長野工業高等専門学校 ・紀要第31号(1997) 7
小 円柱が及 ぼす衝突噴流熱伝達への影響
羽 田 喜 昭 倉 澤 英 夫 土 屋 良 明 中 部 主 敬 鈴 木 健 二 郎
An Impinging Jet Heat Transfer Affected by a Small Cylinder Yoshiaki HANEDA Hideo KURASAWA Yoshiaki TSUCHIYA
Kazuyoshi NAKABE and Kenjiro SUZUKI
Heattransfermeasurementswereconductedforatwo‑dimensionalimplnglngjetinwhichacylinder wasmodntedrigidly.Airjetwasdischargedfromarectangularslothavingthewidth,h,of15mmandthe aspectratioof33.ThejetReynoldsmmberwassetatabout10,000.Thediameters,D,ofcylinderswere 4,6and8mm andthedistancebetweenthecylinderandtargetplatewasrangedwithin5timesofthe cylinderdiameter.LocalNusseltnumberattainedaroundthestagnationpointwasaugmentedalittleby insertionofacylinder,however,meanNusseltnumberwasnotaugmentedincomparisonwiththe maximum meanNusseltnumberattainedinacaseofinsertionofnocylinder.
キーワー ド:衝突噴流,円柱,熟伝遼,強制対流
1.緒 言
供給流量が少なく伝熱制御が容易な うえ, よどみ 点近傍で高い熱伝達係数が得 られる衝突噴流 は,工 業上幅広 く応用 され,従来 よ り多 くの研究1)2)が な されてきた。特に近年 ガスタービン翼の冷却手段 と
①Inverter②Blower③Cooler④Diffuser(勤WireMesh
@ GuideVaneO Honeycomb@ SettlingChamber
@ Nozzle@ TargetPlate@ EndPlate@ SidePlate 図1 実験装置概要
本研究 は平成8年度長野高専教育研究特別経費 の助成 を受 け行われた
一機械工学科助教授
= 機械工学科教授
●= 信州大学工学部教授
#京都大学大学院助教授
##京都大学大学院教授 原稿受付 1997年9月19日
して注目されているが, このよ うな内壁の冷却 にお いては内部流が生 じ,そのため よどみ点近傍で さえ 熱伝達係数の低下3)がみ られ る。高温 ガスター ビン 翼の冷却効率を高め ることは, クーピソの熱効率向 上お よび省エネルギーの観点からもきわめて重要で あ り, よりいっそ うの伝熱促進が要求 されている。
平板あるいは物体 まわ りの熱伝達増進法 として, (1)噴流中に円柱群4)を挿入 した場合,(2)衝突平板前 方に多孔板5)6)を設置 した場合,(3)噴流へ の音波 の 入力 あるいは脈動噴流7ト9)による場合,あるいは(4) 物体 に近接 して平板 を設置 した場合10ト 12)な どが報 告 されている。 しか し噴流中に一本の円柱を挿入 し た際の平板熱伝達への影響 に関する研究はあま りな
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H l
図2 座標系
羽田喜昭 ・倉揮英夫 ・土屋良明 ・中部主敬 ・鈴木健二郎 されていない よ うで ある。 さらに円柱 を弾性支持 し
円柱 を積極 的に振動 させた際の衝突噴流熱伝達 に関 す る研究 はいまだな され ていない よ うである。
そ こで本研究 は円柱 を弾性支持 した場合 の結果 と 比較す る上 で重 要 な円柱 を固定 して設置 した場 合 を 扱 うこととす る。円柱径 お よび円柱 と平板 との隙間 を変化 させ,その際 の平板上 の熱伝達の変化 を実験 的 に明 らかにす るこ とを 目的 とす る。
お もな記号
H :ノズル と衝突平板 の足巨離 h :噴 出 口短辺
Uo :噴流 出口速度 D :円柱直径
L :ノズル と円柱 中心 の距離 C :円柱 と衝 突平板 との隙間 yi :円柱 のオ フセ ッ ト距離
Q :総発熱量 Tw :表面温度 To :風洞内温度 q。 :伝導損出 入 :空気 の熱伝導率 Nu :平板局所 ヌセル ト数 Nun :平板 の平均 ヌセル ト数
Re :レイ ノル ズ数
2.実験装置および方法
図1,図2は実験装置 および座標 系をそれぞれ示 す。噴 出 口短辺hが15mm, アスペ ク ト比 が33の長 方形 ノズル よ り空気 が噴 出され る。噴出 口長辺 と等 しい幅 に2枚 の端板 が設置 され, この間 に円柱 を固 定 した。円柱 直 径Dは,4,6,8mmの3種 類 で あ り,噴 出 口短辺 に対 す る比 はそれ ぞれ0.27,0.4,
0.53で あ る。伝 熱 実 験 用 衝 突 平 板 は500mmX500 mm(厚 さ10mm)の ア ク リル樹脂 製 で あ り, これ
表 1 円柱 と衝突平板の設置条件 yi/D‑0,0.5 yi/D‑0
円柱径D(mm) ノズル円柱 円 柱 平 板 ノズル平板 ノズル円柱足巨離 固 定 隙 間 変 化 距 離 固 定 足巨 離 (L/h) (C/D) (H/h) (L/h) 4 5 0.5‑5 7 3‑6.3 6 5 0.5‑5 7 3‑6.3
円柱径D(m) ノズル円柱 円柱 平 板 オフセット足巨 離 隙 間 固定 yi/D L/h C/D
00
S・oouPnN
l
;.i:5?,.et205% 8UL:hi‑0‑5:71sm oO
A1 也. 。畠
‑2 ‑1 0 1 2 y/h
(a)平均速度
y/d D=4Jmm Uo:10m/S
oO 〟h=5.7
◇0.5
‑2 ‑1 0
12
y/h(b)乱れ強さ
図3 円柱後方の平均速度 と乱れ強さ
l十 Rel=9.2lX10l3‑1一.OX1l04
8 ●
●● :
●6̲一一一‑‑‑G‑A‑R/l,7;こlR‑e‑=丁.l‑.‑t.)‑ー H/h
図4 ノズル平板距離によるよどみ点局所 ヌセル ト数の変化
̀■ご10 ‑5 0 5 10 y/h
図5 円柱を挿入 しない場合の局所 ヌセル ト数分布
小 円柱が及ぼす衝 突噴流熱伝達への影響
に幅50mm,厚 さ20JJmの ステ ソ レス銅箔 を7枚直 列 に貼 り合わせ通電加熱す る ことで ほぼ等熱流束 が 得 られ るよ うにした。 ステンレス鋼表面温度測定用 直径0.1mmの ク ロメル‑アル メル熱電対 が板 の中 央部y‑ ±230mm内 に81本 固着 され て い る。 また 衝突平板 の裏面 に23本 の熱電対 を固着 し熟伝導損 出 の評価 に用いた。熱放射 による損 出は無祝 し平板 の 局所 ヌセル ト数を次式で定義 した。
‑5 0 5 10 y/h
(a) D/h‑0.27
10
‑5 0 5
y/h (b) D/h‑0.4
‑5 0 5 10
y/h (C)D/h‑0.53
図6 円柱 と平板距離によるヌセル ト数 分布
Nu‑ [(Q/A)‑qc]h/(Tw‑T.)A
噴流出 口速度Uoはイソバ ‑タで送風機 の回転 数 を調節す ることで10m/Sに固定 した。噴流出 口速度 お よび噴 出 口短 辺 に基 づ くレイ ノル ズ数Reは約 10,000である。 ノズル と衝突平板 との岸巨離Hは よど み点 局所 熱伝達 率 が極 大 とな る範 囲1)を考 慮 し3≦
H/h≦10とした。
5 10 y/h
‑5 0
(a) D/h‑0.27
ー5 0
(b) D/h‑0.4
5 10 y/h
5 10 y/h
‑5 0
(C)D/h‑0.53
図7 円柱設置位置によるヌセル ト数 分布 の変化
10 羽田喜昭 ・倉洋英夫 ・土屋良明 ・中部主敬 ・鈴木健二郎 実験条件 を表1に示す。平均流速 および乱れ強 さ
は,Ⅰ型熱線 プローブによ り測定 した。
3.実験結果および考察 3. 1 流れ場特性
衝突平板を設置 しない場合の円柱後方の定性 的流 れ場 の変化を検討す るため,直径4mmの円柱後方8 mmでの平均速度分布 お よび乱 れのrms値分布 を 図3(a), (b)にそれぞれ示す。円柱後方で平均速度 は 極小 とな り,乱れ強 さは極大 となる。円柱位置 をy 方向に変化 させた場合,平均速度の最大値 は自由噴 流のそれ と比 べてほぼ同 じものの,乱れ強 さは 0≦
y/h≦0.5の範 囲 で噴 流発達領域 の値 とほぼ同 じに な る。 なお円柱後 方 で は360Hz付近 に周 波数 の ピ ークが認 め られ た。 しか し,衝 突平板 を円柱 後 方 C‑20mm(C/D‑5)に設置 した場合 には, この周波 数付近 に周波数の ピークは存在 しない。 したが って 円柱後方に平板を設置 した場合, カルマン渦の発生 は抑制 され るもの と思われ るが詳細 は今後 の課題 で ある。
3. 2 伝熱特性 (円柱を挿入 しない場合) ノズルー衝突平板距離 によるよどみ点局所 ヌセル ト数Nu。の変 化 を図4に示す。Gardonら1)の結 果 に比 べNu。値 は大 き くそ の極 大 とな る位 置 はH/
h‑7付近 である。局所 ヌセル ト数値 の定量的差異 については今後の課題 である。本報告では,円柱 を 挿入 した場合 の局所 ヌセル ト数への影響 を,円柱 を 挿入 しない場合 に よどみ点局所 ヌセル ト数 が極大 と なるH/h‑7における局所 ヌセル ト数分布 と比較す る こととす る。図5はH/h‑7にお け る局所 ヌセ ル ト数の5回の再現性 を検討 した ものであ り, よどみ
‑5 0 5
y/h
10 図8 円柱 とオフセ ット距離による局所 ヌセル ト
数分布の変化
点付近 で最大8%のばらつ きが認め られた。 この算 術平均値を以下 に示す実験結果 との比較 として図示
した。
3.3 伝熱特性 (円柱挿入の場合)
図6(a),(b),(C)は円柱 を噴流中心軸上し/h‑5に設 置 し, 円柱 と衝突平板 との隙間比C/Dを変化 させ た場合 の局所 ヌセル ト数分布を示す。いずれの円柱 径 において も円柱背後の再循環流が存在す ると思わ
ー5 0
(a) D/h‑0.27
‑5 0 5 10 ynl
(b) D/h‑0.4
‑5 0
(C) D/h‑0.53
図9 円柱平板距離による局所 ヌセル ト数 の変化(円柱をオフセ ットした場合)
小円柱が及ぼす衝突噴流熱伝達への影響
図10 円柱位置による平板の平均ヌセル ト 数の変化
れる領域で局所 ヌセル ト数 は極小 となる。 この局所 ヌセル ト数の極小値 は円柱径が大 きいほど小 さくな る。 しか し,円柱か らのせ ん断層の衝突す る付近 で 局所 ヌセル ト数値 は極大 とな り図中実線の最大値 よ り大 きくなる場合 もある。 この極大値 は円柱 と衝突 平板 の隙間比C/Dに依存 してお り,C/D‑5と隙間 比を大 きくした場合 には低 い値を示す。 この ことは 局所 ヌセル ト数のよどみ点付近 の極大値が最大 とな る適当な円柱 と平板 との隙間比 の存在 を示唆 してお
りおおむねC/D‑∴1‑ 2付近 である。
図7(a), (b),(C)は衝突平板位置 をL/h‑7に固定 し,円柱の設置位置 を変化 させた際の平板局所 ヌセ ル ト数分布 を示す。円柱を噴流のポテンシャル コア 領域 内(L/h‑3)に設置 した場合 いず れ も局 所 ヌセ ル ト数の低下がみ られ るが,円柱 を噴流の遷 移領域 内L/h≧5に設置 した場合 には, よどみ点領 域近傍 で局所 ヌセル ト数の増加が認め られ る。
そ こで,円柱位置 をL/h‑5,円柱 と衝突 平板 と の隙 間 比 をC/D‑2と固 定 し,直 径D‑4mm(D/
h‑0.27)の円柱 を噴流軸か らy方向に変化 させ設置 した際の局所 ヌセル ト数分布 を図8に示す。 いずれ のオ フセ ッ ト比yi/Dにおいて も,局所 ヌセル ト数 の最大 となる位置 はy‑0付近 で あ り,その値 は円 柱を噴流軸か らオ フセ ッ ト比yi/D‑0.5付近 に設置 した とき大 きくなる。 したがって,噴流の最大速度 と円柱か ら発生す るせ ん断層 とがほぼ一致す るよ う な位置関係の時, よどみ点付近の伝熱促進 には効果 的であるといえる。図9(a), (b),(C)は円柱中心を半 径分だけ噴流中心軸 か らy方向へ オフセ ッ トし円柱 と衝突平板 との隙間比 を変化 させた際の局所 ヌセル ト数分布 を示す。いずれ の隙間比C/D値 において ち,局所 ヌセル ト数 の最大値 は図 中実線 の極大値 (y‑o)よ り若干大 きい。円柱径 による大 きな違 い はy/h‑1付近 のNu分布 の極 小値 に現 れ円柱径 が 大 きいほどその値 は小 さい。
ll
図10は円柱を噴流軸上 またはyi/D‑0.5に設置 し た際 の円柱平板隙間比 に よる‑10≦y/h≦10の範 囲 内の平均 ヌセル ト数分布 を示す。 いずれの円柱径 に おいて も隙間比C/Dに よる変化 は小 さ く,条件 に よっては図中実線 に比べ て小 さくなる場合 もあ る。
これは前述 のよ うに円柱後方での局所 ヌセル ト数 の 低下部分が平板 の平均 ヌセル ト数 に大 き く影響 して いるためである。
4.結 言
二次元噴流中に小 円柱 を挿入 し,円柱 と平板 との 隙間比 による平板 の局所 ヌセル ト数分布 について検 討 した結果次の ことが明 らかになった。円柱 を設置 しない際 に, ノズル と衝突平板 との距離が噴 出 口短 辺の7倍で得 られ るよどみ点局所 ヌセル ト数 の最大 値 よ り,円柱を設置 した場合局所 ヌセル ト数 は若干 増大す る場合がある。 しか し,平均 ヌセル ト数 には 円柱 を設置 して も大 きな増進効果 は得 られない。
参 考 文 献
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