国 内 金 融 メ カ ニ ズ ム か ら の ア ナ ロ ジ ー
松 井 均
第1節 は じ め に
本 稿 の 目的 は,あ る特 定 の 国 の 国 民 通 貨 を 国 際 決 済 手 段(国 際流 動 性)と し て 用 い る基 軸 通 貨 制 の ワ ー キ ング につ いて,国 内 金 融 メ カニ ズ ム か らの ア ナ ロ
ジー に も とづ き,理 論 的 考 察 を行 な う こ とで あ る。
本 稿 の主 な結 論 は次 の 通 りで あ る。 、
〔1〕 基 軸 通 貨 へ の 信 認 が 維 持 され る ため に第一 義 的 に 必 要 な こ とは,基 軸 通 貨 国が 金(Gold)を 保 有 して基 軸 通 貨 の 金 交 換 性 を 裏 付 け る こ とで は な く,基 軸 通 貨 国 が 対 外 純 債 務 を負 わ な い こ とで あ る。 基 軸 通 貨 国 が対 外純 債 務 を負 わず,む しろ対 外 純 債 権 を獲 得 し,増 や す く らい に基 礎 収 支 が 堅 調(均 衡 な い し黒字)で あ れ ば,基 軸 通 貨 へ の 信 認 は次 第 に 強 化 され,基 軸 通貨 に金 交換 性 が 無 く と も 「基 軸 通 貨 本 位 制 」 の 形 態 で の 固 定 為 替 レー
ト制 運 営 が 可 能 で あ る。
げ
〔H〕 「基 軸 通 貨制 下 で は基 軸通 貨 国が 対 外 純 債 務 を負 う こ とに よ っ ての み 国 際 流動 性 を 世 界 に供 給 す る こ とが で き るの で あ るか ら国 際 流 動 性 の供 給 量 が 増 え る ほ ど基 軸通 貨へ の信 認 は低 下 す る」 と説 く流 動 性 ジ レ ンマ 論 は, 誤 りで あ る。 基 軸通 貨 国 は 自国 の基 礎 収支 を均 衡 な い し黒 字 に保 ちつ つ, 対 外 短 期 債 権 の見 返 り と して 基 軸 通 貨 を世 界 に供 給 す る と い う方 法 に よ り, 基 軸 通 貨 の 信 認 を落 とす こ と な く基 軸 通 貨 を世 界 に い く らで も必 要 な量 だ
け供 給 しつ づ け る こ とが で き る。
原稿提 出日1985年11月25日
〔237〕
2&8
商 学 討 究 第36巻 第3号本 稿 の構 成 は次 の 通 りで あ る。 まず 第2節 で は,国 内 取 引 決 済 の 大部 分 を 占 め る預 金 通 貨 が 発 行 され 使 用 され る メ カニ ズ ム及 び 貨 幣 と して の 信 認 を 保 つ た め に必 要 な条 件 につ いて 考 察 す る。 第3節 で は,第2節 で の 議 論 を踏 ま え,こ れ とアナ ロガ スな論 理 を国 際 金 融面 に 展 開 し,上 記 の 結 論[1],[皿]を 導 く。
第4節 で ま とめ を行 な う。
第2節 預 金 通 貨 の 供 給 と信 認
一 国 内 に お い て,民 間 非銀 行 経 済 主 体(企 業,家 計 等)同 士 の取 引決 済 に用 い られ る手 段 の うち,金 額 的 に大 部 分 を 占め るの は現 金 で は な く,こ れ ら民 間 非 銀行 経 済 主 体 が 市 中 銀 行 に 設 置 して い る一 覧 払預 金 す な わ ち 「預 金 通 貨 」 で あ る。 この 預金 通 貨 は次 の い ず れ か の ル ー トに よ って 民 間非 銀 行 経 済 主 体 に発 行 され る。(以 下 で は説 明 を簡 潔 にす るた め,民 間 非 銀 行 経 済 主 体 を 「顧 客」
と呼 ぶ 。)
① 顧 客 が 市 中 銀 行 に現 金 を預 け入 れ,そ の 見 返 り と して市 中 銀 行が 顧 客 に預 金 残 高 を供 与 す るル ー ト。
(1γ 顧 客 が 政 府 な い し中 央 銀 行 に 対 して 物 品 販 売,労 務 提 供,資 産 売 却等 を行 な い,そ の 代 金 と して,.ま ず 中 央 銀 行 が この 顧 客 の 指 定 す る市 中 銀 行 に 中 央銀 行 準 備 預 金 残 高 を供 与 し,次 いで その 見 返 り に この 市 中 銀 行 が この顧 客 に 預金 残 高 を供 与 す る ル ー ト。
(1}"顧 客 が 市 中 銀 行 に外 貨 も し くは流 動 性 資 産 を売 却 し,そ の 代 金 と して 市 中 銀 行 が 顧 客 に預 金 残 高 を供 与 す る ル ー ト。
(2>顧 客 が 市 中 銀 行 か ら貸 し出 しを受 け る こ とに よ り,市 中 銀 行 が顧 客 に 預金 残 高 を供 与 す るル ー ト。
③ 顧 客 が 市 中銀 行 に対 して 物 品 販 売,労 務 提 供,非 流 動 性 資 産 売 却 等 を 行 な い,そ の代 金 と して,市 中銀 行 が 顧 客 に預 金 残 高 を供 与 す るル ー ト。
この うち,(1),{1)',口)"の ル ー トで 預 金 通 貨 が 市 中 銀 行 か ら顧 客 へ 発 行 さ れ る際 に は,こ れ と並 行 して市 中 銀 行 はハ イパ ワー ド ・マ ネ ー(現 金 及 び 中央 銀 行準 備 預 金)も し くはデ・イパ ワ ー ド ・マ ネ ー ・アベ イ ラ ビ ワテ ィ(外 貨 η 及
び 流動 性 資産)を 獲 得 す るが,② の ル ー トで 預 金 通 貨 が 発 行 され る際 に は,市 中 銀行 は単 に 「貸 し出 し」 と い う帳 簿 上 の 債 権 を 獲得 す るの み で,ハ イパ ワー
ド ・マ ネ ー もハ イパ ワ ー ド・マ ネー ・アベ イ ラ ビ リテ ィ も獲得 しな い(表2, 1参 照)。 この違 い を区 別 す る ため,一 般 に(少 な く と も本 稿 で は),(1},(1γ, (1)"のル ー トで 発 行 され る預金 通 貨 を 「本 源 的預 金 」 と呼 び,他 方 ② の ル ー ト
で 発 行 され る預 金通 貨 を 「派 生 的預 金 」 と呼 ぶ 。 そ して 派 生 的 預金 の発 行 を特 に 「信 用 創 造」 と呼 ぶ。 とは 言 え,(1),(1)ワ,(1》"に お いて も(2)にお い て も市 中 銀 行 は,預 金 通 貨 発行 に 際 し,預 金 残 高 とい う債 務 を負 う と同 時 に,こ れ と 同額 の債 権 を何 らか の形 態(ハ イパ ワー ド ・マ ネーorハ イパ ワー ド ・マ ネ ー ・ ア ベ イ ラ ビ リテ ィorr貸 し出 し」)で 獲 得 す る点 で は 同 じで あ る。 つ ま り, (1),(1)',(1)",及 び(2)にお い て は,市 中 銀 行 は顧 客 に 対 して 純 債 務(債 務 が
債権 を上回 る分)を 負 う こ とな しに,顧 客 に預 金 通 貨 を 発 行 して い るので あ る。
これ に対 し,(3)に お いて は,市 中 銀行 は いか な る形 態 の金 融 的 債 権 も獲 得 す る こ とな く,顧 客 に純 債 務 を 負 うこ とに よ って預 金 通 貨 を発 行 す る点 が 特 徴 的 で あ る。 この よ うな ル ー ドで 発 行 され る預金 通 貨 を本 稿 で は 「純 債 務 預 金」 と 呼 ぶ こ とにす る。
い ま,さ しあ た り純 債 務 預 金 の 発 行 は考 え な い こ とに しよ う。 問 題 は本 源 的 預 金 と派生 的預 金 との関 係 で あ る。 通 常,金 融 論 の テ キ ス ト2}で は,派 生 的 預 金 は,本 源 的磧 金(顧 客 か ら市 中銀 行 へ の 現 金 預 け 入 れ)を べ 一 ス に して,以 後 市 中 銀 行 か ら顧客 へ の現 金 貸 し出 レ と顧 客 か ら市 中 銀 行へ の現 金 預 け入 れ と の 先 細 り的 連 鎖 に よ り乗 数拡 張 的 に一 定限 度(本 源 的預 金 ÷ 支払 準備 率)ま で 創 出 され る,と い う説 明 が な され て い る。 この 周知 の 「フ ィ リップ ス信 用 拡 張 公 式」 を用 い た派 生 的預 金 発 行 す な わ ち信 用創 造 の 説 明 法 は,少 な くと も次 の
2点 で ミス リー デ ィ ン グで あ る。
1)固 定 為 替 レー ト制下 で は外 貨(も ち ろん 交 換 性 外 貨 と く に基 軸 通 貨)は 市 中銀 行 に と って 完 全 なハ イパ ワー ド・マ ネ ー ・アベ イ ラ ビ リテ ィ。 管 理 フ ロー ト下 で も中 央 銀 行 によ る為 替 レー ト安定 化介 入 の度 合 いが 強 い ほ どハ イパ ワ ー ド ・マ ネー ・ア ベ イ ラ ビ リテ ィの 性 質 が 強 い 。
2)た とえ ば 館 ・浜 田[9]第7章 。
240商 学 討 究 第36巻 第3号
① 派 生 的預 金 は ま ず 本 源 的 預 金(つ ま り顧 客 か ら市 中 銀 行 へ の 現 金 預 け 入 れ, あ る い は ヨ リ広 義 に 解 釈 して ハ イ パ ワ ー ド ・マ ネ ー 預 け 入 れ な い しハ イ パ ワ ー ド ・マ ネ ー ・ア ベ イ ラ ビ リテ ィ 売 却)を ベ ー ス に しな け れ ば 生 じ得 な い か の 如 き 誤 解 を 与 え る点 。
コ
② 市 中 銀 行 が 預 金 通 貨 へ の 顧 客 の 信 認 を 損 な う こ と な く無 限 大 の 派 生 的 預 金 発 行(す な わ ち 信 用 創 造)を な し得 る こ と を 説 明 で き な い 点 。
既 に 述 べ た よ う に,派 生 的 預 金 は,市 中 銀 行 か ら顧 客 へ の 「貸 し出 し」 に 際 して,市 中 銀 行 が 帳 簿 上 の 操 作 の み に よ っ て 「無 か ら有 を 生 み 出 す 」3)よ う に 発 行 す る の で あ り,市 中 銀 行 が 本 源 的 預 金 発 行 の た め に 顧 客 か ら現 金(あ る い
、は ハ イ パ ワ ー ド 。マ ネ ー な い しハ イ パ ワ ー ド ・マ ネ ー ・ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ)を い く ら受 け 入 れ よ う が 受 け 入 れ ま い が,.派 生 的 預 金 の 発 行 可 能 額 に は 何 の 関 係
も な い の で あ る 。 た と え ば,い ま 市 中 銀 行Aが 顧 客a1,a2,…,ak,に 対 し て 派 生 的 預 金 を 発 行 す る と し よ う。(つ ま り,Aがal,…akに 対 し て 一 覧 払 預 金 残 高 を 貸 し 出 し に よ っ て 与 え る と し よ う 。)こ の 場 合,a1,…,
akが こ の グ ル ー プ 内 で の み 取 引 す る な ら ば,そ の 決 済 は 市 中 銀 行A内 部 に お け る顧 客a1,…,ak名 義 の 口 座 間 の 預 金 残 高 振 替 の み に よ っ て 行 な わ れ, 市 中 銀 行Aか ら 現 金 が 引 き 出 さ れ る 心 配 は な い 。 よ っ てAは 現 金(あ る い は ハ イ パ ワ ー ド ・マ ネ ー な い しハ イ パ ワ ー ド 。マ ネ ー 。 ア ベ イ ラ ビ リテ ィ)を 全 く 持 た な くて も(つ ま り 本 源 的 預 金 を ベ ー ス に せ ず と も),顧 客a1,…,ak
に 対 し派 生 的 預 金 を 好 き な 額 だ け 発 行 す る こ と が 可 能 で あ る。 も ち ろ ん,a1,
…,ak以 外 の 顧 客 でAに 預 金 残 高 を 持 つ 者(彼 ら をa{,…,a缶 と 呼 ぼ う) がAか ら 現 金 を 引 き 出 し た り(現 金 漏 損),A以 外 の 市 中 銀 行Bに 預 金 口 座 を 持 つ 顧 客(彼 ら をb1,…,b、 と 呼 ぼ う)に(ネ ッ トで)支 払 い を し た り (手 形 交 換 負 け)す る 事 態 に 備 え て,Aは 幾 許 か の 現 金 及 び 中 央 銀 行 準 備 預 金 (あ る い は 少 な く と も ハ イ パ ワ ー ド ・マ ネ ー ・ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ)を 保 有 しな け れ ば な ら な い 。 しか し そ れ は あ く ま で 顧 客ai,…,a缶 の 行 動 に 備 え て の 現 金 及 び 中 央 銀 行 準 備 預 金 保 有 で あ り,こ れ が 顧 客a1,…,akに 対 す るA
3)横 山[15]p.28参 照 。
の 派 生 的預 金 発 行 可 能 額 に制 限 を加 え る こ と は な い。Aはai,…,臨 名 義 の 口座 残 高 に彼 ら(a{,…,aの に 関 す る経 験 的 支 払 準 備 率 を 乗 じた 分 だ け現 金 及 び 中央 銀 行 準 備 預 金 を保 有 す れ ば よ く,a!,…,akに 対 す る派 生 的預 金 発行 可能 額 が 無 限 大 で あ る こ とに変 わ り は な い4}。
派 生 的預 金 が 本 源 的 預 金 をべ 一 ス に生 み 出 され る もの で は な い こ と,及 び市 中 銀行 が無 限大 の派 生 的 預 金 発 行 を な し得 る こ と につ いて は,以 上 の 説 明 で充 分 で あ ろ う。 次 に我 々 は,以 上 の考 察 を次 節 に お いて 国 際 金 融 面 に応 用す るた め の 準 備 体 操 と して,以 下 の よ うなmentalgymnasticを 行 な う こ とに しよ う。
問 題:い ま,一 国 内 に市 中 銀 行 が 一 行 しか 存 在 しな い とす る6こ の と き, この 市中 銀 行 は現 金 な い し中 央 銀 行 準 備 預 金 を 保 有 す る必 要 が あ る か?
答:No.
理 由 は次 の 通 りで あ る。
一 国 内 に 市 中 銀 行 が一 行 しか 存在 しな い の だ か ら,こ の市 中 銀 行 は他 行 との 手 形 交 換 負 け に備 え て 中 央銀 行準 備 預 金 を保 有 す る必 要 は な い。 ま た,こ の 市 中 銀行 は,も し本 源 的預 金 の 発行 をせ ず専 ら派 生 的 預 金 の み を発 行 す る と い う こと にす れ ば(顧 客 か らハ イ パ ワー ド ・マ ネ ー もハ イパ ワ ー ド ・マ ネ ー 。アベ イ ラ ビ リテ ィさえ も受 け入 れ な いの だ か ら)5}現 金 を 全 く保 有 しな い こ と に な るが,そ れ で も心 配 に は及 ば な い。 な ぜ な ら,派 生 的預 金 残 高か ら現 金 を 引 き 出 そ うとす る顧 客 に対 して は,こ の市 中 銀行 は 「貸 し出 し回 収 」 と い う措 置 を ,4)そ れ で もAの 派生 的預 金 総 発 行 額 に制 約 が加 わ る と した ら,そ れ は 市 中 銀 行 の信 用 創 造 原 理 自体 に も とつ く制 約 で は な く,中 央 銀 行 が マ ネー ・サ プ ラ イ管 理 とい う政 策 的 意 図 か ら作 為 的 にA(及 び他 の 市 中銀 行)に 課 した 「準 備 預 金 制 度 」 の タ ガ に よ る もの で あ る。 この よ う な作 為 的 な準 備 預 金 制 度 が,顧 客 の現 金 引 き 出 し需要 に 応 ず る市 中銀 行 の 現 金支 払能 力 を 中央 銀 行 が 監 視 す る とい う 「預 金 者 保 護 」 の 側 面 よ り も,む しろ 実 質 的 な 「窓 口 規制 」 の 側面 を 強 く有 して い る 点 に つ い て,横 山
[15コ 第1章 を 参照 せ よ 。
5)あ らか じめ 自前 の ハ イパ ワー ド ・マ ネ ー を持 って い るか,若 し くは中 央 銀 行 か らハ
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商 学 討 究 第36巻 第3号と って,こ の 顧 客 名 義 の 預金 口 座 残 高 を 抹 消 して しま え ば よ い か らで あ る61。
か くて,こ の市 中銀 行 は現金 も中央 銀 行 準 備預 金 も(ハ イパ ワ ー ド ・マ ネ ー ・ アベ イ ラ ビ リテ ィ さえ も)全 く保 有 せ ず に,無 か ら有 を生 む如 く帳簿 上 の 「貸
し出 し」 によ って派生 的預 金 を必 要 な だ け,い く らで も発 行 す る こ とが で き る。
顧 客 達 は こ う して この 市 中 銀 行 に 設 置 され た一 覧払 預 金 残 高 の 口 座振 替 に よ っ て 日 々の 経 済 取 引 の 決 済 を す れ ば よ い。
と ころで,こ の市 中銀行 は現金 も中 央銀行 準備 預金 も(ハ イパ ワー ド・マ ネー ・ ア ベ イ ラ ビ リテ ィ さえ も)保 有 しな いの だ か ら,こ の 市 中 銀 行 の 発行 す る預 金 通 貨 に は現 金 へ の 交 換 可 能 性 の 裏 付 け は無 い。 そ れ に もか か わ らず顧 客達 は こ の市 中銀 行 の 発行 す る預 金 通 貨 を取 引 決 済 手 段 と して 用 い,そ の信 認 に危 倶 を 抱 く こ とは無 い と考 え られ る。 何 故 か?そ れ は,こ の 市 中 銀 行 は専 ら派生 的預 金 の み を 発 行 す るの で,顧 客 に預 金 残 高 が 供 与 され る(す なわ ち市 中 銀行 が顧 客 に 対 して 債 務 を 負 う)た め に は顧 客 は必 ず この 市 中 銀 行 か ら同 額 の 貸 し出 し
を受 けね ば な らな い(す な わ ち市 中銀 行 が 顧 客 に対 して 債 権 を獲 得 す る)か ら で あ る。 つ ま り,こ の 市 中銀 行 は顧 客 に対 し債 務 超 過 とな る こ とが 決 して な い ため,こ の 市 中 銀 行 の 発 行 す る預 金 通 貨 に対 して顧 客 の抱 く信 認 が 揺 ら ぐ こと は無 い と考 え られ るの で あ る。
繰 り返 し強 調 す れ ば,こ の市 中銀 行が 発 行 す る預 金 通 貨 へ の 顧 客 の 信 認 が 維 持 され る ため に最 も必 要 な こ とは,こ の市 中銀 行 が 顧 客 に対 して 純 債 務 を負 わ
の
な い こ とで あ る。 その うえ で,も し この市 中 銀行 が あ る程 度 の 本 源 的預 金 発 行 イ パ ワー ド・マ ネー を 借 り入 れ で も し ない 限 りは 。
6)仮 に この市 中銀行 が貸 し出 し回収 とい う措 置 を と らず,自 前 のハ イパ ワー ド・マ ネ ー も しぐは 中 央 銀 行 か ら借 り入 れ た ハ イパ ワ ー ド ・マ ネ ー を以 って 顧 客 の 現 金 引 き 出 し需 要 に応 じた と して も,派 生 的 預 金 残 高か ら引 き 出 され た現 金 は貸 し出 し満 期 到 来 時 点 に お い て 顧 客 か らの 「返 済 」 の た め に この市 中銀 行 へ 還流 して 来 る 。(こ れ に 対 し,本 源 的預 金 及 び 純債 務 預 金 か ら引 き 出 され る現 金 に は,そ の よ う な還 流 の 保 証 はな い。)ま た,あ る顧 客a1が 他 の 顧 客a2に 対 し て 物 品 購 入 代 金 支 払 等 の た め に預 金 通 貨 で 例 え ば100円 の 支 払 い を し,a2が こ の100円 を 現 金 で 引 き 出 そ う と した 場 合,こ の 市 中 銀行 はa1か ら 「貨 し出 し回収 」 に よ っ て 現 金100円 を 徴 求 し,こ れ をa2に 払 え ば,自 前 の ハ イパ ワー ド ・マ ネ ー を使 った り中 央 銀 行 か ら ハ イパ ワー ド ・マ ネ ー を 借 り入 れ た りせ ず に済 む。
(す な わ ち顧 客 か らのハ イパ ワ ー ド ・マ ネ ー ・な い しハ イパ ワー ド ・マ ネ ー ・ ア ベ イ ラ ビ リテ ィ受 け 入 れ)に よ っ て7)幾 許 かの ハ イパ ワ ー ド・マ ネー を 保 有 .し,ご く部 分 的 に せ よ,預 金 残 高 と現金 との 交 換 を行 な って 見 せ れ ば,こ の 預 金 通 貨 へ の 顧 客 の信 認 は た しか に補 強 さ れ る で あ ろ う。 しか しそれ は この 市 中 銀 行 の 発 行 す る預 金 通 貨へ の顧 客 の信 認 を維 持 す る た め に第 一 義 的 に重 要 な 条 件で はな く,第 二 義 的 な重 要 性 しか 持 た な い,い わ ば 飾 りの よ うな もの で あ る。
この 市 中 銀行 が 発 行 す る預 金 通 貨へ の顧 客の 信 認 を維 持 す る ため に最 も必 要 な 条 件 は,こ の 市 中 銀行 がハ イパ ワー ド ・マ ネ ー を保 有 す る こ とで は な く,こ の 市 中 銀 行 が 顧 客 に 対 して 債 務超 過 と な らぬ こ と,す な わ ち,こ の 市 中 銀 行 の バ ラ ンス ・ シー トが 表2.2(な い し望 む ら くは 表2.3)の 状 態 を 保 ち,決 して 表 2.1の 状 態 に陥 らな い こ と(純 債務 預 金 の 発 行 を行 な わ な い こ と)で あ る。
も し この 市 中 銀 行 が 純債 務預 金 を 発行 しつづ け るな らば,顧 客 が この 市 中 銀 市中銀行 のバ ランス ・シー ト
資 産
表2.1
負 債現 金
中央銀行準備預金
預
外 貨 金
流 動 性 資 産
貸 し 出 し
発
行
残
純 債 務 高
ll::
}倒'
本源的預金
(2)派 生 的 預 金
}一
7)も し く は 自 前 の ハ イ パ ワ ー ド ・マ ネ ー 保 有 や,中 央 銀 行 か ら の ハ イ パ ワ 「 ド ・マ ネ ー
借 り 入 れ に よ っ て 。
244
資 産
表2.2
商 学 討 究 第R6巻 第3号
負 債 資 産
預 金 発 行 残 高 (派 生 的 預 金)
表2.3
負 債預 金 発 行 残 高 (派 生 的 預 金)
行 の発行 す る預金 通貨 に対 して抱 く信 認 は 日を 追 っ て低 下 し,た とえ ば顧 客a1 が 顧 客a2に 物 品 購 入 代 金100円 を 支 払 う際 に,a2は 預 金 通 貨 で100円 を 受 け取 る(す な わ ち この 市 中 銀 行 に お い てa1名 義 の 口 座 か らa2名 義 の 口座 へ 預 金 残 高 を100円 だ け振 替 え て も ら う)よ り も,a1か ら現 金 で80円 を 受 け 取 る方 を好 む,と い っ た事 態 が 生 じるで あ ろ う。 ヨ リ正確 に 言 え ば,顧 客a1か ら顧 客a2へ の 支払 いに お い て,預 金 通 貨1円 の 支 払 い は現 金x(<1)円 の 支払 い と同等 と見 な され,し か もxの 値 は 日 々低 下(少 な く と も変 動)す る よ う に な ろ う。 こ う して 預 金 通 貨 は価 値 尺 度 と して の機 能 を 次第 に失 って 行 くで あ ろ う。 そ れで も決 済 手 段 と して 通 用 して い る うち は ま だ ま しで あ る。xの 値 の低 下 な い し変 動 性 が はな はだ しけ れ ば,顧 客a2は 顧 客a1か ら の 支 払 い を 預 金 通 貨 で 受 け る こ と を拒 否 す る よ う に な ろ う。 す な わ ち,こ の市 中銀 行 の 発 行 す る預 金 通 貨 は価 値 尺 度 と して の 機 能 の み な らず 決 済手 段 と して の機 能 も失 い,「 貨 幣」 の 地位 を 逐 わ れ る に 至 るで あ ろ う。
第3節 基 軸 通 貨 の 供 給 と 信 認
本 節 で は,あ る特 定 の 国 の 国 民 通貨 を世 界各 国 間 の取 引決 済 手 段(国 際 流 動 性)と して 用 い る基 軸通 貨制 の ワー キ ング を,前 節 の議 論か らの アナ ロ ジー に
よ って 理 論 的 に考 察 す る。
い ま,前 節 にお いて 用 い られ た 各 用 語 を 次 の よ うに 置 き換 えて み よ う。
・一 国 内 → 世 界
・市 中 銀 行 → 基 軸 通 貨 国(の 居 住 者)
・顧 客 → 非 基 軸 通 貨 国(の 居 住 者)
・預 金 通 貨 → 基 軸 通 貨(ヨ リ正 確 に は,基 軸通 貨 国 居住 者 の 資格 を持 つ 市 中 銀 行 及 び基 軸 通 貨 国 中 央 銀 行 に 設 置 され て い る基 軸通 貨建 一 覧払 預 金)
・ハ イパ ワー ド ・マ ネ ー→ 金(Gold)
す る と,前 節 で の 議 論 とパ ラ レル な 構 造 を 持 っ次 の よ うな議 論が 展 開 で き る。
基 軸 通 貨 制 を と る世 界 にお いて,世 界各 国 間 の取 引決 済 に 用 い られ る手 段 の うち,金 額 的 に大 部 分 を 占め るの は金(Gold)で は な く,世 界 各 国 の 居 住 者 が 基 軸 通 貨 国 の 市 中 銀 行 な い し中 央 銀 行 に 設 置 して い る基 軸通 貨 建一 覧払 預 金 (以 下 単 に 「基 軸 通 貨 」 と呼 ぶ)で あ る。 この 基 軸 通 貨 は次 の いず れ か の ル ー トに よ って非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 に供 給 され る。
<1>非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 が 基 軸 通 貨 国 の 通 貨 当 局 に 金(Gold)を 預 け入 れ(あ る い はGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィ を 売 却 し),そ の 見 返 り と して 基 軸 通 貨 国 の 中央 銀 行 な い し市 中銀 行 が非 基 軸 通 貨 国 居住 者 に基 軸 通 貨 を供 与 す る ル
ー ト。
<2>非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 が 基 軸 通 貨 国 居 住 者 か ら 「短 期 資 本」 の貸 し出 し を受 け る こ とに よ り,基 軸 通 貨 国 居 住 者 が 非 基 軸 通 貨 国 居住 者 に 基軸 通 貨 を供 与 す るル ー ト。
<3>非 基軸 通 貨 国居 住 者 が 基 軸 通 貨 国 居 住 者 に対 して(ネ ッ トで)物 品販 売,労 務 提供,非 流動 性 資産 売 却 等 の結 果,経 常 収 支 黒 字 ま た は長 期 資 本 収支 黒 字 に よ って 基 礎収 支黒 字 とな り(す な わ ち基 軸 通 貨 国 の 基 礎 収 支 が 赤字 とな
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商,学 討 究 第36巻 第3号り),そ の代 金 と して基 軸 通 貨 国 居 住 者 が 非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 に 基 軸 通 貨 を供 与 す るル 』 ト。
この うち,<1>の ル ー トで 基軸 通 貨 が 非 基 軸 通 貨 国 に 供 給 され る際 に は, これ と並 行 して 基 軸 通 貨 国 はGoldな い しGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィ を 獲 得 す るが,<2>の ル ー トで 基 軸 通 貨 が 供 給 され る際 に は,基 軸 通 貨 国 は 単 に
「対外 短 期債 権 」 とい う帳 簿 上 の 債 権 を獲 得 す るの み で,GoldもG61dア ベ イ ラ ビ リテ ィ も獲得 しな い(表3.1参 照)。 この違 いを 区 別 す る た め,本 稿
で は<1>の ル ー トで 供 給 され る基 軸通 貨 を 「本 源的 基 軸 通 貨 」 と呼 び,他 方
<2>の ル ー トで供給 され る基 軸 通 貨 を 「派 生 的 基 軸 通 貨」 と呼 ぶ こ とに す る。
とは言 え,<1>に お いて も<2>に お いて も基 軸 通 貨 国 は 基 軸 通 貨 供 給 に 際 し,基 軸 通 貨 供 給 残 高 と い う債 務 を 負 う と同 時 に,こ れ と同額 の債 権 を何 らか の 形 態(GoldorGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィor「 対 外 短 期 債 権 」)で 獲 得 す る点 で は 同 じで あ る。 つ ま り,〈1>及 び<2>に お いて は,基 軸 通 貨 国 は 非 基軸 通 貨 国 に対 して純 債 務 を負 うこ と な し に基 軸 通 貨 を 供 給 して い る の で あ る。
これ に 対 し,<3>に お いて は,基 軸 通 貨 国 は い か な る形 態 の 対 外 的 金 融 債 権 も獲 得 す る こ とな く,非 基軸 通 貨 国 に 純債 務 を負 う こと に よ って 基 軸 通 貨 を 供 給 す る点 が 特徴 的 で あ る。 この よ うな ル ー トで供 給 され る基 軸 通 貨 を 本 稿 で は 「純 債 務 基 軸通 貨」 と呼 ぶ こ とに す る 。
い ま,さ しあ た り純 債 務 基軸 通貨 の供 給 は考 え な い こと に しよ う。 問 題 は本 源 的 基 軸 通 貨 と派 生 的 基 軸 通 貨 との 関 係 で あ る。 仮 に,「 基 軸 通 貨 制 に お い て は基 軸通 貨 国が保 有す る金 準備 をベ ー ス に して 基軸 通 貨 が 世 界 に供 給 され,よ っ て そ の供 給 可 能 額 は基 軸 通 貨 国 保 有 金 準 備 量 の一 定倍 ま で に 限 られ,こ の 限 度 を越 え る と基 軸 通 貨 へ の信 認 は崩 壊 す る」 と い う主 張 が な され た ら,こ の主 張 は少 な く と も次 の2点 で 誤 りで あ る。
Φ 派生 的基 軸 通 貨 は まず 本 源 的 基 軸 通 貨(つ ま り非 基 軸通 貨 国居 住 者 か ら基 軸 通 貨 国 の 通 貨 当 局 へ のGold預 け 入 れ あ るい はGoldア ベ イ ラ ビ リ テ ィ売 却)8}を ベ ー ス に し な けれ ば 生 じ得 ない と考 え て い る点。
② 基軸通貨 国居住者が基軸通 貨に対す る非基軸通貨国居住者の信認を損な う
こ と な く無 限 大 の 派 生 的基 軸通 貨供 給 を な し得 る こと を説 明 で きな い点 。 既 に述 べ た よ うに,派 生 的基 軸通 貨 は,基 軸 通 貨 国 居 住 者 が 非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 に対 し 「対 外 短期 債 権 」 とい う帳簿 上 の 貸 し出 しに よ って 「無 か ら有 を 生 み 出 す」9}よ うに供 給 す るの で あ り,基 軸通 貨 国 の 通 貨 当 局 が 本 源 的 基 軸 通 貨 供 給 の た め に 非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 か らGold(な い しGoldア ベ イ ラ ビ リ『
テ ィ)を い く ら受 け 入 れ よ うが 受 け 入 れ ま い がlo},派 生 的 基 軸 通 貨 の 供 給 可 能 額 に は 何 の 関 係 も な い の で あ る。 た と え ば,い ま,基 軸 通 貨 国Aの 居 住 者 が 非 基 軸 通 貨 国a1,a2,…,akの 居 住 者 的,α2,…,αkに 対 し て 派 生 的 基 軸 通 貨 を 供 給 す る と し よ う 。(つ ま り,A国 がa1,…,ak国 に 対 して 基 軸 通 貨 を 貸 し 出 し に よ っ て 与 え る と し よ う 。)こ の 場 合,a1,…,ak国 が こ の グ ル ー プ 内 で の み 貿 易 な い し国 際 資 本 取 引 を 行 な う な ら ば,そ の 決 済 は 基 軸 通 貨 国Aの 銀 行 組 織(市 中 銀 行 及 び 中 央 銀 行)内 部 に お け る α1,…,αk 名 義 の 口 座 間 の 基 軸 通 貨 残 高 振 替 の み に よ っ て 行 な わ れ,A国 の 銀 行 組 織 か ら Goldが 引 き 出 さ れ る 心 配 は な い 。 よ っ てA国 はGold(な い しGoldア
8)も しくは 基 軸 通 貨 国 の 自前 のGoldス ト ッ ク な い し国 際 機 関 か らのGoidの 借 り入 れ 。
9)こ の場合,も し貸 し手 た る基 軸 通 貨 国 居 住 者 が 市 中 銀行 で も中央 銀 行 で もな けれ ば, 貸 し出 しは基 軸 通 貨 国 市 中 銀 行 な い し中 央 銀 行 にお け る この 貨 し手 名 義 の 基 軸通 貨 建 一 覧 払 預 金 口座 か ら借 り手 た る非 基 軸 通 貨 国 居住 者 名 義 の 基 軸 通 貨 建一 覧払 預 金 口座 へ の残 高 振 替 と い う形 態 を と る。 他 方,も し貸 し手 た る基 軸 通 貨 国 居 住 者 が 市 中銀 行 な い し中 央 銀 行 自体 で あ れ ば,貨 し出 しは,こ れ らの 銀 行 が 借 り手 た る非 基 軸通 貨 国居 住 者 に対 して 新 た に基 軸 通 貨 建 一 覧 払 預 金 残 高 を 創 設,供 与 す る とい う 形 態 を と る。 前 者 の形 態 の貸 し出 しは,既 に存 在 して い る基 軸 通 貨 が あ る者 の 手 か ら他 者 の手 へ 移 っ た に過 ぎず,基 軸通 貨 国 を含 め た 世 界 全 体 にお け る基 軸 通 貨 供 給 量 は不 変 で あ るか ら,そ の意 味 で は(つ ま りグ ロー バ ル な 見 地 か らは)信 用 創 造 が な さ れ た とは 言 え な い。 しか し前 者 の形 態の 貸 し出 しにお いて も,後 者 の 形 態 の 貸 し出 し にお け る と同 様 に,基 軸 通 貨 国 が 新 た に 「対 外 短 期 債 権 」 の見 返 りと して 基 軸 通 貨 を 非 基 軸 通 貨 国 に供 給 し,そ の結 果非 基 軸通 貨 国 の保 有 す る基 軸 通 貨 残 高 は 増 加 す るの で あ るか ら,そ の意 味 で は(つ ま り基 軸 通 貨 国 の ナ シ ョナル な 見 地 か ら は)信 用 創 造が行 な われ た と言 え る。 な お,後 者 の形 態 の貸 し出 しは,グ ロ ーバ ル, ナ シ ョナル のい ず れ の見 地 か ら も信 用 創 造 が行 な わ れ た と言 え る。
10)あ るい は基 軸 通 貨 国 が 自前 のGoldや 国 際 機 関 か ら借 り入 れ たGoldを い く ら 持 って いよ うが い まい が 。
ρ
248
商 学 討 究 第36巻 第3号ベ イ ラ ビ リ テ ィ)を 全 く持 た な くて も(つ ま り 本 源 的 基 軸 通 貨1Dを ベ ー ス に せ ず と も),a1,…,ak国 居 住 者 に 対 し派 生 的 基 軸 通 貨 を 好 き な 額 だ け 供 給 す る こ と が 可 能 で あ る 。 も ち ろ ん,a1,…,ak国 以 外 の 国(a{,…,硫
国 と呼 ぼ う)の 居 住 者 でA国 の 銀 行 組 織 に 基 軸 通 貨 残 高 を持 っ 者(彼 ら を α1,…, αmと 呼 ぼ う)が,単
ノ
な るGold選 好 の た め にA国 の 銀 行 組 織 か らGold を 引 き 出 し た りエ2),あ る い はA国 の 発 行 す る 基 軸 通 貨 を 国 際 決 済 手 段 と し て 認 め な い よ う な 国(b1,…,b・ 国 と 呼 ぼ う)の 居 住 者(彼 ら を βユ,…,β, と呼 ぼ う)に 対 す る(ネ ッ トの)支 払 い の た め にA国 の 銀 行 組 織 か らGold を 引 ぎ 出 し た り13)す る事 態 に 備 え て,A国 は 幾 許 か のGold(あ る い は 少 な く と もGoldア ベ イ ラ ビ リ テ ィ)を 保 有 し な け れ ば な ら な い 。 し か し そ れ は あ く ま でa{,…,a缶 国 の 居 住 者 α1,…,α 缶 の 行 動 に 備 え て のGold 保 有 で あ り,こ れ がa1,…,ak国 の 居 住 者 α1,…,αkに 対 す るA国 居 住 者 の 派 生 的 基 軸 通 貨 供 給 可 能 額 に 制 限 を 加 え る こ と は な い。A国 の 銀 行 組 織 は α1,…,α 島名 義 の 基 軸 通 貨 残 高 に 彼 ら(αi,…,α 紛 に 関 す る 経 験 的 支 払 準 備 率(そ れ は 主 にai,…,a臼 国 の 貿 易 構 造 及 びA国 に 対 す る 政 治 的 ス タ ン ス に よ っ て 左 右 さ れ る)を 乗 じ た 分 だ けGoldを 保 有 す れ ば よ く,a1,…,ak国 居 住 者 α1,… ,αkに 対 す る 派 生 的 基 軸 通 貨 供 給 可 能 額 が 無 限 大 で あ る こ と に 変 わ り は な い 。
派 生 的 基 軸 通 貨 が 本 源 的 基 軸 通 貨14}(す な わ ち 基 軸 通 貨 国 保 有 金 準 備)を ベ ー ス に 供 給 さ れ る も の で は な い こ と,及 び,基 軸 通 貨 国 が 無 限 大 の 派 生 的 基 軸 通 貨 供 給 を な し 得 る こ と に つ い て は,以 上 の 説 明 で 充 分 で あ ろ う。
次 に 我 々 は,以 上 の 考 察 を 今 日の 世 界 経 済 に 応 用 す る た め の 準 備 体 操 と し て, 以 下 の よ う なmentalgymnasticを 行 な っ て み よ う。
問 題:い ま,世 界 に基 軸 通 貨 国 が一 国 しか 存 在 しな い とす る。 この とき,基 11)も し くは 自前 のGoldス トック や 国 際機 関か らのGold借 り入 れ。
12)こ れ は 第2節 にお け る現 金 漏 損 に 相 当 。1 13)こ れ は 第2節 に お け る手 形 交 換 負 け に 相 当 。
14)も し くは基 軸 通 貨 国 自前 のGoldな い し国 際 機 関 か らのGold借 り入 れ。
、
軸 通貨 制 の運 営 に際 し,こ の 基 軸 通 貨 国 はGoldを 保 有 す る 必 要 が あ るか?
答:No.
理 由 は次 の 通 りで あ る。 『
世 界 に 基 軸 通 貨 国 が一 国 しか存 在 しな い の だ か ら,こ の基 軸 通 貨 国 は 「自国 及 び その 配 下 の 諸 国 の 居 住 者」 と 「他 の基 軸 通 貨 国 及 び そ の 配下 の諸 国 の 居 住 者 」 との 取 引 決 済 に備 え てGoldを 保 有 す る必 要 は な い。 ま た,こ の 基 軸 通 貨 国(の 居 住 者)は,も し本 源 的 基 軸 通 貨 の 供 給 を せ ず 専 ら派生 的基 軸通 貨 の み を 供 給 す る とい う こ とに す れ ば(非 基 軸 通 貨 国 か らGoldもGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィ も受 け入 れ な いの だ か ら)15}Goldを 全 く保 有 しな い こ と に な る が, それ で も心 配 に は 及ば な い。 な ぜ な ら,派 生 的 基 軸 通 貨 残 高 か らGoldを 引 き 出 そ う とす る国(の 居 住 者)に 対 して は,こ の 基 軸 通 貨 国(の 居 住 者)は
「対 外 短 期 債 権 回 収 」 とい う措 置 を とって,こ の 国(の 居 住 者)名 義 の 基 軸通 貨 残 高 を 抹消 して しま え ば よ い か らで あ る16〕。 』
か くて,こ の基 軸通 貨 国 は,Gold(及 びGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィ さえ も) を 全 く保 有 せ ず に,無 か ら有 を生 む如 く,「 対外 短期 債 権 」 の 増 加(す な わ ち 帳 簿 上 の 貸 し出 し)に よ っ て派 生 的基 軸 通 貨 を 必 要 な だ け,い く らで も,非 基
15)あ らか じめ 自前 のGoldを 持 って い るか 若 し くは 国 際 機 関 か らGoldを 借 り入 れ で も しな い か ぎ り。
16)本 稿 にお け る短 期 資本 及 び対 外 短期 債 権(務)の 「短 期 」 と は,満 期1年 未 濫 とい う統 計 的 意 味 で は な く,「流 動性 の 」 即 ち 「容 易 に 回 収 し得 る(さ れ 得 る)」 とい う理 論 的 意 味 で あ る。 な お,第2節 の 注6)と 同様,仮 に こ の基 軸通 貨 国 が 対 外 短 期 債 権 回 収 とい う措 置 を と らず,自 前 のGoldな い し国 際 機 関 か ら借 り入 れ た Goldを 以 って 非 基 軸 通 貨 国 か らのGold引 き 出 し需 要 に応 じた と して も,派 生 的 基 軸 通 貨 残 高 か ら引 き 出 され たGoldは 貸 し出 し満 期到 来 時 点 に お い て 非 基 軸 通 貨 国 か ら の 「返 済 」 の た め に この 基 軸通 貨 国へ 還流 して来 る。 ま た,あ る非 基 軸 通 貸 国a1が 他 の非 基 軸 通 貨 国a2対 して 輸 入 代 金 支 払 等 の た め に 基 軸 通 貨 を100 単 位 支 払 い,a2国 が この100基 軸 通 貨 単 位 をGoldで 引 き 出 そ う と し た 場 合, こ の基 軸 通 貨 国 はa1国 か ら 「貨 し出 し回 収 」 に よ ってGoldを100基 軸 通 貨 単 位 分 徴 求 し,こ れ をa2国 に 払 え ば,自 前 のGoldを 使 っ た り国 際 機 関 か ら Goldを 借 り入 れ た りせ ず に済 む 。
250 商 学 討 究 第36巻 第3号
軸 通 貨 諸 国 に供 給 す る こ とが で き る。 世 界(含,基 軸 通 貨 国)中 の 人 々 は,こ う して この 基 軸 通 貨 国 の 市 中銀 行 な い し中央 銀行 に設 置 され た基 軸 通 貨 建一 覧 払 預 金 の 口 座 振 替 に よ って 日々(あ るい は 毎 年)の 国 際 経 済取 引 の決 済 をす れ ば よ い。
と こ ろで,こ の 基 軸 通 貨 国 はGoldを(Goldア ベ イ ラ ビ リテ ィ さ え も) 保 有 しな いの だ か ら,こ の 基 軸 通 貨 に はGoldへ の 交 換 可 能 性 の 裏 付 け は 無
い。 それ に もか か わ らず 世 界 中 の 人 々 は この 基 軸通 貨 を国 際取 引 の 決済 手 段 と して用 い,そ の 信 認 に危 惧 を 抱 くこ と は無 い と考 え られ る。 何 故 か?そ れ は, この基 軸 通 貨 国 居 住 者 は専 ら派 生 的 基 軸 通 貨 の み を供 給 す るの で,非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 に基 軸 通 貨 残 高 が 供 給 され る(す な わ ち基 軸 通 貨 国 が 非 基 軸通 貨 国 に 対 して 債 務 を負 う)た め に は非 基 軸 通 貨 国 居 住 者 は 必 ず 基 軸 通 貨 国 居住 者 か ら 向額 だ け 「短 期 資 本 」 の 貸 し出 しを受 けね ば な らな い(す な わ ち 基 軸通 貨 国 が 非基 軸 通 貨 国 に対 して債 権 を獲 得 す る)か らで あ る。 つ ま り,こ の 基 軸 通 貨 国 は 対外 債 務 超 過 とな る こ とが 決 して な い た め,こ の 基 軸 通 貨 に対 す る非 基 軸 通 貨 国 居住 者 の信 認 が 揺 ら ぐ こ とは無 い と考 え られ るの で あ る。
繰 り返 し強 調 す れ ば,基 軸 通 貨 へ の信 認 が 維 持 され る ため に最 も必 要 な こ と
ロ り
は,基 軸通 貨 国 が 対 外純 債務 を負 わ な い こ とで あ る。 そ の うえで,も し基 軸 通 貨 国(の 通 貨 当 局)が あ る程 度 の本 源 的基 軸 通 貨 供 給(す なわ ち非 基 軸 通 貨 国 か らのGoldな い しGo卑d・ ア ベ イ ラ ビ リテ ィ受 け 入 れ)に よ っ て17)幾 許 か のGoldを 保 有 し,ご く部 分 的 に せ よ18),基 軸 通 貨 残 高 とGoldと の 交 換 を 行 な って 見 せ れ ば,基 軸通 貨 に 対 す る世 界 の入 々 の信 認 は た しか に補 強 され るで あ ろ う。 しか しそ れ は基 軸通 貨 の信 認 を維 持 す る た め に第一 義 的 に重 要 な 条 件 で はな く,第 二 義 的 な重 要性 しか 持 た な い,い わ ば飾 りの よ うな もの で あ る。基軸 通貨 への 信認 を維 持す る ため に最 も必 要 な 条件 は,基 軸通 貨 国がGold を 保 有 す る こ とで は な く,基 軸 通貨 国が 対 外 純 債 務 国 に な らな い こ と,す な わ
17)も しくは自前のGoldス トックや,国 際機 関か らのGold借 り入 れによって。
18)た とえば(1971年8月15日 以前のIMF体 制下 において基軸通 貨国 アメ リカがそう していたよ うに)各 国政府保有分 について のみ。
ち,基 軸 通 貨 国 の バ ラ ンス ・シー トが 表3.2(な い し望 む ら くは 表3.3)の 状 態 を保 ち,決 して 表3.1の 状態 に 陥 らな い こ と(純 債 務 基 軸 通 貨 の 供 給 を行 な わな い こ と)で あ る。
も し基 軸 通 貨 国 が 純 債務 基軸 通 貨 を供 給 しつ づ け る な らば,非 基 軸 通貨 諸 国 居 住 者 が 基 軸 通 貨 に対 して 抱 く信 認 は 日を追 って(あ るい は年 を追 って)低 下 し,た と えば 非 基 軸 通 貨 国a1の 居 住 者 α1が 非 基 軸 通 貨 国a2の 居 住 者 α2 に輸 入 代 金100「 基 軸 通 貨 単 位 」 を 支 払 う際 に,α2は 基 軸 通 貨 の 形 態 で100
「基 軸 通 貨 単 位 」 を受 け取 る(す な わ ち基 軸 通 貨 国 の 市 中 銀 行 な い し中 央銀 行 に お いて 飢 名 義 の ロ 座 か ら α2名 義 の 口 座 へ 基 軸 通 貨 残 高 を100単 位 だ け 振 替 え て も ら う)よ り も,Goldな い しa1国 の 国 民 通 貨 の 形 態 で80「 基 軸 通 貨 単 位 」 相 当分191を受 け取 る 方 を 好 む,と い っ た事 態が 生 じ るで あ ろ う。 ヨ リ正
資 産
基 軸 通 貨 国 の バ ラ ン ス ・ シ ー ト
表3.1負 僚
金(Gold)
Goldア ベ イ ラ ビ
リ テ ィ
・ 基(
対
対 外 短 期 債 権
軸 外 通 貨 痘 供 期 給'
債 殊
務
盲..一),.̲一 一.一一一 同
対 外 純 債 務
'}
〈1>本源 的 基 軸 通 貨
〈2>派 生 的 基 軸 通 貨
}〈・〉純債麟 通貨
19)市 場 金 価 格 な い し市場 為 替 レー トに よ る 表面 的換 算 値 。
252
資 産
表3.2
商 学 討 究 第36巻 第3号
負 債 資 産
表3.3
負 債基軸通貨供給残高 (対外短期 債務)
基軸通貨供給残高 (対外短期債務)
(基軸 通 貨 本 位 制 運 営 可 能 ケ ー ス) 確 に 言 え ば,α1か ら α2へ の 支 払 い に お いて,基 軸 通 貨1単 位 の 支 払 い は Goldな い しa1国 国 民 通 貨 の 形 態 で のx(<ユ)基 軸 通 貨 単 位 相 当 分 の 支 払 い と同等 と見 な され,し か もxの 値 は 日 々 あ る い は年 々 低 下(少 な くと も変動) す る よ うに な ろ う。 こ う して この 基 軸 通 貨 は 国 際 取 引 に お け る価 値 尺 度 と して の 機 能 を次 第 に失 って 行 くで あ ろ う。 それ で も決 済手 段 と して通 用 して い る う ち はまだ ま しで あ る20)。Xの 値 の低 下 な い し変 動 性が は な はだ し くなれ ば,娩 は 偽 か らの支 払 い を この基 軸 通 貨 で 受 け る こ と を拒 否 す るよ うに な ろ う。 す な わ ち,こ の 基 軸 通 貨 は国 際 取 引 に お け る価 値 尺 度 と して の機 能 の み な らず 決 済 手 段 と して の 機 能 も失 い,「 国 際 貨 幣 」 即 ち 「基 軸通 貨 」 の 地 位 を 逐 わ れ る に至 るで あ ろ う。(以 上,第2節 の 文 章 と比 較 さ れ た い 。)
基 軸 通 貨 国 に と って,純 債 務 基 軸通 貨 供 給 の 末 路 は事 程 左 様 に悲 惨 な もの で あ る。 で は純 債 務 基 軸 通 貨 を供 給 しな い た め に は(す なわ ち基 軸 通 貨 の 信 認 を 20)現 在(1985年)の 米 ドル は この 状 況 に あ る。 な お,こ の点 に関 す る具 体 的事 例 につ
いて は例 え ば[5]参 照 。
侭 下 させ な い た め に は)基 軸 通 貨 国 は どの よ うな方 策 を と らね ば な らな いか?
答 は<3>に 自明 の よ う に,基 軸 通 貨 国が 自国 の基 礎 収 支 を赤 字 にせ ぬよ う対 外 経 済 政 策(水 際 対 策 の み な らず,国 内企 業 の輸 出競 争 力 強化 等 フ ァ ンダ メ ン
タ ル な対 策 を含 む)を 運 営 す る こ とな の で あ る。
基 軸 通 貨 国 が,自 国 の 基 礎 収 支 を赤 字 に せ ぬ よ うに 自 らを律 し,さ らに進 ん で 常 に 黒字 を保 つ よ う に対 外 経 済 政 策 を 運 営 で き るよ うに な れ ば,表3 .3の 状 態 が 出現 し,基 軸 通 貨 国 がGold(な い しGoldア ベ イ ラ ビ リ テ ィ)を 保 有 せ ず と も基 軸 通 貨 へ の 信 認 は強 固 な もの に な るで あ ろ う。 す な わ ち,先 に述 べ たxの 値 は強 力 な 安 定 性 を と り戻 し,ま ず決 済手段 として の機能が,次 いで 価 値 尺 度 と して の 機 能 が,回 復 す るで あ ろ う。 基 軸 通 貨 に金 交換 性 が 無 く とも 各 国 政 府 な い し中 央 銀 行 が この 基 軸通 貨 を 「本位 貨 幣 」 と し,こ れ を基 準 に し て 自国 国民 通 貨 の為 替 平 価 を設 定 し,こ の 基 軸通 貨 か ら成 る 「外 貨 準 備」 を用 い て外 国 為 替 市 場 に為 替 レー ト固 定 介 入 を 行 な い,こ の平 価 を守 って 行 く 「基 軸 通 貨 本 位 制」 は,こ の よ うな 状 態(表3.3の 状 態)に お い て こ そ 安 定 的 に 運 営す る こ とが 可 能 で あ る2b。
21)滝 沢氏[1】]に よれ ば,第 一 次 世 界 大 戦 前 の 英 国 通 貨 当局 は,基 軸通 貨 ポ ン ドの信 認 を 守 るた あ に は英 国 の基 礎 収支 を均 衡 に保 た ね ば な らぬ こ とを 理 解 して お り,そ れ は1931年 の マ ク ラ ミラ ン ・レポ ー ト[1]に も表 わ れ て い る と 言 う([11]第1 章 参 照)。 しか しマ ク ミラン ・レポー トは あ く まで 基 軸 通 貨 の信 認 を 守 る と い う守 勢 面 か らの み 基 礎 収 支 均 衡化 を主 張 す る に と ど ま って お り,さ ら に進 んで 基 軸 通 貨 国 が 基 礎 収 支 を 黒字 に 保て ばGoldな しで も基 軸 通 貨 本 位 制 が 成 立 可 能 で あ る と い う功 勢 面 か らの 主 張 を な す に は 至 って い な い。 こ の点 で 一 見 似 て い るの が 滝 沢 氏 で,[11コ 第11章 に お い て,ド ル の金 交 換性 な しで は固 定 為 替 相 場 制 は 復 活 しな い と述 べ て い る。 しか しそ の 場 合,滝 沢教 授 が基 軸通 貨 の金 交 換 性 を 求 め るの は,基 軸 通 貨 の 信 認 が 金 交 換 性 自体 に よ って 保 た れ る と 考 え て い るか らで は な い。 い わ ん や 「金 信 仰 」 か らな どで は さ らに な い 。(マ ク ミラ ン ・レポ ー トに金 信 仰 の 影 響 な い し名 残 りが あ る か 否 か は こ こ で は 問 わ な い 。)基 軸通 貨 に金 交 換 性 を義 務 づ け る こ と に よ って 基 軸 通 貨 国 に国 際 収 支 節 度 を 要求 し,基 軸通 貨 国が 少 な くと も対 外 純 債 務 国 に な らぬ よ う制 度 上 具 体 的 な タ ガ を は め る た め で あ る。 っ ま り滝 沢 教 授 も 本 稿 と 同 じ く,基 軸 通 貨 の 信 認 を 支 え て い る真 の エ レメ ン トは 基 軸通 貨 国 の国 際 収 支節 度 で あ り,金 交 換 義 務 の賦 課 は その ため の 技 術 的一 手段 で しか な い と考 え て い る ので あ る。(こ の こ と は[ユ0]p.176に よ って ら確 認 で き る。)'され ば,事 の 本 質
254
商 学 討 究 第36巻 第3号以上 の考 察 は 国 際通 貨 体 制 の 歴 史 及 び現 状 に照 ら し合 わ せ た場 合,多 くの イ ンプ リケー シ ョンを与 え るの で あ るが,本 稿 は純 理論 的考 察 を 目的 とす るの で, 以 下 で は 流 動性 ジ レ ンマ 論 を コ メ ン トす る に とど め た い。
流 動 性 ジ レ ンマ 論 は,周 知 の よ うに,ロ バ ー ト 。 トリフ ィ ンの著 書 『金 と ド ル の 危 機』 〔ユ2〕を契 機 に一 世 を風 靡 した理 論 で あ り,そ の エ ッセ ンス は 同 書 p.67(邦 訳p.84)に 述 べ られ て い る次 の一 節 に尽 きる 。
コ
「金 為 替 本 位 制 は,世 界 通 貨 準 備 の 不 足 を 救 済 す る助 け とな る こ とが で き るか も しれ な いが,い つで も救 済 で き る とは限 らな い。 っ ま り,基 軸 通 貨 国 が そ の
り の
総 準 備 の増 加 を上 廻 る ほ ど に短 期 的 金 融 債 務 を増 加 させ,か くて 自国 の純 準 備
コ コ
ポ ジ シ ョ ンが 悪化 す るの を許 す 程 度 に応 じて,準 備 不 足 救 済 に資 す るに す ぎな いの で あ る。 しか しなが ら も し基 軸 通 貨 国 が この よ うな 状 態 を いつ ま で も放 置
して お くと,そ の基 軸 通 貨 に対 す る外 国 人 の 信 認 は漸 次 減 退 し,金 為 替 制 度 自 体 を 崩壊 に導 くこ とに な りが ちで あ る。」(傍 点 筆 者)
上 記 引 用 文 中 の 「世 界通 貨 準 備 」 とは,世 界 中 の通 貨 当局 が 保 有 す る金 準 備 量 と い う意 味 で あ り,「 総 準 備 」 と は 基 軸 通 貨 国 のGold及 びGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィ保 有 量 とい う意 味 で あ る。 そ して 「短期 的金 融 債 務 」 とは,本 稿 の 「対 外 短 期 債 務」 す なわ ち 「基軸 通貨 供 給 残 高 」 の 意 味 で あ り,「 純 準 備 ポ ジ シ ョ ンが 悪 化 す る」 とは,本 稿 の 「対 外純 債務 が増 加 す る」 の意 味 で あ る 。 す な わ ち,上 記 引用 文 は,本 稿 の 用 語 で 表 現 す れ ば,「 基 軸 通 貨 国 は 自 ら保 有 す るGold及 びGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィを 上 回 る ほ ど に対 外 短 期 債 務 を 負 い,以 って 対 外 純 債 務 を 増 や す こ とに よ って のみ22)基軸 通 貨 を供 給 で き るに
を シ ャー プ に え ぐ り出 して示 す た め に,本 稿 の よ う にむ しろ 金(Gold)と で き る だ け切 り離す形 で基 軸通 貨 の信 認 を説 明 して み るの も理 論 的 に は 無 汰 で は あ る ま い。
ま た,滝 沢 教授 の い わ ゆ る 「真 の ジ レ ンマ」 す な わ ち 管 理 通 貨 制 と金 為 替 本 位 制 と の二 律 背 反([10]p.177参 照)を 克 服 す る た め に は,や は り基 軸 通 貨 をGold か ら切 り離 し,基 軸通 貨 国が 基 軸通 貨 供 給 残 高 の信 認 の 裏 付 け と してGoldで は な く 「対外 純債 権 」 と い う 「帳 簿 上 の 準 備 資 産 」 を 保 有 し,増 加 させ て 行 く こ とが 現 実 的 な 打 解 策 と思 わ れ る。
22)原 引 用 文 中 の 「に す ぎ な い」(原 文"o∬1ytotheex¢en愈that"[ヱ2]p.67)と い う表 現 に は,こ の 「の み 」 の意 味 が 込 め られ て い る。
流 動 性 ジ レ ンマ 論 者 が 念 頭 に 置 く基 軸 通 貨 国 の バ ラ ンス ・シ ー ト
資 産 表3.4負 債
基(
軸 対
金(Gold)等,「 総 準 備 」
通 外貨 短 供 期 給・債
対 外 純 債 務
残 務
古) 同
ヤ
本源的基軸通貨
}一
す ぎ な いの で あ る。 しか しなが ら基 軸 通 貨 国 が こ う して 純 債 務 基 軸 通 貨 を供 給 しつ づ け る と,そ の 基 軸通 貨 に対 す る外 国 人 の信 認 は漸 次 減 退 す る」 とな る。
今 や 流 動 性 ジレ ンマ 論 の 誤 りは 明 白 で あ る。 ロバ ー ト・ トリフ ィ ンは じめ 流 動 性 ジ レ ンマ 論 者 が 念 頭 に 置 く基 軸 通 貨 国 の バ ラ ンス ・シー トは,表3.4の よ うに な っ て い るの で あ る。 す な わ ち,流 動 性 ジ レ ンマ 論者 は,本 源 的 基 軸 通 貨 及 び純 債 務 基 軸 通 貨 の ル ー トで の 基 軸通 貨供 給 しか考 え て お らず,派 生 的 基 軸 通 貨 の 供 給 と い う概 念 が 欠 落 して い るの で あ る。 す で に本 節 に お い て は 「基 軸 通 貨 国 はGoldな い しGoldア ベ イ ラ ビ リテ ィ を 全 く保 有 せ ず と も 自 国 の 基 礎 収 支 を均 衡 な い し黒 字 に保 て ば 基 軸 通 貨 の信 認 を 落 と さず に 派生 的 基 軸 通 貨 の 形態 で い く らで も(可 能 額 は無 限 大)基 軸通 貨 を 世 界 に供 給 で き る」 理 由 を説 明 し た。 流動 性 ジ レ ンマ論 が 誤 りで あ る こ と につ いて これ 以上 の 説 明 は不 要 と思 う。
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商 学 討 究 第36巻 第3号第4節 ま と め
本 稿 で は 基 軸 通 貨 制 の ワ ー キ ン グ を,国 内 金 融 メ カ ニ ズ ム か ら の ア ナ ロ ジ ー
コ マ
に よ って 理 論 的 に考 察 した。 結 論 は 冒頭 〔1〕,〔H〕 に述 べ た 通 りなの で こ こ で は繰 り返 さず,本 稿 で の 理 論 的 考 察 を貫 徹 す る論 理 を 述 べ'てま'とめ と した い 。
,国 内金 融 にお い て も国 際金 融 に お い て も,あ る貨 幣 が 貨 幣 と して の 信 認 を維 持 す るた め に 最 も必要 な こ とは,そ の貨 幣 に ヨ リ高 次 元 の 貨 幣 へ の 交 換 可 能 性 を裏 付 け る(な い し,ほ の め か す)こ とで は な く,貨 幣発 行 者 自体 が 純 債 務 者 とな らぬ こ とで あ る。 この 大前 提 条 件 を 守 るよ う貨 幣 発 行 者 が 自 らを律 す る こ とが で きれ ば,そ の 貨 幣 発 行者 は,た とえ ヨ リ高 次元 の貨 幣 な ど 「準 備 」 と し て 保 有 せ ず と も,自 らの 発 行 す る貨 幣 へ の信 認 を 落 とす こ とな く(貨 幣 発 行 者 自体 が 純 債 権 者 とな れ ばむ しろ 信 認 は次 第 に 強 ま る),貸 し出 し に よ っ て い く
らで も貨 幣 を発 行 す る こ とが で き るの で あ る。 そ して信 認 が 充 分 強 ま れ ば,そ の 貨 幣 は,た とえ ヨ リ高 次 元 の 貨 幣へ の 交換 可 能 性 な ど な く と も,他 の さ ま ざ
まな 貨 幣 か ら 「本 位 貨 幣」 の 栄 誉 を 与 え られ るに 至 る で あ ろ う。
補 論(i)国 際 信 用 媒 介 機 構 と し て の ユ ー ロ ・ダ ラ ー 。シ ス テ ム
本 稿 で は,市 中 銀 行 が 国 内 金 融 に お いて 果 た す 役割(信 用創 造)か らの ア ナ ロ ジー に よ り,基 軸 通 貨 国 が 国 際 金 融 に お いて 果 たす 役割 を考 察 した。 実 は, 同様 の ア ナ ロ ジーが も う一 点 成 り立 つ 。 それ は,生 命 保 険 会 社 等 の 機 関投 資家 が 国 内金 融 に お い て果 たす 役 割 と,ユ ー ロー ・ダ ラー ・シ ステ ムが 国 際金 融 に お い て果 たす 役 割 との ア ナ ロ ジーで あ る。 す なわ ち,生 命 保 険 会 社 は,個 人 名 義 の一 覧 払預 金 残 高(の 一 部)を,生 命 保 険 契 約 と い う形 で 凍 結(非 流 動化) す る こ とに よ り,企 業 名 義 の一 覧払 預 金 残 高 に振 替 え る仲 立 ち を す る,と い う 信 用 媒介 機能 を国 内金 融 に お い て果 た して い る。 これ と 同 様 に,ユ ー ロ ・ダ
ラー ・シス テ ム は,世 界 中 の基 軸 通 貨(ド ル)保 有 者 間 に立 ち,idleballance