前言語期の自閉症スペクトラム障害幼児と保育者の 身体接触を伴うコミュニケーションの特徴 : 一事 例による考察
著者名(日) 篠沢 薫, 権藤 桂子, 松井 智子
雑誌名 共立女子大学家政学部紀要
巻 62
ページ 173‑180
発行年 2016‑01
URL http://id.nii.ac.jp/1087/00003076/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
共立女子大学家政学部紀要 第
62号
(2016)『前言語期の自閉症スペクトラム障害幼児と 保育者の身体接触を伴うコミュニケーションの特徴:
一事例による考察 J
A study of
出
efeature of non‑verbal communication between a young child wi血
autismspec‑甘
umdisorder泊 出
eprelinguistic period and teachers of kindergarten篠沢燕(共立女子大学),権藤桂子(共立女子大学) 松井智子(東京学芸大学)
Kaoru SHIN OZAWA ,Keiko GONDO ,Tomoko~τ'SUI
1 .問題と目的
本研究では,前言語期の自閉症スペクトラム 障害( ASD )幼児と保育者の身体接触を伴うコ ミュニケーションの特徴について,注意共有の 有無と関連させて縦断的に検討する。
ASD 幼児と養育者とのコミュニケーション では,その障害特性から養育者の側がかかわり にくさを感じることが多い。特に前言語期の段 階の幼児は,有意味語の表出がないことに加え,
視覚的注意共有が少ないなど非言語コミュニケ ーションの面でも養育者がその幼児の意図をく みにくいと感じることが多いだろう。言語を含 むコミュニケーション能力はコミュニケーショ
ン経験を積むことによって発達が促される。そ のため,前言語期のような聞き手効果段階にあ る ASD 幼児の場合には,情動をくみとってく れる大人の存在は重要である(
Bates,1975。 ) このことをふまえると かかわる相手である養 育者の側が,日常生活の中で子どもにかかわり にくさを感じた状態でいることは,子どもがコ ミュニケーション経験を積む機会を阻害するー
つの要因になる可能性もある。よって,前言語 期の ASD 幼児に対する養育者の側のかかわり 方を検討することは重要である。また, ASD の障害特性(他者とのコミュニケーション能力 の発達に難しさを抱える)という観点からも,
幼児のみを対象とするのではなく,その相手(大 人など他者)を含めて検討することが必要であ る(榊原,
2013)。コミュニケーションを検討 する上で,かかわっている当事者を検討すると いうのは,たとえば定型発達児の親子のコミュ ニケーションについての研究ではごく当然に行 われていることである。しかしながら, ASD 幼児を対象にした研究では,これまで子どもの 障害特性に焦点をあてて検討されることが多か ったといえる。柳津(
2015)によると.大人の はたらきかけが自閉症のある幼児に何らかの影 響があることを考慮して支援等を展開する必要 があるが,このような視点から相互作用につい て検討した研究は少ないという。
前言語期の ASD 幼児のコミュニケーション
について,前述したような相互作用という観点
で検討した研究では,たとえば, ASD 幼児は,
共立女子大学家政学部紀要第
62号
(2016)本人の興味や関心に沿った大人からの身体的な か か わ り に は よ く 反 応 す る (
Doussard‑ Rooseveltら ,
2003;狗巻,
2013)といった知 見が得られている。このうち「身体的なかかわ り
jという点については,
ASDではない他の 障害をもっ子どもと大人とのコミュニケーショ
ンを検討した研究でも言及されている。
たとえば,前言語期の重度重複障害児との相 互交渉における母親の支持的行動を検討した吉 川(
2013)によると,玩具等の操作において,
身体接触を伴った母親の行動は注意共有の成立 に有効であることが示された。また前言語期の
ADHDが疑われる聴覚障害幼児にとっても,
身体接触を含む非言語コミュニケーションを伴 った注意喚起は効果的であると示唆された(森・
熊井,
2011。 )
このように,先行研究では身体接触や接近を 伴う大人のはたらきかけが
ASD児や重度重複 障害児とのコミュニケーションにおいて有効で あることは明らかにされてきた。しかしながら,
身体接触の具体的な内容は検討されていなし、
具体的な内容とは.たとえば,身体接触自体に どのような意味合いがあるのかといった機能的 側面や接触時の位置関係などである。以上より,
本研究では,前言語期の
ASD幼児と保育者の 身体接触を伴うコミュニケーションに着目し,
注意共有の有無と関連させて.一事例を縦断的 に検討する。
3.
方法
3 ‑1.
調査の手続き(調査対象,調査期間 など)
幼稚園年長組の幼児 1 名と保育者数名(ボ ランテイアも含む)であった。対象児は,自閉 症の診断を受けており,新版
K式発逮検査の 結果は,姿勢運動領域発達指数
71,発達年齢
3歳
1ヵ月,認知適応領域発達指数
43,発達 年齢
1歳
10ヵ月 言語社会領域発達指数
22,発達年齢 O 歳
11ヵ月であり 全領域発達指数
41
,発達年齢
1歳
9ヵ月であった。検査時に 指さし行動はみられなかった。調査期間を過し て,有意味語の表出はなかった
o自由遊び場面 では,他児と共に遊ぶということはほとんどみ られず,園庭を走り回ったり,遊具に上って高 いところに立ったりするということをして楽し んでいた。保育者が対象児の意図をくみ取って はたらきかけることが多く,対象児のコミュニ ケーション能力の発達段階は,聞き手効果段階 にある状態と考え,本研究の対象とした。調査 期間後半になると,保育者に要求があるときは 非言語の手段ではたらきかけることもみられ た 。
調査期間は,
11ヵ月間計
10回(原則毎月
1回午前中の 2 時間程度)であり,対象児の在 籍園においてデジタルビデオカメラを用いて録 画した。そのうち,本研究では, 9 ヵ月間計 8 回
20分間,午前中の室内での活動場面を対象
とした
o場面については,机上での自由遊び場 面を原則としたが,保育の流れによっては朝の 会などが含まれることもあった。
3 ‑2.
分析方法
分析方法は,対象児もしくは保育者が相手に 身体接触を伴ってかかわったコミュニケーショ ン行動を抜粋し,整理した。 1 つの場面は,対 象児もしくは保育者が相手に身体接触や接近を 伴ってかかわった時点を始点とし,その後いず れかが物理的に離れた時点を終点とした。
コーデイングの項目は,①視線( 1 :かかわ っている他者,
2:対象児か保育者が操作して いる物,
3: 1と
2の両方,
O:そのほかに
②身体接触の機能(
1:親和的,
2:否定的.
3:偶発的, 4 :中立的, O :不明),③身体の位置 関係( 1 :接触者は,相手と水平の位置にいる,
2 :接触者は,相手の後ろにいる, 3 :接触者は,
相手の前にいる,
0:1・
3の混合),④接触部 位(
1:首〜頭,
2:体幹,
3:上肢・下肢(
肩を含む),
4 : 1・
3の混合),⑤対象児への発
話の有無(
1:あり,
2:不明,
O:なしに⑥
『前言語期の自閉症スペクトラム障害幼児と保育者の身体接触を伴うコミュニケーションの特徴:一事例による考察』
注意共有(
1:相互注視,
2:共同注視,
o:なし)である。②身体接触の機能については,
塚崎・無藤(2004 )の分類より,
1:親和的とは「親近感,甘えなど
J,2:否定的とは「不安,
悲しみ,怒り,攻撃など
J,3:偶発的とは「無 意識,よろけなど
J,4:中立的とは「誘導,呼びかけ,説得,介入,なだめなど
J,0:不明とは「意味不明など」とした。⑥注意共有に ついては,吉川(2
013)の分類を使用した。
3 ‑3.
信頼性
計8回(各回20
分間)のうち,身体接触を 用いた場面の抜粋およびコーデイングについ て,全体の
20%を第一著者と評定協力者が独 立して分析した
oそのほかの
80%は第一著者 が単独で分析をした。身体的コミュニケーショ
ン場面の抜粋については,単純一致率
100%で あった。コーデイングについての評定者間一致 率は,①視線
K=
0.57(単純一致率
0.82),② 身体接触の機能
K=
0.63(単純一致率
0.93),③ 身 体 の 位 置 関 係
K=
0.73(単純一致率
0.88),④接触部位
K = 0.94(単純一致率
0.98),⑤対象児への発話の有無
K = 0.70( 単 純一致率
0.91),⑥注意共有
K=
0.77(単純一 致率
0.95)であった。一致しない箇所について は協議した上で修正をした。
4.
結果
4 ‑ 1.
各調査固にみられた身体接触行動の 数
表 1は,各調査回(20 分間)にみられた身 体接触行動の数を示したものである。保育者が 始発する身体接触行動の数は各調査回でばらつ きがあった。対象児が始発する場合も同様にば らつきがあり,調査開始前半の①〜③,⑦回は 対象児が始発する身体接触行動は全くなかっ た 。
表 1 . 各調査固にみられた身体接触行動の数
4 ‑2.
相互交渉における始発者
各調査回にみられた身体接触を伴うコミュニ ケーションにおいて 対象児と保育者のどちら が身体接触を伴ってコミュニケーションを始発 したのかについて その割合を表したものが図 1である。横軸は調査回数である。④回目頃よ り,対象児から保育者に対する身体接触もわず かながらみられることがあった。
鵬 馴 酬 明 酬 蜘 州 制 鵬 附 側
・対象9l
e
保育費
①
図 1 . 相互交渉における始発者
4 ‑2.
身体接触における機能
身体接触を伴うコミュニケーションにおい て,保育者から始発したものの機能を分類した。
各調査団における各機能の割合を表したものが 図 2 である。横軸は調査団である
o調査期間 を通して,促しのような「
4.中立的
Jが多かっ た。③回目頃より 「
1.親和的」もみられるよ うになった。「3
.偶発的jは①〜③にかけてみ られていた。「
2.否定的
jなものは全くみられ なかった。
対象児から始発したものの機能を分類した結 果,身体接触がみられる場合には「
1.親和的」
がほとんと・であった。④回目については,機能
として分類ができない「0
.不明
Jもみられた。
(2016)
視線を分類し,その割合を算出した。図
4は その結果である。横軸は調査団である。調査期 間を通して「
1.かかわっている他者
Jが多かっ た。また,④回目頃から「3
.1と2の両方」もみられるようになった
o対象児から身体接触を 始発した際は,そのほとんどが「
1.かかわって いる他者
Jであった。
第
62号 共立女子大学家政学部紀要
ロ ' : , , . 立 的
eta:偶発的 112: iiil的 巴
0:不明制
酬 酬 制 鵬 蹴 州 制 御 蹴 附
•1 :鍵争的
: ← 圃 → ト 帽 由 Bl.Bl.
ロ
0:そのほか D3: ll:2の両方
02:針象
!'lb・保育者虫'網島
ff!
L ている物
・ E :岩崎・わっている姐
tt蹴 蜘 制 加 鵬 制 御
m m m 偶
③
@
①
@ ⑤
@
③
①
図
2.保育者から始発した身体接触における機能
図
4.保育者から身体接触を始発した際の視線の方向
4 ‑5.
身体接触時の発話の有無
保育者から始発した身体接触を伴うコミュニ ケーション(機能面で「3
.偶発的」「0 不明」
と分類されたものは除外)において,保育者の 発話の有無を分析し,その割合を算出した
o図
5はその結果である。横軸は調査回数である。
②回目頃より,「
1.あり
Jが次第に増えた。対 象児から身体接触を始発した際については,特 に一貫した傾向はなく 発声が多くみられる回 もあれば,そうではない回もあった。
① @ @ @ ⑤ @ ⑦ ⑧
4 ‑3.
身体接触時の身体の位置
保育者から始発した身体接触を伴うコミュニ ケーション(機能面で「
3.偶発的
J「
0不明
Jと分類されたものは除外)において,接触時の 接触始発者の身体の位置を分類し,その割合を 算出した
o図
3はその結果である
o横軸は調 査回である。調査期間を通して次第に「
3.接触 者は相手より前にいる
J割合が増えた。「0
.1・
3の混合」は次第にその割合が減った。
対象児から身体接触を始発した際には,その ほとんどが「3
.接触者は相手より前にいる
Jで あった。
IIO:
J‑u>&合
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t曹は.飽手四舗に 事
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員配置は.師事と d 民 事 骨位置にいる
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ー・ ・ 炉
ー・ ・ ・ 炉 ・
一ヤー
ー‑ ‑
ー
ドー
ーヤー
−・ −
制 蹴 鵬 慨 蹴 蜘 州 制 蜘 附 附
① ② ③ ⑥ ⑤ ⑤ ① @
図
5.保育者から身体接触を始発した際の発話の有無
① ② ③ ③ ⑤ ⑤ ⑦ @
図
3.保育者から身体接触を始発した際の身体の位置
4 ‑4.
身体接触時の視線の方向
保育者から始発した身体接触を伴うコミュニ ケーション(機能面で「3
.偶発的
Jr o 不明
Jと分類されたものは除外)において,保育者の
f
前言語期の自閉症スペクトラム障害幼児と保育者の身体接触を伴うコミュニケーションの特徴:一事例による考察 j
場合に比べて親和的なものが多かった(表
3。 ) 身体の位置は中期以降,対象児の前にいること が多かった(表
4)。接触した対象児の身体部 位については特に一貫した傾向はなかった(表
5
。 )
発話については.全時期を通じて発話を伴う ことが多かった(表. 6 。 )
表
2.視線の方向
鵠 鯛 な し
|組 側 制
1
:かかね
12: J肘
a児
13:1と
210:その隠
lt:かか
t>l2:対・児
13け と
210:その館
,
τい畢
l11'保 育 省
lの岡方
111'・ I
,τいる
111'保 育 宥
lの両方
11"偽宥
IM 銅仰し
l I l他省
ltl鍋 作 L
lτ
い毒物
lI I
lτい畠倫
開
197.t制
34110.0"co> I且 側 <
01I 2.9測 り | 別 刷
Io.o" <o> I o.n co> I o.o,c, <o>帽 抑 制 崎 | 酬 <
o>I e.1糊 | 州 』 | 間 制
jo,偶
CO)jo肺
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I7 7 . 8 ' 4 1 7 1
凶" <o> I 22.n(2I I o.附
co>I 100制
lo.0%co> lo胸
co>lo肌
ω申 { } 肉
C:IIB4 ‑6.
注意共有の有無
保育者から始発した身体接触を伴うコミュニ ケーション(機能面で「
3.偶発的」「
0不明j と分類されたものは除外)において,注意共有 の有無を分析しその割合を算出した。図 6 はその結果である。横軸は調査回数である。調 査期間を通して特に一貫した傾向はなかった が,④〜⑥回目の調査では共同注視がみられ,
その後,⑦〜⑧回目では再ぴ相互注視のみ生起 した。
対象児から始発した場合には,一貫した傾向 はなかった。④.⑥回目では,注意共有が多く みられたが,⑤,③回目では全くみられなかっ た 。
a
覚的注.,亀有あり
t:阻和的
| 2:否定的
| 4:中主的
訓 | 酬
ω| 滞 納 山 川 | 酬
co> I 875%(7)
50'441
』
Io.°" <o> I so,刷
表
3.身体接触の機能
咽(}内C
:IIBr‑‑T
ーー− a 覚的注調 u 毛布なし
t:思糊 I 2:醍的 I ":中立的
& 制
11 I .o叫
co> I 97品 問
20.4' 則 的 | 酬
co> I7 9 . s 刻 鞠
・剛 I
o附
ω|飽刷宮町
開 一 暢 一 個
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Jt同
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・相 l i t 量留あ旬 制
蝋 酬 制 伽 制 御 蜘 訓 剛 開
I l l {)肉
C:IIBF一『一一− a
制 組 欄 な し | 倒 的 組 糊 制
t:鎗鎗宥
12:僧勉曾
13:橿蝕脅
10:1・
3の
11:1童館
ftl2:館蝕・
13:観触者
10:1・
3の 俗、舗乎
lc:.細 乎
lc:、 細 乎
llll合
I t草、舗乎
lc:.組 事
lc:.組 事
llll合 と*平の
lより也事
lょ 闘に
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lより 1 1 ~I より 1闘に 位 置 に い
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1いる
I lfll・ に い
lにい畠
lいる
る 1 I I I 畠 l I
閥
I4.9"(2) I 53.nw221 I 12.2糊 | 抑 制
211O.o% CO) I 75糊
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1s嶋 仰 | 抑 制 問
I0.0" (O) I 0.0% CO) I 62.刷
5)137.5%(3】 釧
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I 0.0% (O) I 0.0% (0) I t酬
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4.身体の位置
① ③ ③ c a ; i
R m R図
6.保育者から身体接触を始発した際の注意共有の 有無
問 一 暢 一 制
奇 襲 { } 肉C
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一一ー概n u 姉 な し I Ul9 盟 締 制 市:酋町田
12: 糊
13: 」 1 : . 1 1 ・
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12: 側
13: 店 ・
14:混合
下
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l I I l下限
t粛を 合む}
I I I l含む}
閥 | 拍
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0剛 I
58.制 問
55.1崎 司 | 訓 I •2.鵬削 6 8 . T I W 6 J I 州 湖 I
33.ぬ 悶
表
6.表
5.4 ‑7.
注意共有が生起した際の身体接触の 特徴
保育者から身体接触を始発した際に生起した 注意共有に着目し その際の身体接触の特徴を 検討した。調査聞については
2回の長期休暇
(③④の閥、⑥⑦の問)を区切りとして、①〜
③回目を前期,④〜⑥回目を中期,⑦〜③回目 を後期の
3つの時期に区分して検討した。そ の後,この
3つの時期それぞれのコーデイン グ項目について,注意共有の有無により区分し 検討した。その結果が表 2〜 6である。
視線は,注意共有がある場合には,全時期を
通じて全て対象児に向いていた(表
2)。身体
接触の機能は,特に前期には,注意共有なしの
共立女子大学家政学部紀要 第
62号
(2016)5.
考察
5 ‑ 1.
身体接触を伴うコミュニケーション の特徴
結果より,身体接触を伴うコミュニケーショ ンの特徴が複数挙げられる。まず一点目は,対 象児が身体接触を始発することがみられるよう になった点である。調査開始頃,身体接触を伴 うコミュニケーションを対象児が始発すること はなかったが,④回目頃より対象児が始発する こともみられるようになった
oこのことの要因 のーっとして,対象児のコミュニケーション能 力の発達段階が意図的伝達段階(
Bates,1975)に移行しつつあるからだと考えられるだろう。
二点目は,始発者によって身体接触の特徴が 異なっていた点である。対象児による身体接触 は,バリエーションが少なく,調査期間を通じ た縦断的な変化はなかった。対象児による身体 接触で多くみられたものとしては.対象児は接 触者の前にいて,相手のいる方向に視線を向け,
抱きつきや笑顔で保育者に触れるような親和的 な機能をもったものが挙げられる。
一方,保育者による身体接触は.バリエーシ ョンが豊富であった
oたとえば,調査開始頃は,
対象児に何かを促すような中立的な機能をもっ 接触が多かったが親和的な機能をもった接触 が増えた。また,保育者自身の身体を対象児の 前におくことが次第に増えていった。視線の方 向については,④回目頃から,対象児と対象児 が操作する物の両方に向くこともみられるよう になった。発話についても 調査開始前半より も後半の方が発話を伴いながら接触することが 多いといえる。このように,④回目頃から保育 者の身体接触の特徴は変化してきたと考えられ る。この④回目というのは,前述したように,
対象児のコミュニケーション能力の発達段階が 移行したと推測される時期である。
以上より,保育者による身体接触を伴うコミ ュニケーションは,対象児のコミュニケーショ ン能力の変化に伴い よく用いる方略に変化が
みられたと考えられる。狗巻(
2013)によると,
保育者と
ASD幼児とのかかわりにおいては,
対象児の共同注意の発達的変化に応じて,保育 者のかかわりに変化が生じたという。本研究で も同様に,
ASD幼児のコミュニケーション能 力の変化に応じて,保育者の身体接触を伴うコ ミュニケーションの特徴にも変化がみられた可 能性がある。
本研究では.調査開始頃,保育者は対象児と 向かい合うとは限らない位置で,促したり誘導 するような機能をもった身体接触が多くみられ ていたが,対象児と向かい合って,視線を合わ せながら親和的な機能のある身体接触が多くみ られるようになったということは確認できた。
コミュニカテイプな経験をする機会が増えるこ とは,
ASD幼児にとっては,コミュニケーシ ョン能力の発達を促す上で非常に重要である。
5 ‑2.
注意共有の有無による保育者の身体 接触の特徴
5 ‑1
で述べたように.保育者が始発する 身体接触を伴うコミュニケーションの質は,調 査期間を通じて変化があった。では,視覚的注 意共有の有無と関連させて考察するとどのよう な相違点があるのだろうか。
3つの時期ごとに 考察する。
調査①〜③回目(前期)では,対象児のコミ ュニケーション能力の状況は,聞き手効果段階 にあったと考えられる。注意共有の有無による 違いとしては.注意共有のある場面の方が,親 和的な機能をもった接触であり,身体の位置は 前か後ろかのいずれかで,発話が伴うことが多 かった。身体が後ろにある場合には,保育者が 対象児の顔を覗き込み,視線が合いやすいよう な動きをしているものもあった。
調査④〜⑥回目(中期)では,対象児のコミ
ュニケーション能力の状況は 意図的伝達段階
に移行しつつあったと考えられる。注意共有の
有無による違いとしては 機能面では大きな違
いはない(中立的な機能が多い)が.注意共有
『前言語期の自閉症スペクトラム陣害幼児と保育者の身体接触を伴うコミュニケーションの特徴:一事例による考察j のある場面の方が身体の位置が対象児の前にあ
ることが多かった。また発話が伴うことが多い のは.前期と同様であった。
調査⑦〜③回目(後期)では,少ない度数で はあるが.注意共有のある場面の方が,視線が 対象児のみに向いており,機能は親和的で,身 体の位置は対象児の前にあり,発話が伴うこと が多かった。
以上より,注意共有のある場面では,いずれ の時期も対象児との注意共有が成立しやすいよ うな動きをする保育者の状況があったと考えら れる。子どもとかかわるときには何を目的とす るのかにより,そのかかわり方が異なるが,注 意共有を伴うコミュニカテイプな経験を促す際 には保育者のかかわり方自体も考慮する必要性 が示唆されたのではないだろうか。定型発逮児 であれば,大人のコミュニカテイプな養育行動 を引き出すような,子ども自身の能動的な行動 が乳児期の頃からみられるが,
ASD児ではそ のような行動がなかなかみられない。だからこ そ.周囲の大人の支持的な行動が必要である
oこのことは狗巻(2
013)や榊原(2
013),吉川
(2013)が述べてきたことと合致する。
5 ‑3.
本研究のまとめと今後の課題 本研究では.前言語期の自閉症スペクトラム 障害(
ASD)幼児と保育者の身体接触を伴うコ ミュニケーションの特徴について,注意共有の 有無と関連させて,一事例を縦断的に検討した。
その結果,保育者の行動が変化する様子がみら れた
oまず一点目は,身体接触を伴うコミュニ ケーション行動について縦断的に検討した際 に.量的な変化は確認できなかったが.保育者 が始発した身体接触によるコミュニケーション に質的な変化があったことである。具体的には,
調査開始頃には,促しゃ誘導をするような中立 的な機能をもった身体接触が多くみられていた が.調査中盤頃より,対象児と向かい合って視 線を合わせながら親和的な機能のある身体接触 が多くみられるようになった。二点目は.注意
共有のある場合には,調査中のいずれの時期も 対象児との注意共有が成立しやすいような動き をする保育者の状況があったことである。具体 的には.全体の中では調査中盤以降に多くみら れたような発話を伴い親和的な機能をもっ身体 接触がみられていた。注意共有を伴うコミュニ カテイプな経験を促す際には,保育者のかかわ り方自体も考廠する必要性が示唆されたといえ る 。
Meirsschaut
ら(2
011)によると.
ASD幼児 の母親は定型発達児の母親に比べて,養育者が 主導するようなかかわりが多いという。本研究 では,
ASD幼児と保育者を対象にしたが.母 親等の主となる養育者を対象に検討することも 必要である。また結果から 注意共有のある場 合には,保育者の発話が伴う身体接触が多くみ られたことが明らかになったが,本研究では発 話の内容を検討できていない。
ASD幼児との コミュニケーションの上で大人からの発話も 重要な要素である。発話についても,その機能 や使用している語集など,内容は多岐にわたる ため,今後検討していく必要がある。前言語期 という周囲の大人がとまどうことの多い時期 に ,
ASD幼児とのコミュニケーションをどの ように展開していくのかを具体的な行動から考 察することは重要であり.今後も継続して検討
していきたい。
6.
文献
Bates, E., Camaioni, L.,
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