い将来まで適用し続けることには蓋然性がない点を勘案 したスキームであり,上記要点a) およびc) を満たすものともいえる。

なお,同様に複数利率の組合せを採った判例39)や立法事例40)がある。

37) 二木・前掲注17) は, 将来所得の割引率は事故発生時点から就業期間の終 了時点まで毎期同じ値でなければならない,というものではない。 とする。

38) X年目より後に取得(負担)すべき利益(費用)について,イ方式ではY%

の割合のみで現在価値に換算するのに対し,ロ方式ではY%の割合でX年目時 点の価値に換算した後,法定利率で更に現在価値へと換算する,という点が両 方式の異なるところである。

39) 津地熊野支判平成12年12月26日判タ1080号185頁は,当初12年分には年 %,

その後の12年分には年 %を適用し,札幌地判平成13年 月30日判時1769号93 頁は,当初 年分には年 %,その後の42年分には年 %を適用する。ただし,

図表 新たな中間利息控除スキーム(試案)

変動利率と固定利率を組み合わせたハイブリッド型の中間利息控除 中間利息控除をするときは,損害賠償請求権発生後X年以内に取得

(負担)すべき利益(費用)については請求権発生時点における法定利 率(変動利率),それより後に取得(負担)すべき利益(費用)につい ては年Y%(固定利率)の割合をもってする。

(21)

一般的に想定される遅延期間をカバーする程度の長さで X を設定す れば,上記要点b) も概ね満たしている,と言える。

X や Y の設定次第では,論点ⅠBで述べた 逆転 の問題が発生 しない,あるいは発生し難いものとすることが可能。

例) X

=

8,Y

=

5 とした場合,法定利率が %から %の間に収ま るのであれば,イ方式においては後遺障害等級に係る 逆転 は生 じない41)

専用の換算係数表(文末の参考 参照)を用いれば,事務負荷は増大し ない。

.むすび

今後,債権法の次には現在法制審議会の民法(相続関係)部会で審議中の 相続法の見直しが想定され,また夫婦別姓,再婚禁止期間など親族法関連の 規律見直しの必要性も取り沙汰されるが,不法行為法については未だ見直し に向けた具体的な動きはないようである。ただ,不磨の大典のごとく思われ た債権法が見直されることで他分野の民法規律に関しても改正に向けた動き が強まるものと見る向きがあり,また平成27年10月の日本私法学会大会では 不法行為法の立法的課題 をテーマとしたシンポジウムも開催されており,

後者はイ方式を採るが,前者はどちらの方式でもなく, %部分の換算に期間 12年のライプニッツ係数を使用する,という数理的に誤った対応をしている。

40) カナダのオンタリオ州では,審理開始後15年以内は市中金利を参照した利率,

それより後は年2.5%を適用する,ロ方式と想定される制度を採っている

(R. R. O. 1990, REGULATION 194 RULES OF CIVIL PROCEDURE “ 53. 09 CALCULATION OF AWARDS FOR FUTURE PECUNIARY DAMAGES (1) Discount Rate”)。

41) いわゆる 三地裁共同提言 判タ1014号59頁‑62頁(2000)が指摘した,利 息額が年間逸失利益額を超えるのは不合理だとする問題(なお,筆者はこれを 不合理だと考えない。)は,法定利率が %となる場合にはホフマン係数だけ ではなくライプニッツ係数に関しても生じてしまうこととなるが,本例におい て法定利率が %の場合には生じない(期間67年のライプニッツ係数は 19.

7956 )。

(22)

案外早い時期に改正の検討に向けた動きが出てくることも想定されることか ら,今後は不法行為法における他の分野にも視野を拡げて立法的課題に関す る研究に励みたい。

(筆者は損害保険ジャパン日本興亜株式会社勤務)

(23)

参考

【変動利率を用いた中間利息控除の是非に関する検証の例(仮想金利データ使用)】

将来(10年・20年・30年の 通り)にわたり毎年定期的に受け取るべ き金額を,以下の利率で現在価値に換算した結果を試算

①基準利率:市中金利を仮想したもの

②変動利率:基準利率を基準割合とし,変動制法定利率の見直し基準に 基づき設定する利率

③固定利率:期間中の金利変動の予測等を踏まえ設定する利率

①基準利率(年間平均値)による換算結果と②変動利率による換算結 果との差 を,①基準利率(年間平均値)による換算結果と③固定利率に よる換算結果との差 と比較し,変動利率・固定利率のいずれを用いた換 算が基準金利を用いた換算に近似した結果となるかを年別に検証し,集計。

*今後の金利変動は過去の金利変動より変動サイクルも変動幅も緩和される との仮定に基づき,1960年〜2014年の 基準割引率および基準貸付利率

(月次)を加工して作成したもの(月次データを四半期データとみなして 変動サイクルを 倍にすると同時に金利データは0.5掛けして変動幅も半 減)で,数値は以下のとおり

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

基準利率 3.65 3.605 3.47 3.285 3.3775 3.65 3.65 3.65 3.4225 3.14875 2.92 2.92 3.1025 3.285 3.285

16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

基準利率 3.05875 2.785 2.74 2.74 2.74 2.74 2.74 2.74 2.92 3.105 3.05875 2.92 2.92 2.92 3.125

31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45

基準利率 3.125 3.125 3.03125 2.875 2.6875 2.5625 2.375 2.1875 2.125 2.21875 3 3.75 4.5 4.5 4.5

46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60

基準利率 4.4375 4 3.375 3.25 3.25 3.25 3 2.5 2.125 1.9375 1.75 1.75 1.84375 2.375 2.875

61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75

基準利率 3.9375 4.40625 3.875 3.375 3.125 3.03125 2.75 2.75 2.75 2.75 2.75 2.5625 2.5 2.5 2.5

76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90

基準利率 2.5 2.5 2.5 2.0625 1.75 1.625 1.3125 1.25 1.25 1.25 1.25 1.25 1.25 1.625 1.875

91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105

基準利率 2.375 2.71875 3 3 2.875 2.5625 2.15625 1.75 1.625 1.34375 1.25 0.875 0.875 0.875 0.875

106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120

基準利率 0.78125 0.5 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25

121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135

基準利率 0.25 0.25 0.25 0.16875 0.125 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05

136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150

基準利率 0.05 0.05 0.05 0.05 0.125 0.2 0.33125 0.375 0.375 0.375 0.375 0.25625 0.15 0.15 0.15

151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165

基準利率 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15 0.15

(24)

〔検証ケース〕

年目から 年目までの基準利率の平均値(小数点 位以下切捨て)

3.4% を踏まえた変動利率の当初( 年目)設定値に応じ,以下のとおり ケースを二分して検証

ケース①

当初変動利率を % とし,全期間(161年間)にわたる変動利率の 平均値 3.51875% を踏まえ,固定利率を とする(利率推移は 図表 のとおり)

ケース②

当初変動利率を % とし,全期間(161年間)にわたる変動利率の 平均値 2.51875% を踏まえ,固定利率を とする(利率推移は 図表 のとおり)

〔検証結果〕

ケース①

ケース②

期間10年 期間20年 期間30年 固定利率がより近似した結果となる年の数 54(54) 54(54) 54(54) 変動利率がより近似した結果となる年の数 67(21) 57(21) 47(21) 固定利率・変動利率で差異がない年の数 42(42) 42(42) 42(42)

期間10年 期間20年 期間30年 固定利率がより近似した結果となる年の数 52(52) 53(53) 54(54) 変動利率がより近似した結果となる年の数 69(23) 58(22) 47(21) 固定利率・変動利率で差異がない年の数 42(42) 42(42) 42(42) 括弧内は,いずれも基準利率が低位固定となる111年目以降を除いた場合の数値

(25)

図表 ケース①の利率推移

図表 ケース②の利率推移

図表 ケース①の利率推移

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