K随想】
P氏は釣りが澱いである。その理由という のはほかでもない。釣りに必要かくべからざ
る〃みみず〃に手をふ.れるのがいやなのであ
る。だから、どうしたって釣りには親しめる
はずがない。もちろん〃みみず〃だけではな
い。虫偏のつくものは、蛇でも蛙でも何でも 嬢いという霞の者(?)である。小学佼時代、昆
虫採集の宿題には弟妹遠の手をわずらわせた
とも聞いている。
そんなP氏が、どんなわけで山野を駈けず
りまわる地質家になったのかは判らない。当 の御本人でさえ首をかしげている仕末だから、
ましてや、あかの他人がそのいきさつを知る
ことは不可能な賭である。彼にとっては、地球の歴史をひもとく喜びが、虫に対する恐怖 を上廻つたということだけは確かであろう。
さて、ある夏のことである。我が親愛なる P氏は、同僚のH氏。M氏とともに北海道の
奥地の鯛査に出発した。北海道の奥地は人口 が少いため、旅館や民家に宿泊して鯛査を続
けることは、蚕ず不可能といってよい。多くの楊合、営林署の飯場などにペース・キャン
プをおき、そこからテントをかついだ数日間
の調査をくり返すわけである。この時もその例外ではなかった。その座うな調査行では、
肩の荷を少しでも減らしたいと思うのが人情 であろう。三人の意見が副食は山の幸・川の 幸で自給自足するという.ことに一致したのも 当然のなりゆきである。
かくして、P氏の大嫌いな〃みみず〃探し
とをるわけである。いかたP氏であろうと、
自分のロにつながる問題で.あってみれば、そ れを拒否するわけにはいかない。背より高い
〃ふき〃の根元を堀って魚の餌を見つけだす
理.
地質家うらぱなし第'話釣られた山男
熊 大 。 理 高 橋 俊 正
破目に追い込富れたのである。コロポツクル
(アイヌ人が崇拝する神様の名。背が低く、
雨 が 降 れ ば ふ き の 葉 の 下 で 雨 宿 り を す る
という)のような姿で、P氏が「いた〃」と 叫ぶ。そうするとH氏かM氏のどちらかが趨 詰の空霞を持ってかけつけるという寸法であ
る。
餌が集まれば、いよいよ本番の釣りである。
もちろん、こちらの方はH氏とM氏とが交侭
でするように衆醸一決した。餌集めの労苦鐸,
水の泡かと思った瞬間、M氏の針に手応えが あった。「狸物は大きい。逃すな〃」という わけでM氏の手もとに手操り寄せられた魚は、
なんと5尺4寸はあろうというP氏であった。
P氏は唇の上をひっかけられ、アツプアツプ
をやっており声を出しても話にならず奇妙左
うなり声を発しているさまは、いささか気の 毒凝話ではあるが、ゴリラそっくりであった
という。
ところで、困ったのは釣り針の仕末である。
肉深く食いこんでいるため、いくら引っぱっ ても抜けないので、ついに外科手術をするこ
とになった。爽赤にさびたジャック・ナイフがメス代りで、消毒液すらないという荒療治 である。傷口にはサンプル包装用④古新聞紙 をはって、無事に手術は完了。患者も、経過 の良し悪しにかかわらず鯛査線行ということ
になった。その夜、騒ぎのため乏しかった夕食後のひ ととき、テントの前の焚火を囲みながら「あ の時の感じ、どうだった?」とのH氏の間に 答えて、P氏はただ一百だけ「ウウン。"みみ ず〃くさかった。」と宮つたものである。
寝袋に入った後のP氏の茜は、鯛査と手術
に疲れたH氏。M氏の眠気を覚注すに十分で
あづた。彼は小学校1年の時に近所の子供達
と釣りに行き(もちろん、彼は見ていただけであるが)右の頬に釣り針をひっかけられた ことがあるというのである。その時は、糸が 切れないため釣り竿を持った悪意を後に従え
て、おそらくは泣きたがら−彼の言にとれば、御附武官を従え、 意気揚々として−家禽で帰
つたのであろう。
最後にもらした彼のつぶやきは、「3度目」
は女性に釣られたい。」.であったという。
それから8年、未だに彼が女性を釣り上げ
たという話も、また、女性に釣られたという 話も聞いていない。おそらく彼はそんな出来 事は忘れて、地球の歴史を解きあかすために山野をめぐり歩いていることであろう。
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