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中学生を対象にした「一日静大生」の参加と色素合 成実験の改良

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Academic year: 2021

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中学生を対象にした「一日静大生」の参加と色素合 成実験の改良

著者 江上 智恵, 草薙 弘樹

雑誌名 技術報告

巻 19

ページ 35‑40

発行年 2014‑03‑10

出版者 静岡大学技術部

URL http://doi.org/10.14945/00008039

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中学生を対象にした「一日静大生」の参加と色素合成実験の改良

○江上智恵、草薙弘樹 静岡大学 技術部 教育支援部門 1.概要

2013 年 9 月、静岡大学浜松キャンパスにて「一日静大生」が行われた。一日静大生は中学生が大学生活 を体験するために催され、知的好奇心の刺激や将来の進路を考えるきっかけ作りを狙いとしている。

一日静大生において、我々は化学実験の体験を行った。実験内容は、静岡大学工学部2年生が実際に学 生実験で行っている「色素合成」をベースにした。しかし大学生の実験を中学生が行うのは困難であり、

また時間に限りがあることから、実験操作を大幅に簡易化する必要があった。我々は実験操作について検 討し、中学生が化学実験を安全に体験できるように改良した。当日は無事、化学実験の体験を行うことが できた。

2.一日静大生について 2.1 一日静大生の概要

一日静大生は、大学生の生活を一日を通して中学生に体験してもらうために催された。詳細は以下 の通りである。

日時 2013 年 9 月 9 日(月)

場所 静岡大学浜松キャンパス

対象者 浜松市立蜆塚中学校 3 年生 約 140 人(5 クラス)、引率中学教員 スケジュール 模擬授業① 喜多先生

模擬授業② 太田先生 昼食 生協南館 施設見学

・高柳記念未来技術創造館

・次世代ものづくり人材育成センター

・化学実験室 静大生との座談会

自由見学 (図書館、SUM、犬塚研究室、福原研究室、喜多研究室 ) 2.2 我々が行ったこと

我々は施設見学(化学実験室)を担当した。施設見学という名目であるが、化学実験の体験を盛り 込むことにした。メンバーは工学部共通講座の植田一正教授、技術部教育支援部門の草薙、江上の3 人である。

3.体験する実験について

3.1 体験する実験内容を決めるにあたって

実験内容については、実際に静岡大学が行っている学生実験を体験するのがよいのではないかと考 えた。そこで「物理・化学実験」の化学実験テーマの一つを体験してもらうことにした。物理・化学 実験は静岡大学工学部全学科の学生が対象であり、 多くの静大生が行う実験であるため、 「一日静大生」

の趣旨に合う。また物理・化学実験は我々の業務の一つであり、準備や実験指導等に慣れている。器

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具等も揃っており新たに準備をする必要もない。

なお、化学実験のテーマは、金属陽イオンの定性分析、陰イオンの定性分析、比色分析《真ちゅう 釘に含まれる銅の定量》 、反応速度と活性化エネルギー、緩衝作用、色素、有機化学演習の7つである。

その中で色素合成を選んだ理由は、 色の変化が面白いからである。 色の変化を自分で体験することで、

化学に興味を持ってもらいたいと考えた。

3.2 色素の合成実験について 3.2.1 反応式

色素の合成実験は、ジアゾカップリング反応により 2- ナフトールオレンジを合成している ( 式 1) 。 2- ナフトールオレンジは橙色をした繊維の染料であるが、繊維の種類によっては染まらないものもあ る。

3.2.2 実験操作

大学生が行っている実験操作は以下の通りである。

まずは試薬の調製を行う。ジアゾニウム塩白 濁液( A 液) 、 2- ナフトール溶液( B 液)を調製 する。ジアゾニウム塩は室温でも分解が進むた め、A 液は氷浴につけて(反応液の入ったビー カーを氷水につけて冷却して)調製する。

次に調製した試薬を用いて色素の合成を行う。

B 液に A 液を加え ( 写真1 ) よくかき混ぜると橙 色の泥状溶液になる。十分かき混ぜたら、再結 晶、吸引濾過をして泥状の色素を得る。

最後に、合成した色素で試験布の染色を行う。熱湯に色素と希硫酸を溶かして染色液とし、染色 液に試験布を入れて煮沸する。試験布には 8 種類の繊維が織り込まれており、繊維の種類によって 染まり具合が異なってくる。学生は染まり具合の差についてレポートに考察する。

4.中学生向けに改良 4.1 改良の必要性

一日静大生で色素の合成実験を行うにあたり、実験操作を一日静大生仕様に変更する必要がある。

その理由としては、時間が 20 分と学生実験に比べて非常に少ないことと、中学生には難しい操作が あるためである。学生実験において、 A 液と B 液を調製する際、試薬の秤量や反応溶液の撹拌など も学生が行っている。しかしそれらの操作は、作業自体は難しくないが意外に時間がかかる。また 吸引濾過では真空ポンプを用いているが、ポンプの扱いは中学生には難しいのではないかと考えら れる。

よって一日静大生の実験体験では、実験操作を大幅に削る必要がある。ここで原点に帰って考え てみると、この実験体験の狙いは「化学に興味をもってもらうこと」である。色素合成実験におい て好奇心を刺激すると思われる操作は、変色が起こる A 液と B 液を混ぜ合わせる操作である。そこ

写真1.色素が生成する様子

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で A 液と B 液を混ぜ合わせる操作を主軸とし、他の操作を調整することとした。

4.2 変更点

主に以下の3点を変更した。

① 赤、黄色の色素の合成

学生実験では橙色の色素のみを合成しているが、今回赤色と黄色の色素も作ることとした。赤、

黄色も橙色の色素と同様にジアゾカップリングで合成する。橙色の色素を合成した際に用いたの と同じジアゾニウム塩を、1-ナフトールとカップリング反応をさせると 1-ナフトールオレンジ(赤 色色素 ) が生成する ( 式 2) 。サリチル酸とカップリングするとモルダントイエロー ( 黄色色素 ) が得ら れる ( 式 3) 。

② 実験操作の省略

4.1 を受けて実験操作を変更した。A 液、B 液の調製、色素の再結晶、吸引濾過は省略すること にした。 A 液、 B 液は体験前にメンバーがあらかじめ調製することにした。布の染色は行うが、

染色で用いる色素は粉状になった色素を用意しておくことにした。

③ 器具の変更

用いる器具を変更した。色の変化は 7 ~ 8 人の中学生が見ることになるので、大きなビーカーを 用いて見やすくしようと思案した。学生実験では 50mL ビーカーを用いて合成をしているが、体 験では 2L ビーカーを用いることにした。

5.実験体験の準備

① 赤、黄色の色素の合成

学生実験では 2-ナフトールオレンジ (橙色色素)を合成しているが、赤と黄色の色素は合成したこと が無かった。そこでまず、3.2.2 の実験操作で赤、黄色の色素を合成できるか実験してみた。試薬だ けを替えて合成を試みたところ、赤、黄共に色素は生成したが泥状にはならず、固体として得られ なかった。塩析を試みようと食塩を加え、さらに氷浴による冷却をしたが変化はなかった。そこで pH を振ってみたところ、酸性条件で泥状になった。泥状になった色素は吸引濾過をして濾別し、乾 燥させて粉状の色素を得ることができた。得た色素は、当日の染色で用いることとした。

② 実験操作の省略

A 液、 B 液はあらかじめ調製しておきたい。しかしジアゾニウム塩 (A 液 ) は不安定な化合物である ため、長時間置いておくと分解が進む心配があった。そこで、A 液を調製後、数時間置いても分解 しないか試した。A 液を調整後 0 ℃で 2 時間ほど放置したのち、カップリング反応を行ってみたと ころ、色素の生成が確認できた。数時間置いても分解しないことが分かったため、 A 液、 B 液は当日 の午前中に調製し、0 ℃で保存しておくこととした。

③ 器具の変更

2L ビーカーで色素合成の様子を確認したところ、色素は生成したが問題点が2つ浮かび上がって

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きた。一つ目は橙色色素と赤色色素の溶液の違いが分かりにくいことである。二つ目は、茶色への 変色である。色素の合成直後は鮮やかな色をしたが、数分後茶色に変色する現象が起きた。

一つ目の問題に関しては、生成する色素 の濃度を調節することにした。色素の溶液 は濃度によって色がたいぶ違うため、適切 な濃度にすることで解決するのではと考え た。そこで 3 色それぞれの適切な濃度を調 べたところ、黄色では 0.36 mmol/L 、橙では 0.05 mmol/L 、赤では 0.02 mmol/L 程度がよ いことが分かった

注1

。しかし濃度の調節を 行っても橙色色素と赤色色素の溶液の色が 似ていたので、 pH を調節して色味を変える ことにした。赤色溶液 0.02 mmol/L 2L に

10% 硫酸水溶液 1 cm

3

を加えたところ紅色になり、橙色溶液との見分けが容易になった。変色する理 由としては、H

+

の濃度変化により分子の構造が(式 4)のように変化するためだと考えられる。

注1:記した濃度は、反応が定量的に起きた場合の濃度である。

二つ目の問題については副反応が起きたためと考えられた。実験操作を振り返ると、氷浴では 2L もの溶液を十分に冷却できていないように思えた。よって変色の原因は、冷却が不十分だったため にジアゾニウム塩の分解が起きたためと考えた。そこで実験方法を検討し、溶媒を常温の水ではな く氷水を使ってみたところ、変色が起こらなくなった。濃度、 pH 、反応温度の最適条件を検討した 結果、大きな容器で分かりやすい変化を演示できるようになった。

5.4 お土産

体験をより印象づけるために、お土産を渡すことにした。合成した色素で多繊交織布 ( ポリエステ ル、絹、アクリル、レーヨン、羊毛、アセテート、ナイロン、綿の8種類の繊維が織り込まれた布) を 染め、色素についての説明を印刷した紙を添付し、チャック付ポリ袋に入れてお土産とした(写真3)。

表 ( 写真3の左 ) には染色した布と多繊交織布の説明、裏 ( 写真3の右 ) には色素生成の反応式を載せた。

反応式については、中学生には難しいので渡す際に説明をすることにした。化学構造式や反応式は 中学生に難しいのは承知していたが、図を見せながら、形が少し異なるだけで色の違いが出ること を説明し、渡すことにした。

写真2.濃度と pH を調節した後の溶液

左:黄色 中:橙色 右:赤色

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写真3.中学生に渡したお土産 6.一日静大生における化学実験体験の実施

6.1 当日の様子

当日は 24 人のグループが順次 6 回体験に来た。 24 人を 3 つに分け、赤、橙、黄色の体験をする組

に分け実施した。安全のため、エプロン、手袋、保護メガネを着用した。実験は上手くいき、中学

生たちは変色が起きた瞬間ビックリしていた。

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6.2 後日

6.2.1 新聞記事

後日 (9 月 11 日 ) 、一日静大生の記事が静岡新聞に掲載され、色素の合成実験の様子が写真掲載さ れた。

6.2.2 一日静大生アンケートでの反応

一日静大生全体のアンケートに、色素の合成実験についての感想を書いてくれた学生もいた。実 験についての感想を以下に紹介する。

・化学実験がとても面白かったです。

・科学の実験が研究室見学などが特に楽しかったです。自分の知識を広げることができました。あ りがとうございました。

・化学実験のオレンジ色感動しました。模擬授業も面白かったです。大学のようすが少しわかりま した。

6.まとめ

無事中学生向けの実験体験を終えることができた。色の変化のある実験は受けがいいと予想していたが、

やはりインパクトがあったようである。中学生達から驚きの声が上がっていた。担当者3人で確認しなが ら、十分に準備が出来たのが勝因だと思われる。今後も化学に興味を持ってもらえるような実験体験を提 供できたらと思う。

また赤、黄色の色素を合成できたのも収穫であった。今後、学生実験に応用できればと思う。

謝辞

一日静大生での化学実験体験の機会を与えて頂き、色素実験についてのご指導賜りました工学部共通講

座の植田一正教授に深く感謝いたします。

参照

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