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論文の内容の要旨 氏名:平山

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

氏名:平山

博士の専攻分野の名称:博士(生物資源科学)

論文題名:乳酸菌と酵母の複合バイオフィルム形成と細胞接着に関する研究

多くの伝統発酵食品は様々な微生物の共生系によって作られ, それら微生物間の相互作用は, 発酵の安定化や 製品の品質に重要な役割を果たしていると考えられる。伝統発酵食品の発酵過程では, 乳酸菌と酵母が共存・共 生している例が多く見られ, 両者の間には何らかの相互作用が働いているものと推察される。

福山酢は鹿児島県霧島市福山町にて伝統的製法で造られている食酢である。福山酢の醸造では, 仕込み後に人 工的な管理を行うことなく菌叢の変遷が起こり, 糖化, アルコール発酵, 酢酸発酵が一部並行しながら進行する トリプル発酵と呼ばれる特異な発酵様式をとる。米を利用した最も原始的な発酵様式と考えられ, そのアルコー ル発酵までの工程は, 清酒の製法の原型に近いと推察されている。福山酢や清酒等の発酵では, 固形の穀物を原料 とし, 固液が不均一に混在したもろみの状態で発酵が進行する。そのため, 穀物原料表面や容器内面に, 微生物が フィルム状の細胞集落であるバイオフィルム(BF)を形成し, 発酵の安定化に寄与している可能性が考えられる。

既往の研究では, 福山酢から分離した乳酸菌Lactobacillus plantarum ML11-11が出芽酵母Saccharomyces cere-

visiaeと共存することにより, 両菌の細胞が混在した顕著なBFを形成することが明らかにされた。このBFを複

BFと呼び, 乳酸菌細胞表層のタンパク質と酵母細胞表層のマンナンを介した細胞接着によりその特異な構造 が形成・維持されていると推定されてきたが, その詳細は不明であった。本研究では, 複合BFの微細構造を解析 するとともに, 乳酸菌と酵母間の細胞接着(共凝集)に関与する細胞表層の物理化学的特性の解析, ならびに, 両細 胞の接着に寄与する因子ついて分子生物学的解析を行い, 複合BFの形成基盤となっている乳酸菌と酵母の細胞 接着機序を詳らかにすることを目的とした。

1. 乳酸酸菌菌とと酵酵母母のの形形成成すするる複複合合ババイイオオフフィィルルムムのの微微細細構構造造解解析

まず, FISH (fluorescence in situ hybridization)染色によって複合BFにおける乳酸菌ML11-11と酵母の細胞分布を 詳細に観察した結果, 複合BFの底面には乳酸菌細胞の層が観察され, 乳酸菌が複合BFの基底部を形成している ことが示された。また複合BF中の乳酸菌と酵母の共存状態を詳細に解析することを目的とし, 原子間力顕微鏡を 用いた観察を行った結果, 複合BF中で乳酸菌ML11-11と酵母の細胞は互いに密着している様子が観察され, れら細胞間に強い接着力が働いていることが推察された。加えて, 酵母の細胞表層が平滑であるのに対し, 乳酸菌

ML11-11の細胞表層にはクラスター状の凹凸が見られ, タンパク質などの高分子が高次構造を形成して存在して

いる可能性が考えられた。

2. 乳酸酸菌菌ととのの接接着着にに関関与与すするる酵酵母母細細胞胞表表層層因因子子のの解解析

前項により, 乳酸菌と酵母の細胞接着が複合BF形成に重要なことが示唆されたため, 両菌の細胞接着に関与す る因子を解析することとした。本項では, 乳酸菌との細胞接着に関与する酵母側の因子について分子生物学的ア プローチにより解析を進めた。

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(1) 酵母母細細胞胞表表層層ママンンナナンンのの構構造造がが乳乳酸酸菌菌ととのの細細胞胞接接着着にに及及ぼぼすす影影響

これまで乳酸菌ML11-11と酵母の細胞接着には, 乳酸菌細胞表層のタンパク質と酵母細胞表層のマンナンが関 与することが示唆されてきたが, マンナンのどのような構造を認識して乳酸菌が接着するかなど, 詳細な機序は 不明であった。そこで, 酵母S. cerevisiae BY4741由来のマンナン合成関連遺伝子欠損株と乳酸菌ML11-11の共凝 集性を細胞接着の指標として解析することで, 酵母表層マンナンの構造の変化が乳酸菌ML11-11との細胞接着に 及ぼす影響を検討した。その結果, 酵母マンナンの主鎖に分岐鎖を形成するα-1,2-マンノシルトランスフェラーゼ が欠失したmnn2Δ株の共凝集性が顕著に減少することを見出した。mnn2Δ株のマンナンは分岐鎖を持たないこ

とから, 乳酸菌ML11-11は酵母表層マンナンの分岐鎖のマンノースを認識して接着していることが強く示唆され

た。

(2) 清酒酒酵酵母母細細胞胞表表層層タタンンパパクク質Awa1pによよるる乳乳酸酸菌菌ととのの接接着着阻阻害

細胞表層マンナンの構造が異なる可能性のある種々の酵母保存株を対象として, 乳酸菌ML11-11との複合BF 形成性を検討したところ, 清酒酵母の野生株が, その泡なし変異株に比べて複合BF形成性が有意に低いことが明 らかとなった。清酒醸造過程で清酒酵母の野生株は高泡と呼ばれる泡を形成するが, その泡なし変異株は高泡を 形成しない。酵母細胞表層に存在するタンパク質Awa1pが高泡形成に関与することが, 協会7号酵母とその泡な し変異株701号を用いて詳細に解析されている。7号の細胞表層にはAwa1pが存在し高泡形成するが, 701号では Awa1pGPI (glycosylphosphatidylinositol)アンカーシグナルを含むC末端配列が欠損しているためAwa1pが細胞 表層に存在せず, 高泡形成しないことが報告されてきた。こうした酵母細胞表層の違いは乳酸菌ML11-11との接 着性に影響すると考えられるため, 共凝集性や複合BF形成性の評価により詳細な検討を進めた。その結果, AWA1 遺伝子全長を含むプラスミドを701UT-1 (701号のura3, trp1欠損株)に導入した株は7号と同程度の低い共凝集 性や複合BF形成性を示したのに対し, GPIアンカーシグナルが欠損したAWA1遺伝子を導入した株は701号と同 様に高い共凝集性や複合BF形成性を示すことが確認された。加えて, GPIアンカーシグナル欠損AWA1遺伝子導

入株ではAwa1pが細胞表層に存在せず培地中に分泌されていることを免疫学的に確認した。これらの結果から,

清酒酵母協会7号の細胞表層に存在するタンパク質Awa1p, 酵母と乳酸菌ML11-11の接着を阻害することが明 らかとなった。その阻害機序は未解明だが, Awa1pが酵母表層のマンナンを覆って乳酸菌ML11-11の接着を妨げ ている可能性や, 酵母表層の物理化学的特性がAwa1pによって乳酸菌の接着に適さないものに変化していること が考えられた。また, こうして得られた知見は, ML11-11のような酵母接着性乳酸菌との共凝集性を指標として, 清酒醸造に有用な泡なし酵母変異株を選抜可能なことを示しており, 産業的にも重要と考えられる。

3. 酵母母ととのの接接着着にに関関与与すするる乳乳酸酸菌菌細細胞胞表表層層因因子子のの特特性性解解析

前項で乳酸菌と酵母の細胞接着, 複合BF形成に関与する酵母側の因子がマンナンの分岐鎖であることを明ら かにした。本項では, 複合BF形成で重要な役割を果たしていると考えられる乳酸菌と酵母間の細胞接着に関し, 乳酸菌側の因子に焦点を当てて解析を進めた。

(1) 乳酸酸菌菌のの細細胞胞表表層層タタンンパパクク質質量量のの解解析

酵母との細胞接着能を失った乳酸菌ML11-11由来の非凝集性自然変異株からLiClSDSを用いて細胞表層タ ンパク質を抽出し, タンパク質量を比較したところ, 野生株に比較して変異株の表層タンパク質量は減少してい た。この結果から, 酵母との細胞接着に乳酸菌細胞表層のタンパク質が関与していることが強く示唆され, 乳酸菌 細胞表層タンパク質が酵母接着因子であるというこれまでの推定を支持する結果が得られた。

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3 (2) 乳酸酸菌菌のの細細胞胞表表面面電電位位のの解解析

乳酸菌が細胞表層タンパク質によって酵母へ接着する機序として, 静電的相互作用のような物理化学的な相互 作用や, レクチンと糖鎖のような生化学的な相互作用が考えられる。そこでまず, 静電的相互作用に関連すると考 えられる細胞表面電位を, 乳酸菌ML11-11の野生株と酵母への接着性を失った非凝集性変異株で比較したところ, 非凝集性変異株は野生株に比較して顕著に高い負荷電を有し, その値は広いpH域で一定であった。これらの結果 より, 変異株では細胞表層タンパク質が失われて, 細胞壁を構成するペプチドグリカンやテイコ酸のような負電 荷を有するポリマーが細胞表面に露出していることが推察された。

また, 酵母BY4741も乳酸菌ML11-11野生株同様, 僅かに負に荷電していることが分かった。このことから,

酸菌ML11-11と酵母の細胞接着には静電的相互作用は関与していないと考えられた。

(3) 乳酸酸菌菌のの酵酵母母接接着着活活性性にに及及ぼぼすすレレククチチン, 金属属イイオオンンのの影影響

次に, レクチンに見られるような生化学的相互作用が細胞接着に関与しているかどうかを解析した。レクチン にはCa2+Mn2+などの金属イオンを要求するものがあることが知られている。そこで, キレート剤の存在下で細 胞接着性を評価するために共凝集試験を行った。その結果, 乳酸菌ML11-11と酵母の共凝集はキレート剤で阻害 され, Ca2+の添加により回復した。また, マンナンを認識する豆由来レクチンの存在下でも共凝集が阻害された。

これらのことから, ML11-11の酵母への接着因子は, Ca2+をはじめとする金属イオンを要求するレクチン様タンパ ク質であることが確認された。

4. 酵母母ととのの接接着着にに関関与与すするる乳乳酸酸菌菌細細胞胞表表層層因因子子ののププロロテテオオーームム解解析

酵母との接着に関与する乳酸菌細胞表層のタンパク質因子を同定するため, ML11-11野生株とその非凝集性変 異株から細胞表層タンパク質を抽出し, それらの比較解析を行った。LiClSDSを用いて細胞表層タンパク質を

抽出し, SDS-PAGEにて分離後, 野生株と変異株の間で差異の見られたタンパク質のバンドを接着因子の候補タ

ンパク質とみなし, そのペプチド配列を質量分析により同定した。その結果, 接着因子候補タンパク質として数種 の細胞内タンパク質が見出された。これらの細胞内タンパク質は何らかの機構により細胞表層に移行して, 酵母 への接着に関与している可能性が示唆された。しかし, LiClSDS処理を行ってもML11-11細胞の酵母接着活性 は少なからず残存していたことから, これら候補タンパク質は酵母との接着に一部寄与している可能性はあるも のの, 接着因子の本体ではないことが考えられた。今後さらなる検討が必要だが, ML11-11の酵母接着因子は, 胞表層に強く結合したマンノース糖鎖認識型レクチン様タンパク質ではないかと推察された。

5. 乳酸酸菌菌ののゲゲノノムム解解析析及及びび酵酵母母ママンンナナンンととのの相相互互作作用用にに関関連連すするる遺遺伝伝子子のの解解析

前項までのタンパク質解析による乳酸菌ML11-11酵母接着因子の解析に加え, 遺伝子解析によるアプローチを 試みた。

乳酸菌ML11-11, 特異な酵母接着性を示し複合BFを形成する。こうした特異な乳酸菌の特性をゲノム解析 により明らかにすべく, ML11-11ならびに同様な酵母接着性, 複合BF形成性を有するサバ鮨分離乳酸菌L.

plantarum HM23及びHP93菌株について, 次世代シーケンサーを用いたゲノム解析を行った。得られた配列を

ゲノム公開株のL. plantarum WCFS1のゲノム配列をリファレンスに用いてマッピングした結果, 酵母接着性を示 L. plantarum3菌株はWCFS1と類似しており, WCFS1や他のL. plantarumの菌株と種を異にするほどの違い は認められなかった。

また, WCFS1には存在しないマンナンに作用する酵素をコードする遺伝子が, 酵母接着性のL. plantarum 3菌株

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に共通して存在することが明らかになった。今後, 当該遺伝子の発現解析や遺伝子産物の翻訳後修飾などを詳細 に検討し, 酵母マンナンへの接着活性を解析する必要がある。

結論

福山酢由来乳酸菌L. plantarum ML11-11と酵母S. cerevisiaeの細胞接着(共凝集)や複合BF形成に関与する酵母細 胞表層因子及び乳酸菌細胞表層因子の解析を行った。酵母側の接着因子については, マンナンの分岐鎖構造が乳

酸菌ML11-11との接着に重要であることを見出した。また, 清酒酵母の細胞表層タンパク質Awa1pが乳酸菌

ML11-11の接着を阻害することを明らかにした。乳酸菌側の酵母接着因子については, 細胞表層に強固に結合し

たレクチン様タンパク質であることを強く示唆する結果を得ることができた。本研究により得られた上記の結果 , 乳酸菌と酵母が形成する複合BFの産業利用, さらには清酒酵母の育種などに応用展開することが可能であり, 極めて重要な知見と考えられる。

参照

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