板状切欠材の疲労試験について
(表面圧延せる切欠が曲げ方向に直角の場合)
斎藤 葆・宮野泰治・山崎保輔
FatigueTestofPlateSpecimenswithNotches.
(TheCaseofSurface‑RolledNotchesataRightAngleto
● ごL
theBendingDirection.)
ShigeruSAITo,TaijiMIYANoandYasusukeYAMAzAKI
(昭和48年10月31日受理)
機械的性質 表1
1. 緒 言
材料の耐疲労性向上の一つに表面処理法があることは よく知られているが,その一方法として著者らの一人は 鋼の青熱温度範囲で表面をローラ圧延する,いわゆる温 間ローラ加工が圧入軸の疲労強度の向上にかなり有効な 方法であることを明らかにしている')〜3)。もちろん,
温間ローラ加工処理はそれ自体の耐疲労性向上のほか に,従来の常温のもとにおける表面ローラ圧延の耐疲労 性向上の効果をさらに上回る方法でなければ意味がな い。回転曲げの疲労においては,著者らは段付部や切欠 部においても優れていることは, まだ未発表であるがす でに実験を行なって確かめている。
そこで,今回は板材の平面曲げの場合についても,そ の有用性を期待し,切欠を付した試験片による一連の実 験を計画した。疲労に関する常温時での表面ローラ圧延 効果の資料は,回転曲げやねじりに関しては多いが4)5),
板材の平面曲げに関しては少ないようである。本報告は 実験の途中経過として, まず常温時の表面ローラ圧延が 切欠を有する板材の平面曲げの場合においてもかなりの 疲労強度を向上させるものであることを確かめたので以 下に報告する。
│聯豪│繍毫' '1%亨|
上降伏点
("/""2) 絞り(%)
28.8 44.2
29.7 29.70 47.4
1R
図1 試験片の形状
=1.636)となる。
これら試験片について,切欠ゑぞを圧延しないもの
(非加工材) , ローラ圧延荷重76.66ル3,圧延回数2回
(加工材A) , ローラ圧延荷重128.13〃9,圧延回数2回
(加工材B)の3種類に分けて実験を行なった。
ローラ圧延による疲労強度上昇の理由として,適当 な,加工硬化層,圧縮残留応力,表面の材質的な変化な どが考えられるが,それらの最適値を与える一つの要因 として, さらに,材種,形状,圧延回数などを要因とし た適当なローラ圧延荷重があるものと思われる。そこで 今回は主として硬化深さによる影響を検討するために,
圧延回数を2回に定め,数種の圧延荷重に対して断面の かたさ変化を調べた。その結果として,試験片最小厚さ 2. 実験方法
2.1試 験 片
実験に用いた材料は市販の一般構造用圧延平鋼材(S
S41)で, 930。Cに30分間保持した後,炉中冷却の焼な ,
まし処理を施して使用した。熱処理後の機械的性質は表 1に示す。これを図1に示す形状の試験片に機械加工し た。中央部の半円断面の切欠ゑぞはシヤルピーノッチ用 のフライスによって成形した。この場合の形状係数はa
いる。この圧廷装置を形削盤の辺物台に取り付け,切欠 部の圧延加工を行なった。圧延荷重Pは図2(b)に示し たレバー比により求められる。これによって,重錘5.41 的および10622ル,がそれぞれ圧延荷重76.66ル9, 128.13〃
となる。
表面圧延による鋼の疲労試験では,表面圧延力をヘル ツ圧力で表わしたほうが実験結果の応用に際して普遍性 が得られる4)5)7)と言われている。本実験の場合におい ても,接触面の形状を簡単な形状に仮定してヘルツ圧力 を計算した。図4は試験片の圧延状況を示したもので,
が4加肌という薄さのために明白な相違を確認することは 困難であったが,表面硬化が認められ,しかも断面中心部 に素材のかたさを残すものの代表例として,上記2種類 の圧延荷重条件による疲労試験を行なったものである。
2.2実験装置
図2(a)に本実験に使用した圧延装置の説明図を示 す。圧延ローラはS45C材でその形状は図3に示すとお りで,直径58.1 ,転動面半径は1加脱で転動面部分を アセチレンガスバーナーによって加熱し水焼入を施して
−
−
図4 ローラと試験片の接触状態
圧延ローラおよび試験片の接触を幅』,半径rなる円柱 面と平面との接触に近似する。いま接触する物体がとも に鋼であり,ポアソン比を0.3とすれば,ヘルツ式より ローラ圧延荷重Pのときのヘルツ圧力力0は次のようにな
る。
重錘
(α)圧延装置概略図
$
po=0.418/霊
ただし,Eは縦弾性係数で,本実験においてE=2.1 xlO4"/"2, 1=2", r=29.05鰯鯛とおけば,各圧 延荷重に対するヘルツ圧力はそれぞれ70.0ル9/ 2, 90.0 北" 2となる。
疲労試験はアプトンルイス繰返し曲げ試験機(450回
/分)を用い両振り平面曲げ試験を行なった。
A
P
j岬重G自W
〃J■1︑●〃帥狗柿α10.1W
︻尾里︾句︒︲全一日日︽●●5353#一一一一一一一一一一26α呪P
(圧延荷重)
(6)レバー比
図2 圧延装置の説明図
3. 実験結果および考察
各試験片の切欠部最小断面のかたさ分布を調べるた め,軸方向に切断しエメリー紙04まで研摩後,パフ仕上 げし,マイクロビッカースかたさ試験機を用いてかたさ を測定した。ただし切欠半径が1卿蝿できわめて小さいた め,表面から100〃の深さを出発点として中心部へ250浬 間隔に測定, 3回の測定による平均値をとった。その結 果は図5に示すとおりである。非加工材は,表面より100 膠のところまでは切削によるものと思われる加工硬化層 がゑられるが, 350脾の深さではすでに素材のかたさを 呈している。加工材A,加工材Bについては, ローラ圧 延による硬化の傾向が明らかに認められ,また圧延荷重
9
4
ぐ
図3 圧延ローラの形状
表2 実験結果
250
試験片種類 |非加工材│加工材A│加工材B
O非加工材
●加工材A〈ヘルツ圧力70.0吋偉鰯)
◎加工材B( . 〃 .o々/画')
000521
︵畠︶和裡︽やKl侭託.辿口︑︸︐
圧延荷重(ル,)
圧延圧力(ヘルツ圧力)
(ル,)
加工硬化深さ(加加)
(鍔上総熟畿)
半分疲労限度(〃/鰯協2)
疲労限度上昇率(%)
( ・"‑. × ,00 )ぴwo
128.13 90.0
1.1 76.66 70.0
0.85
00
−
0.42 (ow) 24.20
0.55 (ow) 20.66
−
.−.ニータう●卒く
習丹士鑑鰄
(owo) 13.80
75.4 49.7 0.1 0.35 0.6 0.路 1.1 1.35 1.6 1.85 0
表面からの距離( )
図5 各試験片断面のかたさ分布
の大きい加工材Bが加工材Aよりも,硬化の程度が大き いようである。それぞれについての硬化深さを正確に求 めるには, この結果から不可能であるが,以後の検討の ために大略の傾向として承るならば,加工材Aは約0.85 蝿凧,加工材Bが約1.1加腿と承なされるようである。
図6にこれら試験片の平面曲げによるS−N曲線を,
また表2に疲労限度および疲労限度上昇率を示した。こ の場合の応力は切欠部最小断面の表面に生ずる公称応力 値である。図6より非加工材と加工材AとはN=3×105 までは時間強度の傾向はだいたい同じであるが,疲労 限度ではかなりの相違があって,加工材Aに著しい上昇 が承られる。また加工材BはN=105までの応力範囲で は,非加工材よりも時間強度はやや小さいがN=105以 後の応力範囲では逆に大きくなる傾向がゑられ,疲労限 度も上昇している。表2に示してあるとおり,それぞれ の非加工材に対する疲労限度上昇率は,加工材Aが75.4
O非加工材
●加工材A
、加工材B
︵御僅ミミ︶ざ遡豐恕礫筵笛厘汁
︵訳︶掛味当遡竪恕礫 105・
000
30●
20 ◎
10
0 20 40 60 80 100
ヘルツ圧力風(ルワ/ 2)
ヘルツ圧力と疲労限度および 疲労限度上昇率の関係 図7
%,加工材Bが49.7%であった。また2つの加工材を比 べてゑた場合,加工材Aのほうが加工材Bよりも疲労限 度が3.5〃,/ 2高く,時間強度の点からゑても,加工材 Aのほうが優れているようである。以上のことから,実 験範囲内では,平面曲げを受ける鋼板の切欠部に表面圧 延することによって,時間強度の上昇はさして期待され ないが,疲労限度は明らかに上昇の効果がゑられる。
図7に加工材のヘルツ圧力に対する疲労限度と,その 上昇率の関係を示した。実験点が少ないので最適ヘルツ 圧力を承ることは出来ないが, これまでの河本,西岡ら の回転曲げや両振りねじり疲れによる結果 )7)による と,応力状態,材質,切欠の程度などによっても異なる が,例えば,炭素鋼および鋳鉄の平滑試験片による回転
零具々︶︑轟畷侭笹
磯返し数(胴
各試験片 のS−N曲線 図6
‐●
霊、
一 o非加工材
●加工材A(ヘルツ圧力 o今揖)
◎加工材B( , .o今榿)
I ‑ │
識
〜 一
﹃d■■■4 や岸津
、Q
関係としてゑた場合に,同じような傾向を示していると いうことになる。このように,ある硬化深さの割合のと きに最大の疲労強度を示すことは,高周波焼入材におい てはすでに確かめられていることで,硬化深さと疲労強 度の関係は,硬化深さが深すぎても浅すぎても疲労限度 は低下するものであって,例えば硬化比(未硬化部分の 径/試験片直径)が0.4程度*で最大の疲労強度を示す という報告結果9)があるが,表面圧延の場合にも一般的 にこのような傾向が成立するのではないかと思われる。
以上のことから,最適表面圧延条件を示すものとし て,塑性域にまで拡張して使用するヘルツ圧力によって 検討することは確かに一つの方法ではあるが,試験方 法,材質,形状などの異なるものを比較するときには相 互にあまり関連性がないようである。また,現段階では 資料が不足しているため明確なことは言えないが,表面 圧延条件として硬化深さの割合をふることは今後さらに 検討すべき問題のようである。
◇本実験(SS41,板材,。=1.63)
4)
令河本,西岡(0.32%炭素鏑,12..。=l)
8)
‑似吉田,ほか(SS41,,0.,。=1.2)
令吉田,ほ力j)(SS4,.,06,。=,.48)
1000
000
00
釦48︵壜ミ今︶酋兵出夢ミノく
〆
一二一一一一一一一一一ごニニニ晟参猛200
0
1 2 3 4 5
表面よりの硬化深さ(緬鯉)
図8 ヘルツ圧力と硬化深さの関係
曲げ疲労においては,前者が620〜720k,/ 2,後者では 300ル3/ 2のヘルツ圧力が最適圧力であって,それ以上 の圧力ではかえって疲労限度が低下していく結果4)など から,本実験の場合にも最適ヘルツ圧力の傾向として は,少なくとも90.0ル'/ 2以下のところにあって,それ 以上の圧力になると材質の弱化をきたし疲労限度が低下
していくであろうことが予想出来る。
ここで,本実験のヘルツ圧力の値が小さいのは,試験 片材質,熱処理,切欠形状,応力状態などの違いによっ たものと思われる。そこで,図8にこれまでの報告結・
果4)$)から, ヘルツ庄力と硬化深さの関係について整理 しなおして示して象た・その結果,吉田ら8)の同じSS 41材に対する硬化深さとヘルツ圧力の関係に,実験方法 が異なるにもかかわらず,著者らのものが同じような傾 向にあることがわかる。ところで,吉田らの実験では,
半径2および10"脱の環状切欠を持つ直径10 の試験片に 圧延ローラ加工をしたものであるが,試験片中心部まで 加工硬化が及んでいるもの(ヘルツ圧力300均/ 2)で も, まだ疲労限度の向上が承られていた8)。しかし,本 実験においては,前述の如く,試験片の硬化深さの割合
(硬化深さ/試験片厚さの半分)が0.5以上になるよう なヘルツ圧力90.0〃8/ 2では,すでに最適ヘルツ圧力を 過ぎ,圧延による弱化の影響があらわれる傾向にある。
河本らの0.32%C炭素鋼12'平滑材の両振りねじりに関
する研究報告4)から,最適ヘルツ圧力時の硬化深さの割 合を推測すれば大略0.38くらいのところにあるようで,
本実験結果において,いま最も疲労限度上昇を示してい る場合のヘルツ圧力70.0k,/ 2のときの硬化深さの割合 は0.42であるから,硬化深さの割合と最適ヘルツ圧力の
4. 結 言
本実験の結果を要約すれば次のとおりである。
(1)半円断面の切欠ゑぞを有する板材のゑぞ部に表面 ローラ圧延することにより,平面曲げ強度は著しく向上 する。しかし,時間強度の向上はゑられなかった。本実 験の範囲では,ヘルツ圧力にて70.0〃/ 2のとき75.4
%,ヘルツ圧力90.0〃9/ 2では49.7%の疲労限度上昇 率を示した。
(2)最高の疲労限度上昇率を示す最適ヘルツ圧力があ って,それ以上の圧力になれば,圧延による弱化の影響 が考えられ疲労限度上昇率は低下していくような傾向が ある。
(3) これまでの報告結果などを比較すれば,最適ヘル ツ圧力の値は材料,実験方法,形状などの異なるものに 対しては相互に関連性がないようである。
(4)表面ローラ圧延において,疲労限度の上昇と硬化 深さの割合について検討することはこれまであまり行な われていないようで,硬化深さの割合の資料は少ない が,最適ヘルツ圧力時おける硬化深さの割合を検討して ゑた場合,実験方法が異なっていても似た傾向があるの ではないかと予想された。今後,多数の試料について実 験を行ない検討する必要があると思われる。
さらに;表面ローラ圧延条件としては組織的変化,残 留応力なども重要な要因であると思われる。
*本実験の場合の硬化深さの割合で示せば0.6程度と なる。
終りに,実験を行なうにあたって協力してくださった 当時学生飯利春三,木村長二両君らに感謝いたします。
4) 河本,西岡,機械学会論文集, 18, 104および 108(1952)
日本機械学会編, 帆疲れ強さの設計資料Ⅱ表面 効果〃P.79(1969)
日本材料学会編, 、、疲れ試験便覧〃P.29(19 68)養賢堂
河本,ほか3名,材料試験, 3, 19(1954)
吉田,ほか2名,材料, 18, 695(1%9)
林,夏目,材料, 18, 1100(1%9)
5)
参考文献
1)斎藤,小笠原,ほか2名,塑性と加工, 12,846
(1971)
2)斎藤,小笠原,ほか2名,塑性と加工, 13,825
(1972)
3)斎藤,小笠原,ほか2名,塑性と加工, 14,392
(1973)
6)
7)
8)
9)