ユーロ―歴史と展望
著者 池本 大輔
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 27
ページ 31‑32
発行年 2011‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2169
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ユーロ―歴史と展望
池 本 大 輔
(テーマ選択について)
明治学院大学法学部に赴任した後はじめて行う研究発表であることから、これまで中心的に研 究してきた欧州通貨統合史をテーマとして取り上げるべきだと考えた。折しも、ギリシャを始め とする加盟国の財政危機をきっかけとしてユーロの先行きに対する関心が高まっているところで ある。ユーロの問題点を歴史的な視点から分析するという形をとったことで、専門の異なる先生 方にも自らの研究内容・意義を理解して頂けたのではないかと考えている。
(報告内容)
報告の要旨は以下のとおりである。
⑴ 欧州通貨統合の歴史(共同変動から欧州通貨制度まで)
欧州通貨統合の歴史は、国際的な固定通貨制度であるブレトンウッズ体制が1973年に崩壊した ところから始まる。ドルや円などの通貨は変動相場制に移行したが、フランスや西ドイツに代表 されるヨーロッパ諸国の通貨は、相互の間では固定制を維持し、第三国の通貨に対しては共同で 変動するようになった(欧州通貨の共同変動)。共同変動は石油ショックに伴う世界経済の混乱 によって挫折したが、1979年に欧州通貨制度という形で制度化された。
⑵ 単一通貨ユーロの創設
欧州通貨制度が単一通貨ユーロ創設へとつながったのは、冷戦の終焉と東西ドイツの統一のた めである。統一ドイツが周辺諸国にとって潜在的な脅威になると考えられたので、当初はアメリ カを除く関係国の間ではドイツ再統一に反対する意見が強かった。やがて欧州統合を強化してそ の中に統一ドイツを組み込めば、周辺諸国にとって脅威にならない形でドイツ統一を進められる と考えられるようになった。欧州統合を強化するため当時のフランス大統領ミッテランと西ドイ ツ首相コールが選んだ方法が、単一通貨ユーロの創設だったのである。ユーロの創設は極めて政 治的なプロジェクトだということが出来よう。
⑶ ユーロの仕組み
32 定例研究会
ユーロ圏では、金融政策はヨーロッパ中央銀行に一元化されているが、財政政策(予算)は各 国ごとに決定されている。両者の間の調整をどうやって行うかがEUの大きな課題である。単一 通貨の具体的な問題点としては、ユーロ圏全体として単一の金融政策を実行しなければならない こと、参加国間で為替レートを変更することが出来ないことが挙げられる。
マクロ経済運営にあたって、景気の悪い国は金利を引き下げることによって経済活動を活発に し、逆に景気が過熱している国は金利を引き上げることによって経済活動を引き締める。けれど も、ドイツやフランスは景気が良く、ギリシャやスペインは景気が悪いとしたら、全てのユーロ 参加国にとって望ましい金融政策は存在しないことになる。
単一通貨を用いることは、その参加国の間では為替レートが完全に固定されていて変更不可能 であることを意味する。そこで経済的に弱い国には、通貨価値の下落によって国際競争力を高め、
経済成長を実現するという選択肢がない。
これらの事態は、日本やアメリカの中でも起きている。しかし国内での経済的な不均衡は、景 気の悪い地域から良い地域への労働力の移動と、中央政府による富の再分配によって緩和されて いる。EUの場合は、言語の違いのため国境を越えた労働力の移動が少なく、EU自身の予算の規 模が小さいため問題が深刻になる。結果として、ユーロ圏の中では経済的な格差が拡大しつつあ り、これが最近のユーロ危機の構造的な要因である。
(結びに代えて)
政治学科の先生方だけでなく、専門の異なる理系の先生方にも御出席頂けたのは幸いであった。
質疑応答ではアメリカ一辺倒の日本外交との対比を念頭に置いた鋭い質問が出された。ユーロに ついてはもっぱら経済的側面に着目する議論が多いが、ヨーロッパ統合について研究するにあ たって、関係各国の外交姿勢全体を視野にいれる必要があることを改めて自覚させられた次第で ある。