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財務報告の意義と公表情報の棚卸し

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Ⅰ は じ め に

近年,財務報告の新展開や変革に関する議論が活発化している1)。そこに は,財務報告の国際化の問題,財務報告において公表される情報の質と量の 拡大と変化の問題等,様々な論点が含まれるように思われるが,いずれの議 論においても重要であると考えられるのが,そもそも財務報告ではどのよう な情報が公表されるべきであるのかという点である。本稿は,かかる論点に 取り組むための出発点として,現在の財務報告においてどのような情報が公 表されているのかを棚卸し,分析することを目的としている。

なお,「財務報告」という公表範囲においてどのような種類の情報が公表 されているのかを分析するためには,そもそも財務報告とはいかなるものな

1)例えば,広瀬義州・田中 弘編著『国際財務報告の新動向』商事法務研究会,

199911月(別冊商事法務第222号),平松和夫編著『国際財務報告論 ―― 会計 基準の収斂と新たな展開 ―― 』中央経済社,2007年,日本会計研究学会特別委員 会『財務報告の変革に関する研究』日本会計研究学会,中間報告20089月,最 終報告20099月などがあげられる。

財務報告の意義と公表情報の棚卸し

長 束 航

目 次

Ⅰ はじめに

Ⅱ 財務報告の意義

Ⅲ 財務報告において公表される情報

Ⅳ ビジネス・リポーティング論の意義

Ⅴ 結びに代えて

−307−

( 1 )

(2)

のか(財務報告の意義)を明らかにする必要があるように思われる。そこで,

本稿ではまず,財務報告の意義について検討した後,かかる財務報告におい て公表されている情報の分析を行ってみることにしたい。

Ⅱ 財務報告の意義

「財務報告」の意義や範囲について厳密に議論している文献はそれほど多 くないが,まず,比較的詳細に論じているアメリカ財務会計基準審議会(Fi- nancial Accounting Standards Board ; FASB)の財務会計諸概念に関するステー トメント(Statement of Financial Accounting Concepts ; SFAC)第1号「営利 企業の財務報告の基本目的2)」を参考にすることにしたい。この文献におい て,財務報告は次のように説明されている。

「財務諸表は,財務報告の中心をなすものである3)。」

「財務報告には,財務諸表のみならず,会計システムによって提供される 情報 ―― すなわち企業の資源,債務,稼得利益などに関する情報 ―― と直接 または間接に関連する情報を伝達するためのその他の手段も含まれる。……

財務諸表以外の財務報告の手段によって伝達される情報は,いろいろな形態 をとり,またいろいろな事項と関連している。会社の年次報告書,目論見書 およびSEC(証券取引委員会)に提出する年次報告書は,財務諸表その他 の財務情報および非財務情報を記載した報告書の一般的な例である。企業が 公表するニュース記事,経営者の予見またはその他経営者の計画もしくは予 測に関する説明および企業の社会もしくは環境に及ぼす影響についての説明 は,財務諸表以外の財務情報または非財務情報のみを記載した報告書の例で ある4)。」

2) FASB,SFAC No.1 ; Objectives of Financial Reporting by Business Enterprises, FASB,

Nov. 1978.(平松一夫・広瀬義州訳『FASB財務会計の諸概念[増補版]』中央経済

社,2002年。)

3)Ibid., par.6.(同上訳書,13頁。)

−308−

( 2 )

(3)

以上によれば,財務諸表が財務報告に含まれるのは間違いないように思わ れる。しかし,より重要であると考えられるのは,財務報告において報告さ れる情報には,「会計システムによって提供される情報と直接または間接に 関連する情報」,すなわち財務諸表以外の情報も含まれるということであろ う。これについてFASBは,「財務報告および財務諸表は,基本的に同一の 基本目的をもっており,財務諸表のほうが有用な情報をより一層提供できる 場合もあるが,また財務諸表以外の財務報告の手段のほうが有用な情報をよ り一層提供できる場合もあり,さらにかかる財務諸表以外の手段を用いなけ れば,有用な情報を提供できない場合もある5)」と説明し,SFAC第1号で は「財務報告と財務諸表を厳密に区別していないし,また財務報告の範囲を 非常に広く想定している6)」としたうえで7),「財務報告は,現在および将来 の投資者,債権者その他の情報利用者が合理的な投資,与信およびこれに類 似する意思決定を行うのに有用な情報を提供しなければならない8)」という 財務報告の基本目的を明らかにしている。

それでは,「会計システムによって提供される情報と直接または間接に関 連する情報」とはどのような情報なのであろうか。これについてはFASB 次の説明が参考になると考えられる。

「財務報告によって提供される情報は,基本的に財務的性質を有している。

すなわち,それは一般に貨幣単位で数量化され,かつ表現される。財務諸表 に正式に記載されるべき情報は,貨幣単位で数量化できるものでなければな らない。その他の情報は財務諸表(注記を含む)またはその他の手段によっ て開示されうるが,財務諸表は経済的事項および事象を表現する数値の加減

4)Ibid., par.7.(同上訳書,同頁。)

5)Ibid., par.5.(同上訳書,12頁。)

6)Ibid.(同上訳書,同頁。)

7)なお,IASBの概念フレームワークは「財務諸表」を対象としている。

8) FASB,op. cit. supranote (2), par.34.(平松一夫・広瀬義州訳,前掲注(2),26頁。)

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −309−

( 3 )

(4)

乗除を伴い,そのために共通の公分母を必要としている。通常,かかる数値 は交換価格そのものであるかまたは交換価格から得られる価額である。報告 される(従業員数または完成品数量もしくは売上製品数量のような)定量的 非財務情報および(営業の概況または経営方針の説明のような)非定量的情 報は,通常,財務情報に関連しているかまたはその基礎となる情報である。

財務情報は,貨幣単位で測定しなければならないという要請によって,また は情報の信頼性もしくは客観性を高めるために一般に用いられる検証といっ た手続にもともと存在する制約条件によって,しばしば制約を受けてい 9)。」

財務諸表をはじめとする貨幣単位で数量化される情報(財務情報10))が,

「会計システムによって提供される情報」であると考えられるので,「直接ま たは間接に関連する情報」とは,財務情報に関連しているかまたはその基礎 となる非財務情報を意味し,これには定量的非財務情報および非定量的情報 とが含まれることになろう。したがって,財務報告によって提供される情報 には,財務情報と非財務情報が含まれ,非財務情報には定量的情報と非定量 的情報(すなわち,記述的情報)とが含まれることになると考えられる。

なお,上記のFASBの説明にもあるように,財務情報については監査,レ ビューなどの検証が行われるが,非財務情報については必ずしも検証が行わ れるわけではない。したがって,財務報告によって提供される情報には,監 査,レビューなどにより信頼性を保証される情報(保証業務対象情報)と保 証されない情報(非保証業務対象情報)が含まれることになるように思われ る。この点については,FASBも「財務諸表は,しばしばその信頼性の確か さを高めるために独立の監査人によって監査される。財務諸表とは別に,経

9)Ibid., par.18.(同上訳書,1718頁。)

10) SECのレギュレーションS-Kにおいては,MD&Aなども含んだかなり広い意味

で「財務情報」という用語を使用しているが,ここではFASBの用語法に従い貨幣 単位で測定されている情報を「財務情報」と呼んでいる。

−310−

( 4 )

(5)

営者による財務報告のなかには,独立の監査人もしくはその他の第三者の専 門家によって監査されまたは監査されずにレビューされるものもあれば,企 業外部の人々によって監査もレビューもされずに経営者によって提供される ものもある11)。」と述べている。

また,財務報告に含まれる情報は,そのすべてが会計基準設定主体,規制 機関等によって開示が強制される情報(強制的開示情報)であるというわけ ではない。FASBも「経営者は,正規の財務諸表以外の財務報告の手段を用 いて企業外部の人々に情報を伝達することがある。その理由は,情報の開示 が権威ある公式見解,規制機関の準則もしくは慣習によって強制されていた り,または経営者が企業外部の人々にとってその情報は有用であるとみなし,

これを自発的に開示するためである12)。」と述べているように,財務報告に よって提供される情報には,自発的開示情報も含まれると考えられる。なお,

強制的開示情報も,厳密に議論する場合には,会計基準設定主体による基準 設定の対象となる情報(GAAP対象)と,その他の規制機関によって開示が 要求される情報とにわけて考えたほうがよいように思われる13)

以上の検討から,「財務報告」において公表される情報とはいかなる情報 なのかをまとめれば,次のようになると考えられる。

① 一般投資者の意思決定に有用な情報を提供することを基本目的として いる。

② 財務諸表(注記を含む)とそれ以外の情報が含まれる。

③ 貨幣的単位で数量化された情報(財務情報)とそれ以外の情報(非財 務情報)が含まれる。ただし,非財務情報は,通常,財務情報に関連し 11) FASB, op. cit. supra note (1), par.8.(平松一夫・広瀬義州訳,前掲注(2),1314

頁。)

12)Ibid., par.7.(同上訳書,13頁。)

13)財務諸表監査や四半期財務諸表のレビューは情報のGAAP準拠性を保証するも のであるので,GAAP対象の情報は保証業務対象情報と一致することになるといえ よう。

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −311−

( 5 )

(6)

ているかまたはその基礎となる情報(直接または間接に関連する情報)

である。

④ 定量的情報と非定量的情報(記述的情報)が含まれる。

⑤ 会計基準設定主体,規制機関等によって開示が強制される情報(強制 的開示情報)と強制されない情報(自発的開示情報)が含まれる。

⑥ 独立の監査人等による監査,レビューなどにより信頼性を保証される 情報(保証業務対象情報)と保証されない情報(非保証業務対象情報)

が含まれる。

このなかで,財務報告の範囲を決定づける条件を提示しているのは①およ び③であると考えられる。すなわち,ある情報が財務報告の範囲に含まれる のか否かを判断するための基準は,!1一般投資者の意思決定有用性という目 的を有するかどうかと!2企業の財務情報そのものであるかまたはその財務情 報に関連するかどうかという2つであるということになろう。

また,このような条件を満たす財務報告に含まれる情報の構成要素を示す のが②ないし⑥であると考えられる。すなわち,財務報告に含まれる情報に は,!1財務諸表(注記を含む)とそれ以外の情報,!2財務情報と非財務情報,

!

3定量的情報と非定量的情報(記述的情報),!4強制的開示情報と自発的開 示情報,!5保証業務対象情報と非保証業務対象情報があるということになる。

なお,FASBは,以上のような財務報告についての考え方を次のような図 1で表現している14)

このような財務報告の範囲に関する整理は,一般的に受け入れられている

14) FASB,SFAC No.5; Recognition and Measurements in Financial Statements of Business Enterprises, Dec. 1984, p.5.(平松一夫・広瀬義州訳,前掲注(2),214頁,ただし,

形式を若干変更している。)なお,この図の考え方の初出は,次の文献に求められ る。FASB,Invitation to comment ; Financial Statements and Other Means of Financial

Reporting, FASB, May 1980, p.2.(広瀬義州「財務諸表,注記および補足情報のディ

スクロージャー」『福岡大学商学論叢』第29巻第3号(198411月),572頁参 照。)

−312−

( 6 )

(7)

ように思われる。例えば,アメリカの定番的教科書であるキーソー他「中級 会計学」も,この図を用いて「財務報告」について説明を行っている15)。ま た,日本においても,概念フレームワークに関する討議資料16)では財務報告 の範囲についての記述はみられないものの,例えば広瀬義州教授も,次の図 2に示すように,同様の枠組みを用いて財務報告の範囲を説明している17)

したがって,この枠組みを用いて財務報告の棚卸しを行うことにしたいが,

例えば図1では,FASBの視点にたっているためからか,現行のFASB基準 による規制対象となっているかどうかが強調されており,財務情報と非財務 情報,定量的情報と非定量的情報(記述的情報),強制的開示情報と自発的 開示情報の区別が適切に表現されていない18)。これらの点を盛り込んだのが 15) D. E. Kieso, J. J. Weygandt and T. D. Warfield,Intermediate Accounting, 12thedition,

John Wiley & Sons, 2007, p.1283.

16)企業会計基準委員会『討議資料 財務会計の概念フレームワーク』企業会計基 準委員会,200612月。

17)広瀬義州『財務会計(第9版)』中央経済社,2009年,769頁。ただし,形式を 若干変更している。

図1 財務報告の範囲

投資,与信およびこれに類似する意思決定にとって有用なすべての情報 財 務 報 告

その他の情報 現行のFASB基準によって直接規制される領域

その他の財務 報告の手段 基 本 財 務 諸 表

財務諸表 補足情報

貸借対照表 損益計算書 キャッシュ・

フロー計算書 株主持分変動 計算書

会計方針 偶発事象 棚卸資産の評 価方法 発行済株式総

代替的測定額

物価変動情報 開示 石油ガス埋蔵 量情報

経営者による 説明および分 析(MD&A)

株主への挨拶

SEC Form 10- Kにおける競 争および受注 に関する説明 アナリスト・

レポート 経済統計 会社に関する ニュース記事 財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −313−

( 7 )

(8)

図3である。!1ないし!5は上述の情報の構成要素の区別を表している。また,

財務情報はすべて財務報告によって提供される情報であり,また財務諸表は 財務情報のみから成り立っていることから,情報があてはまることのない箇 所が3箇所,斜線により示されている。

この図をみると,財務報告によって提供される情報とその他の情報との区 別がかなりあいまいであることがわかる。すでに明らかにしたように,財務 報告によって提供される情報は,!1意思決定有用性という目的を有するかど うかと!2企業の財務情報そのものであるかまたはその財務情報に関連するか どうかという2つの基準によって判断されうるが,特に!2の基準は不明確と いってよいであろう。「企業の財務情報に関連する」かどうかはかなり主観 的であり,また企業の置かれている状況や時代背景によっても異なるかもし れない。図3に例としてとりあげられているアメリカの財務報告でいえば,

「SEC Form 10-Kにおける競争および受注に関する説明」は,強制的開示情 報でもあり,財務情報に関連すると考えることもできるので,MD&Aと同 じ区分に記載するという考え方もできないわけではないように思われる。

また,基本財務諸表と補足情報,とりわけ注記と補足情報の区別も明確で

18)なお,FASB基準による規制対象となっている情報が保証業務の対象であると考 えられるため,保証業務対象か非保証業務対象かの区別は一応表せているといえ よう。

図2 財務報告の範囲

情報利用者の意思決定にとって有用な情報 財務報告(一般目的外部財務情報)

その他の情報 現行の会計基準によって開示が

義務づけられる外部財務情報

その他の外部 財務情報

財務諸表

(基本財務諸表)

補足財務諸表

(補足情報) その他の財務

報告の手段 その他の手段 財務諸表本体 注記等補完情報

−314−

( 8 )

(9)

はないが,この点については,外部財務報告情報の画定基準に関する先駆的 な研究である広瀬義州教授の2つの論文19)において詳細に検討されている。

このなかで,広瀬教授は,基本財務諸表と補足情報の画定基準の候補として,

次の3つを挙げて検討し,理論的には③を採用するのが妥当であると結論づ けている。

① 法律制度的基準(強制開示情報と自発的開示情報)

19)広瀬義州,前掲注(14),569598頁および広瀬義州「外部財務報告情報の画定基 準」『會計』第129巻第4号(19864月),3146頁。

図3 財務報告の範囲(修正版)

投資,与信およびこれに類似する意思決定にとって有用なすべての情報 財 務 報 告

その他の情報

!

強 制 的 開 示 自発的

! 開示

FASB基準(保証業務対象) SEC

!

基本財務諸表

補足情報 その他の財務 報告の手段 財務諸表

!

!

貸借対照表 損益計算書 キャッシュ・

フロー計算書 株主持分変動 計算書

代替的測定額 物価変動 情報開示

発行済株式総数 石油・ガス 埋蔵量情報

経済統計

会計方針 偶発事象 棚卸資産の評価 方法

MD&A 株主へ の挨拶

SEC Form 10- Kにおける競 争および受注 に関する説明 アナリスト・

レポート 会社に関する ニュース記事

SECの開示規制のほか,州法たる会社法における株主向け年次報告書に関する開示規定や証 券取引所の開示規制を含む。

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −315−

( 9 )

(10)

② エンティティ基準(法的実体と経済的実体)

③ 会計システム基準(取得原価主義会計システムと物価変動会計システ ム)

しかし,最近の状況をみると,金融商品に関する会計に代表されるように,

システムとして取得原価主義会計を採用しているはずの財務諸表本体に時価 情報または公正価値情報が混入されるようになってきており,しかもその潮 流は不可逆的であると考えられるところから,これらの論文において検討が 行われた時代とは前提条件が異なってきてしまっている。したがって,理論 的には広瀬教授の結論の方向性が妥当であると考えられるが,基本財務諸表 と補足情報,とりわけ注記と補足情報の区別については別の画定基準を考え ざるをえないように思われる。

(注)なお,2005年にIASBが公表した経営者による説明(Management Com-

mentary ; MC)に関する討議資料20)では,財務報告の範囲を図4のように説

明していた21)。そこでは,基本財務諸表以外の財務報告(MC)について指 針を設けるが,その開示はすべて自発的開示によるとされており(ただし,

強制的開示とすることも視野に入れてはいる),この場合には,注記と補足 情報(MC)の画定基準は,強制的開示であるか自発的開示であるかという ことになる。また,IASBは,MCは財務諸表を実体およびその経営環境の 観点から説明する情報を投資者に提供するものであり,それに対して注記は 財務諸表およびその構成要素の理解に不可欠な情報を投資者に提供するもの であるとし,両者を区別しているが22),この画定基準もやはり明確な基準で あるとはいえないように思われる。

20) IASB,Discussion Paper ; Management Commentary, IASB, Oct. 2005.

21)Ibid., Par.8.

22)Ibid., Par.169.

−316−

( 10 )

(11)

Ⅲ 伝統的財務報告において公表される情報

さて,以上の点を踏まえて,わが国の財務報告において公表されている情 報を分析していくことにしたい23)。その分析の枠組みとするために,図3を 日本の場合に適用したものが図5である。

まず,財務諸表(ア)から述べることにする。1950年に証券取引法に基づ くディスクロージャー制度が導入された際には,損益計算書,貸借対照表,

剰余金計算書および剰余金処分計算書の4つが(ア)に含まれていた。その 後,1963年剰余金計算書の一部(資本剰余金計算書)廃止(附属明細表へ),

1974年剰余金計算書および剰余金処分計算書の廃止ならびに利益金処分計算 書の導入,というように,(ア)で開示される情報の量や質が変動すること はしばらくなかったが,1977年に中間財務諸表が導入され,また1990年に連 結財務諸表が財務諸表本体に組み入れられるなど,(ア)で開示される情報 は量的に拡大されることになった。1999年の連結キャッシュ・フロー計算書 の導入も,(ア)で開示される情報の量的拡大の1つととらえることができ るように思われる。また,2000年以降は,金融商品の大部分(2000年に売買 目的有価証券およびデリバティブ取引,2001年にその他有価証券)ならびに 退職給付債務および年金資産に時価または公正価値評価が導入され,(ア)

で開示される情報の質的変化も生じてきている。なお,2006年には利益金処

23)ここで議論される財務報告の変遷については,次に詳しい。日本会計研究学会,

前掲注(1),中間報告附録[2],8692頁。

図4 財務報告の範囲(IASBの場合)

財務報告

財務諸表 経営者の説明

財務諸表本体 (MC)

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −317−

( 11 )

(12)

分計算書に代えて株主資本等変動計算書が導入された。

次に,注記(イ),(ウ)および(エ)について述べることにする。注記に 開示される情報は,(イ),(ウ)および(エ)のいずれの情報も多岐にわた り,それらを1つ1つ述べていくことはしないが,当然のことながら,基本 的には財務諸表(ア)において開示される情報が量的に増加するにつれ,注 記における開示情報も量的に増加していったことが指摘できよう。そのなか でも,1993年のセグメント情報の導入は,情報の量的拡大の顕著な例として あげることができる。また,1996年の有価証券およびデリバティブ取引の時 価情報開示などは,注記においても情報が質的に変化した一例である。

補足情報(オ),(カ)および(ク)については,日本の財務報告制度にお いて開示が要求された情報は,実は存在しない。これは,物価変動会計によ る財務諸表の作成開示が求められたりしたことがないままに,時価情報が財

図5 財務報告の範囲(日本版)

情報利用者の意思決定にとって有用な情報 財 務 報 告

その他の情報

!

強 制 的 開 示 自発的

! 開示

会計基準(保証業務対象) 金融庁等

!

基本財務諸表

補足情報 その他の財務 報告の手段 財務諸表

!

!

※金融庁の開示規制(内閣府令)のほか,会社法における事業報告に関する開示規定(法務省令)

や証券取引所の開示規制を含む。

−318−

( 12 )

(13)

務諸表本体または注記に反映されることになったためであると考えられる。

したがって,日本の場合には,現状においては注記と補足情報との画定基準 は問題にならならず,注記とその他の財務報告の手段との画定基準が問題と なることになる。これは図4のIASBのケースと同じである。

金融庁(旧大蔵省)による強制的開示情報である(ク),(ケ)および(コ)

は,日本の財務報告制度の発展に大きく貢献してきた公表範囲であるといえ よう。(ク),(ケ)および(コ)において開示される情報には,まず,財務 諸表等規則や連結財務諸表規則で規定される多種多様な附属明細表が含まれ ると考えられる。これらは監査対象となるために(オ)または(カ)に含め るべきであるとも考えられるが,会計基準設定主体が公表する会計基準によ り規制されているわけではないので,厳密には(ク),(ケ)または(コ)に 含まれると考えるべきであるように思われる。(ク),(ケ)および(コ)に おいて開示された情報として重要なのは,1976年の連結財務諸表の導入(添 付書類),1987年の資金収支表の導入およびセグメント情報の導入,1990年 の有価証券等の時価情報の開示,1997年ストック・オプション制度に関する 情報の開示などである。これらは(ク),(ケ)および(コ)においていった ん開示がいわば試験的に強制され,その後の1990年連結財務諸表の財務諸表 本体への組み入れおよび1999年連結キャッシュ・フロー計算書の導入のよう に財務諸表(ア)での開示に移行したり,また1993年セグメント情報の注記 および2006年ストック・オプション制度に関する情報の注記のように注記

(イ),(ウ)および(エ)での開示に移行したり,さらには1996年有価証券 等の時価情報の注記から2000年財務諸表における有価証券等の時価評価導入 のように,注記(イ)を経由して財務諸表本体(ア)での開示に移行したり することによって,日本の財務報告制度の漸進的な発展段階の第1段目とし ての役割を果たしてきたと考えられる。

金融庁(旧大蔵省)による強制的開示情報のうち記述的情報である(コ)

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −319−

( 13 )

(14)

には,「企業内容の開示に関する内閣府令」(旧大蔵省令)によって規定され る様々な情報が含まれ,このなかには財務報告の範囲には含まれない(ソ)

との区別が困難なものも存在するものと考えられるが,近年,最も重要視さ れていると思われるのが2003年に導入された「財政状態及び経営成績の分 析」であろう。これはSECのレギュレーションS−Kによる「経営者による 説明および分析(MD&A24)」の日本版として導入されたものであり,有価 証券届出書(または報告書)に記載した事業の状況,経理の状況等に関して 投資者が適正な判断を行うことができるよう,報告書提出会社の代表者によ る財政状態及び経営成績に関する分析・検討内容(例えば,経営成績に重要 な影響を与える要因についての分析,資本の財源及び資金の流動性に係る情 報)を具体的に,かつ,わかりやすく記載することが求められている(第二 号様式,記載上の注意34‐2)。また,「将来に関する事項を記載する場合には,

当該事項は届出書提出日現在において判断したものである旨を記載するこ と」という規定からもわかるように,企業の将来予測に関する情報という,

これまで財務報告が開示対象としてきた25)情報とはかなり異質な情報が含ま れていることが特徴であるといえよう。

自発的開示(サ),(シ)および(ス)に含まれる情報には,主として企業 IR活動によって開示される財務情報およびそれに関連する非財務情報が 含まれると考えられる。また,知的財産報告書の開示もこれに含まれるよう に思われる。これらの情報は,近年,質・量ともに増加傾向にあるという26)

最後にその他の情報(セ)および(ソ)について述べれば,この公表範囲

24)これについては,さしあたり,町田祥弘『会計プロフェッションと内部統制』

税務経理協会,2004年,94103頁,記虎優子「記述会計情報開示の国際的動向」

(平松和夫編著,前掲注(1)所収),319335頁などを参照。

25)従来,将来の予測は情報利用者の役割とされてきた(FASB,op. cit. supranote (1), par.21.(平松一夫・広瀬義州訳,前掲注(2),19頁。))。

26)児島幸治「自発的開示を巡る国際的動向」(平松和夫編著,前掲注(1)所収),307 頁。

−320−

( 14 )

(15)

における近年のトピックは,環境報告書,CSR(企業の社会的責任)報告書,

サステナビリティ報告書などの報告書による情報の開示であるように思われ る。これらの報告書による情報開示により,その他の情報(セ)および

(ソ)に含まれる開示情報は,やはり飛躍的に増加してきているといえよう。

以上のように,日本における財務報告およびその他の情報開示は,あらゆ る公表範囲において質・量ともに増加する傾向にあり,様々な情報が様々な 公表範囲において雑多に公表されている状態であるといえるように思われる。

Ⅳ ビジネス・リポーティング論の意義

財務報告において公表される情報に関する過去の議論としては,その代表 的なものとして,ビジネス・リポーティングに関する議論があげられる。こ のビジネス・リポーティングに関する議論は,現行財務報告に関する議論に どのような意義をもつのであろうか。

ビジネス・リポーティング論は,いわゆるジェンキンズ・リポート27)にそ の端緒があると考えられる。ジェンキンズ・リポートは,①経営者が,経営 者以外の者であっても利用できるようにすべき情報の性質および範囲および

②かかる情報の様々な要素について,監査人が行なうべき監査報告の範囲を 勧告することを目的として作成されている。ここでは同リポートについて,

わが国の財務報告情報を棚卸しするという目的に必要である部分についての み検討することにする。

まず,ビジネス・リポーティングの意義および範囲であるが,ジェンキン ズ・リポートの説明は次のとおりである。

「企業についての資本配分の意思決定を行う利用者に役立つように企業が

27) AICPA, Special Committee on Financial Reporting,Improving Business Reporting−A

Customer Focus, AICPA, 1994.(八田進二・橋本 尚訳「アメリカ公認会計士協会・

ジェンキンズ報告書 事業報告革命」白桃書房,2002年。)

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −321−

( 15 )

(16)

提供する情報。ビジネス・リポーティングは多くの異なる要素を含むもので あり,財務諸表もかかる要素の1つである28)

また,FASBスペシャル・リポート「財務報告およびビジネス・リポー ティング:ニュー・エコノミーからの挑戦」にも,次のような説明がある。

「ビジネス・リポーティングには,営利企業が提供する情報のより広範な

分野(universe)が含まれ,経営者による説明と分析,年次報告書において

提供される情報,アナリストに対するプレゼンテーション,ファクト・ブッ ク,および会社のウェブサイトにおいて提供される企業情報が含まれる29)

これらをみても,ビジネス・リポーティングは,Ⅱで検討した財務報告と どこが異なるのか,いまひとつ明確ではないように思われる。とりわけ後者 の文献には,「財務報告には,基本財務諸表およびこれに付随する注記が含 まれる30)」という説明があり,「財務報告」を「FASB基準による規制対象(保 証業務対象)の情報」程度に狭く解して,「ビジネス・リポーティング」を

Ⅱでみた広い意味の「財務報告」と解することもできてしまう。

そこで,ジェンキンズ・リポートの勧告内容をもう少し検討してみること にする。ジェンキンズ・リポートの勧告は,大別して次の4つからなると考 えられる。

① 報告基準設定範囲の拡大(財務報告からビジネス・リポーティング へ)

② 監査(保証業務)対象の拡大(財務報告からビジネス・リポーティン グへ)

③ 財務報告自体の改善

④ ビジネス・リポーティングの改善(「包括的モデル」の提示)

28)Ibid., p.2.(同上訳書,30頁参照。)

29) W. S. Upton, Jr.,FASB Special Report, Business and Financial Reporting, Challenges from the New Economy, FASB, April 2001, p.4.

30)Ibid.

−322−

( 16 )

(17)

ここで,①と②は表裏一体のものである。「財務報告」を狭義にとると,「ビ ジネス・リポーティング」へ拡大するべきであると勧告しているのは,開示 される情報の量や質ではなく,報告基準設定対象となる(すなわち,保証業 務の対象となる)情報の拡大であると解することができるように思われる。

規制対象となる範囲の規準は「情報利用者のニーズ」である,という考え方 を提示してはいるが,これも報告対象となる情報を拡大することを勧告して いるわけではなく,規制対象となる情報を拡大することを勧告しているに過 ぎないと考えられる。

次に,③の内容を検討してみることにする。ここで行われている勧告は,

次のとおりである。

!

1 財務諸表および関連ディスクロージャーの改善に関する勧告31)

① ビジネス・セグメント情報の開示を改善

② 革新的金融商品に係る開示および会計

③ オフバランス金融契約の識別,機会およびリスクに関する開示の改 善ならびにかかる契約に係る会計の再検討

④ 主たる活動および事象の影響と,副次的な活動および事象の影響と を別々に報告し,また副次的な資産および負債を公正価値で測定

⑤ 一定の資産および負債の測定値の不確実性に関する開示を改善

⑥ 第4四半期に関する報告を分離して行ない,ビジネス・セグメント 情報を導入することにより,四半期報告を改善

⑦ 比較的目的適合的ではない開示を削除

31) AICPA, Special Committee on Financial Reporting,op. cit. supranote (27), pp.6892.

(八田進二・橋本 尚訳,前掲注(27),130168頁。)

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −323−

( 17 )

(18)

!

2 財務諸表および関連ディスクロージャーの改善に関して優先順位の低 い問題32)

① 価値ベースの会計モデル

② のれんをはじめとする無形資産に係る会計

③ 予測財務諸表

④ 企業結合に係る会計

⑤ 代替的会計原則

!

1の勧告は,日本においても,すでにかなりの程度,財務報告に取り入れ られていると考えられる。また,!2の優先順位の低い勧告でさえも,すでに 会計基準の改訂が行われたり,審議中であったりするものが多いように思わ れる。

さらに,勧告④の「包括的モデル」についても検討してみたい。ジェンキ ンズ・リポートの「包括的モデル」とは,図6のようなものである33)

この「包括的モデル」に含まれる情報についても,やはり現在の財務報告 においてすでに開示されている情報がほとんどであるといってもよいように 思われる。すでに指摘したように,2003年の「財政状態及び経営成績の説 明」の導入により,予測情報も導入されている。

このように,ジェンキンズ・リポートで勧告された「ビジネス・リポーティ ング」は,開示される情報の量や質という面においては現行財務報告とそれ ほど変わらないように思われる。したがって,現行財務報告の改善モデルと しては,ビジネス・リポーティングはさほど意義を有しなくなってきている といえよう。

32)Ibid., pp.9397.(同上訳書,170177頁参照。)

33)Ibid., p.136.(同上訳書,237頁参照。)

−324−

( 18 )

(19)

Ⅴ 結びに代えて

以上で述べたように,日本における財務報告およびその他の情報開示は,

あらゆる公表範囲において質・量ともに増加する傾向にあり,様々な情報が 様々な公表範囲において雑多に公表されている状態であるといえるように 思われる。さらに指摘するならば,最近では社会的責任投資(Socially Re- sponsible Investment ; SRI)という言葉に代表されるように,「個人や機関投 資家が企業に投資する際の基準に,経済的な指標と同時に,社会的な指標も 考慮する動きが広がっている34)」という。そうであるとすれば,自発的開示 であるということもあり,「その他の情報」に含まれると一般的には考えら れてきた環境報告書,CSR報告書,サステナビリティ報告書などの報告書 による情報の開示も,財務情報に「直接または間接に関連している」情報で

34)谷本寛治「社会的責任投資とは何か」(谷本寛治編著『SRI社会的責任投資入門』

日本経済新聞社,2003年,所収),1頁。

図6 包括的モデル(Comprehensive Model)

Ⅰ.財務情報および非財務情報

!A 財務諸表および関連ディスクロージャー

!

B 経営者が経営に利用する高水準の経営情報および業績測定値

Ⅱ.財務情報および非財務情報に関する経営者の分析

!A 財務情報,経営情報および業績関連情報における変化の理由ならびに主たる傾 向の識別および過去の影響

Ⅲ.予測情報

!A 機会およびリスク

!

B 重要な成功要因をはじめとする経営者の計画

!

C 過去に開示された機会,リスクおよび経営者の計画と実際の事業業績との比較

Ⅳ.経営者および株主に関する情報

!A 取締役,経営者,報酬,主要株主および取引ならびに関連当事者間の関係

Ⅴ.会社に関する背景情報

!A 広範な基本目的および戦略

!

B 事業および財産の範囲と説明

!

C 会社に対する産業構造の影響

財務報告の意義と公表情報の棚卸し(長束) −325−

( 19 )

(20)

あると考えられ,「財務報告」に含めても概念的には問題がなくなってきて いるといえよう。

また,紙媒体やテレビ・ラジオなどの媒体以外の情報伝達手段であるイン ターネットの発達,IR活動の活発化に伴う自発的開示情報により,雑多な 情報が雑多な公表範囲において報告される傾向は強まるばかりである。

しかるに,現状の財務報告においては,いかなる種類の情報がいかなる公 表範囲において報告されなければならないのかに関する基準(情報の画定基 準)が明確になっているとは必ずしもいえないように思われる。かかる状況 には,次のような問題がある35)

① 異質のまたは多種多様な情報が未整理のまま外部の情報利用者に対し て開示されることになり,情報の有用性が損なわれる。

② 監査(保証業務)責任が不明確となる。

③ 会計基準の設定対象が不明確となる。

また,次のような問題もあるように思われる。

④ 同種の情報を複数の公表範囲において開示しなければならない可能性 があり,企業の過重負担問題の一因となりかねない。

以上のような問題点を解決するためには,情報の画定基準を明確にしなけ ればならないと考えられるが,それが困難であるならば,未整理な情報どう しの関連性を情報にタグ付けし,情報利用者が必要な情報を容易に利用でき るようにするのが早道かもしれない。それを可能にしようという動きの1つ がエンハンスト・ビジネス・リポーティング(Enhanced Business Reporting ;

EBR)であると考えられるが,このEBRにはどのような情報が含まれるの

か,また財務報告やビジネス・リポーティングとはどう異なるのかなどの EBRの意義と特徴については,稿を改めて検討することにしたい。

35)広瀬義州『会計基準論』中央経済社,1995年,202頁。

−326−

( 20 )

参照

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