金沢大 学十 全 医学 会 椎誌 第10 2巻 第3 号 3 9 1 【403 (19 9 3)
受精鶏卵を用 い た ヒ ト骨軟部悪 性腫 瘍の 転 移 巣に対 する抗がん剤 感受 性試 験
金 沢 大学 医学 部 整 形外 科 学 講 座 (主任:富田勝 郎 教授)
高 木 春 草
3 91
骨 軟 部悪 性 腫 瘍の治療 成 績の向上のた めには, 原 発 腫瘍のみ な らず転 移 腫瘍に対 する有 効な治 療 方 法を開発 する必 要が ある. 本 研 究では骨 軟 部 悪 性腫 瘍の転移 実 験 法な ら びに転 移巣 治 療 実 験 法の確 立を 目指し. 受 精鶏 卵を 用いる腫 瘍 移 植 系(受 精 鶏卵 法) によ るヒ ト腫瘍 細 胸の人工転 移実 験 系の有 用性を検 討L た・ 僻 卵1 0 日 目の受 精鶏 卵の凍 尿 膜上の血管に1 ×1 0憫 の 腫 瘍細 胞を移 植し, 7 日後に胎 児 肝お よ び肺を摘 出し D N A を抽 出し た・ 転移ヒ ト腫瘍 細胞の特 異的且つ定 量 的な倹 出 方法と して, 転 移 腫 瘍に含ま れ るヒ ト D N A の特 定 領 域せ特 異 的 D N A 増 幅 反 応(polym e r a s e chain r e a ctio n,P C R ) 法によ り増 幅し た後, 増 幅 D N A 断 片をサ ザン プロ ッ ト法に て検 出お よ び解析し た, 本 法を 剛 、て骨軟 部 悪性 腫 瘍培 養 株の転 移能を検 討し た 結 果, 線 維 肉 腫 細 胞 株で は H T‑1 0 8 0 が, 骨 肉 腫 細 胞 株では M N N G/H O S と S K‑E S‑1 が高い転 移 能を 示 し た・ さ らに
H T‑1 0 8 0 お よ び M N N G/H O S を移植し た鶏 卵 胎 児におい ては単位 重 量 当りの転 移細朋が肺よ り肝の方が そ れぞれ H T‑1 0 8 0 で
約3 胤 M N N G/H O S で約1 0倍上 回 って いた. そ れに対して, S K‑E S,1 で は肺お よ び肝にお け る転 移 細胞 数はほぼ 同程 度で, 肺への転移 指 向性が H T‑1 08 0 や M N N G/H O S に比べ て高い こと が 示唆さ れ た. 腫 瘍 移植7 日後の肝お よ び肺の阻織 学 的 所 見 で はこれ らの腫 瘍 細 胞の転移が多 数 観 察さ れ, P C R 法によ る検 出結 果と 一 致し た. 転 移 巣に対する抗が ん剤の感 受 性を検 討 す る 目的で移植 後3 日 目に抗が ん剤を凍 尿 膜上の血管 内に投 与し た. H T‑1 08 0, M N N G/H O S お よ び S K‑E S‑1 の転 移 巣はいずれ もアド リアマ イシン (adria m ycin, A D M ) とマイト マイシ ンC (mit o m ycinC,M M C )に高い感 受性を 示 L た・ ま たシ スプラ チン
(cis‑bla tin u m, C D D P), サイクロ ブ ォ ス フ ァ マイ ド (CyClopho spha mide,C P M ) お よ びビンブラス チン (vinb la s tin e, V L B ) に対 する転 移 巣の感受 性は各 細胞 株によ り異な り, S K ‑E S‑1 は C D D P お よ び C P M に , H T‑1 0 8 0 は V L B に高い感 受 性を 示 し
た. し か し, M N N G/H O S の転 移 巣は 同投 与 量のC D D P , C P M お よ び V L B に対し感 受性を 示 さ な かった・ M N N G/H O S 細 胞を移 植し た鶏卵 胎 児 肝の経 時 的な組織 学 的 所 見で は, 腫 瘍細 胞は 2 時 間お よ び 8 時 間 後でも 微 小血管 内に存在L て いた が,
1 2時 間後には腫 瘍 細胞は 血管 内 皮 細 胞 内に侵入 して いた. さ らに, 2 2時 間お よ び5 1時 間 後では 分裂 増 殖が認め ら れ, 7 日後で は転移 巣を多 数 形 成して いた. 転 移 巣 形 成の抑 制を 目的に, 受 精 鶏 卵に M N N G/H O S 細 胞を移 植し た後 早 期に M M C と V L B を投 与し た. M M C を移 植2時 間 後に投 与し た場 合では9 1.9% の肝 転移 巣抑 制 効 果を 示 し,2 4時 間と7 2時 間 後で ほ各々8 3.2% お よ び5 1.8% の抑 制 率を 示 し た. 一 九 V L B 投 与 群の転移 巣 抑 制 率は移 植2 時 間 後の投 与では‑2・2% ,7 2時 間後の投 与
で は1 0.4% であった. こ のよ うに腫 瘍 細 胞移 植 後 早 期に有 効な抗が ん剤を投 与することによ り転 移を抑 制すること が 可能であ ること が 示 さ れ た. 受精 鶏 卵 法はヒ ト骨 軟 部悪 性 腫 瘍の転 軌 浸 潤の機 構 解明のた めの転 移 実験 系と して, ま た転 移 巣に対 す る治 療法の開発にも 有用 な実 験 系にな るものと考え ら れ た.
Key w ords hu m an bo ne a nd soft tis s u e tu m o r c ell, m eta Sta Sis, POly m er a se chain r e actiont
che m o se n sitiv lt y teSt, Chick e m bryo
骨 軟 部悪 性 腫 瘍にお け る最 も 憂 慮さ れ るべき 予 後因子の 一 つ ほ診 断 時における転 移の有 無である. し か し な が ら, 現 在のが ん 医療iこお け る転 移が んの 一 般 的な検 出 限界は直 径1c m の應 痛までと さ れてお りl\ ニ の検出 限 界よ りもさ らに小さい微 小 転 移が んの検 出 法は未だ確立 さ れ ていない. 従っ て, が んであ る と診 断が 下 さ れ た 段階で緻 小 転 移が ん が存 在する と仮 定し た 全身的 治療 法が施 行さ れて いるのが現 状である. 掛こ骨 軟 部悪 性 腫瘍 領 域におい ては強力 かつ有 効な化 学 療 法の支援が その治 療 成績の向上に大 きく貢 献し てい ること か ら、2■、5\ 全 身 的 治 療
法である が ん化学 療 法は微 小 転 移が んの治 療に有用 な手段にな り得る と考え る. 一 九 が ん化 学 療 法は未だ完 成さ れ たもの で は な く. 既 存の抗が ん剤の投 与のみでは完 全に転 移を抑制 する
こと ほ難しい. 転 移を阻止 し転移が ん を効 果 的に治療 する た め に は, が ん細 胞の転移の機 構に基づいた薬 剤ま た は治 療 法を新 たに開 発 する必 要がある. これ まで の転 移 研 究の大部 分は転 移 現象の解 析であり, 転移が んの治療に関 する報 告は極めて少な い. これ は有用 な転 移実 験モデル系が確 立さ れ ていない ことに 原 因の 一 つがある. 本 研 究で は骨 軟 部悪 性 腫 瘍の転移 実 験 系な
平 成5 年4月2 0 日受 付, 平 成5 年5 月17 日受 理
A b br eviatio n s : A D M , adria mycin;C D D P, Cis‑platinu m ; C P M , CyClophospha mide ; E D T A . ethyle n edia min e‑ tetra a c etic a cid ;
.H. E .,he m ato xylin a nd e o.sin e ; M M C, mito myciII C ; M M P,rn姉Iix m eta11叩r Ot.e由a s e;】M T T ,
3‑(4,5‑dim ethylthia zolq2‑yl)‑2,5‑diphenyltetr a z oliu m bro mide ; O D, Op tical de n sit y ; P B$, pho卑Phate‑buffered
3 9 2 偽
ら びに転 移 巣 治療 実 験 系の確立 を 目指し, 受 精 鶏 卵 法によ るヒ
ト骨 軟 部 悪 性度 瘍 細 胞の転移 実 験お よ び微 小転 移 巣に対 する抗 が ん剤感受 性 試験を検 討し た.
材料 および 方 法
Ⅰ. 腫 瘍 細 胞七培 養
本 研 究の転 移実 験に用いたヒト腫 疹 細 胞株は, 線 維 肉腫 細 胞 H T‑1 0 8 081[Am e ric a n Ty pe Cultu r e Co11e ctio n (A T C C),
Ro ckvill,M D, U S A か ら購入] と 以下の6種の骨 肉腫 細胞, 当 教 室で樹 立 し継 代して きた ヒ ト骨 肉 腫 由 来 細 胞 (hu ma n
O Ste Oge nic s a r c o m a Taka s e str ain, O S T)T l, M N N G/H O S8) (A T C C か ら購入), M G‑63g)(A T C C か ら購入), K H O S‑31 2 H川 (A T C C か ら購入),S K‑E S‑11 1 )(A T C C か ら購入), U‑2 0 S1 2 }( 住 友 製 薬 研 究 所, 大 阪よ り供 与) の計7種 類である. 組 織 培 養 液は 1 0% (v/v) 非 働 化ウシ胎 児血清 (fetal c alf s e r u m , F C S)(G I B‑ C O,Gr a nd Isla nd,N Y, U S A) と 0.3mg/ml グル タ ミソ(日水 製 薬, 東 京) を含 むR P M I‑1 64 0 培 地 (ニ プロ , 大 阪) である. 各 細 胞は阻 織 培 養 液 中において, 5% C O2 濃 度, 3 7 ℃ で培 養し た. 移 植 用の細胞 浮 遊 液は以下のように調整し た. 0、0 2% ト リ プシ ソ(GI F C O, Detr oit, M ichり U S A)‑0.2% エ チ レンジア ミン
四酢 酸ニ ナ トリ ウム(ethyle n ed ia min etetr a a c etic a cid, E D T A) を含む 0・1 5 M リ ン酸 緩 衝 生理食 塩 液 (pho sphate‑buffe r ed
S alin e,P B S) を用い て細 胞を剥離し た後∴組織 培 養 液を用いて 細 胞 浮 遊液1 ×1 0T個/ml を作 製し た. 移植に用いた腫 瘍 細 胞の 浮 遊 液は, ト リバン プル ー色 素 排 除 試 験法に よ り, 9 0% 以上の 生細 胞があること を確 認し た.
Ⅱ. 実 験 動 物
本研 究で腫 瘍 移 植の宿 主動 物と し て用いた受 精 鶏 卵 (プ リマ
ス ロ ック薩× ホ ワイ トレグホン種) は後 藤 僻 卵 場 ( 岐 阜) よ り購 入 し, 加 湿し た紆 卵 器 中3 7 ℃で貯 卵さ せ た.
Ⅲ. 腫 瘍 細 胞の移 植 方 法
受 精 鶏 卵の模 式 図を 図 1 に示し, 腫 瘍 細 胞の移 植 方 法を以下
に記述 する. 酵 卵1 0 日日の鶏卵を透 光し, 凍 尿膜上の血管の位 置を定め , そ こを中心に回転 式の ヤ ス リ を 用い て卵 殻に 1c m x O.5c m 程 度の傷を付 け, ピンセ ット を 用いて卵 殻を除 去 し た. 露 出し た卵 殻 膜に流 動パ ラフ ィ ン ( Me r ck, Da r m stadt,
Ge r m a ny) を滴 下し血管を見やすくし, 3 0 ゲ ー ジ針の付いた注
射 器を用いて 1 ×1 06個 (0.1ml) の腫 瘍 細 胞を凍 尿 膜上の血管 内
に移植した.
Ⅳ. 転 移 巣 治 療 実 験
抗が ん剤によ る治 療 実験を行なう 場 合に ほ腫 瘍 細 胞 移 植3 日
後仁即ち貯 卵1 3 日 目に, Ⅲに記述L た方 法で卵 殻の別の部位に
窓を開け,3 0 ゲ ー ジの注 射 針を 用い て 0・1
,
mlの抗が ん剤を投 与
し た・ 薬 剤 濃 度ほ臨 床 投 与 量を参考に し, 鶏 卵 胎 児の平均体 重 ( 肝 卵1 3 日 目 で 5・1g) に換 箕して決 定し た( 表1). 抗が ん割と し てアドリ アマイシ ン(adria m ycin,A D M)(協 和 醸 軌 東 京), シ ス
プラ チン(cis‑P土atin u m ,C D D P)(日本 化 薬,東 京), サイクロフ ォ ス ファ マイ ド (CyClopho spha mide, C P M)(塩 野 義 製 * , 大 阪),
ビンブラスチ ン(vinbla stin e,V L B)( 塩 野 義 製 薬),
マイ トマイシ
ン C (mito mycinC, M M C ) (三 共, 東 京), エ トポ サイ ド (etopo side, V P‑1 6)(ブリス ト ル ・ マイヤ ー ズ ・ ス クイ ブ, 束 京) を用いた・ 移 植 後7 日 目 即 ち将 卵1 7 日 冒に胎 児を解 剖し,
摘 出した肝お よ び肺か ら D N A を抽 出した.
V . D N A 抽 出と鋳 型D r( A の調 製
ヒ ト腫 瘍 培 養 細 胞ま た ほ鶏卵 胎 児よ り摘 出し た肝(約0.5g) お よ び肺 (約0・1 5g) か らの D N A 抽 出は, 以 下に示す 方法で行
な った1 3 ). 鶏 卵 肝及 び肺を 4ml の 0.1 M 塩 化ナ ト リ ウム ;
O12 M シ ョ 糖;0・01 M E D T A;0.3 M TrisqH C l 緩 衝 液 (pH 8.0 )中 で破 砕し た. 各 破 砕 液ほフ ァル コ ン2 0 5 9 チ ュ
ー ブ (Be cto n
D ickin s o n, NJ,U S A) に入 れ, 2 5 0plの1 0% ドデシ ル硫 酸ナ ト リ ウム(s odiu m dode cyls ulfate,S D S) を加え攫 拝し,6 5 ℃の温洛 中に おい て3 0分 間 加 温し た. さ ら に, 6 0 0〟1 の 8 M 酢 酸カ リウ ム pH 5・2 を加え, 控 搾 後 水 中に6 0分 間 静 置し た. 氷 冷 後, 4
℃, 1 1,0 0 0rpm において 2 0分 間遠心 し, 上清を新た なチュ
ー ブ
に回収し た . クロ ロ ホ ル ム 2ml, Tris‑E D T A (T E) 緩 衝 液
F ig・1・ Sche m a of the fe rtiliz ed eg g. Tu m o r c ells w e r e
inje cted into the cho rio alla ntoic m e m br a n e ( C A M ) vein of l O‑day‑01d ch ick e m bryo s with a 3 0 ga uge n e ed le thr ough the sheu m e m br a n e.
Tablel・ Antitu m o rdr ugs a nd do s e sfo rthe che mo s e n siti vit y te st
Dr ug C linic al do s e Expe rim e ntal do s e(J 唱/eg g)
A dria mycin (A D M) Cis‑platin u m (C D D P) Cyclopho sphomi de(C P M) Etopo si de(V P‑1 6) M ito mycin C (M M C) V inb la stin e(V L B)
60 m g/ m2
1 0 0 m g/m 2
1 2 0 0 m g/ m2
6 0 m g/m Z
l m g/kg O.2 m g/kg
1 0,2 0,4 0,8 0 5,1 0,2 0 1 0 0,2 5 0,5 0 0
2 0,4 0 2 0,4 0 0.5,1 T he e xpe rim e ntal do s e s w e r e dete rmi n ed a c c o rding to the clinic al do s e s.
S alin e; P C R, pOly m e r a s e ch ai n r e a ctio n; S D S, S Odiu m dode cyl s ulfate; S S C , S al in e s odiu m citr ate ; T E, Tris
E D T A ; V L B , Vinblas tin e ; V P‑1 6, etOpO Side